著者
松尾 睦
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.10-20, 1994-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

Past research indicates that choice of a performance-depressing drug as a self-handicapping behavior occurs only when the behavior is known to others. This study examined two other types of self-handicapping, effort reduction and choice of a difficult task. It was hypothesized that previous experience of failure and exposure of choices and consequences to others affect those two types of self-handicapping. More specifically, effort reduction was predicted to occur only among those who have experienced failure in the private situation, and choice of a difficult task was to occur in all conditions. Contrary to the prediction, publicness (public vs. private) of the situation did not affect effort reduction. Further analysis showed an interesting and intricate relationship between choices of the two types of self-handicapping; those who had reduced effort in the public condition also chose a difficult task, whereas those who had reduced effort in the private condition did not. This intricate relationship was interpreted to occur to “mend” the negative evaluation by others (that mattered only in the public condition) due to the low achievements of those who have reduced effort.
著者
植村 善太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-12, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
21

新入成員が集団に参加する状況において,紹介者の存在が既存成員の新入成員を受け入れることに関する不安と新入成員に対する信頼に及ぼす効果を実験によって検討した(被験者:男性52名,女性56名,計108名)。1)集団内のサクラが新入成員を知っている事実だけを述べる条件(単純存在条件),2)サクラが新入成員を知っており,肯定的に紹介する条件(肯定的紹介条件),3)サクラが存在せず,誰も新入成員を知らない条件(紹介者なし条件)が設定された。集団による共同作業場面3セッション中の第2セッション終了後に,第3セッションからの中途参加者受け入れに対する態度が測定された。第3セッションは実際には行われなかった。全般的な結果は,1)単純存在条件および肯定的紹介条件では紹介者なし条件に比して,集団構造が動揺することに対する不安が低く,意図および能力に対する信頼が高かった。また,2)単純存在条件と肯定的紹介条件との間には大きな差異はなかった。これらの結果から,紹介者はただ存在するだけで,集団構造が動揺することに対する不安の低減,新入成員に対する信頼の向上に効果をもつことが示された。
著者
頼政 良太 宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2011, (Released:2021-11-26)
参考文献数
95
被引用文献数
1

災害ボランティアセンターは,「公的」な機関が設立するものと,「民間」が設立するものがある。災害時の組織は管理・統制モデルと即興・自律モデルに分けられるが,阪神・淡路大震災以降,管理・統制モデルを志向する「公的」な災害ボランティアセンターへの一元化が進み,「民間」との分化や対立関係も見られるようになった。さらに,管理・統制によって生まれる「秩序化のドライブ」により,ボランティアの多様性が失われてきた。本研究では,阪神・淡路大震災以降に設立された災害ボランティアセンターの詳細な事例研究を通し,ボランティアによる助け合いというポジティブな面と,ボランティアは見ず知らずの他者であり不気味な存在であるというネガティブな面の両義性に対応するために管理・統制が進んでいった点を明らかにした。さらに,「公」と「民」の分化や対立の背景にその両義性があることを指摘した。最後に,「公的」な災害ボランティアセンターだけでなく,多様な主体による「民間」災害ボランティアセンターが存在することで,この分化や対立を乗り越える可能性を示した。
著者
大野 俊和 長谷川 由希子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.87-94, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

本研究では, いじめの被害者に対する外見的ステレオタイプについて検討した。調査対象者に, 彼らとはまったく面識のない, 中学校の卒業アルバムから得た2クラス分の生徒写真 (49枚) を刺激として提示し, いじめの被害者を判断させた場合, 彼らの判断がどの程度一致するかを検討した。その結果, 多くの写真において調査対象者間の判断が一致することはなかったが, 数枚の写真において判断は強く一致していた。ある写真では, 約70%の調査対象者による判断の一致が示された。また, 別調査の結果, 強い一致が見られた写真の外見的特徴として, 一般的な弱さが示された。そして, クラスに在籍していた級友に対して実際のいじめの被害者が誰であったかを調査した結果, 面識のない調査対象者が, いじめの被害者として想定した人物の多くは, 実際のいじめの被害者ではないが, 調査対象者の7割がいじめの被害者として想定する1名の人物は, 級友から実際にいじめの被害者であったとの報告を最も多く得ていた。
著者
角野 充奈 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.105-117, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
19

人々には,他者の言動に対応した属性を推論する傾向があり(対応推論),その傾向は,他者の言動が社会的に拘束されていると知っていても生じることが明らかにされている(対応バイアス)。対応バイアスは,容易には消失しないことから,非常に強固な現象であると捉えられているが,それゆえに,対応バイアスやその基礎となる対応推論を促進・抑制させる要因について検討した研究も存在する。本研究では,日本語における一人称代名詞「私」が明示,もしくは,省略された文章が,対応推論に及ぼす効果について,2つの研究で検討を行なった。研究1では,Jones & Harris(1967)の態度帰属の実験方法を踏襲し,書き手が立場を選択できない状況で書いた,日本語の一人称代名詞が明示された文章を読んだ場合に,省略された文章を読んだ場合よりも,対応推論が促進されることが示唆された。研究2では,日本語の一人称代名詞の有無に加え,書き手の真の態度を正確に判断するよう実験参加者に教示するか否かを状況操作して検討を行なった。その結果,正確な判断をするよう教示されずに一人称代名詞のある文章を読んだ場合に,最も対応推論が促進されることが示唆された。文化的背景に基づく要因と対応バイアスや対応推論との関連性,および,今後の研究の課題について考察した。
著者
戸塚 唯氏 深田 博己
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.54-61, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
10
被引用文献数
4 2

集合的防護動機モデルとは,集合的対処行動を勧告する脅威アピール説得の効果とメカニズムを説明するモデルである。同モデルは8つの要因から成る4つの評価が集合的対処行動意図を規定すると仮定している。本研究の目的は集合的防護動機モデルの妥当性を検証することであった。独立変数は脅威評価(高,低),対処評価(高,低),個人評価(高,低),社会評価(高,低),性(男性,女性)であった。被験者は大学生707人(男性365人,女性342人)であり,34条件(32実験条件と2統制条件)のうちの1つに無作為に割り当てられた。そして,実験条件の被験者にはダイオキシン問題に関する説得メッセージを読ませ,質問紙に回答させた。その結果,全ての仮説が支持されたわけではないが,脅威評価,対処評価が大きいほど,集合的対処行動意図が大きいことが明らかとなった。また男性被験者の集合的対処行動意図に対しては,わずかではあるものの社会評価の影響も見られた。
著者
柳澤 邦昭 西村 太志
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.93-103, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

本研究では,他者との相互作用場面における他者選択について自尊心の差異が及ぼす影響を杉浦(2003)の説得納得ゲームを用いて検討を行った。特に説得者の自尊心の差異でゲーム中に相互作用する納得者の選択様相が異なるかどうかに着目して検討した。105名の大学生がゲームに参加した。分析の結果,以下のことが示された。(1)説得者の自尊心の差異に関わらず,ゲーム開始直後のセッション(セッション1)より,後のセッション(セッション2)で説得者は多くの相互作用対象他者を選んでいた。(2)また,セッション1では説得者側,納得者側ともに相互作用した人数と相互作用満足度に正の相関があった。(3)さらに,セッション1において他者との相互作用満足度が低い場合,高自尊心者はセッション2で低自尊心者を相互作用対象他者として選択することが示された。以上の結果から,自尊心の差異により他者との相互作用場面における他者選択様相の異なる側面が伺えた。特に,高自尊心者は一時的に状態自尊心が低下している場合に,自尊心の回復を促進することを目的として低自尊心者を選択していると示唆される。
著者
神原 歩 遠藤 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.116-124, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
40

自己判断の高合意性認知が自己肯定感を維持する可能性を,高合意性情報が強制承諾 による態度変化に与える影響を調べることによって検討した。認知的不協和に直面した人は自身の態度を変化させるが,自己肯定化や自己評価維持システムなど,他の自己肯定感維持方略によって自己肯定感を修復すると態度を変化させる度合いが縮小することが明らかになっている。そこで,強制承諾場面での態度変化の程度を自己肯定感修復の指標とした。初めに強制承諾の手続きとして反態度意見の作成を求めた後,高合意性情報の有無によって合意性認知の程度の操作を行った。参加者の態度は,実験の最初と最後に測定した。その結果,高合意性情報を与えられた人は,そうでない人に比べて態度変化が小さかった。また,この効果は高合意性情報が不協和と関連が無い場合には,関連が有る場合ほど顕著にはみられなかった。以上から,脅威との関連の有無によって効果に違いはみられるが,自己脅威状況において合意性を高く認知すると自己肯定感が維持されることが示唆された。
著者
笠置 遊 大坊 郁夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.95-104, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
32

本研究の目的は,複数観衆問題に直面したとき,どの観衆に対しても呈示することのできる共通特性について自己呈示を行うことが,呈示者の個人内適応と対人適応に与える影響を検討することであった。参加者76名を対象に,複数観衆問題の生起と共通特性の自己呈示の有無を操作したスピーチ実験を行い,参加者の状態自尊感情の変化(個人内適応)を検討した。さらに,5名の評定者に参加者のスピーチ映像を呈示し,参加者の印象(対人適応)を評定させた。その結果,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行わなかった参加者は,実験前と比較し実験後における状態自尊感情が他の条件の参加者よりも低下し,印象評価もネガティブであった。一方,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行った参加者と統制条件の参加者の状態自尊感情の変化量及び印象評価に有意差は見られなかった。最後に,複数観衆問題の解決法として共通特性の自己呈示がいかなる有効性をもつのかについて議論した。
著者
池田 浩 古川 久敬
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.145-156, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本研究では,リーダー行動に関わる自信を検討した。リーダーの自信を「リーダーとして必要とされる役割行動を確実に実行できると考える度合い」と定義し,それを測定するための測度を開発した。企業組織の管理者170名から得られた回答をもとに因子分析を施した結果,「他者との関係性領域」に関する自信因子(“メンバーの育成支援”,“メンバーとの関係構築”,“組織内外からの支援取り付け”)と「課題遂行領域」に関する自信因子(“メンバーへの権限委譲”,“問題対処行動”,“職場内での目標設定”,“革新行動”)の合計7因子が確認された。また,これらの各因子は十分な信頼性と適切な基準関連妥当性を持つことが明らかになった。最後に,高い自信を有するリーダーのマネジメント志向性について検討した。
著者
樋口 収 道家 瑠見子 尾崎 由佳 村田 光二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.148-157, 2011 (Released:2011-03-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

他者との良好な関係を維持したいという欲求は,根源的なものであるとされる。先行研究では,そのような動機から,被害者は時間の経過とともに加害者を許すことが示されている(Wohl & McGrath, 2007)。このことから,本研究は重要他者との葛藤を思い出したとき,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じる可能性について検討した。実験1では,参加者に重要他者との間に起きた過去の葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じていた。実験2では,参加者に重要他者あるいは非重要他者との間に起きた葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者の方が加害者よりも出来事を遠くに感じていたが,非重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者と加害者の間で有意な差はみられなかった。これらの結果は,仮説と一貫しており,他者との良好な関係を維持したいという欲求が自伝的記憶の再構成に及ぼす影響を議論した。
著者
松本 友一郎 釘原 直樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.167-173, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
21

本研究は,看護師を対象に,上司との関係についてのスタッフの評価,そのスタッフによって推測された上司からの評価,上司との関係における対人ストレスコーピングの3つと部下の心理的ストレス反応の関連について検討した。上司との関係を公的な側面と私的な側面から検討した結果,特に公的な側面において,上司との関係に関するスタッフ自身の評価よりも,上司からの評価に対する推測の方が,そのスタッフの心理的ストレス反応と強く関連していることが見出された。この結果は,自己の抑制を必要とする感情労働としての特徴が,患者との関係と同様に,上司との関係においてもみられることを示唆している。私的な側面については,上司からの評価に対する推測が心理的ストレス反応と正の関連があった。さらに,本研究の対人ストレスコーピングに関する結果は,患者との関係における看護師の対人ストレスコーピングに関する先行研究の結果と概ね一致していた。よって,看護師における対人ストレスの特徴は,患者との関係だけでなく,上司との関係においてもみられるといえる。
著者
吉田 琢哉 中津川 智美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.30-37, 2013 (Released:2013-09-03)
参考文献数
36
被引用文献数
1

他者との良好な関係を志向する関係目標は,対人葛藤対処方略の選択を左右することが示されてきた。しかしこれまでに得られた知見は,対処方略への影響の仕方について齟齬が見られる。すなわち,関係目標は葛藤の解消に有効とされる協調方略を促進するという結果と,協調方略を抑制するという結果とが混在している。本研究は接近―回避の軸から関係目標を区分し,その齟齬を解消することを目的とした。接近的な関係目標は,対処方略のうち協調と主張に正の影響を与える一方で,回避的な関係目標は,服従および回避の選択を促進すると考えられる。本研究の結果はこれらの仮説を支持するものであった。また,相手との関係性という社会的文脈を親密性と地位から捉え,関係目標への影響を合わせて検討した。その結果,親密性が高いほど協調が選択され,その関連は接近的な関係目標により媒介されることが示された。地位については,関係目標に対しても対処方略に対しても,特に影響は見られなかった。これらの結果について,対処方略を選択した後の相手の反応への期待に起因する可能性に基づいて考察された。
著者
松﨑 友世 本間 道子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.98-108, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

本研究では社会的アイデンティティ理論から,地位の低い集団がネガティブな社会的アイデンティティ(SI)におかれた状況で,ポジティブなSIを獲得しようと試みる方略である社会的創造の新しい次元比較方略に注目し,低地位集団のSIの変容を検討した。今回,低地位集団に関連する次元を加え,低地位集団のネガティブなSIがポジティブなSIに変化するか,他の次元との比較により検討を行った。実験では集団地位,比較次元を独立変数,課題の内集団・外集団評価差を従属変数とした。その結果,低地位集団は高地位有利次元群で外集団ひいき,中立次元群では両集団評価に差はなく,低地位有利次元群では内集団を外集団よりも高く評価したが統計的に有意ではなかった。ただ低地位有利次元群と中立次元群間で差が認められ,低地位有利次元群で内集団評価がもっとも高くSIがポジティブ方向を示していた。一方,高地位集団では,高地位有利次元群,中立次元群において内集団ひいきを示し従来の知見と一致する結果を示した。低地位有利次元群において,両集団評価に差はみられなかった。本研究では,得られた知見を社会的アイデンティティ理論から仮説に基づいて検討した。
著者
安藤 香織 大沼 進
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.128-135, 2018 (Released:2018-03-03)
参考文献数
27

本研究では,北海道,東北,関東,中部,関西の5地域の大学生を対象とした質問紙調査により,東日本大震災後の節電行動の規定因を検討した。東日本大震災後には日本全国で電力供給量不足が深刻となり,節電の呼びかけが行われた。駅や公共施設などでは照明を暗くするなどの節電が行われた。先行研究では,周りの多くの他者がその行動を実行しているという記述的規範が環境配慮行動に影響を及ぼすことが指摘されている(e.g., Schultz, 1999)。本研究では,公共の場での節電を観察することが記述的規範として働いたのではないかという仮説を検討した。質問紙調査の有効回答数は計610名であった。分析の結果,公共施設等での節電の体験,他者の実行度認知共に個人の節電行動に有意な影響を及ぼすことが確認された。また,震災による価値観の変化,エネルギー問題の深刻性認知,計画停電の体験,地域の電力不足の認知も節電行動に有意な影響を及ぼしていた。災害後で電力供給力が逼迫しているという特殊な状況下においても記述的規範が節電行動に影響を及ぼすことが確認された。最後に公共の場で節電が個人の節電行動に及ぼす効果についての議論を行った。
著者
竹橋 洋毅 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.117-127, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
32

本研究は,時系列的な観点から,集団内でのコミュニケーション,集団同一視,共有的認知の知覚の関係性について検討することを目的とした。データは,仮想世界ゲーム(SIMINSOC)の参加者269人が3度にわたって回答した質問紙から得た。共分散構造分析の結果,集団内でのコミュニケーションは集団同一視を増加させ,それが共有的認知を高めることが示された。また,コミュニケーションにより形成された集団同一視は,その後のコミュニケーションを促進させていた。これらの結果は,コミュニケーションと集団同一視が他方を高め,それが強固な共有的認知の形成に寄与するという再帰的な強化関係の存在を示唆している。最後に,この強化関係が協力行動や意思決定の集団極化などの集団過程にどのような影響を及ぼすのかについて議論した。
著者
浅井 千秋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.79-90, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
49
被引用文献数
2 1

本研究では,自発的職務改善が,情緒的組織コミットメントとキャリア開発志向の2つの就業態度および,上司エンパワーメント,上司の統制的管理,組織エンパワーメント,キャリア開発支援,業績主義評価の5つの就業環境によって規定されるという仮説に基づいて,構造モデルが構成された。5つの企業の従業員372名に対する質問紙調査のデータを用いた共分散構造分析によって,このモデルの妥当性を検討した結果,自発的職務改善に対して,キャリア開発志向と上司エンパワーメントから正の影響が見られ,業績主義評価から負の影響が見られた。組織エンパワーメントと情緒的組織コミットメントは,キャリア開発志向を高めることを通して,間接的に自発的職務改善に影響を与えることが示された。最後に,本研究を通して明らかになった知見の妥当性と課題について考察を行った。
著者
山岸 俊男 山岸 みどり 高橋 伸幸 林 直保子 渡部 幹
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.23-34, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
24
被引用文献数
10 12

人間性の善良さに対する信念として定義される, 他者一般に対する信頼である一般的信頼と, コミットメント関係にある特定の相手が, その関係の中で自分に対して不利な行動を取らないだろうという期待として定義される個別的信頼との間で, 理論的区別が行われた。社会的不確実性に直面した場合, 一般的信頼が低い人々は, そこでの不確実性を低減するためにコミットメント関係を形成する傾向が強いだろうという理論に基づき, 売手と買手との関係をシミュレートした実験を行った。実験の結果, 社会的不確実性と被験者の一般的信頼の水準が (a) 特定の売手と買手との間のコミットメント形成および (b) 個別的信頼に対して持つ効果についての, 以下の仮説が支持された。第1に, 社会的不確実性はコミットメント形成を促進した。第2に, コミットメント形成はパートナー間の個別的信頼を促進した。第3に, 上の2つの結果として, 社会的不確実性は集団内での個別的信頼の全体的水準を高める効果を持った。第4に, 人間性の善良さに対する信念として定義される一般的信頼は, コミットメント形成を妨げる効果を持った。ただし, 第2と第4の結果から予測される第5の仮説は支持されなかった。すなわち, 一般的信頼は個別的信頼を押し下げる効果は持たなかった。
著者
松尾 藍 吉田 富二雄
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.40-49, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
14

本研究では,性ステレオタイプ行動に含まれるネガティブな側面に着目し,性ラベルが,性ステレオタイプ行動を行う人物の好ましさに及ぼす効果を検討した。実験は,実験参加者の性(男・女)と性ラベル(男性・女性・ラベルなし)を要因とする2要因混合計画(後者は実験参加者内要因)であった。実験参加者(N=182,男性87名,女性95名)は,男女の性ステレオタイプに沿った行動傾向の記述文を読み,その記述文に示された行動の行為者の性が明示されない場合(ラベルなし条件)と,行為者が男性の場合(男性ラベル条件)および女性の場合(女性ラベル条件)における行為者の好ましさを評価した。その結果,ネガティブな性ステレオタイプ行動に対し,行動と一致する性ラベルが与えられた場合,対象人物(ステレオタイプ一致人物)のネガティブな評価が緩和された。この効果は評価者が対象人物に対し外集団成員であるときのみ生起した。また,ネガティブな性ステレオタイプ行動に対し,行動と不一致の性ラベルが与えられた場合,対象人物(ステレオタイプ不一致人物)はよりネガティブに評価された。この効果は,女性ステレオタイプ行動に対して男性ラベルが与えられたときに,最も顕著であった。
著者
北山 忍 唐澤 真弓
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.133-163, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
191
被引用文献数
24 29

自己についての文化心理学的視座によれば, (i) 心理的傾向の多くは, 観念, ディスコース, 慣習, 制度といった文化の諸側面によって維持・構成され, さらに (ii) これら文化の諸要素は, 歴史的に形成され, 社会的に共有された自己観 (北米・西欧, 中流階級における相互独立的自己観や, 日本を含むアジア文化における相互協調的自己観) に根ざしている。この理論的枠組みに基づいて, 本論文ではまず, 日本の内外でなされてきている日本的自己についての文献を概観し, 現代日本社会にみられる相互協調の形態の特性を同定した。次いで, 自己実現の文化的多様性とその身体・精神健康問題へのインプリケーションについての日米比較研究の成果を吟味し, 心理的傾向が文化によりどのように形成されるかを具体的に例証した。最後に, 将来への指針を示し, 結論とした。