著者
山﨑 さやか 篠原 亮次 秋山 有佳 市川 香織 尾島 俊之 玉腰 浩司 松浦 賢長 山崎 嘉久 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.334-346, 2018-07-15 (Released:2018-07-31)
参考文献数
38

目的 健やか親子21の最終評価における全都道府県の調査データを使用し,母親の育児不安と母親の日常の育児相談相手との関連を明らかにすることを目的とした。方法 対象は,2013年4月から8月の間に乳幼児健診を受診した児の保護者で調査票に回答した75,622人(3~4か月健診:20,729人,1歳6か月健診:27,922人,3歳児健診:26,971人)である。児の年齢で層化し,育児不安(「育児に自信が持てない」と「虐待しているのではないかと思う」の2項目)を目的変数,育児相談相手および育児相談相手の種類数を説明変数,属性等を調整変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。結果 育児に自信が持てない母親の割合と,虐待しているのではないかと思う母親の割合は,児の年齢が上がるにつれて増加した。すべての年齢の児の母親に共通して,相談相手の該当割合は「夫」が最も多く,相談相手の種類数は「3」が最も多かった。また,「夫」,「祖母または祖父」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に低かった。一方,「保育士や幼稚園の先生」,「インターネット」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に高かった。育児不安と相談相手の種類数との関連については,すべての年齢の児の母親に共通した有意な関連はみられなかった。一方,児の年齢別にみると,1歳6か月児と3歳児の母親において,相談相手が誰もいないと感じている母親は,相談相手の種類数が「1」の母親と比べてオッズ比が有意に高く,「虐待しているのではないかと思う」の項目では,相談相手の種類数が「1」の母親と比べると,相談相手の種類数が「3」,「4」,「5」の母親はオッズ比が有意に低かった。結論 相談相手の質的要因では,すべての年齢の児の母親に共通して有意な関連がみられた相談相手は,夫または祖父母の存在は育児不安の低さと,保育士や幼稚園教諭,インターネットの存在は育児不安の高さとの有意な関連が示された。相談相手の量的要因(相談相手の種類数)では,幼児期の児を持つ母親においては,相談相手の種類数の多さが育児不安を低減させる可能性が示唆された。
著者
中島 正夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.515-525, 2011-07-15
参考文献数
20
被引用文献数
1

<b>目的</b>&emsp;既存の資料に記載されている乳幼児体力手帳制度,妊産婦手帳制度,母子手帳制度,母子健康手帳制度の政策意図などを整理し,各手帳制度の公衆衛生行政上の意義について考察することである。<br/><b>方法</b>&emsp;厚生省関係通知,関連書籍,および妊産婦手帳制度等の企画立案に従事された瀬木三雄氏の著作物等により,各手帳制度の政策意図などを整理,検討する。<br/><b>結果</b>&emsp;(1)乳幼児体力手帳制度:根拠は国民体力法(1942年改正)。1945年度まで実施。乳幼児体力検査受診者に手帳を交付。保健医療従事者が記載した記録を当事者が携帯,その後の保健指導等に役立てた。(2)妊産婦手帳制度:根拠は妊産婦手帳規程(1942年)。妊娠した者が医師または助産婦の証明書を付して地方長官に届出(義務)をすることにより手帳を交付。保健医療従事者が記載した健診等の記録を当事者が携帯,その後の保健指導等に役立てた。一定の妊産保健情報を提供。妊産育児に必要な物資の配給手帳としても利用。(3)母子手帳制度:根拠は児童福祉法(1948年)。(2)を拡充し乳幼児まで対象。手帳交付手続き等は基本的に(2)と同様。乳幼児を対象とした一定の保健情報も追加。配給手帳としての運用は1953年 3 月まで。(4)母子健康手帳制度:根拠は母子保健法(1966年)。妊娠の届出は勧奨(医師等の証明書は不要)とされた。当事者による記録の記載が明確化,また様々な母子保健情報が追加された。<br/><b>結論</b>&emsp;各手帳制度の公衆衛生行政上の意義について次のとおり考える。(1)母子保健対象者の把握:乳幼児体力手帳制度以外すべて,(2)妊産婦を早期に義務として医療に結びつけること:妊産婦手帳制度,母子手帳制度,(3)保健医療従事者および当事者が記載した各種記録を当事者が携帯し,その後の的確な支援等に結びつけること:基本的にすべての手帳制度(当事者による記録の記載は母子健康手帳制度で明確化),(4)当事者&bull;家族による妊産婦&bull;乳幼児の健康管理を促すこと:①保健医療従事者が記載した各種記録を当事者が保持;すべての手帳制度,②母子保健情報の提供;乳幼児体力手帳制度以外すべて,③当事者による記録の記載;母子健康手帳制度で明確化,(5)配給手帳として母子栄養を維持すること:妊産婦手帳制度,母子手帳制度。<br/>&nbsp;&nbsp;以上のことから,わが国の手帳制度は,戦時下において主に父権的制度として制定され,その後の社会情勢の変化や保健医療体制の整備などに伴い,当事者の自発的な健康管理を期待する制度へと成熟していったと考えられる。
著者
佐藤 陽子 千葉 剛 梅垣 敬三
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.300-307, 2018 (Released:2018-06-29)
参考文献数
22

目的 妊婦や小児におけるサプリメント利用は安全性確保の観点から注目される。そこで未婚,もしくは未妊娠の若い女性として大学生を対象に,心理的要因のひとつのパーソナリティ特性とサプリメント利用行動との関連を明らかにすることを目的とした。方法 2015年10月~11月に,属性,サプリメントの利用状況,サプリメントに対する肯定的態度,食生活リテラシー,主要5因子性格検査(Big Five)によるパーソナリティ特性を質問項目として,無記名自記式質問紙調査を実施した。対象は東京都および埼玉県内の女子大学・短期大学に在籍する学生230人とし,228人から回答を得た。このうち解析対象項目に欠損のない124人を解析対象者とし,パーソナリティ特性と他項目との関連を検討した。解析にはMann-Whitney検定,Spearmanの順位相関係数,χ2検定,Kruskal-Wallis検定を用いた。結果 サプリメント利用者は19.4%であり,利用者は非利用者よりも外向性得点が高かった。パーソナリティ特性とサプリメントに対する肯定的態度,食生活リテラシーに関連は認められなかった。結論 パーソナリティ特性がサプリメント利用行動に与える影響は限定的であると考えられた。
著者
豊島 裕子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.266-276, 2018 (Released:2018-06-29)
参考文献数
29

目的 介護福祉士の職業性ストレス反応を,生理学的手法で評価した。個人のストレス反応量だけでなく,各種業務に対するストレス反応も合わせて評価した。方法 老人保健施設に勤務する介護福祉士35人を対象に,ホルター心電計で記録した就労中心電図より周波数解析で求めた交感神経機能変動で,職業性ストレスを評価した。時間ごとの業務内容を業務日誌に記録し,各ストレス反応値と比較した。合わせて,終業時採取唾液中クロモグラニンA(CgA)を測定した。結果 測定当日,前日とは異なるシフトで就労していた群は終日ストレス反応最高値(1日の中で最も強いストレス反応を惹起する業務中のストレス反応値)が26.2±12.0と,前日と同一シフト群の16.1±6.5に比して有意に高値だった(P<0.05)。CgAも同様の結果だった(10.8±14.6 pmol/mg蛋白,2.3±1.2,P<0.05)。また,日勤帯では,業務別ストレス反応値(その業務中の総ストレス反応)と業務別ストレス反応ピーク値(その業務中のストレス反応のピーク値)は,多職種とのかかわり(148.9±27.0,29.8±9.1),口腔ケア(82.4±16.7,15.4±8.7)で有意に高値だった。入浴介助でも業務別ストレス反応ピーク値が20.5±9.6と有意に高値だった。夜勤帯では業務別ストレス反応値と業務別ストレス反応ピーク値は,口腔ケア(口腔ケア:100.1±23.1,17.6±8.6),更衣介助(102.8±22.8,19.8±11.7)で有意に高値だった。シーツ交換の業務別ストレス反応値と業務別ストレス反応ピーク値は,(夜勤:120.6±23.3,25.7±10.9;日勤:65.0±10.6,16.4±10.9)と,夜勤で有意に高値だった。結論 心電図による交感神経機能を指標としたストレス反応評価は介護福祉士のストレス反応評価に有用と考えた。CgAも同様に有効と考えた。シフト勤務切り替わり日には通常よりストレス反応が強まることが示唆された。介護福祉士は,多職種連携業務,口腔ケアで強いストレス反応を起こしていた。さらに,これら業務では瞬間的に交感神経機能が極めて高い状態になることもわかった。また,入居者の体に直接触れる業務では,ストレス反応が強いこともわかった。シーツ交換は,夜間にのみ強いストレス反応を引き起こしていた。
著者
多田羅 浩三
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.255-265, 2018 (Released:2018-06-29)
参考文献数
25

公衆衛生の誕生 フランクは,メディカルポリースの体系構築を提言した。チャドウィックは,「全数対応」の体制を公衆衛生法によって発足させた。ラムゼイは,公衆衛生を担う保健医官は,救貧法体制から独立した身分とする必要があると言った。シモンは,「公」の制度を担う「私」の知恵の重要性を強調した。日本の公衆衛生 1871年から1873年まで欧米を訪問し,各地の経験から学んだ長与専斎の起草による「医制」が1874年に発布された。 『医制八十年史』の「公衆衛生」の章の「第一節保健衛生」の「第一項栄養」は,高木兼寛に関する,次の文章で始まっている。 「わが国の栄養改善は脚気対策に始まった。‥高木兼寛は当時海軍の糧食が白米のみを主としていることに注目し,麦と米を等分に混入するという方法で兵食改良の必要性を訴えるに至った。‥これらはいずれも脚気の原因が食事の不完全にあるとして栄養問題の解決を一歩前進させたものである。」 わが国の公衆衛生の扉は,薩摩の医師高木兼寛によって開かれたと理解できる。 農商務省の嘱託医石原修が,1910年に工場衛生調査の結果を報告し,工場法が1911年に制定された。 1937年に,都道府県,大都市による保健所の設立を規定した保健所法が制定された。 1947年,東京大学,新潟大学,大阪大学に公衆衛生学教室が設置され,日本公衆衛生学会が発足した。 1978年,アルマ・アタ宣言が発表され,厚生省は国民健康づくり計画を発表した。1982年,老人保健法が制定され,1994年,保健所法が改正され地域保健法となり,1997年に全面施行された。 アメリカで1990年,Healthy People 2000の発表があり,厚生労働省は2000年,「健康日本21」を発表,2002年健康増進法を制定した。集団医学への道 大阪大学の松澤佑次教授が,1994年に「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」が,冠動脈疾患などの上流にある病態であることを報告した。2005年,メタボリックシンドローム診断基準検討委員会が,メタボリックシンドローム評価基準を発表した。厚生労働省は,特定健診・保健指導を2008年から実施した。特定健診の対象集団を「集団医学」の対象とし,集団の構成員の疾病の制圧につながる基本の因子を明らかにすることで,その結果をもとに保健指導を行うことが,公衆衛生には求められている。
著者
吉田 由美 安齋 ひとみ 糸井 志津乃 林 美奈子 風間 眞理 刀根 洋子 堤 千鶴子 奈良 雅之 鈴木 祐子 川田 智惠子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.277-287, 2018 (Released:2018-06-29)
参考文献数
36

目的 本研究では,医療機関を活動の場とするがんピアサポーターへ行われている支援と必要としている支援について明らかにすることを目的とする。方法 対象は,がん患者会団体からがんピアサポーター活動中の研究参加候補者の紹介を受け,研究参加への同意が得られたがんピアサポーター10人である。質的記述的研究方法により,インタビューガイドを用いたインタビューを2014年7月から10月に実施した。逐語録よりコードを抽出し,サブカテゴリー化,カテゴリー化した。得られた結果を研究参加者に確認し内容の確実性を高めた。本研究は目白大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。結果 研究参加者は40歳代から70歳代の男性2人,女性8人の計10人であり,医療機関でがん患者や家族の個別相談,電話相談,がんサロン活動を行っているがんピアサポーターであった。医療機関を活動の場とするがんピアサポーターへ行われている支援として,4つのカテゴリー【がんピアサポーター同士での学び合いと支え合い】【利用者から得る学びと元気】【がんピアサポーターの自己研鑚】【病院と行政からの協力】が生成された。がんピアサポーターが必要としている支援として,7つのカテゴリー【がんピアサポーター同士の学びと支えの環境】【がんピアサポートに関する学習】【確かで最新の情報】【社会のがんに関する理解と協力】【活動や患者会団体に対する経済的支援】【がんピアサポート活動のしくみの改善】【がんピアサポ—ター養成講座の質保証】が生成された。結論 がんピアサポーターへ行われている支援として,がんピアサポーター同士が相互に支援し合い,利用者から学びと元気を獲得し,自己研鑽し,周囲からの協力を得ていた。必要な支援として,がんピアサポーター同士がさらに向上していくための学びの場と支える環境,活動を支える確かで最新の情報を求めていた。また,相談等の場面で対処困難な場合もあり,病院など周囲からの助言や情緒的な支援を必要としていた。社会のがんに関する理解と協力,活動や患者団体に対する経済的支援,病院におけるがんピアサポーター配置の制度化やがんピアサポーター養成講座の質保証など多面的な支援が望まれていた。医療機関を活動の場とするがんピアサポーターへの支援はまだ十分ではなく,上述のような,さらなる支援の必要性が明らかになった。
著者
大西 聖子 谷内 佳代 田中 英夫
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.246-253, 2007

<b>目的</b> 喫煙歴のある入院患者に対して,郵送による退院後の喫煙状況調査を行った。すぐに返信する者と督促によって返信する者とで,退院後の断面禁煙率(以下,禁煙率という)の違いや喫煙行動関連要因の違いを調べた。これらの結果から,患者への郵送による喫煙状況調査の問題点を検討する。<br/><b>方法</b> がん(成人病)専門診療施設に入院した喫煙患者(入院当日の喫煙状況が喫煙中,あるいは禁煙後31日以内であった者)556人に,入院から12か月後の時点の喫煙状況を郵送で尋ねた(初回調査)。返信のない者には最多で 2 回の督促状を,調査用紙とともに郵送した(2 回目調査,3 回目調査)。計 3 回の喫煙状況調査の返信行動別に各調査回の禁煙率を求め,比較した。また,返信行動の違いと入院時点の喫煙行動に関連する属性との関係を多重ロジスティック回帰分析で調べた。<br/><b>結果</b> 全対象者に占める回答者の割合は,初回調査から順に53%,20%,4%であった。各調査回において返信があった者での禁煙率は,初回調査63%(184/294),2 回目調査29%(32/112),3 回目調査33%(7/21)と,2 回目,3 回目調査は,初回調査に比べて有意に禁煙者の占める割合が低かった(<i>P</i><0.01)。<br/> 対象者の属性を初回調査の返信者と 2 回または 3 回目調査の返信者とで比較すると,後者は前者に比べて女性の割合が高く(オッズ比2.1,95%信頼区間(CI):1.20-3.81),また入院当日に喫煙中であった者の割合が高かった(同2.1,95%CI:1.28-3.46)。つぎに,初回調査の返信者と最終的な未返信者との属性を比較すると,後者は前者に比べて女性(同2.4,95%CI:1.38-4.29),年齢が59歳以下の者(同1.9,95%CI:1.15-3.28),入院当日に喫煙していた者(同2.9,95%CI:1.70-4.96)の割合が高かった。<br/><b>結論</b> 退院後の郵送による喫煙状況調査において,督促によって返信した者では禁煙者の割合が低く,また,督促によって返信した者や未返信者では,初回調査で返信した者に比べて禁煙しにくい属性を有する者の割合が有意に高かった。以上の成績から,退院後の郵送による喫煙状況調査においては複数回の督促等によって未返信者の割合を最小限にすることが正確な喫煙状況の把握のために必要であると考えられる。
著者
永井 亜貴子 武藤 香織 井上 悠輔
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.223-232, 2018 (Released:2018-05-29)
参考文献数
13

目的 全国の市町村における本人通知制度の普及状況を明らかにし,バイオバンク・ジャパン(BBJ)の予後調査の結果とあわせて分析することにより,本人通知制度が学術研究を目的とした住民票の写しの利用に与える影響について検討する。方法 2015年2~3月に全国の1,741の市町村(特別区を含む)を対象に,本人通知制度の導入状況や同制度の運用形態,学術研究目的の住民票の写しの交付に関する判断基準等について,電話調査を実施した。電話調査で明らかになった本人通知制度の導入の有無と,BBJで2011~2016年度までに実施した計4回の予後調査における住民票の写しの請求に対する交付可否の結果との関連について検討した。結果 電話調査の結果,1,741市町村から回答が得られた(回収率100%)。本人通知制度をすでに導入している市町村は28.9%であり,導入予定がある市町村は5.1%であった。学術研究目的での住民票の写しの交付の判断基準については,担当者ごとに住民基本台帳事務処理要領をもとに判断している市町村は84.8%,担当者間で共有する一定の基準などがある市町村は14.4%であった。BBJの予後調査で行った住民票の写しの交付請求に対する交付拒否の理由として,同意書に住民票の利用について明記されていないことが挙げられ,一部の市町村は本人通知制度の開始に伴う交付判断基準の見直しを挙げていた。本人通知制度の導入の有無とBBJの予後調査における住民票の写しの交付請求への可否の結果の間に,有意な関連は見られなかった。結論 BBJの予後調査で行った住民票の写しの交付請求の拒否理由の一部に本人通知制度の導入による判断基準の見直しが挙げられていた。多くの市町村に学術研究目的での住民票の写しの交付に関して一定の判断基準がないことから,今後,学術研究目的の住民票の写しの交付判断に必要な研究の公益性に関する基準を示すなど,市町村を支援する取り組みが必要である。
著者
児玉 小百合 栗盛 須雅子 星 旦二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.199-209, 2018 (Released:2018-05-29)
参考文献数
28

目的 高齢期の主観的ウェルビーイングに関連する幸福感の,簡便な評価と生存との関連は十分に検討されていない。相互扶助の地域特性を有する沖縄県農村地域在住の自立高齢者を対象に,4段階の選択肢による簡便な幸福感の評価が,3年後の生存の予測妥当性の高い因子になり得るかどうかについて,多様な要因を調整変数として検討した。方法 2012年度に沖縄県の農村地域で実施したアンケート調査の回答者から,要支援・要介護認定者および幸福感に回答が得られなかった者を除き,3年後の追跡が可能であった1,471人(男性638人,女性833人)を対象とした。幸福感等の主観的指標は4件法で順序尺度化した。料理10種類の週当たりの摂取頻度は5件法で順序尺度化し,主成分分析の第1主成分を加工食品以外の料理の多い「食の多様性」とした。幸福感の3年間の生存日数に対する総合的分析は,調整変数の欠損値を除いた734人を対象に,Cox比例ハザード分析を行った。性・年齢および3年後の生存と有意な関連(P<0.05)を示した対象者の基本的属性(収入のある仕事・入院経験・喫煙習慣のないこと・運動頻度・BMI区分)および高齢期の健康に関連する変数(幸福感,主観的健康感,自立度,体重変化,外出控えのないこと,連続歩行,転倒骨折がないこと,地域活動,友人や近所付合,外出頻度,加齢役割,病気は自分で防げる,地域信頼,食の多様性)を調整変数とした。幸福感と累積生存率との関連は,カプラン・マイヤー法による生存分析を実施した。結果 3年後の生存者は1,387人(94.3%)であった。幸福感の「とても幸福である」と回答した者のうち3年後の生存者は95.9%であり,「幸福でない」の生存者86.4%と比べて有意に割合が高かった。一方で,「幸福でない」と回答した者のうち死亡者は13.6%であり,「とても幸福である」の死亡者4.1%と比べて有意に割合が高かった。多変数調整モデルにおいて,3年後の総死亡のハザード比(HR)を有意に低下させていたのは,幸福感(HR=0.56,95%CI:0.32-0.99),転倒・骨折がないこと(HR=0.26,95%CI:0.11-0.62),喫煙習慣がないこと(HR=0.44,95%CI:0.25-0.77)であった。累積生存率は,幸福感が望ましいほど有意に高かった。結論 4段階の選択肢による幸福感の評価は,沖縄県農村地域在住の自立高齢者において,3年後の生存の予測妥当性の高い因子になり得る可能性が示唆された。
著者
尾﨑 章子 荻原 隆二 内山 真 太田 壽城 前田 清 柴田 博 小板谷 典子 山見 信夫 眞野 喜洋 大井田 隆 曽根 啓一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.697-712, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
23
被引用文献数
2

目的 100歳以上の長寿者(百寿者)の QOL を調べ,男女差,地域差を明らかにするとともに,100歳を超えてもなお高い QOL を実現している百寿者に関して生活習慣,生活環境との関連について検討を行った。方法 1999年度の「全国高齢者名簿」に登録された100歳以上の高齢者11,346人を母集団とした。男性は全数,女性は 1/2 の比率で無作為抽出を行った。死亡,住所不明,不参加の者を除く1,907人(男性566人,女性1,341人)に対し,個別に訪問し,質問紙を用いて聞き取り調査を行った(2000年 4~6 月)。本研究では百歳老人の QOL について a. 日常生活動作の自立,b. 認知機能の保持,c. 心の健康の維持の観点から検討した。独立変数は,食生活,栄養,運動,睡眠,喫煙習慣,飲酒習慣,身体機能,家族とした。分析は SPSS11.0J を使用し,男女別に多重ロジスティック回帰分析を行った。結果 1. 男性の百寿者は女性の百寿者と比較して数は少ないものの,QOL の高い百寿者の割合は日常生活動作,認知機能,心の健康のすべてにおいて男性が女性に比べ多かった。 2. 百寿者数は西日本に多いものの,QOL の高い百寿者の割合に関して地域による有意な差は男女とも認められなかった。 3. ①日常生活動作の自立の関連要因:男性では,運動習慣あり,視力の保持,自然な目覚め,常食が食べられる,同居の家族がいるの 5 要因が,女性では,運動習慣あり,常食が食べられる,視力の保持,自然な目覚め,食欲あり,同居の家族がいる,転倒経験なしの 7 要因が日常生活動作の自立と有意な関係にあった。②認知機能の保持の関連要因:男性では,自然な目覚め,視力の保持,運動習慣あり,よく眠れている,常食が食べられるの 5 要因が,女性では,聴力の保持,自然な目覚め,視力の保持,食欲あり,同居の家族がいる,運動習慣ありの 6 要因が認知機能の保持と有意な関係にあった。③心の健康の維持の関連要因:男性では,視力の保持,運動習慣あり,よく眠れている,常食が食べられるの 4 要因が,女性では,視力の保持,食欲あり,運動習慣あり,1 日 3 回食事を食べる,同居の家族がいる,常食が食べられる,自然な目覚めの 7 要因が心の健康の維持と有意な関係にあった。結論 百寿者の日常生活動作の自立,認知機能の保持,心の健康の維持に共通して関連が認められた要因は,男性では運動習慣,身体機能としての視力,食事のかたさであり,女性では,運動習慣,身体機能としての視力,自然な目覚め,食欲,同居家族であった。これらの検討から,QOL の高い百寿者の特徴は,男性では,①運動習慣がある②身体機能としての視力が保持されている③普通のかたさの食事が食べられる,女性では①運動習慣がある②身体機能としての視力が保持されている③自分から定時に目覚める④食事を自らすすんで食べる(食欲がある),⑤同居の家族がいること,が明らかになった。これらの要因の維持が超高齢者の高い QOL の実現に関与している可能性が示唆された。
著者
服部 希世子 宇田 英典 人見 嘉哲 矢野 亮佑 西條 尚男 渡邉 直行 里見 真希 吉田 綾 大石 修 山下 剛 亀之園 明
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.170-178, 2018 (Released:2018-05-03)
参考文献数
24

目的 近年ベトナムは目覚ましい経済成長を遂げ,人々のライフスタイルが変化してきたことに伴い非感染性疾患(NCDs:Non-Communicable Disease)患者が増加している。ベトナムにおけるNCDs対策の現状と課題を明らかにし,ベトナムと日本のNCDs対策について検討する。方法 平成27年度地域保健総合推進事業(国際協力事業)として,11人の公衆衛生医師から成る調査団は平成28年1月11日~15日の日程でベトナムの首都ハノイと近郊を訪れ,WHO現地オフィス,ベトナム保健省をはじめ現地の保健医療機関を訪問し,ベトナムにおけるNCDs対策について調査を行い,意見交換を行った。結果 2014年のデータによると,ベトナムでは全年齢層の死亡原因のうちNCDsが73%を占めており,近年急激にNCDs患者が増加している。その主な行動リスクファクターは,食事,喫煙,飲酒,運動不足,である。NCDs対策を行う上での問題点として,国民のNCDsに対する認知度の低さ,地域格差のある医療,専門的な知識を持った保健医療スタッフの不足,NCDsサーベイランスが行われているものの実態を反映できていない,などが挙げられる。 ベトナムでは2002年に国家運営委員会を立ち上げNCDsプログラムを策定し,各疾患に対するスクリーニング方法や治療ガイドラインが作成されたが3次予防にとどまり,1次予防,2次予防対策が十分ではなかった。現在,WHOの技術的支援を受けながら,NCDsのリスクファクターを減らす取り組みなど予防に重点を置いた対策が始まったばかりである。結論 今後,ベトナムのNCDs予防対策が国民1人1人に行き届くことが求められており,日本の健康日本21のような国民運動,特定健診など全国規模のスクリーニング事業など参考になると思われた。また,日本における地域住民の自主的な地区組織による地域保健活動および保健師による地域への訪問活動と保健指導が地域の保健向上に大きく貢献した経験は,ベトナム国でも応用できると思われた。さらに人材不足などの課題は日本でも共通しており,幅広く健康課題に取り組む保健医療スタッフの確保と能力の強化が求められる。
著者
成田 暁 中谷 直樹 中村 智洋 土屋 菜歩 小暮 真奈 辻 一郎 寳澤 篤 富田 博秋
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.157-163, 2018 (Released:2018-05-03)
参考文献数
18

目的 自然災害による身体的外傷がメンタルヘルスに与える影響に関する研究はこれまでにも報告されているが,軽度の身体的外傷においてもメンタルヘルスと関連するかはほとんど検証されていない。本研究は,東日本大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連を横断研究デザインにて検討することを目的とした。方法 宮城県七ヶ浜町と東北大学は,共同事業「七ヶ浜健康増進プロジェクト」において,東日本大震災後の町民の健康状態や生活状況を把握するための調査を実施している。本研究では,七ヶ浜健康増進プロジェクトが大震災から約1年後に行った調査に参加し,大震災に起因する外傷およびKessler 6項目心理的苦痛尺度(以下,K6)の全設問に回答した対象者のうち,20歳以上の男女3,844人(男性1,821人/女性2,023人)を解析対象とした。心理的苦痛(K6で24点満点中13点以上を「あり」,12点以下を「なし」と定義)を目的変数,身体的外傷の有無を説明変数とし,性,年齢,社会的要因,生活習慣を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った。軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連について,震災被害(近親者の喪失,人の死の目撃,家屋損壊程度)のそれぞれで層別化した解析も併せて実施した。結果 身体的外傷なしの群に対し,ありの群における心理的苦痛の多変量調整済みオッズ比は2.05(1.26-3.34)と有意な正の関連を示した。また,軽度身体的外傷(「擦り傷」,「切り傷・刺し傷」,「打撲・捻挫」)なしの群に対し,ありの群における心理的苦痛の多変量調整済みオッズ比は2.18(1.32-3.59)と有意な正の関連を示した。家屋損壊程度に基づく層別化解析において,家屋が半壊以下であった群では4.01(2.03-7.93)と有意な関連を示したが,大規模半壊以上の群では両者の関連は有意でなく,家屋損壊程度と軽度身体的外傷の間に有意な交互作用が示された(P for interaction=0.03)。結論 東日本大震災の甚大な被害を受けた地域住民約4,000人を対象に,大震災に起因する身体的外傷と心理的苦痛の関連を検討した。その結果,大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の間に有意な正の関連が認められた。心理的苦痛のハイリスク者を同定する上で,軽度身体外傷を有する者についても考慮する必要がある。
著者
柿崎 真沙子 澤田 典絵 山岸 良匡 八谷 寛 斉藤 功 小久保 喜弘 磯 博康 津金 昌一郎 康永 秀生
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.179-186, 2018 (Released:2018-05-03)
参考文献数
19

目的 DPCデータを大規模なコホート研究の発症登録に利用することが可能であるかを検討するため,独自に収集した脳卒中および急性心筋梗塞発症登録数と,DPCデータを活用して得られた疾病登録数との比較を行い,脳卒中と急性心筋梗塞の各診断名において実施された治療・処置や検査から,標的疾患罹患の把握に有用な項目があるか検討した。方法 研究対象病院のDPCデータから,4種類(主傷病名,入院の契機となった病名,医療資源を最も投入した病名,医療資源を二番目に投入した病名)のいずれかに,急性心筋梗塞,脳内出血,脳梗塞が含まれる症例を抽出し,疾患ごとに実施された検査や治療の情報を抽出・集計し当該研究対象病院にてJPHC研究の一部として独自に収集した発症登録により得られた登録数を比較した。結果 DPCデータで抽出された症例数は独自に実施した発症登録数より多かったが,その差はとくに脳梗塞において顕著であった。JPHC登録数/DPC症例数の比は心筋梗塞1.13,脳内出血0.88,脳梗塞0.67であった。結論 急性心筋梗塞および脳内出血の疾病登録にはDPCデータを利用して,対象者数を概ね把握できる可能性が示された。脳梗塞についてはDPC登録病名とDPC治療・検査・診断項目を補助的に活用することで,疾病登録対象者数の同定精度を高め得る可能性がある。しかしながら,DPCデータを大規模なコホート研究の発症登録に利用するためには,地域全体での発症数がDPC導入病院の発症数でカバーできるのか,さらなる検討が必要である。
著者
熊谷 美香 北野 尚美 小松 枝里香 道場 浩幸 上野 雅巳
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.116-124, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
19

目的 救急搬送所要時間に悪影響を及ぼす要因のうち,介入可能な要因の1つに,搬送先医療機関の選定に要する時間がある。そこで,本研究では,病院選定が困難だった救急搬送症例について,覚知時刻と覚知場所,救急隊判断程度の特徴を明らかとした。方法 研究期間は2014年1月1日から12月31日の1年間で,和歌山県内で救急車搬送された,小児疾患を除く41,574件を研究対象とした。本研究では,照会回数に欠損値があった129件を除いた41,445件を解析した。照会回数4回以上を病院選定困難として,覚知時刻と覚知場所,救急隊判断程度について,調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を二項ロジスティック回帰分析によって計算した。全体と主要診断群分類(Major Diagnostic Category,MDC)で層別化して,外傷・熱傷・中毒,神経系疾患,消化器系疾患・肝臓・胆道・膵臓疾患,呼吸器系疾患,循環器系疾患について解析結果を示した。結果 照会回数の分布は1~12回で,全体の79.6%は1回であり,4回以上は3.5%であった。全体の解析では,照会回数4回以上について,覚知時刻は,平日日勤を基準とした場合に,その他いずれの時間帯も有意に照会回数4回以上で,土日祝深夜の調整OR(95%CI)は4.0(3.2-5.0)と最も高かった。また,中等症以下を基準とした場合に,重症以上の調整OR(95%CI)は0.8(0.7-0.9)で,照会回数が有意に3回以下であった。ただし,MDC分類で層別化した解析の結果,外傷・熱傷・中毒の疾患群では,救急隊判断程度が重症以上の調整OR(95%CI)は1.4(1.0-1.8)で照会回数が有意に4回以上であった。結論 和歌山県全域において1年間に救急車搬送された成人全例を対象とした解析で,覚知時刻が土日祝深夜であったことと,救急隊判断程度が中等症以下であったことは,搬送先病院選定の照会回数が4回以上のリスク因子であった。ただし,MDC分類で層別化した解析によって,外傷・熱傷・中毒の疾患群では,救急隊判断程度が重症以上の調整OR(95%CI)が1.4(1.0-1.8)で照会回数が有意に4回以上であった。
著者
堀之内 広子 本砥 貴子 宇田 英典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.134-141, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
7

目的 医療や介護の基盤が十分でない外海小離島において疾病や加齢にともない生活を継続することが困難になったとしても,住み慣れた島での看取りを希望する住民のニーズに対応するための体制整備は,離島を有する自治体やそれを支援する都道府県といった行政の責務である。今回,外海小離島での看取り支援に活用することを目的として「看取りに関する事務マニュアル」を取りまとめたので,この作成プロセスとこれを用いた支援の展開について報告する。方法 外海小離島だけで構成される十島村の現状や看取りの阻害因子などを検討し,それらの結果をもとに,関係する機関・団体で協議を重ね「看取りに関する事務マニュアル」(以下マニュアル)を作成した。その後,マニュアルを活用して,看取り支援を行うとともに,課題や成果を検討しマニュアルの改訂を行った。結果 外界小離島での看取りにあたって,重要な問題となる死亡前後の関係機関・団体の対応について考え方や事務的手順をまとめたマニュアルを作成し,関係機関・団体で共有したことで,医療や介護の提供体制や専門職の人材が十分でない外海小離島であっても,複数の事例の看取り支援を行うことができた。さらに,これらの看取りを行う過程で生じた課題や成果を,関係機関・団体で情報共有,再検討し,マニュアルの改訂を行った。今後,地域や住民のニーズに即した看取り支援が行われることが期待される。結論 外海小離島という厳しい地域特性を踏まえながらも,現実的な支援を行うためにマニュアルの必要性は高い。また,村が主体となって進めるマニュアル作成や改訂作業のなかで,地域特性の分析・評価,協議の場の確保,広域に及ぶ医療機関や県,国の機関との調整など,保健所が果たすべき役割は重要であることが確認された。
著者
林 千景 前馬 理恵 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.107-115, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
30

目的 住民の健康づくりには,個人への保健指導だけでなく,住民組織と協働した活動が有効とされ,住民組織である健康推進員(以下,推進員)の活動が注目されている。本研究は,現在活動している推進員(以下,現推進員),過去に推進員を経験した者(以下,既推進員),推進員を経験したことのない者(以下,非推進員)によるヘルスリテラシー,ソーシャルキャピタル,健康行動の特徴を明らかにし,推進員の育成について検討する資料を得ることを目的とした。方法 A町の現推進員87人,2009年4月~2015年3月の間に推進員を経験した既推進員158人,非推進員299人に,郵送による無記名自記式質問紙調査を行った。現推進員54人(有効回答率62.1%),既推進員69人(43.7%),非推進員136人(45.5%)から回答を得た。調査内容は,属性,現推進員および既推進員の活動状況,主観的健康観,健診(検診)の受診の有無,ヘルスリテラシー,ソーシャルキャピタル,健康行動等について質問した。結果 ヘルスリテラシー得点,ソーシャルキャピタル得点,健康行動得点のいずれの得点も現推進員,既推進員,非推進員間に有意な差は認められなかった。現推進員は,活動を「行政が企画する行事の手伝い」と感じている者が多かった。現推進員は地域の人々への働きかけと,主観的健康観で「健康」と感じている者が既推進員および非推進員に比べて有意に多かった。結論 推進員の育成にあたっては,推進員活動を主体的に取り組めるように支援することが必要である。
著者
村上 義孝 西脇 祐司 金津 真一 大庭 真梨 渡辺 彰
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.20-24, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
17

目的 23価の肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(以下PPSV23)は現在高齢者に定期接種されているが,事業の運用は地方自治体に一任されており,被接種者への助成額や啓発活動等は各自治体によって様々である。今回,65歳高齢者の接種率および各自治体の接種啓発活動の実態について全国調査を実施したので報告する。方法 2016年6月から8月に全国地方自治体1,741を対象とし,自記式調査票による郵送およびウェブベースの調査を実施した。調査項目には各自治体のPPSV23接種者数,当該自治体の65歳対象数,ワクチン接種に対する個別通知の有無,回数,実施月,PPSV23の接種啓発活動,接種者の自己負担額を含めた。調査票の記入は地方自治体の保健担当部局の担当者が調査票に記入する形で調査を実施した。結果 本調査の有効回答率は58.0%であった。PPSV23接種率の全国平均値は40.8%,自己負担額の中央値は3,000円であり,自治体間のバラツキが見られた。個別通知を実施する市町村は全体の85%で,多くは4月に1回実施していた。接種啓発活動として自治体の広報紙やホームページが多い傾向がみられた。結論 65歳高齢者を対象にPPSV23接種率,地方自治体の同ワクチン接種啓発活動に関する全国調査を実施した結果,高齢者対象とした同ワクチン接種および,その啓発活動の全国的な傾向が明らかになった。
著者
小林 真朝 麻原 きよみ 大森 純子 宮﨑 美砂子 宮﨑 紀枝 安齋 由貴子 小野 若菜子 三森 寧子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.25-33, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
14

目的 公衆衛生看護の倫理に関するモデルカリキュラム・教育方法・教材開発のために,全国の保健師養成機関における倫理教育に関する実態を把握することを目的とした。方法 全国の保健師養成機関(専修学校(1年課程の保健師養成所,4年課程の保健看護統合カリキュラム校),短大専攻科,大学)229校に質問紙を送付し,公衆衛生看護教育を担当する教員に回答を求めた。 質問紙の内容は,回答者および所属機関の属性や保健師資格教育の形態のほか,公衆衛生看護の倫理の独立・関連科目の有無と導入予定,公衆衛生看護以外の倫理科目,公衆衛生看護の倫理を学ぶことの重要性や望ましい対象など,担当できる教員の有無やその研修の必要性,教育にあたって必要な資源,公衆衛生看護の倫理として扱う内容などを尋ねた。回答は変数ごとの記述統計量を算出するとともに,自由記載の内容分析を行った。結果 全国の保健師養成機関に質問紙を送付し,89校(回収率38.9%)から回答を得た。保健師養成機関の内訳は大学78.7%,短大専攻科4.5%,専修学校9%であった。公衆衛生看護の倫理の独立科目はなく,9割近くは導入予定もなかった。42.7%が科目の一部で公衆衛生看護倫理を扱っていた。公衆衛生看護倫理を学ぶ重要性については「非常に重要・ある程度重要」を合わせて9割であった。58.4%が保健師教育において公衆衛生看護の倫理に関する授業を必須化する必要があると回答したが,倫理教育を担当する教員については4割以上が「いない」と回答した。教員の研修は8割以上が必要と答え,必要な研修形態は「専門職団体や学会などによる学外研修」が8割と最も多かった。必ず行う必要があると思われる公衆衛生看護の倫理教育の内容の上位は「公衆衛生看護実践者としての職業倫理」,「健康と基本的人権」,「個人情報とその保護」,「公衆衛生看護における倫理」,「公衆衛生看護における倫理的自己決定」であった。結論 公衆衛生看護倫理教育はその必要性は高く認識されているものの,実施率は低かった。モデルカリキュラム,教材,教授できる教員が不足していること,教授が必要とされる公衆衛生看護の倫理の教育内容が体系化されていない現状が明らかになった。公衆衛生看護倫理の定義の合意形成と,モデルカリキュラムと教育方法,教材の開発,教員の養成が急務であると考えられた。
著者
松田 光子 森鍵 祐子 細谷 たき子 小林 淳子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.10-19, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
27

目的 新任期保健師の集団・地域を対象とした実践能力の到達度を把握し,家庭訪問の実施状況,指導体制,家庭訪問に対する認識との関連を明らかにすることを目的とした。方法 山形県内の行政保健師で,新任期(1∼5年)保健師64人を対象とし,無記名自記式質問紙調査を行った。調査項目は,基本属性,家庭訪問の実施状況と指導体制,家庭訪問に対する認識,および新人看護職員研修ガイドライン∼保健師編∼の保健師到達目標項目のうち専門職としての能力Ⅱである集団・地域を対象とした実践能力の14項目とした。14項目の到達度について「ひとりでできる」を100,「ひとりでできない」を0とするVASで自己評価による回答を求め,独立変数との関連をt検定,Pearsonの相関係数により分析した。結果 有効回答数は52人であった。家庭訪問の指導体制との関連では同行訪問の経験がある者はない者より集団・地域を対象とした実践能力である「健康課題に気づく」,「人々の力を見出す」,「目標設定と方法の選択」,「活動の評価」の到達度が有意に高かった。訪問記録を提出している者は「健康危機管理体制の理解説明」,「健康危機対応の理解説明」の到達度が有意に高く,訪問記録提出時の上司のアドバイスがある者は「アセスメント」の到達度が有意に高かった。家庭訪問の認識との関連では「対象の生活に合わせて行う活動である」,「家族全員の健康を考えながらの活動である」,「多職種と協働しながらの活動である」と認識する者ほど「目標設定と方法の選択」の到達度が有意に高かった。結論 同行訪問や記録の提出,記録提出時のアドバイス,保健師の家庭訪問に対する認識が新任期保健師の集団・地域を対象とした実践能力に関連することが明らかとなった。
著者
栗田 順子 長洲 奈月 髙木 英 渡邉 美樹 中村 裕樹 入江 ふじこ 本多 めぐみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.3-9, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
19

目的 2015年9月の関東・東北豪雨により,茨城県では常総市を中心に大規模な水害が発生し,多数の避難所が設置された。県では発災直後から「避難所サーベイランスシステム」を用いて,避難所における感染症の発生状況を把握したので報告する。方法 発災日の9月10日から,県庁保健予防課が中心となり,避難所サーベイランスを開始した。東日本大震災時のそれを参考として,情報収集項目は,報告日,市町村名,担当者名,避難所名のほか,急性下痢症,インフルエンザ,急性呼吸器感染症(インフルエンザ以外),創傷関連感染症,麻しん等,破傷風,その他の発症者の有無と定めた。各市町村が避難所の有症状者の発生状況を把握し,管轄保健所を通じて県庁保健予防課に報告することとした。その後,発災日の夜にはウェブ上の既存の避難所サーベイランスシステムに避難所登録を完了させ,システム入力画面に合わせて報告項目および報告様式を変更した。結果 報告項目の変更等を行いながら,行政関係者がウェブ上のシステムへ入力された情報を共有できるよう体制を整え,一次避難所が閉鎖された12月8日まで避難所サーベイランスを実施・運用した。避難所開設期間中,咳,鼻水などの急性呼吸器症状を呈する避難者が継続的に発生した避難所や11月下旬に流行性耳下腺炎の発症者が報告された避難所がみられたが,大規模な集団発生は観察されなかった。発災当日からサーベイランスを開始したことで,避難所の感染症発生状況について迅速な情報収集が可能となり,市町村や保健所の担当者間で情報を共有することが出来た。結論 今回,ただちに避難所サーベイランスを立ち上げ,その後も継続的に避難者の健康状態を継続的に監視できたことは大きな成果であった。これは,県地域防災計画に基づいて策定された茨城県保健福祉部災害対策マニュアルに,避難所サーベイランスの実施が明記されていたことによるところが大きい。一方でその実施に当たっては,細かい手順を定めておらず,報告方法や項目が二転三転した。今後の茨城県の災害,あるいは全国での災害においても,実施要項の策定が必要であると考える。またそれらを関係者が熟知し避難所開設と同時に避難所サーベイランスが稼働できるよう防災訓練の項目に盛り込むことが必要である。