著者
小林 大介 宮田 裕光
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PM-022, 2021 (Released:2022-03-30)

アーユルヴェーダはインド発祥の補完代替医療であり,体質ごとに異なる心理的特徴を呈することが伝統的に示されている。体質(プラクリティ)や体調(ヴィクリティ)の判断には,ヴァータ・ピッタ・カパの3 要素が用いられ,それらはトリドーシャ理論と総称されている。本研究では,トリドーシャ理論と,性格特性(Big Five尺度),気分状態(POMS-2 成人用短縮版),およびマインドフルネス(5因子マインドフルネス質問紙)との関連を,オンライン質問調査により検討した。大学生23名が,上記の心理学上の質問紙に加え,プラクリティとヴィクリティを判定する問診票に回答した。その結果,プラクリティにおいては,ピッタのみ情緒不安定性およびネガティブな気分状態と有意な正の相関を示し,調和性と有意な負の相関を示した。ヴィクリティにおいては,ヴァータがより多くのネガティブな気分状態と有意な正の相関を示し,カパのみマインドフルネスと有意な負の相関を示した。これらの結果は,アーユルヴェーダの体質論が,現代の心理学上の質問紙とも一定程度の関連があることを示唆しており,トリドーシャ理論に関する心理学的研究の実現可能性が示唆された。
著者
林 幹也
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-122, 2021 (Released:2022-03-30)

一般的に言って,組織には,判断力に優れた人,洞察力に富んだ人が存在すると考えられており,重大な問題が発生したときには彼らの助言や判断が尊重される。このような判断力は学歴や学識とはあまり関係がないように思われる。本研究は,日常的に単独行動を忌避しない人々が判断力に優れた人々であるとの仮説を提示した。集団で行動する場合,人は他の人々の総意や権威者の意向に従うことが多いが,単独で行動する場合には,様々な判断をすべて個人的に行わねばならないからである。本研究のオンライン調査(N=416)では,社会問題や,日常生活における様々な状況における判断の的確さを問う質問項目を作成した。また,日常生活の様々な行動を単独で行う場合に,どの程度の躊躇を感じると予想するかを測定した。その結果,一般的に単独で行うことの多い行動(銀行口座を開設する等)に対して,単独行動を躊躇する傾向が強ければ強いほど,社会的判断の的確さが低くなるという相関関係が見いだされた。因果関係は明らかにはならなかったが,以上の結果をもとに,単独行動を志向することによって判断力を涵養することが可能かを議論した。
著者
伏島 あゆみ 内山 伊知郎 原井 宏明 大矢 幸弘 漆原 宏次 坂上 貴之 村井 佳比子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.SS-001, 2021 (Released:2022-03-30)

古典的条件づけの発見が学習理論と行動療法に与えた影響の大きさは繰り返すまでもない。一方,古典に過ぎず,その影響は認知心理学などの新たな発見に置き換えられたと思っている人がいるかもしれない。そうではない。不安や強迫,アレルギーのようにありふれた病気の治療においても条件づけの概念は新しい示唆を与えてくれている。このシンポジウムではアレルギー疾患の専門家,不安や強迫の専門家,学習理論の専門家を招き,行動科学学会のミッションである基礎と臨床をつなぐことを目指す。アレルギーの予防や克服にはアレルゲンを回避するのではなく,早くからエクスポージャー(食べること)を通じて免疫寛容を誘導した方が良い(潜在制止)や,強迫に対するエクスポージャーと儀式妨害(ERP)において一般的な不安階層表に従った段階的な刺激ではなく,期待違反効果を狙った予想外の刺激を使う方が効果が高いことなどを示す。パブロフが残した影響は条件づけだけではない。ドグマに毒されず,事実だけを重視することを若手に説き続け,科学者をスターリンから守ろうとした。科学することはどういうことなのか? もこのシンポジウムの中で取り上げれれば幸いである。
著者
宮崎 聖人
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PA-012, 2021 (Released:2022-03-30)

強化学習モデルとは,ヒトの行動選択の過程を数理的に表現するモデルであり,代表的なものにQ学習モデルがある。強化学習モデルを考える利点の一つは,主体が採用している学習メカニズムの情報を得られることである。しかし,これまで強化学習モデルは人間の手で作られてきたため,実際のメカニズムを反映したモデルを見落としている可能性がある。そこで本研究では,遺伝的プログラミングを用いて強化学習モデルを探索するAIを開発し,研究者のモデル構築をサポートすることを目指す。ところで,AIが強化学習モデルを探索できると一口に言っても,それがどのような条件下で可能かによって,実用性は大きく異なる。本研究では,AIの開発可能性を高めるために,「パラメータが特定の値をとり,選択されなかった行動の価値は更新されない」という特殊な条件下でのモデル探索を目指す。具体的には,Q学習モデルから人工的にデータを生成し,そのデータからAIが正しくQ学習モデルを探索できるか否かを検討する。開発したAIでモデル探索を行った結果,AIは正しくQ学習モデルを探索できた。今後は,より一般的なモデルを探索できるようAIを改良する予定である。
著者
瀧川 諒子 福川 康之
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PO-090, 2021 (Released:2022-03-30)

Trivers-Willard仮説によると,状態のよいときに息子を,状態の悪い時に娘を多く産む母親は,より多く自身の遺伝子を残すことができる。本研究は出産年齢により胎児への栄養供給に性差が見られるかを検討することで,Trivers-Willard仮説を検証することを目的とする。NFHS(National Family Health Survey:インドの世帯を対象とした健康に関する大規模横断調査)より抽出した双子ペア6444名(男性3378名,女性3066名)を対象に,出生体重を従属変数とし,母親が出産適齢期(18歳以上35歳未満)であるか否か,同性双子か異性双子か,児の性別を独立変数とした階層的重回帰分析を行った。母親の出産歴は統制した。その結果,母親が非出産適齢期であるとき,女児ではペアが異性の場合にペアが同性の場合と比べて出生体重が重かった。これは,女児への投資が優先されているとき,同性双子の女児では二人ともが同じだけ栄養を受け取ることになるが,異性双子の女児ではペアの男児よりも優先されて余分に栄養を受け取ることになった結果であることが考えられる。
著者
高野 了太 澤田 和輝 野村 理朗
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-054, 2021 (Released:2022-03-30)

畏敬は,現在の認知的な枠組みが更新するような広大な刺激に対する感情反応である。従来,雄大な自然等の刺激から生じる畏敬が自己主体感を低下させ,目の前の超越的な出来事を説明するための新たな意味体系(神等)を見出すよう動機づけること等が指摘されている。これらの知見は,畏敬が「人は行いにふさわしい成果をこの世界で与えられる」という公正世界信念(Belief in a just world,以下BJWとする)と関わる可能性を示唆する。BJWは対象を自己としたBJW-自己と,他者としたBJW-他者の2種からなり,例えば,BJW-自己は,自分の運命をコントロールする点から自己主体感と正に関わる一方,BJW-他者は,世界に意味体系をもたらす点から宗教的信仰心と正に関わることが示されている。ゆえに本研究では,日常的に畏敬を経験する傾向(気質畏敬)とBJW-自己・他者の関連を検討した。結果,他のポジティブ感情の効果を統制した際,気質畏敬は,BJW-自己を負に,BJW-他者を正に特異的に予測した。これらの結果は,畏敬が,自他の対象によって異なる形で,世界を理解するための枠組みとしての信念と関わることを示唆する。
著者
石井 辰典 中分 遥 柳澤 田実 五十里 翔吾 藤井 修平 山中 由里子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.SS-017, 2021 (Released:2022-03-30)

宗教は,人類史において私たちと切り離せないものであったと言える。宗教に関する学問は様々あるが,近年西洋圏で急速に発展してきたのが宗教認知科学,すなわち認知科学・進化科学の観点から,なぜ宗教が人間社会に普遍的に見られるのか,また世代を超えて受け継がれるのかを解明しようとする学際的分野である。ただその理論・仮説の文化普遍性は必ずしも検証が十分とは言えない。主に一神教世界の研究者たちが構築してきた理論を,非一神教世界の理解のために無批判に適用してよいのだろうか? そこには一神教的な自然観を前提とした文化的バイアスがかかっていないだろうか? これを問うために本シンポジウムでは,まず日本で宗教認知科学研究を進めてきた研究者に自身の研究を紹介してもらい知見を蓄積する。そして指定討論者には「超常認識」や「想像界の生きもの」の比較文化プロジェクトに携わり「人はなぜモンスターを想像するのか」について多くの論考をお持ちの山中由里子(専門:比較文学比較文化)を迎え,コメントをいただく。この異分野間の対話を通じて,宗教認知科学で問われる宗教的概念・信念の文化的相違点について議論を深めたい。
著者
高橋 綾子 北村 英哉 桐生 正幸
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-047, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究では,現代の人々において,日本の「伝統的価値観」と「認識」されているものの考え方,感じ方を整理し,それが文化的自己観といかに関係するかを検討する。伝統的価値観は予備調査において取り出すことのできた考えのうち,すでに別領域での研究の多い伝統的性役割観については除いた上で,自分自身の行動指針,行動規範となり得るものに焦点をあてることとした。また,おみくじをひく等の具体的な日常的宗教行為と伝統的価値観がいかに関わるかについても探索する。オンライン調査によって648名(女性430名,男性218名,M=33.94)から得た有効回答を用い,研究1では伝統的価値観尺度,日常的宗教行為尺度を構成し,それぞれ7因子,4因子構造であることと,信頼性・妥当性を確認した。さらに,研究2では文化的自己観との関連を探り,「祟りとばち(a kind of vitalism)」の伝統的価値観が空気信仰を高めることを通して文化的自己観に影響することが確認された。以上の結果から,現代日本においても伝統的価値観が社会的相互作用に対して重要な役割を果たしていることが示された。
著者
谷内 通 部家 司 西川 未来汰
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PJ-001, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究はイシガメとクサガメの鏡に対する反応を検討した。実験1では,長方形の実験箱内の1つの壁に並んで設置した鏡と灰色の板に対して,カメが頭を向けたあるいは触れた時間を測定した。鏡と灰色板の左右位置は試行毎に交替した。8匹のカメは,灰色の板よりも鏡に対して有意に長く反応した。実験2では,灰色の実験箱の1面のみ透明な壁を設置し,透明な壁の先に同種他個体のカメが置かれた条件,透明な壁の先に何も置かれない条件,または透明な壁の前に灰色の板を設置する条件のいずれかと隣接する鏡に対する反応を比較した。カメは灰色の壁よりも鏡に対して有意に長く反応したことから実験1の結果が再現された。しかしながら,他個体の有無にかかわらず透明な壁と鏡に対する反応に有意な違いは認められなかった。本研究の結果は,カメが鏡に反応することを示した初めての知見である。しかし,本研究の結果からは,カメが鏡に反応したのは鏡の中に自己や同種他個体等を認識したからではなく,鏡の中に奥行きを認識し,おそらく実験箱から脱出することを目的として,鏡の向こう側へ行こうとしたからであることが示唆された。
著者
金築 優
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PA-010, 2021 (Released:2022-03-30)

知覚制御理論(perceptual control theory:PCT;Powers, 1973)と自由エネルギー原理(free energy principle:FEP;Friston, 2010)は共に,計算論的に行動の機能を説明する理論である。PCTとFEPは,ある程度の共通点もあるが,異なる点も多々あり,この2つの理論を比較することによって,両理論における新たな研究課題を見出すことが期待される。PCTは,脳は制御する対象を特定化する役割を果たしていると考えるが,FEPは,脳はサプライズを最小化させる役割を担っていると考えている。PCTにおける制御の特徴は,行動によって知覚を制御すると捉える点である。一方,FEPにおいて,予測(prediction)が重要な役割を果たしており,予測誤差の最小化が重視される。PCTは,予測なしに,制御が可能であることを主張する。FEPは,知覚と運動によって,予測誤差を最小化させていると主張する。予測の定義をどのように捉えるかによって,両理論がオーバーラップする部分は異なってくると考えられる。
著者
石原 俊一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PR-001, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究は,心身の健康にポジティブな影響があるアニマル・セラピーについて,実際に動物とのふれあう条件を設定し,自律神経系反応へのリラクセーション効果を実験的に検討した。犬愛着尺度が高得点の文教大学生28名を対象とし,犬とのふれあう犬条件14名と犬介在がない統制条件14名にランダムに割り当てた。生理指標として心拍数,低周波成分(LF成分),高周波成分(LF成分),パワー比であるLF/HF成分,収縮期血圧,拡張期血圧,心理指標として日本語版PANASをそれぞれ測定した。犬条件では,犬とのふれあいによって,LF成分およびLF/HF成分,が実験期で有意に上昇を示し,その後の回復期で有意な低下を示した。また,PANASのポジティブ感情尺度では実験期に上昇した。すなわち,生理指標では,実験期に交感神経が活性化し,そこから回復期にかけて低下することでリラクセーション効果が生じ,心理指標では,犬介在がポジティブ感情を有意にすることが認められた。犬条件において,犬介在によるリラクセーション効果・ポジティブ効果が認められた。
著者
松本 みゆき 金井 篤子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PQ-010, 2021 (Released:2022-03-30)

異文化適応は,海外で生活する人びとが現地生活にどれくらい馴染んでいるかを示す概念であり,彼らの精神的健康や行動のパフォーマンスを促進することが示されている。海外派遣者の女性配偶者は,その多くが海外帯同のため仕事を辞めたり,帰国後も就職をためらったりするなど,キャリア意識の構築が難しい。一方,異文化適応がキャリア意識に影響を及ぼす可能性が指摘されている。しかし,彼女らの異文化適応が帰国後のキャリア意識に影響を及ぼし,キャリア意識がどのように変化するかについて着目した研究はこれまでにない。本研究はこれらについて明らかにするため,帰国した海外派遣者の女性配偶者に対してインタビュー調査を実施した。分析の結果,直近の帯同で滞在していた国における異文化適応が高い人は低い人に比べて,ポジティブなキャリア意識を持っていることが明らかになった。また帯同前と比べて,キャリア意識が変化したと考えていることが示された。異文化適応は帰国後のキャリア意識に影響を及ぼすことが明らかになった。
著者
高橋 知也 村山 陽 山﨑 幸子 長谷部 雅美 山口 淳 小林 江里香
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-160, 2021 (Released:2022-03-30)

社会的孤立には健康リスクがあることが示されており,特に中高齢者では孤立死のリスクにもなり得るが,「周囲からの孤立」の認識に着目した研究は乏しい。そこで,単身中高齢者において主観的な孤立を感じやすい者の特徴を検討した。方法:東京都A区の台帳上の単身者50-70代から無作為抽出した4000名に郵送調査を実施し(有効票1829),実際は同居人がいる者や分析項目に欠損のある者を除く1290名を分析対象とした。分析項目は周囲からの主観的な孤立感尺度(1因子4項目,4-16点,点数が高いほど孤立を感じやすい)(高橋ら,2020),基本属性(性別・年代・暮らし向き等5項目),主観的健康感,精神的健康度,客観的な社会的孤立(別居親族や友人との接触頻度),外出頻度,参加グループの有無,相談相手の有無とし,主観的な孤立感を従属変数,その他を独立変数とする重回帰分析を行った。結果:暮らし向き,主観的健康感,精神的健康度が良好でない単身中高齢者は周囲からの主観的な孤立感を深めやすいことが示唆された。他方,客観指標に基づく社会的孤立や参加グループおよび相談相手の有無等との間に有意な関連はみられなかった。
著者
橋本 唯
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-096, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究の目的は,とらわれ型の愛着スタイルは日本の文化的環境に適応的であるかどうか検討することであった。日本の大学生256名(男性89名,女性167名,平均年齢19.4歳,SD=1.33)を対象にして,4分類の愛着スタイル,アサーション,過剰適応,抑うつについて質問紙による回答を求めた。その結果,安定型78名(30.6 %),拒絶型22名(8.6 %),とらわれ型111名(43.5 %),恐れ型44名(17.3 %)でとらわれ型が最も多く,安定型が最も多い欧米の割合とは異なっていた。分散分析の結果,理論的にネガティブな愛着スタイルと考えられてきた,とらわれ型と恐れ型の愛着スタイルは,アサーションのポジティブな側面である他者配慮は,安定型と拒絶型と比較して有意に高かった。しかし,過剰適応および抑うつは安定型,拒絶型と比較して有意に高い結果になった。つまり,とらわれ型の愛着スタイルは,日本の文化的環境に求められる対人関係スタイルに最も近い型であるが,内的不適応に陥りやすい結論に至った。最終的にとらわれ型の愛着スタイルが日本に多い理由について考察された。
著者
栗原 実紗 大平 英樹 みーた ぷらんじゃる
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PN-006, 2021 (Released:2022-03-30)

私たちは,常に感情制御ができるわけではなく,感情的になって仕返しをしてしまうことも度々ある。現在まで,感情の制御の失敗の原因として,神経内分泌的なプロセスについてはまだ明らかにされていなかった。近年,メラトニンという睡眠ホルモンは,感情制御に影響しているのではないかと示唆されていることから,今回,メラトニンという睡眠ホルモンが,どのように意思決定場面における感情制御に影響しているのかについて検討した。この研究は,プラセボ対照二重盲検法で行い,2セッションに渡って実験参加者はメラトニンかプラセボを投与された。結果は,メラトニン投与後に不公平な配分に対する拒否の選択が増加した。メラトニン投与後の眠気の上昇や感情反応の変化は,自己報告上は見られなかった。しかし,メラトニンの眠気が強まった場合に拒否の傾向が高まったことが分かった。おそらく,メラトニンはDLPFCやVLPFCに影響をし,制御能力の低下が生じたのではないかと考えられる。今後の研究では,メラトニンによって感情反応が上昇しているのか,身体指標やfMRIなどを用いて検討することが望まれる。
著者
勝谷 紀子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-086, 2021 (Released:2022-03-30)

落語の口演,稽古,鑑賞の体験が演者にもたらす影響を調査し,社会人落語家における対人ストレスユーモア対処およびユーモアスタイルの程度を調べ,落語経験との関連も調べた。24名の社会人落語家(男性16名,女性6名,その他の回答2名,平均年齢59歳)が調査に回答した。調査では落語経験(落語口演歴,持ちネタの数,1年のうち高座に上がる平均的な回数,落語鑑賞歴など),落語を演じる影響,落語の稽古を重ねる影響,落語鑑賞の影響(いずれも自由記述),対人ストレスユーモア対処尺度(桾本・山崎,2010),日本語版ユーモアスタイル質問紙(吉田,2012)へ回答を求めた。落語を演じる影響は,人前で話す行為への影響が最も多く,ついで対人関係への影響だった。落語の稽古の影響は,「自分の特徴,性格,資質への気付き」が最も多かった。落語鑑賞の影響は,「興味・理解の深まり」が最も多かった。高座に上がる回数が多い人ほど,鑑賞歴が長い人ほど対人ストレスユーモア対処尺度得点が低い傾向があった。ユーモアスタイルに関しては,落語口演歴が長い人ほど,自虐的なユーモアの程度が低く,自己高揚的なユーモアも低い傾向がみられた。
著者
前澤 知輝 河原 純一郎
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PI-010, 2021 (Released:2022-03-30)

ブランド名など,その製品を象徴する情報は,消費者の印象を変化させ,購買行動に影響を与える。例えば,製品ラベルの時間方向(例:新製品)が,製品写真が示す時間方向(未来方向を示す右向き)と一致する場合に,消費者は製品を高く評価する。この時間的一致の効果は,製品広告に限定的ではなく,飲食店広告に対しても一般化できるかもしれない。そこで本研究では,過去情報の表示が,飲食店への消費者態度を向上させるかを検討した。5つの実験で,参加者は創業年が記載された飲食店広告を観察し,その後に品質期待,味への期待,訪問意欲の主観的態度を7件法で測定した。その結果,創業年表示が古い広告(寛政,大正)は,ラベルがない広告や創業年が新しい(令和)広告に比べて,特に品質に対する評価が向上した。また,創業年を縦書き表記で呈示した広告は,横書きで表示する場合よりも品質に対する評価が向上した。したがって,創業年表示の効果は,ラベルの単一呈示だけでなく,過去へ時間的焦点の存在や,縦書き表示による伝統的側面の補強によって消費者態度を高める。品質の良い製品は生存するという,適者生存バイアスが関係していることが考えられる。
著者
川杉 桂太 岩滿 優美 轟 慶子 小平 明子 延藤 麻子 塚本 康之 西澤 さくら 轟 純一 竹村 和久
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PD-053, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究では,統合失調症患者と健常者の,図形分割課題時の眼球運動を測定し,その特徴を比較することを目的とした。対象者は,統合失調症患者13名および健常者37名であった。調査には,Iwamitsu et al.(2009)で用いられた図形分割課題を,ディスプレイとタッチペンを用いる形式に変更し用いた。課題は14試行(2分割方向×7図形)からなり,課題中の眼球運動を,アイカメラにより測定した。眼球運動データから,注視回数など六つの指標を算出し,また図形を対称に分割したか否かを指標として,二つの分析を実施した。まず,図形を対称に分割した頻度について χ2検定を実施した。その結果,図形を垂直に分割するとき,健常者の方が統合失調症患者より有意に高い割合で対称に分割したことが示された(χ2(1)=4.06, p<.05)。次に,眼球運動の指標について3要因(2群×2分割方向×7図形)の分散分析を実施した。その結果,統合失調症患者の方が有意に注視時間が長い傾向が認められた(F(1,48)=2.90, p<.10)。これらの結果は,統合失調症患者の注視傾向や,課題の形式等を反映したものと考えられた。
著者
濱田 綾
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PO-091, 2021 (Released:2022-03-30)

人は加齢と共に,あるいは限界が感じられる環境や条件下(転居や卒業など)で,残された時間が有限であるという知覚が強まるとされている。本研究は中年期のライフイベントである定年退職を取り上げ,未来の時間的展望と個人の役割及び就労状況との関連についての検討を行った。定年退職予定者及び経験者である55歳~72歳の男性434名を対象とし,Web調査を実施した。調査内容として就労状況,定年退職経験の有無,未来展望尺度:日本語版(池内・長田,2014),中西・三川(1987)などを参考に作成した[仕事][家族や家庭][個人活動]役割に関する項目への回答を求めた。未来展望尺度得点について,定年退職予定者と経験者の比較では有意な差は認められなかった。また,各役割を平均値で高群と低群に分け,就労状況との2要因分散分析を行ったところ,各役割群と就労状況の主効果が有意であったが,交互作用は認められなかった。役割高群が低群より,また就労している方が無職より高い得点を示した。結果より,一時点の定年退職経験ではなく,個人の役割と就労状況が中年期~老年期の未来の時間的展望に影響すると考えられる。
著者
高橋 萌黄
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-169, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究の目的は,第1に,SNS上で当事者が「メンヘラ」を語ることでどのように「メンヘラ」としてアイデンティティを確立しているのかを明らかにすることである。第2に,「メンヘラ」アイデンティティの在り方を明らかにすることである。第3に,多元的アイデンティティの新モデルを提案することである。動画中心のSNS上で「メンヘラカップル」がカップル間のルールを「掟」として示す動画を対象とし,会話分析を行った。「メンヘラカップル」が「掟」を紹介する過程で,「きついことを言ったら緩める」というパターンが繰り返されていることが示された。そのパターンはいくつかの手法に分類される。1つは,強圧的な言葉で「掟」を強調し,その後すぐに「周囲の理解」という視点から自分たちの行為の認められやすさを主張する手法であった。このように,当事者はSNS上で「メンヘラ」を語るとき,「変わっているけど変わりすぎないライン」を模索していた。「メンヘラ」と「普通の人」としての自己を同時に示すことで,社会からの受容を達成し,「メンヘラ」としてアイデンティティを確立していた。そこから多元的アイデンティティの新モデルの提案を目指した。