著者
Hirofumi Hashimoto
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.51-55, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
20
被引用文献数
5

The purpose of the current study was to clarify whether interdependent behavior among the Japanese is aligned with their expectations regarding others’ behavior or their own preferences. The participants were privately asked about their preference for independence or interdependence and their expectations regarding others’ independent or interdependent behavior. Then, they were asked to publicly express whether their own behavior was indicative of independence or interdependence. When comparing the participants’ preferences, expectations, and actual behavior, I found that interdependence was only evident in their expectations and public behavior; i.e., the participants answered that they preferred independence rather than interdependence, whereas they expected that others are interdependent and identified themselves as interdependent in public. These findings suggest that interdependent behavior among the Japanese is based on their expectations regarding others’ behavior rather than their own preferences.
著者
須山 巨基 山田 順子 瀧本 彩加
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.161-170, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
66

集団力学研究とは,実験・調査・モデリングを通じて,個体が集合的に作り出す複雑な社会現象を定量的に検証する研究群の総称である。社会心理学における集団力学研究は,1940年代から隆盛するも徐々に研究の主流から外れていった。一方,生物学では,近年の新しいデータ収集法や分析方法の発達により集団力学研究が盛んに行われるようになり,再び集団力学研究が脚光を浴び始めている。本稿ではまず,社会心理学と生物学のそれぞれにおける集団力学研究の歴史を概観する。続いて,社会心理学において高い関心が寄せられてきた同調と文化拡散に注目し,これらのトピックに関して生物学が新たな集団力学的な手法を用いてどのような知見を見出したのか紹介する。最後に,生物学における集団力学研究の社会心理学への援用可能性とその便益性を示し,社会心理学と生物学の融合による集団力学研究の展望を論じる。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.63-81, 2021 (Released:2021-03-04)
参考文献数
52
被引用文献数
1

本論文は,社会心理学における実験的研究について検討した展望論文である。特に,実験の概念をより広義なものへと拡張し,実験という手法が本来有する豊かなポテンシャルをより大きく引き出す方向で,実験社会心理学の領域を再構築することをねらいとした。一般に,典型的な実験室実験と文化・歴史的な視点を重視する現場研究との距離は非常に大きいと見なされている。しかし,中間部に,「アイヒマン実験」や「実験の史学」などを配置すると,両者の連続性を確認できる。その上で,実験社会心理学研究の拡張を2つの方向から構想した。第1は,草創期のグループ・ダイナミックスにおける実験研究がそうであったように,実験室ならではの生態学的特性を活かしつつ,人間の実存性や社会のリアルな生態に接近するための回路を設け,実験室実験に現場研究の長所を取り込む方向性である。第2は,「実験の史学」のように,現実社会を対象とした研究に,実験操作に匹敵する比較条件を設定するための仕組みを導入し,現場研究に実験室実験の美点を取り込む方向性である。こうした志向性を有する具体的な事例を社会心理学,歴史学,防災・減災研究の領域から紹介し,新たな実験社会心理学研究の構想を提示した。
著者
竹ヶ原 靖子 安保 英勇
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.136-146, 2018 (Released:2018-03-03)
参考文献数
35

援助要請者は,援助要請の際に,自身のコストだけでなく,潜在的援助者のコストにも注目していることが示されているが,援助要請者が何から潜在的援助者のコストを予測するのかについてはあまり検討されていない。そこで,本研究では援助要請者と潜在的援助者の二者間におけるコミュニケーション・パターンに着目し,それが援助要請者の潜在的援助者コスト予測と援助要請意図に与える影響を検討した。大学生の同性友人ペア15組にそれぞれ10分間の日常会話をさせた後,潜在的援助者のコストを予測し,自身の援助要請意図について回答させた。その結果,相補的コミュニケーション(↑↓)と潜在的援助者の憂うつな感情との間に負の相関,相称的・競争的なコミュニケーション(↑↑)と援助要請意図の間には負の関連が示されるなど,日常会話におけるコミュニケーション・パターンと潜在的援助者のコスト予測,援助要請意図との間にいくつか有意な関連が示された。このことから,日常場面におけるコミュニケーションは,援助要請者が潜在的援助者のコストを予測する手がかりのひとつであることが示唆された。
著者
河野 和明
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.115-121, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
28
被引用文献数
2 6

自己隠蔽尺度 (SCS; Larson & Chastain, 1990) を日本語に翻訳し, さらに新たな項目を加えたうえで取捨選択し, 日本語版自己隠蔽尺度を作成した。これに, 木田ら (1993) が開発した刺激希求尺度を加えて, 身体症状尺度との関係を検討した。友人の数, 親友の数, 雑談頻度, 外的刺激希求尺度を統制したうえで, 内的刺激希求尺度と自己隠蔽尺度は自覚的な身体症状と有意な相関を示した。この結果は, 隠蔽した嫌悪的記憶の量と記憶へのアクセス頻度が積極的抑制 (Pennebaker, 1989) によって生じるストレスを規定する可能性を示唆している。
著者
中島 健一郎 礒部 智加衣 長谷川 孝治 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.122-131, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
30
被引用文献数
3 5

本研究の目的は次の2つである。ひとつは,文化的自己観と集団表象(common identity group vs. common bond group: Prentice, Miller, & Lightdale, 1994)の関連を検証することである。もうひとつは,この関連が個人の経験したストレスフルイベントの頻度によってどのように変動するか検討することである。そのために本研究では大学1年生を対象とする縦断調査を行った。その結果,独自に作成した集団表象尺度が想定どおりの2因子構造であり,信頼性も許容できる範囲であることが示された。加えて,予測されたように,相互協調性とcommon bond group得点に正の関連があり,common bond group得点において文化的自己観とストレスフルイベントの経験頻度の交互作用効果が認められた。相互協調的自己観が優勢な個人の場合,ストレスフルイベントの経験頻度が少ない群よりも多い群においてcommon bond group得点が高いのに対して,相互独立的自己観が優勢な個人の場合,これとは逆の関連が示された。しかしながら,common identity group得点において予測された効果は認められなかった。この点に関して,個人の集団表象と内集団の特徴との一致・不一致の観点より考察がなされた。
著者
大迫 弘江 高橋 超
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.44-57, 1994-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
5 3

本研究は, 男女大学生を被験者として甘え表出に及ぼす性差と出生順位の影響を検討するとともに (研究I), 対人的葛藤事態における対人感情及び葛藤処理方略に及ぼす甘えの影響を検討すること (研究II) を主たる目的として行われたものである。甘え表出における性差の影響に関しては, 部分的ではあるものの, 男子よりも女子の方が強くなることが示された。出生順位に関しては, 長子と末子のみについて比較したが, 性差ほどには顕著な差異は認められなかったが, 兄弟姉妹に対する甘え表出においては, 長子よりも末子の方が強くなる傾向が示された。対人的葛藤事態における対人感情, 及び葛藤処理方略には, 甘え表出の強い者と低い者とでは顕著な差異のあることが明らかにされた。対人感情に関しては, 甘え表出の高い者の方がより強い不快感情を示していた。また, 葛藤処理方略に関しては, 他譲志向, 自譲志向, 方向探索, 状況離脱志向の全ての方略において, 甘え表出の強 い者の方が用いやすいことが明らかにされた。これらの結果を, 土居 (1971) の提唱した甘え理論の枠組みで考察し, また, 甘え測定にかかわる問題点などを指摘した。
著者
内田 遼介 釘原 直樹 手塚 洋介 國部 雅大 土屋 裕睦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.33-43, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
26

先行研究では様々な情報源が集団全体の集合的効力感と関連することが明らかにされてきた。しかし,スポーツ集団内において成員1人1人がどのように集合的効力感を評価したのか,その基礎的な形成過程に関しては明らかではなかった。本研究の目的はスポーツ集団内における集合的効力感の評価形成過程について,特に課題遂行能力の異なる成員に着目して検討することであった。実験参加者は男子大学生23名であり,実験協力者2名とともに3名1組の集団に割り当てられた。実験課題はワイヤーロープを60秒間,あらかじめ定められた基準値以上の張力で維持し続ける張力維持課題であった。実験参加者はこの課題を実験協力者2名よりも課題遂行能力という点で劣っている劣位条件,優れている優位条件,そして参加者のみで行う単独条件の3条件で行った。その結果,特に劣位条件において他者の課題遂行能力を手がかりに集合的効力感を評価する傾向が認められた。そして,劣位条件では単独条件,優位条件よりも努力量が低下する社会的手抜きが生起した。最後に,これらの結果について他者に対する能力期待の観点から解釈した。
著者
藤原 健 伊藤 雄一 高嶋 和毅 續 毅海 増山 昌樹 尾上 孝雄
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.122-134, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究は,演奏者の重心・重量を用いた演奏連携度の評価を通じて,小集団相互作用における動態をシンクロニーの視点から明らかにすることを目的とする。そのために,プロの演奏者によるコンサート時の合奏場面を対象に情報科学技術を用いて演奏連携度を算出し,これを社会心理学的手法により評価した。具体的には,椅子型センシングデバイスを用いて演奏者の重心移動・重量変化を取得することで身体全体の動きを時系列データとして検出し,短時間フーリエ変換を適用することで時系列振幅スペクトルデータを得た。これについて全演奏者の時系列スペクトルデータを乗算することで演奏連携度を算出した。この演奏連携度についてサロゲート法を用いることで,演奏者間に偶然以上の連携が生じていたことを明らかにした。さらに,コンサート時に取得していた音源を一般の大学生に提示した結果,一部の楽曲において演奏連携度の高い演奏が肯定的な評価を得ることを確認した。行動の同時性や同期性を扱うシンクロニー研究の多くは二者間の相互作用を対象としたものが多い中で,情報科学の技術を導入することで小集団における相互作用ダイナミックスが精緻に測定・検討可能になった点は異分野協同における成果であるといえる。
著者
飛田 操
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1217, (Released:2014-03-28)
参考文献数
56
被引用文献数
2

成員の等質性と異質性が集団による問題解決パフォーマンスに及ぼす効果を検討した研究のレビューをとおして,多様な成員から構成される異質性の高い集団は,潜在的には優れたパフォーマンスを示す可能性が高くなること,しかし,一方で,このような多様な成員からなる異質性の高い集団においては,相互のコミュニケーションや共通理解の困難さが高まり,情緒的魅力や集団凝集性が低減する可能性も高まり,あるいは,対人葛藤が生起する可能性も高まること,そして,これら対人関係にかかわる問題が集団による問題解決パフォーマンスに抑制的に影響する可能性があることを明らかにした。長期に持続する確立した集団や,介入・訓練を受けた集団においては,異質性の高い集団がより優れたパフォーマンスを発揮する可能性が示されている。このことは,相互の異質性について成員が相互に共有し,これらの異質性を前提とした相互依存的関係が形成されるかどうかが集団による問題解決パフォーマンスに大きな影響を与えていると考えられる。
著者
宮本 匠 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.17-31, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
43
被引用文献数
9 3

災害復興には,「目標」の共有が大切といわれる(室崎,2007)。しかし,実際に地域において,それらはどのように生まれ,存在し,共有されていくのだろうか。災害復興における「目標」は,人々がどのように災害を経験するのかということと深く結びついている。本研究は,2004年10月23日に発生した新潟県中越地震における川口町木沢集落の復興過程についての長期的なフィールドワークをもとになされたものである。中越地震の被災地の多くは,山間に散らばる小さな中山間地集落である。地震は,折からの過疎化・高齢化をさらに加速させた。これら困難な課題が山積した被災地において,人々はどのようにして肯定的な未来に向かって歩みを進めることが出来るのか。本論では,被災者と外部支援者が新しい現実についてのナラティブを恊働構築することで創造的な復興をめざす,災害復興へのナラティブ・アプローチを提案した。本研究は,グループ・ダイナミックスの観点から,災害復興に対して外部支援者の立場を利用して新しいナラティブを生成するというアクションリサーチの試みである。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.20-31, 1996-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2 6

「災害は忘れたころにやってくる」-この警句は、災害体験がいかに「風化」しやすいかを暗示している。しかし、実際に、「風化」はどのくらいの速度で進むものなのだろうか。また、そのようなことを測定する方法があるのだろうか。本研究は、1982年7月の長崎大水害を事例として、災害の記憶が長期的に「風化」していく過程を、同災害に関する新聞報道量を指標として定量的に測定することを試みたものである。災害を単なる自然現象ではなく、一つの社会的現象としてとらえる立場にたてば、その「風化」についても、それは言語を介した社会的現象の形成・定着・崩壊過程として把握されねばならない。現代においては、マスメディアは明らかにその作業の一翼を担っている。本研究では、被災地の地元地方紙である長崎新聞に掲載された水害関連記事を災害後10年間にわたって追跡し、月ごとの報道量を測定した。その結果、報道量は指数関数的に減少することが見いだされた。ただし、新聞報道量の減少、すなわち、災害の「風化」とは単なる忘却の過程ではない。それは、当該の出来事の意味が人々のコミュニケーションを通してこ・定の方向へと収束し、共有され、定着していく過程でもある。
著者
安藤 香織 大沼 進 安達 菜穂子 柿本 敏克 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1816, (Released:2019-03-26)
参考文献数
40

本研究では,環境配慮行動が友人同士の相互作用により伝播するプロセスに注目し,調査を行った。友人の環境配慮行動と,友人との環境配慮行動に関する会話が実行度認知や主観的規範を通じて本人の環境配慮行動の実行度に及ぼす影響を検討した。調査は大学生とその友人を対象としたペア・データを用いて行われた。分析には交換可能データによるAPIM(Actor-Partner Interdependence Model)を用いた。その結果,個人的,集合的な環境配慮行動の双方において,ペアの友人との環境配慮行動に関する会話は,本人の環境配慮行動へ直接的影響を持つと共に,実行度認知,主観的規範を介した行動への影響も見られた。また,ペアの友人の行動は実行度認知を通じて本人の行動に影響を及ぼしていた。結果より,友人同士は互いの会話と相手の実行度認知を通じて相互の環境配慮行動に影響を及ぼしうることが示された。ただし,環境配慮行動の実施が相手に認知されることが必要であるため,何らかの形でそれを外に表すことが重要となる。環境配慮行動の促進のためには環境に関する会話の機会を増やすことが有用であることが示唆された。
著者
Ryosuke Yokoi Kazuya Nakayachi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1819, (Released:2019-01-31)
参考文献数
11
被引用文献数
7

This study examined the determinants of trust in artificial intelligence (AI) in the area of asset management. Many studies of risk perception have found that value similarity determines trust in risk managers. Some studies have demonstrated that value similarity also influences trust in AI. AI is currently employed in a diverse range of domains, including asset management. However, little is known about the factors that influence trust in asset management-related AI. We developed an investment game and examined whether shared investing strategy with an AI advisor increased the participants’ trust in the AI. In this study, questionnaire data were analyzed (n=101), and it was revealed that shared investing strategy had no significant effect on the participants’ trust in AI. In addition, it had no effect on behavioral trust. Perceived ability had significantly positive effects on both subjective and behavioral trust. This paper also discusses the empirical implications of the findings.
著者
香川 秀太
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-5, (Released:2018-12-14)
参考文献数
31

本稿では,これまでの経済中心の資本主義社会ないし新自由主義に代わり構想され,出現しつつある「未来の社会構造」に関する哲学的諸議論(とりわけ,柄谷行人の交換論とHardt & Negriのマルチチュード)に着目し,それらと心理学的フィールド研究,ないしヴィゴツキー派心理学の活動理論との発展的な接合を試み,ポスト社会構成主義(ないしポスト活動理論)への道筋を探る。具体的には,第一に,Scribnerによる「歴史の四層構造モデル」を用いて従来の活動理論研究の限界を指摘し,各々の共同体や個人史レベルの議論だけでなく,社会構造の世界史に着目した議論の必要性を論じる。第二に,活動理論家Engeströmによる「生産様式の世界史」の議論の限界を指摘し,それを乗り越えうるものとして,柄谷の交換様式の世界史の理論を取り上げる。第三に,「次の社会」の萌芽的な事例として,相模原市藤野周辺地域での,資本制の価値観を乗り越えうる諸活動に着目する。第四に,事例をふまえて,従来の交換論や贈与論が,「独立した自己と他者」の間の「有体物・無体物の行き来」という移送(トランスファー)の言説に依拠してきたことを指摘し,この「移送的交換」では「次の社会構造」の展開が困難なことを指摘する。そして最後に,移送的交換がもたらす,「財の獲得か贈与か」の二元論を越える概念として,「創造的交歓(creative intercourse)」を提案する。
著者
八ッ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.146-159, 2008
被引用文献数
1

阪神・淡路大震災(1995)を契機として発生し分離・変容を遂げた,被災地におけるひとつのボランティア活動の系譜を報告した。さらに,社会的表象論を援用してこの事例を検討し,震災を契機とする社会変動の構図と,それに対してボランティア実践が持つ意義とを考察した。①阪神大震災地元NGO救援連絡会議,②震災・活動記録室,③震災しみん情報室,④震災・まちのアーカイブ,⑤市民活動センター神戸,という一連の団体は,被災地における情報の交換や伝達,記録資料の保存など,記録に関わるボランティアとしてその活動を展開してきた。被災者の支援と被災体験の継承を企図して開始された記録活動は,復興に伴う被災地域の変化のなかで一時その目的を喪失し停滞に陥った。その後,団体の分裂と目的の特化により,活力を回復し現在に至っている。震災復興という状況における,記録活動,および,その変遷の意味を検討した。あわせて,社会変動へとつながる実践活動のあり方についても考察を行った。<br>
著者
M.H.B. Radford L. Mann 太田 保之 中根 允文
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.115-122, 1989-02-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
23
被引用文献数
5 4

意志決定は, 文化の違いを越えて共通に見られる基本的な認識作用である。本研究は, 長崎大学に在学中の156名を対象にして, 意志決定行為と人格特性について, JanisとMann (1977) が提唱した意志決定の葛藤理論に基づく尺度により調査した研究の第一報である。調査結果は, 葛藤理論に基づく予想を支持するものであった。すなわち, 意志決定者としての自己評価が高い場合には, 「熟慮」型の意志決定スタイルとポジティブな相関関係が見られ, 「自己満足」「防衛的回避」および「短慮」といった不適切なスタイルとの相関関係はネガティブであった。更に, オーストラリアの同年代で同質の学生と比較したところ, 意志決定行為の違いが明らかになった。この結果については, 意志決定の葛藤理論を文化の違いを越えて適用することの是非を問い直すという観点から考察をくわえ, かつ今後も継続的に比較研究することの重要性について述べた。
著者
桜井 茂男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.85-94, 1992-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
29
被引用文献数
26 15 5

This study was designed to construct a new self-consciousness scale for Japanese children, examine the reliability and validity of the scale, and investigate the relations between self-consciousness and seven personality traits: shyness, self-exhibition, loneliness, and four kinds of perceived competence. A questionnaire consisting of twenty-eight self-consciousness items, 90 items concerning the above ersonality traits, and 25 social desirability items was administered to 424 5th-and 6th-graders, and factor analysis concerning self-consciousness items revealed 2 solutions as predicted; one factor was nemed public self-consciousness and the other was named private self-consciousness. The reliability and validity was highly estimated. Public self-consciousness score was positively related to the scores of shyness, self-exhibition, and loneliness. Private self-consciousness score was negatively related to the scores of shyness and loneliness, and also positively related to the scores of self-exhibition and four kinds of perceived competence. Results concerning private self-consciousness were inconsistent with the previous studies. It was understood from the developmental point of view.
著者
古村 健太郎 金政 祐司 浅野 良輔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-5, (Released:2023-04-19)
参考文献数
33

本研究の目的は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって,夫婦の相互依存性がどのように変化したかを検討することであった。分析対象は,2017年2月から2020年10月までの7時点縦断調査に回答した夫婦289組であった。スプライン成長モデルによる分析の結果,関係満足度や接近コミットメントは,夫婦ともにCOVID-19の流行までは減少していたが,COVID-19の流行後に妻では増加傾向を示し,夫では変化しなくなった。一方,回避コミットメントは,夫婦ともに,COVID-19の流行までは増加しており,COVID-19の流行後にさらに増加していた。また,COVID-19後の傾きと世帯収入や在宅時間の増加との関連を検討したものの,これらの間に関連は示されなかった。以上の結果から,COVID-19の流行は,収入やCOVID-19の流行による生活の変化に関わらず,夫婦の相互依存を強める機会になったことが示唆された。
著者
阿形 亜子 釘原 直樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.108-115, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
27

近年,好ましい人物であるとの評判を獲得できることが向社会的行動を引き出すという競争的利他主義(Van Vugt, Roberts, & Hardy, 2007)が,多くの研究で注目を集めている。そこで本研究では,個人の貢献にともない評判が形成されうる状況がパフォーマンスを促進するかどうかを検討した。発展途上国に寄付する物品を作成する場面を用いて,貢献量を他者に呈示できる個人条件と,自己の貢献量が提示できない集団条件を設定し,実験をおこなった。併せて,作業量に伴って参加者自身に金銭報酬が与えられる物質的報酬条件との比較をおこなった。その結果,寄付物品作成場面を用いた潜在的報酬条件において,集団条件よりも個人条件でパフォーマンスが高まり,評判が形成されうる状況が寄付行動を促進することが示された。一方,潜在的報酬条件と物質的報酬条件の間で,パフォーマンスに差はみられなかった。最後に,実験操作の問題点について考察し,向社会的行動の促進要因としての評判の効果について議論をおこなった。