著者
伴 琢也 小林 伸雄 本谷 宏志 門脇 正行 松本 真悟
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.413-417, 2009 (Released:2009-10-25)
参考文献数
14
被引用文献数
4 6

現在我々は新しい地域特産物としてのハマダイコンの栽培化と育種を進めており,本報では選抜育種の経過と根部の成分や食味に関する調査結果を報告する.島根県の宍道湖畔および島根半島の海岸部のハマダイコン自生集団より根部の肥大形状と晩抽性に注目して個体を採取し,以降,選抜育種を継続した.2006年産の個体では根部の形状と重量が安定した.根部の成分については‘耐病総太り’と比較して還元型アスコルビン酸,イソチオシアネート,ポリフェノールおよび可溶性固形物含量が高く,その値は代表的な辛味ダイコンである‘辛丸’と同等であった.根部にはフルクトース,グルコースおよびスクロースの存在が確認でき,その構成比率は‘辛丸’と類似していた.さらに根部の成分は収穫時期により変化することが明らかになった.以上の結果は,ハマダイコン選抜系統を新たな辛味ダイコンとして位置付けるものである.
著者
金澤 弓子 亀山 慶晃 李 景秀 濱野 周泰 鈴木 貢次郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.129-138, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
37
被引用文献数
2

早咲きのサクラ品種の多くは,カンヒザクラ(P. campanulata Maxim.)から作出されたと考えられてきたが,由来が不明な品種も多い.また,原種とされるカンヒザクラは中国,台湾,日本に生育するが,それらの遺伝的関係は明らかにされていない.本研究では,早咲きのサクラ品種の原種を推定するとともに,原種として重要なカンヒザクラについて,その地域集団の遺伝的組成に違いがあるのかを検証するため,AFLP分析を行った.早咲きのサクラ品種として14品種を取り上げ,これらの原種候補として,カンヒザクラとオオシマザクラ(P. lannesiana Wils. var. speciosa Makino),ヤマザクラ(P. jamasakura Sieb.)の3種を選定した.カンヒザクラは中国,台湾,日本に生育する個体を供試した.主座標分析(PCoA)およびSTRUCTURE解析の結果,中国,台湾,日本のカンヒザクラは,地域集団ごとに異なる遺伝的組成が示された.さらに,日本の早咲きのサクラ品種は,その大半が日本のカンヒザクラに由来しており,台湾の早咲きのサクラ品種は,その大半が台湾のカンヒザクラに由来することが示唆された.また,中国や台湾のカンヒザクラの中には日本の系統の遺伝子を保有する個体の存在が示唆された.これは,異なる地域のカンヒザクラ系統あるいは早咲きのサクラ品種からの遺伝子の移入の可能性も示している.早咲きのサクラ品種において,14品種のうちカンヒザクラとオオシマザクラの雑種が5品種,カンヒザクラとヤマザクラの雑種が4品種,原種の変異個体が3品種であると推測された.また残りの2品種ではそれぞれ複数の遺伝的組成を有していた.カンヒザクラの遺伝的多様性を適切に保全するためには,カンヒザクラやカンヒザクラに由来する品種は,日本・中国・台湾の各地域レベルで保全・管理していく必要がある.
著者
二宮 泰造 島田 武彦 遠藤 朋子 野中 圭介 大村 三男 藤井 浩
出版者
園芸学会
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.127-133, 2015 (Released:2015-09-10)

生産者や育成者権の保護に向けてカンキツの品種識別技術の確立が求められている。信頼度の高い科学的手法であるDNAマーカーによる品種識別技術の開発は,正確なカンキツの品種識別のために必須である。そこで,簡易な方法での品種識別が可能なCAPSマーカーによるカンキツの品種識別技術の確立をめざした。その結果,9種類のCAPSマーカーを33品種・系統に適用した遺伝子型を整理したCAPS遺伝子型データが得られた。このデータは,国内のカンキツの品種識別のための基盤的な情報となる。また,CAPS遺伝子型データから,最少マーカーセットを検出した結果,8種類のCAPSマーカーで33品種・系統のすべてを識別できることが判明した。さらに,遺伝子型データを利用して7種類の育成品種について,親子鑑定を行った。その結果,‘甘平’の花粉親は‘不知火’ではないことが明らかとなった。さらに解析を進めたところ,‘甘平’の花粉親はポンカンであることが強く推察された。
著者
小林 伸雄 宮崎 まどか 伴 琢也 中務 明 足立 文彦
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.25-29, 2010 (Released:2010-01-26)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

3原種および4品種の常緑性ツツジについて挿し木苗の根系発達特性を調査した.雨よけ遮光区,密閉挿し区およびミスト挿し区で管理したすべての系統で80%以上の発根率が得られた.挿し木苗の総根長は,キシツツジや‘大紫’で長く,サツキ‘大盃’やクルメツツジ‘麒麟’で短い傾向がみられた.また,葉数および葉面積はモチツツジの葉面積を除いて,密閉挿し区,雨よけ遮光区の順で大きい値が得られ,ミスト挿し区で最も小さくなる傾向がみられた.挿し穂の発根範囲が切り口から表土付近までと広い,モチツツジ,サツキ‘大盃’および‘白琉球’では,網円筒枠外に伸長した根数の分布範囲も広かった.一方,ヤマツツジおよびクルメツツジ‘麒麟’では発根部位は狭く,網円筒枠外に伸長した根数も少なかった.挿し木苗の根系発達特性は,圃場定植苗の根系発達特性と共通する点が多く,各野生種やそれらをもとに派生した園芸品種における多様な環境への遺伝的な適応性に由来するものと考えられる.また,これらの特性は栽培,増殖および育種に関する研究や利用の現場においては重要な情報となり得る.
著者
小林 智之 伊東 かおる 横田 祐未 佐藤 達雄 山田 真
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.65-71, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2

紫外光のうち280~315 nmの波長域であるUV-Bは,様々な病害に対し抵抗性を誘導するとされている.そこで,本研究では,キュウリおよびトマトの育苗期におけるうどんこ病抑制に効果的なUV-B照射条件を検討した.キュウリおよびトマト苗に対し,1日2時間連日の50 mW・m–2ならびに100 mW・m–2の放射照度では,化学農薬による慣行防除と同等のうどんこ病抑制効果が得られた.しかし,100 mW・m–2の放射照度では,葉の萎縮症状を発生させた.UV-B照射時間は,1時間では十分な病害抑制効果は得られなかったものの,2時間と3時間では慣行防除と同等の効果が認められた.以上の結果より,キュウリおよびトマト苗に対する50 mW・m–2かつ2時間連日のUV-B照射により,うどんこ病に対して化学合成殺菌剤に代わる防除手法として活用できると考えられた.
著者
立石 欣也 山本 晴彦 岩谷 潔 土谷 安司 倉橋 孝夫 門脇 稔 金子 奈々恵
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.251-255, 2012 (Released:2012-07-15)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ブドウ‘デラウェア’において,魚眼レンズを装着したデジタルカメラを用いたLAI推定技術を確立するため,その撮影方法と撮影条件の検討を行った.デジタル画像の2値化により,葉とそれ以外の部分に分け,そのピクセル値から光学的仮説に基づき,LAI推定値を算出した.晴天日の日中は開空度が大きく変化するため,LAI取得のための全天画像の撮影は曇天日,および,晴天日では太陽高度の低い時間帯である日の出や日没付近が望ましいことが示唆された.高さ150 cm程度の棚面に植栽された‘デラウェア’の性質上,棚面からの距離が100~150 cmの間で撮影すれば,より実測値に近いLAI推定値となることが確認されたが,LAI推定値は過大評価傾向を示した.過大評価となる原因を検討したところ,果実の有無の影響は撮影の時間帯による影響よりも小さかった.棚面,ハウスの構造材などの影響は無視できなかったため,開空度にその影響を加算し,LAI推定値を再計算する補正を行った.この補正により,従来の新梢長と葉面積の関係式から推定する手法より,迅速かつ簡易なLAI推定が可能であることが示された.
著者
椿 信一 佐藤 友博 檜森 靖則
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.67-73, 2014-01-15 (Released:2014-03-31)
参考文献数
14

秋田県の伝統食品の一つ,「いぶりたくあん漬」に適した加工用ダイコン‘秋農試39号’を育成した.‘秋農試39号’は肉質の硬い地方品種‘山形’から選抜育成した系統を両親としており,その硬い肉質特性から「いぶりたくあん漬」に適した加工特性を持っている.‘秋農試39号’はF1品種であるため根部の均一性が高く,大規模栽培に適した栽培特性を持つ品種である.‘秋農試39号’は,す入りや空洞症がほとんど発生せず,良根率が95.0%と,高い生産特性を持っている.これらの品種特性から,2012年の栽培普及面積は約20 haにまで増加している.
著者
鶴永 陽子 松本 敏一 倉橋 孝夫 持田 圭介 板村 裕之
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.321-324, 2006-09-15
参考文献数
17
被引用文献数
4 6

14年生カキ&lsquo;西条&rsquo;を用い,成育中の柿葉におけるアスコルビン酸,イソケルシトリン,アストラガリン,ポリフェノール量含量の推移を検討した.その結果,アスコルビン酸とポリフェノールは6月から7月の含量がもっとも高く,それぞれ3700 mg/100 gDW,16100 mg/100 gDW(アストラガリン相当量)であった.また,イソケルシトリン,アストラガリン含量は5月葉が最も高く,それぞれ480, 520 mg/100 gDWで,その後新梢長の急激な伸長の伴い6月には激減することが明らかとなった.<br>
著者
鶴永 陽子 松本 敏一 倉橋 孝夫 持田 圭介 板村 裕之
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.321-324, 2006 (Released:2006-09-25)
参考文献数
17
被引用文献数
3 6

14年生カキ‘西条’を用い,成育中の柿葉におけるアスコルビン酸,イソケルシトリン,アストラガリン,ポリフェノール量含量の推移を検討した.その結果,アスコルビン酸とポリフェノールは6月から7月の含量がもっとも高く,それぞれ3700 mg/100 gDW,16100 mg/100 gDW(アストラガリン相当量)であった.また,イソケルシトリン,アストラガリン含量は5月葉が最も高く,それぞれ480, 520 mg/100 gDWで,その後新梢長の急激な伸長の伴い6月には激減することが明らかとなった.
著者
福地 信彦 本居 聡子 宇田川 雄二
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.277-281, 2004 (Released:2008-03-15)
参考文献数
18
被引用文献数
4 6

トマトにおける摘果処理と摘葉や葉面積を増やすための側枝利用などの整枝が,果実糖度と収量に与える影響を検討した.1果房当たりの着果個数を制限しても,総収量,上物収量は増えず,果実糖度の向上には結びつかなかった.摘葉や葉面積を増やすための側枝利用などの整枝を異にしても,総収量,上物収量に差はみられなかった.摘はは果実糖度を低くし,各果房直下の側枝を利用し1果房当たりの葉数を増やすと,糖度の向上が図られた.
著者
嵐田 絵美 塚越 覚 野田 勝二 喜多 敏明 大釜 敏正 小宮山 政敏 池上 文雄
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.491-496, 2007 (Released:2007-07-24)
参考文献数
25
被引用文献数
5 9

主にハーブを用いた園芸作業の持つ療法的効果について,心理的指標である精神健康調査(GHQ)および気分プロフィール検査(POMS),生理的指標である唾液中コルチゾール濃度およびフリッカー値を用い,主観的および客観的に検証することを試みた. GHQから,園芸作業による神経症症状の改善傾向が認められた.POMSから,園芸作業には緊張や不安,抑うつ感,疲労感,当惑などの一時的な負の感情を減少させる効果があることが明らかとなった.唾液中コルチゾール濃度は作業前に比べて作業後に低下し,作業によるストレスの緩和効果が認められた.フリッカー値の変化から,屋外での栽培作業は室内でのクラフト作業に比べて中枢性疲労の回復効果が大きい可能性が示唆された. 以上より,園芸作業は神経症症状や一時的気分の改善に有効であった.また,唾液中コルチゾール濃度とフリッカー値によって,園芸作業がストレスや中枢性疲労の解消に効果的であることを客観的に判断できた.質問紙による主観的評価に,客観的評価指標を組み合わせることで,園芸作業の療法的効果を総合的に判断し,より効果的なプログラムの構築と普及に寄与できると考えられた.
著者
渡邉 圭太 西野 勝 神頭 武嗣 内橋 嘉一 佐藤 文生 有井 雅幸
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.7-12, 2020 (Released:2020-03-31)
参考文献数
21

促成作型トマト‘ハウス桃太郎’および‘レッドオーレ’の病害抵抗性誘導と生育収量の確保を目的にUV-Bを2.30~12.56 μW・cm–2の放射照度で毎日23時から2時まで連続照射した.その結果,両品種とも植物体に縮葉症状を呈し,茎葉における乾物率の増加および日焼け果の発生が認められたが,開花,着果および収量への影響は認められなかった.またUV-B照射により果実の糖度が上昇し,酸度が低下することが明らかとなった.果実の着色およびリコピン含有量にはUV-B照射の影響は認められなかった.
著者
濱田 美智雄 白石 美樹夫
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.83-88, 2020 (Released:2020-03-31)
参考文献数
26
被引用文献数
2

Plant Canopy Analyzer(PCA)実測値と同等の測定精度で生食用ブドウの葉面積指数(LAI)推定を行うために,魚眼レンズ装着デジタルカメラと画像処理ソフト「Fiji-ImageJ」を用いた新しい手法を開発した.個葉の葉幅長(X)に対する葉面積(Y)の回帰は有意に高かった(Y = 0.5716X2.0425,R2 = 0.99**).解体調査LAI値とPCA測定値との間には有意に高い回帰関係が認められた(r = 0.964**).「Fiji-ImageJ」では3段階の画像処理を行った:(1)撮影した原画像のR,GおよびB画像への分割処理,(2)「Subtract Background」アルゴリズムと自動閾値補正モードの「Minimum」を用いた3画像の補正処理,(3)補正された3画像個々の植被率を合計した累積植被率を算出.LAI水準1~4の範囲において,累積植被率(X)に対する解体調査LAI値(Y)の間には高い線形回帰関係が認められた(Y = 0.0769X − 18.325,R2 = 0.82**).
著者
増田 大祐 福岡 信之 後藤 秀幸 加納 恭卓
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.597-601, 2007 (Released:2007-10-24)
参考文献数
16
被引用文献数
5 13

‘高系14号’の甘味の向上を図るため,3,5,10,13℃下で20日間の貯蔵が糖含量や甘味度におよぼす影響を調査した.その結果,スクロース含量は3℃と5℃の貯蔵温度で,グルコース,フルクトース含量は10℃,13℃の貯蔵温度で急速に増加した.また,マルトース含量は処理温度に関係なく,処理後の日数経過に伴って低下した.この結果,蒸しイモの甘味度は5℃と10℃の貯蔵温度で最も高かった.しかし,5℃以下の温度では処理後に腐敗の発生が顕著であったため,短期間で甘味の向上を図るには10℃で貯蔵することが有効と考えられた.
著者
河崎 靖 鈴木 克己 安場 健一郎 高市 益行
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.395-400, 2011 (Released:2011-08-23)
参考文献数
20
被引用文献数
3 11

トマトの冬季施設生産における燃料費の削減のため,通常地面に配置する温風ダクトを,栽培ベッド上に吊り下げ,温風が生長点―開花花房付近に直接当たるように配置して局部加温を実施し,夜間の垂直温度分布,収量および消費燃料を慣行の暖房法と比較した.局部加温によって,群落上部で慣行より夜間の気温および植物体表面温度は高く推移したが,群落下部は慣行より低温となった.局部加温区における上物果率および果重は慣行区より大となり,品種により程度に差はあるものの,上物収量が多くなる可能性が示された.また,果実はゼリー部の比率が高くなった.面積当たりの燃料消費量は,局部加温区で慣行と比較して26.2%の削減効果が見られ,ダクト吊り下げによる局部加温法が実用的に実施可能であることが示された.
著者
福島 啓吾 梶原 真二 石倉 聡 時安 美奈 福田 直子 後藤 丹十郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.373-379, 2019 (Released:2019-12-31)
参考文献数
23
被引用文献数
2

定植後に速やかに生育するトルコギキョウ苗を人工光利用の閉鎖型育苗環境で育てることを意図し,育苗開始から5週間の明期の長さおよびPPFDを明らかにしようとした.育苗は,明暗期の気温を27.5°Cとしたインキュベータで行った.PPFDを平均125 μmol・m–2・s–1とした場合,育苗開始8日後の発芽率は,明期の長さにかかわらず98%以上となった.育苗開始5週間後の苗の節位別の葉身長は,明期の長さが12 hと比較して20 hおよび24 hが大きく,定植から抽苔,発蕾および開花までの日数は小さかった.明期の長さを24 hとした場合,育苗開始8日後の発芽率は,PPFDにかかわらず概ね95%以上となった.育苗開始5週間後の苗の節位別の葉身長は,PPFDが50 μmol・m–2・s–1と比較して100 μmol・m–2・s–1および125 μmol・m–2・s–1が大きく,定植から抽苔,発蕾および開花までの日数は小さかった.これらの結果から,明暗期の気温が27.5°Cの人工光利用の閉鎖型育苗環境では,育苗中の明期の長さを20 h以上,PPFDを100~125 μmol・m–2・s–1にすることで,定植後にロゼット株が発生することなく,速やかに生育するトルコギキョウ苗を生産できることが明らかになった.
著者
白山 竜次 木戸 君枝 桐原 弘
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.417-422, 2019 (Released:2019-12-31)
参考文献数
15

同一消費電力のLED光源におけるR光チップとFR光チップの割合(R/FR比)と花芽分化抑制効果の関係を,電照による花成抑制が容易でない夏秋ギク品種‘岩の白扇’と容易な秋ギク品種‘神馬’の2品種を用いて検討した.試験は,波長632 nmのR光LEDチップおよび波長730 nmのFR光チップをそれぞれ5 : 0,4 : 1,3 : 2,2 : 3,1 : 4,0 : 5として,合計5チップになるように製作された6種類のLED電球を供試し,品種ごとにそれぞれ異なる長時間および短時間電照区を設置した.‘岩の白扇’では長時間電照区を4時間電照,短時間電照区を30分電照,‘神馬’では長時間電照区を2時間電照,短時間電照区を4分電照として,光質の違いによる花成抑制の効果の違いが検出しやすいようにした.長時間電照では,品種で光質に対する反応が異なり,‘岩の白扇’はR3:FR2,R2:FR3区で花成抑制効果が高かったが,‘神馬’は,R5:FR0区で高い花成抑制効果が得られた.短時間電照では両品種ともにR5:FR0で高い花成抑制効果が得られた.‘岩の白扇’はR + FR光による長時間の電照で高い花成抑制効果が得られたことから,フィトクロムの分子種の1つであるphyAを介した高照射反応(HIR)の関与が示唆された.
著者
村山 徹 箭田 浩士 宮沢 佳恵
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.241-245, 2007 (Released:2007-04-23)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

コシアブラ若芽の抗酸化活性をβ-カロテン退色法とDPPHラジカル消去活性で評価したところ,高い活性を示した.主たる抗酸化成分は,クロロゲン酸と同定された.グロースチャンバー試験で,その成分含量に影響する要因を検討したところ,光が強く,穂木が長いと含量が高まることが示された.その結果に基づいて,好適な促成栽培技術を確立するため,ガラス室内で栽培条件が収量と抗酸化成分含量に及ぼす影響を検討した.促成栽培では,10~15℃の水に30~40 cmの穂木を挿すことによって,クロロゲン酸含量の多い若芽を収穫できた.
著者
脇坂 勝 杉村 輝彦 石森 朝哉 神崎 真哉
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.427-432, 2009 (Released:2009-10-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

カキ(Diospyros kaki Thunb.)当年生台木を用いた幼苗接ぎ木法を開発するため,接ぎ木時期や台木の状態が活着率と苗の生育に及ぼす影響について検討した.加温施設下で播種110~195日後の当年生ポット台木を用いて4~8月に接ぎ木を行った結果,いずれの時期にも接ぎ木が可能であることが明らかとなった.カキ‘法蓮坊’実生台木に葉を残した状態で4~7月に幼苗接ぎ木を行うと,葉を残さないものに比べ,活着率は高くなった.台木に葉を残すもしくは残さない状態で接ぎ木を行った個体について,光学顕微鏡にて癒合部における組織やカルス形成の状態を観察すると,葉を残した台木の場合,接ぎ木20日後には穂木が発芽していない個体も含めたすべての個体でカルスが形成されたのに対し,葉を残さない台木に接いだ場合にはカルスを形成した個体の割合は低かった.以上の結果より,ポット育苗の当年生実生台木を用いた接ぎ木は,4~8月に台木に葉を残して行うと活着率が高くその後の生育もよいことが示された.
著者
中野 伸一 西野 勝 河井 孝文 村上 和秀
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.171-177, 2018 (Released:2018-06-30)
参考文献数
22
被引用文献数
1

夏から秋にかけて作付けする露地野菜においては,短時間強雨や台風に遭遇しやすく,圃場の冠水による被害は大きい.ここでは,レタスを冠水処理し,その時期と時間の影響や品種の違い,湛水後の液肥かん注による生育の回復効果について検討した.冠水処理の時期と時間の違いについて,レタスの生育ステージが結球前(葉齢13程度)までの生育前半の影響が大きく,12時間までの冠水処理では結球重が小さく,24時間の冠水処理ではすべて枯死した.一方,生育後半の結球初期(葉齢18程度)12時間までの冠水処理では,結球重への影響は小さかったが,収穫前(葉齢35程度) の冠水では,泥の付着により商品性が低下した.8月下旬播種作型における品種の違いについて,‘ハミングチャウ’は湛水処理による結球重の低下がなく,優れた耐湿性を示した.湛水後の対策として,実際の台風接近に合わせて,結球前(葉齢16程度) と結球初期(葉齢18程度) の2回の6時間湛水処理した区に対して,尿素の50倍液50 L・a–1を株元に施用すると,結球重が12%,球体積が33%大きく,無処理区と同等となり,事後対策として有効と考えられる.