著者
久保 彰子 大原 直子 焔硝岩 政樹 積口 順子 須藤 紀子 笠岡(坪山) 宜代 奥田 博子 澁谷 いづみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.344-355, 2020

<p><b>目的</b> 本研究は,災害時の栄養・食生活支援について,対人サービスに係る被災者の健康管理支援と対物サービスに係る被災者への提供食の準備状況を明らかにすることと準備における行政管理栄養士等の関わりの状況を検討することを目的とした。</p><p><b>方法</b> 2018年9月,全国1,741市区町村の防災担当課宛に大規模災害時の栄養・食生活支援に係る準備状況を尋ねる質問紙調査を依頼した。防災担当課で回答が難しい質問は関係各課に照会し回答するよう求めた。基本集計の他,地域防災計画等策定への行政管理栄養士等の参画の有無および常勤行政管理栄養士等の配置の有無と質問項目との関連をピアソンのカイ二乗検定で調べた。</p><p><b>結果</b> 1,056市区町村から回答があった(回収率60.7%)。栄養・食生活支援を計画等へ記載している市区町村は52.8%,要配慮者の把握の防災計画等への記載は35.9%だった。要配慮者に対応した固定備蓄として,おかゆを備えているのは28.2%,乳児用粉ミルクは30.8%,アレルギー対応食は20.9%であった。炊き出しを提供する市区町村は82.1%だが献立基準を設定しているのは5.2%,弁当等を事前協定している市区町村は32.6%,献立基準を設定しているのは0.9%と少なかった。常勤行政管理栄養士等の発災時の従事内容は,要配慮者への支援33.2%,炊き出し又は弁当等の献立作成や助言39.3%だった。管理栄養士等の応援要請を記載している市区町村は29.0%と少なく,応援要請しない理由は,どのような活動をしてもらえるのかわからないが33.6%と最も多かった。地域防災計画等に行政管理栄養士等が参画したところは,栄養・食生活支援の記載や食事調査の実施,食事調達や炊き出し等の関係部署との連携が多かった。常勤行政管理栄養士等が配置されているところは,それらに加え流通備蓄や食料の衛生保管および適温提供の機器整備も多かった。</p><p><b>結論</b> 栄養・食生活支援に関する記載や要配慮者に対応した食品備蓄は以前より増加したが,炊き出しは減少した。要配慮者に対応した食事提供や炊き出しおよび弁当等の献立基準の作成等,行政管理栄養士等の関与が必要な準備について防災担当課等との連携不足が示唆され,積極的な関与が必要と考えた。一方,常勤行政管理栄養士等が未配置の市区町村は,管理栄養士を活用した食事提供支援の準備をすすめるために適正な配置が望まれた。</p>
著者
田中 宏和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.276-285, 2021

<p><b>はじめに</b> 2019年末に中華人民共和国湖北省武漢市で初報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわずか数か月で世界的に拡大し,欧州でも多くの感染者を出した。本稿はオランダにおける2020年7月末までの感染拡大とその対応についてまとめ,新興感染症による公衆衛生の海外での体験を一例として共有することを目的とした。</p><p><b>疫学</b> 2020年2月27日に初めての新型コロナウイルス感染症患者が確認されてから感染が急拡大し,第一波は新規感染者・死亡者ともに4月10日ごろにピーク(日別新規感染者1,395人,日本の人口換算で約10,000人)を迎えた。その後,感染拡大は収束したが5月31日時点で感染者46,422人,入院患者11,735人,死亡者5,956人が累計で報告された。死亡のほとんどが60歳以上で発生し,男性は80-84歳で,女性は85-89歳でそれぞれピークとなっていた。地理的な広がりとしてはアムステルダム・ロッテルダムといった都市圏での感染者は相対的に少なく,南部の北ブラバント州・リンブルフ州で多かった。</p><p><b>オランダ政府の対応</b> オランダ政府の対策の特徴は,最初の感染者の確認からわずか2週間で全国的な都市封鎖に追い込まれたこと,比較的緩やかな都市封鎖措置と行動制限を実施したこと,社会・経済活動の再開までに約3か月を要したことが挙げられる。2020年3月12日から段階的に全国的な対策を施行し,3月下旬にルッテ首相がインテリジェント・ロックダウン(Intelligent Lockdown)と呼ぶオランダ式の新型コロナウイルス感染防止対策が形成された。5月中旬以降,子どもに対する規制が緩和されたが対策措置の多くは6月中旬まで続き,段階的な緩和をもって社会・経済活動が再開,7月1日にほぼすべての規制が解除された。それ以降,在宅勤務の推奨,1.5メートルの社会的距離を取ることや公共交通機関でのマスク着用義務化など新しい日常への模索が続いている。</p><p><b>おわりに</b> オランダにおける感染拡大防止策は多様性と寛容に裏打ちされたオランダの国民性を体現したものだったが,感染者数および死亡者数は日本より深刻な状況であった。健康危機管理に関する他国の政策の評価には公衆衛生や医療資源の評価とともに,その背景にある社会の特徴を考慮することが重要である。</p>
著者
山本 則子 石垣 和子 国吉 緑 川原(前川) 宣子 長谷川 喜代美 林 邦彦 杉下 知子
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.660-671, 2002-07-15
参考文献数
23
被引用文献数
10

<b>目的</b> 「介護に関する肯定的認識」が,介護者の心身の生活の質(QOL)や生きがい感および介護継続意思に与える影響を,続柄毎に検討することを目的とした。<br/><b>方法</b> 東京・神奈川・静岡・三重・沖縄の全21機関において訪問看護を利用している322人の高齢者の家族介護者に質問紙調査を実施した。介護負担感が続柄により異なるという過去の報告に鑑み,分析は続柄別に行った。分析には QOL,生きがい感,介護継続意思を従属変数に,属性および介護に関する肯定的認識・否定的認識を独立変数とした重回帰分析およびロジスティック回帰分析を用いた。<br/><b>結果</b> 1) 身体的 QOL に「肯定的認識」は関連しない。<br/> 2) 心理的 QOL と「肯定的認識」の関連は続柄により異なる。介護者が夫および息子の場合は「肯定的認識」のみが,妻の場合は「肯定的認識」,「否定的認識」の両者が心理的 QOL に関連する。娘の場合は「否定的認識」のみが心理的 QOL に関連する。嫁の場合はどちらも心理的 QOL に関連しない。<br/> 3) いずれの続柄でも生きがい感には「肯定的認識」が強く関連する。夫および息子では「否定的認識」は生きがい感に関連しない。<br/> 4) 介護継続意思には,夫および息子では「肯定的認識」,「否定的認識」の双方が関連するが,妻・嫁では「肯定的認識」のみが関連する。娘では「否定的認識」が介護継続意思に関連する。しかし,続柄別の違いはわずかと思われる。<br/><b>結論</b> 介護者の心理的 QOL や生きがい感を高める支援を考えるため,介護の継続を予測するためには,介護の肯定的認識を把握することが重要と考えられる。介護の肯定的認識の影響は続柄別に異なるため,支援に際しては続柄別に検討を行うことが必要である。
著者
野尻 純子 柳川 敏彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.237-245, 2019

<p><b>目的</b> 本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)を疑われた児の母親に対してステッピングストーンズ・トリプルP(以下SSTP)を実施し,その効果を明らかにすることとした。</p><p><b>方法</b> 対象は,A市の健診後に発達支援教室を利用する児の母親36人であった。児は2歳から6歳で,広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(以下PARS)が9点以上でASDが疑われた。対象者を介入群と対照群の2群に無作為に割り振り,両群にSSTPを実施した。介入群から介入前後と3か月後,対照群から介入2か月前と介入前後に各々3回ずつ質問紙の回答を得た。質問紙は,親が報告する子どもの困難な行動(SDQ),親の子育てスタイル(PS),夫婦間の関係の質と満足度(RQI),親の子どもへの不適切な行為(JM)の4つの尺度であった。介入前後の効果を介入群と対象群の1回目と2回目の尺度得点を用いた共分散分析で求め,介入3か月後の効果を介入群内の3回の尺度得点を用いた分散分析でそれぞれ調べた。</p><p><b>結果</b> 児の平均年齢は3.7±1.4歳,PARS平均得点は20±6.8点のASDを疑われた児であり,児の発達指数(DQ)の全領域平均は76.1±18.8点で知能は境界域にあった。介入前後で得点分布に有意差があったものは,SDQ(行動問題,難しさの合計),PS(過剰反応,多弁さ,総合スコア),JMであり,RQIに有意差は見られなかった。介入後3か月後時点では,介入群内においてSDQ(行動問題,難しさの合計,過剰活発),PS(すべての項目)で1回目と3回目で有意差があった。</p><p><b>結論</b> SSTPを受けることで親の子育てに良い変化がみられ,児の問題行動が改善され,育てにくさが減少した。叩くなどの児への不適切な行為に改善が見られたことで,SSTPが親の養育態度の変化につながることが示唆された。</p>
著者
中村 美詠子 近藤 今子 久保田 晃生 古川 五百子 鈴木 輝康 中村 晴信 早川 徳香 尾島 俊之 青木 伸雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.881-890, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
17
被引用文献数
4

目的 本研究は,児童生徒における「学校に行きたくないとしばしば感じる気持ち」(以下,不登校傾向)の保有状況と自覚症状,生活習慣関連要因との関連を横断的に明らかにすることを目的とする。方法 平成15年11月に小学校 2・4・6 年生,中学校 1 年生,高等学校 1 年生の5,448人と小学生の保護者1,051人を対象として実施された静岡県「子どもの生活実態調査」のデータを用いた。自記式の調査票により,児童,生徒の不登校傾向,自覚症状,生活習慣,および小学生の保護者の生活習慣を把握した。結果 有効な回答が得られた小学生2,675人,中学生940人,高校生1,377人,小学生の保護者659人について分析を行った。不登校傾向は,男子小学生の11.4%,男子中学生の12.1%,男子高校生の25.3%,女子小学生の9.8%,女子中学生の19.6%,女子高校生の35.9%にみられた。不登校傾向を目的変数,自覚症状,生活習慣関連要因をそれぞれ説明変数として,性別,小学(学年を調整)・中学・高校別に,不登校傾向と各要因との関連を多重ロジスティック回帰分析により検討した。男女ともに,小学・中学・高校の全てでオッズ比(OR)が統計学的に有意に高かったのは,活力低下(OR: 3.68~8.22),イライラ感(OR: 3.00~6.30),疲労倦怠感(OR: 3.63~5.10),朝眠くてなかなか起きられない(OR: 1.98~2.69)であり,また強いやせ希望あり(OR: 1.83~2.97)のオッズ比は中学男子(OR: 2.09, 95%信頼区間:0.95–4.60)以外で有意に高かった。一方,小学生において保護者(女性)の生活習慣関連要因と不登校傾向との間に有意な関連はみられなかった。結論 不登校傾向の保有状況は小学生では男女差は明らかではないものの,中高生では女子は男子より高かった。また,不登校傾向は,不登校者においてしばしば観察されるような様々な自覚症状と関連していた。
著者
岩崎 正則 角田 聡子 安細 敏弘
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.865-875, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
22

目的 継続的な口腔管理,定期的な歯科受診は口腔の健康維持に重要である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により,感染への不安から医療機関への受診を控えるケースが報告されている。定期歯科受診による管理下にあった口腔の状態が,COVID-19感染拡大にともなう定期管理の中断により,どのように変化するかは明らかとなっていない。本研究は,高校生を対象に,学校健康診断(学校健診)のデータと学校健診と同時に実施した質問紙調査から得られたデータを用いて,COVID-19流行下の定期的歯科受診の状況と口腔の状態の変化を検討することを目的とした。方法 福岡県内の高等学校1校に在学する高校生のうち2019年度の1年生,2年生であった者878人を解析対象とした。COVID-19流行下での定期的歯科受診の状況,歯科医療機関受診に対する不安について質問紙により調査した。2019年度および2020年度学校健診結果にもとづく永久歯の状態と歯肉の状態の変化と定期的歯科受診の状況の関連をロバスト標準誤差を推定したポアソン回帰分析を用いて評価した。結果 対象者878人中,417人(47.5%)が定期歯科受診未実施,320人(36.4%)がCOVID-19流行下での定期歯科受診継続,141人(16.1%)が定期歯科受診中断であった。定期歯科受診中断群では,歯科医療機関受診に不安を抱いている者の割合が30.5%であり,有意に高かった。2019年度の歯科健診時に歯肉の炎症がない者521人における,2020年度の歯科健診時に歯肉の炎症を有する者の割合は,定期歯科受診未実施群で31.0%,定期歯科受診継続群で20.2%,定期歯科受診中断群で38.2%であった。定期受診継続群と比較して,定期歯科受診中断群および定期歯科受診未実施群では,歯肉の炎症を有する者の割合が有意に高く,共変量調整後の発生率比(95%信頼区間)は定期歯科受診中断群で1.95(1.34-2.84),定期歯科受診未実施群で1.50(1.07-2.10)であった。定期歯科受診中断と永久歯の状態の変化の間には有意な関連はなかった。結論 本研究の結果から定期歯科受診の中断と歯科医療機関受診への不安感は有意に関連していること,定期歯科受診中断者では学校健診時に新たに歯肉の炎症を有する者の割合が高いことが示された。
著者
田村 元樹 服部 真治 辻 大士 近藤 克則 花里 真道 坂巻 弘之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.899-913, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
38

目的 本研究は,うつ発症リスク予防に効果が期待される65歳以上の高齢者のボランティアグループ参加頻度の最適な閾値を傾向スコアマッチング法を用いて明らかにすることを目的とした。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が24市町村に在住する要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した,2013年と2016年の2時点の縦断データを用いた。また,2013年にうつ(Geriatric Depression Scale(GDS-15)で5点以上)でない人を3年間追跡し2013年のボランティアグループに年1回以上,月1回以上もしくは週1回以上の参加頻度別に,2016年に新たなうつ発症のオッズ比(OR)を,傾向スコアマッチング法とt検定などを用いて求めた。結果 参加群は,年1回以上で9,722人(25.0%),月1回以上で6,026人(15.5%),週1回以上で2,735人(7.0%)であった。3年間のうつの新規発症は4,043人(10.5%)であった。傾向スコアを用いたマッチングでボランティアグループ参加群と非参加群の属性のバランスを取って比較した結果,月1回以上の頻度では参加群は非参加群に比べて,Odds比[OR]0.82(95%信頼区間:0.72, 0.93)と,うつ発症リスクは有意に低かった。年1回以上の参加群ではORが0.92(0.83, 1.02),および週1回以上では0.82(0.68, 1.00)であった。結論 高齢者のボランティアグループ参加は,月1回以上の頻度で3年後のうつ発症リスクを抑制する効果があることが示唆された。高齢者が月1回でもボランティアとして関わることができる機会や場所を地域に増やすことが,うつ発症予防対策となる可能性が示唆された。
著者
根本 裕太 桜井 良太 松永 博子 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.888-898, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
23

目的 自然災害時において,情報通信技術(ICT)機器を用いることで,迅速に多様な情報を収集できる。本研究では性別・年齢階級別のICT機器利用状況を示し,ICT機器利用者における自然災害時に想定される情報収集の特徴を明らかにすること,インターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因を解明することを目的とした。方法 東京都府中市の18歳以上の住民21,300人を対象に郵送調査を実施した。ICT機器は,パソコン,スマートフォン,タブレット端末,携帯電話の利用状況を調査し,いずれかの機器を利用する者をICT機器利用者とした。自然災害時に想定される情報収集手段として,テレビ,ラジオ,インターネット検索,緊急速報メール,防災行政無線,行政機関のホームページ,近隣住民,家族,友人から該当するものをすべて選択してもらった。このうち,インターネット検索,緊急速報メール,行政ホームページを,インターネットを介した情報収集手段とした。ICT機器利用割合の性差と年齢階級差ならびにインターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因を検討するため,ロバスト分散を用いたポアソン回帰分析を実施した。結果 9,201人(回答率43.2%)から有効回答を得た。ICT機器利用者は,70歳未満では95%程度以上,80歳以上では女性66.7%,男性70.6%であった。ICT機器利用者の災害時に想定される情報収集手段は,インターネット検索を選択した者は,女性では60歳未満,男性では70歳未満の70%以上であったが,80歳以上の女性では7.8%と低かった。インターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因は,インターネット検索では,女性,世帯収入が高い者,教育年数が長い者,配偶者がいない者で選択する者が多く,同居者がいる者や高年層,とくに高齢女性では少なかった。緊急速報メールを選択した者は,女性,教育年数が長い者で多く,高年層,配偶者がいない者では少なかった。行政ホームページを選択した者は,女性,教育年数が長い者で多く,同居者がいない者,配偶者がいない者や高年層,とくに高齢女性で少なかった。結論 ICT機器利用者における災害時に想定される情報収集手段は性や年齢階級により異なることが示され,インターネットを介した情報収集手段に関連する要因は情報収集手段によって異なることが示唆された。
著者
LINGLING 辻 大士 長嶺 由衣子 宮國 康弘 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.925, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)

第67巻第11号(2020年11月15日発行)「LINGLING,他.高齢者の趣味の種類および数と認知症発症:JAGES 6年縦断研究」において,以下の箇所に誤りがありました。お詫びとともに下記のとおり訂正いたします。P800 筆者•共著者の所属•責任著者連絡先の修正 下線部が訂正箇所誤Ling LING∗,辻 大士2∗,長嶺由衣子2∗,3∗,宮國 康弘4∗,5∗,近藤 克則2∗,4∗ ∗千葉大学大学院医薬学府先進予防医学共同専攻博士課程 2∗筑波大学体育系 3∗東京医科歯科大学医学部付属病院総合診療科 4∗国立長寿医療研究センター老年学•社会科学研究センター老年学評価研究部 5∗医療経済研究機構研究部責任著者連絡先:〒260-8670 千葉市中央区亥鼻1-8-1 千葉大学大学院医薬学府Ling LING正LINGLING∗,辻 大士2∗,長嶺由衣子3∗,6∗,宮國 康弘4∗,5∗,近藤 克則4∗,6∗ ∗千葉大学大学院医学薬学府先進予防医学共同専攻博士課程 2∗筑波大学体育系 3∗東京医科歯科大学医学部付属病院総合診療科 4∗国立長寿医療研究センター老年学•社会科学研究センター老年学評価研究部 5∗医療経済研究機構研究部 6∗千葉大学予防医学センター責任著者連絡先:〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33 千葉大学大学院医学薬学府LINGLINGP810 筆者•共著者の所属 下線部が訂正箇所WrongLing LING∗, Taishi TSUJI2∗, Yuiko NAGAMINE2∗,3∗, Yasuhiro MIYAGUNI4∗,5∗, Katsunori KONDO2∗,4∗ ∗Docter Course in Graduate School of Medical and Pharmaceutical Sciences, Chiba University 2∗Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba 3∗Department of Family Medicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University 4∗Department of Gerontological Evaluation, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology 5∗Research Department, Institute for Health Economics and PolicyCorrectLINGLING∗, Taishi TSUJI2∗, Yuiko NAGAMINE3∗,6∗, Yasuhiro MIYAGUNI4∗,5∗, Katsunori KONDO4∗,6∗ ∗Doctor Course in Graduate School of Medical and Pharmaceutical Sciences, Chiba University 2∗Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba 3∗Department of Family Medicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University 4∗Department of Gerontological Evaluation, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology 5∗Research Department, Institute for Health Economics and Policy 6∗Center for Preventive Medical Sciences, Chiba University
著者
吉岡 京子 藤井 仁 塩見 美抄 片山 貴文 細谷 紀子 真山 達志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.876-887, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
39

目的 本研究の目的は,保健師が策定に参画した保健医療福祉計画(以下,計画とする。)の実行段階における住民との協働に関連する要因を解明し,地域全体の健康レベルの向上に貢献できる保健活動への示唆を得ることである。方法 研究の概念枠組みとしてPlan-Do-Check-Act(以下,PDCAとする。)サイクルを用いた。本調査で焦点を当てた計画の実行段階は「Do」に相当するため,調査項目は「Plan」の段階の内容を中心に構成し,計画の実行段階における住民との協働をどの程度取り入れたか,回答者の属性,計画策定への参画状況,組織要因,計画策定の際に用いた方策を含めた。調査対象者は,地方自治体に勤務する常勤保健師のうち,保健師活動指針が発出された2013年以降に計画策定に参画した経験を有する者とした。協力意思を示した220地域(36都道府県,41保健所設置市,153市町村)に2,185人分の調査票を2019年10月~11月に郵送した。二項ロジスティック回帰分析により,住民との協働を取り入れたことと独立変数との関連について検討した。結果 1,281人から回答を得た(回収率58.6%)。2013年以降に計画策定の経験がなかった203人と欠損値の多かった50人を除く1,028人について分析した(有効回答率47.0%)。計画の実行段階で住民との協働を「全く取り入れなかった」と回答した者は125人(12.2%),「あまり取り入れなかった」者は293人(28.5%),「少し取り入れた」者は482人(46.9%),「とても取り入れた」者は128人(12.4%)だった。二項ロジスティック回帰分析の結果,係長級以上の職位に就いていること,健康増進計画の策定への参画,住民へのアンケート調査やグループワークの実施,ワーキンググループや計画策定委員会の委員への住民の参加,すでに発表されている研究成果の活用,ターゲット集団の設定および計画実施の進捗管理の実施が,住民との協働を取り入れたことと有意に関連していた。結論 保健師が,計画の実行段階における住民との協働を進めていくためには,地域の健康・生活課題解決に向けて住民の声やエビデンスに基づく計画を策定し,確実に実行されるように進捗管理を行う必要性が示唆された。
著者
岩澤 聡子 道川 武紘 中野 真規子 西脇 祐司 坪井 樹 田中 茂 上村 隆元 道川 武紘 中島 宏 武林 亨 森川 昭廣 丸山 浩一 工藤 翔二 内山 巌雄 大前 和幸
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-43, 2010-01-15
参考文献数
7

<b>目的</b>&emsp;2000年 6 月に三宅島雄山が噴火し,二酸化硫黄(SO<sub>2</sub>)を主とする火山ガス放出のため同年 9 月に全住民に島外避難命令が出された。火山ガス放出が続く中,火山ガスに関する健康リスクコミュニケーションが実施され,2005年 2 月に避難命令は解除された。本研究では,帰島後 1 年 9 か月経過した時点における,SO<sub>2</sub> 濃度と小児の呼吸器影響の関連について,2006年 2 月から11月の 9 か月間の変化を検討した。<br/><b>方法</b>&emsp;健診対象者は2006年11月時点で,三宅島に住民票登録のある19歳未満の住民を対象とした。そのうち,受診者は,141人(受診率50.4%)で,33人は高感受性者(気管支喘息などの気道過敏性のある呼吸器系疾患を持つ人あるいはその既往のあり,二酸化硫黄に対し高い感受性である人)と判定された。<br/>&emsp;健康影響は,米国胸部疾患学会の標準化質問票に準拠した日本語版の自記式質問票により,呼吸器に関する自覚症状調査,生活習慣,現病歴,既往歴等の情報を収集した。努力性肺活量検査は,練習の後,1 被験者あたり 3 回本番の測定を実施した。<br/>&emsp;環境濃度は,既存の地区名を一義的な括りとし,当該地区の固定観測点での SO<sub>2</sub> モニタリングデータをもとに,避難指示解除より健診までの22か月間のデータについて,その平均値により居住地域を低濃度地区(Area L),比較的曝露濃度の高い 3 地域(H-1, H-2, H-3)と定義し,SO<sub>2</sub> 濃度(ppm)はそれぞれ0.019, 0.026, 0.032, 0.045であった。<br/><b>結果</b>&emsp;自覚症状では,「のど」,「目」,「皮膚」の刺激や痛みの増加が,Area L と比較すると,H-3 で有意に訴え率が高かった。呼吸機能検査では,2006年 2 月と2006年11月のデータの比較において,高感受性者では%FVC,%FEV1 で有意に低下(<i>P</i>=0.047, 0.027)していたが,普通感受性者では低下は認めなかった。<br/><b>結論</b>&emsp;高感受性者では呼吸機能発達への影響の可能性も考えられ,注目して追跡観察していくべきである。
著者
吉岡 みどり 原田 亜紀子 芦澤 英一 木下 寿美 相田 康一 大森 俊 木下 裕貴 大橋 靖雄 佐藤 眞一 水嶋 春朔
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.728-742, 2021-11-15 (Released:2021-12-04)
参考文献数
41

目的 人生の最終段階を可能な限り長く自立して過ごしていくためには,Activities of Daily Living(ADL)のような身体的な自立に加え,高次生活機能(「手段的自立」,「活動」,「参加」)があわせて必要となってくる。そこで,地域住民を対象とした長期追跡研究において,手段的自立,知的能動性,社会的役割と健康状態(総死亡,要介護発生)の関連性を検討した。方法 鴨川コホート研究の参加者データを用いて,2003年から2013年までに千葉県鴨川市民を対象に,医療サービス利用状況,健康状態,疾病有病率,介護保険サービスの利用状況を調査した。鴨川市民の生活習慣と高次生活機能の違いを死亡状況別,要介護発生状況別に比較した。高次生活機能は,老研式活動能力指標を用いて評価し,各質問への回答,各領域の得点,合計得点を調べた。結果 40-69歳の成人6,503人がコホート研究に参加し,2013年末までに810人の死亡を把握した。総死亡と高次生活機能との関連をみると,手段的自立得点4または5に対する3点未満のハザード比2.03(95%CI: 1.59-2.60),知的能動性得点4に対する3点未満のハザード比1.39(95%CI: 1.09-1.77),社会的役割得点4に対する3点未満のハザード比1.28(95%CI: 1.03-1.59))であった。性別の層別解析では,手段的自立得点の低さは,男女ともに総死亡発生に対して関連がみられたが,知的能動性,社会的役割については,女性においてのみ総死亡発生との関連がみられた。同じ期間に917人の要介護発生を把握した。同様に高次生活機能との関連をみると,手段的自立,社会的役割についてはハザード比が有意であった(手段的自立1.93(95%CI: 1.55-2.40),社会的役割1.30(95%CI: 1.07-1.58))。男女別では,手段的自立得点の低さは,男女ともに要介護発生に対して関連がみられたが,社会的役割については,女性でのみ関連がみられた。結論 総死亡,要介護発生に対して,高次生活機能の手段的自立,知的能動性,社会的役割のいずれのドメインにおいても,得点が最も低いカテゴリーは,総死亡,要介護発生に対して有意に関連していた。
著者
斉藤 雅茂 辻 大士 藤田 欽也 近藤 尚己 相田 潤 尾島 俊之 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.743-752, 2021-11-15 (Released:2021-12-04)
参考文献数
28

目的 介護予防事業推進による財政効果を評価する際の基礎資料を得るために,介護予防・日常生活圏域ニーズ調査で把握可能な要支援・要介護リスク評価尺度点数別の介護サービス給付費の6年間累積額を分析した。方法 日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の一環で,2010年に実施された要介護認定を受けていない高齢者を対象にした質問紙調査の一部をベースラインにした(全国12自治体を対象。回収率:64.7%)。その後,行政が保有する介護保険給付実績情報と突合し,46,616人について2016年11月まで(最長76か月間)に利用した介護サービス給付費を把握した。要支援・要介護リスクについては,性・年齢を含む12項目で構成される要支援・要介護リスク評価尺度・全国版(0-48点)を用いた。ベースライン時の基本属性等を調整した重回帰モデルに加えて,従属変数の分布を考慮したトービットモデルおよび多重代入法による欠損値補完後の重回帰モデルを行った。結果 追跡期間中に7,348人(15.8%)が新たに介護保険サービス利用に至っていた。要支援・要介護リスク評価尺度点数が高いほど,6年間の要支援・要介護認定者および要介護2以上認定者割合,累積介護サービス給付費が高く,介護サービスの利用期間は長く,いずれも下に凸の曲線状に増えていた。ベースライン時の諸特性を統計的に考慮したうえでも,リスク評価点数が1点高いほど,6年間累積介護サービス給付費は1人あたり3.16(95%信頼区間:2.83-3.50)万円高い傾向にあった。リスク評価点数が低い群(16点以下)では1点あたり0.89(95%信頼区間:0.65-1.13)万円,高い群(17点以上)では1点あたり7.53(95%信頼区間:6.74-8.31)万円高い傾向にあった。推計モデルによる大きな違いは確認されなかった。結論 ある時点での集団のリスク評価尺度点数からその後6年間の累積介護サービス給付費の算出が可能であることが示された。外出頻度などリスク点数を構成する可変的な要素への介入が保険者単位でみると無視できない財政的なインパクトになりうることが示唆された。
著者
平島 賢一 樋口 由美 柳澤 幸夫 鶯 春夫 澁谷 光敬
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-030, (Released:2021-11-10)
参考文献数
34

目的 近年,高齢ドライバーの免許証自主返納者は増加しているが,自動車は地方都市における住民の主な移動手段としての役割を担っており,免許証返納後の身体機能や生活に対する影響は大きいと考える。そこで本研究では,徳島県内の高齢ドライバーを対象に,免許証自主返納が活動性低下を招き,運動機能および認知・精神機能の低下を惹起するという仮説を予備的検証することとした。方法 対象者は,免許証の返納日まで日常的に週2回以上の運転を継続していた高齢者17人(平均年齢80.2歳,返納群)と,運転を継続している高齢者23人(76.9歳,運転継続群)とした。調査測定はベースラインと3か月後に実施し,活動性の評価は活動量計による3か月間の実測とLife Space Assessment(LSA)を用いた。運動機能と認知・精神機能の評価は,握力,Timed Up and Go testおよびMini-Mental State Examination(MMSE),Geriatric Depression Scale(GDS)を用いた。返納群には免許証返納に関するアンケート調査も実施した。統計解析は評価時期と2群に対して二元配置分散分析を実施した。結果 活動性の指標としたLSAの合計得点は有意な交互作用(P<0.01)を認め,返納群では3か月後に有意に低下した。一方,活動量計による歩数は有意な変化を示さなかった。運動機能および認知・精神機能のいずれの指標にも有意な交互作用を認めなかったが,MMSEとGDSで群の有意な主効果を認め,返納群が運転継続群に比して不良な成績であった。結論 徳島県在住の高齢ドライバーにおける免許証返納3か月後の変化は,日常生活における行動範囲の狭小化を認めた。運動機能および認知・精神機能の低下は観察されなかった。免許証を返納した高齢者は,自動車に代わる移動手段の速やかな確保が必要であると思われた。
著者
戸ヶ里 泰典 山崎 喜比古 小出 昭太郎 宮田 あや子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.51-57, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
14
被引用文献数
5

目的 地域や職場等の保健計画において,能力面の評価指標として Perceived Health Competence Scale (PHCS)が期待されている。そこで PHCS 日本語版のワーディングを修正した修正版 PHCS 日本語版の信頼性および妥当性を検討することを本研究の目的とする。方法 日本国民全体より層化二段抽出した男女3,000人に対し,面接法を行い1,910人より回答を得た(回収率63.7%)。信頼性分析として,Cronbach α(以下 α)係数による内的一貫性の確認と,Item-Total 相関分析,および項目削除時の α 係数を算出した。妥当性の検討として,PHCS スコアと性,年齢,慢性疾患の有無,18歳時の慢性疾患の有無の 4 つの属性特性との関連性について,および健康関連ライフスタイルの各指標との関連について一般線形モデル(General linear model; GLM)による分散分析を行い,内容妥当性および構成概念妥当性の検討を行った。成績 α 係数は.869と十分な値となった。また,Item-Total 相関,項目削除時の α 係数では異常値はみられず一定の信頼性が確保された。一方,年齢に関しては60歳以上と未満とで差がみられた。慢性疾患をもつ人,および18歳時に慢性疾患をもっていた人のほうが低い PHCS スコアであることが明らかとなった。また,性,年齢,慢性疾患の有無,18歳時の慢性疾患によらず,PHCS スコアは,喫煙,運動,食習慣と大きく関連が見られたが,飲酒,健診受診頻度とは関連がみられなかった。結論 修正版 PHCS 日本語版の信頼性,妥当性は概ね示された。修正版 PHCS 日本語版は使用可能であると考えられる。また,縦断研究による PHCS の予測妥当性の検討のほか,形成要因・介入方法の検討が望まれる。
著者
片岡 葵 村木 功 菊池 宏幸 清原 康介 安藤 絵美子 中村 正和 伊藤 ゆり
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.682-694, 2021-10-15 (Released:2021-10-06)
参考文献数
21

目的 2020年4月に改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例が施行された。現行の法律や条例では,喫煙専用室や飲食可能な加熱式たばこ喫煙専用室を認めている他,客席面積や従業員の有無で規制の対象外となる,客席での喫煙が引き続き可能な飲食店(既存特定飲食提供施設)が存在するため,飲食店の禁煙化に地域差が生じる懸念がある。また日本では,路上喫煙防止条例がすでに多くの自治体で施行されているため,店舗外での喫煙が困難となり,店内の禁煙化が妨げられる可能性がある。本研究では,既存特定飲食提供施設を対象として,法律や条例施行前の飲食店の屋内客席喫煙ルールと施行後のルール変更に関する意向を把握し,法律や条例制定による屋内客席喫煙ルールへの影響を地域ごとに検討することとした。方法 東京都,大阪府,青森県の20市区町村で営業している飲食店6,000店舗に対し,2020年2~3月に自記式質問紙調査を実施した。調査項目は,法律や条例の施行前および施行後に変更予定の屋内客席喫煙ルール,業種,客席面積,従業員の有無,客層や客数,禁煙化に関する不安,国や行政に期待する内容とした。解析は,屋内客席喫煙ルールを「全面禁煙」「分煙」「喫煙可」に分け,変化の推移を割合で算出した。解析対象は既存特定飲食提供施設とした。結果 回答は879店舗より得られ,既存特定飲食提供施設は603店舗であった。分煙・喫煙可能から禁煙化にする予定の店舗は,東京都で5.2%(3/58),大阪府で23.1%(31/134),青森県で17.2%(57/326)であった。現在すでに全面禁煙であり,法律や条例施行後も変更予定がない店舗を加えると,法律や条例施行後に全面禁煙となる予定の店舗は,東京都で46.6%(55/118),大阪府で49.6%(113/228),青森県で48.6%(125/257)であった。結論 既存特定飲食提供施設において,分煙・喫煙可能から禁煙化にする予定の店舗は17.6%(91/518)であった。禁煙化に踏み切らない背景として,顧客数や売り上げ減少への不安,喫煙者からのクレームなどの懸念が考えられるため,禁煙化による営業収入の変化についての知見の蓄積を行うとともに,店内を禁煙にした場合の喫煙者への対応や,公衆喫煙所などの環境整備が禁煙化の促進に必要と考える。
著者
上野 祐可子 佐伯 和子 良村 貞子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.143-149, 2017 (Released:2017-03-30)
参考文献数
16
被引用文献数
2

目的 幼児が咀嚼力を獲得するためには,児の口腔形態の変化や機能の発達に見合った硬さの食物を,適切な時期に摂取することが重要である。しかし,1 歳半児の養育者は,児に硬い物を与える必要があるという意識は高いが,児の発達段階より硬すぎるものを目安とする傾向にあった。そこで,1 歳半児の養育者が児の口腔発達に合った食物を与えているかを検討するため,日頃児に与えている食物の硬さの実態を把握し,歯の萌出状況との関連を明らかにすることを目的とした。方法 1 歳半健診を受診した 1 歳半児の養育者を対象に,児の口腔発達の指標として歯の萌出状況を,養育者が児に与える食物の硬さの指標として15品目の食物摂取状況を質問紙により調査した。調査票は無記名で,同意を得られた者のみに研究者もしくは保健師が直接配布し,郵送法により回収した。分析には χ2 検定,Fisher の直接確率検定を用いた。調査は,所属大学の倫理委員会の承認を得て実施した。結果 調査票配布501部,回収210部(回収率40.9%)中,有効回答は202部(有効回答率40.3%)であった。歯の萌出に関しては,切歯が 8 本未萌出である児が17人(8.4%),臼歯が 1 本も萌出していない児は30人(14.9%),上下同じ位置に萌出している臼歯の噛み合わせが2組未満の児が56人(27.7%)であった。歯の萌出と食物の硬さの関連は,「ステーキ・ソテー 1 切れ」を臼歯の噛み合わせが 2 組未満の児の方が,2 組以上ある児より有意に食べていた(P=0.001)。結論 1 割程度の児は,歯の萌出が一般的な発達の目安よりも遅かった。また,臼歯の萌出に適した硬さよりも硬い食事が提供され,十分な咀嚼ができないまま嚥下をしていることが示唆された。特に生野菜や肉類を児に与える時は,調理法にも注意を払うよう促し,乳臼歯の萌出状況に合わせた硬さの食物を提供する必要があると考える。
著者
有馬 和代 島村 珠枝 伊藤 美樹子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.608-617, 2021-09-15 (Released:2021-09-07)
参考文献数
35

目的 本研究は,地域DOTS実践に積極的関与が期待される行政保健師を対象とし,地域DOTS実践の質の現状を『服薬支援』,服薬支援を除く『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の側面から評価し,これらの実践の質に影響を与える要因を個人要因と組織要因から明らかにして,行政保健師の力量形成上の課題を明確化する。方法 2015年の結核罹患率15以上の自治体で結核患者支援に携わる行政保健師958人を対象に,自記式質問紙調査を行い410人の有効回答を得た(有効回答率42.8%)。地域DOTS実践の質は,結核患者支援のエキスパート保健師との文献検討により『服薬支援』,『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の側面を,各々10点満点で評価した。これらと結核対策の実施体制(組織要因)および保健師の結核患者支援経験・意欲や学習状況(個人要因)との関係を,重回帰分析にて検討した。結果 地域DOTS実践の質の得点は,『服薬支援』(7.54±1.69),『個別的患者中心支援』(6.68±1.53),『関係機関連携』(6.91±1.63)であり,『服薬支援』が有意に高かった。『個別的患者中心支援』は4人に1人が10点中5点以下と,自身の活動を低く評価していた。『服薬支援』,『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の間には強い関連があり,特に『個別的患者中心支援』と『関係機関連携』間はr=0.787と関連が強かった。地域DOTS実践の各重回帰モデルに共通して有意な項目は,組織要因では,“個別支援計画を作成”(β=0.112~0.270),“検討会に受持ち患者の個別支援計画を提示”(β=0.113~0.173),“コホート検討会への参加”(β=0.129~0.167)であり,個人要因では,保健師経験年数(β=0.210~0.316)で,いずれも正の関連を示した。また『関係機関連携』のモデルでは,“専門書や雑誌を読む”(β=0.108)が正の関連を示した。結論 行政保健師の自己評価による地域DOTS実践の質の充実には,得点が低く,他の側面との関連が強い『個別的患者中心支援』が優先課題であると言える。また,DOTS実践の質を高めるには,DOTS評価に保健師が参画し,個別患者支援計画の立案や支援計画を提示するとともに成績評価に関わることが有用であることが示唆された。
著者
樋口 匡貴 荒井 弘和 伊藤 拓 中村 菜々子 甲斐 裕子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.597-607, 2021-09-15 (Released:2021-09-07)
参考文献数
21

目的 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年前半に世界規模に広がった。日本においても同年4月7日に緊急事態宣言が発出され,国民生活に大きな影響を与えた。本研究では,COVID-19の感染予防および感染拡大予防行動として個人が行う外出・対人接触の回避行動および手洗い行動を取り上げ,東京都在住者を対象に緊急事態宣言中のこれらの行動の関連要因について検討した。方法 2020年4月26~29日に,東京都在住の20~69歳の男女を対象としたインターネット調査を行った。検討の枠組みとして,リスク低減行動を説明する防護動機理論と,他者による行動が自身の行動実施へ与える影響を説明する規範焦点理論を組み合わせて用いた。最近1週間での外出・対人接触の回避行動および手洗い行動の頻度,COVID-19へのリスク認知に加え,各行動の評価として,どの程度効果があるのか(反応効果性認知),どの程度実行できるのか(実行可能性認知),必要なコスト(反応コスト),どの程度すべきかの認識(命令的規範),他者がどの程度実行しているかの認識(記述的規範)について測定した。各行動を目的変数とする階層的回帰分析を行った。結果 分析対象は1,034人(男性520人,女性514人,平均年齢44.82歳,標準偏差14.00歳)であった。外出・対人接触回避行動については,命令的規範が高いほど行動をとる傾向にある(標準化偏回帰係数(β)=0.343, P<0.001)一方で,記述的規範が高いほど行動をとらない傾向にある(β=−0.074, P=0.010)ことが示された。さらにリスク認知・反応効果性認知・実行可能性認知の交互作用が有意であり(β=0.129, P<0.001),反応効果性認知および実行可能性認知のいずれかが低い場合にのみリスク認知と外出・対人接触回避行動に正の関連が見られた。また手洗い行動については,命令的規範(β=0.256, P<0.001)および実行可能性認知(β=0.132, P<0.001)が高いほど行動をとる傾向にあり,一方で反応コスト(β=−0.193, P<0.001)が高いほど行動をとらない傾向にあることが示された。結論 防護動機理論および規範焦点理論の変数がCOVID-19の予防行動と関連していた。予防行動の関連要因を検討する上で,これらの理論の適用が有用であることが示唆された。