著者
阿部伸太
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.121-129, 2006-03-09

風致地区制度は1919(大正8)年公布の旧「都市計画法」を根拠法として創設されたもので,地域制緑地としては最も歴史ある制度である。都市化の中で一定の効果をあげてきたが,第二次世界大戦期間の風致行政の中断,および戦後の取締り再開後に高度経済成長期を迎えたことで形骸化した地区も多く存在するようになった。本研究は,創設期における風致地区制度の都市計画上の意義を明らかにし,当初,風致保全育成のシステムを制度としてどのように仕掛けていたのかを明らかにすることを目的とした。研究課題は,第一に風致地区制度の都市計画的意味の把握,第二に風致の保全・維持,活用・育成概念の風致地区制度における内包状況の解明,第三に風致育成をねらいとした風致協会の意義の解明とした。その結果,風致地区制度は,風致保全が目的であるが,これは都市化の進行を受け止めとめることを想定しており,その過程には地域住民による組織を形成することによって風致を育成していく計画体系でもあったこと,つまり,風致地区制度は指定することによってのみ風致の保全を図ろうとする制度ではなく,指定の後,その地区を維持管理していく組織を設立し,これを機能させることによってはじめて,変化する地区の都市化の実状を踏まえた風致の維持を可能にしようとした制度であったことを明らかにした。
著者
丹田 誠之助 須賀 里絵
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.141-152, 2002-12-20

うどんこ病の発生が未記録のアメリカイヌホオズキでうどんこ病の発生が認められた。また,ワサビダイコン,タチアオイ,ヒメコスモス,ハマナスでは国内で同病の発生が知られていないが本研究により発病が観察され,さらに,すでにSphaerotheca属菌のアナモルフが発生するとされているパンジーでは記録と異なるうどんこ病菌を検出した。本研究ではこれらの病原菌の形態的特徴を精査し,2,3の宿主上の菌については寄生性も調べて以下のように同定した。1.ワサビダイコン(Armoracia rusticana,アブラナ科)うどんこ病菌 : Erysiphe cruciferarumの分生子時代 2.タチアオイ(Alcea rosea,アオイ科)菌 : E.orontiiの分生子時代 3.パンジ-(Viola×wittrockiana,スミレ科)菌 : Oidium violae 4.ヒメコスモス(Brachycome iberidifolia,キク科)菌 : Oidium citrulli 5.ハマナス(Rosa rugosa,バラ科)菌 : Oidium leucoconium 6.アメリカイヌホオズキ(Solanum americanum,ナス科)菌 : Oidium sp.
著者
沖津 ミサ子 Misako Okitsu
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.260-267, 2003-03

ボードレールの悪の意識は彼の宗教的哲学的思想の根底を成すものである。クレマン・ボルガルやバンジャマン・フォンダーヌも指摘しているように,ボードレールの信条はニーチェのそれに非常に近いものと思われる。ニーチェは神の死を宣告したが,それより先すでにボードレールは神の不在を表明しキリスト教への反逆を企てた。彼はキリスト教による救済を拒否し,自分の罪は自分自身によって贖おうとした。すなわち彼は自分の内に存在する悪を認識し,凝視し,そこから生じる苦悩を深く苦悩することによって罪を贖おうとした。≪苦悩こそ唯一の高貴≫と唄って,苦悩こそが自分の魂を浄化しうる唯一の手段であると信じた。その結果ボードレールは過剰な程に悪の意識にとりつかれてしまう。そのことについてボードレール自身「苦悩の錬金術」の中で≪僕は黄金を鉄に,天国を地獄に変えてしまう≫と嘆いている。こうしたボードレールの思想は当然,深い内省心に支えられねばならない。そのことについてボードレールは「救いがたいもの」(二)の中で≪心が自分自身を映す鏡となる 暗くしかも透明な差し向い 青白い星かげのゆらめく 明るくて暗い「真理」の井戸! 皮肉な地獄の燈台 悪魔的恩寵の松明 唯一の慰めであり栄光である-「悪」の中に居るという意識は!≫と唄っている。ヨーロッパの伝統的宗教であるキリスト教に反逆を企てたボードレールは 彼独自の教義を唱えた。そして,その思想の根底にあるのが「「悪」の中に居るという意識」であり「苦悩こそ唯一の高貴」であり,「苦悩の錬金術」である。こうしたボードレールの思想は良心の呵責を歌った普遍的真理となった。
著者
足達 太郎 鳥海 航 大川原 亜耶 高橋 久光
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.259-263, 2008-12-10
被引用文献数
1

キャベツ畑に,ハーブ類のカモミール(カミツレ)およびキンレンカ(ノウゼンハレン)をそれぞれ混作した区と,キャベツを単作して化学合成殺虫剤を施用した区および施用しない区をもうけ,キャベツの主要害虫であるダイコンアブラムシ・モンシロチョウ・コナガの個体数変動と捕食寄生性天敵による寄生率を比較した。試験の結果,各害虫ともそれぞれの個体数がほぼピークとなる時期に,処理区間で個体群密度に有意な差がみられた。ダイコンアブラムシは,カモミール混作区における個体群密度がキンレンカ混作区やキャベツ単作/殺虫剤無施用区または施用区よりも高かった。モンシロチョウの幼虫個体数は,キャベツ単作/殺虫剤無施用区>キンレンカ混作区>カモミール混作区>キャベツ単作/殺虫剤施用区の順に多かった。また,モンシロチョウの卵数は,両ハーブの混作区における値がキャベツ単作区(殺虫剤施用および無施用)における値よりも多かった。コナガは,キャベツ単作/殺虫剤施用区およびカモミール混作区で幼虫の個体数が多かった。いっぽう,モンシロチョウの幼虫におけるアオムシコマユバチの寄生率は,キャベツの生育中期において,キンレンカ混作区およびキャベツ単作/殺虫剤無施用区で最も高かった。これに対し,コナガ幼虫におけるコナガコマユバチの寄生率は,処理区間で有意な差は認められなかった。
著者
原口 美帆 安藤 元一 Haraguchi Miho Motokazu Ando 東京農業大学大学院 農学研究科バイオセラピー学専攻 東京農業大学大学院 農学研究科バイオセラピー学専攻 Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.128-136,

明治時代から現在に至るハンターの関心事項の変遷を探るため,1891-2008年に発行された狩猟雑誌4誌(猟之友,銃猟界,狩猟と畜犬,狩猟界)の記事内容を調査した.雑誌1冊あたりの総ページ数,記事総数,広告数は,1950年代から1970年にかけての狩猟ブームの折に急増し,以降は減少傾向が続いた。これらの傾向は狩猟人口の変化と一致していたが,猟犬関連の記事にはそうした相関は見られなかった。記事が扱う鳥獣は,1950年代までは鳥類が主であったが,1980年代からは獣類の方が多くなった。クマは実際の捕獲数と比べて記事の数が多く,ハンターの関心の高さがうかがえた。獣類記事の中では1970年代までウサギが多かったが,1980年代以降はシカ・イノシシが8割以上を占めた。これらの傾向も実際の狩猟頭数や有害駆除頭数の変化を反映しており、狩猟がスポーツから獣害対策の手段に変化したことを示していた。This study was intended to investigate the change of article contents in hunters' magazines and animal/bird-related books for about 120 years from Meiji Era to the present. The following four hunters' magazines that were published during 1891-2008 were investigated: `Ryo-no-tomo (Friends of hunters)', `Juuryo-kai (Hunting gun world)', `Shuryo-to-chikken (Hunting and dog)' and `Shuryokai (Hunting world). Total page numbers per copy of hunting magazines steadily increased towards 1970 and started to decrease slowly thereafter. Total number of articles and the number of advertising articles also showed similar trends. Except for wartime (1918 and 1940), those changes were in proportion with the population number of registered hunters. Among advertising articles, those about hunting guns were dominant from the 1950s through 1970s. From 2000s, advertisements on hunting-related materials such as traps and clothing became the majority. In particular increase of trap-related advertisements increased sharply. In articles of hunting techniques, main target animals were birds in the 1950s, but shifted to mammals in the 1980s. Mammal-related articles were mainly on hares until the 1970s, but they shifted to deer and wild boars after the 1980s, occupying more than 80% of articles. This seemed to be a reflection that the number of hunted hares started to decrease after the 1970s and the number of hunted deer and wild boar for wildlife damage control increased after 2000. It turned out that the increase and decrease of total page numbers in hunting magazines was in proportion to the population of hunter, with the exception of wartime. They also reflected levels of wildlife damage and the actual hunting head count.
著者
梅村 博昭
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.193-203, 2008-03-15

サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(『ライ麦畑でつかまえて』)の語り手ホールデンの語りにおいては人称代名詞youが多用されている。このyouは特定の「君」への呼びかけには収まりきらない意味の広がりをもち,特に翻訳においてこれをどう処理するかは大きな問題といえる。本論においてはライト=コヴァリョーヴァによるロシア語訳においてこのyouがどのように翻訳されているかを分析する。英語におけるyouが一般化された「ひと」を指すことがあるのと同様に,ロシア語においては,主語を省略し,主に二人称単数の動詞を用いて一般的な事柄をのべる普遍人称文がある。ロシア語訳では,ホールデンの多用するyouが多様に訳し分けられているが,ホールデンが純粋に個人的な体験を一般化し読者と共有しようとするまさにその局面で普遍人称文があらわれることがわかる。日本においては,野崎孝の訳がこのyouを普遍的な「人」を表すものとする立場をとり,極力訳さない自然な訳となっているのに対し,村上春樹訳はこのyouを特定の聞き手と解釈して「君」と訳す。この意図の当否の判断は難しいものの,日本語においても告白体文学で前提とされている潜在的な二人称の受け手を明示的に浮かび上がらせることとなった。
著者
吉田 豊 半澤 惠 桑山 岳人 祐森 誠司 池田 周平 佐藤 光夫 門司 恭典 渡邊 忠男 近江 弘明 栗原 良雄 百目鬼 郁男 伊藤 澄麿 Luis K. MAEZONO Enrique Flores MARIAZZA Gustavo A. Gutierrez REYNOSO Jorge A. Gamarra BOJORQUES 渡邉 誠喜 Yutaka Yoshida Hanzawa Kei Kuwayama Takehito Sukemori Seizi Ikeda Shuhei Sato Mitsuo Monji Yasunori Watanabe Tadao Ohmi Hiroaki Kurihara Yoshio Domeki Ikuo Ito Sumimaro Maezono K. Luis Mariazza Flores Enrique Reynoso Gustavo A. Gutierrez Bojorques Jorge A. Gamarra Watanabe Seiki
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.62-69,

ペルーおよび日本国内で採取したラマ47頭,アルパカ27頭および両者の交雑種1頭とそのアルパカへの戻し交雑種1頭の計76頭の血液を用いて,19座位の血液タンパク質・酵素型を電気泳動学的に解析し,以下に示す成績を得た。1)血漿タンパク質 : Albumin, Haptoglobin,血漿酵素 : Alanine aminotransferase, Aspartate aminotransferase, γ-Glutamyltranspeptidase,赤血球タンパク質 : Haemoglobin,ならびに赤血球酵素 : Acid phosphatase, Catarase, Glucose-6-phosphate dehydrogenase, Phosphoglucomutase, Phosphohexose isomeraseの計11座位では多型は認められなかった。2)血漿タンパク質4座位 : Post-albumin(Po),Gc-protein(Gc),Transferrin(Tf)およびγ-globurin field protein(γG),血漿酵素3座位 : Amylase(Amy),Creatine kinase(CK)およびLeucine aminopeptidase(LAP),ならびに赤血球酵素1座位 : EsteraseD(EsD)の計8座位に多型が認められた。これら8座位のうちTfでは6型,PoおよびGcでは4型,γ-G, AmyおよびEsDでは3型,LAPおよびCKでは2型が認められた。ラマおよびアルパカにおけるこれら8座位の総合的な父権否定率は,0.931および0.867であった。3)ラマとアルパカとの間で血液タンパク質・酵素型を比較したところ,Gc, AmyおよびEsDにおいて種間差が認められた。すなわち,GcおよびAmyでは両種で共通な易動度を示すバンド以外に各々種特有の易動度を示すバンドが存在し,またEsDでは両種間でバンドの易動度が異なっていた。4)ラマとアルパカの交雑種,ならびにアルパカへの戻し交雑種の血液タンパク質・酵素型はラマあるいはアルパカと共通であった。5)CKおよびEsDを除く,17座位の遺伝子頻度に基づいて算出したラマとアルパカとの間の遺伝的距離は0.035であった。以上の成績から,血液タンパク質・酵素型の解析はラマおよびアルパカの集団の遺伝子構成を推定する上で有力な指標となることが明確となった。一方,ラマとアルパカが遺伝的に極めて近縁な関係にあることを裏付けるものと判断された。Blood samples of llamas and alpacas were classified by using electrophoretic procedures in the polymorphism at 19 loci. Electrophoretic variation was found for 8 loci, namely plasma proteins : post albumin (Po), Gc protein (Gc) and transferrin (Tf) and γ-globurin zone protein (γG), for plasma enzymes : amylase (Amy), creatine kinase (CK) and leucine aminopeptidase (LAP), and for red cell enzyme : esteraseD (EsD). Synthetic probabilityes of paternity exclusion about the 8 loci for llamas and alpacas were 0.931 and 0.867, respectively. No variants were found for plasma proteins : albumin and haptoglobin, for plasma enzymes : alanine aminotransferase, aspartate aminotransferase and γ-glutamyltranspeptidase, for red cell haemoglobin, and for red cell enzymes : acid phosphatase, catarase, glucose-6-phosphate dehydrogenase, phosphoglucomutase and phosphohexose isomerase. Nei's genetic distance between llamas and alpacas on the 17 loci (except CK and EsD) was 0.035. Preliminary estimate of the genetic distance measure may suggest that llamas and alpacas are more likely related as subspecies than as separate species.
著者
石井 康太 今枝 龍介 和田 健太 横濱 道成 Kouta Ishii Imaeda Ryusuke Wada Kenta Yokohama Michinari
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.114-123,

現在,日本のイワナ属魚類はオショロコマ(Salverinus malma),アメマス(S. leucomaenis)およびアメマスの亜種のゴキ(S.l. imbrius)の2種1亜種に分類する説と,オショロコマをオショロコマ(S. malma malma)およびミヤベイワナ(S.m. miyabei)の2亜種とし,アメマスとアメマスの亜種のゴキをまとめ,単にアメマス[地方名 : エゾイワナ](S.l.f. leucomaenis),ニッコウイワナ[地方名 : イワナ](S.l.f. pluvius),ヤマトイワナ(S.l.f. japonica)およびゴキ(S.l.f. imbrius)の4タイプに分ける説もあり,分類には論議が絶えず統一化されていない。また,日本においてイワナ属魚類はまだ形態学的特性による分類法では今のところ定説はない。そこで我々は,既に検出法が確立されているアイソザイムやmt-DNAおよびゲノムDNAの多型に加え,新たに生化学的手法による標識因子を開発するために北海道産のイワナ属魚類を用いて,血液タンパク質および筋肉タンパク質の多型座位の検索を試みた。1)血液タンパク質型の検索 イワナ属魚類において,血清トランスフェリン(Tf)型,血清エステラーゼ(Es)型,ヘモグロビン(Hb)型および血球膜タンパク質(Cell X)型について検索し,Tf型[基本バンドD,F,H,Lおよび不顕性(-)]は9種類のうち,F型が出現頻度0.712でオショロコマに特徴的な表現型であり,J型が出現頻度0.917でアメマス類に特徴的な表現型であった。Es型では3つの領域のうちオショロコマにはEs-II領域[基本バンドA,Bおよび不顕性タイプ(-)]およびEs-III領域[基本バンドF,I,Sおよび不顕性(-)]が,アメマス類にはEs-III領域[基本バンドD_1,D_2および不顕性(-)]がそれぞれ特徴的な領域であった。Hb型では2つの領域(IおよびII領域)に分けることができ,そのうちI領域(基本バンドA,B)に多型が認められ,アメマス類はA型に,オショロコマにはB型に偏った出現頻度を示した。Cell X型(基本バンドA,B)には明確な種間的差異が検出されなかったが3つの表現型に分類することができた。また,オショロコマにおいてTf型Es型(IIおよびIII領域),Hb-IおよびCell X型に,アメマス類においてはEs型のI領域に地域的差異と考えられる表現型が検出された。2)筋肉タンパク質(Mu)型の検索 イワナ属魚類において,Mu型(基本バンドA,B)ではオショロコマはA型に,アメマス類はB型に偏った出現頻度を示した。以上のことから,Tf型,Es型(I,IIおよびIII領域),Hb-I領域およびMu型においてオショロコマとアメマス類の2グループに分けることができる差異が検出され,アイソザイムやmt-DNAなどと同様に種間や種内の差異を明らかにできる座位の検出法が確立された。3)種間雑種個体の確認 丸瀬布町武利川で採取されたエゾイワナの1個体は,斑紋および形態的にはエゾイワナタイプであったが,Tf型およびMu型でオショロコマとアメマス類のヘテロ型と思われる表現型が検出され,オショロコマとエゾイワナの交雑した個体と考えられた。The classification of Salvelinus in Japan has been controversial and has not been established. According to one theory, Salvelinus is classified into two species (S. malma and S. leucomaenis) and 1 subspecies (S. leucomaenis imbrius). According to another theory, S. malma is classified into two subspecies (S. malma malma and S.m. miyabei), and S. leucomaenis, together with Salvelinus l. f. pluvius, S.l. f. japonica, and S.l. f. imbrius. There is no established classification of Salvelinus according to morphological characteristics in Japan. To develop new biochemical markers in addition to isozymes and mt-DNA and genomic DNA polymorphism, the detection methods of which have already been established, we examined polymorphic loci of blood proteins and muscular proteins using Salvelinus caught in Hokkaido. 1) Examination of blood protein types In Salvelinus, the serum transferrin (Tf) type, serum esterase (Es) type, hemoglobin (Hb) type, and blood cell membrane protein (Cell X) type were examined. Concerning the Tf type [basic bands ; D, F, H, L ; inapparent type (-)], the F type among 9 phenotypes was a characteristic phenotype in S. malma (incidence, 0.712) while the J type was a characteristic phenotype in S. leucomaenis (incidence, 0.917). Among the 3 domains of the Es type, the Es-II domain [basic bands ; A, B ; inapparent type (-)] and the Es-III domain [basic bands ; F, I, S ; inapprent type (-)] were characteristic of S. leucomaenis. Concerning the Hb type, there were two domains (I and II), and polymorphism was observed in the I domain (basic bands ; A and B). The incidence of A was high in S. leucomaenis, and that of B incidence was high in S. malma. The Cell X type (basic bands ; A and B) did not differ among the species but could be classified into 3 phenotypes. The appearance frequencies among local populations differed in S. malma, Tf type, Es type (II and III domain), Hb-I type and Cell X type, and in S. leucomaenis, Es-I domain. 2) Examination of the muscular protein (Mu) type In Salvelinus, concerning the Mu type (basic bands A and B), the incidence of the A type was high in S. malma, and that of the B type was high in S. leucomaenis. Thus, there were differences according to the Tf type, Es type (I, II and III domains), Hb-I domain, and the Mu type that allow classification into two groups (S. malma and S. leucomaenis). The same as for isozymes and mt-DNA, a locus deteciton method that can clarify inter- and intra-species difference was established. 3) Confirmation of inter-species hybrids In a S. leucomaenis individual collected in Murii River, Tf and Mu phenotypes that appear to be heterotypes of S. malma and S. leucomaenis were detected. This individual was S. leucomaenis by appearance, showing no characteristics of S. malma, and therefore, may have resulted from crossing between S. malma and S. leucomaenis.
著者
熊谷 浩一 田中 尚人 佐藤 英一 岡田 早苗 Kumagai Koichi Naoto Tanaka Eiichi Satoh Sanae Okada 東京農業大学大学院農学研究科農芸化学専攻 東京農業大学応用生物科学部菌株保存室 東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科 東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科 Department of Agricultural Chemistry Tokyo University of Agriculture NRIC Tokyo University of Agriculture Department of Applied Biology and Chemistry Tokyo University of Agriculture Department of Applied Biology and Chemistry Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.274-282,

長崎県対馬市は南北に長い島であり,対馬のそれぞれの農家ではサツマイモを原料とした固有の伝統保存食品である『せんだんご』を小規模に製造している。 せんだんごは,水で戻し,捏ねた生地を麺状に加工して茹であげ『ろくべえ麺』として食される。 ろくべえは,原料であるサツマイモ単体では生じ得ない食感を有していることから,せんだんごの製造工程に着目した。 せんだんごの製造には,"芋を腐らせる(発酵させる)"工程,それを丸めて数ヶ月に及ぶ軒下での"寒晒し"の工程があることから,島内各地域の「せんだんご製造農家」を訪問し,製造方法の調査を行った。 その結果,これら両工程にはカビなどの微生物が繁殖しており,黒色カビが繁殖した場合は味が悪くなるという理由からその部位が破棄され,白色や青色カビが繁殖した部位の製造が続行される。 このことから微生物の働きがあってせんだんごとなり,さらにろくべえ麺特有の食感が与えられると推察した。 さらに,せんだんご製造に重要な働きをすると考えられる微生物を特定するにあたり,数年にわたり島内の調査を重ねた結果,基本的にはせんだんご製造工程には3段階の発酵工程(発酵1(浸漬),発酵2(棚板に広げて発酵),発酵3(ソフトボール大の塊で発酵))と洗浄・成型工程の2工程4区分に分けられることが確認された。Sendango is an indigenous preserved food derived from sweet potato that is traditionally made in Tsushima, Japan located between the Korean Peninsula and Kyushu. The local people process a noodle called Rokube from Sendango and eat it with soup, fish or chicken. Rokube has a unique texture similar to konyaku, and unlike that of cooked sweet potato. There are two or three fermentation processes involved in Sendango production; therefore, we inferred that the unique texture of Rokube may result from the fermentation process. Sendango is manufactured in several farmhouses on the island ; however, the manufacturing process varies among districts. We investigated each local Sendango manufacturing process and determined the microorganisms involved in fermentation. The investigation of Sendango manufacturing procedures was carried out in three towns, Toyotama, Izuhara, and Mitsushima, by interviews and observations between December and February each year from 2008 to 2011. The processes consist of three main fermentations. In Fermentation-1 (F1), sliced or smashed sweet potatoes were soaked in cold water for 7-10 days. Gas production and film formation were observed during F1. In Fermentation-2 (F2), the soaked sweet potato pieces were piled to a thickness of 5-20cm for 20-30 days. Intense propagation of filamentous fungi was observed during F2. In fermentation-3 (F3), softball-sized lumps were formed on the sticky sweet potato by fungi. The sweet potatoes were left outside for approximately 1 month. The lumps gradually hardened by drying. Many fungal mycelia were observed on the surface of potatoes and inside the lumps during F3. The three aforementioned fermentation processes were used for Sendango production in two towns (Toyotama and Izuhara). In Izuhara, smashed sweet potatoes were placed in sandbags knit with plastic strings, and the bags were soaked in the flowing river water. The sandbags collected from the river water were left on the river bank for 20 days. F2 was carried out in sandbags. In Mitsushima, Sendango production consisted of two fermentation processes, F1 and F3. The fermentation process occurs over a long time period. The propagation of filamentous fungi was particularly intense during F2 and F3. It is thought that filamentous fungi are indispensable for Sendango production. We characterized the microorganisms participating in Sendango production based on this investigation.
著者
寺本 明子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.148-154, 2009-08-15

キャサリン・マンスフィールドは,ロンドンで作家として生きようと,19歳で故郷ニュージーランドを後にし,結局二度と祖国の家族の元に戻らなかった。最愛の弟が戦時下の演習中に死んだことをきっかけに,マンスフィールドが自らの幸せな子供時代を作品に残すことを決意したというのは大変有名な逸話だが,実はその前から彼女はニュージーランドの思い出を題材にした作品を著している。その中の一つ,1912年に書かれた「小さな女の子」は,彼女自身と父親の関係に由来する作品である。作品中で,主人公の少女は父親を恐れている。彼はヴィクトリア時代の父親として彼女に厳しく接し,自分の家庭に課する厳格な規律に自信を持っている。少女は,父親への恐怖心から彼を避けるが,ある晩,悪夢を見てうなされた時に,父親にその感情を静められたのをきっかけに,次第に歩み寄り始める。マンスフィールドに関して言うと,彼女は正にヴィクトリア朝的な父親に反抗し,自分の思う芸術家としての生き方をしようとロンドンへ渡った。しかし,不幸なことに,彼女は次々と病に苦しみ,心も傷ついた。そのような経験を通して,彼女はニュージーランドでの家族との思い出の大切さに気付き,次第にありのままの父親を認め,受け入れるようになる。作品中の少女は転機を経験し,一種の啓示を受ける。そして,作者が,その少女の繊細な感情を描くことに成功しているのは,少女が作者の経験や感情を映し出しているからに違いない。この論文では,「小さな女の子」を精読し,家族との思い出を書くことで自己を振り返り多くの作品を生み出した作家としてのマンスフィールドの出発点を明らかにする。
著者
若松 美智子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.107-119, 2008-09-16

作家石牟礼道子の名前は水俣病と結び付けられ,彼女の作品は告発文学として一般に受け入れられることが多い。しかし石牟礼文学の真骨頂はその高い叙情性,詩情性にあることを,『椿の海の記』の分析を通して示す。幼児期に幼女の目でとらえた人の世の悲しみの諸相の中心に,祖母である盲目の狂女の存在があり,彼女と幼女であった道子との魂の交感が石牟礼の美学の中心にあることを,この自伝的作品は示している。幼時のかなしみの原体験を美へと昇華せねばならない必要性が石牟礼の創作欲の源になっている。本論文では『椿の海の記』の音楽的構成,自然風景描写,演劇的想像力といった手法と,この作品のいくつかの主題,神話的世界観,差別されるものの世界,祖母おもかさま,生命のみなもとへの希求といったモチーフを例示しながら,石牟礼文学の美の世界の内実をしめす。それは他者のかなしみを自分の悲しみとして受け入れる彼女の共感能力に由来する,悲しみの美学である。不知火海沿岸に生きる無辜の民の苦しみかなしみや,狂女の不条理の世界を描く石牟礼は,背中あわせに人間社会の権力の支配構造の不条理をも照らし出す。社会から差別されるものが生きるもう一つの世界,それは海と空と大地に連なる根源的な魂の世界に通じる。その魂の世界に生きる弱者の逆転の生を,彼女はかなしみの中に咲く花として描くのである。
著者
前田 博 進士 五十八 Hiroshi MAEDA SHINJI Isoya
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.274-282, 2008-12

平成15年の地方自治法の改正によって公の施設に関して「指定管理者制度」が導入されることとなり、地方公共団体の所有する各種の施設と並んで都市公園もその対象となった。導入時のいきさつから招かれざるものとして公園管理者に受け止められた制度であるが、施行から2年を経過した現在比較的好印象で迎えられているように感じられる。そこで、都市公園管理史の観点から「指定管理者制度」の導入が都市公園の管理行政にどのような意味を持つかを検証した。考察の結果、「指定管理者制度」の導入は太政官布達第16号以来の都市公園管理史における転換期の特徴である外圧性と偶然性を持ち、近年の都市公園管理行政の閉塞感を打破する可能性、むしろ将来的に市民利用本位の公園管理のあり方を示唆する主要方策のひとつであることがわかった。具体的には(1)公園管理を再点検(2)正確な数量把握による予算確保(3)評価のための利用者意向把握等の動きが見られ、財政悪化時代を迎え危機的状況にあった公園管理行政の転換点となった。
著者
木原 高治
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.164-174, 2002-12-20

経済のグローバル化・ボーダレス化の進展に伴い企業活動の国際化が進んでおり,各国の会社法を中心とした法制度の理解が求められている。しかしながら,アジア地域の国については,一部の国を除いて会社法ないし会社制度に関する十分な研究がなされていない。本稿では,これまで十分な研究がなされていないフィリピンにおける会社法と改正証券法を取り上げ,その基本構造及びそれらに基づくSEC規制上の株式会社に対する計算書類公開制度について論じた。その結果,制度的にみた場合には,アメリカ法に準拠したフィリピン法上の株式会社に対するSECでの計算書類公開制度は,わが国の制度より実効性があり,特に問題の多いわが国の小規模株式会における計算書類公開制度を検討する上で有意義なものであることを指摘することができた。
著者
吉川 皓唯 國井 洋一 Hiroi Yoshikawa Kunii Yoichi
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.185-195, 2012-12

近年,拡張現実感(Augmented reality,AR)の技術が利用されつつある。本研究では拡張現実感技術を造園分野にて利用することは有益であると推測し,造園分野での拡張現実感の利用法について検討した。まず,視覚ARが既に活用されている応用事例50例を調査し,実例の傾向を把握した。さらに,視覚ARが利用者に与える印象の調査として視覚ARプログラムを作成し,それを被験者32名に体験してもらいSD法による印象評価と聞き取り調査を行った。以上2種類の調査より,視覚ARの利点は現実空間に情報を追加できる「付加性」,物理法則に縛られずに現実空間に物体を表示できる「配置性」,プログラムによって表示物の色,大きさ,形の変更ができる「変化性」の3点に集約できると判断した。さらに,造園における視覚ARの利用法として,「情報提供」「作業支援」「予測の視覚化」の3種の利用形態を提案した。結果として,今後普及の可能性がある拡張現実感および拡張現実感技術が作り出す社会の存在を明らかにし,造園分野での利用可能性を示すことができたといえる。
著者
岩下 明生 小林 大輔 太田 季絵 小川 博 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.209-217, 2014-12-15

神奈川県内の哺乳類の生息状況が異なる2つの緑地においてスタンプ板を用いた足跡トラップの有効性を検証するために,スタンプ板と自動撮影カメラを「けもの道」に設置して両者の調査効率を比較した。両手法におけるタヌキやアライグマなどの中型食肉目の出現頻度には正の相関が得られた。しかし,その値自体はスタンプ板調査よりも自動撮影調査の方が4-5倍高かった。動物のスタンプ板に対する反応をみると,アライグマとイエネコでは他種よりもスタンプ板の上を通過する割合が1.5-1.7倍高かったのに対し,アナグマでは他種よりも板の脇をすり抜ける割合が2-3倍高く,スタンプ板への反応には種間差が存在した。すなわち,スタンプ板調査は自動撮影調査よりも動物の検出力に劣るが,主要な中型食肉目の生息確認のような定性的な調査には十分な能力を有していた。さらにスタンプ板調査では低価格で盗難の可能性も低く,取り扱いが容易であるという利点があった。スタンプ板調査における実用的な方法の長短所を議論した。
著者
梅村 博昭
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.243-252, 2008-12-10

deja luとは「すでに読んだことがあるという認識」である。テクストを読む「わたくし」が,作品Bのなかに作品Aに似た何かを発見するとき,「わたくし」が作品Aをかつて読んだことがあるというまさにそのことが事態の本質をなしている。つまり生きられた体験としての間テクスト性を観察するとき,その中核をなすのがdeja luという概念なのである。本論では立松和平『性的黙示録』にあらわれる夜汽車の場面が,サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』におけるホールデンとミセス・モロウとの出会いに酷似しているという発見を糸口に,deja luが間テクスト的読解へと展開していく過程を考察する。そのさい,ある種の理論家が唱える理念的な「読者」概念と生身の「わたくし」の経験の落差を記述する,という手法をとる。標準的なロシア文学研究者が『性的黙示録』のなかに認めるdeja luはドストエフスキーの諸作品の痕跡であると考えられるが,生身の「わたくし」が体験したdeja luはサリンジャー作品の上記の場面なのである。そしてサリンジャーと立松を対比させながら読むという営為もまた,両作家の作品の意義の解明に通じていることを示す。
著者
内山 秀彦 木下 愛梨 渕上 真帆 嶺井 毅 川嶋 舟
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.192-199, 2014-12-15

本研究は,動物との相互関係における人の視覚認知に着目し,視線計測装置を用いて馬を観察した際の人の視線追従(注視部位,注視回数,注視時間)ならびに瞳孔径の変化を定量化した。さらに観察者の性格特性や馬に対する印象と視線との関連性を考察することを目的とした。得られたデータから,人の性格傾向において,外向性が高いほど肢・尻の部位に対し,また神経症傾向が高いほど,首・肩・胸の部位に対する注視回数や注視時間が低かった。特に神経症傾向が高い場合,馬の顔に視線が集まるといった,観察者の性格特性と注視部位に関連が認められた。また馬に対する恐怖感は,馬の外貌の中でも脚部から影響を受けると考えられた。さらに乗馬経験および動物の飼育経験と馬の顔への注視回数・時間に有意な正の相関が認められた。これらの結果から,人が動物との関係をもつ場合,アイコンタクトをはじめとした人同士のコミュニケーション方法を動物に対しても同様に適用していると考えられた。これらの視線解析を中心とした本研究の結果は,馬との相互関係から得られる精神的効果,また現在まで多く報告されている自閉症をはじめとしたコミュニケーションに関する障碍に対する動物介在療法・活動・教育の実施内容を支持するものである。
著者
竹井 かおり 星野 大地 市村 匡史
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.98-103, 2012-09 (Released:2013-10-08)

本試験では養液栽培において,育枯病の発病抑制効果が期待できるスイートバジル,オレガノ,ローマンカモミールを用いて,ハーブの栽植密度を変えてトマトとの混植試験を行い,ハーブの混植が青枯病発病ならびに培養液中の青枯病菌密度に及ぼす影響を調査した。その結果,対照区と比べて,スイートバジル混植区では青枯病発病が4日遅れ,オレガノ,ローマンカモミール混植区では,青枯病の進行が5~8日抑制された。さらに,スイートバジル,オレガノ混植区では培養液中の青枯病菌密度が検出限界以下(約10 2cfu/mL以下)に減少した。以上のことから,ハーブの混植により,青枯病発病抑制,青枯病進行抑制,培養液内の青枯病菌密度低下効果などが得られる可能性が示唆された。
著者
佐々木 剛 和久井 諒 和久 大介 米澤 隆弘 姉崎 智子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.49-56, 2013-09-20

日本国内でツキノワグマ(Ursus thibetanus)は本州,四国に生息し,現在5地域の個体群が絶滅の恐れのある地域集団とされている。群馬県でもツキノワグマが生息しているが,その捕獲頭数を定めた群馬県ツキノワグマ適正管理計画は,地域集団の構成を考慮しないまま実施されており,このままでは絶滅を招く危険性をはらんでいる。このことから,ツキノワグマの適切な保全を考慮した農林業被害等の防止対策を実施することが,希少野生動物とともに暮らす地域にとって重要な課題といえる。そこで本研究は群馬県ツキノワグマの遺伝的多様性を明らかにするため,群馬県で捕獲されたツキノワグマ30個体のミトコンドリアDNA D-loop領域706bpの配列を決定し,ハプロタイプ分析を行った。その結果,群馬県のツキノワグマから6つのハプロタイプを同定した。これらは先行研究により東日本に生息するツキノワグマで同定された38ハプロタイプのうち,E01, E06, E10, E11, E31, E34に該当した。ハプロタイプの地理的分布および集団構造解析から,群馬県では南西部集団,中之条集団,北東部集団の3集団が存在する可能性が示唆された。群馬県中央部から南東部にかけては平野が広がっており,ツキノワグマの生息は確認されていない。よって群馬県のツキノワグマ3集団は群馬県の西から東へ南西部集団,中之条集団,北東部集団の順に並んで存在していると思われる。つまり,中之条集団の西側で南西部集団と分かれる境界線があり,東側で北東部集団と分かれる境界線が本研究によって想定された。これらは適正管理計画のもとで人為的に設定された地域個体群(越後・三国地域個体群と関東山地個体群)とは異なる境界分布を示しており,今後ツキノワグマの自然集団を繁栄した適切な保全計画を実施するためにも現在の分布境界線を見直していく必要があることを本研究は提唱する。
著者
大田 克洋
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.289-304, 2009-03-16

食料安全保障を,供給の安定性,価格の安価性,品質の安全性の3面からとらえ,その確立に向けての現状の把握と課題の検討を行った。コメ,小麦等主要穀物の需給構造の長期変容パターンの特徴を実証分析するための枠組みとして,自給指向型,輸入依存型,輸出指向型の3つの需給構造変容の5段階モデルを作成し,米国農務省等の統計データを利用して,日本を中心に主要食料の需給構造の変容過程と現段階の特徴をモデルに照らして同定した。それにより,例えば60年代以降の日本のコメ需給は,国内需要が国内生産で賄われる自給指向型の変容過程をとりながらも,その現段階は,需給量が一貫して漸減する「成熟段階」にあることが示唆された。また日本では,食料安全保障の確立には食料自給率の向上が不可欠とする考えが一般的であるのに対し,筆者は,単純な国産比率である「自給率」の意味の「限界」と,上記3側面で見る安全保障への無関係さと無力さを,小麦の自給化政策の効果や生鮮かぼちゃの「自給率の季節変動」の実証分析によって明らかにした。結論として,世界の食料安全保障は,世界各国の自由貿易体制下の協調と国際的な相互協力の結果として保証されるものである以上,日本の食料安全保障もその枠組みの中で,国際協調と自由貿易による便益を活用しつつ,地球規模的な視野でその確立を図るべきことを提言した。