著者
石田 実知子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.33-41, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
30

目的 本研究は,高校生の自他への暴力行動の予防的介入に関する知見を得ることをねらいとして,自他への暴力行動に対するレジリエンスと反すうおよび怒りとの関連について検討することを目的とした。方法 高校生1年生~3年生327人に対して無記名自記式質問紙調査を実施した。有効回収数は280票(85.6%)であった。これらのデータに対し,レジリエンスが直接的に暴力行動に影響すると同時に,反すう,怒りを通して自他への暴力行動に影響するとした因果関係モデルを仮定し,そのモデルの適合性と変数間の関連性について構造方程式モデリングを用いて解析した。上記モデルには統制変数として性別・学年を投入した。結果 仮定した因果モデルのデータへの適合度はCFI=0.980,RMSEA=0.043であった。変数間の関連性に着目すると,レジリエンスと反すうおよび自他への暴力行動間に統計学的に有意な負の関連性が認められた。一方で反すうと怒り,怒りと自他への暴力行動間は統計学的に有意な正の関連性が認められた。本分析モデルにおける暴力行動に対する寄与率は82.9%であった。なお,統制変数のうち性別のみレジリエンスと正の,暴力行動と負の統計学的に有意な関連性が認められた。結論 構造方程式モデリングを用いた分析の結果,レジリエンスは,反すうを低減させると同時に直接的に自他への暴力行動を低減させることが明らかとなった。また,反すうは怒りを介して自他への暴力行動に強い影響を与えていることが示された。レジリエンスを高めることや,怒りを増強させる反すうを抑制することが予防的介入に有効であることが示唆された。
著者
和田 耕治 太田 寛 阪口 洋子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.259-265, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
26

目的 新型インフルエンザ A(H1N1)2009が海外で発生した初期に,わが国では停留措置が行われた。停留は,国民の安全•健康を守るための措置である一方,個人の行動を数日間にわたって制限することになるため,人権を最大限尊重して最小限の人を対象に行うべきである。本研究では,今後新たに発生した新型インフルエンザの流行初期において最適な停留措置を行うための意思決定のあり方について検討を行った。方法 インフルエンザの感染性や航空機などの公共交通機関での感染の事例,停留の有効性などに関する文献と新型インフルエンザ A(H1N1)2009の流行の初期において停留措置に関わった者へのインタビューから得られた知見をもとに検討を行った。結果 停留の意思決定をする際には,停留の必要性の検討,対象者を最低限にするための対応,対象者の人権確保,代替策について検討を行う必要がある。 必要性の検討では,新型インフルエンザが停留の対象とすべき公衆衛生上の脅威であるか,停留を行うことによって国内での流行のはじまりを遅らせることができる時期であるか,停留措置を緩和するまたは解除するなどの意思決定の場,を検討する。 停留対象者を最小限にするための対応については,感染者に曝露する人を出さないためにもインフルエンザ様症状のある者が航空機に搭乗しないよう国民への呼びかけ,対象者の選定が感染者との曝露に応じた決め方になっているかを検討する。 停留が必要と判断された際の対象者の人権確保については,停留期間が最短であるか,対象者の人権(個人情報,施設での快適性)は守られているか,対象者のメンタルヘルスや,慢性疾患などの治療への対応が確保できているか,外国人を停留する場合の各国言語を勘案した十分な説明ができているかを検討する。また,停留代替策の検討として自宅待機などの選択肢を検討する。結論 停留措置の意思決定は,流行の初期において判断が求められるため病原性などの情報は限られている。また,停留の意思決定を行うためのエビデンスは現段階で十分には得られていない。そのようななかで考慮すべき点を多面的に検討し,最適な停留措置を意思決定することが求められる。
著者
福田 吉治 林 辰美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.347-356, 2015 (Released:2015-08-27)
参考文献数
41
被引用文献数
5

目的 健康づくりに関するメッセージ(健康メッセージ)の受け止めやその反応は,個人の特性により異なると考えられる。本研究は,一般住民がどのような健康メッセージに効果があると認識しているかを明らかにし,基本的属性や社会経済的要因による認識の違いの有無を明らかにすることを目的とする。方法 山口県(山口市および岩国市)に在住する30~59歳の1,200人を無作為に抽出し,構造化質問紙を用いた郵送調査を行った。質問は,個人特性(性別,年齢,婚姻状況,学齢,世帯収入等),健康メッセージの効果の認識などにより構成した。健康づくりのテーマは,禁煙勧奨,がん検診勧奨,減量勧奨とし,それぞれに複数のメッセージを示し,もっとも効果があると思うものを選択してもらった。個人特性とメッセージの選択の関係を分析した。結果 445人より回答があった(回答率37.1%)。総じて,「健康影響」を示すメッセージに効果があると回答したものがもっとも多かった。性別や年齢に加えて,婚姻状況,学歴,収入はメッセージの効果の認識と有意な関係が認められた。禁煙勧奨での「受動喫煙」は高学歴,節酒勧奨での「依存症」は低収入,がん検診勧奨での「家族のため」と「自己負担」はそれぞれ低学歴と低収入と有意な関係があった。結論 勧奨する行動によって違いは認められるが,性別,年齢,婚姻状況,学歴,収入が健康メッセージの効果の認識と関連していた。このことから,健康メッセージの提供にあたり,社会経済的要因を含む個人特性を考慮することの必要性が示唆された。
著者
赤澤 正人 松本 俊彦 勝又 陽太郎 木谷 雅彦 廣川 聖子 高橋 祥友 川上 憲人 渡邉 直樹 平山 正実 亀山 晶子 横山 由香里 竹島 正
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.550-560, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
37
被引用文献数
1

目的 わが国の自殺者数は,平成10年に 3 万人を超えて以降,11年に渡りその水準で推移しており,自殺予防は医療や精神保健福祉の分野に留まらず,大きな社会的課題となっている。本研究では心理学的剖検の手法で情報収集がなされた自殺既遂事例について,死亡時の就労状況から有職者と無職者に分類し,その心理社会的特徴や精神医学的特徴の比較•検討を通じて,自殺既遂者の臨床類型を明らかにし,自殺予防の観点から有職者ならびに無職者に対する介入のポイントを検討することを目的とした。方法 心理学的剖検の手法を用いた「自殺予防と遺族支援のための基礎調査」から得られたデータをもとに分析を行った。調査は,自殺者の家族に対して独自に作成された面接票に準拠し,事前にトレーニングを受講した精神科医師と保健師等の 2 人 1 組の調査員によって半構造化面接にて実施された。本研究で用いた面接票は,家族構成,死亡状況,生活歴,仕事上の問題,経済的問題等に関する質問から構成されていた。なお,各自殺事例の精神医学的診断については,調査員を務めた精神科医師が遺族からの聞き取りによって得られたすべての情報を用いて,DSM-IVに準拠した臨床診断を行った。本研究では,2009年7 月中旬時点で23箇所の都道府県•政令指定都市から収集された自殺事例46事例を対象とした。結果 有職者の自殺者は,40~50代の既婚男性を中心として,アルコールに関連する問題や返済困難な借金といった社会的問題を抱えていた事例が多かった。無職者では,有職者に比べて女性の比率が高く,20~30代の未婚者が多く認められ,有職者にみられたような社会的問題は確認されなかった。また,有職者では死亡時点に罹患していたと推測される精神障害としてアルコール使用障害が多く認められたのに対して,無職者では統合失調症及びその他の精神病性障害が多く認められた。結論 自殺予防の観点から,有職者に対しては,職場におけるメンタルヘルス支援の充実,アルコール使用障害と自殺に関する積極的な啓発と支援の充実,そして債務処理に関わる司法分野と精神保健福祉分野の連携の必要性が示唆された。一方で,無職者に対しては,若い世代の自殺予防に関する啓発と支援の充実,統合失調症と自殺に関する研究の蓄積の必要性が示唆された。
著者
加藤 美生 石川 ひろの 奥原 剛 木内 貴弘
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.746-755, 2019-12-15 (Released:2019-12-25)
参考文献数
18

目的 複数の国や地域で事業展開する研究開発型多国籍製薬企業は,社会的貢献の対象である患者団体との繋がりが深い。社会的貢献の内容は多岐にわたり,寄付金や協賛費などの直接的資金提供から,企業主催の講演会などに伴う費用などの間接的資金提供,患者団体への依頼事項(原稿執筆や監修,調査)への謝礼,さらには社員による労務提供がある。研究開発型企業の場合,ユーザーである患者の声を生かし,より患者に寄り添った医薬品の開発が求められる。そのため,企業と患者団体との関係性に関する透明性を担保することは,あらゆるステークホルダーにとって重要である。本研究の目的は研究開発型多国籍製薬企業の社会的貢献活動と患者団体の関係の透明性を確保するための情報開示動向を,日米欧の業界団体規程を軸に把握することである。方法 欧州製薬団体連合会(EFPIA),米国研究製薬工業協会(PhRMA),日本製薬工業協会(JPMA)による「製薬企業と患者団体との関係の透明性」に関連する規程の記述内容について,「透明性」「対等なパートナーシップ」「相互利益」「独立性」の4概念を用いて質的帰納的に分析した。結果 記述内容のほとんどは「透明性」に関していた。最も具体的に記載されていたのはEFPIAの規程であり,患者団体の制作物内容への影響を与えないことや企業主催あるいは患者団体主催のイベントやホスピタリティに関する記載があった。3団体の規程とも財政支援や活動項目の目的や内容について,記録をとることを課していた。しかし,透明性の確保のための情報公開については,PhRMAでは必須とせず,JPMAでは明確な更新スケジュールについて明記がなかった一方,EFPIAでは年1回公開情報の更新を義務付けていた。「対等なパートナーシップ」については,相互尊重,対等な価値,信頼関係の構築などのワードが共に抽出された。いずれの規程も「相互利益」についての言及がなかった。「独立性」に関しては,いずれの規程も患者団体の独立性を尊重または確証することが記述されていた。結論 各団体が規程を示し,各会員会社による自発的な情報開示を推奨していたが,団体によりその詳細の度合いが異なっていた。業界団体の規程は会員会社のポリシーの基となることから,できるだけ詳細にかつ地域を超えて,同様の情報開示内容や規程が揃えられることが望まれる。
著者
兒玉 慎平 森 隆子 稻留 直子 米増 直美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.690-701, 2019-11-15 (Released:2019-11-26)
参考文献数
47

目的 常勤保健師数と非常勤保健師年間勤務延数を使用して,市町村保健師のマンパワーと市町村ごとの標準化死亡比(SMR, Standardized Mortality Ratio)の関連を明らかにすることを目的とした。方法 市町村ごとのSMRが公開されている人口1万人以上の1,225市町村を対象とした。対象を保健所設置のタイプで都道府県型と政令市型(政令指定都市・中核市・保健所政令市・特別区)に分け,SMR(全死因,三大疾病による死因)を従属変数,常勤保健師数,非常勤保健師年間勤務延数,その他の保健医療福祉資源を独立変数とした線形混合モデルによる分析を行った。結果 都道府県型,政令市型の全死因(男性,女性)と,都道府県型の悪性新生物(男性)と心疾患(男性),政令市型の悪性新生物(男性,女性)で,非常勤保健師年間勤務延数が多いほどSMRが低い結果となった。常勤保健師数とSMRの関連はみられなかった。結論 市町村保健師のマンパワーの増大が,住民の健康的な生活を向上させていることが示唆された。
著者
伊角 彩 藤原 武男 三瓶 舞紀子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.702-711, 2019-11-15 (Released:2019-11-26)
参考文献数
22

目的 本研究は,死亡率の高い乳幼児揺さぶられ症候群の予防のために厚生労働省が作成した乳児の泣きに関する教育的動画「赤ちゃんが泣き止まない」によって,乳児期の子どもをもつ親の泣きや揺さぶりに関する知識が向上するかについて効果検証を行うことを目的とした。方法 調査協力の得られた全国の29自治体が,2013年4月1日~2014年3月31日に3~4か月時の乳幼児健診などの機会を利用して1歳未満の子どもをもつ親を対象に教育的動画を視聴させ,その前後に配布した調査票データの2次解析を行った(N=1,444)。調査票を回収した1,354人(回収率93.8%)のうち,主たる変数の回答に欠損がない1,232人を分析対象とした。調査票では,泣きに関する知識を問う6項目(例:「赤ちゃんが泣いているときにいつもどこか具合が悪いサインだと思いますか」)と揺さぶりに関する知識を問う2項目(例:「泣き止ませるために赤ちゃんを激しく揺さぶることは,良い方法だと思いますか」)について4件法(0~3点)で親に回答を求めた。それぞれの知識に関して合計点(0~100点に換算)を求め,動画視聴の前後で比較した。また親・子ども・世帯の属性や妊娠・出産後の状況による層別化分析,さらに知識スコアの上昇分に関して回帰分析を行った。結果 動画視聴によって泣きに関する知識が12.4点(95%信頼区間:11.7-13.2),揺さぶりに関する知識が4.7点(95%信頼区間:3.9-5.6),有意に上昇した。親の年齢・性別,子の月齢・性別,第一子,婚姻状況,学歴,世帯収入,祖父母との同居,産後うつ,妊娠期からの家庭内暴力(DV),妊娠がわかったときの気持ち,居住地の規模に関してそれぞれ層別化した結果,既婚以外の群と身体的DV被害者群を除いたすべてのサブグループで,有意な知識の増加が確認された。また,動画視聴前後の知識上昇分をアウトカムとして重回帰分析を行ったところ,親の学歴が低い場合より高い方が泣きの知識の上昇分が高かった。揺さぶりに関しては,女性より男性の方が知識が増加し,また祖父母と同居している場合より同居していない方が知識が増加していた。結論 乳児の泣きに関する教育的動画の視聴は,3~4か月時の乳児をもつ親の属性や状況に関わらず,泣きや揺さぶりの知識を向上させる効果があることが確認された。
著者
木村 美佳 守安 愛 牧迫 飛雄馬 井平 光 古名 丈人
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.681-689, 2019-11-15 (Released:2019-11-26)
参考文献数
20

目的 食と運動の介護予防プログラムTAKE10!®を用いて,郵便を利用した通信型の介入を行い,集客型の介護予防教室で認められたような食習慣の変化が認められるかどうかを検証し,集客型の教室が開催できない地域や時期における本プログラムの活用について考察する。方法 北海道の積雪寒冷過疎地域3町村に在住の70歳以上の高齢者143人(平均年齢77.6±5.0歳,男性45人,女性98人)を郵便による通信型介入を5か月間行う介入群(72人)と行わない対照群(71人)に無作為に割付け,このうち,介入前後の調査会に出席し,質問紙を提出した介入群48人,対照群37人を解析対象者とし,介入前後の質問紙による調査(10の食品群の摂取頻度,Dietary Variety Score (DVS), Food Frequency Score (FFS))から食習慣を比較した。また,介入群を調理従事群と非従事群に分け,両群のDVS,FFSの変化を解析した。結果 介入群は介入前と比較して介入後に,9食品群の摂取頻度,DVS,FFSが有意に増加したが,対照群には有意な変化が認められず,2群間における交互作用が認められた。また,調理従事群,非従事群の両群においてDVS,FFSは介入前後で有意に増加した。結論 TAKE10!®プログラムは,通信型の介入が受け入れ可能な対象者において,集客型と同様な食習慣の変化ならびに,同一世帯内での共有を期待できると考えられ,集客型の教室が開催できない地域や時期においての活用は有効であると思われる。
著者
森 久栄 黒田 研二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.658-662, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)

第66巻第3号(2019年3月15日発行)「乳児院,児童養護施設における食物アレルギー児の在籍状況および給食対応の実態:ガイドライン•マニュアルの有無別の比較(森久栄,黒田研二)」(2019; 66(3): 138-150)に表記の誤りがありましたので以下のとおり訂正いたします。 正誤 下線部分が訂正箇所 本文 P140 右下 【誤】68.0% ⇒ 【正】67.9% P145 左下 【誤】サーベランス ⇒ 【正】サーベイランス 文献 P149 左 【誤】サーベランス ⇒ 【正】サーベイランス
著者
田口 敦子 森松 薫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.649-657, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
16

目的 人々が望む住み慣れた自宅を最期の場所に選択できるよう在宅医療を整備することは必要不可欠である。地域包括ケアシステムの構築の中でも,在宅医療の体制整備を目的とした福岡県在宅医療推進事業の評価に焦点を当て,事業開始後5年目に行った事業評価の見直しや評価指標の設定方法について報告することを目的とした。これにより,今後在宅医療や事業評価に取り組む自治体が中長期的な見通しを持つのに有益な資料になり得ることを目指した。方法 事業開始5年目に当たる平成26年に事業評価の見直しを行った。見直しでは,まず,事業評価の実態を把握することを目的に9か所の全保健所の事業担当者を対象に自記式質問紙調査を実施した。実施時期は平成26年7月であった。事業評価の実施状況,評価内容の妥当性について尋ねた。その結果を基に,在宅医療推進事業を経験した保健師7人と筆頭著者が中心となって事業評価の見直しを行った。とくに評価の改善プロセスがうまくいった事例である福岡県糸島保健福祉事務所では,医師,歯科医師,薬剤師,訪問看護師,市職員等で構成される在宅医療推進協議会で評価指標の目標値や測定方法を検討の上,評価を実施した。活動内容 事業開始5年目現在,全保健所で共通して活用されていた事業評価のための様式は,訪問看護事業所用のアンケートのみであった。活用されていない理由として,アンケートのボリュームの多さや評価の時間的確保の難しさ等が挙げられていた。これらの結果を受け,事業評価が①事業担当者やアンケートの回答者に負担がかかり過ぎずに実施できること,②在宅医療の推進状況や地域特性に応じて実施できること,③次期目標設定の方向性がより具体的に検討できることの3点に改善ポイントを置き検討を行った。改善後の事業評価方法は,地域の関係機関に保健所から目標値や測定方法を一方的に提示するのではなく,目標値や測定方法等を在宅医療推進協議会で話し合って決定した。このような方法をとることによって,関係機関が主体的に課題や目標を捉えられるようになった。結論 福岡県在宅医療推進事業の事業評価を事業開始5年目で見直すことにより,実効性や継続性の高い事業評価に改善することができた。在宅医療の推進は全国に共通する喫緊の課題であることから,本報告は,今後本事業に取り組む自治体が長期的な見通しを持つのに役立つと考えられる。
著者
中村 好一 松原 優里 笹原 鉄平 古城 隆雄 阿江 竜介 青山 泰子 牧野 伸子 小池 創一 石川 鎮清
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.72-82, 2018

<p><b>目的</b> 地方紙における遺族の自己申告型死亡記事の記載事項を集計し,その地域での死亡やそれに伴う儀式の実態を明らかにするとともに,死亡記事のデータベースとしての利点と問題点を明らかにする。</p><p><b>方法</b> 栃木の地方紙である下野新聞の自己申告型死亡記事「おくやみ」欄に掲載された2011~2015年の栃木県内の死亡者全員のデータを集計解析し,一部の結果は人口動態統計と比較した。観察項目は掲載年月日,市町村,住所の表示(市町村名のみ,町名・字まで,番地まで含めた詳細な住所),氏名,性別,死亡年月日,死因,死亡時年齢,通夜・告別式などの名称,通夜などの年月日,告別式などの年月日,喪主と喪主の死亡者との続柄の情報である。</p><p><b>結果</b> 観察期間中の掲載死亡者数は69,793人で,同時期の人口動態統計による死亡者数の67.6%であった。人口動態統計と比較した掲載割合は男女で差がなく,小児期には掲載割合が低く,10歳代で高く,20歳台で低下し,以降は年齢とともに上昇していた。市町別の掲載割合は宇都宮市や小山市など都市化が進んだ地域では低く,県東部や北部で高い市町がみられた。最も掲載割合が高かったのは茂木町(88.0%),低かったのは野木町(38.0%)であった。死亡日から通夜や告別式などの日数から,東京などで起こっている火葬場の供給不足に起因する火葬待ち現象は起こっていないことが判明した。六曜の友引の日の告別式はほとんどなく,今後,高齢者の増加に伴う死者の増加によって火葬場の供給不足が起こった場合には,告別式と火葬を切り離して友引に火葬を行うことも解決策の1つと考えられた。死亡者の子供,死亡者の両親,死亡者の子供の配偶者が喪主の場合には,喪主は男の方が多いことが判明した。老衰,自殺,他殺の解析から,掲載された死因の妥当性は低いことが示された。</p><p><b>結論</b> 栃木県の地方紙である下野新聞の自己申告型死亡記事「おくやみ」欄の5年分の観察を行い,実態を明らかにした。約3分の2に死亡が掲載されており,データベースとしての使用に一定の価値があると考えられたが,記載された死因の妥当性は低いことが判明した。</p>
著者
吉岡 京子 黒田 眞理子 篁 宗一 蔭山 正子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.76-87, 2019

<p><b>目的</b> 精神障害者の子を持つ親が,親亡き後の当事者の地域での生活を見据えて具体的にどのような準備をしているのかを明らかにすることを目的とした。</p><p><b>方法</b> 関東近郊に在住の精神障害者の子を持つ親22人に対して2016年12月から2017年2月までインタビュー調査を行った。インタビューデータは質的帰納的に分析し,逐語録から親が行っている準備に関する記述をコードとして抽出した。コードの意味内容の類似性と相違性を検討し,類似するコードを複数集めて抽象度を上げたサブカテゴリとカテゴリを抽出した。なお各々のカテゴリをさらに類型化し,なぜその準備が行われたのかという目的を考察した。</p><p><b>結果</b> 研究参加者のうち父親が9人(40.9%),母親が13人(59.1%)であった。彼らの年代は60歳代が9人(40.9%),70歳代が10人(45.5%),80歳代が3人(13.6%)であった。</p><p> 親亡き後の当事者の生活を見据えた具体的な準備として10カテゴリが抽出された。すなわち 1)自分の死を予感し,支援の限界を認識する,2)親の死について当事者との共有を試みる,3)自分の死後を想定し,当事者に必要な情報や身辺の整理を進める,4)親族に親亡き後の当事者の生活や相続について相談するとともに,社会制度の利用を検討する,5)当事者の住まいと生活費確保の見通しをつけようとする,6)親が社会資源とつながり,当事者の回復や親自身の健康維持に努める,7)当事者の病状安定や回復に向けて服薬管理や受診の後押しをする,8)当事者が自分の力で生活することを意識し,生活力を把握する,9)当事者の生活力や社会性を育み,親以外に頼れる人をつくる,10)当事者が楽しみを持つことすすめ,就労を視野に入れて支える,であった。親は,親亡き後に残された当事者が生活する上で困らないようにすることと,当事者が地域で安定して暮らすことを目的として準備を進めていた。</p><p><b>結論</b> 親が自分の死後を視野に入れて当事者の地域での生活に向けた具体的な準備を進めるためには,当事者の自立生活の必要性を意識することの重要性が示唆された。</p>
著者
瀬畠 克之 杉澤 廉晴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1025-1029, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
31
被引用文献数
4

質的研究は社会的経験や自らの感覚を通じて社会事象を科学的に把握できるという世界観に基づき,数値では把握できない社会事象を対象にした分析方法といえる。しかし,質的研究では一般性や代表性が必ずしも問われないこと,あるいは妥当性などの検証が難しいことなどから,量的研究者を中心に質的研究に対する不信感が残っている。 公衆衛生では健康に関する諸問題を人間や人間を取巻く社会という観点から研究するため,従来の量的研究とともに質的研究を行うことによって公衆衛生の研究に新たな切り口を提供する可能性がある。そのためには,誰もが簡単に行えしかも妥当性が検証された質的研究の標準化プロセスを作ること,あるいは,公衆衛生分野における質的研究の論文形式や査読方法などを幅広く議論することが重要である。 日本の質的研究はその概念や手法が混乱している状況にあり,それらの諸問題を整理し,さまざまな立場の考え方をとりまとめる必要がある。今後,日本公衆衛生学会総会での自由集会などを利用して質的研究をめぐる諸課題を議論したり,学会誌を通じて議論の成果を公表することなどによって,公衆衛生分野における質的研究者の層を厚くし,質の高い質的研究を行う環境の整備を図ることができるものと思われる。
著者
吉益 光一 藤枝 恵 原田 小夜 井上 眞人 池田 和功 嘉数 直樹 小島 光洋 山田 全啓 窪山 泉
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.547-559, 2019-09-15 (Released:2019-10-04)
参考文献数
55

目的 精神科救急医療体制の構築と関連する法律の整備に関して,現代の日本における課題を明らかにし,解決策を探ること。方法 日本公衆衛生学会モニタリング・レポート委員会精神保健福祉分野のグループ活動として,2014年度から2017年度にかけて精神科救急および措置入院に関する情報収集を行った。各年次総会に提出した報告書を基に,必要に応じて文献を追加した。結果 地域における精神科医療資源の偏在や,歴史的な精神疾患に関する認識の問題なども絡んでいるため,全国均一的な救急医療システムの構築のためには越えなければならないハードルは高い。また,強制入院の中で最も法的な強制力が強い措置入院制度に関しては,その実際的な運用を巡って全国でも地域差が大きいために,精神保健福祉法に,より具体的な記載が盛り込まれるとともに,厚生労働省から一定のガイドラインが提示されている。とくに近年は凶悪犯罪事件との関連を巡って,社会的にも関心が高まっており,一部では措置入院の保安処分化を懸念する声が上がっている。精神疾患は今や五大疾病の一つに位置づけられているが,その性質上,生活習慣病などに比べて,疫学的エビデンスが圧倒的に不足しており,これが臨床や行政の現場での対応に足並みが揃わない主要因であると考えられる。結論 日本公衆衛生学会は,医療・福祉・行政などに携わる多職種から構成される学際的な組織である強みを活かして,多施設共同の疫学研究を主導し,措置入院解除および退院後の予後に関する,すべての関係自治体が共有しうるデータベースとしての疫学的エビデンスの構築を推進する役割を担っている。
著者
小玉 かおり 伊藤 俊弘
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.574-581, 2019-09-15 (Released:2019-10-04)
参考文献数
19

目的 本研究は,がん患者の休職関連要因およびQOLを明らかにし,わが国のがんと就労の問題に対する示唆を得ることを目的とする。方法 北海道内で通院治療中の成人がん患者(20~64歳)に,自記式質問票による調査を実施した。調査項目は基本属性,がん関連属性およびQOL(SF-12v2日本語版)とした。 就労者を休職群と仕事継続群に分類し,QOLは8下位尺度とこれらから集計した3つのコンポーネントサマリーを比較検討した。各がん関連因子に対する休職の有無の関連について,基本属性の傾向スコアを算出して調整変数とし,このスコアを休職の有無とともに独立変数へ投入することで,がん関連属性に対する休職の有無をロジスティック回帰分析または重回帰分析を用いて検討した。結果 有効回答が得られた147人のうち就労者は79人で,このうち休職群が29人(36.7%),仕事継続群が50人(63.3%)であった。休職関連要因について傾向スコアを用いたロジスティック回帰分析にて解析した結果,「告知から6か月未満」における休職群のオッズ比は「6か月以上」に対し17.9倍高いことが示された(P=0.001)。また,「手術を受けていない者」は「手術を受けた者」よりもオッズ比が3.9倍高くなる傾向が示された(P=0.011)。 休職群のQOLは,8項目中7項目で国民標準値よりも低値を示した。仕事継続群との比較ではすべての項目で休職群の平均値が低く,このうち6項目は有意な低値を認め,とくに日常役割機能(身体・精神)に顕著であった。休職群のコンポーネントサマリーは,仕事継続群よりも役割/社会的側面(RCS)および身体的側面(PCS)のスコアが有意に低値であった。結論 就労中のがん患者を休職群と仕事継続群に分け,休職関連要因およびQOLを検討した。その結果,休職群は「がん告知から6か月未満」および「手術を受けていない者」が関連しており,さらに休職群のQOLは仕事継続群に比して低く,とくに身体的側面(PCS)と役割/社会的側面(RCS)が低いことを認めた。以上から,がん患者の就労支援には,これらの特性に配慮することが必要であることが示唆された。
著者
田口 敦子 備前 真結 松永 篤志 森下 絵梨 岩間 純子 小川 尚子 伊藤 海 村山 洋史
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.582-592, 2019-09-15 (Released:2019-10-04)
参考文献数
16

目的 地域で介護予防活動を行う住民を養成する,介護予防サポーター養成プログラムの多くは,市町村の経験値で組み立てられている現状がある。そのため,必ずしも効果的・効率的に養成を行えている市町村ばかりではない。本稿では,まず,文献検討を行い,養成プログラムのプログラム内容や評価指標等を定める視点を明らかにした。その上で文献検討を基に養成プログラムを作成し,効果を検討した。方法 養成プログラムの文献検討を行い,その結果を基に養成プログラムを作成した。岩手県大槌町を対象地域とし,2017年6~9月に地域包括支援センターの保健師3人と研究者4人とで,養成プログラムを作成した。その後,2017年10~11月に養成プログラムを実施した。評価では自記式質問紙を用い,毎回の終了後に満足度等を尋ねたプロセス評価と,全プログラム前後に,地域課題の理解度等を尋ねたアウトカム評価を行った。活動内容 文献検討から,養成プログラムは,企画者によって予め介護予防サポーターに求める活動が定まっているタイプ(タイプA)と,活動内容を参加者と一緒に具体的に考えていくタイプ(タイプB)の二つに分けられた。プログラム内容の特徴として,タイプAでは,プログラム終了後に介護予防活動に移るための具体的な知識や技術の習得を目的とした内容が多かった。タイプBでは,地域課題の認識を高める講義や演習,先駆的な活動の見学等,プログラム終了後の介護予防活動の内容を住民が考えて具体化できるような内容が多かった。 文献検討を踏まえ,大槌町では,地区の状況に応じた介護予防サポーターの活動方法を参加者が検討し取り組むことが重要であると考え,タイプBを参考に養成プログラムを検討した。アウトカム評価では,解析対象は12人であった。男性2人,女性10人,年齢は71.4±10.0歳[範囲:53-88]であった。プログラム前後のアウトカム指標の平均値の変化は,地域課題の理解度では3.1→4.1(P=0.046),自分自身の介護予防に取り組む自信では3.4→4.0(P=0.035)と有意に上昇していたが,地域の介護予防に取り組む自信では3.1→3.5(P=0.227)であり有意差は認められなかった。結論 文献検討で養成プログラムの目的や内容,評価指標等の視点を明確にし,その結果を基に実施したプログラムで一定の効果を得ることができた。
著者
黒谷 佳代 新杉 知沙 千葉 剛 山口 麻衣 可知 悠子 瀧本 秀美 近藤 尚己
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.593-602, 2019-09-15 (Released:2019-10-04)
参考文献数
24

目的 子ども食堂はボランティア等に運営され,子どもの社会的包摂に向けた共助のしくみとして注目されている。主なターゲット層である小・中学生の保護者を対象とした子ども食堂の認知に関する調査により,子ども食堂の地域における活用に関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法 小学校1年生から中学校3年生の保護者3,420人(平均年齢42.6歳)を対象に,2018年10月にインターネット調査を実施した。属性,子ども食堂の認知と認識,利用経験,今後の利用希望とその理由を質問項目とした。対象者を二人親低所得(世帯年収400万円未満)世帯父親,二人親中高所得(400万円以上)世帯父親,二人親低所得世帯母親,二人親中高所得世帯母親,ひとり親世帯父親,ひとり親世帯母親に分け,群間の差は χ2 検定により検定を行った。結果 子ども食堂の認知割合は全体の69.0%で,男性に比べ女性で高く,とりわけ二人親中高所得世帯母親で79.7%と高かった(P<0.001)。メディアで子ども食堂を知った者が87.5%で,子どもが一人でも行けるところ・無料または数百円で食事を提供するところ・地域の人が関わって食事を提供するところという認識や,安い・賑やか・明るいなどポジティブなイメージを持つ者が多かった。しかし,子ども食堂を知っている者のうち,子ども食堂に本人もしくはその子どもが行ったことのある者はそれぞれ4.5%,6.3%であった。今後,子ども食堂に子どもを行かせてみたいと思うと回答した者は全体の52.9%で,世帯構成による利用希望に違いがみられ,低所得世帯とひとり親世帯母親では利用希望者が過半数である一方,中高所得世帯とひとり親世帯父親では過半数が利用希望しなかった(P<0.001)。その主な理由として,必要がない・家の近くに子ども食堂がない・家で食事をしたいなどがあったが,少数意見として生活に困っていると思われたくない・家庭事情を詮索されそう・恥ずかしいという理由があった。また,中高所得世帯では子ども食堂にかわいそうというイメージを持つ者が多かった。結論 本研究の小・中学生の保護者は子ども食堂に対してポジティブ・ネガティブの両方の認識をしており,その内容は世帯状況により異なっていた。理解の定着と普及のためには子ども食堂への負のイメージの払拭や子ども食堂へのアクセスの確保などの対応が必要と思われる。
著者
逢坂 隆子 坂井 芳夫 黒田 研二 的場 梁次
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.686-696, 2003

<b>目的</b>&emsp;近年都市部で急増しているホームレス者の,死亡前後の生活・社会経済的状況ならびに死因・解剖結果を明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;2000年に大阪市内で発生したホームレス者の死亡について,大阪府監察医事務所・大阪大学法医学講座の資料をもとに分析した。野宿現場を確認できているか,発見時の状況から野宿生活者と推測される者および野宿予備集団として簡易宿泊所投宿中の者の死亡をホームレス者の死亡として分析対象にすると共に,併せて野宿生活者と簡易宿泊所投宿者の死亡間の比較を行った。<br/><b>成績</b>&emsp;大阪市において,2000年の 1 年間に294例(うち女 5 例)のホームレス者(簡易宿泊所投宿中の者81例を含む)の死亡があったことが確認された。死亡時の平均年齢は56.2歳と若かった。死亡時所持金が確認された人のうちでは,所持金1,000円未満が約半数を占めていた。死亡の種類は,病死172例(59%),自殺47例(16%),餓死・凍死を含む不慮の外因死43例(15%),他殺 6 例(2%)であった。病死の死因は心疾患,肝炎・肝硬変,肺炎,肺結核,脳血管疾患,栄養失調症,悪性新生物,胃・十二指腸潰瘍の順であった。栄養失調症 9 例・餓死 8 例・凍死19例は全て40歳代以上で,60歳代が最多であった。これらの死亡者についての死亡時所持金は,他死因による死亡時の所持金より有意に少なかった。栄養失調症・餓死は各月に散らばるが,凍死は 2 月を中心に寒冷期に集中していた。全国男を基準とした野宿生活者男の標準化死亡比(全国男=1)は,総死因3.6,心疾患3.3,肺炎4.5,結核44.8,肝炎・肝硬変4.1,胃・十二指腸潰瘍8.6,自殺6.0,他殺78.9などいずれも全国男よりも有意に高かった。<br/><b>結論</b>&emsp;ホームレス者の死亡平均年齢は56.2歳という若さである。肺炎,餓死,凍死をはじめ,総じて予防可能な死因による死亡が極めて多く,必要な医療および生命を維持するための最低限の食や住が保障されていない中での死亡であることを示唆している。
著者
宮脇 梨奈 石井 香織 柴田 愛 岡 浩一朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.85-94, 2017 (Released:2017-03-16)
参考文献数
44
被引用文献数
2

目的 主要メディアのひとつである新聞に掲載されたがん予防関連記事の掲載頻度およびその内容について検討することを目的とした。方法 2011年に発行された全国紙 5 紙(読売,朝日,毎日,日本経済,産経新聞)の朝夕刊に掲載されたがん予防関連記事を対象に,掲載紙,掲載月,朝夕刊,情報元を確認した。その上で,予防記事に対しては,人のがんにかかわる要因の記載の有無,そのうち生活習慣関連要因(喫煙,食物・栄養,飲酒,運動・身体活動,肥満)が記載された記事では予防,リスク,推奨基準の記載の有無,および詳細内容を確認した。検診記事に対しては,検診部位,対象者,受診間隔の記載の有無,および受診を促進する内容であるかを確認した。結果 がん予防関連記事は全国 5 紙のべ272件(がん関連記事全体の5.1%)確認され,そのうち予防は208件で取り扱われていた。また,記載された人のがんにかかわる要因では,食物・栄養が56件,持続感染が40件,喫煙が32件と多かった。生活習慣関連要因の中でも飲酒(12件),運動・身体活動(11件),肥満(10件)は少なかった。また,食物・栄養以外では予防よりもリスクの取り扱いが多く,推奨基準の記載はのべ13件であった。一方,検診について取り扱う記事は92件であった。その中では,乳がん検診が31件と最も多く,その他のがん検診は20件に満たなかった。また,検診対象者や受診間隔は7件,検診受診を促進する内容は39件の記事で記載されていた。結論 新聞においてがん予防関連記事は取り上げられているものの十分とは言えず,掲載されていた記事においても取り扱われる生活習慣関連要因や検診部位には偏りがあり,具体的な基準を示す記事は少ないことが明らかとなった。新聞の影響力を考えると,今後はいかに,具体的な予防行動やその基準,検診対象者や受診間隔などを含めた記事の取り扱いを増やしてもらうかを検討する必要性が示唆された。
著者
井上 武夫 林 典子 津田 克也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.103-108, 2004 (Released:2014-08-29)
参考文献数
7

目的 平成 7 年に始まった愛知県瀬戸市の乳幼児期 BCG 接種技術改善努力が,小学 1 年のツ反陽性率に及ぼす影響を針痕数との関連で明らかにする。方法 平成12年,13年,14年の小学 1 年生3,409人のツ反発赤径と針痕数を計測した。BCG 未接種児童は除外した。結果 一人あたり平均針痕数は,平成12年1.8個,13年3.1個,14年6.3個であった。針痕を 1 個でも認めた児童は,平成12年25.1%, 13年38.1%, 14年70.5%であった。平成13年は12年に比べ,平成14年は13年に比べてそれぞれ有意に高率であった(P<0.001)。 ツ反陽性率は,平成12年32.5%, 13年36.5%, 14年63.7%であった。平成12年と13年とは有意差がなく,平成14年は12年および13年に比べ有意に高率であった(P<0.001)。 針痕なしの児童の陽性率は,平成12年29.4%, 13年33.1%, 14年56.1%,針痕ありの児童の陽性率はそれぞれ41.8%, 42.0%, 66.9%であり,針痕ありの児童の陽性率は針痕なしの児童より有意に高かった(P<0.005~P<0.001)。平成14年の針痕なしの陽性率は,12年および13年の針痕ありの陽性率より有意に高かった(P<0.001)。 針痕数 1~9 個と10個以上の陽性率は,平成12年40.2%と46.3%, 13年34.0%と55.7%, 14年63.9%と70.7%であった。平成14年の針痕 0 個の陽性率は12年の10個以上の陽性率より高値であった。 ツ反発赤径 5 mm 以上10 mm 未満(旧疑陽性)の児童は,平成12年32.8%, 13年30.2%, 14年20.0%であった。平成14年は12年および13年に比べて有意に低率であった(P<0.001)。 ツ反発赤径 5 mm 未満(旧陰性)の児童は,平成12年34.6%, 13年33.3%, 14年16.3%であった。平成14年は12年および13年に比べて有意に低率であった(P<0.001)。結論 乳幼児期の BCG 接種技術改善により小学 1 年のツ反陽性率を大きく高め,ツ反発赤径 5 mm 未満の旧陰性群を大きく減少させることができる。針痕数よりも針痕の残る児童の割合の方が全体の陽性率との関連が強い。平成14年は針痕なしの児童も高い陽性率を示したことから,管針を強く押すだけでなく,生菌を多く接種するための改善がなされたと推測できた。