著者
山根 信二 村山 優子
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.1975-1982, 2001-08-15

1990年代の暗号技術規制論は,キーエスクローシステムを中心とする枠組みで論じられた.だが当時の議論はもはや有効ではない.今後の暗号技術の進路策定について議論する際には,1990年代の議論とは異なる枠組みが必要である.現在,議論のための枠組みの形成が急がれている新たな暗号技術問題として,暗号解析をめぐる係争があげられる.暗号技術の開発評価において暗号解析は重要な役割を担ってきたが,暗号解析の公表やその再配布については議論が分かれている.日本では,1999年から著作権の「技術的保護手段」の回避を行うプログラムを公表しようとする者は処罰されることになった.本論文では,この法制による暗号解析への影響を,2000年にアメリカで起こったDVDプロテクト破り訴訟を参考にしながら検証する.コピープロテクトに対する暗号解析の公表を法的に規制することは,コンピュータ専門家がかかえる技術的および法的リスクを増大させる.また,その影響はコピープロテクト技術のみにとどまらず,暗号技術の開発評価全般に及ぶ可能性がある.このような問題に対処するためには,暗号解析を含む暗号技術開発の進路策定を決める枠組みを刷新することが必要である.最後に,今後の専門家に要求される新たな役割についても検討を行う.
著者
坪内 佑樹 脇坂 朝人 濱田 健 松木 雅幸 小林 隆浩 阿部 博 松本 亮介
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.818-828, 2021-03-15

クラウド上のシステムの大規模化にともない,CPU利用率などのシステムの各構成要素の状態を把握するために,大量の時系列データを保存する必要がある.そのために,時系列データを保存するデータベースにはデータの挿入処理とデータ保存の効率化と挿入スケールアウト性の向上が求められる.既存技術は,挿入スケールアウト性を高めるために広く利用されているディスクベースの分散KVS(Key Value Store)を利用する.しかし,ランダムI/Oが低速なディスクへ書き込むという前提があることから,メモリ上でキーを整列させながら挿入可能な平衡木が利用されるが,キーの挿入時に系列数に対して対数時間を要する.すべてのデータをメモリ上に保持するメモリベースKVSであれば,ハッシュ表に基づくデータ構造の利用により定数時間の挿入が可能となる.しかし,メモリは容量単価が大きいことから,データを長期間保存するには不向きである.本論文では,メモリベースKVSとディスクベースKVSを階層化する高性能な時系列データベースHeteroTSDBを提案する.HeteroTSDBは,メモリベースKVS上に系列名をキーとして,系列本体をバリューとしたハッシュ表を構成することにより,系列数に対して定数時間でデータを挿入する.加えて,系列を格納するキーにTTL(Time To Live)によるタイマを設定し,古くなったデータを系列単位でまとめてディスクベースKVSへ移動させることにより,データ保存のための容量単価を低減させている.実験の結果,ディスクベースKVSを利用した既存の時系列データベースであるKairosDBと比較し,HeteroTSDBは3.98倍の挿入スループット向上を達成した.
著者
新井 利明 関口 知己 佐藤 雅英 木村 信二 大島 訓 吉澤 康文
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.2492-2504, 2005-10-15
被引用文献数
3

オペレーティングシステム(OS)はこれまでに多くのものが開発されているが,ユーザの要求が多様であり,すべての要求を満足するOS開発は不可能に近い.そこで,1台のマシン上に汎用OSと特定の目的を持つ専用OSを共存させ各々機能補完する仮想計算機機能のナノカーネルを提案し,実現した.豊富なソフトウェア資産を活用できる汎用OSと特殊機能を有する専用OSを1台のマシン上に共存させ,互いに機能補完させることができる.ナノカーネルは,上記の目的を達成するために,(1)複数OS共存オーバヘッドを削減するための資源分割機能,(2)OS間の機能補完を可能とするOS間連携機能,(3)OSの信頼性を向上させる障害監視,回復機能と擬似不揮発メモリ機能などで構成する.これらの限定した機能を実現することで,ナノカーネルは複数OSの共存を可能とし,補完環境をオーバヘッド2%以内で達成できることを確認した.また,汎用OSとリアルタイムOSの共存環境を構築し,汎用OS環境では不可能であったマイクロ秒単位の応答性を確保できることを確認し,ナノカーネルの持つOS間機能補完を実証した.さらに,専用の高信頼OSからの汎用OS障害情報の収集や汎用OSの再起動処理を実現し,システムの信頼性向上にも有効であることを確認した.Although various kinds of Operating Systems (OSs) have been developed so far, a user hardly finds the OS satisfying all the users' needs completely. We proposed and developed a kind of virtual machine called Nanokernel, which effectively enables a general purpose OS and a special purpose OS co-exist in one machine and complement each other. By complementing general purpose OS with rich software and special purpose OS with special function, Nanokernel realizes the environment which meets variety of users' needs effectively. We restrict Nanokernel functions to resource partitioning for lower overhead, communication between OSs for function complement between them, and failure detection and fast recovery for reliability, to achieve the purpose effectively. By restricting Nanokernel functions above, Nanokernel achieves the multi-OS co-existing environment less than 2% overhead. The Nanokernel environment with a general purpose OS and a realtime OS showed that Nanokernel relieves the lack of realtime property of the general purpose OS and establishes micro-second order response time. Moreover, even when the general purpose OS crashes, the realtime OS can survive, get the information for the failure from the general purpose OS and execute the general purpose OS restart process, so that Nanokernel is useful for enhancing system reliability.
著者
椎橋 章夫 大橋 克弘 山名 基晴 森 欣司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.791-801, 2007-02-15

鉄道の自動出改札システム(AFC: Automatic Fare Collection system)は,高密度輸送におけるピーク時の乗降客に対応するための高速性と金券である乗車券を処理するため高信頼性が不可欠である.しかし,無線通信方式のIC カード乗車券は旅客の使用方法に依存するため,データの読み取りの不確実,不完全が発生する(これを「データ抜け」と呼ぶ).東日本旅客鉄道株式会社のSuicaシステムでは「データ抜け」が発生してもシステムを止めることなく,データの信頼性を確保できるように「自律分散整合化技術」を導入していたが,その有効性を評価する手法を持たなかった.そこで,東京工業大学森研究室との連携のもと,自律分散整合化技術の有効性を評価する手法として,機能信頼性評価法を研究し,その評価技術を確立した.この結果,得られた最適パラメータをSuica システムに導入し,その有効性を実証した.
著者
安岡 孝一 ウィッテルン クリスティアン 守岡 知彦 池田 巧 山崎 直樹 二階堂 善弘 鈴木 慎吾 師 茂樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.323-331, 2018-02-15

古典中国語(漢文)の解析手法として,MeCabを用いた形態素解析手法を提案する.本手法では,漢文の動賓構造を表現すべく,4階層の「品詞」からなる新たな品詞体系を構築し,それに基づくMeCab漢文コーパスを設計した.合わせて,MeCab漢文コーパスを入力するための専用ツールとして,XEmacs CHISEをベースとしたコーパス入力ツールを開発した.また,MeCab漢文コーパスを効果的に管理し,さらには品詞体系のリファクタリングを行うべく,MeCab漢文コーパスのLinked Data化を行い,WWW上で公開した.さらに,MeCabを用いた漢文形態素解析の応用として,漢文における固有表現の自動抽出に挑戦した.結果として,地名の自動抽出は高精度に行うことができたが,官職・人名の自動抽出はそれぞれに課題が残った.
著者
山本 雄也 中野 倫靖 後藤 真孝 寺澤 洋子
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.1423-1437, 2023-10-15

歌手は楽譜に合わせて歌うだけでなく,その音高や音色に変動を加えることがある.本論文は,これらを「歌唱テクニック」とし,ポピュラー音楽の中でもJ-POPを対象に,歌手によって歌唱テクニックがどのくらいの頻度でどのように生起するか,そして楽曲のどこで生起するか,その傾向を分析することを目的とする.そこで本論文では,J-POPのプロ歌手24名(男女各12名)の歌い方を別のプロ歌手14名(男女各7名)が学術目的で模倣した歌声データベース「AIST-SIDB」に含まれる48歌唱の13種類の歌唱テクニックを対象として,歌唱テクニックとメロディの持つ音楽要素との関係性を分析した.具体的には,歌唱テクニックの生起頻度と,歌唱テクニックの1つであるビブラートに関してはそのパラメータ(深さと速さ)を分析した.さらに,歌唱テクニックの生起位置を楽譜情報と対応付けて,各歌唱テクニックと「歌詞の音素」,「音高」,「音高差」,「音長」,「フレーズ内における位置」との関係を分析し,またビブラートパラメータと「音高」および「ビブラート長」との相関を分析した.
著者
平井 佑樹 井上 智雄
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.72-80, 2012-01-15

プログラミング教育では,プログラム言語の文法やプログラム書法を理解する能力とアルゴリズムを組み立てる能力が要求される.プログラム言語の文法や簡単な例題を理解することができても,実際にプログラムを作成するときにはいくつかのつまずきが発生する.プログラミングを行う方法の1つとして,2人1組になって行うペアプログラミングがある.ペアプログラミングによるプログラミングは協調作業であるが,これはプログラミング学習の方法としても用いられている.本研究では,プログラミング学習時のペアプログラミングの成功事例と失敗事例を比較分析した.分析では作業中の会話に着目し,失敗事例の方が発話が長いこと,説明の繰返しが多いこと,一方的な発話が多いことが分かった.この知見は,ペアプログラミングにおいて協調作業がうまく進んでいるかどうかを判断する手がかりを提供し,協調作業の状態推定に有効であると考えられる.In the programming education, the ability to understand grammar of a program language and writing of a program and the ability to assemble the algorithm are required. When a learner actually makes a program, some problems are caused even if a grammar and an easy example of the program can be understood. Pair-programming is one of the programming techniques in which two programmers work together at one work station. Pair-programming is a collaborative work and is used in programming learning. In this research, success cases and failure cases in pair-programming were compared. From the comparison, it was found that the speech length was long, the number of repeating explanation was high and the number of continuous speech was high in failure cases. The insights provide some clues to identify if collaborative work in pair-programming smoothly progresses and to guess the status of collaborative work.
著者
伊藤 悠真 寺田 努 塚本 昌彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.2165-2176, 2015-11-15

暗記学習の一般的な手法の1つとして替え歌を用いる手法がある.これまでにさまざまな暗記学習システムが開発されているが,暗記用替え歌の一般的な生成手法や自動で生成するシステムは筆者らの知る限り確立されていない.よって本研究では暗記学習のための替え歌自動生成システムの構築を目的とする.提案システムは,替え歌の元となる楽曲を保持しており,学習者が入力した暗記したい項目が,いくつかの曲の歌詞に割り当てられて替え歌として出力される.本研究では暗記したい項目を歌詞に割り当てる割当てアルゴリズムを提案する.これにより,提案システムは暗記に適した替え歌を生成できる.評価実験の結果,提案システムにより生成された替え歌は丸暗記に比べて効果があることが示唆された.
著者
町田 裕璃奈 日野 麻美 堀 成美 奥村 貴史
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.725-732, 2022-03-15

2020年に生じた新型コロナウイルスによるパンデミックは,世界各国に大混乱を引き起こした.日本の行政機関においても,対応のため様々な業務が発生し,とりわけ,保健所ではファックスを中心とした業務慣行の非効率が注目された.そこで厚生労働省は,感染症対策の最前線にあたる医療機関や保健所の負担軽減を目指し,ウェブシステムを新規開発しその代替を図った.しかし,業務知識を欠いたまま設計したシステムは,実際の保健所業務と合致せず導入に時間を要したことに加え,各自治体側が自助努力として進めていた業務支援策とのミスマッチが生じた.結果として,開発したシステムの活用は低調にとどまり,期待された情報集約の迅速化は実現しなかった.一方,地方自治体や医療機関では,国よりも限られた予算や権限において様々なシステムを開発し,感染対策に役立てていった.システム開発において,現場の業務知識を欠いたままトップダウン方針のみを強化すると,実ユーザとの乖離の拡大を通じたシステムの破綻という逆説的な状況が生じうる.デジタル庁の設置を初めとした今後の行政情報化に向け,貴重な教訓の共有とともに,行政におけるボトムアップ型の開発手法の検討が望まれる.
著者
城所 宏行 末廣 芳隆 ブルシュチッチ ドラジェン 神田 崇行
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.1203-1216, 2015-04-15

公共の場で活動するソーシャルロボットが期待されている.ソーシャルロボットは人々の興味を引き,かつ有意義なサービス提供ができる可能性がある.しかし,興味を引かれてロボットと相互作用を始めた子供たちの行動が,ときに行き過ぎ,ロボットに対して攻撃行動を起こすことが明らかになってきた.観察実験によって,ロボットに関心を示した子供のうち,合計で117回の執拗な攻撃行動を観測した.子供たちはロボットに暴言を吐き,蹴り,叩くなどの行動でロボットの活動を執拗に妨害していた.本論文では,ロボットに対する執拗な攻撃行動を「ロボットいじめ」と名付け,この現象の緩和を試みる.この目的のために,子供のロボットいじめ行動をモデル化し,ロボットがモデルを用いてロボットいじめ行動を事前にシミュレートし回避可能にさせる.モデルを歩行者シミュレーションへ導入することで,子供のロボットいじめ行動をシミュレーション上で再現できるようにした.また,本論文では,ロボットいじめ行動のシミュレーションをロボットの将来行動の計画に用いる,というシミュレーションに基づいた行動計画方法を提案する.ロボットは,センサシステムから現在の状況を取得し,自らの行動に対して子供たちがどのような行動をして,その結果,近い将来どのような状況が生じるのかをこのシミュレーション上で検討する.このシミュレーション結果を比較することで,ロボットいじめが起きにくい行動を選択する.この「ロボットいじめのシミュレーションに基づいた行動計画」システムを構築した.実際のショッピングモールでシステムを用いた実験を行ったところ,ロボットいじめの生起を抑制できたことを確認した.Social robots working in public space often stimulate children's curiosity. However, excess curiosity can sometimes result in aggressiveness towards the robots. In our case studies, we registered 117 cases of aggressive behavior and found that some children persistently obstructed the robot's activity. A number of children actually abused the robot verbally, and sometimes even kicked or hit the robot. In this paper, we define this persistent aggressive behavior as "robot bullying" and analyze ways how the occurrence of robot bullying can be reduced. For this purpose, we developed a statistical model of occurrence of children's bullying of the robot. With this model we want to make the robot able to anticipate and avoid potential bullying situations. We confirmed that the model is able to reproduce well the occurrence of bullying in simulations. While running in real world, a robot can then use pedestrian simulations to test its future behaviors for possible occurrence of bullying and choose the behavior which gives the lowest probability of bullying. We developed a system of simulation-based behavior planning which implements this behavior decision. Finally, in experiments in a real shopping mall we demonstrated that with the model the robot successfully decreased the number of occurrences of bullying.
著者
神沼 靖子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.970-975, 2007-03-15
被引用文献数
4

情報システム(IS: Information Systems)は社会や企業のさまざまな場面において人間活動を支援する重要な役割を担っている.このためIS 領域の課題は多面的であり,その研究は広範囲にわたっている.そのうえ,IS の問題解決は,技術的な側面から社会的な側面まで幅広く,研究方法も多様である.一方で,IS 論文をいかに書くかに関する悩みをかかえている研究者や実践者も多い.このような状況のもと,本論文では,IS 領域における論文の特質について分析し,さらにIS 視点での論文の書き方および有用性評価について考察する.The information system supports various human activities in society and enterprise. Therefore, the problem concerning the information system is various, and the research is also carried out in the wide domain. In addition, technical problem and social problem will be included for the theme in the information systems research, and the research method is also various. On the other hand, there are many practitioners and researchers who worry on how the information systems paper should be written. In this paper, under such background, characteristics of the paper in the information systems field are analyzed. In addition, writing method and usefulness evaluation of the paper are considered.
著者
松原 孝志 臼杵 正郎 杉山 公造 西本 一志
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.3174-3187, 2003-12-15
被引用文献数
16

本論文では,リフレッシュルームやラウンジといった共有インフォーマル空間におけるインフォーマルコミュニケーションを触発するシステムを構築し,その評価を行う.そのために,まず,組織において自然発生的にできた`溜まり場'でどのようなインフォーマルコミュニケーションが行われているかを知るために観察実験を行った.観察実験の結果,共有インフォーマル空間の利用者は,そこに行く理由や居るための理由として頻繁に`もの(オブジェクト)'に触れたり注視したりしていることが見出され,このことにより距離圧力を回避し「居心地」よくしていることが推定された.我々は,これをオブジェクトの持つ言い訳効果と考え,そのような`もの'を「言い訳オブジェクト」と呼ぶこととした.次に,観察実験の結果を考慮し,言い訳オブジェクト効果のあるシステムを実現するための要求分析を行い,伝統的な「囲炉裏」をメタファとして用いることにより,インフォーマルコミュニケーションを触発するシステムを構築し,これを「サイバー囲炉裏」と呼んだ.さらに,実現したシステムの予備的評価を行うため「サイバー囲炉裏」を含む3種類の実験環境を設定し,「居心地」の観点から被験者によるアンケートに基づき,「サイバー囲炉裏」における「居心地」に関するオブジェクトの言い訳効果を示唆する結果を得た.さらに,実運用による評価実験を行い,開発したシステムがインフォーマルコミュニケーションを触発するのに有効であるとの結果を得た.We propose a new concept, raison d'^etre objects, and a new ware, cyber-hearth,that affords snugness in face-to-face communication in a shared informal place such as a refreshing room or lounge.We carried out observation experiments on the behavior of individuals in such a place and found interesting tendencies:most people behave unconsciously to pay attention to physical objects by watching or handling as excuses for entering or staying there.This might be because participants are unusually close each other in terms of proxemics.We developed a prototype cyber-hearth IRORI that incorporated raison d'^etre objects with a facility for enhancing conversations,employing a metaphor `hearth' (`irori' in Japanese) as a total design principle since `irori' is well recognized as a snug,traditional informal place in Japan.We preliminarily evaluated IRORI by conducting a user experiment.The results of the experiment suggested that IRORI attained snugness and therefore were effective for catalyzing face-to-face informal communication.Then, we made evaluation experiments in the real environment and obtained results that IRORI was effective to catalyses face-to-face informal communication.
著者
藤井 叙人 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.2796-2806, 2009-12-15

市販テレビゲームにおいて,ゲーム内のコンピュータ(COM)の戦略に対してプレイヤの意識が高まりつつある.特に,世界的に人気のある遊☆戯☆王やポケットモンスターに代表されるビデオトレーディングカードゲーム(ビデオTCG)においては,プレイヤの要求に合わせたCOMの強さの設定が必要不可欠である.現在ではゲームプログラマによる戦略の作り込みによって実現されているが,これは非常に煩雑で時間がかかる.本研究では,強化学習法を用いて,戦略型ビデオTCGの戦略を自動学習する戦略学習機構について検討する.COMの最適行動学習だけでなく,TCG特有の要素である“最適なカード組合せ” や“魔法や罠などの特殊効果” に関しても学習機構を実装する.戦略学習機構の評価として,ルールベース戦略を相手とした計算機実験を実施する.最後に,戦略学習機構の汎用性と,残された課題,その解決策について検討する.
著者
川崎 博章 笹野 遼平 高村 大也 奥村 学
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.2481-2491, 2013-12-15

スクリーンリーダは,コンピュータ上のテキスト情報を音声で読み上げるソフトウェアアプリケーションであり,視覚障害者がコンピュータを利用して情報にアクセスする際に重要な役割を果たす.スクリーンリーダに搭載されている重要な機能の1つに漢字詳細読みの出力がある.多くの漢字には同音異字が存在しており,漢字詳細読みには音声による説明のみでユーザに漢字を正しく想起させることが求められている.たとえば,一般的には“コウニュウ”という読みを持つ単語は“購入”しかないため,“購”という漢字は“コウニュウのコウ”という漢字詳細読みにより想起することが可能である.一方で,“コウバイ”という読みを持つ単語は“勾配”や“公売”などが存在するため,“コウバイのコウ”という漢字詳細読みから“購”という漢字を想起することは難しい.しかし,このような曖昧性を持つ漢字詳細読みは既存のスクリーンリーダの中にも存在しており,正しい漢字が想起できない要因の1つとなっている.また,漢字詳細読みで用いる単語はユーザに慣れ親しんだものであるべきだが,単語の親密度は時間の経過やユーザの背景により変化する.そこで,本論文では,同音異字の情報と単語の親密度を考慮に入れた,コーパスを用いた漢字詳細読みの自動生成法を提案する.さらに漢字想起実験により,提案手法はインタラクティブな要素を取り入れることで生成される漢字詳細読みの長さを既存のスクリーンリーダのものと同程度に抑えていること,および,提案手法により自動生成された漢字詳細読みの性能が既存のスクリーンリーダのものよりも高いことを示す.
著者
高村 大也 乾 孝司 奥村 学
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.627-637, 2006-02-15
参考文献数
26
被引用文献数
16

単語の感情極性(望ましいか否か)を判定する方法を提案する.提案手法では,単語の感情極性を電子のスピンの方向と見なし,語釈文,シソーラス,コーパスによって構築された語彙ネットワークをスピン系でモデル化する.平均場近似を利用してスピン系の状態を近似的に求めることにより,単語の感情極性を判定する.また,系の状態に影響を与えるハイパーパラメータの予測方法も同時に提案する.提案手法を用いてWordNet に収録されている語彙に対して実験を行い,14 語という少数の単語を種とした場合は約80%の正解率で,3 000We propose a method for extracting semantic orientations of words: desirable or undesirable. We construct a lexical network out of glosses in a dictionary, a thesaurus and a corpus. Regarding semantic orientations of words on the network as spins of elect
著者
八田原 慎悟 藤井 叙人 古屋 晋一 風井浩志 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.2782-2795, 2009-12-15

脳活動とテレビゲームの関係に注目した関連研究の多くで,テレビゲーム実施時の前頭前野活動の低下が報告されてきた.しかし,これらはゲーム初中級者を対象としたものに限られ,熟達者の脳活動の活動様相および熟達にともなう変化については未解明の点が多い.本研究では2名の熟達者が「未熟達のゲーム」に訓練を重ねて熟達していく過程で脳活動にどのような変化が起こるのかを運動技能とあわせて検討を行った.その結果,当該熟達者の前頭前野活動は,学習初期に上昇し,学習中期には低下し,学習後期には再び上昇するというU-shapeを示した.
著者
柏崎 礼生 北口 善明 近堂 徹 楠田 友彦 大沼 善朗 中川 郁夫 阿部 俊二 横山 重俊 下條 真司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1140-1150, 2014-03-15

大規模災害による危機意識の高まりから災害回復(Disaster Recover: DR)を実現するための技術として遠隔地データセンタでのバックアップや分散ストレージに注目が集まっている.現在我々は金沢大学,広島大学,国立情報学研究所を中心として広域分散型のストレージ環境の構築を進めている.この環境は,ランダムアクセス性能の高さに特徴があり,かつ各拠点から同じデータにアクセスできるため,ライブマイグレーションにより他拠点においてサービスを継続することが可能となる.本稿では本環境におけるI/O性能を評価し,広域分散ストレージを用いたライブマイグレーション実験について述べ,有用性を示す.
著者
高野 辰之 宮川 治 小濱 隆司
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.3065-3078, 2011-11-15

プログラミングにおけるインデントとプログラミング能力の関係が従来から研究されてきた.従来研究では,インデントの効果がプログラミング能力の読解において確認されている.また,インデントとプログラミング能力である実装能力の関係について議論されている.そこで,本研究ではプログラミング入門教育科目の定期試験の解答からインデントと実装能力の関係を分析した.その結果,いくつかの項目で低い相関がみられたことから,インデントを正しく行える能力とプログラムを正しく書ける能力には何らかの関係があるのではないか,と考えられる.The relation between the indentation and the programming skill is researched. The effect is confirmed with the reading skill using the indentation. In our approach, the aspect is put on the description of the program. In this paper, the examination of the programming subjects for the beginner was analyzed. As a result, it may be related to the indentation and ability to implement programs.
著者
梶原 智之 山本 和英
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.983-992, 2015-03-15

小学生の文章読解支援に向けた語彙平易化を目的として,国語辞典の語釈文から平易な語彙的換言を獲得する手法を提案する.国語辞典の語釈文は,見出し語を平易な語を用いて説明しており,見出し語から語釈文中の語への換言によって語彙の平易化が見込まれる.従来は主要部終端型である日本語の特徴を利用した語釈文末の語への換言が行われてきたが,我々は語釈文全体から見出し語と換言可能性のある候補を広く収集して換言する手法を提案する.換言候補から最終的な換言を選択する際には,文脈を考慮するよりもシソーラスに基づく語の類似度を用いた選択の効果が高いことを実験的に示す.
著者
長井 歩 今井 浩
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.1769-1777, 2002-06-15
参考文献数
18
被引用文献数
9

詰将棋を解くプログラムの研究はこの10年の間に大きく進歩した.その原動力となったのは,証明数や反証数という概念の導入である.詰将棋に適用すると,直感的にいうと,証明数は玉の逃げ方の総数を,反証数は攻め方の王手の総数を表す.前者は攻め方にとって,後者は玉方にとって非常に重要な値である.証明数・反証数を対等に扱った,最もナイーブなアルゴリズムは,Allisによるpn-searchという最良優先探索法である.我々は近年,df-pnアルゴリズムという,pn-searchと同等の振舞いをする深さ優先探索法を提案している.この論文では,df-pnアルゴリズムを用いて詰将棋を解く強力なプログラムを作成し,その過程で導入した様々な技法を提案する.これらの技法をdf-pnの上に実装することにより,我々のプログラムでは300手以上の詰将棋のすべてを解くことに初めて成功した.しかもそれは,シングルプロセッサのワークステーションで解くなど,解答能力と解答時間の両面で優れた結果を出すことができた.During this decade, a study of programs to solve Tsume-Shogi problemshas greatly advanced. This is due to the development ofthe concept of a proof number and a disproof number.Allis' pn-search is the most naive best-first algorithm that usesboth proof numbers and disproof numbers on equal terms.We already developed a df-pn algorithm which is a depth-firstalgorithm that behaves the same as pn-search.In this paper, we applied df-pn algorithm to a program solvingTsume-Shogi problems. Moreover, we propose some techniqueswhich we imported during implementing the program.As a result, by these techniques implemented on df-pn,our program solved all the Tsume-Shogi problems,for the first time, that require over 300 plies to reach to the checkmate.