著者
樺島 重憲
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.320-324, 2018-06-15 (Released:2018-06-21)
参考文献数
17

The conventional approach to preventing the onset of food allergy has been to prohibit pregnant/ lactating women and infants from consuming highly allergenic foods such as hen’s egg, cow’s milk and wheat. However, it has been shown that the avoidance of such foods by pregnant/ lactating mothers has no effect on preventing food allergy in infants. Furthermore, recent research suggests that early introduction of allergenic foods in the weaning diet prevents the onset of food allergy. We conducted a randomized, double-blind, placebo-controlled trial in which the subjects were infants with atopic dermatitis, and demonstrated that early introduction of hen’s egg at six months of age prevents the onset of egg allergy.
著者
後藤 裕子 渡部 修
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.220-223, 2010-05-15 (Released:2010-07-01)
参考文献数
15
被引用文献数
2

渋カキ果実は,アルコールや炭酸ガス等によって脱渋処理することにより,渋みが消失する.しかし,脱渋処理後に果実を加熱すると,再び渋くなる.この現象が渋カキの食品への加工を阻害している.本研究において,カキ‘会津身不知’果実に少量の分子量3000から5000のコラーゲンペプチドを加え,室温で混合することによって短時間でカキの味を損ねずに脱渋する方法を開発した.また,この方法により加熱による渋もどりも抑制できることが明らかとなった.開発した技術によって,渋カキを様々な食品に利用できることの可能性が示唆された.
著者
富岡 敏彦 内藤 宙大 廣瀬 潤子 門間 敬子 成田 宏史 和泉 秀彦
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00062, (Released:2023-10-11)

鶏卵アレルギー患者において, 鶏卵と小麦粉を混捏・焼成したベイクドエッグであれば症状誘発閾値を超えて摂取できるという報告がある. また, OMは熱耐性がある水溶性タンパク質として知られているが, ベイクドエッグ中のOMは不溶化していることが明らかとなっている. 本研究では, 性状 (立体構造や溶解性) の異なるOMの消化性を明らかにすることを目的とし, 不溶化OMがアレルギー症状を誘発しにくい機序を考察した. 性状の異なるOM (精製, 加熱, 未焼成および焼成) を作製し, ペプシン, キモトリプシンおよびトリプシンにて消化処理した. その後, Lowry法, SDS-PAGEおよびイムノブロットにて解析を行った. 精製OM, 加熱OMおよび未焼成OMの水溶性タンパク質濃度は, 消化後も変化しなかった. 一方, 焼成OMの水溶性タンパク質濃度は, 消化前は低かったが, ペプシンおよびキモトリプシン消化では, 消化中にタンパク質濃度が増加した. イムノブロットの結果, 焼成OMの上清に検出されたタンパク質バンドは, タンパク質濃度が同等であるにも関わらず, 精製OM, 加熱OMおよび未焼成OMより薄く検出された. また, 焼成OMの残渣中から未分解のOMが検出された. トリプシン消化では, すべての試料において消化後の変化はみられなかった. 以上のことから, 焼成OMは, 他の試料より消化後の分解断片の抗体結合能が低下していることに加え, 残渣中にOMが残存しており, これがアレルギー症状誘発に影響を与えている可能性が考えられた.
著者
平 智 高林 奈美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.580-582, 2006-11-15 (Released:2007-09-29)
参考文献数
8
被引用文献数
5 3

カキ‘平核無’果実を用いて,樹上脱渋処理の時期と収穫後の脱渋果の冷蔵貯蔵期間が果実の不溶性タンニンの可溶化(渋もどり)の難易に及ぼす影響を調査するとともに,樹上脱渋果の渋もどりのしやすさを炭酸ガス脱渋果,アルコール脱渋果,干し柿およびあんぽ柿と比較した.その結果,樹上脱渋果は脱渋処理の時期が早いほど収穫時の果実は渋もどりしにくかった.また,樹上脱渋果では収穫後の冷蔵貯蔵期間が長くなるにつれてしだいに渋もどりしにくくなる傾向が認められた.この傾向は,早い時期に脱渋処理した果実より遅い時期に処理を行った果実の方が明確であった.樹上脱渋果の渋もどりのしやすさは炭酸ガス脱渋果とはほぼ同等で,アルコール脱渋果より渋もどりしにくかった.最も渋もどりしにくかったのは干し柿とあんぽ柿であった.
著者
榎 康明 前島 大輔 久保 希恵 長島 洋介
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.339-344, 2020-09-15 (Released:2020-09-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

高アミロース米は食後血糖値が穏やかな機能性米としての利用が期待される一方,その米飯は硬く粘りの少ない特性を有し,普及の課題となっていた.そこで,高アミロース米「越のかおり」について,米飯としてではなくライスサラダとして摂取した場合における血糖応答と食味の評価を行い,以下の知見を得た.(1)コシヒカリと越のかおりの米飯と冷飯を調製し,RS量を測定した結果,越のかおりにおいてのみ,冷飯処理によるRS量の増加が認められた.(2)血糖応答評価では,コシヒカリ米飯と比較し,越のかおりのライスサラダにおいて,有意に低い血糖応答が認められた.(3)官能評価では,コシヒカリと越のかおりのライスサラダはともに高い評価となり,食感では,コシヒカリよりも高値傾向が認められた.
著者
橋本 まき 小谷口 美也子 松本 裕貴 琴浦 聡 湯浅 浩気 青木 基 中根 正人 北村 進一
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00058, (Released:2023-09-27)

機能性表示食品の機能性関与成分のルーチン分析で求められるスループット性を考慮して, 構築したNP-HPLC簡易法の定量値の妥当性を検証した. ソフトカプセル2粒当たりのプラズマローゲン量をNP-HPLC簡易法と2D-HPLC法で分析し, 得られた定量値と比較したところ, 有意差はみられず定量値の妥当性が確認できた. NP-HPLC簡易法はソフトカプセルやその他の食品中プラズマローゲン含有量について日々のモニタリングに活用できると考える.
著者
水野 義隆 西村 園子 椛島 真一郎 鍋田 優 早川 文代 稲津 康弘
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00052, (Released:2023-09-19)

カット野菜の製造工程では喫食サイズにカットした野菜を次亜塩素酸ナトリウム水により殺菌することが多く,それが野菜の食味変化や褐変などの原因となることもある.一方,カット野菜の殺菌にはオゾン水も利用できる.本研究は,原体野菜のカットの際にスライサーに界面活性剤を含むオゾン水をかけ流す製造方法(以下,新製法)と,水を流しながら同様にカットし,その後,次亜塩素酸ナトリウム水溶液による浸漬処理を行う製造方法(以下,通常製法)の野菜の殺菌および品質に与える影響を比較した.菌数評価では,カットキャベツ,カットレタスおよびカット大根において,新製法区の一般細菌数および大腸菌群数は通常製法区と統計的に有意な差はみられなかった.成分分析では,カットキャベツおよびカット大根において,通常製法区のアスコルビン酸含有量が新製法区に比べ有意に低下していた.外観評価では,カットキャベツおよびカット大根において,通常製法区は変色しボリュームダウンしていたのに対して,新製法区では変色せずにボリューム感があった.官能評価では,カットキャベツにおいては通常製法区は甘味が弱くなり,カット大根においては通常製法区はシャキシャキ感と甘味が弱くなり,薬品臭,苦味および水っぽさが強くなったのに対して,新製法区では水洗いに近い食味であった.以上の結果より,新製法は通常製法と同等の菌数を示し,野菜本来の食味・外観を劣化させにくいことが判明した.さらに新製法は通常製法と比較すると浸漬処理工程を省略できることから,製造時間の短縮や使用水量の低減につながる技術として利用できるものと考えられる.
著者
三浦 靖
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.484-489, 2012-09-15 (Released:2012-10-31)
参考文献数
9

Retrogradation is a general term for the behavior of recrystallization of gelatinized starches on cooling and storage. This retrogradation is often enhanced when subjected to freezing and thawing treatment. However, few reports have dealt with the effect of additives on the freeze-thaw stability of starch. Therefore, the effects of polyols and emulsifiers on the freeze-thaw stability of starch were investigated using. The polyols and emulsifiers were added at concentrations of 5.0% (w/w) and 0.01% (w/w), respectively, to starch paste (potato starch content, 5.5% (w/w)). The temperature in the chamber was maintained at 30°C for 2 hours. Then, the chamber was cooled to -20°C at a cooling rate of -1.3°C · min-1, and the sample was frozen and stored at the same temperature for 24 hours. The sample was thawed in the chamber at a heating rate of 1.3°C · min-1 to 30°C, and thereafter maintained for 3 hours. The use of the two food additives was successful in improving the freeze-thaw stability of starch. It follows that these effects might be attributed to the water-structure formation effect of polyols and the complexation of starch chains with emulsifier molecules. Demulsification occurs by freeze-thaw processing, and fats and oils tend to separate from oil-in-water (O/W) emulsions. It is necessary to improve the freeze-thaw tolerance of emulsifications for the production of frozen emulsified foods. Therefore, the effects of polyols and emulsifiers on the freeze-thaw stability of O/W emulsions were studied. To clearly understand the influence of freeze-thaw processing on the emulsification stability of O/W emulsions (mass ratio: 0.099 oil, 0.896 water, 0.005 emulsifier), emulsions were prepared using fully hydrogenated palm oil, which has proven difficult in preparing emulsions with excellent emulsification stability. The temperature in the chamber was maintained at 25°C for 1.5 hours. Then, the chamber was cooled to -30°C at a cooling rate of -2.0°C · min-1, and the sample was frozen and stored at the same temperature for 24 hours. The sample was thawed in the chamber at a heating rate of 2.0°C · min-1 to 10°C, and thereafter maintained for 4.5 hours. Lipophilic sucrose esters of stearic acid (SES) produced a more stable emulsion. The monoester in SES might migrate to the oil-water interface from the oil phase, and be adsorbed. Di-/tri-esters in SES might penetrate into the oil phase and form tightly packed interfacial layers with monoesters. Polyesters in SES may act to accelerate crystallization and hinder the polymorphic transformation of oil. It appears that the content ratio of monoester/di- and tri-esters/polyesters in SES plays an important role in improving the freeze-thaw tolerance of O/W emulsions. Polyols enhanced the freeze-thaw stability of a soft-serve ice cream mix. This effect might be attributed to the water-structure formation effect of polyols.
著者
松浦 靖 金子 真緒 平原 秀秋 日高 史絵 境田 博至 甲斐 孝憲 柚木崎 千鶴子 窄野 昌信
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.689-694, 2013-12-15 (Released:2014-01-15)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

本実験では,BLおよびその熱水抽出物であるBLExのSHRにおける血圧上昇への影響を検討した.BLおよびBLExをそれぞれ3%,1.5%飼料に添加し,3週間摂食させた結果,2週目以降,収縮期血圧は対照群に対し有意に低値を示し,BLおよびBLExによる血圧上昇抑制作用が認められた.次にSephadex LH-20およびDiaion HP20SSカラムクロマトグラフィーによりBLExを5つの画分に分画し,ACE阻害成分をin vitroで評価した結果,プロアントシアニジン画分のIC50値は0.004mg/mLであり,画分の中で最も強くACEを阻害した.なお,BLExから分画したプロアントシアニジン画分のSHRにおける血圧上昇への影響を検討した結果,2週目以降,収縮期血圧は対照群に対し有意に低値を示した.これらの結果より,BLおよびBLExは血圧上昇抑制作用を有し,その活性成分の一つとしてプロアントシアニジンの関与が示唆された.今後,ブルーベリー葉は血圧上昇抑制作用を有する新たな機能性食品として期待できる.
著者
重藤 敦嗣 Erinna Nindi Nurasti Anton Sugiarto 戸川 真 熊沢 賢二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.502-506, 2017-10-15 (Released:2017-10-27)
参考文献数
15

収穫時の熟度が異なるバニラを作成し,熟度がバニラの香気に与える影響について検討し,以下の結果を得た. (1)完熟豆は未熟豆よりもスイートな香調が強く,酸臭や枯草臭が弱く,これらの香調に対応する部分としてAEDA法を用いて,バニリン,2-メトキシフェノール,イソ吉草酸,3-メチル-2,4-ノナンジオンを推定した. (2)バニリンは熟度による香気の差にとりわけ大きく寄与していたが,熟度の違いはバニリン生成に関わる酵素群の活性,および加水分解活性の強さに大きく影響する可能性を推察した.
著者
日佐 和夫 間処 博子 本間 茂
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.550-556, 1998-09-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

By a method measuring the total ATP (Adenosine Tri-phosphate) cleanness of products through the procession of meat processing instruments was evaluated. This method was much more sensitive in detecting contamination sources (food residual dregs and microorganisms) than the conventional method, providing a useful contamination index. Because of rapidity and simplicity, the method is suitable for monitoring HACCP (Hazard Analysis Critical Control Point) system and for applying to job sites due to the easier maintenance of PP (Prerequisite Programs). Furthermore, it is effective in drawing up SSOP (Sanitation Standard Operating Procedures).
著者
野間 誠司
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.85-91, 2020-03-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

Carbon dioxide (CO2) is a safe and inexpensive gas that is used as a food additive. In this study, microbial control by pressurized CO2 was examined. Pre-solubilization of CO2 at 1MPa at 4°Cmarkedly decreased the heat tolerance of vegetative bacterial cells through acidification of intracellular pH. Further, a 5- to 6-log reduction in vegetative bacterial cells was observed after incubation at around 60°Cfor 1 min. The inactivation effect of pressurized CO2 on bacterial spores was increased in the presence of monoglycerol monocaprate (MC10; 0.05% w/v). The pressurized CO2 accelerated MC10 adhesion to the spores as well as the release of dipicolinic acid from the spores, considerably decreasing physiological germination and/or heat resistance. When pressurized CO2 was applied during the fermentation of sardine fish sauce, the salt concentration required for the inhibition of undesirable microorganism growth was reduced from 20% to 10%. In addition, the reduction of salt in fish sauce improved its nutritional and sensory qualities compared to that produced by the conventional method. These findings support the practical application of CO2 for microbial control in foods and contribute to the development of improved food processing methods.
著者
小川 夏美 Chau Bui Thi Bao 小林 誠 草野 都 粉川 美踏 北村 豊
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00044, (Released:2023-08-08)

本研究では電動石臼を用いた湿式微粉砕機により調製したスパイスペーストの特性と香気成分放出挙動を明らかにした. コリアンダーシードからペーストを調製し, 粉砕回数および固形分比が粒子径や分離率に及ぼす影響を調べたところ, 粉砕回数を増やすことで粒子径は小さくなり, 分離率も減少することがわかった. 固形分比は粒子径に対して有意な影響を及ぼさなかったが, 固形分が増えることで分離率が減少し, ペーストの安定性が向上した. ペーストの蛍光顕微鏡画像からは, ペースト中に油滴が分散していることがわかり, 湿式粉砕によりコリアンダーシード中の油分が放出されていることが明らかになった. コリアンダーシードペーストの香気成分放出挙動を明らかにするために, ペーストを加熱した際にヘッドスペースに放出されたβリナロールおよびカンファーを定量し, 乾式粉砕したコリアンダー粉末と水を混合した粉末液と比較した. ペーストからの香気成分放出量は粉末液と比べて少なく, また分離率が低く, 安定性の高いペーストほど香気成分の放出量が少なかった. これらの結果から固形分や油滴の分散性やペースト特性が香気成分の放出挙動に影響を与える可能性が示された.
著者
高木 和子 山崎 和幸 水上 裕造 早川 文代 何 方 平松 優
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.230-235, 2020-07-15 (Released:2020-07-29)
参考文献数
19

本研究では,加熱殺菌工程が異なる各種牛乳(LTLT牛乳,HTST牛乳,UHT牛乳)をホットミルク(50~60℃程度)の状態にし,熱履歴の違いが風味特性に与える影響を官能評価で調べた.その結果,工程での熱履歴の低いLTLT牛乳およびHTST牛乳はホットミルクにしても生乳に近い風味で,「生乳感」「乳の自然な風味」「すっきり感・さっぱり感」が強く,「加熱臭」が弱いことが確認された.さらに同地域,同工場で同時期に製造されたLTLT牛乳UHT牛乳から香気エキスを抽出,GC-MSおよびGC-O(におい嗅ぎ)に供し,各牛乳の特徴的香気成分をAEDA(希釈分析法)で明らかにした.そして,LTLT牛乳の特徴的香気成分trans-4,5-epoxy-(E)-2-decenal,UHT牛乳の特徴的香気成分sotolonの牛乳への添加試験を行い,LTLT牛乳の風味特徴にフルーティで甘い香気成分trans-4,5-epoxy-(E)-2-decenalが,UHT牛乳の風味特徴にカラメル様の香気成分sotolonが関与していることが示唆された.また,香気成分の添加のみで熱履歴の異なる牛乳の風味特性に近づくことが確認され,特にLTLT牛乳の特徴的香気成分trans-4,5-epoxy-(E)-2-decenalを加熱臭が生じているUHT牛乳製品に添加し,加熱臭が軽減できたのは興味深い.本研究では牛乳の熱履歴が風味に与える影響を調べたが,今後は餌,土壌,環境,牛種,製造工程等の違いと風味の関係を精査し,原因成分の同定まで試みたいと考えている.それら成分と消費者嗜好の相関を調べ,嗜好多様性に応える牛乳を市場に提供できれば,消費者の選択肢が拡がり牛乳市場の活性化が期待できると思われる.
著者
津留 真里絵 野口 明日香 渡辺 睦行
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00013, (Released:2023-07-13)

近年, n-3系多価不飽和脂肪酸 (n-3 PUFA) の摂取不足が健康上の問題となっている. n-3 PUFAには, 魚由来のEPAやDHAと植物由来のα-リノレン酸が存在するが, 日本人の魚の摂取量は減少傾向にある. また, 欧米諸国には魚を摂取する習慣が少ない国も多いことから, α-リノレン酸高含有植物油の活用が期待されている. 植物油の一般的な摂取方法として, ドレッシングなどの生食による摂取と炒め調理などの加熱による摂取が挙げられるが, α-リノレン酸は酸化安定性が低いため加熱調理には不向きとされている. 一方で, α-リノレン酸高含有植物油の1つであるアマニ油を炒め調理に用いた研究によると, 短時間であれば喫食する際の油の劣化度や嗜好性に問題はないことが報告されているため, α-リノレン酸高含有植物油を炒め調理に使用できる可能性がある. しかし現状では, α-リノレン酸高含有植物油の種類や炒める食材の違いによる油の劣化への影響の報告はなされていない. そこで本研究では, α-リノレン酸高含有植物油 (アマニ油, エゴマ油, グリーンナッツオイル) を用いて野菜 (もやし, にんじん, ピーマン) を炒め調理した時の油の劣化度 (過酸化物価) を測定し, α-リノレン酸高含有植物油を炒め調理に用いる際の油および食材の適切な組み合わせを検討した. その結果, 190 ℃で3分の炒め調理であればα-リノレン酸高含有植物油を用いることが可能であると示された. さらに, 炒める食材量に対して25 %以上の短冊切りのにんじんを用いると酸化劣化が抑制されることが明らかとなった. 以上より, α-リノレン酸高含有植物油を炒め調理に用いることによってn-3 PUFAの摂取量を安全かつ簡便に増加させ, n-3 PUFAの摂取不足の改善に寄与することが期待される.
著者
宮崎 亮
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00045, (Released:2023-07-13)

我が国は世界有数の超高齢社会であり,2040年には高齢化率が40%を超えると予想されている。今後も高齢化の進展により要介護の主要因である虚弱(フレイル)の増加が懸念されている.タマゴは安価かつ豊富な栄養素を含むため,健康食品として注目が高まっている.タマゴは良質なタンパク源であることから,フレイル予防に資するはずであるが,日常的タマゴ摂取量とフレイル予防との関係はほとんど報告がない.著者は,島根県内の高齢者コホート(島根大学コホート研究)に参画し,隠岐の島町を中心に,生活習慣とフレイルなどの関係を継続的に調査している.本稿では,我々のコホートの概要および現在までに示された各知見を概説し,そして著者らがこれまでに見出した,日常的タマゴ摂取量とフレイルに関するデータを一部紹介する.
著者
田川 圭介 佐藤 大起 瀬川 修一
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00009, (Released:2023-06-29)

活性酸素はさまざまな疾患の原因であることが知られている. 日常生活や食事によって生体内における活性酸素の産生を抑制することは健康維持にとって重要である. 食品中には活性酸素を除去する抗酸化作用を示す物質がいくつか報告されている. 乳酸菌飲料についても抗酸化活性を有することが報告されているが, その活性物質についての知見は乏しい. 2,2- diphenyl-1-picrylhydrazyl (DPPH) ラジカル消去法により自社乳酸菌発酵液の抗酸化活性を評価した結果, 抗酸化物質として2,3-dihydro-3,5-dihydroxy-6-methyl-4H-pyran-4-one (DDMP) を初めて同定した. DDMPは糖とアミノ酸とのメイラード反応によって生成することが知られており, いくつかの食品に含まれていることは既に報告されているが, 乳酸菌飲料での報告は初めてである.自社乳酸菌飲料の製造工程において高濃度のDDMPを産生させる方法について検討を行ったところ,グルコース・ガラクトースなどの還元糖およびリジンやアルギニンなどの塩基性アミノ酸の添加によりDDMP濃度が顕著に増加した.
著者
樋口 裕樹 熊谷 武久
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.48-53, 2013-01-15 (Released:2013-02-28)
参考文献数
20

米を原料とした加工の異なる米菓と炊飯米を対象とし,アミラーゼを用いた人工消化試験による生成糖量を測定した.米菓両群は反応5分後から反応終了60分まで炊飯米と比較して有意に生成糖量が増加した.次に間食を想定した炭水化物量を被験者に摂取させ,食後血糖値の変化から消化速度を比較した.米菓両群は炊飯米と比較して,食後15分と30分で有意に血糖値が上昇した.RVA曲線の最終粘度から,米菓両群の製品は炊飯米と比較して低い値を示し,蒸練工程によりデンプンの低分子化が生じたと推察した.米菓は焼成工程により大小様々な空隙の形成が電子顕微鏡写真により観察され,米菓両群の比容積は炊飯米と比較して有意に高い値であった.これらのことから米菓製造工程でデンプンの低分子化および空隙が形成されるために,デンプンの消化速度が速くなったと示唆される.