著者
平田 敬 蔵原 晃一 大城 由美 八板 弘樹 浦岡 尚平 吉田 雄一朗 和智 博信 松塲 瞳 山元 英崇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1103-1120, 2019-07-25

要旨●当科で病理組織学的に確定診断した十二指腸表在性上皮性腫瘍(NETを除く)52例54病変および腫瘍様病変18例18病変を対象として,その臨床的特徴を遡及的に検討した.上皮性腫瘍は粘液形質から腸型腫瘍17例17病変(腺腫15例,腺癌2例),胃腸混合型腫瘍8例8病変(腺腫5例,腺癌3例),胃型腫瘍27例29病変(腺腫12病変,NUMP 15病変,腺癌2病変)に分類された.腸型腫瘍および胃腸混合型腫瘍は25例中21例(84.0%)に白色化を伴っていた.胃型腫瘍の肉眼型はSMT様隆起が29病変中17病変(58.6%),0-I型が10病変(34.5%)であった.胃型腺腫およびNUMPの病変表面は過半数の症例で胃腺窩上皮様領域を面状に認めた.腫瘍様病変はBrunner腺過形成・過誤腫7例,腺窩上皮型過形成性ポリープ7例,Peutz-Jeghers型ポリープ4例が診断されていた.Brunner腺過形成・過誤腫7例中4例はSMT様の形態を呈し,5例は表層に胃腺窩上皮化生を伴っていた.十二指腸の内視鏡検査において,腸型腫瘍は白色化に着目することが病変の拾い上げに有用であるが,胃型腫瘍に関しては面状の胃腺窩上皮様領域を伴う孤在性の隆起に着目することが拾い上げ診断に有用な可能性がある.胃型腫瘍と胃型形質を呈する腫瘍様病変との内視鏡的鑑別は容易ではないが,ともに隆起の様相が目立つ病変が多いため術前生検による線維化の問題が少ないこと,加えて,術前生検の正診率も比較的高いことから,両者の鑑別には生検による病理組織学的な評価を組み合わせることが有用と考えた.
著者
辻 重継 中西 宏佳 津山 翔 片柳 和義 湊 宏 八尾 隆史 八尾 建史 土山 寿志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1121-1130, 2019-07-25

要旨●目的:表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)に関しては,内視鏡診断のみならず,病理組織学的診断についても明確な診断基準がない.今回は,低異型度高分化型上皮性腫瘍の細胞形質発現に基づく新たな病理組織学的診断アルゴリズムをgold standardとしてNBI併用拡大内視鏡(M-NBI)の診断能について検討した.方法:2008年10月〜2017年11月までに,生検未施行でM-NBIが実施され,内視鏡的切除が施行された34病変を対象とし,VSCSを用いたM-NBI診断能を後方視的に検討した.病理診断は低異型度高分化型上皮性腫瘍の細胞形質発現に基づく診断アルゴリズムに基づき,revised Vienna classificationでCategory 3(C3),Category 4(C4)に分類した.成績:C3 12病変vs C4 22病変であり,C4に対するM-NBIの診断能は,感度95.5%,特異度58.3%,正診率82.4%であった.しかし,M-NBIにてC3を癌と診断した限界病変が存在し,特に有茎性のC3 2病変においてはいずれもM-NBIにて癌と誤診した.有茎性病変を除いたM-NBIの診断能は,感度95.5%,特異度70.0%,正診率87.5%であった.結論:VSCSを用いたM-NBIは,SNADETの質的診断におけるoptical biopsyとして有用である可能性がある.しかし,内視鏡診断と病理組織学的診断の乖離例が存在し,今後より多数の症例を集積したうえでのさらなる検討が必要である.

2 0 0 0 胃梅毒

著者
堺 勇二 池田 憲治 上野 景子 小野 広幸 前田 和弘 田邉 寛 岩下 明德
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1628-1631, 2019-11-25

疾患の概念と最近の動向 梅毒は代表的な性感染症の一つであり,多彩な皮膚病変がみられるが,まれながら消化管病変を生じることがある.消化管では胃に最も多いとされ1),消化管梅毒の本邦文献でみると,過去50年間では胃197例,大腸34例(31例が直腸),小腸3例,などの報告がある. 梅毒は主に性的接触によるT. pallidum(Treponema pallidum)の陰部などへの感染から発症する.10〜90日の潜伏期を経て,感染局所に初期硬結,硬性下疳などの一次病変を形成する(第1期).その後血行性に全身に撒布され,ばら疹などの多彩な皮膚病変や臓器梅毒などの二次病変を生じる(第2期).以後は潜伏梅毒を経て慢性に経過し,ごく一部は年余を経て第3期梅毒(晩期梅毒:心血管梅毒,ゴム腫など)に進展する2).胃梅毒の報告例の多くは第2期のものであり,胃梅毒は,血行性に全身に撒布された菌体とその代謝産物に対する血管アレルギーにより,梅毒性皮疹と同様の機序で形成された胃粘膜疹と推測されている3).
著者
海崎 泰治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.689, 2017-05-24

定義 簇出(ぞくしゅつ,そうしゅつ)は組織学的な腫瘍の浸潤様式を表現する用語のひとつで,2010年の「大腸癌治療ガイドライン」1)において“癌発育先進部間質に浸潤性に存在する単個または5個未満の構成細胞から成る癌胞巣”と定義されている(Fig. 1).現在では,大腸癌内視鏡治療後の追加手術の必要性を検討するうえでの重要な病理組織学的因子であることが示されている. “簇出”の用語の起源は1950年代に今井2)により提唱された.癌腫の発育様式のひとつとして簇出発育型が定義され,癌胞巣先端部における蕾状芽出像または個細胞性離脱像のほか,硬性(スキルス)癌のようなびまん浸潤像までの広い所見を指し,英語表記としては“sprouting”が用いられた.その後,現在の定義とほぼ一致した所見を指す概念として,“tumor budding”が提唱され,大腸進行癌症例においてリンパ管侵襲やリンパ節転移と相関し,リンパ管侵襲よりも発見しやすい所見であることが示された.しかし,それらの研究で用いられた簇出の定義や評価方法にはあいまいな要素を含んでいたため,大腸癌研究会のプロジェクト研究3)により“簇出”の厳密な定義をしたうえで,粘膜下層浸潤癌(SM癌)におけるリンパ節転移危険因子としての臨床的意義が検討された.その結果,簇出軽度(Grade 1)群(リンパ節転移6.7%と簇出高度(Grade 2/3)群(26.9%)の比較で両者に有意な差を認め,多変量解析では簇出が独立したリンパ節転移の危険因子であることが示された.
著者
長浜 孝 小島 俊樹 中馬 健太 八尾 建史 田邉 寛 原岡 誠司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1252-1259, 2018-08-25

要旨●通常内視鏡像で早期胃癌に認められる伸展不良所見の成り立ちについて概説した.T1a〜T1b1は胃壁強伸展下では非腫瘍粘膜と同様に伸展性が保たれた(伸展良好)癌である.早期胃癌で伸展不良所見を認める代表的な病態は,粘膜下層(SM)深部に大量に浸潤した癌(T1b2)と潰瘍(瘢痕)を合併した癌〔T1a,UL1,T1b,UL1〕,の2つである.T1b2は,癌細胞塊,炎症細胞浸潤,癌性線維症が原因となり,領域性のある塊状の肥厚と硬化を来す.内視鏡で送気し胃壁を強く伸展させると,SM浸潤部の伸展不良が原因となり,非浸潤部との伸展性の差により台状挙上所見が出現する.一方,T1a〜T1b1においても潰瘍(瘢痕)を合併すると,粘膜下層の線維化が主な原因となり肥厚と硬化を来し,ひだ集中像を代表する伸展不良所見が出現する.しかし,線維化の形状は明瞭な領域性に乏しいため,胃壁強伸展下では集中ひだは瘢痕中心部一点に集中し,走行は直線的で挙上を伴わない,すなわち台状挙上所見は陰性である.
著者
鯉沼 広治 冨樫 一智 小西 文雄 岡田 真樹 永井 秀雄 斉藤 建 柴崎 淳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.356-360, 2004-03-25

要旨 患者は51歳,男性.便潜血反応陽性.大腸内視鏡検査にて,S状結腸に深い陥凹を有する約10mmのIIa+IIc型病変が認められた.拡大観察では,陥凹面はIIILおよびIIIs型pitで占められ,生検部位でVI pitが認められた.粘膜内病変と判断し内視鏡的粘膜切除を施行した.病理学的には高度異型腺腫を伴う高分化型腺癌で,陥凹部で粘膜下層側へ深く侵入する像が認められた.腫瘍腺管は粘膜筋板を押し下げるように発育し,先進部においても部分的に粘膜筋板が認められた.先進部周囲の間質は粘膜内のものと同様であり,desmoplastic reactionを伴っていなかった.以上より,本病変はinverted growthにより深い陥凹を示したが,本質的にはそのほとんどが粘膜内の病変と考えられた.
著者
鴫田 賢次郎 青山 大輝
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.784-785, 2021-05-24

大腸憩室出血の部位同定 大腸憩室出血の内視鏡診断には,SRH(stigmata of recent hemorrhage)を捉えることが必要である(Fig.1).SRHとは活動性出血,非出血性露出血管,除去によって活動性出血もしくは露出血管を伴う凝血塊付着などの所見を指す.憩室出血は間欠的な動脈出血を来すという疾患特性から,特に自然止血後に膨大な数の憩室の中から責任憩室を見つけ出すのは容易ではない.SRH同定率を上げるためには,内視鏡検査を行うタイミングや検査時の工夫,経口洗浄剤による前処置,造影CT併用など個々のケースに見合った選択をする必要がある.
著者
九嶋 亮治 葛原 正樹 馬場 正道 服部 行紀 松原 亜季子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1481-1491, 2015-11-25

要旨●胃底腺型胃癌は胃底腺粘膜に発生する主に低異型度な分化型腫瘍で主細胞への分化が明瞭なものを指す.この腫瘍の臨床病理学的特徴を深く理解することを目的として,胃底腺粘膜の増殖・分化と化生,また,同じ胃底腺粘膜に発生する腫瘍様病変と低異型度腫瘍の病理学的特徴について解説する.胃底腺細胞は腺頸部より表層の腺窩上皮,深部方向の頸部粘液細胞,壁細胞,主細胞と内分泌細胞から構成される.頸部粘液細胞は主細胞の前駆細胞である.化生としては偽幽門腺化生,幽門腺化生と完全型腸上皮化生が発生する.これらの正常・化生組織を基盤として,腫瘍様病変としては腺窩上皮型過形成性ポリープ,胃底腺ポリープ,過誤腫性内反性ポリープ(粘膜下異所性胃腺)が,低異型度腫瘍としては腺窩上皮型腫瘍,胃底腺ポリープに伴う腺窩上皮型腫瘍,胃型腺腫(幽門腺腺腫),カルチノイドと低異型度小腸型腺癌が発生し,実際的あるいは概念的に胃底腺型胃癌の鑑別診断の対象となりうる.
著者
佐藤 洋一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1920-1926, 2012-12-25

要旨 結腸は系統発生的にみて,哺乳動物になってから食物残渣を固形化するために発達・分化した区域で,種による差が大きい.ヒトの右側に位置する近位結腸と左側に位置する遠位結腸では,発生(中腸vs.後腸),血管支配(上腸間膜動脈vs.下腸間膜動脈),神経分布(交感神経:胸髄vs.腰髄,副交感神経:延髄vs.仙髄),生理機能(ゆっくりした動き,食物残渣の固形化vs.短時間に糞塊を送る),上皮細胞(杯細胞の粘液性状,Paneth細胞の存否など)に関して差異が認められる.その境界は横行結腸にあると言われているが,明瞭なものの線引きはできないし,またそれぞれの要素で想定されている境界が一致するかどうかも検証されていない.横行結腸は右あるいは左の結腸のいずれかに帰属させることはできないと思われる.
著者
川口 実
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.610, 2017-05-24

定義 “白色扁平隆起”は筆者ら1)が2007年に報告したもので,その通常内視鏡所見の特徴は,①白色,②扁平隆起,③多発性,④胃体部に認める,⑤周囲粘膜に萎縮がない,などである(Fig. 1,2).病理組織学的特徴は,①腺窩上皮の過形成,②胃底腺萎縮,③炎症細胞浸潤は軽度で,単核球主体などである(Fig. 3). その後,春間ら2)が多数例を検討し,“多発性白色扁平隆起(春間・川口病変)”として報告している.
著者
由雄 敏之 堀江 義政 青山 和玄 吉水 祥一 堀内 裕介 石山 晃世志 平澤 俊明 土田 知宏 藤崎 順子 多田 智裕
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.385-391, 2019-03-25

要旨●食道癌は進行癌として診断されると予後が悪く,早期診断が重要である.近年,人工知能(AI)はディープラーニングを用いることにより医療の分野で非常に進歩した.筆者らは食道癌拾い上げ診断におけるAIの診断能を検証した.8,428枚の食道癌の内視鏡画像を用いてAIを教育し,別に準備した1,118枚の画像で検証した.AIは食道癌症例の98%を驚くほどの速さで検出することができ,10mm未満の7病変もすべて検出した.また98%の画像で表在癌と進行癌を判断することができた.偽陽性が多い,拡大観察については十分に検討されていないなどまだ課題はあるが,AI画像診断支援システムの臨床応用の可能性が示唆された.
著者
上小鶴 孝二 福永 健 松本 誉之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2016-2021, 2011-12-25

要旨 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の治療は免疫統御療法や抗TNF-α療法の保険適用など大きな飛躍を遂げた.白血球系細胞除去療法(cytapheresis ; CAP)も,2010年には,UCに対して,週における治療スケジュールの回数制限がなくなり,CAPのintensive therapyが可能となった.当院の検討でも,GMA,LCAPとも副作用なく,週1回法と同程度の割合の寛解導入がより速やかに可能であった.CAPのintensive療法は安全に効果を出すことが可能であるので,適用症例には積極的に行うべきと考える.
著者
岩下 明徳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.424, 1996-02-26

消化管壁の全層,すなわち粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜(外膜)のすべての層にわたる炎症を全層性炎症と言う.この言葉は,炎症性腸疾患inflammatory bowel disease(IBD)と総称されるCrohn病(特に大腸Crohn病)と潰瘍性大腸炎の病理組織像の差異を表現する際によく使用される.例えば,Crohn病の炎症反応はリンパ球集簇を主とする全層性炎症を特徴とし,潰瘍性大腸炎のそれは,急性電撃型を除き,粘膜と粘膜下層に限局する表層性炎症(superficial inflammation)を特徴とするごとくである. 大腸Crohn病は上述したように全層性炎症を示すので全層性大腸炎(transmural colitis)とも呼ばれる.なお,全層性炎症のみられる他の腸疾患として,腸結核,単純性潰瘍,腸型Behçet病,虚血性腸炎などが挙げられる.一方,主として粘膜と粘膜下層に限局する表層性炎症を示す腸疾患には非特異性多発性小腸潰瘍症がある.
著者
清水 誠治 富岡 秀夫 小木曽 聖 石田 英和 眞嵜 武 池田 京平 上島 浩一 横溝 千尋 高島 英隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.423-430, 2018-04-25

要旨●ヒト腸管スピロヘータ症(human intestinal spirochetosis;HIS)の自験例43例について臨床的検討を行った.41例は生検組織またはEMR標本のHE染色で偽刷子縁の所見により,2例は内視鏡検査時に吸引した腸液の直接塗抹で診断された.症状の有無別では無症状例が31例,有症状例が12例であった.生検は主にポリープやびらんから採取され,組織診断は低異型度管状腺腫13例,過形成性ポリープ8例,炎症性変化7例,過形成性結節4例であった.有症状12例中9例は他の疾患が判明し,3例はアメーバ性大腸炎を合併していた.他の原因疾患がみられなかった3例の内視鏡所見は,右側結腸を中心とした半月ひだの浮腫と発赤であった.その内2例では慢性下痢がみられており,腸液の直接塗抹でHISと診断され,遺伝子解析でBrachyspira pilosicoli(BP)が同定された.抗菌薬による治療は1例で行われたのみで,他の症例は無治療で症状が改善していた.HISについての文献的考察を行った.
著者
久部 高司 松井 敏幸 二宮 風夫 佐藤 祐邦 大門 裕貴 武田 輝之 長浜 孝 高木 靖寛 平井 郁仁 八尾 建史 東 大二郎 二見 喜太郎 岩下 明德
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.471-478, 2013-04-25

要旨 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)にも小腸病変が存在することが明らかとなってきたが,その病態については不明である.今回,小腸用カプセル内視鏡を施行した活動期UC 30例,大腸全摘出後11例の内視鏡所見および臨床所見について検討した.小腸病変(浮腫,潰瘍)は41例中15例(36.6%)に認められ,このうち小腸の広範囲に多数存在する潰瘍は6例だった.小腸の広範囲に多数存在する潰瘍6例と,それ以外の35例の臨床背景の比較検討では,潰瘍を有する群では検査時平均年齢24.8±10.8歳,発症時平均年齢20.8±8.7歳と有意に若く(p<0.05),病型は6例とも全大腸炎型または回腸囊炎であり,有意に高い頻度だった(p<0.05).経過観察できた3例は全例小腸病変が消失し,うち2例はプレドニゾロンによる治療で比較的速やかに病変が消失した.さらに,6例のうち4例に上部消化管病変を伴っていたことはUCとの関連を示唆する所見と考えられた.今後,さらにUCにおける小腸病変の臨床的意義について詳細に検討する必要がある.
著者
鎌田 智有 塩谷 昭子
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.854, 2012-05-24

シドニー分類は,1990年にオーストラリアのシドニーで開催された第9回世界消化器病学会で提唱された胃炎の国際的表記法1)である.これまでの胃炎分類を基盤として,さらにHelicobacter pylori(HP)感染を主体とした胃炎診断であり,histological division(組織学的部門)とendoscopic division(内視鏡部門)の2部門から構成されている(Fig. 1)2). 組織学部門 組織学部門では,etiology(成因),topography(局在),morphology(形態)の3項目に分類され,病因としては,HP,自己免疫性,薬剤性,特発性,感染性などが挙げられている.局在として,幽門部胃炎,体部胃炎,汎胃炎に分類され,形態学的には,炎症(単核球浸潤),活動性(好中球浸潤),萎縮,腸上皮化生,HPの5項目を診断し,さらにこれらの程度をnone(なし),mild(軽度),moderate(中等度),severe(高度)の4段階で評価する.さらに1996年,組織学的所見についてはThe undated Sydney System3)として改訂されている.主な改訂点は,胃内の5点生検(前庭部小彎,前庭部大彎,胃角部小彎,胃体部小彎,胃体部大彎)を行い,先の5項目について定量化することにある.
著者
内藤 裕二 落合 淳 吉川 敏一
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.35, no.10, pp.1233-1238, 2000-09-25

要旨 食道アカラシアは食道体部一次蠕動波の消失,下部食道括約筋の弛緩障害を特徴とする機能的疾患である.末梢神経には抑制性の非アドレナリン非コリン(NANC)作動性神経が存在し,一酸化窒素(NO),血管作動性腸管ペプチド(VIP),カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)がNANC作動性神経のneurotransmitterとして筋弛緩や蠕動運動に関わっている.L-arginineからnNOS(神経型NO合成酵素)により合成されたNOは,直接平滑筋細胞に作用してcGMPを産生し平滑筋弛緩させ,VIPはVIPレセプターと結合してNOSを活性化し,あるいはcAMPを産生し筋弛緩を起こす.CGRPの作用機序についてはいまだ不明である.食道アカラシア症例において,nNOS含有神経細胞の減少が観察されており,NO pathwayの解明は新規治療法につながる可能性がある.
著者
平井 郁仁 高田 康道 佐藤 祐邦 高橋 晴彦 矢野 豊 高津 典孝 松井 敏幸 今村 健太郎 池田 圭祐 岩下 明德 宮岡 正喜
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.345-357, 2014-03-25

要旨 当科において診療したCrohn病(CD),潰瘍性大腸炎(UC),Behçet病患者(BD)を対象とし,生検および手術標本における病理組織学的所見の結果から,二次性アミロイドーシス(SA)合併の有無を検討した.CDに関してはデータベースを用いて患者数,臨床像,臨床経過および長期予後について解析し,さらにSA合併症例の詳細とSAの合併有無別の比較検討を加えた.IBD患者におけるSA合併率は1.1%(CD : 1.6%,UC : 0.3%,BD : 3.4%)であった.CD症例においては,(1) 診断では十二指腸病変の認識と生検が有用であること,(2) SA合併率は1.6%で,近年やや下降傾向であること,(3) 累積生存率はSA診断後50か月で79.5%,131か月で53.0%と生命予後が不良であること,(4) SA合併例は悪性疾患の既往の頻度が15.4%で非合併例より有意に高かったことが明らかとなった.
著者
齊藤 治 小島 敬史 寺西 務 中川 憲 萱澤 正伸 南里 昌史 江頭 由太郎 平田 一郎 勝 健一
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.1307-1312, 1999-09-25

要旨 患者は29歳の女性.1985年(14歳時)に下痢が出現.1986年に発熱,関節炎が出現し,大腸型のCrohn病と診断された.その後,steroid,salazosulfapyridineなどで治療されていたが,入退院を繰り返した.1993年5月には上行結腸の狭窄のため結腸唖全摘術を施行した.その後,salazosulfapyridineで治療されていたが,1997年2月には発熱,貧血,低蛋白血症で入院.腸管狭窄(回腸S状結腸吻合部およびその口側の回腸)のため回腸,S状結腸の部分切除術を施行した.1998年8月には貧血,低蛋白血症で入院.大量の蛋白尿を認め,ネフローゼ症候群を呈していた.腎生検の結果,アミロイド(AA型)の沈着を認めた.
著者
赤松 泰次 北原 桂 白川 晴章 市川 真也 長屋 匡信 須藤 貴森 武田 龍太郎 竹中 一弘 太田 浩良 宮林 秀晴 田中 榮司
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.805-812, 2009-04-25

要旨 当科で診断した胃MALTリンパ腫98例の内視鏡所見を検討した.胃MALTリンパ腫の内視鏡所見は,早期胃癌(IIc)類似型,胃炎類似型,隆起型の3群に大別できた.早期胃癌類似型と早期胃癌の鑑別のポイントは① 正常粘膜との境界が不明瞭,② 蚕食像がないか,あってもごく一部,③ 陥凹内に粘膜模様が観察される,④ 病変が多発することが多い,の4点であった.胃炎類似型はさらに,びらん・潰瘍型,色調変化型,顆粒・結節型に細分類され,びらん性胃炎,急性胃粘膜病変,消化性潰瘍,萎縮性胃炎,鳥肌状胃炎などとの鑑別が必要である.一方,隆起型は,表面にびらんや潰瘍を伴い,形状も不整であることから間葉系腫瘍との鑑別は容易であるが,IIa型早期胃癌や形質細胞腫との鑑別が問題となる.早期胃癌類似型は胃炎類似型に比べて,壁深達度がSM以深の症例が多く(p<0.01),Helicobacter pylori感染を認めない症例の割合が高かった(p<0.01).