- 著者
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桐村 喬
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.000065, 2018 (Released:2018-06-27)
I 研究の背景・目的 モータリゼーションの進展の結果,自家用車の普及に伴い,東京・大阪の二大都市圏以外では,自家用車が最もよく通勤に利用されている(Nojiri, 1992).一方,自家用車利用の増大は二酸化炭素排出量の増加に繋がるため,1998年に閣議決定された第5次全国総合開発計画では,環境負荷が少ない交通体系の形成が提唱され,公共交通機関や自転車,徒歩での移動を促進する方針が示されている.しかし,1990年以降を対象とした通勤・通学時の利用交通手段に関する研究は,個別都市の事例分析を除けば管見の限りなく,その後の変化は十分には把握されていない. そこで,本発表では,日本における1990年から2010年までの通勤・通学手段の変化の動向を都市圏単位で整理する.総務省による国勢調査結果に基づく大都市圏・都市圏は数が少なく,地方都市の分析が不十分となるため,本発表では,金本・徳岡(2002)による大・小都市雇用圏の枠組みを利用する.また,国勢調査において常住地と従業・通学地間の利用交通手段別の集計がなされているのは,常住人口が10万人以上の市に限られ,すべての都市雇用圏について検討することができない.そのため,都市雇用圏の中心市町村(以下,中心都市とする)のみに注目し,従業・通学地ベースの利用交通手段別の通勤・通学者比率を求め,その変化を分析する.対象地域は,2010年時点の229の大・小都市雇用圏の中心都市であり,複数の中心都市からなる都市雇用圏は1つの中心都市として合算して扱う.なお,都市雇用圏の大小は,中心都市のDID人口で分けられており,1万人以上5万人未満が小都市雇用圏,5万人以上が大都市雇用圏である.II 利用交通手段別通勤・通学者比率に基づく類型化 まず,利用交通手段別の通勤・通学者比率をもとに,都市雇用圏の中心都市を類型化する.2時点間の変化を検討するために,1990年と2010年の2時点のデータを同時に類型化する.類型化に用いる指標は,「徒歩だけ」,「鉄道」,「乗合バス」,「自家用車」,「自転車」によるそれぞれの通勤・通学者比率である.このうち「鉄道」に関しては,1990年と2010年で集計方法が異なるため,1種類または2種類の交通手段を利用するもののうち,JR又はその他の電車・鉄道を用いるものを集計し,2時点で求める.類型化には,Ward法のクラスター分析を用い,各指標値を標準化したうえで類型化する. 類型化の結果,5類型が得られた(表1).公共交通機関の利用が卓越するのは公共交通機関型のみであり,その他の類型では,自家用車の利用が半数以上を占めている.III 都市雇用圏中心都市における利用交通手段の変化 所属類型の変化を示した表2によれば,1990年時点では半数以上が自家用車半数/自転車型(144都市:静岡,新潟,浜松など)に属し,公共交通機関型は11都市(東京,大阪,名古屋・小牧など)に過ぎない.2010年では,自家用車の利用が自家用車半数/自転車型よりも多い,自家用車卓越/自転車型(60都市:前橋・高崎・伊勢崎,浜松,宇都宮など)や自家用車卓越型(106都市:富山・高岡,豊田,福井など)の増加が顕著である.自家用車半数/自転車型と自家用車半数/徒歩型,自家用車卓越/自転車型から,それぞれ自家用車利用の比率が高い類型に変化してきており,自家用車利用のさらなる高まりが確認できる. 一方,1990年で公共交通機関型であった11都市のうち,9都市は2010年でも公共交通機関型であった.残り2都市(北九州,日立)は,自家用車半数/自転車型に変化した.いずれも,期間内に市内を走る鉄道の廃止が行われており,それによる鉄道利用の減少が類型の変化につながったものと考えられる.参考文献金本良嗣・徳岡一幸 2002. 日本の都市圏設定基準. 応用地域学研究7: 1-15.Nojiri, W. 1992. Choice of Transportation Means for Commuting and Motorization in the Cites of Japan in 1980. Geographical Review of Japan 65B(2): 129-144.