著者
種田 博之
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.263-276, 2001-09-01

今日の日本社会において, 占いは日常生活のいたるところで見ることができるほど, ひとつの「社会的事実」となっている.このような状況ではあるが, 占いは社会学的にはいまだに未知の現象のままである.占いに関しての分析を行っていく上で, 占い師は占いの技法を管理する職能者であるということから, 重要な要素の一つをなしている.したがって, 占いについての十分な考察を進めていく上で, なによりもまず占い師の特徴を明確にする必要がある.この論文の目的は, 占いに正当性を付与する「根拠」と占い師を占いへと方向づけた「契機」を明確にすることで, 占い師の特徴を示すことにある.「根拠」としては, 「直感=インスピレーション」か, もしくは経験を通して形作られた「体系的知識」かのどちらかをとられる.「契機」は, 「自発」か, もしくは「強制」かのどちらかがとられる.こうした類型を用いて今日の占い師を捉えるならば, 「知識」と「自発」の両方の特徴をもつ占い師が顕著であることがわかる.では, なぜ, この類型の占い師が、今日, 顕著なのであろうか.この問題を, 本稿では社会構造の関係で分析する.
著者
白木 啓三 今田 育秀 佐川 寿栄子 緒方 甫 浅山 〓 森田 秀明
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.279-288, 1982-09-01

ヒトの上肢あるいは下肢が切断された時には, 体温調節の重要な役割を演じている体表の面積がかなり減少することになる. 体の一部分を喪失した患者の体温調節機序に特異性があるとすれば, リハビリテーション医学においても重要な関心事となる. 両股離断者(BHD)では夏期に著しい多汗を示すことが観察されていたが, 実証的に裏付けがなされていなかった. 2名のBHD(体表面積の40%喪失)を26℃, 30℃および33℃の人工気候室にて安静にせしめ各々の分割体熱測定を行った. 中性温域ではBHDの呼気からの水分喪失量は正常対照者より増加したが, 皮膚からのそれは低下した. 熱負荷(33℃)によりBHDの中心部体温および皮膚温は対照者よりも上昇し, このことが汗量の増加に関係することが実証された. BHDの体温調節は中性温域ではよく保持されるが, 温熱負荷により影響を受け易いことが判った. 更にBHDでは体表面積当りでは正常者より高い産熱があること, 体中心部から被殼部への熱伝達性が高いことおよび体熱放散が様式変化することが判明した.
著者
牧 孝 中野 正博 隼田 和明 森田 浩介
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.19-51, 1980

バナジウム(<sup>51</sup>V)による陽子の弾性・非弾性散乱の実験を, 陽子エネルギー5.700-5.962 MeVで行った. 励起関数については, 測定角度90°, 105°, 118°, 135°, 150°, 163°の6点を入射陽子エネルギーのステップ2 keVで測り, <sup>51</sup>Vの基底状態から第4励起状態までの陽子グループの励起関数を得た. 角度分布は50 keVステップで測定した. 得られた散乱断面積は陽子の入射エネルギーによって大きなゆらぎ現象を現わしている. 解析は統計理論に基づいて行った. エネルギー相関, 角度相関, チャンネル間相関, 確率分布, 分散の解析から平均準位巾 <i>&Gamma;</i> は2.0 keV, 複合核の寿命 <i>&tau;</i> は3.3×10<sup>-19</sup>秒, 核半径係数r<sub>o</sub>は1.1.8×10<sup>-13</sup>cm, 有効チャンネル数N<sub>eff</sub>は5-25, が導けた. 核反応機構は統計理論, Hauser-Feshbachの複合核理論や光学模型による計算, および角度分布の解析から, 断面積のうち直接反応過程からの寄与の割合が(p, p<sub>o</sub>)反応では90-95%, (p, p<sub>1</sub>), (p, p<sub>2</sub>)反応では60-80%, (p, p<sub>3</sub>), (p, p<sub>4</sub>) 反応では<u>~</u>0%であることが分った.
著者
三島 徳雄 藤井 潤 入江 正洋 久保田 進也 永田 頌史
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-9, 1995-03-01
被引用文献数
1

「心とからだの健康づくり(THP)」における健康測定の項目にストレス度チェックの質問項目(THP-SC)が含まれているが,十分に活用されているとは言い難い。そこで,GHQとの比較により有用性を検討した。THP-SCと60項目版GHQを含む質問票を作成し,某製造業事務系従業員261名(全員男性,平均43.7歳)を対象に検討した。GHQはGoldberg法により判定し,THP-SCでは全21項目中ストレス傾向を示す回答数を求め,度数分布の75パーセント点および90パーセント点を含む幾つかの仮の判定基準を設定した。GHQでカットオフ点以上の回答者は60項目版では有効回答243名中48名,12項目版では256名中77名であった。THP-SCの回答数は平均5.67±3.19であった。GHQとの比較では,THP-SCのA項目に含まれる質問で有意の関連を示した項目が多かった。GHQとの比較の結果,THP-SCのA項目単独では4以上,全項目では7以上がストレス状態を示す指標になると考えられた。
著者
スミス デレック レガット ピーター
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.137-150, 2005-06-01
被引用文献数
1

オーストラリアの産業医学は前世紀の後半に, 種々の社会的, 政治的, 経済的変化により整備されて来た.1970年代前半における製造業の全体的な減少と賃銀の増加の抑制が労働組合に, 職場環境のようなより広い社会的問題に注意を向けさせることとなった.オーストラリア社会の変化は, 反戦行動, 環境保護団体, 女性団体のようなこの時期におけるより広い社会的圧力に影響を受けた.産業医学に対する関心は1970年代に開始された正式な教育とともに次第に高まり, 第3次のコースの数は1980年代を通して急速に増加した.産業医学と労働者の補償制度は, 20世紀の後半期に同じように発展した.オーストラリアにおける職場環境と安全は, 自己管理の理論に基づいており, 雇用者, 労働組合, 政府機関からなる3部門モデルにより調整されている.我々の産業医学のレビューパート1において, 我々は1788年から1970年のオーストラリアの産業医学の発展の歴史について概説した.この論文パート2において, 我々は1970年から2000年のオーストラリアの産業医学の発展の歴史について述べた.
著者
曹 鵬宇 安次富 郁哉 韓 麗 岩政 琢 舟谷 文男
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, 2002-03-01

緒言:中国の労働者医療保障制度は地域差があり、また改革の途中にある。制度が未整備な地域も多い。これらの問題は医療保障制度を確立する上で早急に解決すべき重要課題である。我々は日本と中国の医療保障制度を比較し、同制度の改善施策の一資料として提示することを試みた。日中医療保障制度の問題点比較:中国の医療保障制度はすべての城鎮部労働者が保険加入者となり、その保険金は労使相方で定額を負担する仕組みとなっている。保険財源の基本医療保険基金は統一基金と被保険者ごとの個人口座で構成される。以下に日中医療保障制度の問題点を示した。1.中国医療保障制度の問題点:日本に比較して、(1)保険対象者が限定されている(2)保険種類が単一(3)給付内容が限定(4)CTなど特別な医療給付の場合は、給付申請を必要とする。申請には時間を要し、手続が複雑である。2,日本医療保障制度の問題点:中国に比較して、(1)保険から支払われる医療費に上限がないため、薬や検査をすればするほど利益が得られる(2)同一疾患に対する治療指針は、医師、医療機関によって異なり、診療費の不正請求などの問題が起こり得る(3)医療機関の提供サービスの質が異なるにもかかわらず全国一律の診療報酬が定められている。以上から、中国では早急に以下の問題点を解決すべき必要がある。1、「社会的な医療救済制度」の構築:財政負担能力の高い地域では、高度医療を必要とする疾病への救済基金を打ち立てること。2、「民間医療保険」併用の制度化:民間医原保険は公的医療保険「三つの制約」を補完するために、a.医療費の上限設定の緩和、b.医療内容の拡大、c.保険給付対象の拡大の3点を基本とする制度の導入が必要である。結語:中国では、新たな制度改革を開始したばかりであり、又、医療環境の未整備、地域間や都市と農村の大きな格差などの問題を抱えている。医療保障制度の完全な整備は困難ではあるが、直面する現実の問題を随時解決し、医療機関整備、薬品流通体制などを含めた総合的な改革を推進することによって、より公平で公正な医療保障制度を確立することが可能になるものと考えられる。
著者
阿南 あゆみ 竹山 ゆみ子 永松 有紀 金山 正子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.385-393, 2005-12-01
被引用文献数
3

本研究は, 児の主たる養育者である母親の対児感情に影響をおよぼす要因を明らかにすることを目的として, 産後入院中の母親185名に妊娠中の出産に対する希望の有無や, 出産時の「嬉しかった事」「嫌だった事」や出産時に感じた事などと対児感情との関連を, 無記名自記式質問紙調査として行った.データの統計的解析にはSPSS 12.0J for Windowsを使用し, 対児感情得点と設問項目の関連をマン・ホイットニーのU検定およびクラスカル・ワーリスの検定を行い解析した.その結果, 対児感情に影響をおよぼす要因は, キーパーソンの存在がいること, 妊娠中に具体的なバースプランを持つこと, 望まれた妊娠であること, 母親が納得のいく出産であることなどが明らかになった.今回の結果より, 思春期教育や受胎調節指導の重要性や, 母親を支えるサポート体制の確立, 出産をする場である医療機関における妊娠中から産後にかけての一貫した支援が重要であると考える.
著者
欅田 尚樹 法村 俊之 土屋 武彦
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.137-145, 1993-06-01

在阪の某製造業従業員を対象に1984年度がら1990年度健康診断時にTHI (Todai Health Index)質問票を用いて喫煙の健康に及ぼす影響を検討した。その結果,1)本事業所の男性従業員全体の平均年齢は37歳であり,喫煙率ば84年度(62.4%)から'89年度(57.2%)までに5%強,減少した。以下の解析は,飲酒の影響を除くために,全く酒を飲まない244名を除いた男性1260名の回答結果について行った。2)THI尺度得点では「呼吸器」,「消化器」,「循環器」,「生活不規則性」,「多愁訴」,「直情径行性」において喫煙により訴えの増加を認めた。3)THIの個々の質問項目としては,咳,痰,のどが痛む・詰った感じ,歯をみがくときの吐き気,食欲不振,胃痛,胸やけ,下痢,歯ぐきの色が悪い,口臭,まぶたが重い,皮膚が痒い,顔色が悪い,息切れ,動悸,体が熱っぽい,背中が痛む,早寝早起きでない,仕事がきつい,横になって休みたい,食事が不規則,イライラするなどの種々の訴えが喫煙により増加傾向を示した。予防医学の立場からもこれら身近な自覚症状に及ぼす喫煙の影響について,健康教育等でアピールしていく必要がある。
著者
山口 貴史 中嶋 大介 江副 優香 藤巻 秀和 嶋田 好孝 小澤 邦壽 嵐谷 奎一 後藤 純雄
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.13-27, 2006-03-01

本研究は新築住宅における室内空気中のVOCsの挙動を把握するため,木造一戸建て住宅および集合住宅を対象に,新築時から一年間,室内および屋外空気をパッシブサンプリング法を用いて毎月測定を行った.一戸建て住宅の初回の測定では,リビングルームにおいてn-hexane, n-undecane, toluene, ethylacetate, methylethylketone, alpha-pineneおよび(+)-limoneneの7物質が10ppb以上で検出され,その後,経時的に減少した.6月には,p-dichlorobenzeneが一時的に高濃度(320ppb)で検出され,その後また減少した.その原因は,6月に冬服から夏服への衣替えをする際,p-dichlorobenzeneを含んだ防虫剤を使用したことが推察された.一方,集合住宅においてはtoluene,1,2,4-trimethyl-benzene, methylethylketoneおよびalpha-pineneの4物質が10 ppb以上で検出された.中でもmethylethylketoneは,100ppb以上の高濃度で検出されたが,その後,やはり経時的に減少した.完成から同じ時期の新築住宅でも,住宅や住み方の違いによって,VOCs汚染物質の種類が異なることが示された.
著者
本多 正昭
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.431-433, 1987-12-01

池見教授が提唱される医学は, 優れて東洋的な身心一如の医学であり, それはいわば「地にいます母なる神」へと人間実存を全託せんとする医学であろう. ところで一如とは, 厳密には一元論を意味しない. 心と体へのアプローチの方法は明らがに異なる. それゆえ身心一如は単なる一元論でも二元論でもなく, 独特の不一不二的論理構造を有する. 東洋の気も, 単なる精神ではなく, 単なる物質でもなく, またその何れでもあるような宇宙的生命エネルギーであるとすれば, まさにこのような気の理こそ, 不一不二的な即の論理に外ならないであろう.(1987年7月24日 受付)
著者
田原 昭彦
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.33-43, 2000-03-01

血液透析は腎不全患者に多大な恩恵をもたらしているが, 一方では副作用が問題となっている.眼科領域では透析中に眼圧が上昇する症例があることが知られており, 血液透析が眼圧に及ぼす影響が論議されている.慢性腎不全で血液透析を受けている患者の透析中の眼圧, 血漿浸透圧, 血漿二酸化炭素分圧の変化を経時的に調べると, 血漿浸透圧は透析開始後徐々に低下する.眼圧は, 房水流出障害がない眼と房水流出障害がある眼とでは異なった変動を示す.房水流出障害がない眼では透析開始後眼圧に顕著な変化はないが, 房水流出障害がある眼では眼圧は徐々に上昇する.この時, 血漿浸透圧の変化率と眼圧の変化率との間には負の相関関係がある.房水流出障害があって血液透析中に眼圧が上昇する例に, 高浸透圧薬の点滴あるいは高ナトリウム透析を行って透析中の血漿浸透圧の低下を抑制すると眼圧は上昇しない.したがって, 血液透析中に眼圧は次のような機序で変動すると考えられる.通常の血液透析では血漿浸透圧は低下する.この時, 眼組織の浸透圧は, 血液眼関門が存在するため血漿浸透圧に遅れて低下する.その結果, 血液中から水分が眼内に流入するが, 房水流出障害がなければ房水が代償性に前房隅角から流出して眼圧は上昇しない.しかし, 房水流出障害が存在すれば, 房水流出による眼圧の調節ができず眼圧は上昇する.
著者
武 信昭 桐生 博愛
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.189-192, 1989-06-01
被引用文献数
2

75才男子, 24年間コークス炉作業に従事, 退職後15年経って右手背に腫瘤が出現した. ピッチアカントーマの臨床診断で腫瘤を切除し病理組織検査したところ, 一部に有練細胞癌の組織像が見られた. コークス炉では直接タールを扱うことはないが, 気化したタール成分に触れ, タールによる皮膚障害を起こしたと考えられる. 皮膚に付着したタールは入浴でも簡単には落ちず, 長期間にわたり発癌の危険があると考えなければならない. この症例は, 離職後もタール作業者の健康管理を続けていく必要性を示している.(1988年12月19日 受付, 1989年3月23日 受理)
著者
大江 慶治 八谷 百合子 高橋 有嘉子 織田 進 高原 和雄
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.279-288, 1992-12-01

産業医科大学医学部学生の1991年度定期健康診断の成績に重回帰分析を行い, 各種成人病のリスクファクターとしての肥満の意義について検討した. 【○!1】1979年から1991年までの医学部学生の肥満度の平均値は年毎に増加した. 【○!2】1991年度全員の成績で肥満度の増加が血清GPTの上昇に大きく関与することを示す成績が得られ, この所見は肥満者においてはより顕著であったが, 非肥満者では認められなかった. 【○!3】肥満度のGPT上昇への関与は, 過去常に肥満度10%を越す恒常肥満者においては認められたが, 10%内外を変動する変動肥満者では認められなかった. 【○!4】収縮期血圧には肥満度よりも赤血球数の関与が大であった. 【○!5】総コレステロールに対しては, 肥満度を含む代表的な11項目のいずれも特に関与する所見が得られず, 健診項目以外の何等かの指標の関与が疑われた. 以上の所見から, 学生の肥満は, 恒常的となった段階で肝機能障害の発生に大きく関与することが示唆された.(1992年2月5日 受付,1992年10月5日 受理)
著者
宋 裕姫 西野 精治
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.329-352, 2008-09-01

睡眠障害や睡眠不足は,肥満,糖尿病,高血圧などの生活習慣病,労働者のヒューマンエラー,交通事故,産業事故などを引き起こし,社会全体の経済損失は甚大なものになる.これらの問題を解決するために米国政府は1993年に睡眠に関連した事故による経済損失総額は年間5兆円あまりとした睡眠障害調査国家諮問委員会による報告書を発表した.その後,様々な国家的対策により睡眠センターの数や睡眠研究に対する研究費が増加するなどにより睡眠医学が発展した.日本においても睡眠障害に対する国家的対策が必要であるとして,日本学術会議が2002年に"睡眠学の創設と研究推進の提言"を報告した.このような状況の中で,米国における国家諮問委員会報告書をもとにした国家的な取り組みは,睡眠学を創設したばかりの日本にとって参考になる可能性がある.今回,この取り組みを総説としてまとめ考察を加え報告する.
著者
稲富 久人 濱崎 隆志 生山 俊弘 小野 誠之 原田 修治 日田 官 藤本 直浩 高橋 康一 松本 哲朗
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, 2002-03-01

【目的】膀胱癌の発がんには、職業、環境要因が大きな位置を占めている。職業性膀胱癌の歴史より、β-ナフチルアミン、ベンチジンなどのアリルアミンが膀胱発がん物質として明らかである。その代謝には、N-アセチルトランスフェラーゼ(以下NATと略す)が重要な働きを担っている。NATにはNAT1とNAT2の2つの遺伝子があり、多型が存在する。また、それぞれの遺伝子多型より、個体の代謝能を推定できる。そこで、NAT1およびNAT2遺伝子多型を分子生物学的に解析し、膀胱癌発がん素因との関連性について検討する。【対象と方法】膀胱癌患者98名、対照として健常人122名を対象とした。膀胱癌の組織学的は移行上皮癌であった。対象の末梢血液よりゲノムDNAを抽出し、PCR-RFLP法にて、NAT1,NAT2の遺伝子多型を検出した。【結果】NAT1遺伝子迅速型の頻度は、膀胱癌群においては75.5%と対照群における頻度62.3%に比べ、有意に高かった(オッズ比=1.87;95%信頼区間1.04-3.35)。NAT2遺伝子遅延型の頻度は、膀胱癌群においては18.4%と対照群における頻度5.7%に比べ、有意に高かった(オッズ比=3.69;95%信頼区間1.47-9.26)。NAT1とNAT2の遺伝子多型の相互の関連について検討すると、NAT1遺伝子迅速型でNAT2遺伝子遅延型の個体は、発がんの危険度がもっとも低いと推定されるNAT1遺伝子正常型でNAT2遺伝子迅速型の個体に比べ、危険度は8.19倍高かった。【考察】今回のわれわれの結果は、NAT2による代謝の遅い個体、NAT1の代謝の速い個体は、発がん感受性が高いことを意味し、その両者をもつ個体では相乗効果があることを示している。これはアリルアミンによる膀胱癌発がんの機序の仮説を裏づける結果となった。また、NAT1,NAT2の遺伝子多型が膀胱癌発がんの感受性マーカーとしての生体指標として利用できる可能性が示唆された。
著者
杉野 仁美 澤田 雄宇
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.379-383, 2022-12-01 (Released:2022-12-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

60歳女性.検診で実施した超音波検査で左乳房B領域に充実性腫瘤を指摘された.精査目的に前医クリニックを受診し,左乳房に存在する腫瘍に対する穿刺吸引細胞診でclassⅣと診断された.更なる精査ならびに加療を目的に当院外科へ紹介され,両側乳腺および腋窩リンパ節に対する超音波検査が実施された.検査翌日より左乳房,左腋窩,胸部に紅斑,丘疹が認められ,皮疹の加療目的に当院皮膚科を受診した.皮疹は超音波検査でゼリーが接触した部位に一致していたが,乳房の悪性腫瘍を念頭に精査が行われていたことから悪性腫瘍の皮膚転移を除外するために皮膚生検を行った.紅斑より採取した皮膚生検の病理組織学的検討では,真皮上層血管周囲にリンパ球ならびに好酸球主体の炎症細胞が浸潤し,表皮は海綿状態ならびに液状変性が認められた.超音波検査用ゼリーas is(そのまま貼付)のパッチテストで陽性を示し,ゼリーによる接触皮膚炎と診断した.皮疹の治療としてベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル軟膏の外用を開始し,皮疹は速やかに消退した.後日,再度超音波検査が施行された際には,ゼリーは検査後に速やかに取り除いたため皮疹の再燃はみられなかった.繰り返す超音波検査用ゼリーの使用は皮膚障害部位からの感作により接触皮膚炎を起こしうる.しかし本症例では,超音波検査を実施した後に皮膚に付着したゼリーを拭き取る際に配慮することで接触皮膚炎の発症を防ぐことは可能であった.
著者
古屋 義人 新宅 貴久栄 北 敏郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.49-52, 1979-03-01 (Released:2017-04-11)

Y, Z両血液型とも日本で発見された血液型である。日本人ではY型は22.37%,Z型は29.51%である。Y, Z両抗原ともMNSs血液型と密接な関係があるらしい。Y抗原, Z抗原はいずれも単純優性形質で, 家族調査の成績もこの考えに大体よく合う。