著者
中島 康夫 山崎 真樹子 鈴木 清一 井上 嘉則 上茶谷 若 山本 敦
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.349-354, 2013-04-05
参考文献数
30
被引用文献数
1

イオン性化合物分析における金属酸化物系吸着剤の選択的抽出剤としての適用性を調べるため,グリホサート[<i>N</i>-(phosphonomethyl)glycine, GLYP]を測定対象としてジルコニア及びチタニアの抽出・溶出特性を調べた.ジルコニア及びチタニアともリン酸化合物に対して高い親和性を示すとされているが,本検討で用いたチタニアからはGLYPの漏出が観察された.一方,ジルコニアはGLYPを明確に保持し,試料溶液を250 mL負荷しても良好に捕捉することができた.ジルコニアに捕集されたGLYPは0.4 M水酸化ナトリウム2 mLで定量的に溶出できた.この溶出液を,サプレッサモジュールを用いて中和させることで,電気伝導度検出─イオンクロマトグラフィーでGLYPを高感度検出することが可能であった.本法を都市型河川水に適用したところ,1 &mu;g L<sup>-1</sup>程度のGLYPを定量することができた.
著者
梶原 健寛 前馬 恵美子 加賀谷 重浩 井上 嘉則 上茶谷 若 梁井 英之 齊藤 満 遠田 浩司
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.629-634, 2011-08-05
参考文献数
22
被引用文献数
1 5

カルボキシメチル化ペンタエチレンヘキサミン(CM-PEHA)を導入したキレート樹脂を用いてAsを分離濃縮することを目的とし,Fe(III)を担持させたCM-PEHA型樹脂を用い,Asの吸着・溶出に関する基礎検討を行った.Fe(III)担持CM-PEHA型樹脂は,As(V)をpH 4 - 6で最大に吸着した.As(III)はほとんど捕集されなかったが,次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いてAs(III)をAs(V)に酸化することにより吸着可能であった.吸着したAs(V)は水酸化ナトリウム溶液を用いることで容易に溶出でき,ICP発光分光分析にて定量可能であった.これらにより,試料水中のAs(V)量,As(III)とAs(V)との合量をそれぞれ求めることが可能であり,これらの差からAs(III)量を求めることでAs(III)とAs(V)とを分別定量できる可能性が示された.本法は,地下水認証標準物質(ES-H-1)に含まれるAsの定量に適用可能であった.
著者
坂元 秀之 山本 和子 白崎 俊浩 山崎 秀夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.91-99, 2004-02-05
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

誘導結合プラズマ三次元質量分析装置(ICP/3DQMS)を用いて,陸水試料中の極微量ウランと主成分元素のナトリウム,マグネシウム,カリウム,カルシウムを迅速に分析する方法を確立した.ICP/3DQMSの感度にかかわるパラメーターとしてイオン取り込み時間とバッファーガス圧力について分析条件の最適化を検討した.本法によるウランの分析精度は標準物質Riverine Water(NRC&bull;CNRC SLRS-4)の分析と実試料への添加回収実験によって検討し,良好な結果が得られた.また,ナトリウム,マグネシウム,カリウム,カルシウムの分析精度は,実試料を用いて,ICP発光分析法によりクロスチェックを行い,これらの元素も精度よく定量できることを明らかにした.本法によるウランの検出限界(空試験溶液のイオン信号強度の3&sigma;に相当する濃度)を求めたところ0.7 ng/lであった.琵琶湖湖水及び周辺河川水の分析に本法を適用した.これら元素は河川水では周辺域の環境の影響を受けて比較的大きな濃度変動を示したが,琵琶湖の表層水ではほぼ一定の値を示した.琵琶湖北湖におけるこれら元素の平均濃度はそれぞれU: 22.0 ng/l,Na: 8.3 mg/l,Mg: 2.28 mg/l,K: 1.48 mg/l,Ca: 12.1 mg/lであった.また,成層期の琵琶湖水中でウランの鉛直分布は深度とともに大きく変動した.ウラン及び主成分元素の分析結果から,琵琶湖水系におけるウランの動態に関して興味深い知見が得られた.<br>
著者
渡 正博 尾崎 幸洋
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.379-397, 2010-05-05
参考文献数
81
被引用文献数
1 1

近赤外分光法を用いたプロセス分析では,様々な外乱に対し影響が少なく予測値に長期間の連続性がある検量線が要求される.更にコストと作業軽減のために少量のサンプルとデータを使って確度の良い検量線を開発する必要がある.本論文では,このような問題を解決するためにポリマープロセスを例としてプロセス用の検量線作成法,移植法,実用的な検量線補正法等を検討した結果について報告する.著者らが開発した近赤外オンライン分光分析システムを使用し,外乱の影響と補償方法について具体的に検討した.直鎖状低密度ポリエチレンの密度測定を行い長期間のプロセスオンラインモニターが可能なことを示した.又ポリプロピレンのエチレン含量,エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル量を例に選び,近赤外スペクトル解析方法と検量線作成について新しい提案を行った.更に定期点検前後で検量線予測値に差が出ても補正可能で,実用的な検量線補正方法を提案し実効性を確認した.
著者
平野 愛弓
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.535-545, 2006-08-05
参考文献数
69

脳内の神経伝達において重要な役割を担っている細胞外情報伝達物質の<small>L</small>-グルタミン酸及びアラキドン酸に対するセンシング法の開発と,急性脳スライス内でのその場検出への応用について,著者らの最近の研究を中心に総説として著した.ガラスキャピラリーの毛管現象を利用した<small>L</small>-グルタミン酸微小センサーでは,急性スライスにも適用可能な小さいサンプリング体積と高感度検出との両立を示した.グルタミン酸オキシダーゼと西洋わさびペルオキシダーゼから成る酵素膜に基づくイメージングでは,差分解析と組み合わせることにより,<small>L</small>-グルタミン酸の海馬内領野間分布を時間依存的にイメージングすることに成功した.また,アラキドン酸-細胞膜相互作用を利用することにより,アラキドン酸に対するその場センサーを構築した.これらのセンサーについて,原理,感度,ダイナミックレンジ,選択性,急性スライスに応用する際の問題の点から考察し,急性脳スライス内の細胞外情報伝達物質のその場検出法として有用であることを示した.<br>
著者
浅見 覚 高村 まゆみ 木村 由美子 鈴木 孝 麦島 秀雄 内倉 和雄
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.46, no.12, pp.943-950, 1997-12-05
参考文献数
26

独自の流路系を持つカラムスイッチング高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により,レチノイン酸(RA)異性体である13-<I>cis</I>-RA,all-<I>trans</I>-RAと9-<I>cis</I>RAの相互分離を確立した.カラムスイッチングを用いることにより,カラム中に残る生体成分の洗浄が不要となり,カラム洗浄に要する時間が短縮された.又,流路中に独自の流路を加えたことにより,注入した試料を損なうことなく検出できるようになり,より良い感度と再現性が得られた.そのため,1サイクルが25分で生体成分中のRAの連続測定が可能となった.ピーク面積及び高さを用いた絶対検量線法では,共に200ngまでの間で直線の関係を示し,血中濃度を測定するのに十分な結果が得られた.又,メタノール標準試料で0.5~1.9%(<I>n</I>=10,0.26~0.37μg/ml),標準添加血清試料で0.8~2.2%(<I>n</I>=5,0.32及び0.37μg/ml)の再現性が得られた.これらのことにより,従来のRA血中濃度測定の方法よりも簡便性,操作性,再現性の向上が見られ,本法のRA血中濃度測定の有用性が示唆された.
著者
田中 恵理子 代 英杰 林 永波 古月 文志 田中 俊逸 神 和夫 平間 祐志
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.807-813, 2009-09-05
参考文献数
18
被引用文献数
1 5

2005年11月中国吉林市にある吉林石油化学会社の工場で起こった爆発事故によって,ニトロベンゼンが中国東北部を流れる松花江に流入し,河川を汚染した.本研究では,汚染物質が通過したハルビン市内の松花江で採取された魚試料中のニトロベンゼンの測定を行った.また,ニトロベンゼンの代謝によって生成すると予想されるニトロフェノール類の定量を行った.ニトロベンゼンの抽出と濃縮には,精油定量装置を用い,魚試料の調製,魚試料の前処理,抽出条件等について検討した.その結果,2006年3月と10月に採取した魚試料からは比較的高い濃度のニトロベンゼンが検出された.また,魚試料からニトロベンゼンの代謝物と思われる<i>o</i>-,<i>m</i>-,<i>p</i>-ニトロフェノールが検出された.
著者
功刀 正行 阿部 幸子 鶴川 正寛 松村 千里 藤森 一男 中野 武
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.967-984, 2010-11-05
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

残留性有機汚染物質による地球規模の海洋汚染の時空間変動及び化学動態を把握するため,商船を篤志観測船として用い,この目的のために開発した海洋汚染観測システムを搭載し,太平洋及び南シナ海における広域観測を実施した.日本-オーストラリア間は鉱石運搬船を,南太平洋(含む南極近海)はクルーズ船を,北太平洋(東アジア-北米間)及び南シナ海はコンテナ船を,それぞれ篤志観測船として用いた.鉱石運搬船,クルーズ船には専用の海洋汚染観測システムを開発し搭載し,コンテナ船にはユニット化した小型の海洋汚染観測システムを開発して搭載し,試料採取及び観測を実施した.海水中の残留性有機汚染物質の捕集は,固相抽出法を用い,船上で100 Lの海水を濃縮捕集し,採取試料は直ちに船上で冷凍保存し,日本に持ち帰った.持ち帰った試料は冷凍庫で保存し,分析直前に前処理後HRGC/HRMS-SIM法で分析した.すべての試料から残留性有機汚染物質が検出された.低緯度海域では,HCHsの濃度は低く,かつその異性体のうちβ-HCHが最も高い,一方高緯度海域では中央から北米沿岸域ほどα-HCHが高い傾向にあるなどその濃度や異性体存在比などは極めて特徴的であり,発生源及び輸送過程を推定する上で貴重な情報を与えることが明らかとなった.
著者
佐藤 幸一 郡 宗幸 大河内 春乃
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.561-568, 1995-07-05
参考文献数
12
被引用文献数
6 6

形態別分離にミセル可溶化液体クロマトグラフィーを用い,検出器にICP-MSを適用する有機スズ化合物の高感度定量法について検討を行った.分離カラムとしてはYMC-Pack FL-C4(30×4.6mm i.d.)が最大保持時間20~30分と短時間で,かつ分離特性も良好であった.最適移動相は40mMラウリル硫酸トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン,75mM硝酸アンモニウム,3%v/v酢酸を含む20%v/vメタノールであった.サンプルループ容量を検討し,感度及び分離度から最適試料溶液注入量を100μlとした.分析精度(<I>n</I>=5)はトリブチルスズ(TBT),ジブチルスズ(DBT),トリフェニルスズ(TPT)及びジフェニルスズ(DPT)の各化合物を20ng含む混合標準溶液を注入し,RSDを求めたところ2%以下であった.絶対検出限界(3σ)はTBT:27,TPT:25,DBT:35,DPT:52及びMPT:97pgであった.ポリマー系抽出剤を用いた固相抽出法を併用することにより,信頼性の高い海水中有機スズ化合物(TBT及びTPT)のスペシエーションを可能にした.
著者
村上 和雄 掛本 道子 原田 敏勝 山田 約瑟 小川 裕康
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.343-348, 1992-07-05
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

球状シリカビーズ表面にグルコースオキシダーゼ(GOD)とグルコアミラーゼ(GAM)を共有結合で固定化し,ミニカラムに充てんしてミクロなバイオリアクターをつくり,高速液体クロマトグラフの分離カラムの後に接続した.グルコースはGODの触媒作用により過酸化水素とグルコノラクトンを,マルトースはGAMによりグルコースを生じ,更にこのグルコースがGODにより過酸化水素を生じる.生成した過酸化水素を電気化学検出器でアンペロメトリックに測定し,グルコースとマルトースの間接定量を試みた.本方法の検出感度は,GOD固定化カラムを用いた化学発光-FIA法やGOD・GAM固定化カラムを用いた化学発光-FIA法とほぼ同等であり,示差屈折率検出器を用いるHPLC法よりも約500倍高かった.最小検出量は絶対量でグルコースが10ng,マルトースが15ng(いずれも<I>S</I>/<I>N</I>=3)であった.本法は酵素の触媒作用,電気化学検出器の選択的で高感度な検出を利用しているため,前処理が極めて簡略化でき,試料を希釈するだけでよかった.市販の麦芽飲料,麦芽入り豆乳,ノンアルコールビール中のグルコースとマルトースの定量に応用し,良好な結果が得られた.
著者
奥田 知明 黒田 寿晴 奈良 富雄 岡本 和城 岡林 佑美 直井 大輔 田中 茂 HE Kebin MA Yongliang JIA Yingtao ZHAO Qing
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.287-292, 2009-04-05
被引用文献数
1

発がん性を有する多環芳香族炭化水素類(PAHs)の定量分析時における夾雑物除去操作の利便性向上を目指し,自動化カラムクロマトグラフィー装置の開発を行った.本装置は,夾雑物除去用固相抽出管を最大8本,展開溶媒は最大3種類,滴下容量は最大1 mL/ストロークでその分解能は1 μL,回収容器は最大8×3=24本までセット可能である.開発された自動化カラムクロマトグラフィー装置を用いて夾雑物除去操作を行った際のPAHs回収率は,手作業による精製を行った場合と比較して103±9% であり,両者は極めて良好に一致した.この自動化により,8検体の処理に要する時間は手作業の場合の半分である約45分に短縮され,また自動運転中は放置できるため,分析者にとっての利便性が著しく向上した.本研究により確立された高速ソックスレー抽出/自動化カラムクロマトグラフィー/高速液体クロマトグラフィー/蛍光検出法を中国北京市で採取された大気浮遊粒子状物質中のPAHsの定量へ応用した.測定された15種類のPAHs濃度の総和(ΣPAHs)は,暖房期では198.5±149.8 ng/m<sup>3</sup>(<i>n</i>=24),非暖房期では50.1±63.7 ng/m<sup>3</sup>(<i>n</i>=51)であり,北京市において特に冬季に暖房のための石炭燃焼由来のPAHsによる汚染が深刻化することが示された.
著者
三井 利幸 榊原 浩之
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.777-782, 1999-08
被引用文献数
1 1

非破壊で印影中の朱肉を顕微分光分析計で測定し,日本で製造されている13種類の市販の事務用朱肉の異同識別を行った.方法は次のとおりである.試料を50倍に拡大後,顕微分光分析計を用いて380から760nmまでの間を5nm間隔で各波長に対する吸光度を測定した.得られた76の吸光度値を380nmの吸光度値で除した.1試料から得られた76の数値を用いて多変量解析法の一種であるクラスター分析,主成分分析,KNN,SIMCAで検討した.その結果,主成分分析以外は,いずれの3方法を用いても13種類の事務用朱肉間の異同識別が可能であった.更に,印影は押印されてからかなり長期間放置されている場合があることから,放置時間についても検討したところ,1日10時間蛍光灯を照射する方法で,24か月間放置しても異同識別には全く影響が認められなかった.
著者
小檜山 文子 佐藤 雅子 金子 毅
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.661-665, 2009-08-05
被引用文献数
4

マイクロ抽出法の一つである分散液液マイクロ抽出(dispersive liquid liquid microextraction,DLLME)法により,ベンゾジアゼピン系薬剤であるフルニトラゼパム及びニメタゼパムの低濃度水溶液試料から抽出を行い,ガスクロマトグラフィー質量分析による測定を行った.ベンゾジアゼピン系薬剤に対する抽出溶媒,分散溶媒の種類等の最適条件を検討し,同条件で三環系抗うつ薬剤であるアミトリプチリン及びノルトリプチリン並びにフェノチアジン系薬剤であるクロルプロマジン及びプロメタジンの低濃度水溶液試料についても抽出・測定を行った.更に本手法を用い,アルコール飲料中のフルニトラゼパムの抽出を試みたところ,振とう操作を必要とせず,迅速・高効率な抽出が可能であった.このことから,DLLME法は法化学分野における有用な抽出法の一つであることが認められた.
著者
阿部 善也 権代 紘志 竹内 翔吾 白瀧 絢子 内田 篤呉 中井 泉
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.477-487, 2011-06-05
被引用文献数
5

国宝 紅白梅図屏風(尾形光琳作)は,先行研究でその金地が金箔製ではない可能性が指摘され,社会的に注目された.その一方で,金地が金泥で描かれたものであると判断するに足る科学的根拠は得られておらず,金地の製法に関して疑問が残されていた.本研究では最先端の可搬型分析装置を用いたオンサイト非接触複合分析により,金地の製法解明を図った.特に金箔の延伸過程で生じる金結晶の配向現象に着目し,新規の手法として粉末X線回折法を導入し,金箔・金泥の判定を行った.粉末X線回折測定により屏風金地を分析した結果,屏風の金地部分では金結晶が<i>a</i>軸方向に選択配向していることが明らかとなった.この結果は屏風に先立って分析された現代の金箔の結果と一致した.さらに屏風の金地全体に格子状に浮き上がって見える部分については,金の厚みが2倍以上になっていることが蛍光X線装置による線分析によって示され,2枚の金箔が重なった箔足部分であることが判明した.以上の結果より,屏風の金地は金泥ではなく,金箔であることが明らかとなった.
著者
山下 大輔 石崎 温史 宇田 応之
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.347-355, 2009-05-05
被引用文献数
2

現場での使用が可能で,XRD(X線回折),XRF(蛍光X線)の2種類の分析を同一ポイントで行うことができるポータブルX線回折・蛍光X線分析装置(portable X-ray diffractometer equipped with XRF,XRDF)を開発した.開発した装置は,0°から60°の範囲内のどの角度にも0.002°刻みにX線管と検出器を動かすことができる.XRDFはポータブル型であるので現場に持ち込み,移動,搬出の制限されている遺物や文化財などのその場分析が可能になった.更に,測定対象の大きさ,形状に制限がほとんどないため,測定対象が大型,異形であっても,破壊や裁断,分割することなく,そのまま測定できる.このような特長を持つXRDFだからこそ,貴重な文化財の調査で数々の成果を上げた.本稿では,鶴林寺聖観音像,セヌウのミイラマスク,ツタンカーメン王の黄金のマスクの分析結果を紹介する.
著者
岸 慎太郎 關岡 亮二 袖山 真学 志賀 正恩 瀬戸 康雄
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.65-76, 2010-01-05
被引用文献数
17

The detection performance of a portable <sup>241</sup>Am ionization aspiration-type ion mobility spectrometer (M90-D1-C, Environics Oy) was investigated with nerve gases, blister agents, blood agents, choking agents and related compounds. The vapors of nerve gases, sarin, soman, tabun, cyclohexylsarin were recognized as "NERVE" after about several seconds of sampling, and the limits of detection (LOD) were < 0.3 mg m<sup>−3</sup>. The vapors of blister agents, mustard gas and lewisite 1, and blood agents, hydrogen cyanide and cyanogen chloride were recognized as "BLISTER" with an LOD of < 2.4 mg m<sup>−3</sup> and > 415 mg m<sup>−3</sup>, respectively. The vapor of chlorine was recognized as "BLOOD" with an LOD of 820 mg m<sup>−3</sup>. The vapors of nitrogen mustard 3 and chlorpicrin were recognized as different alarm classes, depending on their concentrations. The vapors of nitrogen mustard 1, 2 and phosgene did not show any alarm. As for interference, the vapors of nerve gas simulants, dimethylmethylphosphonate, trimethylphosphate, triethylphosphate, diisopropylfluorophosphate, blister agent simulants, 2-chloroethylethylsulfide, 1,4-thioxane, 2-mercaptoethanol, and 20 organic solvents within 38 solvents examined were recognized false-positively. The patterns of detection sensor channel response values of 6 ion mobility cells and semiconductor cell were compared with the situation of the alarm against chemical-warfare agents.
著者
金 誠培 梅澤 喜夫 田尾 博明
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.435-446, 2009-06-05

最近の遺伝子工学の発展に伴い,遺伝子操作された蛍光発光タンパク質を標識として様々な融合タンパク質プローブが設計・合成され,リガンド活性計測等に応用されてきた.今日,生体・生細胞に適用できる分子イメージング技術は,生理活性を持つ小さい分子の同定から,タンパク質-タンパク質間結合,タンパク質の構造変化までの幅広い計測ニーズに対応できるものとして応用されている.本総合論文では,著者らが最近数年間成し遂げてきた生物発光イメージング研究を紹介する.例えば,転写因子の核内移行や細胞質内非ゲノム的なタンパク質-タンパク質間相互作用を,独自のタンパク質スプライシング法を用いて計測した.また,一つの分子内に,リガンドセンシングタンパク質と発光タンパク質を集積した形態の一分子型生物発光イメージングプローブを開発した.その後,このプローブをマルチカラー化して,複数の信号伝達過程を同時にイメージングできるように発展させた.更に,生物発光プローブそのもののリガンド感受性を高める手法として,円順列置換や小さい発光酵素を用いた分子設計技術を紹介する.本総合論文を通じて,多くの分析化学者の方にこの分野の面白さをぜひ分かって頂きたい.
著者
太田 奈奈美 児玉谷 仁 山崎 重雄 藤永 薫 小松 優 齊藤 惠逸
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.539-544, 2009-06-05

トリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(III)錯体の化学発光反応を利用したリン酸イオンの高感度測定法を開発した.酸性条件下,リン酸イオンとモリブデン酸イオンが反応して生じるモリブドリン酸イオンをトリ-<i>n</i>-プロピルアンモニウムイオンによりイオン対を形成させることで有機溶媒中に抽出した.この対イオンとして抽出されたトリ-<i>n</i>-プロピルアンモニウムイオンをトリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(III)錯体の化学発光反応を用いて検出することで,間接的にリン酸イオンの検出を行った.抽出と検出のための最適条件を検討し,検量線を作成したところ,0.01~10 μMまで良好な直線性(<i>r</i>=0.9998)が得られた.検出限界(<i>S</i>/<i>N</i>=3)は7.3 nM(0.22 ngP/mL),再現性は2.0%(1 μM,<i>n</i>=6)であった.環境水中のリン酸イオンの測定に応用した結果,既存のモリブデン青法と本法の検出値は両者で近い値が得られ,またモリブデン青法では感度不足で測定不可能な試料においてもリン酸イオンの測定が可能であった.
著者
伊藤 醇一 岩附 正明 深沢 力
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.445-459, 1993-08-05
被引用文献数
3 3

炭化ケイ素には多数のポリタイプが存在し,通常の炭化ケイ素製品はこれらの混合物である.一方,JCPDSカードその他に記載されている炭化ケイ素の結晶学的データやX線回折データには必ずしも一貫性がなく,実際試料との不一致も見られ,各ポリタイプの同定を困難にしている.そこで本研究では,従来の炭化ケイ素の格子定数データをできるだけ多く集めて比較し,本来変わらないはずの六方格子のα軸長を,著者らの実験結果や文献値を参考に一定値(3.081Å)にして整理統一した.更に,代表的ポリタイプについて,この格子定数と原子配列データを用いて,面間隔とX線回折強度を計算して実験値とも比較した.これによりポリタイプ間の回折図形の差が明確になり,ポリタイプの同定が容易になった.