著者
末野 利治
出版者
東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

実験1: 白内障患者血清中のヒト水晶体上皮蛋白に対する抗体価目的、方法;白内障患者血清中の抗水晶体蛋白抗体が何であるのか確かめるため、白内障患者より採取した水晶体上皮蛋白を抗原とし、患者血清と正常人血清とをウェスタンプロット法にて検索し、患者血清で反応性の高い抗体を調べた。結果;ヒト血清との反応は非特異性のバンドが数多く検出されるが、約70kDa及び30kDaの位置のバンドは、患者血清でより濃く染まり、正常人血清と比べ有意に検出された。結論;正常人血清に比べ上記分子量蛋白に対する抗体価が白内障患者血清で高く、白内障患者に特異的な抗体と思われた。今後の研究計画;上記の抗体に対する抗原を抽出し、実験動物に免疫し、産生された抗体が水晶体上皮細胞に毒性があるかを調べる。実験2: 水晶体器官培養下での抗体の水晶体嚢透過性目的、方法;昨年度は抗水晶体上皮蛋白抗体添加した水晶体器官培養下で、水晶体上皮細胞の障害度をトリパンブルー染色法にて検索し、間接的に抗体の嚢透過性を証明したが(国際白内障研究会(平成9年11月)および日本眼科学会総会(平成10年4月)で報告)、本年度は、同じく抗水晶体上皮蛋白抗体を添加したラット水晶体器官培養後、凍結切片を作成し、酵素抗体法を用い水晶体嚢を透過した抗体を検出し、抗体が水晶体嚢を通過することの直接的な証明を試みた。結果;現在までのところ培養後の水晶体上皮細胞に抗水晶体上皮蛋白抗体の存在が認められない。現在条件を変え、また、酵素抗体法に工夫を加え、検索中である。
著者
弥久保 宏
出版者
東北福祉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

(1)選挙キャンペーン世論調査における政党支持の動向や主要政党のマニフェストを比較して、キャンペーンの選挙結果に及ぼした影響を探ってみた。保守党と労働党の二大政党間におけるマニフェストの大きな相違は見られなかった。世論調査ではサッチャー保守党長期政権に対する国民の不満や変化を求める世論を反映して、労働党優勢であった。これに危機感を抱いたメジャー首相率いる保守党は選挙戦中盤からなりふり構わない労働党に対する中傷やスキャンダルキャンペーンを展開した。特に、労働党はテレビでの党の広告番組でいわゆるヤラセ番組を放映するなど、大失態を演じ、取り返しのつかないダメ-ジをこうむってしまった(2)選挙結果とその分析選挙結果の地域的特性、社会的属性、社会的・経済的地位、労働組合員と住居形態と投票行動において、従来とは異なった現象が今回の選挙では明らかになった。特に、労働組合員と住居形態との関係では、サッチャー政権時代に行なわれた公営住宅政策によって公営住宅の払下げを受けた労働者階級の労働党支持から保守党支持へのスウイングは労働党の政権奪回戦略の根本的な見直しを迫るものとなりそうである。
著者
安保 英勇
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

沖縄県本部町の住人を対象にインタビューを行った。対象は25歳から60歳までの男女10名で、複数回にわたりインタビューを行った。また、対象者の内の一人が加入する模合「Kの会(仮称)」にも参加し、参与観察を重ねた。対象者の全てが模合に加入しており、平均では2つ程度、多い者では現在6つの模合に参加している。模合の動機として最も強いものは親睦を強めることにある。「親睦」といっても様々である。「那覇からこっちに来た人が、こっちでも友達欲しいという訳よ。その子の友達がこっちにいるんだけど、『じゃぁ模合しようか』って始めたわけさ」(25歳女性)というように新たに交友関係を構築しようと企画される場合がある。また「僕は、親戚があちこちに散らばってるわけさ。だから、何かないとみんなと顔合わせ無いわけ。それじゃ寂しいってんで『模合しよか』ってなったんです。」(50歳男性)など、親戚関係を保持する事を意図して企画される場合がある。このほか親睦模合のもっと典型的なものは、中高の同級生・職場の同僚・自営業者の同業者同士が母体となるものである事が確認された。また、親睦模合でも親睦以外の機能も有する場合がある。「Kの会」は、退職教員や役場職員、自営業者などを主なメンバーとしているが、町の将来像を模索することを目的の一つとしており、住民参加による芝居の公演を企画した。この芝居は民話を題材に方言で行われ、一つの地域興しと考えることができよう。一方「Kの会」のメンバーの一人は、「僕は客商売だからね、こういうところに来て、顔を広げておくわけさ」と「仕事上のつきあいの場」と見なす面もある。歴史的には、1970年頃までは地域ごとに比較的大きな金額の模合を行い、家の改修や新築費用に当てていた。近年そのような本来的な金融機能は著しく衰退し、上記のような多様な「親睦」の機能を有するように変容している事を確認した。
著者
前田 直子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は以下の二点を行なった。第一は、昨年度に引き続き、話し言葉を中心に、コーパスを充実させたことである。今年度は市販の対談集を主にテキスト化する作業を行なった。第二に、この新たな資料含むこれまでのコーパスを基に、次に述べる著作・論文を発表した。本年度の研究成果をまとめたものは次の通りである。第一は、『日本語文法セルフマスターシリーズ7 条件表現』(共著)が5月に刊行されたことである(詳細は昨年度の実績報告書に記したので、本年度は省略する)。第二に、論文「否定的状態への変化を表す動詞変化構文について-ないようにする・なくする・ないようになる・なくなる-」を執筆した。これは、日本語教育における初級文法項目の一つである変化構文「〜するようにする・なる」の否定形がどのような形式であるかを、実証的に論じたものである。動詞変化構文は「ように」を用いることからもわかるように、複文(中でも目的節)と大きく関係がある。この動詞変化構文は、否定形として、論文副題に示した4つの形式が可能であるが、日本語教科書・参考書・概説書では、これらの扱いにおいて統一的な見解が見られていない。この問題を指摘し解決するため、本論文では、本奨励研究でも使用されたコーパスを用いて分析した。その結果、4形式が全て可能であること、しかし、使用頻度には大きな差があること、頻度の低い形式が用いられるのは特定の場合であることが明らかになった。第三に、『日本語文法演習待遇表現』(共著)を執筆した。これは上級の日本語学習者に対する文法のテキストであり、当巻は敬語などの待遇表現を体系的に習得させることを目的としている。待遇表現は言うまでもなく話し言葉において多用され、高度な日本語能力が求められる重要な項目である。本奨励研究は複文を対象としたものだが、待遇表現には許可「〜してもいいでしょうか」、勧め「してはどうでしょうか」といった複文形式が基となった複合助動詞形式が多く見られ、本奨励研究のデータと研究成果を十分に生かすことができた。教育機関での実際の試用を経て改稿を加え、刊行予定は来年度である。
著者
成清 修
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

フェルミ流体論を金属絶縁体転移近傍の異常金属相に拡張することを目指した理論的研究を、銅酸化物高温超伝導体を含む遷移金属酸化物を対象として行った。ここでの金属絶縁体転移が、従来主張されているような、局所相関が重要な(狭義の)モット転移ではなく、非局所的な反強磁性相関が重要な、異なるクラスの金属絶縁体転移であることを明らかにした。1.バナジウム酸化物の金属絶縁体転移バナジウム酸化物(V_2O_3)の金属絶縁体転移は、従来典型的なモット転移であると考えられていたが、近年の実験は、銅酸化物高温超伝導体の常伝導相に類似の、「スピン電荷分離」や「スピンギャップ」とよばれる異常を示している。我々は遍歴-局在双対性に基づいたネストしたスピンゆらぎの理論によって、2次元物質である銅酸化物の異常を解明してきたが、これを3次元物質であるバナジウム酸化物に拡張することによって、その異常を説明した。これらの異常は2次元に特有のものと思われていたが、ネストしたスピンゆらぎの理論では、次元性は重要ではなく、3次元でも異常があらわれることを明らかにした。また、これらの異常は、我々の理論では中間結合領域に特有のものなので、バナジウム酸化物および銅酸化物高温超伝導体は、従来言われているような強結合ではなく中間結合の物質であると結論した。インコヒーレントなスペクトルの効果金属絶縁体転移の近傍では、フェルミ流体論では主役の遍歴的な準粒子よりも局在スピンによるインコヒーレントなスペクトルのウエイトが大きくなっている。我々の遍歴-局在双対性理論は、この2つの自由度を考慮しているが、フェルミ流体論では前者しか考慮していない。この意味で、遍歴-局在双対性理論はフェルミ流体論の自然な拡張になっており、従来非フェルミ流体とかマージナルなフェルミ流体とよばれていた現象も、遍歴-局在双対性理論の枠組みで理解できることを明らかにした。
著者
園田 茂人
出版者
中央大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究では、研究代表者が以前「在京県人会に見られるネットワークの構造とその機能」(1990年度文部省科学研究費助成金・奨励研究(A))プロジェクトで行った調査の成果を受けて、県人会組織に所属する個人を対象に、その出身背景、東京地域への流入プロセス、就職経路と転職過程、同郷人との交流、現在の出身地との結び付き、同郷意識などの項目に関して質問票調査を行った。具体的な作業としては、まず最初に、1993年の夏に秋田県と鹿児島県からの出郷者を対象に、合計6人、一人3時間程度のヒアリングを行い、これをもとに調査票の質問項目の確認作業を行った。次に、県人会に所属している人たちを結び付ける活動について、具体的に東京新潟県人会の事務局を対象にヒアリングを行い、同時に今回の質問票調査の協力を取り付けた。もともと留置法による調査を考えていたが、調査の効率性と対象者のばらつきを考え、郵送法による調査へと変更した。結局調査の対象者は、東京新潟県人会に属する400人となったが、すでに対象者には質問票を配布してある。本年5月中旬までには質問票の回収作業を終わらせ、このデータをコンピュータに入力した後、7月〜8月くらいには、基礎集計がまとまるものと期待される。この結果は、それ独自に論文としてまとめられると同時に、東京大学の苅谷剛彦助教授のグループと連動し、戦後日本の社会形成に関する大規模プロジェクトへとつなげてゆく計画がある。
著者
戸村 佳代
出版者
明治大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、主節が省略された複文が発話された際に、日本語話者がその省略部分を復元し正しく理解するのに関与しているメカニズムを、語用論・関連性理論などの観点から明らかにすることを目的とし、次の4つの視点で研究を進めた。(1) 日本語の母語話者が省略された主節の復元に利用する語用論的情報を明らかにする。(2) 主節の省略を許す接続助詞の意味情報と文脈の関わりを分析する。(3) 主節の省略を促す要因と主節の省略が可能となる条件を明らかにする。(4) 学習上の困難点をより明確にし、学習者に与えるべき情報を特定する。主節が省略された複文の主節を日本語話者が頭の中で復元し理解する際には、次の意味情報が大きく寄与している。(1) 問題となる複文に用いられている接続助詞が持つ意味情報(2) 問題となる複文に先行する文脈から得られる意味情報(3) 問題となる複文に続いて現れる文脈からの意味情報これらの情報の実態を捉えるために、従属節(S_1+接続助詞)のみの情報が主節(S_2)をどの程度まで規定し得るかを見るための調査を行い、調査結果をデータベース化した。分析にあたっては、(1) 特殊な文脈の中に入らず、従属節だけが単独で提示された場合、(2) 従属節がさらに条件節を伴っている場合(3) 文脈情報がさらに付け加わっている場合(4) 同一の文脈・同一の従属節に対して異なる接続助詞を伴わせた場合に、主節の解釈がどのように変化するかなどに分類し、接続助詞の機能と文脈の役割を明らかにする試みを行った。この研究の詳細については『明治大学教養論集』に発表の予定である。。
著者
由本 陽子
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

今年度は、日本語の複合動詞形成に焦点を当て、語彙概念構造(LCS)と項構造の関係について考えた。日本語では、「動詞+動詞」の複合が非常に生産的であるが、どのような動詞の組み合せでも自由なわけではない。国語学の先行研究においては、2つの動詞の意味関係にどのような型が認められるかという分類が示されるか(cf.長嶋1976他)、もしくは、2つの動詞のうちどちらが複合動詞の格を支配しているかについての分類を示す(cf.山本1984)に留まっており、どのような組み合せが許されるのかが予測できるような、複合動詞形成を支配する原則の探求には至っていない。これに対し、Kageyama (1989)では、日本語の複合動詞には統語部門で形成されるものと語彙部門で形成されるものとがあるとし、さらに影山(1993)では、後者にも項構造の合成によるものとLCSの合成によるものという区別を認めた上で、各々がその形成されるレベル・部門に適用される原則に支配されていることが示されている。本研究では、このうち特に語彙部門で形成されると考えられているものに焦点をあて、小説・新聞・逆引き辞典などから収集した複合動詞を調査し、可能な動詞の組み合せは、(1)複合動詞のLCSにおいて、それを構成する2つの下位事態が全体として単一の事態と認識され得るような関係づけをなされていること (2)2つの動詞の主語が同定されること (3)複合動詞の項構造と格素性がBurzioの一般化に従っていること という3つの制約によって予測可能であることを示した。(1)については5つのパターンを認めたが、これはLi(1990,1993)の中国語の複合動詞の観察とほぼ一致しており、おそらく普遍的に限定されるであろう。-方(2)は中国語にはない制約であり、また、前項が非能格動詞、後項が非対格動詞の場合にも成立することから、影山の主張に反し、語彙部門での複合動詞がすべてLCSの合成によることを示唆する。(3)は、複合動詞の格素性が主要部優先を原則とする浸透の原理により導かれることと、項構造がLCSから結び付けの規則により派生すると仮定した場合、(1)(2)では説明できない動詞複合の制約を説明するものである。結論として、日本語の語彙部門における複合動詞形成に関してはLCSのレベルですべてが説明でき、項構造のレベルはLCSから派生するものとして促えた方が良いと思われる。また、複合動詞について得られた知見から、動詞のLCSはPustejovsky(1991)らが主張するように、event structureを含むものであるべきことが明らかとなった。
著者
大江 麻理子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

色素沈着症の発症過程において、表皮細胞とのパラクリン機構によるメラノサイト活性化メカニズムが近年注目されている。なかでも、紫外線色素沈着においては表皮細胞の分泌するエンドセリンがメラノサイトを刺激し、色素産生を促すことが最近解明された。また種々の性ホルモンがメラノサイトの活性化を促進する事実も判明している。以上の事実に基づき、日常的に見られる肝斑、老人性色素斑の色素形成メカニズムにおいても上述のごとき機構が関与するか否かを解明する目的で以下の実験を行った。1:肝斑におけるエンドセリンの関与について、血中エンドセリン量をELISA法で、性ホルモン(LH、FSH、エストロゲン、プロゲステロン)RIA法で測定し、正常人のそれと比較検討した。2:老人性色素斑の表皮細胞のエンドセリンmRNAの発現を検討するために、患者より採取した病変皮膚および正常皮膚を60℃の生食に3分留置し、表皮を剥離しAGPC法によりRNAを分離し、エンドセリン-1を増幅するプライマーを用いてRTPCRを行った。その生成物を電気泳動し、エンドセリン-1mRNAの発現を半定量的に解析した。結果1:正常人3名(平均年齢43歳)の血中エンドセリン量:卵胞期(1.43±1.04pg/ml)、黄体期(1.5±0.9pg/ml)と比較し、肝斑患者5名(平均年齢38歳)では卵胞期(1.46±1.09pg/ml)、黄体期(1.28±0.87pg/ml)と有意な差を認めず、性ホルモンの変動とも一致しなかった。2:老人性色素斑3例の病変皮膚および正常皮膚でエンドセリン-1mRNAの発現を認めたが、両者で発現量に差を認めなかった。今回の実験では肝斑および老人性色素斑の色素沈着へのエンドセリンの関与は証明され得なかった。
著者
中川 純子
出版者
龍谷大学短期大学部
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本検査被検者は44名(男5名、女39名:平均年齢19.95歳range18〜23歳)となった。1.孤独感尺度(LSO)の基本統計量が出され、箱庭作品の被検者によるSD評定の分析がなされた。SD評定は因子分析により7因子抽出された(VARIMAX回転)。2.箱庭作品の数量的分析:岡田(1984)と比較すると神経症群よりも取組全時間、玩具総数とも、短く、少ないが、これは「孤独」をテーマにして作成してもらった影響が大きいと考えられる。3.箱庭作品の専門群による評定の分析:専門群7名が被検者と同じ形のSD法で評定した。多次元尺度構成法(ALSCAL:INDSCALモデル)で分析、6次元を抽出。第1次元「ひとりぼっちを意識させられる【tautomer】周囲にとけ込み開放される(重み0.34)」、第2次元「萎縮【tautomer】にぎやかでエネルギッシュ(重き0.19)」、第3次元「方向性のある攻撃性やざわつき【tautomer】観念的、抽象的で拡散している(重み0.19)」、第4次元「ひんやりした暗さ、冷たさ【tautomer】明るさ(重み0.16)」、第5次元「求心性、自己の囲いを持つ【tautomer】拡散して守りが無い(重み0.06)」、第6次元「ふと隣り合わせに感じる危機感【tautomer】どちらかというひとごとのさみしさ(重み0.06)」と考えられた。この6つの次元軸は、孤独というテーマを臨床的に考えるとき、重要な軸になると考える。またLSOと次元負荷値の関連をみるとLSO-Eと次元2、次元3に有意な相関が見られた。それによると、「人間は本来ひとりであると思っている」ことと、孤独の表現を「にぎやかなものにする」「方向性のある攻撃性やざわつきを示す」ことは関連があることが分かる。4.各箱庭のテーマ分析:箱庭の数が多いので詳細は省略。「2」「守り」等興味深いテーマが多い。
著者
数馬 広二
出版者
工学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)馬庭念流樋口家文書『従宝暦五門弟入帳』(1755〜1765:入門者九五三名が名前記載)に記載される門人で上野国内北部域のうち宝暦5年2月入門の白井町(子持村)在住の16名、および宝暦11年新井村8名、山子田村(現在の榛東村)11名に関して調査を行った。また信濃国佐久市、小諸市に分布した馬庭念流門人に関して各市教育委員会を通じて調査した。(2)馬庭念流門人が存在した地域での学心一刀流、一刀流中西派、真之真石川流、気楽流での武術流派と馬庭念流との勢力関係を奉納額から検討した。一刀流中西派は、八幡八幡宮(やわたはちまんぐう)(高崎市八幡町:文化15年)、群馬町足門鎮守八坂神社(弘化2年)、碓氷峠熊野神社(弘化4年)伊香保水沢寺(安政三年)への奉額が確認された。真之真石川流は、榛名神社(群馬郡榛名町:文政5年)産泰神社(埼玉県本庄市四方田(しほうでん):天保10年)富田寺(ふくでんじ)(本庄市富田:弘化4年)の三枚であった。学心一刀流は榛名山神社御幸殿(みゆきでん)外側と額殿(安政五年)、大宮巌鼓神社(おおみやいわづつみじんじゃ)(慶応元年)、気楽流は碓氷峠熊野神社(文政9年)、群馬郡川島村甲波宿祢神社(かわすくねじんじゃ)(嘉永7年)に奉額した。(3)樋口家文書のうち流派勢力に関する記述のある書簡を解読した。一つは、伊香保一件直後の千葉周作の北辰一刀流の様子を馬庭念流松本定八が樋口十郎右衛門に宛てた手紙である。また樋口家文書「山口藤四郎より樋口重郎右衛門へ」書簡に山口藤四郎の葛藤と転流について著されている。
著者
三橋 洋治
出版者
近畿大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

H7 7月研究物品購入。申請額を下回る予算の為予定のインキュベータ-の購入ができなかった。培養液及び染色液及びエストロゲン抗体とプロゲステロン抗体などの消耗品のみの購入費用にあて、既存のCO_2インキュベータ-を使用せざるを得なかった。8月よりヒト子宮内膜の分離培養実験を開始するもインキュベータ-が多人数多目的に使用されている為、contaminationが問題となりカビによる汚染により細胞の増加が見られなかった。10月より趣旨を変えパーコールグラディエントを用いた絨毛細胞の単離実験を進めている。12月トロホブラストの単離に成功したがやはりインキュベータ-の精度の不良により、初代培養までは可能となったが継代培養は今も尚成功するに至っていない。従って当初の目的であるヒト子宮内膜の立体構築も残念ながら今だ樹立されてはいない。今後も努力を続けていく予定である。
著者
久保 博子
出版者
奈良女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

夏期のオフィス環境等の室内空間における、温熱的快適性と人体への気流の影響検討することを目的とする研究一環として、空調設備の気流の吹き出し方式の違いによる人体の温熱的快適性への影響を明らかにすることを目的として実験を行った。人工気候室にて夏期のオフィス環境を想定して、気温25℃、27.5℃、30℃の3段階を設定し、相対湿度50%一定とした。気流は3室の人工気候室を用い、「天井吹きだし」「床吹きだし」「壁面吹きだし」の3条件とし、気流速度は被験者の位置で0.2〜0.3m/sの微弱気流とした。夏服着用の健康な平均的体格の青年女子を被験者とし、実験中はパソコンのによる数値入力作業を科し、各温熱条件に60分暴露した。測定項目は生理的反応として皮膚温14点、心理的反応として温冷感、快適感、気流感等とした。(1)平均皮膚温は、吹き出し方式別に検討すると、壁面吹き出しが最も低く、天井吹き出し、床吹き出しの順に低くなる。これは、皮膚温が気流による人体の暴露面積の影響で暴露面積が大きい方がより低下することが考えられる。(2)全身温冷感は、顕著な差は認められないが、気温25℃では床面が、27.5℃及び30℃では天井吹き出しが最も涼しい側の申告である。(3)快適感は、気温25℃では壁面吹き出しが、27.5℃及び30℃では天井吹き出しが最も快適と申告され、天井吹き出しでは「やや涼しい」方が、床吹き出しでは「どちらでもない」で最も快適と快適された。(4)どの気温でも天井吹き出しが「好きな」「満足した」と評価された。
著者
松林 勝志
出版者
東京工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

高速鉄道において列車がトンネルに突入する際、トンネル内の空気を圧縮し圧縮進行波を生ずる。その圧縮波は音速でトンネル内を伝わるにつれ、その先端が切り立ち、出口で微気圧波(正のインパルス音)となって騒音となる。音圧はピーク値で150Pa以上(幅約20ms,トンネル出口より20m地点)になり、ちょうど打ち上げ花火が頭上で炸裂したような音である。スピーカから逆位相の音を出力し能動消音する方法が考えられるが、振幅の点で非常に困難である。そこで真空容器にシャッタを取り付け、これを高速開閉することで負のインパルス音を発生することのできる消音装置を試作した。図1に示す円筒型真空容器にシャッタを取り付け、容器内部を0.1気圧程度に減圧する。そしてシャッタを短時間で開閉することにより、負のインパルス音を発生させる。容器の大きさは実際のトンネルの断面積と圧縮波の気圧より決定した。シャッタ可動部はリニアベアリングで支えられ、エアシリンダで動作する。従来のシャッタに比べ、面積を4倍にし、てこにより高速動作可能にした大型のシャッタ(開口部400mm^*400mm)を加圧し実験したところ、最大で-8Pa(幅約50ms,測定距離2m)の負の微気圧波が発生した。これは実際の1/100のオーダである。また、開口面積と発生負波の関係は、比例することが明らかとなった。負圧を用いる方法では、大気圧との差が1気圧が限界であり、また空気の粒子速度が遅くなる。そのため、より大音圧の負の微気圧波を発生させるには、開口面積を大きくしなければならないが装置が巨大化してしまう。そこで図2に示すように、圧縮進行波の先端部の切り立ちを正圧で緩和し微気圧波の発生を抑制することを今後検討したい。
著者
榊原 哲也
出版者
立命館大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、ドイツ現象学派内部においてダウベルト、プフェンダー、ライナッハらによって提示された言語行為の考え方の全貌をできる限り明らかにし、それをオースティンに始まる英米の言語行為論の成果と比較検討することによって、現象学の立場から、現象学と英米哲学との架橋を試みるものであった。英米の言語行為論との比較の上に立った、これまでにない新たな「言語行為の現象学」を可能な限り展開することを目指して、本研究は始められた。まず第一に、ドイツ現象学派内部における言語行為の考え方の発展過程を辿って、ダウベルトからプフェンダー、ライナッハに至る思想の全貌をできる限り明らかすることが試みられた。ダウベルト、プフェンダーについては、時間的制約のために、その思想を十分に捉えることができなかったが、しかし、ライナッハについては、近年公刊された新全集の読解に基づいて、そこに明らかに、しかも英米の言語行為論よりも約半世紀も前に、「言語行為」論の考え方が形成されつつあったことが確認された。これが本研究の第一の成果である。その上で第二に、ライナッハの言語行為の考え方と英米の言語行為論(とりわけオースティン)との比較検討が試みられた。これについては、残念ながら、十分な考察がなされたとは言えないが、しかし、次のことだけは、すなわち、現在英米哲学の一つの潮流を為しているオースティン以来の言語行為論に対して、ライナッハの「現象学的」言語行為論が、各言語行為の持つ本質連関を現象学的に解明してくれるという点で、十分寄与しうる余地のあることだけは、少なくとも確認された。以上が本研究の第二の成果である。さらに第三に、「現象学的」言語行為論を基礎づける為に、現象学の流れを解釈し直す試みと、「現象学的記述」をめぐる考究が行われたが、これらは本研究にとって、きわめて有益であった。以上が第三の成果である。以上の成果の一部は、論文の形で公刊され、また一部は立命館大学における講義で開陳された。
著者
三井 はるみ
出版者
昭和女子大学短期大学部
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、千葉県の上総・安房地方に広がる「房総アクセント」の実態把握と体系記述を目的とした。「房総アクセント」は、京浜アクセント(金田一春彦による)の一変種でありながら、北奥方言アクセントなどと同じく母音の種類(広母音か狭母音か)が音調に関与するアクセントで、地域差も大きい。またその歴史的解釈をめぐっては、異なる立場からの論争がある。本研究では歴史的解釈に先立つものとして、1.特に語音と音調の関係について従来の報告より細部にわたる詳細なデータを収集する。2.代表的な地点の体系記述を行い、地域差を把握する。の2点を目標とした。金田一の「房総アクセント」の4分類などを参考に、10地点(市原市、東金市、茂原市、一宮町、大多喜町、鴨川市、君津市、白浜町、木更津市、館山市)を選び、それぞれ60歳代から70歳代の生え抜きの話者を対象に調査を行った。調査にあたっては、主として東北大学文学部編『アクセント調査票』を用い、場合によっては類別語彙を補充した。また読み上げ式調査を補完するものとして、上記のうち2地点では談話の収録を行った。現在読み上げ式調査、収録談話ともに、結果の整理を行っている。今後これらをもとに体系の記述に進む予定である。なお、今回の調査内容は比較的簡略なものであった。研究実施計画に記した、より詳細な内容の調査は今回行うことができず、今後の課題として残されている。
著者
齊藤 隆志
出版者
東日本国際大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的はスポーツイベント経営を成功させるマーケティング要因を明らかにすることである。平成12年度では、いくつかの要因なかでもプロダクト要因が重要であり、そのプロダクトの質の向上を戦略的に目指していくプロデュースが最も重要な戦略であることが理論的に導かれた。スポーツプロデュース論において、人々のスポーツとの関わりは、本人が主体的に価値創造していく人間的成長の過程と考えられ、その手法は地域内で自発的発信される情報をコントロールすることであることがわかった。13年度はプロデュース論をさらに深め、スポーツに対し受動的な関わりと捉えられがちな、みるスポーツにおいても人々が主体的な関わりを目指したプロデュース論を展開し実証することをねらった。加えて成功しているプロスポーツチームの経営が地域密着を目指していることに着目し、地域住民がみるスポーツとしてプロスポーツを観戦する場合を念頭に置いて考察した。結果、観戦者は、スポーツ観戦を通じて、JリーグやIOCといったスポーツ組織が考えるスポーツ価値とは別に、観戦によって独自の意味解釈をし、主体的に彼らなりに価値づけていることがわかった。しかもそれは、社会的に認められる善良な価値ばかりでなく、大衆的価値である場合が多い。それは日常生活とつながりのある自分なりの解釈を行うということであり、自分なりの価値を見いだすことで主体性の感覚や自尊心を確立していると理解できる。一方、マーケターが経営活動を正当化するために主張するマーケター側の価値(Jリーグ百年構想やオリンピック運動)と、観戦者が主体的に意味解釈する価値とのギャップ構造を説明し、政治的にどのように施策を考えればよいかを議論しなければならなくなった。この関わりを促すためのプロデュースとは、地域内の情報流通を促し、その情報の質を上げるためのサポートに主眼を置かれるべきだと結論づけられる。
著者
井田 民男
出版者
近畿大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2001

微視的な拡散燃焼過程の理解は,流れと燃焼反応の相互作用からなる燃焼挙動の定常性を定量化する上で重要である。微視的な拡散燃焼過程を研究するには,分子レベルでの燃焼反応による挙動と分子拡散による流れの条件との相互関連を定量的に理解することが重要となる。同時に微視的な定常拡散燃焼過程を造りだすことは,それらの条件の整合性を見出せる可能性を含んでいる。本研究で開発されたシングル・マイクロフレームでは、分子拡散作用と燃焼反応現象との微視的な燃焼メカニズムに基づく性状を定量的に把握することができた。次のステップとして開発されたダブル・マイクロフレームでは、異なる燃料種における微視的な燃焼過程の変化を可視化することができた。1つの興味ある現象は、アウターバーナ(OB)によって形成された半球状の水素拡散燃焼場にインナーバーナ(IB)よりアセチレン燃料を微流量を供給することにより、輝炎発光の発生制御が可能となり、水素拡散火炎の半球状の極点からのみ輝炎発光が生じ出すことが明らかとなった。本研究では、微視的な燃焼過程を究めるために分子レベルでの拡散作用と燃焼反応が非対称かつ非定常な燃焼過程を実現できる微視的な燃焼場を造りだした。この微視的な燃焼場は、非同軸のバーナで,OBで形成された定常な拡散火炎内においてIBにより分子数千個のオーダで任意の位置から燃料が供給され形成される。結果次のような成果を得た。1)微視的な定常拡散燃焼場において、ススの生成過程である輝炎発光がマイクロフレームの半球状の極点で発生するメカニズムは、拡散燃焼場が軸対称であることが必要条件であることが示唆された。2)フレキシブル・ダブルマイクロフレームによって形成される非対称燃焼場では、輝炎発光像が不定位置でかつ非周期で発生することが定量的に明らかとなった。