著者
門田 新一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.554-563, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
40
被引用文献数
8

目的 生活習慣病の予防は,学校健康教育の現代的課題としてその重要性が指摘されている。そこで,大学生の生活習慣病に関する意識,知識,行動について調査し,その実態を明らかにして,学校健康教育の在り方を検討する際の基礎資料にする。方法 某国立大学の学生783人を対象に,質問紙法による無記名式で調査した。調査内容は,生活習慣病に関する予防態度,関心,不安,知識,健康行動・意識である。無回答の項目がある者を除いた736人(男子367人,女子369人)を分析対象とし,性別比較,および,予防態度と関心・不安,健康行動・意識との関連について検討した。成績 生活習慣病の予防態度では,喫煙と飲酒では積極的態度をとっている者が70~85%みられたが,食生活と運動・スポーツでは少なかった。 生活習慣病の定義をよく知っている者は75%程度みられたが,学習意欲がある者や情報収集をしている者は少なく,生活習慣病への不安のある者も少なかった。 定期健康診断の受診意欲はほとんどの者が持っているが,当該年度に受診しなかった者が10.6%みられた。 主要死因,食塩の過剰摂取,肥満,糖尿病,高コレステロール血症,大腸がんに関する知識の正答率は21~97%と差が大きかった。 健康行動では朝食欠食や運動不足の者が30~60%とみられたが,喫煙しない者は90%と多くなっていた。健康意識では健康の自己評価の低い者や目覚めの良くない者が10~35%みられた。 性別比較では,予防態度,関心,受診状況,知識,健康行動・意識ともにかなり差がみられた。運動・スポーツで男子に実施している者が多かったが,それ以外の項目では女子に意識,関心が高く,知識の正答率も高くなっていた。また,女子に健康的な行動をとっている者が多くなっていた。 生活習慣病の予防態度と関心,受診状況,健康行動・意識には関連のみられるものが多かった。予防に積極的態度のみられる者は関心も高く,健康的な行動とっている者や健康意識の高い者が多くなっていた。結論 大学生の生活習慣病に関する意識,知識,行動についてみると,予防態度はあまり積極的ではなく,関心も低かった。また,知識も不十分で,受診状況,健康行動・意識にも問題がみられた。これらのことから,大学での健康教育の推進は言うまでもなく,小,中,高等学校における健康教育の一層の充実が必要であると考えられた。
著者
藺牟田 洋美 安村 誠司 阿彦 忠之 深尾 彰
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.483-496, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
51
被引用文献数
3

目的 寝たきり予防を積極的に推進するため,在宅高齢者における自立度の 1 年後の変化と自立(ランク J)と準寝たきり(ランク A)の高齢者の自立度の改善・維持と悪化の予測因子の相違を初回調査の身体・心理・社会的側面から総合的に検討した。方法 1997年に山形県内の65歳以上の高齢者に個別面接調査を実施した。1998年,同一の対象者に追跡調査を実施した。自立度の基準とした「障害老人のための自立度判定基準」(以下,判定基準)の自己評価と他者評価が一致した165人(ランク J:自立112人,ランク A:準寝たきり53人)を分析対象とした。調査項目は判定基準のほか,身体・心理・社会的項目20項目であった。なお,予測因子の分析では自立,準寝たきりともに改善・維持,悪化の 2 群に分類して検討した。成績 1. 1997年の自立度別にみた 1 年後の転帰:死亡は自立が0.9%,準寝たきりが7.6%であった。女性,または75歳以上である場合,自立度が低下するほど,死亡者は多かった。 2. 自立度別にみた 1 年後の自立度の変化:自立高齢者の23.1%で自立度が悪化した。準寝たきりで自立度が改善した者は35.4%,悪化した者は14.6%であった。性・年齢階級による自立度変化への影響は認められなかった。 3. 自立高齢者の自立度変化の予測因子:身体的項目では,過去 1 年間の入院あり,心理的項目では自己効力感が低いこと,主観的健康感が悪いこと,社会的項目では老研式活動能力指標得点が低いことが自立度低下と関連していた。 4. 準寝たきりの自立度変化の予測因子:身体的項目では排尿が要介助であること,心理的項目では自己効力感の得点が低いことが自立度の悪化に関連していた。結論 在宅高齢者では,自立度の悪化にともない,女性,または後期高齢者の場合,1 年後死亡になりやすいことが示された。また,1 年後の自立度変化では,準寝たきりで自立に改善した者が,寝たきりに悪化した者よりも多かった。在宅高齢者の 1 年後の自立度は可逆的であることが示された。 自立,準寝たきりともに自立度の悪化と心理的項目の自己効力感が結びついていることが明らかとなった。簡単な掃除など身の回りの行動に対して自信が持てないことを意味する自己効力感が低いことが,自立・準寝たきり高齢者の 1 年後の自立度を予測する上で極めて有効であることが明らかになった。
著者
佐方 信夫 奥村 泰之 白川 泰之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.303-310, 2017 (Released:2017-09-09)
参考文献数
21

目的 本研究では急性期病院を退院した後期高齢者の経済状況と退院先の関連を明らかにすることを目的とした。方法 本研究は,厚生労働省の老人保健健康増進等事業として実施された調査の情報を二次利用することで,症例対照研究を実施した。調査では関東圏,関西圏の全急性期病院(1,092病院)に調査票の回答協力依頼が行われた。病院の退院調整を担当する職員に,退院先が自宅の者(以下,自宅退院)を直近2人分,退院先が自宅と異なる者(以下,施設入所等)の直近2人分について,調査票の回答が依頼された。調査票では経済状況を把握する項目として,「1か月に負担可能な金額」が質問された。この調査票の回答を自宅退院群と施設入所等群に分けて,患者背景を示す項目について記述統計量を求めた。また,従属変数を自宅退院,主な独立変数を経済状況として,自宅退院と施設入所等を医療機関でマッチングした条件付ロジスティック回帰分析を実施し,オッズ比と95%信頼区間を求めた。さらに,施設入所等群については経済状況別に退院先を集計し,退院先の施設類型に違いがあるかについて検討した。結果 本研究の適格基準を満たした解析対象は565人(自宅退院293人,施設入所等272人)であった。条件付ロジスティック回帰分析の結果,自宅退院のオッズは,1か月に10万円以上~15万円未満負担可能な人と比べ,15万円以上負担可能な人では70%低いこと(OR: 0.29, 95% CI: 0.12-0.69),10万円未満の人では6倍高いこと(OR: 6.48, 95% CI: 2.50-16.79)が示された。また,施設入所等群のうち,1か月に負担可能な額が15万円以上の人では,介護付き有料老人ホームを選ぶ人が最も多く,10万円未満の人では特別養護老人ホームを選ぶ人が最も多かった。結論 急性期病院からの後期高齢者の退院において,毎月負担可能な金額が少ない患者ほど自宅退院する可能性が高いことが示された。経済的にゆとりがないために自宅退院を選択している可能性が示唆されているため,国や地方自治体は,高齢者施設の確保や自宅での療養,介護,生活を支えるサービスの拡充を検討する必要がある。
著者
中野 匡子 金成 由美子 角田 正史 紺野 信弘 福島 匡昭
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.535-543, 2002-06-15
参考文献数
16

<b>目的</b> 医学教育の中で地域指向型教育の重要性が指摘されている。我々は,医学部 4 年生の公衆衛生学実習において,小人数グループでの地域指向型教育を 3 年間実施し,実習の教育的効果の評価を試み,今後の実習の方向性を検討した。<br/><b>方法</b> 1. 実習の概要:医学部 4 年生(70~80人)は小人数(2~3 人)グループに分かれ,福島市周辺の保健・医療・福祉・教育等関連施設で週 1 回(約 4 時間),計 3 回実習した。学生は施設の事業に参加し,体験実習の中から,解決すべき健康問題を把握し,施設の取り組みと今後の課題を検討した。施設実習後,学生は,報告会を行い,グループごとの報告書と,個別の自由記載の感想文を提出した。<br/> 2. 評価:平成11年度 4 年生73人(男42人,女31人,平均年齢23.6歳)について,実習の教育効果の評価を行った。1) 報告書の中で学生が挙げた「解決すべき健康問題」と,自由記載の個別の感想文を分類し,実習目的の理解度をみた。2) 社会意識の測定方法である ATSIM (Attitudes Toward Social Issues in Medicine)質問表を用い,実習前後の得点の変化を検討した。ATSIM 質問表は 7 群(社会因子,医療関係者間の協力,予防医学の役割,医師-患者関係,政府の役割,進歩対保守主義,社会への奉仕に対する意識)から構成され,得点が高いほど社会意識が高いと評価される。<br/><b>結果および考察</b><br/> 1. 報告書の中で取り上げられた健康問題は,精神障害者の社会復帰のための環境整備,難病患者の在宅支援,学校での養護教諭と担任らの連携,知的障害児の地域生活のための環境整備などであった。また,個別の感想文においては「現場を体験・実感できた(73人中60人,82.1%)」,「医師として地域の人々や施設とどう関わるか考えることができた(26人,35.6%)」,「予防の必要性に気づいた(4 人,5.5%)」,「回数の増加を望む(5 人,6.8%)」等の意見がみられた。<br/> 2. ATSIM の得点は,7 つの群の各々および総計の平均点に,実習前後で有意な差はみられなかった。<br/><b>まとめ</b> 学生は施設での体験の中から地域の健康問題を把握した。個別の感想文では実習の意図を理解し実習に肯定的なものもみられた。ATSIM 質問表で測った社会意識には,実習の前後で有意な変化はみられなかった。今後,施設の選定,実習時間,学内での討論方法,評価法などに修正を加え,「公衆衛生の精神を体得した」医師養成のために,より有効な教育形態としていきたい。
著者
曽我部 夏子 丸山 里枝子 中村 房子 土屋 律子 井上 美津子 五関-曽根 正江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.641-648, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的 乳幼児期の栄養摂取は,個々の子どもの成長•発達段階に合わせて適切に対応することが大切である。そこで,今回,乳幼児期の食生活状況について,乳歯萌出状況と調理形態•調理方法などとの関連について検討を行った。方法 東京都 K 区保健所および各保健センターにおいて,1 歳 2 か月児歯科健診を受診した455人に,歯科医師による歯科健診と保護者への自記式調査票を用いて,離乳食の開始時期,離乳食の進行の目安,現在の食事の調理形態などについて調査を行った。記入漏れがあった18人および在胎期間が36週未満の出生児17人を除く420人を解析対象とした。結果 離乳食の開始時期は,生後 5, 6 か月齢頃が81.4%と最も多く,離乳の進め方の目安は,「月齢」と回答した者が最も多かった(71.2%)。乳歯萌出状況により,前歯上下 8 本(乳中切歯 4 本と乳側切歯 4 本)が生え揃っていない段階(ステージI:27.4%),前歯上下 8 本が全て生え揃っているが奥歯(第一乳臼歯)がまだ生え揃っていない段階(ステージII:61.9%),奥歯(第一乳臼歯)が上下 4 本すべて生え揃っている段階(ステージIII:10.7%)の 3 段階に分類した。「おかずの固さの目安」は,ステージI,II,IIIすべてにおいて「歯ぐきでかみつぶせる」がそれぞれ53.5%, 54.4%, 40.0%と最も多かったが,まだ第一乳臼歯 4 本が生え揃っていないステージI,IIにおいて,「奥歯でかみつぶせる」と回答した者が,それぞれ14.0%, 15.1%も認められた。さらに,「大人と同じ固さ」と答えた割合が,ステージI,II,IIIで,それぞれ7.0%, 9.7%, 24.4%であった。また,調理の味付け(塩味,しょうゆ味)については,「大人と同じ」と答えた割合がステージI,II,IIIで,それぞれ13.2%, 17.3%, 22.2%であった。結論 今回の調査結果により,乳歯萌出状況は個人差が大きく,個々の口腔の発達段階•咀嚼機能を把握せずに,調理形態•調理方法が進められていることが推察され,今後の食育支援の必要性が示された。
著者
勝田 早希 福島 若葉 近藤 亨子 松永 一朗 撫井 賀代 廣田 良夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.447-456, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
26

目的 基本健康診査による健診情報を活用し,都市部住民における喫煙習慣と生活習慣病の関連を検討する。方法 複数年度の健診情報を連結した縦断研究である。2001年度に大阪市全24区の保健センター(現:保健福祉センター)で基本健康診査を受診した63,704人のうち,年齢40~74歳であり,医療機関で疾病治療中でない者を抽出した。さらに,当該年度の健診情報に基づき,以下のいずれかの項目に該当する者を除外した。(1)Body Mass Index≧25 kg/m2,(2)空腹時血糖≧126 mg/dl または随時血糖≧200 mg/dl,(3)HDL コレステロール<40 mg/dl または non-HDL コレステロール≧170 mg/dl,(4)収縮期血圧≧140 mmHg または拡張期血圧≧90 mmHg,(5)問診票の既往歴欄で,「糖尿病•脂質異常症•高血圧•脳卒中•心筋梗塞•狭心症•その他の心臓病」のいずれかについて既往「あり」と回答。曝露要因は,2001年度の健診受診時の喫煙状況,1 日の喫煙本数,Brinkman Index である。結果指標は,2004年度あるいは2005年度の基本健康診査情報(保健福祉センター実施分)に基づき,新規に確認された(a)肥満,(b)糖尿病,(c)脂質異常症,(d)高血圧,とした。解析には多重ロジスティック回帰モデルを用いた。結果 2001年度の健診情報に基づき定義した対象者15,639人のうち,2004年度あるいは2005年度に健診を受診し,各結果指標の有無を追跡できた者は,肥満:9,327人,糖尿病:9,273人,脂質異常症:9,273人,高血圧:9,323人であった(追跡率:約60%)。(a)肥満:喫煙状況,1 日の喫煙本数,Brinkman Index について有意な正の関連を認めた。(b)糖尿病:男性でのみ,喫煙状況と Brinkman Index について有意な正の関連を認めた。(c)脂質異常症:喫煙状況,1 日の喫煙本数,Brinkman Index について有意な正の関連を認めた。(d)高血圧:喫煙との有意な関連を認めなかった。結論 都市部の基本健康診査受診者において,喫煙が肥満,脂質異常症のリスクを高めるという結果を得た。また,男性で喫煙による糖尿病のリスク上昇が示された。本結果は,今後の特定健康診査において,喫煙に関する保健指導の基礎資料となると期待される。
著者
小田 正秀 大角 直行 中林 邦子 宮城 昌治 森本 進 坂木 慎司 有馬 隆 今田 愛子 遠藤 邦彦 土江 健也 森本 克廣 小松 昭紀
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.694-705, 2002-07-15
参考文献数
34
被引用文献数
2

<b>目的</b> 高校生の喫煙の実態を把握するとともに,歯科医師による喫煙防止教育の効果を検討することを目的とした。<br/><b>方法</b> 広島市内の某男子校の高校生1,003名を対象とした。歯科医師による喫煙防止教育講演の前後に無記名による自記式アンケート調査を行った。また,歯科医師による歯科健康診査を別途行った。<br/><b>成績</b> 喫煙経験者率,喫煙者率ともに,高学年ほど高い値を示した。<br/> クラブ活動をしていない群では学年が上がると喫煙者率が増加した。<br/> 喫煙が及ぼす健康影響についての知識では,肺がんが最も多く,歯周病がそれに次いで多かった。<br/> 歯科医師による喫煙防止教育講演前後で行ったアンケート調査成績から,「家族がたばこを吸っているのを見てやめた方がいい」と答えた生徒は講演前の55.9%から講演後の62.2%と6.3ポイントの増加がみられた。<br/> 教育講演で印象に残った内容では,がんの写真,歯への影響の話,バージャー病があげられた。<br/><b>結論</b> 高校生に喫煙防止教育を行う場合には,がんの写真,バージャー病の写真と歯への影響の話が印象的であると考えられ,歯科医師による教育の必要性が認められた。
著者
今井 忠則 長田 久雄 西村 芳貢
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.433-439, 2012

<b>目的</b> 「生きがい」を測定する簡便な尺度の実用化のために,9 項目から構成される「生きがい意識尺度(Ikigai–9)」の信頼性と妥当性を検討した。<br/><b>方法</b> 60歳以上の地域中高年者428人(男性128人,女性300人,平均年齢65.4±4.3歳,範囲60~85歳)を分析対象として,尺度の得点分布,信頼性(Cronbach の α 係数),SF–36v2 との併存的妥当性,因子的妥当性を検討した。尺度は,「生きがい概念の高次因子モデル」を構成概念とし,モデルの観測変数である 9 項目で構成された。回答は各 5 件法で求め,各素点を合計して総得点(範囲 9~45点)および 3 つの下位尺度得点(範囲3~15点)を算出した。<br/><b>結果</b> 得点の分布は,総得点および下位尺度得点ともに分散していた(とくに,総得点では統計学的正規性が認められた)。尺度の信頼性は,全体で α=.87,下位尺度ごとでは α=.76~.82であった。総合点と SF–36v2 の身体的健康度(PCS)との相関は無相関(rs=−.05, <i>P</i>=.33),精神的健康度(MCS)との相関は正の相関(rs=.33, <i>P</i><.001)であり,理論的予測と一致し,併存的妥当性が確認された。また,確認的因子分析の結果,高次因子モデルの適合度は GFI=0.95等と良好であり,因子的妥当性が確認された。<br/><b>結論</b> 60歳以上の地域中高年者を対象とした場合の Ikigai–9 の得点分布•信頼性•妥当性は良好であり,高い実用性が示された。
著者
斉藤 雅茂 藤原 佳典 小林 江里香 深谷 太郎 西 真理子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.785-795, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
30
被引用文献数
2

目的 本研究では,首都圏ベッドタウンで行った調査に基づいて,独居高齢者と同居者のいる高齢者のなかで,孤立した高齢者の発現率とその特徴,および,孤立に関する設問に無回答であった孤立状況不明者の特徴を明らかにすることを目的にした。方法 使用したデータは,埼玉県和光市において,独居の在宅高齢者978人,同居者のいる在宅高齢者1,529人から得られた。社会的孤立の操作的定義には,同居家族以外との接触頻度を用い,別居家族・親戚,および,友人・近所の人との対面接触と非対面接触のいずれもが月に 2, 3 回以下を「孤立」,それ以上を「非孤立」,それらの設問に無回答を「孤立状況不明」に分類した。世帯構成別に孤立・非孤立を従属変数,性別,年齢,婚姻経験,近居子の有無,移動能力,経済状態を独立変数に投入したロジスティック回帰分析,および,それらの諸変数について孤立状況不明と孤立・非孤立間での比率の差の多重比較を行った。結果 分析の結果,1)上記の定義で捉えた場合,孤立者は,独居者では24.1%(独居型孤立),同居者のいる高齢者では28.7%(同居型孤立)であること,2)独居・同居に関わらず,男性,子どもがいない人および近居子がいない人,より所得が低い人の方が孤立に該当しやすいこと,他方で,3)離別者と未婚者の方が独居型孤立に該当しやすく,より高齢の人,日常の移動能力に障害がある人の方が同居型孤立に該当しやすいという相違があること,4)独居・同居にかかわらず,孤立状況不明者はこれらの諸変数において孤立高齢者と類似していることが確認された。結論 高齢者の社会的孤立は独居者だけの問題ではなく,独居型孤立と同居型孤立の特徴の相違点に対応したアプローチを検討する必要があること,また,孤立高齢者をスクリーニングする際には,孤立関連の設問への無回答者を孤立に近い状態と捉えるべきことが示唆された。
著者
小林 江里香 藤原 佳典 深谷 太郎 西 真理子 斉藤 雅茂 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.446-456, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
30
被引用文献数
2

目的 本研究は,高齢者の社会的孤立を同居家族以外との接触頻度の低さから定義し,孤立者が抱える生活•心理面での課題と,そのような課題が同居者の有無や性別によってどのように異なるかを明らかにすることを目的とした。方法 65歳以上の在宅高齢者を対象とした調査より,独居群948人,同居群1,426人のデータを分析した。社会的孤立状況は,別居親族または友人•近所の人との接触が週 1 回以上あるかで,「対面接触あり」,「非対面接触のみ」,「接触なし(孤立)」に分けた。私的サポートの利用可能性(6 項目),公的サポートの利用可能性(2 項目),抑うつと将来への不安を従属変数とするロジスティック回帰分析を行い,年齢,IADL,社会経済的地位を調整後の社会的孤立状況,独居,性別の主効果と交互作用効果を調べた。結果 独居男性では42%が孤立に該当し,独居女性(17%)と大きな差があった。私的サポート入手不能,サービス相談先なし,地域包括支援センターの非認知,抑うつ傾向あり,将来への不安の高さのいずれについても,「対面接触あり」に対する孤立者のオッズ比は有意に高かった。また,私的サポートについては,孤立状況と同居者の有無の交互作用があり,孤立と独居が重なることでサポートを得られないリスクが一層高まっていたが,独居が独立した効果を示したのは,一部のサポート項目や抑うつ傾向に限られた。結論 孤立高齢者は,同居者の有無にかかわらず,私的•公的なサポートを得にくく,抑うつ傾向や将来への不安も高いなど,多くの課題を抱えていることが明らかになった。
著者
伊藤 ゆり 中村 正和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.613-618, 2013 (Released:2013-10-11)
参考文献数
12

目的 1998年にたばこ特別税が創設されて以来,2003年,2006年,2010年と過去 3 回のたばこ税•価格の引き上げが実施された。我が国におけるたばこ販売数量および販売代金に関する統計データの年次推移を用いて,過去のたばこ税•価格引き上げの影響を評価する。方法 (社)日本たばこ協会による紙巻たばこ統計データより,平成 2 年~平成22年度(1990~2010年)の年度別販売実績(数量および代金)をそれぞれ,Joinpoint Regression Model に適用し,年次推移を分析した。また,過去三回のたばこ税•価格引き上げの影響を平野らの方法を用いて,たばこ価格引き上げ前の販売数量の減少(税•価格引き上げ以外の要因による減少)を考慮した上で,価格引き上げによる販売数量減少効果を推定した。結果 Joinpoint Regression Model により,1998年度以降たばこ販売数量は減少に転じ,2005年度以降は年率平均 5%で減少傾向にあることがわかった。また,2003年度,2006年度,2010年度のたばこ税•価格引き上げ年度における減少効果はそれぞれ−2.4%,−2.9%,−10.1%(震災影響の補正後)であり,価格弾力性はそれぞれ−0.30,−0.27,−0.28(同補正後)であった。2010年度の大幅値上げ時に販売数量の減少効果がもっとも大きくなった。一方,価格弾力性は2003年度,2006年度とほぼ同レベルで,税•価格を大幅にあげても販売代金および税収への影響は小さいことが示唆された。結論 2010年度におけるたばこ税•価格の大幅引き上げは,たばこ販売数量を大きく減少させたが,価格弾力性は2003年度,2006年度とさほど変わらなかった。今後我が国における喫煙の被害を減少させるためにも,さらに大幅なたばこ価格の引き上げが必要であることが示唆された。
著者
川西 康之 Sharon J. B. HANLEY 田端 一基 中木 良彦 伊藤 俊弘 吉岡 英治 吉田 貴彦 西條 泰明
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.221-231, 2015 (Released:2015-06-25)
参考文献数
45

目的 妊娠中のヨガ(マタニティ・ヨガ)実践の効果について,近年様々な予防的,治療的効果が研究報告されている。それらをランダム化比較対照試験(RCT)に限って系統的に整理した研究報告は認められていない。本研究の目的は,系統的レビューによって,RCT として報告されているマタニティ・ヨガの効果と,その介入内容,介入方法,実践頻度の実態とを明らかにすることを目的とする。方法 文献検索には,米国立医学図書館の医学文献データベース PubMed を用いた。採用基準として,研究デザインが RCT であり,対象者を妊娠中の女性,介入内容をヨガの実践とする論文を採用した。結果 結果54編が検索され,このうち採用基準に合致した8研究10編を対象とした。健常妊婦を対象とした 4 研究において,その効果を報告した項目は,分娩時の疼痛・快適さ,分娩時間,妊娠中のストレス,不安,抑うつ,妊娠関連ストレス,QOL(生活の質),対人関係の一部であった。うつ状態の妊婦を対象とした 2 研究では,抑うつ,不安,怒り,足の痛み,背部痛などが改善するとの報告と,抑うつ,不安,怒りなどの改善は対照群と同等とするものがあった。肥満や高齢等のハイリスク妊婦を対象とした 1 研究では,妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,子宮内胎児発育遅延が有意に少なく,ストレスも減少していた。腰痛妊婦を対象とした 1 研究では,腰の痛みの自覚が改善していた。介入内容・介入方法・実践頻度において,介入内容は,抑うつの妊婦を対象とした 2 研究が身体姿勢のみであったのに対し,他の 6 研究では身体姿勢に加え呼吸法と瞑想が行われていた。介入方法は,講習のみのものと,自宅自習を併用するものとがあった。実践頻度は,報告によって様々であった。結論 マタニティ・ヨガにより,妊婦の腰痛が改善する可能性が示唆された。他に精神的症状(ストレス,抑うつ,不安など),身体的症状(分娩時疼痛など),周産期的予後(産科的合併症,分娩時間など)などが改善する可能性も示唆されていたが,今後もさらなる検証が必要と考えられた。介入内容・介入方法・実践頻度は研究により異なっており,対象者の特徴や各評価項目に沿った,効果的な介入内容,介入方法,実践頻度を検討する必要がある。今後も,RCT を中心とした研究報告が行われることが期待される。
著者
谷本 芳美 渡辺 美鈴 河野 令 広田 千賀 高崎 恭輔 河野 公一
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.383-390, 2009-06-15
被引用文献数
6

<b>目的</b> 高齢期における介護予防のための口腔機能の維持・向上を目的に,地域高齢者における咀嚼能力の客観的な評価方法として色変わりチューインガム(以下,色変わりガムとする)が有用であるか検討する。<br/><b>方法</b> 2007年 4 月~5 月に T 市に在住する65歳以上の高齢者210人(男性69人,女性141人)を対象に色変わりガムを用いた咀嚼能力と残存歯数および咬合力の測定を行い,同時に自記式質問紙調査を用いて咀嚼能力の主観的評価を行った。調査実施前に,5 人の高齢者について色変わりガムの測定方法の精度を検討した。測定は「普段の食事をするようにガムをかんでください」と指示し,2 分間咀嚼させた後,色彩色差計を用いて色変わりガムの「赤み」を示す咀嚼能力 a∗値(以下,a∗値とする)を測定した。質問紙項目は①食物が普通にかめるか②かたい食物がかめるか③まぐろのさしみ,かまぼこ,らっきょう,ビフテキ,ピーナッツの咀嚼の可・不可について調べた。解析は a∗値と残存歯数,咬合力および質問紙調査との関連について行った。<br/><b>結果</b> 対象者 5 人の a∗値の変動係数は2.15~3.75%で,測定方法は高い精度を示した。地域高齢者の色変わりガムの平均 a∗値は男性26.0,女性22.8であった。年齢別では,男性は全ての年齢群で有意な差を認めず,加齢に伴う変化は示さなかった。女性は80歳までは年齢による差を示さなかったが,80歳以上に有意な低下を示した。性別では,どの年齢群においても有意な差を認めなかった。男女とも a∗値は残存歯数および咬合力と正の相関関係を認めた。質問紙調査では,全ての項目で咀嚼可群の方が有意に a∗値が高かった。また,残存歯数が20歯未満の者に限っても咀嚼難易度の低い「まぐろのさしみ」と「ビフテキ」を除く全ての項目において咀嚼可群が有意に a∗値が高く,色変わりガムと主観的な質問紙調査との関連を認めた。<br/><b>結論</b> 色変わりガムの測定方法は簡便で,測定精度が高いことが認められた。また,色変わりガムは残存歯数や咬合力および主観的咀嚼能力評価と関連することを認めたことから,地域高齢者の健康づくりにおける咀嚼能力の客観的評価方法として有用であると考える。
著者
緒方 泰子 和泉 由貴子 北池 正
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.480-492, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
35

目的 自分専用の携帯電話を所有している高校生の携帯電話のメール機能(以下,携帯メール)の利用頻度と友人とのネットワークや携帯電話利用における利点や欠点(以下,携帯電話の利点・欠点)に対する認識,携帯電話の利用状況との関連を明らかにすること,孤独感と携帯メールの利用,友人とのネットワーク,携帯電話の利用状況との関連を明らかにすることを目的とした。方法 関東地区の A 高等学校の各学年 2 クラス計227人を対象に無記名で自記式調査を行った。調査内容は,孤独感,携帯電話の利用状況,1 日あたりの平均メール利用回数(以下,携帯メール回数),友人とのネットワーク(友人数や課外活動への参加程度等),携帯電話の利点・欠点である。孤独感の測定には,UCLA 孤独感尺度邦訳版20項目を用い,「決して感じない」から「度々感じる」までの 4 段階の選択肢を設け,孤独感の低い方から高い方へ 1~4 点を与えて合計した(以下,孤独感得点)。携帯電話の利点・欠点は,先行研究等から20項目を設定し,「全くそう思わない」から「よくそう思う」の 4 件法で尋ね,因子分析を行い,各因子を分析に用いた。結果 回答者220人は,男子57.5%,女子42.0%で,各学年ほぼ同人数であり,携帯電話所有率は94.1%であった。孤独感20項目のクロンバックの α 係数は0.87,孤独感得点の平均値は先行研究に近似していた。携帯電話の利点・欠点20項目の因子分析により 5 因子が抽出された。メール回数を従属変数とした重回帰分析の結果,学年,通話回数,授業中の通話・メールの確認,着信・メールの頻繁なチェック,伝達の困難性,夜間利用による睡眠不足により,メール回数の分散の42.9%が説明された。孤独感に有意差のみられた,性別,友人とのネットワーク(友人数等),携帯メール回数等を独立変数,孤独感得点を従属変数とした重回帰分析の結果,性別,友人数,恋人の有無,携帯メール回数により孤独感の分散の24.4%が説明された。結論 携帯メールの利用は,友人とのネットワークと同様に,高校生の孤独感に低減効果をもたらし,その利用回数は,携帯電話の利用頻度や,携帯電話の利点や欠点を高校生がどのように感じているかによって影響を受けていた。また,高校生が,携帯電話の利便性や限界を認識しつつ,苛立ちや束縛感を感じながらも友人との関係性強化に携帯メールを利用していることが明らかになった。
著者
堀田 和司 奥野 純子 戸村 成男 柳 久子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.863-874, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
45
被引用文献数
2

目的 介護職員の「仕事へのモチベーション」は,施設利用者の生活を左右する介護の質への影響も大きく,質の高い介護が求められる施設にとっては,離職問題だけでなく重要な課題となる。そこで本研究では,介護職員の「仕事へのモチベーション」が,どのような要因と関連し,影響を受けているのかについて検証し,「仕事へのモチベーション」を低下させない職場環境を作るため,どのようなアプローチをするべきかを明らかにすることを目的とする。方法 茨城県に所在する介護老人保健施設25に常勤で勤務する各専門職993人(うち介護職員607人)を対象に質問紙調査を実施。「仕事へのモチベーション」と「仕事の有能感」,「仕事への満足感」,「専門職アイデンティティ」,「連携に関する意識」,「専門職イメージ」それぞれの要因との関連について,因果モデルを想定し,構造方程式モデリングによるパス解析を行った。結果 「仕事へのモチベーション」に対して,仕事の有能感(β=.176)専門職アイデンティティ(β=.352)介護職イメージ(β=.245)の直接効果が認められ,「仕事の有能感」を媒介変数として,連携に関する意識(β=.164)が,「専門職アイデンティティ」を媒介変数として,仕事への満足感(β=.288)と仕事の有能感(β=.332)が,「仕事の有能感」と「専門職アイデンティティ」を媒介変数として,介護職イメージ(β=.188)の,それぞれから,「仕事へのモチベーション」に対する間接効果が認められた。結論 「仕事へのモチベーション」を高めるためには,介護職員が,介護職の仕事に肯定的なイメージを持ち,有能感を持って仕事に望むことや,専門職としてのアイデンティティを確立することが重要となる。そのために,仕事への満足感を得られると共に,看護職・リハビリ職といった他職種を肯定的なイメージで捕らえ,他職種と良好な連携の状態を作ることが出来る環境を整備することが必要である。
著者
上原 里程 篠原 亮次 秋山 有佳 市川 香織 尾島 俊之 玉腰 浩司 松浦 賢長 山崎 嘉久 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.376-384, 2016 (Released:2016-08-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

目的 21世紀の母子保健の主要な取り組みを示すビジョンである「健やか親子21」では,母子保健統計情報の利活用促進が課題の一つである。市町村での母子保健統計情報の利活用促進には都道府県による支援が重要な役割を果たすと考えられるため,都道府県が市町村支援に活用できるよう市町村の母子保健統計情報の利活用の現状と課題を明らかにすることを目的とした。方法 2013年に実施された『「健やか親子21」の推進状況に関する実態調査』(以下,実態調査)のうち政令市および特別区を除いた市町村の「健やか親子21」を推進するための各種情報の利活用に関する設問を分析した。まず,市町村別の母子保健統計情報の集計分析を行っている都道府県および課題抽出を行っている都道府県が管轄している市町村を抽出し,さらに定期的に母子保健統計情報をまとめている市町村とまとめていない市町村に分けて,定期的なまとめをしていない市町村の特性を観察した。結果 実態調査の対象となった1,645市町村すべてから回答を得た。市町村別の集計分析を行っている都道府県は35か所(47都道府県のうち74.5%)あり,課題抽出を行っている都道府県は14か所(同29.8%)あった。集計分析を行っている35都道府県が管轄する市町村は1,242か所あり,このうち母子保健統計情報を定期的にまとめている市町村は700か所(56.4%),まとめていない市町村は542か所(43.6%)あった。母子保健統計情報を定期的にまとめていない市町村においては,妊娠中の喫煙,予防接種の状況,低出生体重児の状況について積極的に利活用している市町村の割合が有意に少なかった(いずれも P<0.001)。また,児童虐待の発生予防対策や低出生体重児に関する対策などは定期的なまとめをしていない市町村において都道府県と連携して実施した市町村の割合が有意に少なかった。結論 母子保健統計情報を定期的にまとめていない市町村では,児童虐待の発生予防などの対策について都道府県との連携が希薄であり,母子保健統計情報の利活用が進まないこととの関連が示唆された。都道府県は管内市町村の母子保健統計情報を集計分析して市町村へ提供することに加え,これらの母子保健事業を市町村と連携して取り組むことによって市町村での母子保健統計情報の利活用を促進できる可能性がある。
著者
橋本 由利子 大谷 哲也 小山 洋 岩崎 基 笹澤 吉明 鈴木 庄亮
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.792-804, 2007-11-15
被引用文献数
2

<b>目的</b> 花粉症発症には花粉への曝露の他に様々な修飾要因が関わっていると考えられているが,その詳細は未だ十分に明らかにされていない。そこで「花粉症有り」の人の宿主要因を中心に花粉症の修飾要因を広範囲に調べることにした。<br/><b>方法</b> 1993年に開始した群馬疫学コホート(こもいせ)調査結果およびその第 2 波として2000年に行った47-77歳の男女住民10,898人の生活と罹病・死亡リスクについての調査結果を利用した。既往歴の「花粉症有り」を目的変数として,その他の基本属性,生活習慣・行動,既往症,職業などの項目を説明変数として,ロジスティック回帰分析によって検討した。この分析では,性・地域・年齢で調整した。<br/><b>結果</b> 花粉症の既往がある者は全回答者の17.1%であった。「花粉症の既往有り」は男性より女性の方が多く[調整オッズ比(aOR)=1.31, 95%信頼区間(CI):1.17-1.46],村より市の居住者の方が多かった(aOR=1.56, 95% CI:1.39-1.76)。40歳代より70歳代の方が花粉症は著しく少なく(aOR=0.19, 95% CI:0.15-0.24),花粉症の最近 1 年の寛解者は年齢が高くなるにつれ増加した(傾向検定 <i>P</i> 値<0.001)。<br/> 健康面では,「花粉症有り」は,寝つきが悪い・眠りが中断されること,および心臓病・高脂血症・喘息・消化性潰瘍・腰痛・うつ病有りとの間に有意な関連がみられた。糖尿病有りとは逆の関連がみられた。<br/> 生活面では,「花粉症有り」は,収入のある仕事をしている,サラリーマンである,仕事で精神的ストレスが多い,間食をよくする,お腹一杯食べる,食事が規則正しい,甘いものをよく食べる,日本酒・ワインを月 2, 3 回飲む,ビール・発泡酒を飲む,焼酎・ウイスキーをほぼ毎日飲む,よく長い距離を歩く,よく運動をする,よく家の掃除をする,芝居・映画・コンサートなどに行く,食料品・衣類などの買い物に行く,結婚経験がある,子どもが問題を抱えている,年収が1,000万円以上であることと有意な関連が見られた。農業従事者,たばこを吸っていること,パチンコやカラオケによく行くこととは有意な逆の関連がみられた。<br/> 過去の食生活では30歳代の頃パンを摂取したことと弱い関連がみられた。<br/><b>結論</b> 花粉症の既往と生活習慣・行動など多くの要因との間に関連性がみられた。花粉症は,老年より比較的若年層に,農村より都市地域に,農業従事者よりサラリーマンに,ストレスの多いことや食べ過ぎあるいは洋風の食生活に,生活水準が高く近代化の進んだ生活により強く関係しているなど,宿主・環境に関る一群の修飾要因とその重みが明らかにされた。