著者
寺本 明子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.37-44, 2009-06-15

キャサリン・マンスフィールドの短編「風が吹く」は,形式のレベルにおいて,一人の少女の繊細な感情と対応する戸外の風を扱っている。彼女はある風の強い日に様々な感情-不安,苛立ち,孤独,反抗,憧れ,共感など-を経験し,彼女の感情の一つ一つが自然現象である戸外の風と密接に係わっている。素材のレベルから見ると,作品の内容はマンスフィールドの祖国ニュージーランドの思い出である。彼女は19歳で祖国を後にし,二度と戻ることはなかった。しかしながら,彼女はニュージーランドでの幸せな生活を決して忘れなかった。彼女の弟が1915年ロンドンに訪ねて来た時,この姉弟は幸せな子供時代の思い出を語り合い,彼女は当然のように,思い出の日々を書くことを自分の使命と感じた。そしてこの作品は,絵画性や音楽性を特徴とするが,透明性をも示している。「風が吹く」を堀辰雄の『風立ちぬ』と比べると,両者に共通点が多いことがわかる。前者におけるように,後者でも戸外の風が主要登場人物の繊細な感情と呼応して描かれている。そして『風立ちぬ』では,風が作品の起承転結に沿って扱われている。これら二つの作品を風や他の背景を通して読む時,私はその中心的テーマが,叡智に基づく諦観であるということに気付く。
著者
Marita S. PINILI Dewa Nyoman NYANA Gede SUASTIKA 夏秋啓子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.125-134, 2011-09-30
被引用文献数
1

バナナ(Musa spp.)はインドネシアのバリ島において果物としてだけでなく調理用としても重要であり,また,宗教儀式でも多用される。4年ほど前までバリ島においてバナナバンチートップウイルス(Banana bunchy top virus ; BBTV)による被害はほとんど認められなかったが,近年,急速に被害が広がったことを観察した。そこで,バリ島のバナナにおいて,BBTVと,同じくバナナの重要ウイルスであるBanana bract mosaic virus(BBtMV)の検出を血清学および分子生物学的技術で実施した。その結果,2種のバナナ品種Pisang Sari(AAB)とPisang Susu(AAA)からBBTVが検出され,そのDNA-Rの 全塩基配列を解析したところ,アジアグループに属し,また,ジャワ株,フィリピン株などとの類縁度が高いことが明らかになった。しかし,BBrMVは検 出されなかった。多くのバナナがジャワ島からバリ島に移入されており,また,病害に対する特段の防除が行われておらず,さらにBBTVの媒介虫 (Pentalonia nigronervosa)の存在が,BBTVの侵入と拡大に寄与したと考えられた。
著者
古屋 典子 Somowiyarjo Susamto 夏秋 啓子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.75-81, 2004-12
被引用文献数
1

バナナ(Musa spp)にとって,ウイルスの存在は,生産の場だけではなく,遺伝資源としての種や品種の保存においても重大な脅威である。本研究では,インドネシアのジョグジャカルタ特別州に位置するバナナ品種保存園において,38品種68株のバナナを3年間に渡って採集し,血清学的・分子生物学的手法の両方または一方を用いて,ウイルスの検出を行った。その結果,キュウリモザイクウイルス(CMV)は3株のみで感染が確認されたのに対し,バナナバンチートップウイルス(BBTV)は21株で認められたことから,本来はウイルスフリーであるべき本品種保存園においてもBBTVは蔓延していることが示された。また,調査を行った38品種は長期間同じ環境条件下で栽培されていたが,BBTVは12品種で,CMVは3品種でそれぞれ病徴を伴って感染が確認された。このことから,これらの12品種と3品種はそれぞれBBTVとCMVに対して,より感受性であると思われた。バナナ品種保存園に発生したBBTV2分離株(BBTV-IG33, -IG64)とその近郊の農村に発生したBBTV1分離株(BBTV-IJs11)についてDNA-1とDNA-3の塩基配列を決定した結果,それぞれのコンポーネントの全長で3分離株は高い相同性を有していた(98〜99%,99〜100%)。また,DNA-1のCR-M領域(major common region)では,既報のオーストラリアおよびフィジーの分離株よりも,日本・台湾・フィリピン・中国・ベトナムの分離株と,より高い値を示した(63〜65%,93〜95%)。したがって,インドネシアにおけるBBTVアジアグループ(KARANら,1994)の発生とそれらの分子生物学的性状が本研究によって初めて明確に示された。
著者
日田 安寿美 高橋 英一 古庄 律 多田 由紀 川野 因
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.198-203, 2009-12-15
被引用文献数
1

近年,若年層の朝食欠食をはじめ食生活の乱れや運動不足が問題視されている。T大学では食の専門家を育成しており,将来的に食育活動に携わる者も少なくない。そこで本研究ではT大学1年次生を対象に食育トライアル授業を計画し,参加学生の食物摂取状況や運動習慣を把握することにより,今後の授業計画のための基礎資料を得ることを目的とした。対象者は,食育トライアル授業に参加した学生のうち,調査に協力の得られた女性13名であった。調査の結果,1日あたりの食品群別摂取量は,穀類が366g,いも類は37g,緑黄色野菜は75g,その他の野菜は112g,魚介類は44g,肉類は80g,卵類は22g,菓子類が66gであった。一人一日あたりのエネルギー摂取量は,推定エネルギー必要量とほぼ一致していた。脂質エネルギー比率は29.4%,炭水化物エネルギー比率は56.8%であった。カルシウム,鉄分,水溶性ビタミン類,食物繊維の摂取量は不足するリスクが認められた。特に鉄分と食物繊維は対象者全員で不足のリスクが高かった。食品の適切な選択方法についての知識や技術を身につけること,さらに食環境整備が必要であると考えられた。ライフコーダーにより歩行数を測定した結果,1日の平均歩行数は10,434±2,606歩であり,健康日本21の目標値を上回る人は13名中9名であった。一方,速歩や強い強度の運動時間が短かったことから,今後は健康増進のためにも運動強度を高める教育が必要と考えられた。
著者
寺本 明子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.264-273, 2008-12-10

キャサリン・マンスフィールド(Katherine MANSFIELD 1888-1923)は,19歳で祖国ニュージーランドを離れ,二度と戻ることは無かった。彼女にとって,イギリスで作家になることが人生の最大の目的で,その為に故郷は切り捨てられたのである。しかし,第一次世界大戦に際し,英国軍に入隊する為に来英した弟との再会により,故郷での幸せな子供時代の記憶が彼女に甦った。その弟の不慮の事故死により,彼女は,自分の使命はニュージーランドについての作品を書くことだと考えたのだが,この様な動機から生まれた短編小説群が,いわゆる「ニュージーランドもの」である。マンスフィールドの作品の中には,祖母と孫の関係が描かれたものがいくつかある。彼女の日記や伝記から,祖母のことが大好きだったことがよく知られており,その事実が作品に反映されていると考えられる。また,作品中のバーネル(Burnell)一家は,マンスフィールド自身の家族ビーチャム(BEAUCHAMP)一家と構成が似ており,子供の頃の彼女自身,祖母,両親,姉妹を彷彿とさせ,叔父,叔母,従兄弟達との交流も描かれる。そして,作品中には,人間関係だけでなく,人間性へも向けられる彼女の鋭い洞察が見られる。作品に登場する「祖母」は,孫との関わり方により様々に描かれるが,皆,心温かい女性である。その祖母像を,「新しい服」(`New Dresses')における第一段階,「船旅」(`The Voyage')の第二段階,そして,「前奏曲」(`Prelude')「入り江にて」(`At the Bay')の第三段階に分けて検証し,その違いや共通点を分析する。
著者
寺本 明子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.292-298, 2010-03-15

産業革命により19世紀英国社会は未曽有の経済的繁栄を成し遂げたが,反面,社会構造に歪みが生まれ,負の遺産とも言うべき影響を,一般社会のみならず宗教界にも与えた。こうした社会情勢の中で1833年に始まったオックスフォード運動は,宗教界の体質改善を求め,英国国教会の惰眠状態を改革しようとするものであった。結局この運動は挫折したのだが,1863年にオックスフォード大学に入学したジェラード・マンリー・ホプキンズ(Gerard Manley HOPKINS)は,在学中,かつて運動の立役者であったピュージーやリドンの影響を受け,更に,カトリックに改宗したニューマンの著書を通して自身の信仰を見直すこととなった。そして彼は,1866年にニューマンの導きでカトリック信者となり,後に,カトリック修道会の中でも一番厳しい信仰生活を求めるイエズス会に入る。ホプキンズの改宗前の初期の詩は,英国国教会の家庭に育った素直な信仰を謳うものから始まり,次第にカトリック改宗に向けての彼の信仰上の苦悩が表れるようになる。その中の一つ"The Nightingale"を精読することによって,船乗りの夫を海で亡くす妻の姿を描きながら,国教会との決別を意識するホプキンズの心情を読み取る。
著者
石川 有生 荒井 歩 ISHIKAWA Nao Ayumi ARAI 東京農業大学大学院農学研究科造園学専攻 東京農業大学地域環境科学部造園科学科 Department of Landscape Architecture Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Landscape Architecture Science Faculty of Regional Enviroment Science Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.190-198,

現・千葉県我孫子市内に位置していた旧我孫子町南部周辺は,大正時代に入ると主に手賀沼沿いの斜面地に文化人の別荘や住居が建てられ,一種の文化人コロニーを形成した。本研究では,コロニーの概要及び構成文化人を明らかにした上で,文化人の作品に描かれたコロニーの景観構成要素を抽出し,その特徴を分析することを目的とした。描かれた景観構成要素の特徴として以下の結果を得た。(1)身近な動植物や,日常生活における眺望を構成する景観構成要素が多数確認された 。(2)白樺派の構成文化人は,彼らが思想的に求めた美しさや豊かさを,我孫子の 「一般的で身近な自然」の中に見出していた。Abiko city is located in the northwest of Chiba Prefecture. Lying between the Tonegawa River to the north and Lake Teganuma to the south, Abiko is rich in natural features. In the Taisho era, many intellectuals from Tokyo had their cottages on the south-facing slope by Lake Teganuma. The aim of this study is to grasp how intellectuals recognized landscape elements of Abiko in the Taisho era. First, we outline a colony of intellectuals who lived in Abiko. Second, we survey literature by intellectuals that might provide insights into the environment in Abiko. Third, we analyze landscape elements in the literature that was written by intellectuals. Finally, we consider features of the landscape elements of the lakeside environment in Abiko. As for the features of landscape elements that intellectuals wrote about, we obtained the following : the animals and plants living near a colony and one which be able to see in everyday by intellectuals. Especially Shirakaba school, the main group of intellectuals, found out the ideal beauty and happiness through their life in Abiko.
著者
斉藤 正貴 吉田 勝浩 中村 貴彦 駒村 正治 Masaki Saitoh Yoshida Katsuhiro Nakamura Takahiko Komamura Masaharu 東京農業大学大学院農学研究科農業工学 東京農業大学大学院農学研究科農業工学 東京農業大学地域環境科学部生産環境工学科 東京農業大学地域環境科学部生産環境工学科 Department of Agricultural Engineering Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Agricultural Engineering Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Bioproduction and Environment Engineering Faculty of Regional Environment Science Tokyo University of Agriculture Department of Bioproduction and Environment Engineering Faculty of Regional Environment Science Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.189-197,

小規模循環型農園においてヒトが継続的に生存していくために必要な要素と規模を明らかにすることを目的とし,資源循環シミュレーションモデルを作成した。モデル対象地を静岡県として,ヒト一人の栄養バランスを保つことを前提条件とした循環システムの構成要素を提示し,農作物の収量と農地・森林面積を試算した。結果は以下の通りとなった。1.構成要素 : ヒト,家禽,養魚,農作物,緑肥作物,水質浄化作物,淡水プランクトン,森林 2.農地面積 : 5.6a(5.6×10^2m^2)(ヒト住居,鶏舎,養殖池は除く) 3.森林面積 : 2.9a次に,正規分布による確率密度関数を用いて農作物の収量に対する信頼度を明確化し,農作物収量および農地面積を算出した。信頼度ごとに割り出した農地面積は以下の通りとなった。信頼度50% : 6.9a, 信頼度75% : 7.3a, 信頼度95% : 8.0aThe purpose of this study is to show the elements and amounts, which are required to maintain a man's life on a small-scale-recycling-oriented farm. A simulation was done to show how materials recycle in a system in Shizuoka, Japan. This simulation presumed that a man can maintain his own nutritional balance and showed the constituent elements of the system. After the necessary quantity of food was calculated, the necessary amount of yields for providing food was calculated. Then the farmland area and the amounts of manure for these crops were calculated. After that the forest area for providing manure was calculated. The following results were obtained : 1. Constituent elements : Man, Chicken, Fish, Crops, Green manure, Water purifying plants, Limnoplankton, Trees 2. The farmland area : 5.6×10^2m^2 (except for the man's house, henhouse and fishpond) 3. The forest area : 50% reliability : 2.9×10^2m^2 In addition, the reliability of the yields was made clear according to a probability density function and the farmland areas each were calculated according to the yields of each case, 50%, 75% and 95% reliability. The following results were obtained : 50% reliability : 6.9×10^2m^2, 75% reliability : 7.3×10^2m^2, 95% reliability : 8.0×10^2m^2
著者
Sankari Shadi Chikh Ali Mohamad 片山 克己 三木 信雄 Said Omar Abdul Mohasen Sawas Ahmad Bahij 夏秋啓子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.109-114, 2007-09-20
被引用文献数
1

ジャガイモYウイルス(PVY)はシリアのジャガイモ生産における主要ウイルスの一つとされ,ジャガイモ生産の阻害要因となっている。PVY感染の無い種イモの生産と供給が主要な防除手段であるが,そのためには,効果的なウイルス検査法が必要である。酵素結合抗体法(ELISA)は複数種類のジャガイモウイルス検出には最も一般的な技術であるが,それぞれのウイルスに対して特異的な抗血清が利用できることが必須条件となる。本研究では,シリアに発生したPVY分離株を純化し,ウサギに免疫することにより抗血清をはじめて作製した。この抗血清を利用し多くのシリア産PVYを用いたELISAによる検討では,市販の抗血清と同等の検出能力を有し,両抗血清間に結果の相違は認められなかった。また,非特異的反応も生じなかった。さらに,検出限界は高かった。以上より,本研究ではシリアで分離されたPVYに対して初めてシリア国産抗血清を得ることができ,抗血清の恒常的輸入を不要にしたことに大きな意義があると考えられる。
著者
寺野 梨香 藤本 彰三
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-9, 2010-06-25

1980年代後半,マレーシア経済は急激な発展を遂げた。諸外国が直接投資を行うことにより西海岸の工業団地に多国籍企業が進出したためである。製造業部門のGDPシェアは1980年の6.8%から増加し2005年には31.4%に達した。工業地帯は西海岸に集中しているため,現在,東海岸と西海岸には深刻な経済格差が存在している。本研究では州レベルで議論されてきた経済格差を世帯レベルで解明し,東西両海岸に位置している稲作農村の現状および経済格差を把握するための分析を行った。本研究の主な成果は3点挙げられる。(1)世帯レベルでの所得分布を検討した結果,西海岸のPTBB村の世帯所得は相対的に高く分布しており,東海岸に位置するHC村の農家は低所得層に分布していることが明らかになった。農業所得の貢献は限られており,農外所得が大きく貢献していることが明らかになった。(2)ジニ係数や対数標準偏差を用いて両村の所得格差について検討した結果,HC村内では個々の就業者所得および農家所得において大きな格差があることが分かった。(3)世帯所得の決定には,世帯内の就業者数,世帯主の年齢・性別・職業,および居住地が大きく影響することを明らかにした。
著者
鈴木 圭 小川 博 天野 卓 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.13-18, 2008-06-15
被引用文献数
3

ニホンモモンガPteromys momongaの巣箱利用率から本種の環境嗜好性を評価した。丹沢山地に548個の巣箱を設置し樹上性哺乳類全般の利用状況を調べた。巣箱利用率の高まる8月から10月における巣箱内の痕跡から,林相,水場の遠近および標高が本種の巣箱利用度に及ぼす影響を検討した。本種の巣箱痕跡率は広葉樹・モミの天然林において0.4%,スギ・ヒノキ人工林で0%,および天然林と人工林がパッチ状に混在する林で3.9%であった。一般線形モデルによる解析を行ったところ,本種は天然林と人工林の混在する環境を好んで生息し,水場の遠近や標高による影響は見られなかった。他方,山地林に普遍的に生息する樹上性ノネズミであるヒメネズミApodemus argenteusはこれらの環境要素に対して嗜好性を示さなかったことから,上記の嗜好性がニホンモモンガの特徴であることが推察された。
著者
木原 高治
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.205-210, 2010-09

フィリピン会社法は,母法アメリカ会社法と同様に会社の権利能力範囲内の行為として慈善,学術,教育等への寄付を認める一方で,母法と異なり政治献金は会社の能力外の行為として禁止している。一般に,会社の政治献金は公法により制限されており,フィリピンのように会社法により政治献金を直接規制する例は他になく,わが国の会社法研究上において示唆に富むものであると言える。The Corporation Code of the Philippines provides that corporations may make reasonable donations for public welfare, charitable, cultural, scientific, civic or similar purposes in the provision of Corporation Laws of the US. However, it also provides that corporations shall not give donations to any political party or candidate for the purpose of partisan political activity. This provision has originality and it is very significant to rethink the legal problems of political donations by business corporations in Japan. This paper shows the content and meaning of the provision and necessity to adopt such a provision into the Company Law of Japan.
著者
國井 洋一 加藤 萌優美
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.182-191, 2009-12-15

本研究では回遊式庭園における園路景観の定量評価手法の開発を目的とし,江戸時代の代表的な大名庭園である小石川後楽園及び六義園を対象とし,園路の位置計測ならびに景観に対するフラクタル解析を行った。園路の位置計測では,両庭園に対する園路の平面位置および高さの変化を比較した。その結果,両庭園における高さ変化の標準偏差は小石川後楽園が±0.811m,六義園が±0.286mと小石川後楽園が特に園路の高さ変化に富んでいることが確認された。また,両庭園の園路長に対して同一の尺度にて比較を行った場合,両庭園の位置や高さの変化には類似性が見られた。さらに,フラクタル解析により両庭園における園路上の景観を評価した結果,園路の位置や高さと景観の変化とは関連性が高いことが確認され,位置計測およびフラクタル次元が日本庭園における景観に対する定量的評価の指標となる可能性を示唆した。
著者
岡 孝夫 井野 靖子 高橋 幸水 野村 こう 花田 博文 天野 卓 寒川 清 秋篠宮 文仁
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.363-367, 2009-03-16

龍神地鶏は和歌山県の旧龍神村(現在の田辺市)で少数が維持されている集団であり,同地で古くから飼養されているものである。1994年には村内で30数羽が飼養されていたが,近年では個体数が減少し,遺伝的多様性の減少が懸念されている。そこで本研究では1994年および2007年に採血された龍神地鶏(1994年12羽,2007年2集団各18羽,7羽)について,ISAG/FAO推奨の30座位のマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝的多様性の経時的な比較と他の日本鶏品種との遺伝的類縁関係を明らかにすることを目的とした。龍神地鶏3集団において30座位中12座位で多型が認められず,5座位で対立遺伝子の消失が認められた。さらに6座位においては遺伝子頻度0.5以上の主要な対立遺伝子が変化していた。その他の座位の対立遺伝子数は2から3の範囲であった。龍神地鶏各集団の平均対立遺伝子数およびヘテロ接合体率は既報の他の日本鶏品種よりも低い値を示した。次に,日本鶏品種内における龍神地鶏の遺伝的な位置を明確にするため,他品種の解析データを加えてD^A遺伝距離にもとづく近隣結合系統樹を作成した。その結果,龍神地鶏は比較に用いたどの品種ともクラスターを形成せず,高いブートストラップ値で他の品種から分かれる結果となった。以上の結果より,龍神地鶏は地域に固有の品種である一方,小集団で長く維持されてきたため近交がすすみ,遺伝的多様性が低くなった集団であると考えられた。今後この品種を維持するためには,現在残されている2つの集団のみならず,県の試験場等を含めて十分な集団サイズを確保し,集団間の系統的維持が必要であると考えられた。
著者
小泉 直介 進士 五十八
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.23-32, 2007-06-20

本研究の目的は,我が国造園建設業が継承し,また継承すべき伝統的作庭技術,工法などの造園的本質と特質を明らかにしようとするものである。(1) 飛鳥時代にはじまる作庭をみると,身近に庭をつくるために在所の地勢を活かし,資材に"自然材料・地場材料"を使い,そして作る方法は"自然に順応した工法"をとった。この規範は,近世に至るまで,造られたかたちは変わっても,つくる過程の態様として大きな変化はなかった。(2) 職能分担などの業務形態の発展は,建築土木に比べて仕事の量は劣ったにも拘らず,社会経済の変化につれてこれ等と同様な軌跡を辿った。江戸時代には,植木,石などの資材の販売業が萌芽した。しかし,造園職能のうち現場で直接土に触れる職人の存在は,社会的に認知されることが希薄であった。(3) 作庭の出来を左右する作業者の心象は,素朴にして巧まざる自然の美しさを映そうとする行為を生むものであった。これらのことから現代の造園建設が,伝統として継承すべき根幹的な事項を明らかにした。
著者
祐森 誠司 桑山 岳人 池田 周平 吉田 豊 佐藤 光夫 半澤 恵 門司 恭典 渡邊 忠男 近江 弘明 栗原 良雄 百目鬼 郁男 渡邉 誠喜 Luis MAEZONO Enrique FLORES 伊藤 澄麿
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.49-53, 2002-06-20

本研究は,日本国内におけるラマ属の被毛生産の可能性を検討するうえで基礎的な知見と考えられるラマ属家畜の被毛形態について検討した。ラマの被毛は,日本とペルー国で飼育される動物から採取した。アルパカの被毛は日本で飼育される動物から採取した。グアナコとビクーナの被毛はラ・モリナ農業大学の共同研究者から提供されたものを用いた。メンヨウ(サフォーク種)の被毛は,我々の研究室で飼育されている個体から採取した。伸張率,クリンプ数,太さ,キューティクルの面積と形について肉眼あるいは電子顕微鏡による観察を通じて測定された。ラマ属の被毛の伸張率(1.3-2.1)はメンヨウのもの(3.2)よりも低い値を示したが,逆にラマ属の被毛のクリンプ数(5.4-8.9)はメンヨウのそれ(2.4)よりも多かった。このことは,ラマ属の被毛の柔軟性がメンヨウよりも劣っていることを示唆している。太さに関する結果は,ラマの粗毛が他の動物の普通の毛の2〜3倍太いことを示した。また,ビクーナの被毛の太さは他の動物の普通の毛の1/2倍であった。電子顕微鏡での観察結果から,キューティクルの形は2種類に分類され,1つはラマ,アルパカ,グアナコ,メンヨウのように幅の広いタイプであり,もう1つはビクーナのような長さの長いタイプであった。ビクーナの被毛はキューティクルの面積(47.4-70.0μm^2)が最も小さく,他の日本国内飼育動物のそれはそれぞれ近似した値を示した。
著者
越智 匠作 太田 猛彦 田中 延亮 堀田 紀文
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.75-80, 2008-06-15

幼齢林における樹冠遮断量の測定上の問題点を解決できるような大型雨量計のデザインを提示し,実際に作製した大型雨量計を用いてその実用性を検討した。雨量計の重要な要素である受水面積は,我が国の一般的な幼齢林の植栽密度,植物への影響,メンテナンス性,既往の大型雨量計を用いた樹冠遮断研究における受水面積の決定基準などを参考にして,約5m^2が適当であると決めた。大型雨量計の実用性は,次の各実験により確認した。まず,降雨強度の大きい降雨イベントにおいても雨量計からの排水水量を正確に測定できるようするために,本研究で用いた500mLの転倒マス型量水計を対象に大流量を含めた流量検定を行い,流量と1転倒に要する水量との関係を求めた。次に,大型雨量計の初期損失量を求めたところ0.2mm以下であり,大型雨量計の排水性は良好であった。さらに,大型雨量計の受水面積を厳密に求めるために,自然降雨を対象にした大型雨量計と貯留型雨量計の比較観測を行った。転倒マス型量水計の検定結果を考慮して補正した大型雨量計からの排水水量と,貯留型雨量計が示した雨量の関係は,良好な直線関係を示しており,その直線の傾きから大型雨量計の厳密な受水面積を決めた。また,その直線関係は,通常の降雨イベントだけでなく強度の大きい降雨イベントにおいても成り立っていたため,本研究で提示した大型雨量計は降雨強度の大きいイベントにも耐えうる実用性の高い雨量計であることがわかった。
著者
鎮野 宏幸 渡邉 章乃 山田 周平 本橋 慶一 矢口 行雄
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.233-237, 2008-12-10

2004年6月,東京都世田谷区の街路樹に植栽されていたハナミズキ(Cornus florida L.)の葉に,淡褐色,不整形の病斑を生じ,その上に炭疽病菌と思われる分生子粘塊が観察される病害が発生した。病斑は,はじめ葉の周縁部および中央部が褐色となり,それぞれ不定形に拡大,融合し,その後,葉の全体が褐変後,早期に落葉した。病斑部の分生子層には,無色,単胞,紡錘形で,大きさ11〜14×3.1〜4.2μm(平均13.4×3.8μm)の分生子が形成されていた。分生子は発芽時に褐色,厚膜,棍棒状,大きさ7.7〜11.5×5.1〜7.7μm(平均8.8×5.6μm)の付着器を形成した。また,分離菌を健全なハナミズキに接種した結果,自然発生と同様な病徴が再現された。これらの結果から,本病はColletotrichum acutatum Simmonds ex Simmondsによって引き起こされる病害であることが確認された。本菌によるハナミズキの病害はわが国では未報告であることから,本病をハナミズキ炭疽病と呼称することを提案した。
著者
樫村 修生 川野 因 田中 越郎 前田 直樹 関口 健
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.119-124, 2004-12

本研究では,箱根駅伝出場をめざす大学陸上競技長距離選手において,短期的な高所トレーニング合宿時の栄養調査およびHb濃度測定を実施した。ヘモグロビン濃度は8名が低下傾向を示す,いわゆる貧血症状であった。貧血傾向にある選手にヘム鉄剤を服用し,貧血の改善が可能かどうか検討した。その結果,鉄剤服用選手は,合宿直後および2週間後においてヘモグロビン濃度が改善された。また,合宿前のHb濃度は,1年生が4年生の濃度より有意に低かった。また,本合宿時における1日の鉄分摂取量は平均10.5mgであり,不足気味であった。我々は,貧血検査,鉄剤服用および栄養改善などの貧血予防対策により箱根駅伝出場を果たすことができたと推察する。