著者
北山 忍 唐澤 真弓
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.133-163, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
191
被引用文献数
24 30

自己についての文化心理学的視座によれば, (i) 心理的傾向の多くは, 観念, ディスコース, 慣習, 制度といった文化の諸側面によって維持・構成され, さらに (ii) これら文化の諸要素は, 歴史的に形成され, 社会的に共有された自己観 (北米・西欧, 中流階級における相互独立的自己観や, 日本を含むアジア文化における相互協調的自己観) に根ざしている。この理論的枠組みに基づいて, 本論文ではまず, 日本の内外でなされてきている日本的自己についての文献を概観し, 現代日本社会にみられる相互協調の形態の特性を同定した。次いで, 自己実現の文化的多様性とその身体・精神健康問題へのインプリケーションについての日米比較研究の成果を吟味し, 心理的傾向が文化によりどのように形成されるかを具体的に例証した。最後に, 将来への指針を示し, 結論とした。
著者
橋本 博文
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.182-193, 2011
被引用文献数
12

本稿の目的は,これまで文化心理学において議論されてきた相互協調的自己観に焦点を当て,日本人の相互協調性が共有され,維持される一つのプロセスを分析することにある。文化的自己観尺度を用いた研究1と研究2の結果をもとに,本稿ではまず,現在の日本人が相互協調的な心のあり方や生き方を必ずしも好ましく受け入れているわけではないこと,そして日本人にとっての相互協調性はあくまで文化的に「共有」された信念であることを主張する。さらに,相互協調的に振る舞う人に対する印象評定を扱った研究3の結果から,相互協調的に振る舞うことで他者から好意的な反応を得るだろうという予測,そしてその予測を生み出す文化的共有信念の重要性を指摘する。また,実施した一連の研究知見をもとに,日本人の相互協調性に関する本稿の理解――個々人が共通して持っている価値や信念ではなく,文化的に共有されている(他者の行動原理に関する)信念こそが,日本人に相互協調的な振る舞いをさせる誘因となると同時に,この誘因に従う行動そのものによって相互協調行動が維持され,そうした行動に関する信念もまた共有され維持されるという理解――について議論し,本稿が採用する文化への制度アプローチが,今後の文化心理学研究に与えるインプリケーションを考察する。<br>

3 0 0 0 OA 態度と随伴性

著者
中丸 茂
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.105-117, 1998-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
45

本論文は, 態度研究を随伴性の観点より分析することを目的とする。社会心理学において, 態度は, 内的な, 説明変数であり, 質問紙法や尺度法によって, 言語行動として測定されている。行動分析学では, 態度は随伴性の観点から研究され, タクト, マンド, インタラバーバル, エコーイック, オートクリティックとして取り扱われる。そして, 言語行動としての態度は, 随伴性形成行動の目的行動として, ルール支配行動のルールとして, ルール支配迷信行動の偽ルールとして取り扱われる。また, 態度は, 感情的側面をもち, 条件性刺激として, 感情を制御する。同じ表現型をとる言語データでも, 違う成立過程で形成されていることが考えられる。随伴性の観点から態度研究を 条件づけの手続きに還元することによって, 態度についての知見をより単純に捉え直すことが可能となるだろう。
著者
樫村 志郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.148-159, 1996-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

会話分析は, 会話者自身が会話をする中で, 作り出し, 利用する, 秩序性を判別し, 定式化しようとする, 経験的分析である。そのような「自然な」秩序性には, ターンとその内部的構造化, 後続するターンによる先行するターンの解釈提示, 複合的で延長されたターンの維持管理, 順番のローカルな配分, 「問」と「答え」のような隣接発話対に代表される順番連鎖の制御構造, 制度的に特徴あるそれらのバリエーションが含まれる。本稿では, これらの会話現象の構造ないし形式的特性と会話分析の方法論的基準との間の関連が論じられる。つぎに, あるエスノグラフィックな調査研究の現場における会話が分析され, それらの会話現象が現に存在する会話の形式的構造を作り上げていることが例証される。最後に, それらの会話が, 通常の会話であると同じ仕方の中で, 同時に, エスノグラフィックな調査インタビューとしての制度的特質を示していることが示唆されることを示す。
著者
大野 俊和
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.230-239, 1996-12-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

「いじめの被害者にも問題がある」とする見解は, 一般的によく聞かれる見解である。本研究の目的は, 攻撃が「いじめ」として定義される特徴的な形によって, この見解が生じてしまう可能性について検討することにある。本実験では, 以下の2つの仮説が検討された。(1) ある攻撃が, 単独の加害者により行われる場合に比べ, 集団により行われた場合の方が, 被害者は否定的に評価される。(2) ある攻撃が, 一時的に行われる場合に比べ, 継続的に行われた場合の方が, 被害者は否定的に評価される。本実験の結果により, 仮説1は支持されたが, 仮説2は支持されなかった。また予備実験の結果から, 否定的評価と関連する個人差要因として「自己統制能力への自信」と「社会一般に対する不信感」と解釈される2つの信念・態度の存在が指摘された。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.48-59, 2016

<p>本稿は,アクションリサーチにおける時間性について理論的に検討するものである。アクションリサーチを定義づける変化,目標状態,ベターメントといった特性が共通して前提にしているものこそ,時間だからである。ここで重要なことは,2つの時間系列,すなわち,人間的な実践の外的な枠組みとしての「客観的時間」と,「主体的時間」とのちがいである。「主体的時間」とは,たとえば,「まだ試験終了まで10分以上ある」など,「今はもう」,あるいは「今はまだ」といった,自分自身の営みにおける主体的な構えとともにある時間のことである。「主体的時間」は,既定性(ポスト・フェストゥム)と未定性(アンテ・フェストゥム)という2つの対照的な特性を生み,両者は逆説的なダイナミズムをなしている。さらに,この両者と「客観的時間」における過去・現在・未来とが構成する平面上で展開される〈インストゥルメンタル〉(媒介・手段的)な時間の総体と,それとは対極にある〈コンサマトリー〉(直接・享受的)な時間とが,別の逆説的なダイナミズムをなしている。アクションリサーチでは,これら2組の時間のダイナミズムを,研究者がどのように認識し,かつ自らがその中に巻き込まれつつ,それをいかに構想し運用していくかが重要である。</p>
著者
野波 寬 土屋 博樹 桜井 国俊
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.40-54, 2014
被引用文献数
4

正当性とは,公共政策に対する自他の決定権について,人々が何らかの理由・価値をもとに評価する承認可能性と定義される。本研究では沖縄県における在日米軍基地政策を取り上げ,これに深く関わる当事者と関与の浅い非当事者との間で,NIMBY問題における政策の決定権をめぐる多様なアクターの正当性とその規定因を検討した。正当性の規定因としては信頼性と法規性に焦点を当てた。当事者は精密な情報処理への動機づけが高いため,信頼性から正当性評価への影響は,評価対象のアクターごとに変化すると考えられる。これに対して非当事者は,各アクターの正当性を周辺的手がかりにもとづいて判断するため,一律的に信頼性と法規性が規定因になると仮定された。これらの仮説は支持されたが,その一方で非当事者ではNIMBY構造に関する情報の獲得により,自己利益の維持を目指して特定アクターの正当性を承認する戦略的思考の発生が指摘された。以上を踏まえ,公共政策をめぐるアクター間の合意形成を権利構造のフレームから検証する理論的視点について論じた。
著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-6, (Released:2018-06-26)
参考文献数
11
被引用文献数
8

本研究では,東日本大震災の発生以降,日本社会が直面する最大の防災課題として位置づけられた津波からの避難行動を研究対象として,以下のことを示した。まず,避難訓練を支援するために開発したスマートフォンアプリ「逃げトレ」について紹介した。次に,「逃げトレ」が,避難行動の分析・改善の鍵を握る人間系(避難行動)と自然系(津波挙動)との相互関係を,実際に避難する当事者に対して可視化するためのインタラクション表現ツールであることを示した。その上で,「逃げトレ」の効果性,とりわけ,これまでの避難対策や手法―たとえば,ハザードマップや従来型の集団一斉訓練など―に対する優位性を,「コミットメント」(特定のシナリオを絶対視し,そこに没入する傾向性)と「コンティンジェンシー」(それを相対視し,そこから離脱する傾向性)を鍵概念として明らかにした。最後に,人間科学と自然科学の性質のちがいにも言及しながら,「逃げトレ」が担保する「コミットメント」と「コンティンジェンシー」の相乗作用は,「想定外」に対する対応原理としても重要であることを指摘した。
著者
李 旉昕 宮本 匠 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1608, (Released:2018-09-19)
参考文献数
27
被引用文献数
2

災害復興に関する課題として,復興に対する支援が十分に提供されるために,かえって復興の当事者たるべき被災地住民から「主体性」を奪ってしまう課題を指摘できる。支援者と被災住民の間に〈支援強化と主体性喪失の悪循環〉が生じてしまうという課題である。ここで「主体性」とは,当事者が抱える問題や悩みを外部者が同定するのではなく,当事者が自ら問い,言語化し,解決しようとする態度のことである。本研究では,東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において,「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを筆者らが支援することを中心としたアクションリサーチを通して,この悪循環を解消することを試み,浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。第1に,「クロスロード」を作成する作業を通じて,一方に,〈問題〉について「主体的に」考える被災地住民が生まれ,他方に,当事者とは切り離された客体的な対象としての〈問題〉が対象化されている。第2に,「クロスロード」として表現された〈問題〉は,多くの人が共有しうる,より公共的な〈問題〉として再定位される。最後に,一連のプロセスに外部の支援者である筆者らが果たした役割と課題について考察した。
著者
高橋 伸幸 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-11, 1996-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
35
被引用文献数
5 7

本研究は, 利他的行動が特定の社会関係の中で果たす役割についての一連のコンピュータ・シミュレーションによる分析を通して, 特定の社会的状況のもとでは, 利他的に行動することが本人にとって有利な結果をもたらす可能性のあることを明らかにしている。本研究での分析の対象となっている利他的行動は, 集団内で成員が他の特定の成員に対して純粋に利他的に振る舞うかどうかを決定する (個人対集団場面ではなく, 個人対個人の関係) 状況での利他的行動である。このような状況での利他的行動が行為者本人にとって有利な結果をもたらす条件として本研究で明らかにされたのは, 集団の全員が下方OFT戦略を用いており, しかも下方OFT戦略の適用に際して「ほどよい」基準を用いている場合である。具体的には, 集団成員が利他的に行動する相手を選択するに際して, その相手が過去に少なくとも自分と同じくらい利他的に振る舞ってきた人間であるかどうかを決定基準として用いている場合には, より多くの他者に対して利他的に振る舞う方が成員の方がそうでない成員よりも, 結局はより大きな利益を得ることができることが, コンピュータ・シミュレーションを用いた分析により明らかにされた。
著者
清水 裕士 小杉 考司
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.132-148, 2010

本論文の目的は,「人々が対人行動の適切性をいかにして判断しているのか」について,一つの仮説を提案することである。本論文では,人々が対人行動の適切性をある原則に基づいた演繹によって判断しているものと捉え,演算の依拠する原理として,パレート原理を採用する。次に,Kelley & Thibaut(1978)の相互依存性理論に基づいて,パレート解を満たす葛藤解決方略を導出した。さらに,これらの理論的帰結が社会現象においてどのように位置づけられるのかを,Luhmann(1984)のコミュニケーション・メディア論に照合しながら考察した。ここから,葛藤解決方略は,利他的方略・互恵方略・役割方略・受容方略という四つに分類されること,また,方略の選択は他者との関係性に依存することが示された。そして,このような「行動の適切性判断のための論理体系」をソシオロジックとして定式化し,社会的コンピテンス論や社会関係資本論などへの適用について議論した。<br>
著者
脇本 竜太郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.165-179, 2005
被引用文献数
1

人間の社会的行動は,自尊心への欲求から説明されることが多かった。しかしながら,その自尊心への欲求自体が,"なぜ"人間にとって重要なのかは実証的に検討されてこなかった。この"なぜ自尊心の欲求が重要なのか"という問に存在脅威(死の不可避性の認識に基づく脅威)の緩衝という観点から答え,人間の社会的行動を包括的に説明する枠組みたるべくして登場したのが存在脅威管理理論である。本稿では,まず存在脅威管理理論の概要について紹介する。次に,既存の研究を概観し,存在脅威管理理論がもたらした成果と,個々の社会的行動の実証的検討における課題について述べる。最後に,近年報告されている存在脅威管理方略の差異に関する知見を紹介し,そのような文化内・文化間差を存在脅威管理理論がいかに捉え,組み込んでいくべきかについて展望を述べる。<br>
著者
宮本 匠 渥美 公秀
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.17-31, 2009
被引用文献数
3

災害復興には,「目標」の共有が大切といわれる(室崎,2007)。しかし,実際に地域において,それらはどのように生まれ,存在し,共有されていくのだろうか。災害復興における「目標」は,人々がどのように災害を経験するのかということと深く結びついている。本研究は,2004年10月23日に発生した新潟県中越地震における川口町木沢集落の復興過程についての長期的なフィールドワークをもとになされたものである。中越地震の被災地の多くは,山間に散らばる小さな中山間地集落である。地震は,折からの過疎化・高齢化をさらに加速させた。これら困難な課題が山積した被災地において,人々はどのようにして肯定的な未来に向かって歩みを進めることが出来るのか。本論では,被災者と外部支援者が新しい現実についてのナラティブを恊働構築することで創造的な復興をめざす,災害復興へのナラティブ・アプローチを提案した。本研究は,グループ・ダイナミックスの観点から,災害復興に対して外部支援者の立場を利用して新しいナラティブを生成するというアクションリサーチの試みである。<br>
著者
黒川 雅幸 三島 浩路 吉田 俊和
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.32-39, 2008
被引用文献数
1

本研究の主な目的は,小学校高学年児童を対象に,異性への寛容性尺度を作成することであった。小学生を対象とするので,できる限り少ない項目数で実施できるように,6項目からなる尺度を作成した。休み時間や昼休みによく一緒に過ごす仲間の人数を性別ごとに回答してもらったところ,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,異性への寛容性尺度得点は有意に高く,妥当性が示された。また,異性への寛容性尺度得点には性差がないことも示された。同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,級友適応得点は有意に高く,異性との仲間関係が級友適応に影響する可能性が示された。<br>
著者
村上 幸史
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.80-93, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
35

携帯メールやLINEのやりとりにおいては,送受信の行為自体が,一種の社会的交換と見ることができる。ただ返信するだけでなく,できるだけ早く返信するという返報の義務の存在からは,返報の速度自体にも価値が置かれていると考えられる。そのため,利用者が相手との不均衡さを感じた場合には,返信速度を調整することによって,相手に合わせた対応をしたり,何らかの意思表示をしているのではないかと推測される。そのため,やりとりの早さは,返信が早い相手には早いが,遅い相手には遅いという「つりあい」が取れた形で現れると考えられる(互酬性仮説)。本研究ではこの仮説を検証するために,メールとLINEに関する調査を行った。その結果,自分と相手の返信速度や文字数の間には高い相関が見られた。また返信の早さは,相手の返信の早さによって違いが見られた。
著者
矢守 克也 岡田 夏美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2217, (Released:2023-05-18)
参考文献数
31

本研究は,既存の質問紙調査研究やそのデータをメタレベルの視点から考察する立場に立って,防災・減災に関する実践・実務に対して,これまで欠落・不足していた長期的かつ俯瞰的な観点を与え,あわせて,質問紙調査法に新たな視点を提供することを目的とした。特に,単一の調査研究から得られた結果だけではなく,複数の調査研究の方法や結果を俯瞰的に総覧することで,新たな洞察が得られる場合があることを指摘した。具体的には,第1に,日本社会における家庭での防災対策を具体的なトピックとして取りあげ,質問紙調査から得られるデータを読み解く際の〈ベンチマーク〉や〈ベースライン〉の重要性について論じた。第2に,「自助・共助・公助」というフレーズを取りあげ,「自助・共助・公助」をめぐる葛藤や矛盾を十分に把握するためには,一つには,調査の結果ではなく,調査の形式(設問の立て方)に注目する必要があること,また,もう一つには質問紙調査を通して主として〈平均化〉の論理によって得た知見を,それ単体としてではなく,〈極限化〉の論理を通して別途得た知見とリンクさせて総合的に理解することが重要であることを明らかにした。
著者
諸井 克英
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.151-161, 1987-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
30
被引用文献数
6 4

本研究は, 大学生における孤独感と自己意識傾向の諸側面との関係について検討し, 高校生の結果 (諸井, 1985) との比較によって, 青年期後期における孤独感の様相を明らかにすることを主目的とした。また, S-M傾向を測定する2種の測定を併用し, それぞれの孤独感との関連も含めた妥当性を検討した。被験者は男女大学生396名であった。UCLA孤独感尺度とともに, 自己意識傾向に関する測度として, Rosenberg (1979) の自尊心尺度, Fenigstein et al. (1975) の自己意識尺度, Snyder (1974) のS-M尺度, Lennox & Wolfe (1984) の改訂S-M尺度が用いられた。主要な結果は以下の通りであった。1) 男子の孤独感は, 女子よりも有意に高かった。2) 孤独感は, 男女ともに自尊心およびS-M傾向との間に有意な負の相関, 社会的不安との間に正の相関があり, さらに, 男子では私的自己意識との間に正の相関が認められた。これらの傾向は高校生と同じであった。3) 重回帰分析や判別分析によると, 男子では自尊心, 社会的不安, 私的および公的自己意識, さらにS-M傾向が, 女子では社会的不安および自尊心が, それぞれ有意な孤独感の規定因であった。4) 2つのS-M尺度については, Lennox & Wolfe (1984) の改訂版のほうが尺度構成上の妥当性があるといえるが, 孤独感との関係では両尺度ともに興味ある知見をもたらした。
著者
松本 良恵 神 信人
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.15-27, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
36
被引用文献数
2 2

現実の社会では,社会的ジレンマはリーダーが非協力者を罰し,メンバーがそうしたリーダーを支援すると言う相互依存関係を通して解決されていると考えられる。この研究の目的は,進化ゲームシミュレーションを用いて,そうした相互依存関係がリーダーとメンバーの間に生まれる条件を明らかにすることにある。我々のシミュレーションでは,20の集団が設定されており,集団はそれぞれ20人のメンバーと1人のリーダーで構成されていた。リーダーは,自分の集団内の非協力者と,自分をサポートしない者を罰することができた。コンピュータ・シミュレーションの結果,ある条件が満たされる時に,非協力者とリーダーを支援しない者の両方を罰するリーダーが出現し,それにより多くのメンバーが協力とリーダーへの支援が強いられることで,社会的ジレンマは解決された。その条件とは,リーダーは個人的利益と集団利益の両方を高めないと,その地位を維持できないというものである。
著者
原田 春美 小西 美智子 寺岡 佐和 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.72-83, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

本研究の目的は,支援という枠組みにおける保健師と精神障害者や彼らにとっての重要他者との相互作用について,保健師が用いた人間関係形成の方法に焦点をあて,その特徴とプロセスを明らかにすることであった。対象は市町村に所属する保健師12名であった。データ収集は半構成的面接法を用いた。分析は,面接内容の逐語録をデータとし,Modified Grounded Theory Approachを用いて質的・帰納的に行った。分析の結果抽出された29の概念から,【温かで人間的な関係の結び方】【冷静で客観的な関係の結び方】【他者との関係の取り持ち方】【適切な心的距離で関係を維持する方法】という4つのカテゴリが生成された。支援場面における相互作用は,保健師が精神障害者と良好な関係を形成し,その関係が途絶えることの無いように適度な距離を保ちながら,さらに精神障害者と彼らを取り巻く地域の人々との関係形成とその維持を支援しようとするプロセスであった。同時に,その関係性の中で,個々の精神障害者のための支援の仕組みを作り,精神障害者が主体的にその仕組みを活用しながら地域で暮らし続けることを目指すものであった。