著者
菅野 道廣
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.313-321, 2006-12-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
38
被引用文献数
2 1

大豆油は, 大豆食品中ではもっともアレルゲン性が高い食品にリストアップされている。しかし, 食用大豆油の総タンパク質含量は理論的にも, 状況証拠的にもアレルギー反応を引き起こす閾値よりずっと低い。この不一致の背景について考察した。その結果, 原因として考えられる, (1)反応を引き起こす量のアレルゲンが残存している, (2) 反応を促進する量の脂質過酸化物が混在する, (3) 多く含まれるリノール酸が関与する, のいずれの点からも, 大豆油をもっとも危険な大豆食品にランク付ける科学的根拠は見出されなかった。おそらく, 食用油脂精製技術が未熟な時代の情報が, 無条件に引用されてきたためであろうと推測された。大豆油に反応する敏感な大豆アレルギー患者は皆無ではないが, そのような特例を除けば, 少なくとも大豆油は危険きわまりない食品ではなく, タンパク質含量にかなりの違いがあり使用範囲も広い大豆レシチン標品に注意する必要があるように思われる。
著者
石田 眞弓 手塚 宏幸 長谷川 智美 曹 利麗 今田 敏文 木村 英一郎 松本 英希 河野 るみ子 新井 平伊
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.305-311, 2011 (Released:2011-12-30)
参考文献数
21
被引用文献数
9 5

食塩の過剰摂取は血圧上昇の一因であり, 脳卒中や心臓疾患の原因と考えられている。近年, これら疾病の予防や病態の改善を目的とする減塩食の必要性が高まっているが, 料理中の食塩を減らすと味がもの足りなくなり, 病院給食では入院患者の摂食量低下による栄養摂取量の不足が問題となる。我々は, ナトリウム (Na) を含まないうま味物質であるグルタミン酸マグネシウム (MDG) を用い, おいしさを維持した減塩料理の提供を試みた。通常の病院給食として供食している通常料理, Na量を減らした減塩料理とMDGを用いたうま味添加減塩料理の3通りの料理についての官能特性を比較した。その結果, 減塩料理は通常料理に比べて全ての項目で低値を示し, うま味添加減塩料理では顕著に改善した。この結果から, 通常料理を減塩する際にうま味を呈するMDGを用いても料理のおいしさを損なうことなく, Na摂取量を減らす有効な方法であると考えられる。
著者
三宅 義明 山本 兼史 長崎 大 中井 直也 村上 太郎 下村 吉治
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.29-33, 2001-02-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3 2

持久運動後のレモン果汁とグルコースの混合液摂取がヒトの血液成分濃度に及ぼす影響を検討した。成人男性 (25-30歳) の被検者で, 自転車エルゴメータによる1時間の運動負荷後に, 500mLの (1) レモン果汁 (クエン酸として0.4g/kg体重) とグルコース (1.5g/kg体重) の混合液, (2) クエン酸 (0.4g/kg体重) とグルコースの混合液, もしくは (3) コントロールとしてグルコース溶液を摂取させ, 運動終了1時間後までの血液成分の変動を測定した。レモン果汁もしくはクエン酸摂取により, 血中のクエン酸濃度は有意に上昇した。運動により上昇した血中乳酸濃度は, レモン果汁もしくはクエン酸被験液摂取により運動終了後の回復期で減少が促進された。これらの結果より, 運動後のレモン果汁もしくはクエン酸摂取は, 血中乳酸の除去を促進することが明らかとなった。
著者
岡崎 由佳子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.9-14, 2021 (Released:2021-02-27)
参考文献数
22

本研究では, 大腸内の細菌叢, 発酵産物, ムチン, 免疫グロブリンA (IgA) およびアルカリホスファターゼ (ALP) 等の因子を調節する食品因子について検討を行った。著者らは, 北海道産食品のユリネの研究をもとに, ユリネに含まれるグルコマンナン等の水溶性食物繊維や難消化性オリゴ糖が共通して, 大腸特異的にラットALP活性を増加させ, この作用に腸型ALP遺伝子 (IAP-I) の発現誘導が関与することを見出した。また, 難消化性糖質摂取による大腸ALP増加と栄養条件との関連性について検討を加え, オリゴ糖摂取による大腸ALP活性と遺伝子発現上昇作用は, 摂取する脂質の種類により異なることを見出した。さらに, 難消化性糖質摂取による大腸ALP活性上昇は, これまでその増加作用が報告されていた糞中ムチン含量, Bifidobacterium spp.の割合および酪酸含量といった, 腸内環境の機能維持に関わる因子と正の相関関係にあることを明らかにし, 大腸ALP活性増加の大腸内環境機能維持への関与について考察した。
著者
武本 智嗣 舟場 正幸 松井 徹
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.157-163, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
32

現代的な食生活は脂肪とスクロースの過剰摂取を特徴としており, 低いマグネシウム (Mg) 摂取量もしばしば認められている。本試験では, 脂肪およびスクロースの過剰摂取がMgの生体利用性に及ぼす影響を検討した。5週齢のWistar系雄ラットに, 対照飼料, 脂肪とスクロース過剰 (HFS) 飼料, Mg欠乏 (MD) 飼料, 脂肪とスクロース過剰およびMg欠乏 (HFS + MD) 飼料を4週間給与した。Mg欠乏飼料を給与したMD区およびHFS + MD区で典型的なMg欠乏症である皮膚の炎症が認められ, HFS + MD区ではMD区より早期に皮膚の炎症が生じた。MD区およびHFS + MD区で骨中Mg濃度が低下し, 骨中Mg濃度はMD区よりHFS + MD区で低かった。一方, Mgが充足している場合, 脂肪とスクロース過剰摂取は骨中Mg濃度に影響を及ぼさず, 皮膚の炎症も引き起こさなかった。以上の結果から, 脂肪およびスクロースの過剰摂取は, Mg充足時にはその栄養状態に影響しないが, Mg欠乏飼料給与時にはMg欠乏を増悪することが明らかになった。
著者
氏家 聡 下地 由美 西川 泰 谷口 摩里子 南田 久美子 伊藤 利恵 川端 大樹 上中居 和男
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.371-374, 2003-12-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4

鉄はわれわれの生体内に不可欠な元素の一つであるが, 近年, 鉄欠乏性貧血が問題となっている。そこで, 生体内への鉄分補給に関して, 腸管から血中への鉄分吸収 (血清鉄濃度) を指標に, 食酢摂取による鉄吸収効果を擬似鉄欠乏状態のラットを作製して検討した。鉄と米酢を与えた群の血清鉄濃度は, 鉄のみを与えたコントロール群に比べ, 有意に上昇した。また, 黒酢, プルーン酢, リンゴ酢を用いた場合の血清鉄濃度の変化を調べたところ, これらの食酢は米酢と同様の効果が認められた。食酢の主成分である酢酸を用いた場合にも, 同様の吸収促進効果がみられた。これらのことから, 食酢は鉄吸収を促進し, その作用には酢酸が寄与していることが示唆された。
著者
嶋津 孝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.307-316, 2003-10-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
40

現代日本は空前の飽食時代を迎えており, 遺伝的体質と相まって, 容易に肥満をはじめとする生活習慣病に罹る脅威にさらされている。これを予防するには, からだのエネルギー消費の大半を占める基礎代謝量を増大させて, エネルギー摂取と消費のバランスを図ることが必要である。本総説では, ヒトならびに高等動物のエネルギー代謝を制御している体内メカニズムを, (1) エネルギー消費を支配している交感神経系の重要性ならびにその活用, (2) 産熱器官でのエネルギー消費を司るミトコンドリアの脱共役タンパク質 (UCP) ファミリーの働きと生理的役割, (3) エネルギー消費の主たる実働器官としての骨格筋におけるグルコースならびに脂肪酸の代謝に及ぼすレプチン (肥満遣伝子産物) の中枢作用と, その新しいシグナル伝達系, そして最後に (4) 食生活上での実用的側面として, エネルギー消費を活性化する香味食品成分の探索と効果について, 筆者らの実験成績を交じえながら論述した。
著者
石田 眞弓 手塚 宏幸 長谷川 智美 曹 利麗 今田 敏文 木村 英一郎 松本 英希 河野 るみ子 新井 平伊
出版者
日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.305-311, 2011
被引用文献数
5

食塩の過剰摂取は血圧上昇の一因であり, 脳卒中や心臓疾患の原因と考えられている。近年, これら疾病の予防や病態の改善を目的とする減塩食の必要性が高まっているが, 料理中の食塩を減らすと味がもの足りなくなり, 病院給食では入院患者の摂食量低下による栄養摂取量の不足が問題となる。我々は, ナトリウム (Na) を含まないうま味物質であるグルタミン酸マグネシウム (MDG) を用い, おいしさを維持した減塩料理の提供を試みた。通常の病院給食として供食している通常料理, Na量を減らした減塩料理とMDGを用いたうま味添加減塩料理の3通りの料理についての官能特性を比較した。その結果, 減塩料理は通常料理に比べて全ての項目で低値を示し, うま味添加減塩料理では顕著に改善した。この結果から, 通常料理を減塩する際にうま味を呈するMDGを用いても料理のおいしさを損なうことなく, Na摂取量を減らす有効な方法であると考えられる。
著者
叶内 宏明
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.13-17, 2015 (Released:2015-02-20)
参考文献数
24

ビタミンB6 (B6) の抗腫瘍作用が報告されており, その作用機序を検討した。乳癌細胞株MCF-7を用いてB6がp53タンパク質を介して細胞増殖を抑制することを明らかにした。また, B6の中でピリドキサール (PL) が最も強い作用を持つこと, PLは他のB6に比べて細胞膜親和性が高いことを見いだした。B6を必要とする代謝の1つにホモシステイン (Hcy) 代謝がある。疫学調査の結果から, 高Hcy血症と認知症の関連が示唆されている。神経芽細胞腫SH-SY5Yと星状膠細胞U-251MGを用い, Hcyの神経細胞傷害にU-251MGから放出される未知な細胞死誘導因子が関係することを見いだした。鹿児島県あまみ地域住民における血漿Hcy濃度と食品摂取状況の横断的疫学研究から, 血漿Hcyを下げる因子として男性および閉経後の女性では豆類の高頻度摂取, さらに女性では卵の高頻度摂取が関係することを見いだした。
著者
内藤 博
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.433-439, 1986-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
45
被引用文献数
11 6

栄養素の過剰摂取が常に問題となっている現在, ミネラル, とくにCaと鉄の欠乏性が逆に顕在化している。この対策として, 食品に強化する方法は, かえって他のミネラルの利用性を妨げる心配がある。このようなことから, ミネラルの摂取量をふやさないで有効性を高めることが有利であると考えられる。CPPはその意味で一つの新しいアプローチの材料になるものであろう。すなわち食品タンパク質の難消化性ペプチドを探索して, ミネラルの吸収に有効なもの, または妨害する種類とそれらの性質を明らかにし, 食品の加工時, これらの効果を調節する可能性を示したもので, 食品栄養学上意義があるものと考えている。
著者
山田 貴子 新谷 知也 飯田 哲郎 岸本 由香 大隈 一裕
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.271-278, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
39
被引用文献数
1 8

ブドウ糖果糖液糖のアルカリ異性化である希少糖含有シロップ摂取による血糖応答に及ぼす影響をヒト試験で評価した。グリセミック・インデックス (GI) 試験を行った結果, 希少糖含有シロップのGI値は49であった。次に, 空腹時血糖値126 mg/dL未満の成人50名を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバーによる低用量単回試験を行った。ショ糖6 gまたは希少糖含有シロップ8.8 g (同量のブドウ糖含有量) をコーヒーに溶解し摂取させ, 120分までの血糖値およびインスリン値を観察した。希少糖含有シロップはショ糖に比べて血糖AUC (曲線下面積) およびインスリンAUCが有意に低下し, 低下率は血糖1.8% (p<0.01) , インスリン6.1% (p<0.05) であった。以上の結果, 希少糖含有シロップはショ糖に比べ血糖応答およびインスリン値の上昇が低い低GI甘味料であることが示された。低用量単回試験は倫理委員会の承認後, 臨床試験登録システムUMIN-CTRに登録し実施した (UMIN000018120) 。
著者
大力 一雄 梁原 智晶 河津 祐子 牧野 聖也 狩野 宏 逸見 隼 浅見 幸夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.61-66, 2020 (Released:2020-04-15)
参考文献数
20

ストレスを感じているタクシードライバー100名をランダムに2群に割り付け, 一方にブルガリア菌 OLL1073R-1 株で発酵したヨーグルトを夏期に1日1本 (112 mL) , 12週間摂取してもらい, ヨーグルト非摂取群と比較した。ストレスの度合いは簡易ストレス度チェックリスト (以下, SCL) のスコアで, SCLの主な項目は個別にVisual Analogue Scaleで, 便性は日本語版便秘評価尺度により評価した。その結果, ブルガリア菌 OLL1073R-1 株で発酵したヨーグルト摂取群 (n=39) は非摂取群 (n=47) と比較して12週間後に 1) SCLのスコアが有意に改善し, 2) 「めまい・ふらつき」と「疲労感」が有意に改善し「頭のスッキリ感」および「睡眠の満足感」が有意に高まり, 3) 「便の排泄状態」と「下痢または水様便」が有意に改善した。以上からストレスを感じているタクシードライバーはブルガリア菌 OLL1073R-1 株で発酵したヨーグルトを摂取することにより夏場の体調が改善する可能性が明らかとなった。
著者
巴 美樹 外山 健二
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.151-157, 2011 (Released:2011-08-09)
参考文献数
22

料理中にグルタミン酸ナトリウムを主とするうま味調味料を添加した場合と無添加時とを比較して, 嗜好性が高まるかどうかの検討を行った。対象は, 健常中高年女性30名および健常青年女子29名である。試験食は, 20品目の料理について, 無添加, および0.25%, 0.5%, 1.0%の中の3種類の濃度から, 2種類の濃度のうま味調味料を添加した計3種類とし, 被験者に最も好ましいと感じたものを選択させた。中高年では, 0.5%添加の7品目, 0.25%添加の1品目の料理で有意に嗜好性が高まり, 青年女性においても同様の結果がみられた。同じ料理の無添加料理は, いずれも有意に好ましいとは選択されなかったことから, 料理によっては, うま味調味料添加による料理の嗜好性向上に効果があることが示唆された。
著者
菊永 茂司 高橋 正侑
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.123-128, 1985 (Released:2009-11-16)
参考文献数
21
被引用文献数
1

野菜中のCaの利用性を知るために, Caの生体への吸収利用に密接に関与するシュウ酸を細管式等速電気泳動法により定量を試みた。また, 市販野菜13種類中のシュウ酸とCa量を測定した。1) IPには島津製のIP-1B, 検出器にPGD-1を使用した。泳動条件は, リーディング液にその各pHにおけるシュウ酸を含む8種有機酸のPU値から0.01N HCl-β-alanine (pH4.0), ターミナル液に0.01N n-capro-ic acid (pH 3.4), 泳動電流150μA (8分) →50μAとした。2) 上記1) の泳動条件でのシュウ酸の定量性については, 20nmol/μl以下でもY=0.988X+0.249の直線性が得られた。 また, この泳動条件でシュウ酸, オキザロ酢酸, α-ケトグルタル酸, クエン酸, コハク酸の分離が可能であった。3) 野菜のシュウ酸抽出液中のIPによるシュウ酸の分離ゾーンは, oxalate decarboxylaseを作用させると消失することから, シュウ酸の単一ゾーンであることを確認した。4) 分析した13種類の野菜中のシュウ酸量は, 100gあたり, ホウレン草, 1,339mg, ショウガ239mg, パセリで177mgなどであった。 またCa含量は, 100gあたり, ヨモギ307mg, クレソン256mg, フキ (葉) 243mg, ホウレン草150mgなどであった。5) ホウレン草の 「ゆで」 時間と沸騰水量は, ホウレン草重量の5~10倍量で2~3分間 「ゆで」 ることによって, 遊離型シュウ酸のほぼ全量を除去でき, また生体に最も吸収されやすいと考えられる遊離型Caの損失も少なかった。
著者
久保田 真敏
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.283-288, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

米は日本において主食であり, エネルギー供給源としてだけでなくタンパク質の供給源としても重要な食品である。それにもかかわらず, 米タンパク質の生理学的機能性に関する研究は非常に限られている。著者らはこの米タンパク質に着目し, 栄養生理学的に基礎となる消化性ならびに機能性に関する研究を行った。その結果, 我々が摂取している精白米のタンパク質の1つであるプロラミンの消化性は炊飯処理で低下することを明らかにし, 逆にアルカリ抽出により精製した米胚乳タンパク質 (AE-REP) 中のプロラミンの消化性が高いことを in vivo レベルで証明した。さらに AE-REP を用いて機能性に関する検討を行ったところ, AE-REP は血漿総コレステロール, 肝臓中総コレステロールおよび中性脂肪の低下作用を有し, 糖尿病モデルラットでは AE-REP の摂取が糖尿病性腎症の進行を遅延させることを明らかにした。
著者
三好 弘子 奥田 豊子 小林 紀崇 奥田 清 小石 秀夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.165-170, 1987 (Released:2010-02-22)
参考文献数
33
被引用文献数
3 2

5人の健康な若年成人男子を被験者として, 白米食と玄米食を比較することにより, 米繊維のミネラルの出納, およびみかけの吸収率に対する影響を検討した。体重当たり1.2gのタンパク質を含んだ玄米食, 白米食をそれぞれ2週間与えたが, 食物繊維としては, 玄米食は白米食の約2倍含んでいた。摂取ミネラル量は, 白米食, 玄米食ともミネラル必要量を充足していたが, 玄米のほうが白米よりミネラル含量が多く, とくにK, P, Mgの摂取量が玄米食で多くなった。糞中排泄量は玄米食で白米食に比べて, K, P, Mgが有意に多くなり, 摂取量を反映していた。また, Na, Caにおいても玄米食で糞重量が約2倍と有意に多かったことを反映して糞中排泄量が多くなる傾向がみられた。しかし, これから計算される吸収量においてはK, P, Mgとも有意差は認められなかった。みかけの吸収率ではK, Pで摂取量が多かったにもかかわらず, それ以上に糞中排泄量が大きく, 玄米食で有意に低下した。その結果, 出納をみると, 各ミネラルとも白米食と玄米食の間に有意差は認められなかった。血漿ミネラル濃度ではNa, K, Cl, P, Ca, Mgのいずれの項目にも白米食と玄米食で有意差はみられなかった。
著者
本間 清一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.85-98, 2005-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
51
被引用文献数
2 4

食品の褐変により生じた色素 (褐色色素) であるメラノイジンの性質と主な前駆物質を食品ごとに明らかにした。褐変の原因として一般性が高いグルコースとアミノ酸から調製したモデルメラノイジンを材料に, 焦点電気泳動パターン, 金属キレート能, レクチン親和性, 酸化・還元, 調製時のpH条件, ラットにおける出納試験を調べた。Streptomyces werraensis TT14, Paecilomyces canadensis NC-1, Coriolus versicolor IFO30340の3種類の菌で褐色色素を含む食品や各種モデル褐色色素と培養したときの脱色率の差異が, 食品メラノイジンの特徴解析に有効であることをみとめた。さらに, 3-デオキシオソン類, 糖その他の成分分析, 金属キレートアフィニティーを併用した。その結果, 魚醤とタマネギのソテーの褐色は糖質系メラノイジンが主体であり, 凍り豆腐の褐変は多価不飽和脂肪酸の酸化で生じたカルボニル化合物がタンパク質と反応して生じるエーテル可溶性の褐色色素であった。コーヒーの褐変はショ糖とアミノ酸・タンパク質とのメイラード反応にクロロゲン酸などのフェノール系酸化重合物を多量に巻き込んだ高分子である。
著者
奥恒 行
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.337-342, 2005-12-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
12
被引用文献数
5 10

消化吸収されず, 血糖値も上昇させない糖質はエネルギー源にならず, 役に立たないものとして扱われていた。しかし, 著者らは難消化吸収性糖質の代謝に腸内細菌が重要な役割を演じていることを明らかにし, 難消化吸収性糖質の生体利用に発酵・吸収の概念を導入する必要のあることを提示した。難消化吸収性糖質が腸内細菌によって発酵を受けると, 短鎖脂肪酸, 炭酸ガス, 水素ガス, メタンガスなどが生成され, 菌体成分にも一部取り込まれる。これらのうち短鎖脂肪酸がエネルギー源として利用され, 約2kcal/gのエネルギーをもっていることを示した。また, 腸内細菌叢を改善して直接的・間接的に健康の保持・増進や疾病の予防などに関わっていることを示した。さらに, 難消化吸収性糖質は一度に大量摂取すると高浸透圧性の下痢を誘発するが, 消化されない糖質の最大無作用量はいずれも体重kgあたり0.3-0.4g程度であることを明らかにした。また, 最大無作用量は馴れや食べ方によって変動することを示した。
著者
若林 茂 里内 美津子 野上 義喜 大隈 一裕 松岡 瑛
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.471-478, 1991-12-19 (Released:2010-02-22)
参考文献数
29
被引用文献数
8 17

馬鈴薯デンプンを加熱分解して調製した難消化性デキストリン (PF: 食物繊維含有量58.2%, およびPF-C: 91.6%) の脂質代謝に及ぼす影響をラットを用いて検討し, 以下の成績を得た。(1) コレステロール無添加飼料で5週間飼育したラットの血清コレステロール (119±7.6mg/dl) およびトリグリセライド値 (218±39.0mg/dl) は, PF-C 10%摂取により, それぞれ有意な低下 (94.2±6.0および145土20.0mg/dl) を示した。(2) 市販固形飼料を給餌したラットに飲料水としてPF (20%水溶液) およびPF-C (5~20%水溶液) を5週間与えたとき, 血清および肝臓コレステロール値は有意に低下し, その程度は摂取したPFおよびPF-C水溶液の食物繊維含有量に依存していた。(3) そのときの糞便中への総胆汁酸排泄量は, PFおよびPF-C摂取群で有意な増加を示し, 同様に, (4) 盲腸内容物中の総短鎖脂肪酸量, とくにプロピオン酸量は有意に高値であった。また, (5) 体重, 血清総タンパク質, カルシウム, GOTおよびGPT活性は, PFおよびPF-C摂取によってなんら影響を受けなかった。さらに, (6) 飲料水交換法により, PF-C摂取の有無によって血清および肝臓コレステロール値は容易に変化することが確認された。