著者
冨田 勝 AW WANPING AW Wanping
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-11-09

In this year, we conducted a screening experiment using different food products (Manuka Honey, Rice Bran and Soy Beans) in the animal models that we have created in last year.Unfortunately, Manuka Homey and Soy Beans supplementation did not improve colitis. As such, we aimed to elucidate the molecular mechanisms of Oryza sativa, rice bran(RB) dietrary intervention on 2.0% dextran sulfate sodium (DSS)-included colitis C57BL/6L mice mode. Body weight loss, disease activity index, colon length and colon histopathology were improved in BR-fed mice. Time-course microbiome and metabolome results suggest that RB-related alterations of gut environment can prevent colitis via establishing gut homeostasis. Our approach is an important tool in developing new therapeutic applications of RB.
著者
山根 実紀
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

おもに公立夜間中学をとりまく教育政策の具体的状況をみることによって、不就学・非識字者の社会的位置を外側から理論化する作業を行った。近畿圏および東京の夜間中学で、とくに「全国夜間中学校研究大会」(1954年から毎年度開催)の記録誌とその付随資料、一部の学校の沿革史を中心に資料調査をし、夜間中学の不安定な制度的な状況を各学校で把握するとともに、夜間中学がフォーカスしてきた問題の変遷から、1970年代半ばから在日朝鮮人教育に焦点を当てることになる資料的裏付けの第一歩となった。さらに、日本教職員組合の機関紙等を創刊から1980年前後まで約30年分にわたって網羅的に調査し、日教組の夜間中学および在日朝鮮人教育についての認識を確認したところ、ちょうど1971年に日教組が「教育新聞」の中で、「夜間中学を無視しつづけてきた」と自己反省している重要な事実を確認した。戦後、夜間中学は「日本人」の学齢期の年少労働者の未就学「救済」という目的、教師側の権利闘争の背景、さらには朝鮮半島の政情不安なども相まって不可視にされてきた在日朝鮮人女性非識字者が、1970年代前後の夜間中学生の教師や教育行政への「告発」を契機に、1970年代の在目朝鮮人女性生徒の増加の思いがけない可視化を促したことの制度的・社会的条件の重層的構造の存在を明確化した。以上のように夜間中学に関して基礎的な事実を解明するとともに、在日朝鮮人集住地域の京都市南区東九条の教会で行われていた自主的な識字教室「東九条オモニ学校」(1978年開設)の設立と運営にかかわってきた日本人および在日朝鮮人2世の教師側のインタビューと関連史料の整理をすることで、地域的特有性、生徒である「オモニ」と日本人教師の関係性、日本人教師と在日朝鮮人教師との葛藤などは、夜間中学ともまた違う学習空間を持ち合わせていた可能性がわかった。さらに、韓国調査では、70年代の「成人学校」事情をソウル大学図書館、延世大学図書館で史料調査し、また済州島の道庁と済州大学図書館および「在日済州人センターの史料調査では在日ネットワークを確認し、釜山では社会教育学術交流会に参加した。
著者
岩下 和輝
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

卵白はタンパク質含有量が多く、優れたゲル化特性をもつ食品である。実際に、卵白は畜肉加工品や水産練り製品などに添加物として利用され、これらのゲルの物性を向上させている。この卵白ゲルの粘弾性や保水性といった物性はタンパク質凝集体のネットワークに起因する。本研究では、卵白加熱ゲルの物性の起源となる凝集体のネットワーク形成の分子機構を明らかにすることを目的とする。卵白を加熱してできるゲルに関する研究を定量的に進めるため、当該年度は卵白の成分を混合した条件での研究を進めた。具体的には、卵白タンパク質の主成分であるオボアルブミンとオボトランスフェリン、リゾチームの3種を用い、その混合系の熱凝集過程を調べた。まず、オボアルブミンとリゾチームを加熱したときに形成する共凝集が、どのように進むかをサイズ排除クロマトグラフィーや円偏光二色性スペクトル、透過型電子顕微鏡などの方法を組み合わせて調べた。その結果、オボアルブミンは可溶性凝集体ができること、両者を混合してできる凝集体にはいずれのタンパク質も含まれることが明らかになった。詳細を調べると、まず両タンパク質が静電的に会合することで小さな凝集体ができた。この小さな凝集体は電気的に中性であるため、さらなる凝集体の成長には疎水性相互作用が関連することがわかった。このように構築した実験系を用いて、次に、オボトランスフェリンとリゾチームの共凝集を調べた。両者は、殺菌処理に相当する55℃程度の低温加熱で共に凝集してしまうことが以前より報告されていた。その結果、同様に静電的な引力による小さな凝集体の形成と、その後、凝集体同士の会合が階層的に進むことが明らかになった。一定以上の大きさの凝集体になれば不溶化することがわかった。いずれの成果もきわめて定量的な測定に成功しており、凝集体の成長機構モデルを描くことができた。
著者
多田隈 理一郎 (駄本 理一郎)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度の研究では、前年度の研究において人型7自由度スレーブアームの1自由度のみをPD制御して、残りの6自由度をインピーダンス制御するという方式であったスレーブアームの制御アルゴリズムを改良し、全ての自由度を等しくPD制御ベースでインピーダンス制御するという方式に切換え、複数の制御方式が干渉しあうということの無い、極めて安定したスレーブアームの動作を可能とした。また、5本指を持つマスタ・スレーブハンドをそれぞれマスタアーム、スレーブアームの先端に取り付け、ハンドも含めたバイラテラル・インピーダンス制御を実現した。スレーブハンドは、親指に3自由度、他の指に各1自由度を持ち、指の間隔を広げるための1自由度を含めた合計8自由度をもつ多自由度ハンドであり、既存のヒューマノイドロボットには不可能な繊細な作業やジェスチャが可能なものになっている。これを制御するマスタハンドも、同じく8自由度を持ち、外骨格型の機構により普段は指に触れることなく追従し、スレーブハンドの指が対象物に接触した場合のみ、操作者の指に触れてスレーブハンドの指先端に働く外力をフィードバックするという方式になっている。この新しい機構と制御方式により、同じく外骨格型のマスタアームと整合性の取れたマスタシステムが構成出来た。このような右腕のマスタ・スレーブシステムと左右対称は左腕のマスタ・スレーブシステムも現在作製中で、両腕を用いた複雑な作業も可能とするテレイグジスタンスロボットシステムを構築している。さらに、東京工業大学の広瀬・米田研究室との共同で開発している、ロボットの移動機構としての段差対応型の全方向移動車については、それが段差を乗り越えるときの手順である動作シーケンスの最適化を研究し、前年度に比べてより滑らかに、素早く段差を乗り越えることが可能になり、それを上半身型のロボットと結合して制御する移動作業の初期実験を行った。
著者
多田隈 理一郎 (駄本 理一郎)
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、産業技術総合研究所においてロボット制御用の触覚ディスプレイの改良を進め、それを装着した状態でロボットを操作できるマスタシステムの実験を、多くの被験者について行った。具体的な実験としては、コンピュータ上のVR空間に人型ロボットの3次元CGによるシミュレータを構築し、ロボットの皮膚にバーチャルな触覚センサを配置して、その出力を触覚ディスプレイにより操作者の腕にフィードバックする遠隔臨場制御システムを用いて、2005年にMarc Ernst博士がNature誌で発表した、「人間の中枢神経系による視覚と触覚の情報処理が、ベイズ統計における最尤法に従う」ことを、有毛部皮膚を含めた腕全体でも成り立ち得ることを示すデータを得た。また、この実験をもとに、人間の有毛部皮膚における触覚の解像度を明らかにし、その解像度に基づくロボット体表面のセンサの最適な密度と、そのセンサの感じ取った力を人間の皮膚に再現するために必要な触覚ディスプレイの刺激子の解像度の最適値を求めた。ただ、当該研究員は2008年11月から東京大学の特任講師として異動し、またマスタシステムの構築や、それを用いたVR空間でのマスタ・スレーブシステムによる人間の視触覚情報処理体系の解析に時間を費やしたために、ロボットに対するセンサの配置やロボットの制御自体はVR空間における物理シミュレーションに留まり、実環境におけるロボット用の新型触覚センサの開発を行うまでには至らなかった。そのため、現在東京大学で作製している数々の生物型ロボットに触覚を付与し、その触覚をロボット操作者の体表面にフィードバックして提示する研究を継続することで、本研究でやり残したことを随時完了させてゆく予定である。
著者
田部井 賢一
出版者
日本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の骨子は、音楽の情動的な意味の処理に関わる脳内メカニズムの解明を目的に、脳機能イメージング研究を実施することであった。採用期間中に、1)基本情動を表現する音楽に関する予備的調査研究、2)音楽の持つ情動表現の認知に関わる脳部位についての研究、3)音楽の持つ情動表現の評定と、音楽によって喚起された聴き手の内的な情動反応の評定にかかわる脳内機構に関する研究を、当初の予定通り実施した。その結果、音楽の持つ情動表現の評定と、音楽によって喚起された聴き手の内的な情動反応の評定では前頭前野、聴覚野、後部頭頂皮質、帯状回、楔前部に共通した活動が見られた。一方、情動表現では下前頭回により強い活動が見られ、情動反応では楔前部により強い活動が見られたことから、それぞれの領域が各課題にとってより重要である可能性を示唆した。また、音楽の持つ情動表現の評定には、音楽の専門的な学習の有無にかかわらず、左下前頭回がより重要な役割を持つと考えられた。
著者
岡本 美里
出版者
沖縄科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

中南米を原産地とし、現在世界中に分布を拡大しているコカミアリWasmannia auropunctataは特殊な繁殖様式が発見されており、雌(新女王)と雄が、それぞれ母親と父親のゲノムのみを受け継いで生産される。本種の女王は未交尾では産卵をせず、自身のゲノムのみを受け継いだ雌卵であっても生産しない。本研究では、幼若ホルモン類似体のメトプレンを処女女王に経皮投与し、強制的に未受精卵生産を促した。その結果、産卵開始後まもなく、コロニー内のワーカーによる処女女王への攻撃が観察された。実験では様々な条件下で処女女王にメトプレンを投与し、ワーカーが産卵を開始した処女女王だけを特異的に攻撃することを明らかにした。本種のワーカーは両親のゲノムを受け継いで有性的に生産される。2011年から今年にかけてワーカーの遺伝子発現量を解析した結果によると、父系遺伝子の方が母系遺伝子よりも強く発現していることが明らかになった。このことから、産卵を開始した処女女王に対するワーカーの攻撃性は、父系・母系遺伝子の間にみられる発現量の偏りに起因しているのではないかと考えられる。今後は、ワーカーの遺伝子発現を強制的に変化させ、産卵を行う処女女王に対する攻撃性の変化の有無を確かめる。これらの結果は、雄遺伝子による利己性が、ワーカー個体の行動に影響を与えることを示唆しており、社会性昆虫の行動に影響する血縁度以外の要因として、今後注目されると考えられる。また、本来は単為生殖でしか雌を生産しないと思われていたが、幼若ホルモン類自体により、遺伝的にはワーカーに発生する個体が女王として発生することを明らかにした。これらの結果は、カースト決定に影響する遺伝子の発現解析を行う上で、大きく役に立つと考えられる。今後は、実験的に誘導された個体のトランスクリプトーム解析を行い、コカミアリにおける、性・カースト決定に関わる遺伝子の探索を行う。
著者
石原(安田) 千晶
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は、ヤドカリのオスが 1. メスをめぐるオス間闘争、あるいは 2. 強度の低い小競り合いのような通常の相互作用から優劣を構築し、劣位個体がそれに基づいた個体識別を確立して、同一の優位個体と再遭遇した際に闘争を避けるか、また、そのようにして確立した劣位個体の個体識別が、再遭遇時に優位個体の状況が変化することで、より速やかに破棄されるかを検証するものである。本年は、主たる対象種であるユビナガホンヤドカリにおいて、前年度からの実験・解析を進め、以下3編の成果発表に至った。まず、野外の交尾前ガードペアを用いたメスをめぐるオス間闘争において、オスの大鋏脚の重要性と挑戦者が闘争前・闘争中に行う評価戦術を明らかにした研究が、研究代表者を筆頭著者として国際誌に掲載された。また、共同研究として、本種の一腹卵数と卵径が繁殖期を通じて経月変化すること、並びに大鋏脚サイズの性的二型が年間の繁殖スケジュールと対応してその強度を変化させることを実証し、研究代表者を対応・筆頭著者として国内誌と国際誌に発表した。これらに加えて、本種のオスが、オス間闘争での優劣を介して、過去の闘争相手を個体識別していることを明らかにした。すなわち、観察対象の劣位オスは、過去の闘争で自らが敗北した優位オスと遭遇した場合に、そうではない優位オスと遭遇した場合と比較して、闘争を仕掛ける頻度が大幅に低下した。本成果も国内学会にて発表されている。
著者
長尾 昭彦 JASWIR Irwandi
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

食品由来の抗酸化性物質の摂取は各種の生活習慣病のリスクを低減するものと考えられている。しかし,1990年代に発表されたβ-カロテンの介入試験での否定的な結果及びその後の多くの研究から,抗酸化性物質の過剰投与はプロオキシダント作用により生体に障害を及ぼす危険性があることを示唆している。したがって,食品由来抗酸化性物質を効率的で安全に利用するためには,特に,摂取量あるいは生体内濃度に依存した生物活性の発現を解析する必要がある。本年度は培養細胞に高濃度のカロテノイドを蓄積させるためのカロテノイド可溶化法を開発し,細胞に蓄積されたカロテノイドの抗酸化性を高濃度領域まで範囲広げて解析した。液中乾燥法によりDMEM培地(10%牛胎児血清を含む)に80μMまでの高濃度のカロテノイドを可溶化する方法を構築した。テトラヒドロフラン(THF)に溶解させたカロテノイドをDMEM培地に分散した後,減圧下で細胞毒性を示すTHFを0.001%以下までに留去した。本法により高濃度のβ-カロテン,ルテイン,α-トゴフェロールのDMEM培地への再現性の良い可溶化が可能になった。得られた高濃度カロテノイド培地をヒト肝癌由来HepG2細胞とインキュベーションすると,カロテノイドが高濃度に集積し,ヒト肝臓カロテノイド濃度の約5倍以上のレベルに達することが分かった。このようにカロテノイドを集積させた細胞をtert-ブチルヒドロペルオキシドで酸化ストレスを負荷し脂質過酸化に対するカロテノイドの抗酸化性を調べた。β-カロテンは濃度依存的に抗酸化性を示し,調べた濃度範囲及び酸化ストレス負荷条件ではプロオキシダント作用は認められなかった。しかし,高濃度のカロテノイドは細胞障害を引き起こすことを見出した。その原因及びプロオキシダント作用との関連は不明であり,今後この点をさらに解析することによって,高濃度領域での生体影響を明らかにする必要がある。
著者
松原 和純
出版者
名古屋市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度までの研究成果として、FISH法によって29の遺伝子がZ染色体にマッピングされ、そのうち5つがW染色体にもマッピングされている。そして、W染色体にもマッピングされた5つの遺伝子のうちCTNNB1とWACについて10科のヘビ種においてZとWホモログの塩基配列を解読し、分子系統樹を作製した。今年度は、SEPT7について同様に系統解析を行った。その系統樹の分岐パターンから、SEPT7のZとWホモログ間の分化はヘビ亜目の系統分化の初期に起きたと推定された。3つの遺伝子の分岐パターンを比較した結果、ヘビにおけるZとW染色体間の分化は動原体領域から始まったと推定された。また、ヘビの進化過程において比較的短時間で性染色体間の分化領域が拡大したと推定された。哺乳類や鳥類では性染色体の分化は染色体の末端から始まり、段階的に分化領域が拡大したと推定されている。ヘビにおける分化過程はそれらと異なり、性染色体の進化について新たな知見をもたらすと思われる。現在、この成果について論文を執筆中である。シマヘビの産卵後0日と4日の胚から生殖腺を摘出し、cDNAライブラリーを作製した。DMRT1、SOX、CYP19A、FOXL2などの性分化関連遺伝子の発現量をRT-PCRによって雌雄間で比較した結果、生殖腺の性分化は産卵後0日から4日の間に始まることが推定された。そこで、次世代シーケンサーを用いて産卵後4日杯の生殖腺におけるトランスクリプトーム解析を行い、発現遺伝子の種類やその発現量を雌雄間で比較した。ZとW染色体の両方に位置する遺伝子の一つであるCTNNB1が性分化初期の雌の生殖腺で強く発現していた。マウスにおいてこの遺伝子は未分化生殖腺が卵巣へ分化する際に必須であることが実験的に証明されている。これらのことから、現時点において、CTNNB1がヘビにおける性決定遺伝子の最有力候補と考えられた。
著者
奥谷 文徳
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本提案では、折紙工学を用いて今までの材料では不可能な「動き」を可能とする。上述したように折紙の技術は工学の分野に応用されてきたが、折紙構造の静的な状態、つまり展開状態と折られた状態の2つの状態のそれぞれの活用に留まっている。折紙はそれらの状態以外に、折り畳まれつつある状態を持つ。この折り畳まれつつある状態こそ、弾性変形や局所的な幾何学的な制約を利用した折紙の真髄である。折り紙構造の動きを最大限に活用した円筒形状ロボットを実現し、「動き」を活用した折紙構造の実用化により、紙から折るだけで作れる構造により「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」製造できる技術を実現する。
著者
高安 亮紀
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

線形化微分作用素に対する逆作用素のノルム評価法:線形化微分作用素の可逆性の証明は偏微分方程式の精度保証付き数値計算において重要な役割を占めている.本研究では自己共役な線形化作用素に対して,楕円型作用素の実固有値を用いて可逆性が検証できる事を示した.そしてLaplacianに対する精度保証付き固有値評価をもとにした固有値評価を導出し,計算された固有値を利用するノルム評価方法を確立した.提案手法は先行研究に比べ検証が成功しやすく,よりタイトな評価を可能にする事が特徴である.さらに,これまでの任意多角形領域上における計算機援用証明法の技巧を用いることで,任意多角形領域に対応することができ,より実用的な逆作用素のノルム評価方法を提案することができた.提案手法の反応拡散系数理モデルへの適応:任意多角形領域上における計算機援用証明方法の応用例として,2つの未知関数(u,v)に関する反応拡散系の非線形連立偏微分方程式を考える.反応拡散方程式は主に化学,生物学,物理学などに表れる現象を記述した方程式である.本研究ではFitzHugh-Nagumo方程式と呼ばれる神経繊維上の電位の伝播モデルを考え,反応拡散方程式の定常解を任意多角形領域上で計算機援用解析できるようにした.これは昨年度提案したHyper-circle equationとNewton-Kantorovichの定理を基礎とする精度保証付き数値計算手法の自然な拡張である.適応にあたり,先行研究では成されていなかった作用素項が含まれる固有値問題に対する精度保証付き評価を提案するなど,既存の理論の応用だけではない新たな手法の発展が適用を可能にした.
著者
柴田 潤二
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

HIVのエンベロープタンパク(Env)を標的とし、感染を抑制する抗体を誘導するワクチン開発が求められている。しかし、HIVはEnvを変異させ、中和抗体から逃避することができる。変異が引き起こす中和抗体逃避メカニズムを詳細に解明することは、ワクチン開発を行う上で重要である。我々は、これまでにHIVの抗gp120-V3領域中和抗体(抗V3抗体)からの逃避に関する研究を行ってきた。V3領域はHIVが標的細胞に感染する際、受容体との結合に重要な領域であり、この領域を標的とした抗体には強い中和能があることが知られている。抗V3抗体を用い、この抗体から逃避するような中和抵抗性ウイルスを誘導したところ、エピトープ以外の領域であるV2領域の数アミノ酸変異で逃避できることが分かった。そこで、本年度はV2領域変異が引き起こす中和抵抗性メカニズムを詳細に解析した。site-directed mutagenesis法を用い、gp120のV2領域の変異を組み合わせたウイルスを作製し、中和感受性に影響を与える変異を探索したところ、L175P変異が抗V3抗体に対する感受性を20000倍以上上げることが分かった。その変異はウイルス膜上に存在する三量体gp120の立体構造に影響を与え、中和感受性を変化させる働きがあることがわかった。つまり、HIVは感染に最も重要と考えられるV3領域を守るため、エピトープ以外のV2領域に変異を入れることにより三量体構造を変えてエピトープを隠し、中和抗体のプレッシャーから逃れることが分かった。本研究により、今後、中和抗体誘導ワクチンを開発するためには、(1)V2領域の変異に左右されないエピトープを標的とした抗体の誘導、(2)V2領域が変異しても、隠れたエピトープを露出させる方法の探索、などが必要であることが示された。
著者
佐藤 寛之
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013

ユークリッド空間における制約条件なしの最適化手法の一つである共役勾配法をリーマン多様体ヒに拡張し, 収束性の証明を行った, ユークリッド空間における共役勾配法では, 各反復において次の探索方向として, 最急降下方向と, 前回の探索方向にBを乗じたものの和を用いる. FletcherReevesのβを用いたアルゴリズムの多様体版の大域的収束性を調べるとともに, 収束性を高める工夫を加えた新しいアルゴリズムを提案した. この結果は論文"A new, globally convergent Riemannian conjugate gradient method"にて発表された.また, リーマン多様体上の最適化問題として定式化される具体的な応用問題として, 行列の固有値問題や特異値分解問題を扱った. 具体的には, 固有値問題をグラスマン多様体上の最適化問題として定式化し、その最適化アルゴリズムを導出することで, 固有値分解の新たなアルゴリズムを提案した, この結果は論文"Optimization algorithms on the Grassmann manifold with application to matrix eigenvalue problems"として発表した. また, 特異値分解については, 実行列の場合に2つのシュティーフェル多様体の積からなる多様体上の最適化問題として定式化して議論した研究代表者らの以前の論文を, 複素行列の場合に適用できるよう拡張し, 論文"A complex singular valuei decomposition algorithm based on the Riemannian Newton method"として発表した.当該年度では多様体上の一般的な最適化問題に対して新たな解法アルゴリズムを導出したり, 具体的な行列の問題に対する新たなアルゴリズムを導出し, 応用的な観点から有意義な成果が得られたと言える.
著者
西本 希呼
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、マダガスカル語Tandroy方言の体系的記述を行うことである。Tandroy方言はマダガスカル南端部で話され、約50万人の話者をもつ。危機言語や書記資料の少ない言語の記述、そして口承文芸の記録・録音といった無形財産の保存の重要性が近年国際的に認識されているなか、多くのマダガスカル語方言のドキュメンテーションは従来ほとんど試みられていないといえるのが現状である。特に、マダガスカル語標準語の基盤となっているMerina方言以外のマダガスカル語方言の言語学的記述資料は、非常に少ない。そこで、本研究は、マダガスカル語Tandroy方言を、現地調査で収集した基礎語彙、口承文芸の記録・録音、自然会話の観察、母語話者からの例文の抽出などの一次資料をもとに、体系的な記述を行うことを目的としている。最終年度である本年度はTandroy方言の音声・音韻、動詞カテゴリー、文法の体系の全容を記述・分析し、博士論文として2010年12月にまとめた。また、本研究では、言語の構造的側面のみならず、5年間の研究および、現地での言語調査を通じて明らかとなった、マダガスカルの多言語社会の現状と動態、話者が属する社会の文化、自然現象に関する認識や在来技術とその応用についても取り扱っている。
著者
町田 龍一郎 BLANKE Alexander
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

昆虫類(狭義)の基部分岐に関してはいろいろな仮説が提唱されているが、説得力のあるシナリオは描かれていない。このような背景から、翅の獲得に至っていない原始的な「無翅昆虫類」の5目、そして翅を獲得した有翅昆虫類の顎部形態の厳密な比較を計画、研究分担者ブランケ博士が得意とする比較形態学的アプローチと研究代表者町田の得意とする比較発生学的アプローチを融合することで、説得力のある昆虫類の進化シナリオを構築することを本研究の目的とした。すなわち、ブランケ博士が中心となり、無翅昆虫類のカマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目、シミ目、旧翅類のカゲロウ目とトンボ目、新翅類最原始系統群カワゲラ目の顎部形態を、ドイツDESY、スイスPSI、および日本のSPring-8のシンクロトロンを用い、膨大なSR-microCT断層像データを得た。一方、町田が中心となって、各群の卵を得て、顎部形態形成を、筋付着点としての頭蓋、外胚葉陥入内骨格、筋肉系に注目し、比較発生学的に検討した。両者の比較形態、比較発生学的データを総合的に議論、整合性のある進化シナリオを構築することを目指した。この結果、昆虫類の基部分岐は「欠尾類(=カマアシムシ目+トビムシ目)+有尾類【=コムシ目+外顎類{=イシノミ目+双関節丘類(=シミ目+有翅昆虫類)}】」と理解された。また、従来の理解と異なり、1)イシノミ目ですでに双関節丘型大顎が獲得されていること、2)昆虫類の大顎は従来の理解と異なり、イシノミ目型ではなく、内顎類(カマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目)に見られるような内顎類型であることが明らかになった。
著者
新庄 雅斗
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

近年,可積分系理論の数値計算への応用が見出され,可積分な離散戸田方程式と数学的に等価なquotient-differenceアルゴリズムは3重対角行列の固有値計算アルゴリズムとして国際標準となっている.最終年度は,離散戸田方程式の拡張と見なせる離散ハングリー戸田方程式及びその非自励版に対して,一般解の構造や関連する固有値問題を明らかにし,正値性が崩れる場合でも,解の一部が離散時間極限において帯行列の固有値に収束することを示した.これは可積分系由来の固有値計算アルゴリズムの広範な実用化には欠かせない進展である.これらの成果については,国際会議発表を経て, 離散ハングリー戸田方程式については平成29年5月にEast Asian Journal on Applied Mathematics誌に,非自励版については平成30年1月にJournal of integrable Systems誌においてそれぞれ採録された.また,非自励な離散ハングリー戸田方程式に現れるシフトパラメータの連続極限で得られる力学系が,帯行列に関するラックス表示をもつことを明らかにした.これは離散可積分系由来の固有値計算アルゴリズムの背景には,保存量をもつラックス型力学系が存在することを意味しており,ラックス表示の観点から新しい固有値計算アルゴリズムへの応用が期待される.この結果は現在,学会発表を経て,海外の専門誌に投稿中である.
著者
榊原 由貴
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

一般相対論は宇宙論的観測をよく説明するが、この際暗黒物質や暗黒エネルギーといった未知の構成要素の存在を仮定する必要がある。これらの起源を理解するには、長スケールで重力自体の変更が必要になるのではないかという見方がある。長スケールでの重力の変更として自然なものに、重力子に質量を持たせる方法がある。それが、有質量重力子理論である。近年の研究で、有質量重力子理論が一般相対論と同様に時空の計量だけ含んでいる場合は安定な一様等方膨張宇宙解の構成が困難だが、もう一つ計量を導入した双計量重力理論ではそのような問題を回避できることがわかっている。我々は、双計量重力理論を重力として採用した時に標準的な宇宙論を再現でき、精密化が進む宇宙背景放射や宇宙の大規模構造などの観測と無矛盾でありうるかを確認することを目標として、特にビッグバン以前の宇宙を記述するインフレーションシナリオに注目して研究を行った。初年度には、双計量重力理論におけるインフレーション解の構成を実現しうるミニマルなモデルについて行い、その安定性を明らかにした。さらに、構成したインフレーション時空上で生成される重力波のスペクトルを求めた。次年度では、これらの解析を一般の双計量重力理論に拡張し、インフレーション中に重力波と同様に生成される曲率ゆらぎも求めた。結果、インフレーションシナリオに対する宇宙背景放射観測からの制限は、一般相対論の場合に比べ一般の双計量重力理論において厳しくなることが明らかになった。このことから、本研究の結果を利用し観測的に双計量重力理論をモデルを制限できると期待される。
著者
冨田 武照
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

サメ・エイ類を含む軟骨魚類は、現在でも生きている原始的な脊椎動物と考えられており、その生殖システムを解明することは私たちの生殖システムの起源を知る上で極めて重要である。特にサメ・エイ類には卵生(卵を産む)と胎生(赤ちゃんを産む)のグループが共存しており、私たち哺乳類に見られる胎生がいかに進化してきたのか明らかにする格好の材料である。私は、沖縄美ら海水族館と共同で、卵生のトラザメが呼吸システムをいかに獲得するのか詳細に調査を行った。調査には実体顕微鏡による行動解析、組織切片の観察などを中心に行った。その結果、トラザメの胎児は卵殻の中にいる期間に大きく呼吸システムを変化させることが明らかになった。具体的には、前半の期間には外鰓を用いて呼吸を行うが、後半の期間には筋肉や骨格系の発達に伴って水をポンピングする能力を獲得し、内鰓を用いて呼吸を行うようになる。このような呼吸システムの変化は脊椎動物の進化の初期にすでに獲得されていた可能性がある。さらに、私の過去の胎生のエイ類の研究によって得られた結果は、トラザメで見られた呼吸システムの変化は胎生のサメ・エイ類でも見られる可能性があることを示している。この結果は、卵生と胎生はまったく異なる生殖システムなのではなく、ある程度同じシステムを共有していることを示唆している。胎生と卵生のシステムに今回共通性が見出せたことで、卵生から胎生への進化の過程の一端が解明できたと評価できる。
著者
青柳 諒
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

環境・バイオエネルギー分野での高性能・低環境負荷型の反応プロセスの構築を目指して、種々の反応系に対して、高機能(高い触媒活性、反応の選択性、複数の反応を同時進行など)な生体触媒固定化高分子ゲルを創製する。種々の生体触媒(微生物、酵母、および酵素)の固定化手法、高分子の特性、ゲルの構造などのパラメータが触媒活性や連続反応プロセスへの適用可能性に及ぼす影響を明らかにする。得られた知見から生体触媒固定化ゲルの設計指針に関する学術基盤を構築する。