著者
川原 信隆
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.216-219, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
30

要旨:近年の再生研究の進歩により,骨髄幹細胞やiPS 細胞などの移植治療が注目を集めている.一方で,内在性神経幹細胞からの再生療法も大きな可能性を秘めている.いずれにおいても神経損傷の形態によって局所環境は大きく異なり,細胞の生着・生存率は大きく変化すると考えられる.我々は,その点で利点があると思われる一過性前脳虚血モデルを用いて,内在性神経再生誘導の検討を加えてきた.その結果,海馬CA1 領域や線条体背外側域などの虚血に脆弱な部位での選択的神経細胞死に対しては,EGF,FGF-2 を用いた内在性神経幹細胞の賦活療法にて行動学上の改善につながる有意な再生を誘導することを示した.また,これらの経路に若干の修飾を加えることも,さらに効率的神経系分化を誘導可能であることがわかった.本療法がどの疾患に応用可能か,特に脳梗塞モデルでの検討などについて,今後のさらなる研究が望まれる.
著者
青島 千洋 小倉 浩一郎 立花 栄二 告野 正典 中根 幸実 住友 正樹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.363-369, 2011-05-25 (Released:2011-05-27)
参考文献数
19

Motor cortex stimulation(MCS)が脳卒中後慢性期の上肢麻痺を改善する可能性があり,われわれはこれまで25例のMCS治療を行ってきたが,今回MCSが即時改善効果を呈した2例を報告する.症例は56歳女性(脳梗塞後6カ月,左片麻痺)と49歳男性(視床出血後3年,右片麻痺)で,ともに中等度以上の上肢麻痺が見られた.Functional MRIで同定した運動野の硬膜外に刺激電極を設置し,その手術の翌日に電気刺激をONにすると麻痺側の肩挙上が改善し,OFFにすると元のレベルへ戻るという所見を両症例で観察した.7–10日後にはON-OFFの差がなくなり,改善は持続し,3カ月後のFugl-Meyer運動機能評価では,10点以上改善していた.MCSによる上肢麻痺改善の機序は不明であるが,今回の所見は,MCSがシナプス伝達への直接的な効果を有することを示唆するものと考えられた.
著者
青木 友浩 西村 真樹 片岡 大治 石橋 良太 森下 竜一 野崎 和彦 橋本 信夫 宮本 享
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.538-543, 2010-11-26 (Released:2010-12-03)
参考文献数
20

Cerebral aneurysm (CA) is a main cause of a lethal subarachnoid hemorrhage. Given the high incidence of CA in general population, the mechanisms of CA formation should be unlabelled and novel medical therapy for CA before rupture should be developed. The typical pathological feature of CA walls is the decrease of extracellular matrix (ECM). Decreased ECM results in the weakness of CA walls leading the enlargement and rupture of CA. In this article, we have reviewed the recent findings about the mechanisms of decreased ECM in CA walls mainly revealed by experiments using rodent CA models. ECM is the dynamic structure with the continuous synthesis and degeneration of matrix protein. In CA walls, the induced expressions of proteinases by chronic inflammation in arterial bifurcation are present and actively participated in the pathogenesis of CA. Further the synthesis of collagen is suppressed in CA wall through inflammatory stimulus in arterial walls. These results combined together indicate that both decreased synthesis and increased degeneration of ECM by chronic inflammation in CA walls contributes to CA formation. Further these results demonstrate the therapeutic potential of anti-inflammatory drugs for CA.
著者
亀田 知明 土井 宏 川本 裕子 城村 裕司 高橋 竜哉 児矢野 繁 鈴木 ゆめ 黒岩 義之
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.351-356, 2010-07-25 (Released:2010-09-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

脊髄梗塞の臨床像および予後について検討した.対象は1997年4月から2008年9月までに横浜市立大学附属2病院神経内科に入院した急性期脊髄梗塞患者14例である.発症年齢は中央値63歳,範囲は22から74歳,男7例,女7例であった.心血管疾患危険因子は高血圧6例,糖尿病5例,喫煙4例,心房細動0例,心血管疾患の既往2例で,6例ではいずれの危険因子も認めなかった.病変部位は,頸髄3例,頸胸髄3例,胸髄5例,胸腰髄が3例で,4椎体以上にわたる病変を7例で認めた.臨床像を分類すると前脊髄動脈症候群が11例,Brown-S quard症候群が1例,横断性梗塞が2例だった.初発症状は痛みが8例,脱力が4例,痺れが2例で,10例では24時間以内に症状がピークに達した.治療についてはステロイドが6例,抗血小板薬が5例,抗凝固薬が10例,7例ではこれらの治療を併用した.退院時に歩行が可能であったのは6例で,感覚障害は全例で残存した.排尿障害によって導尿あるいは膀胱バルーンカテーテルが留置されていた例は9例であった.女性,長軸方向に長い病変,横断性梗塞,脱力で発症した例では予後が悪い傾向がみられた.
著者
齋藤 司 相澤 仁志 澤田 潤 油川 陽子 片山 隆行 長谷部 直幸 林 恵充 安栄 良悟 佐藤 正夫 程塚 明
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.133-137, 2009-11-25 (Released:2010-03-29)
参考文献数
8
被引用文献数
6 1

【背景・目的】小脳梗塞の臨床的特徴を検討し,初期診療上の問題点を明らかにする.【方法】2006年1月1日から2008年12月31日までの3年間に,旭川医大病院Stroke teamが診療した脳卒中患者514例のうちの小脳梗塞患者22例(4.3%)を対象とした.【結果】典型的な小脳症状を全く呈さない症例,あるいは一つのみ呈する症例が8例(36.4%)見られた.3例が救急車を利用し発症後3時間以内に受診したにもかかわらず,当初小脳梗塞と診断されず神経内科や脳神経外科以外の病棟に入院した.その3例はいずれもめまいを主訴とし,構音障害と歩行障害が見られなかった.その他2例を合わせ全体の22.7% にあたる5例が,Stroke teamによる初期の診察を受けておらず,それが当初小脳梗塞と診断されなかった要因の一つと考えられた.【結論】めまいや嘔吐を主訴とする場合は,常に小脳梗塞である可能性を考慮する必要がある.Stroke teamによる早期の正確な神経学的診察が重要である.
著者
田中 智貴 猪原 匡史
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10608, (Released:2018-04-11)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

近年,脳卒中急性期治療,予防学の進歩により,脳卒中の再発率,死亡率は年々減少してきているが,依然として脳卒中が要介護の最大の要因となっており,脳卒中生存者の長期的QOL の向上が望まれている.脳卒中生存者のQOL に関わる因子としては,脳卒中による失語や麻痺等のdisability に加え,認知障害,抑うつ,感染症などが挙げられる.それに加えて,脳卒中後てんかんはQOL に影響する重要な合併症であり,脳卒中生存者の5~10%前後に認められると報告されている.本報告では,2015 年に当院の行った脳卒中診療施設(189 施設)におけるアンケート調査を通し,脳卒中後てんかんについての概説および診断,治療に関する現状やエビデンス,今後の課題について述べる.
著者
角田 亘 安保 雅博 清水 正人 笹沼 仁一 岡本 隆嗣 原 寛美 木村 知行 武居 光雄
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.274-280, 2013-07-25 (Released:2013-07-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

要旨:【目的】健側大脳への低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(以下,RTMS)と集中的作業療法(以下,OT)は,いずれも脳卒中後上肢麻痺に対する有効な治療的介入である.本研究では,これら2つの介入の併用療法の安全性と有用性を検討した.【方法】全国8つの施設に入院し本併用療法を施行された上肢麻痺を呈する脳卒中患者1,008人を対象とした.各対象は15日間の入院下で,20分間の低頻度RTMSと120分間の集中的OTからなる併用療法を計22セッション施行された.【結果】全患者が有害事象をみることなく本併用療法を完遂した.治療によりFugl-Meyer Assessment点数,Wolf Motor Function Testの課題遂行平均時間,Functional Ability Scale点数が有意に改善した.【結論】我々が考案した併用療法は安全であり,脳卒中後の上肢麻痺を改善する可能性が示唆された.
著者
岡本 定久 石原 大二郎 荒木 淑郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.48-50, 2013-01-20 (Released:2013-01-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

要旨:症例は41歳男性,配管工.40歳から高血圧,脂質異常症の既往あり.平成X年7月から建設中施設内での溶接作業に従事し,体重が5 kg以上減少した.8月某日,最高気温36度,湿度67%と炎暑下での屋外作業となった.午後から,手足のしびれ,有痛性筋痙攣を自覚した.帰宅時に筋痙攣・全身倦怠感が増悪し,その後から傾眠傾向となり当院救急外来を受診した.来院時,傾眠傾向,右眼球偏倚,左中枢性顔面神経麻痺,構音障害,左不全片麻痺,左半側空間無視を呈し,また,診察時有痛性筋痙攣を頻回に認めた.検査所見では,低Na性脱水を認めた.頭部MRIにて,右中大脳動脈領域に脳梗塞を認めた.本症例は,熱中症を契機に脳梗塞が発症したと考えられた.
著者
辻 将大 秋山 恭彦 杉本 圭司 上村 岳士 内村 昌裕 藤原 勇太 宮嵜 健史 永井 秀政
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.375-380, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
20

症例は66 歳の女性.30 秒~1 分間程度持続する一過性の右上肢脱力発作を繰り返し発症した.脳血管撮影により頸部頸動脈解離の診断に至った.患者には,約1 カ月前に頸部への鈍的外傷歴があった.急性期の脳虚血巣はMRI では認められず,MRI および造影CT において解離病変部内に明らかな血栓が同定できないこと,非脳虚血発作時の脳血流検査で脳血流低下や脳血流予備能低下も認められないことから,当初,脳虚血発作の発症機序を特定できなかった.血管内視鏡による病変部観察の結果,解離した血管壁が可動性を有するフラップ形状を呈しており,偽腔内へ流入する血流により解離フラップが血管腔を閉塞するように上昇運動する状態が観察されたことから,解離血管壁が間歇的に血管腔を閉鎖することが本症例の病態生理と推測された.頸動脈ステント留置術により解離血管壁を固定した結果,脳虚血症状は消失した.
著者
葛目 大輔 西本 陽央 佐島 和晃 小松 奏子 金子 恵子 山﨑 正博
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.44-46, 2018 (Released:2018-01-25)
参考文献数
9

症例は50 歳女性.2014 年10 月下旬(第1 病日)早朝,突然,回転性眩暈,右耳難聴を自覚し,当院に搬送された.神経学的所見では,左方向への回旋性眼振,右難聴を認めた.頭部MRI 拡散強調画像で小脳梗塞を認め,同日入院した.第22 病日に実施した脳血管造影検査では,右前下小脳動脈(AICA)は椎骨動脈から分岐し,右後下小脳動脈分岐部から椎骨動脈が狭小化していた.以上より,右椎骨動脈解離によって右AICA が閉塞し,内耳に虚血性障害を来した結果,難聴を呈したと判断した.第40 病日に当科を退院したが,現在も,難聴は残存している.
著者
石川 智彦 近藤 礼 山木 哲 毛利 渉 齋藤 伸二郎 長畑 守雄 嘉山 孝正
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.161-166, 2015 (Released:2015-05-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

要旨:症例は37 歳女性.テニス中に首を捻った際から頭痛が出現し,その後頭痛の増強,立位保持困難,構音障害を訴え救急搬送された.精査にて頸部左内頸動脈解離による脳梗塞を認め,抗凝固療法を行い経過良好であったが,第14 病日のMRI にて新たに頸部左椎骨動脈解離を認めた.無症候であったため抗凝固療法を継続し,第26 病日に退院し外来通院とした.発症5 カ月後には両血管とも正常に復していたが,発症6 カ月目に頭痛,めまいで救急搬送され,新たに頸部右内頸動脈解離を認めた.本邦では頸部動脈解離の再発例に関する報告が少なく,特に本症例のように約半年間で異なる頸部血管に3 回にわたり解離が出現した報告はない.本症例では3 カ所の解離部位がいずれも類似した高位であることから,発症時期は異なるものの1 回のminor neck injury が誘因となった可能性が考えられた.
著者
溝口 忠孝 津本 智幸 鶴崎 雄一郎 徳永 聡 桑城 貴弘 矢坂 正弘 岡田 靖
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.81-85, 2018 (Released:2018-03-23)
参考文献数
18

特発性内頸動脈解離に対し,頸動脈ステント留置術を行い,良好な転帰を得た1 例を報告し,その原因を考察する.症例は30 歳男性.患者は睡眠時に頸をかしげた状態で寝てしまう習慣があった.起床後入浴中に頸部痛,運動性失語,右半身麻痺を呈した.頭部MRI では左基底核と左前頭葉深部に微小梗塞を認め,MRA では左内頸動脈の偽性閉塞を認めた.諸検査から頸動脈解離に伴う偽性閉塞と診断し,来院時には無症候性であることから内科治療を選択した.しかし,第4 病日目に行った血管撮影でも内頸動脈偽性閉塞所見は全く改善していないため頸動脈ステント留置術を施行し,脳血流の改善を認めた.後遺症なく15 病日目に自宅退院となった.本症例では発症機序としては入眠時の特徴的な姿位による頸部の過伸展が関与していると考えられた.内頸動脈解離の発症機序に関して,十分な病歴,生活習慣の聴取をすることも肝要であると考える.
著者
外山 祐一郎 矢坂 正弘 桑城 貴弘 湧川 佳幸 齊藤 正樹 下濱 俊 岡田 靖
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.428-433, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

要旨:症例1 は63 歳男性.頸部回旋時より右後頭部痛を自覚した.右椎骨動脈に6 mm の拡張を認め,右椎骨動脈解離と診断した.出血や脳梗塞の所見なく,降圧療法を開始(150/90 から100/60 mmHg)した.後頭部痛は改善し第17 病日に消失し,第26 病日に退院した.症例2 は39 歳男性.起床時に正中後頭部痛を自覚した.第12 病日に当科受診.右椎骨動脈に9 mm の瘤形成を認め,降圧を行い(血圧120/60 から110/60 mmHg),後頭部痛は改善し第17 病日に消失し第23 病日に退院した.2~3 カ月後のMR 検査にて解離病変は症例1,2 ともに改善した.椎骨動脈解離急性期の降圧療法は頭痛や血行動態の改善に有効と考えられる.
著者
寺崎 修司 米原 敏郎 藤岡 正導 橋本 洋一郎 内野 誠
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.70-73, 1996-02-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

症例は既往疾患のない38歳, 男性.ゴルフ練習を4時間した後, 右後頸部痛が出現した.その2時間後から左上肢のしびれと歩行障害を自覚し, さらに2日後から吃逆が出現した。第4病日の入院時には症候学的に右延随外側症候群を呈していた.第5病日の右椎骨動脈造影で右後下小脳動脈がV2 portionから分岐し, 右椎骨動脈のV3 portionから両側椎骨動脈合流部までの血管壁不整を伴う狭窄 (string sign) とその直後の閉塞 (tapering occlusion) を認めた.この部位は第56病日には再開通していた.これらの所見は頭蓋外から頭蓋内までの椎骨動脈解離を示唆するものと考えられた.MRIにて下部延随外側の右側に梗塞巣を認めた.椎骨動脈解離の原因としてゴルフスウィングによる外力が考えられた.
著者
端 和夫
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.786-788, 2008-09-25
参考文献数
17
被引用文献数
1 2
著者
白井 慎一 水戸 泰紀 小松 博史 矢部 一郎 佐々木 秀直
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.408-412, 2011
被引用文献数
1

症例は17歳女性,既往に特記すべきことなし.2009年8月中旬,突然の右片麻痺が出現し,救急搬送された.初診時,中等度構音障害と右片麻痺あり,NIHSSスコアは11であった.MRI拡散強調画像で左レンズ核部に高信号域を,MRAにて左MCAのM1近位部の途絶を認めた.最終未発症確認時間後2時間52分にrt-PA療法を施行.使用直前のNIHSSスコアは12であったが,90分後には0に改善し,静注120分後のMRAで左M1再開通を確認した.第7病日に経食道心エコーで二次口欠損型の心房中隔欠損症を認め,発症1カ月後に開胸下で閉鎖術を施行した.その後,軽度の右上肢筋力低下を認めるのみで,日常生活動作は自立し,学業に復帰した.未成年発症例におけるrt-PA療法は報告症例数が少ないが,本例のように血栓溶解療法が奏功する場合もあるので,未成年発症例においてもrt-PA療法を治療の選択肢として考慮すべきである.
著者
松田 昌之 李 英彦 大橋 経昭 半田 譲二
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.257-263, 1997-08-25 (Released:2010-01-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血 (SAH) の発症は冬 (12月~2月) に多く, 秋 (9月~11月) に少なかった.1日のうちでは午前6時~9時および午後6時~9時に有意に高い二峰性を示した.発症時の身体活動・行動では談笑中・テレビ観賞中・自宅でくつろいでいる時など身体活動が特に活発とは思われない時の発症数が最も多いが, 費やす時間を考慮すると排便・排尿に関連しての発症率が最も高くなり, その他食事・飲酒, 入浴, 起床時・洗面・着替えなど日常生活動作に伴った発症率が高かった.勤務中, 家事仕事中の発症数も多かったが, 両者を仕事として合わせても従事時間を考慮すると仕事中の発症率は高くはなく, 仕事や労働によってSAHが生じやすいという医学的根拠は認められなかった.また, 既往症または入院時合併症として高血圧の合併率が最も高く, 特に若年群では対照群より高く, 脳動脈瘤破裂の危険因子である可能性が高いことが示唆された.
著者
橋本 洋一郎 伊藤 康幸
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.434-441, 2016 (Released:2016-11-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

要旨:潜因性脳卒中は病因不明の脳梗塞を指しており,脳梗塞全体の25%程度を占める.その原因としては,潜在性発作性心房細動,卵円孔開存,大動脈プラーク,がんなどがある.潜因性脳卒中では,①病歴(現病歴,既往歴,家族歴),特に発作性心房細動の既往歴,②症候の的確な把握,③ D-dimer やBNP の測定,④ 12 誘導心電図,心電図モニター,Holter 心電図検査,長時間の心電図モニター,⑤ MRI (拡散強調画像)・MRA,⑥経胸壁心エコーや頸部血管エコー,⑥経食道心エコーやTCD によるbubble study(卵円孔開存などの検出),⑦下肢静脈エコー,⑧遺伝子検査を含めた特殊な検体検査も行う必要がある.植込型心電図記録計などのtelemonitoring,冠動脈CT,高解像度動脈壁MRI (頸動脈や頭蓋内血管壁の評価),経食道心エコー,D-dimer,がんのスクリーニングなどの高度診断機器を駆使する.
著者
高橋 若生
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10503, (Released:2017-02-16)
参考文献数
16
被引用文献数
1

感染性心内膜炎(infective endocarditis: IE)は多彩な合併症を伴うが,脳血管障害は代表的な合併症である.虚血性脳卒中はIE における神経合併症の半数以上を占め,出血性脳卒中は6~18%に相当する.IE に伴った脳卒中はIE の病初期に発症することが多く,しばしばIE の初発症状となる.脳梗塞の大半は皮質枝領域に認められ,脳内出血は皮質下の多発性の血腫として認められる.また,神経症候を有さない症例においても,無症候性脳梗塞やmicrobleeds を含む無症候性出血性病変を伴うことが少なくない.IE に伴った脳卒中は,Staphylococcus aureus を起炎菌としたIE で発症頻度が高く,心エコーで検出される疣贅のサイズが発症リスクと関連する.
著者
高木 繁治 篠原 幸人 小畠 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.434-441, 1984-12-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
34

非侵襲的脳血流測定法である133Xe吸入法と静注法を同一日に12例に施行し,その測定値を比較した.静注法の脳血流値は吸入法にくらべて,F1,ISI共に有意に高値を示し,W1は有意に低値を示した.12例の両側脳半球平均のF1は静注法71.5±10.8ml/100g brain/min(mean±S.D.),吸入法64.3±7.3であった.両法での差異の原因の一つは,動脈血中133Xe濃度を呼気から推定する点にあると考え,動脈血ガス分圧が正常である4例について吸入,静注後の呼気および血中濃度曲線を比較したところ,吸入法では全例に,静注法では3例に両曲線での差異が認められた.以上より,動脈血ガス分圧が正常で,臨床的に肺機能障害の認められない症例においても,動脈血中濃度曲線と呼気中濃度曲線の間には明らかな差が存在し,それが両方法の測定値の差に関与する可能性があると考えた.