著者
岩山 海渡
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

早朝空腹時(朝食前)の運動が24時間の脂肪燃焼量に及ぼす影響を検討した。本年度は早朝空腹時に運動することが24時間の脂肪燃焼量を増大させるか否かを明らかにする研究を実施した。運動するタイミングを変えた3試行(朝食前運動、昼食後運動、夕食後運動)に運動をしない24時間の測定(対照試行)を加えた計4試行を設定し、いずれも24時間のエネルギーバランスが等しい条件(摂取量=消費量)にて24時間の脂肪燃焼量を比較した。その結果、昼食後または夕食後に運動する試行では約500kcalの運動をしたにも関わらず、24時間の総脂肪燃焼量は特別な運動をしていない対照試行と有意な差がなかった。これは運動することでエネルギー消費量を増大させても、エネルギーバランスが等しい条件ならば脂肪燃焼量は増大しないという先行研究と一致する結果であった。しかし一方で、朝食前に運動する試行では、対照試行を含む他の3試行よりも24時間の総脂肪燃焼量が有意に増大した。これにより朝食前に運動することで24時間の脂肪燃焼量を増大させることが明らかになり、運動すること自体が脂肪燃焼を増大させるわけではないとの先行研究に対する明確な反証となった。本研究の結果から、朝食前の運動は運動中のみならず24時間における脂肪からのエネルギー供給を増大させ、体脂肪減少に効果的なタイミングであることが示唆された。今後は中長期的に朝食前の運動を継続することが脂肪燃焼量に及ぼす効果を検討することにより、効率よく体脂肪を減らす運動のタイミングを提言することができると考えられる。
著者
水田 孝信
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

今年度の本研究の進展状況としてはまず、今まで行ってきた重イオンの加熱・加速メカニズムの理論をさらに洗練化し、このメカニズムが起きるための波動に課せられる必要条件を定量的に導き出した。この初期結果はAdvances in Space Researchに掲載予定であり、詳細な結果はPhysics of Plasmaに投稿準備中である。相対論的効果を入れて、議論することを始めた。これは、例えば、パルサー風中での粒子加速など、応用範囲が広い。相対論的粒子は、円偏波の電磁波と共鳴することができ、今まで議論してきた重イオンの加速と同じようなことが起こると予想される。初めから共鳴している相対論的粒子は、単独の電磁波と共鳴することにより、強く加速することが示されたが、初め、少しでも、共鳴からずれていると強い加速は起きないことが分かった。このため、非相対論の場合と同じように、二つの電磁波がある場合のみ、共鳴速度付近の速度をもつ粒子すべてが、加速することが可能になる。その加速効率を詳細に調べた結果、非相対論のときほど加速効率が良くないことが分かった。しかしながら、重イオンの場合と違い、特殊な状況設定を必要としないため、適応範囲は広いと考えられる。というのも、必要とされる電磁波に波長などの制限はなく、どのような電磁波でも円偏波であれば、二つ孤立的に存在すればこれは、起きるからである。この、結果は、2004年3月の天文学会で発表し、Physics of Plasmaに投稿準備中である。
著者
吉良 貴之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は「法時間論」の問題設定を具体化・明確化することに精力を傾注した。これは前年度に主に取り組んだ課題「世代間正義論」において摘出された「時間性」の問題を、法理論一般に応用することを目指すものである。「法時間論」の問題設定は、(1)「法による時間性」、(2)「法における時間性」の2つの柱によって具体化された。(1)は、社会に「時間的秩序」をもたらすものとしての法の役割に着目する。法は、過去および将来の実在論にコミットする必要はなく、あくまで「現在」において時間的秩序を打ち立てる装置として機能する。具体的にいえば、裁判は現在における証拠の整合性に基づいて「法的過去」を構成する営みであり、立法は将来の公共的価値を現在において「先取り」するものである。(2)は、こういった機能をもつ法そのものの内在的な時間構造を問題とする。法は「法的過去」からの一定の一貫性・連続性を保つことを要求されつつ、「法的将来」を規制するという時間構造をもつ。かかる時間性を内在させる一方で、普遍的=無時間的な価値の実現を目指すという、時間性と無時間性が両義的に絡み合った構造を法は有している。時間性と無時間性が絡み合った内在的な時間構造をもちつつ、社会に一定の時間秩序をもたらそうと試みるものが「法」であり、そのようにして捉えられた「法」の姿を、法内容独立的な服従理由としての「正統性」との関係から分析することの必要性が確認された。この問題設定に基づき、論文「憲法の時間性と無時間性」(仲正昌樹編『社会理論における理論と現実』)を執筆した。また、2008年度「日本法哲学会・分科会報告」にも応募し、査読を経た上、受諾された。いずれもいまだ序論的な性格のものであるが、問題設定を具体化・明確化したことによって、次年度以降の研究課題の基盤を構築することができたと考えている。
著者
植松 良公
出版者
統計数理研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

平成28年度の研究内容は主に,1.高次元時系列予測,2.スパース直交ファクター回帰,3.非定常非線形分位点回帰,4.非線形ファクターモデル,5.高次元FDRコントロール,の5点である:1.理論面では最適な予測誤差の上限とモデル選択の一致性を示したほか,実証面では米国の高次元マクロ経済データを用いたGDP予測を行った.この論文は昨年度末にJournal of Business & Economic Statisticsからの改定要求を受けていたため,今年度はその改訂作業を行い,同ジャーナルに再投稿した.2.昨年度に得られた理論的成果の証明について若干の修正を加え,論文全体も新しい理論に合わせて改訂した.この論文は最終的に,Journal of the Royal Statistical Society: Series B に再投稿した.3.昨年度再投稿したEconometric Reviewsからの2回目の改訂要求を受けて,再び論文の修正・加筆を行った.推定精度とパラメータ制約の検定に関するシミュレーションを刷新し,またバイアス修正した推定量の漸近理論も付け足した.結果,同ジャーナルに掲載が決まった.4.今年度は実証分析に焦点を当て,非線形ファクターがマクロ経済時系列の予測に有効かどうかを考察した.方法論は確立しているものの,細かなモデリングの差や,チューニングによって実証結果が変わるため,より良い結果が出るよう現在も研究を続けている.5.Barber and Candes (2015)は,FDRのコントロール手法として,Knockoff filterを提案した.これは既存の方法よりも優れた性能を示すが,モデルが高次元の場合には適用できない.この点を解決すべく,ファクター構造やモデルのスパース性を仮定することで次元縮約をしつつFDRをコントロールする枠組みを模索している.
著者
三木 則尚 PRIHANDANA Gunawansetia PRIHANDANA GunawanSetia PRIHANDANA GUNAWANSETIA
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、ナノ多孔質ポリマーを用い、マイクロデバイスの界面をバイオメディカル用途に適するよう制御することであった。特に、ナノ多孔質ポリマーとしてパリレンならびにフッ素添加ダイアモンドライクカーボン(F-DLC)を、マイクロデバイスとして携帯型人工透析システムのためのマイクロフィルタリングデバイスおよび、脳波検出用フレキシブル針電極を研究対象とした。マイクロフィルタリングデバイスは、ナノ孔を有するポリエーテルサルフォン(PES)膜をフィルタとして用い、透析を行うが、膜表面に血液成分が固着する問題を有していた。これを、PES薄膜をナノ多孔質パリレンならびにF-DLCにより被覆することにより解決した。血液成分の固着による透析性能の低下を実験的に導出し、これをナノ多孔質ポリマーによる表面改質により防止できることを明らかにした。本結果を複数の国際論文誌ならびに国内外の学会において発表した。また、フレキシブル針電極においてはフレキシブルなポリマー上に銀薄膜を成膜するが、銀薄膜とポリマーとの密着性が悪い。そこで、銀薄膜上にナノ多孔質パリレンをコーティングすることで、導電性を有しつつ、刺入などの機械的な負荷に対して銀の剥離を防ぐことができた。また脳波検出に必要とされる10Hz程度の低周波数においてインピーダンス10kΩ以下を実現した。これらの結果を国際論文誌ならびに複数の国内外の学会において発表した。本研究の成果は、マイクロデバイスのバイオメデイカル応用において不可欠な生体適合性の付与手法として、極めて効果的と考えられるナノ多孔質ポリマーの成膜技術を確立、またその効果を実証したものであり、大きな意義を有するものである。
著者
宇津木 安来
出版者
東京藝術大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本研究の目的は、日本舞踊の「体幹部」の技法について、その具体的な動きをモーションキャプチャを用いて明らかにすることである。日本舞踊において、「体幹部」の技法は日本舞踊のパフォーマンス全体を支える基盤であり、最中心となるべき重要な技法であるにも関わらず、非明示的であるために、これまで感覚的に伝承されてきた。本研究では、熟練した指導者が行う「体幹部」の動きを解明することで、より具体的な技法の習得を可能にし、日本舞踊の伝承水準の向上に繋がることを目指している。今年度は、平成27年度、28年度に東京藝術大学日本舞踊部屋で光学式モーションキャプチャシステム(Motion Analysis MAC3D System)、赤外線カメラ16台(Raptor-12HS×8台/ Kestrel×8台 )、反射マーカ81個を使用して計2回実施した計測データのポストプロセス作業(編集作業)と解析作業を行った。研究は「体幹部」の技法の中でも特に日本舞踊の要と言われる「腰」の技法を中心に行った。モーションキャプチャデータと指導言語とを併せて参照し、指導言語の背景にある指導者の実際の腰の動きについて明らかにすることで、これまで考えられて来た「腰」の技法に対する指導言語への解釈を新たにする結果を得た。 研究成果については、国際学会や国内の学会、論文などで発表した。また、一般公開のワークショップや発表の場で研究成果の発表と踊りの実演を併せて行うなど、多様な形でのアウトリーチ活動を行った。
著者
井上 春緒
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は北インドの古典音楽であるヒンドゥウターニー音楽におけるペルシャの影響を、14世紀から18世紀に書かれたペルシャ語音楽書の記述を基に明らかにするものであった。ペルシャ語音楽書を使い、前近代における北インドの音楽文化交流の歴史に焦点を当てた本研究は、インド音楽の文化史研究としては、これまでにない新しい領域を開拓するものであった。本研究ではまず、ペルシャで書かれたペルシャ語音楽書を読み、ペルシャのリズム理論イーカーゥの分析をおこなった。イーカーゥの理論が体系化される上ではアラビア音楽書の影響があることがわかったため、アラビア語音楽書を書いた、アラブの哲学者についても研究し、彼らのリズム理論の特徴を分析した。次にインドで書かれた音楽書を取り上げ、それらのリズム理論の内容を分析した。特に重要であったのは、18世紀後半のインドで書かれたリズム理論が、ペルシャのリズム理論の用語で翻訳され説明されていることであった。このことから、音楽書の上では18世紀以降に本格的にペルシャのリズム理論がインドのリズム理論に影響を与えているということがわかった。また、本研究では当時のペルシャとインドのリズム理論の特徴をそれぞれ、「組み替え型」と「分割型」と定義付け、それらの特徴が現在のヒンドゥスターニー音楽のリズム演奏とどのような関係にあるのかを分析した。その結果、タブラーのソロ演奏の前奏部にあたるペーシュカールの中に両者の特徴を見ることができた。これによって当時の音楽文化交流の痕跡を、現在の音楽を通して跡付けることができた。
著者
小川 健二
出版者
株式会社国際電気通信基礎技術研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

ヒトは,自らの身体状態のイメージ(身体像)を脳内で動的に推定しており,さらに自己の身体像は他者認知の基盤ともなっていると考えられる(ミラーニューロンシステム仮説).また身体像は,日々変化する環境,あるいは身体や道具の特性に適応する必要があり,このためには運動指令や環境変化を予測可能な脳内の内部モデルの学習が不可欠である.そこで本研究は,このような身体像の基盤となる内部モデルの神経表象を明らかにするため,ヒトが2種類の感覚運動変換に適応した後の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(functional MRI)で計測し,それぞれの変換条件を表象する脳部位の特定を試みた.先行研究から,ヒトは複数の運動スキルを同時並行的に学習可能な点が示されているが,これは個々のスキルに対応した複数の内部モデルが脳内に獲得されているものと考えられる.実験ではジョイスティックを使った視覚トラッキングを用い,実験参加者は2種類の相反する回転変換(+90度または-90度)に同時適応した.そして,運動中のfMRI活動に対してマルチボクセルパターン分析(MVPA)を用い,変換条件が識別可能か検討した.また回転変換条件と,低次の運動キネマティクスとの違いを明示的に区別するため,2種類のターゲット軌跡パターンを設け,異なる変換条件と軌跡パターンの組合せに対する識別器の汎化精度を調べた.結果から,感覚運動野,補足運動野,および小脳前部の活動パターンを使って回転変換の識別が可能であった.本研究から,感覚運動関連野および小脳で異なる感覚運動マッピングが表象されていることが明らかとなった.
著者
太田 紘史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究計画に則り、心脳問題への学際的アプローチを図った。そのために、(1)心的状態と神経状態の多層的構造の機能主義的分析と、(2)機能主義と調和する心身問題の形而上学的研究を行った。(1)心と脳の多層的構造の機能主義的研究心身問題で根本的な問題になる意識について、その認知神経基盤の連続的かつ多層的な機能的分析を遂行した。一般に機能主義的な物理主義は、意識を共時的-通時的な面で多層的な機能的クラスターとして分析しようとする。そこで当研究者は、意識の統一構造を明確化する分析を提案し、そのように分析されて得られた個々の意識的状態をある種の表象として分析する理論を提案し擁護した。さらにそれが、認知神経科学における意識の相関項(Neural Correlates of Consciousness : NCC)の知見とどのように調和しうるかについて検討し提案した。(2)心身問題の形而上学的研究上記のような、心を因果的役割によって分析する機能主義に基づいた物理主義を擁護・展開するために、形而上学的な心脳問題の研究を行った。とりわけ、機能主義的な物理主義を反駁するとされる一連の思考実験と形而上学的見解について、検討を行った。それらには具体的には、中国国家論証、逆転地球、知識論証が含まれる。当研究者は、それらがどのように論理的欠陥を抱えており、そしてそれが哲学と認知神経科学の総合的な機能主義理論を反駁しないのかについて提案した。
著者
岡野 訓尚
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究の目的は, マルチエージェント系を含む通信が中心的な役割を果たす制御糸を対象に, 通信路を介して伝達される情報や, 制御対象の動特性を表すモデルに不確実性がある場合を想定し, これらの不確実性がシステムの挙動に及ぼす影響を理論的に解析することである. 昨年度までに, システムの安定化(または合意)を達成するために必要/十分な通信ビット数と通信障害の発生確率の限界を導出し, これらの安定化限界が不確実性によってどう変動するかを明らかにした. 本年度の主な成果は以下の2点となる.(1)昨年度に構築したシステムモデルを, より一般的な枠組みに拡張し現実的な問題設定に近づけた. 具体的には, 制御対象のモデルについて, これまで既知としていたアクチュエータ側のパラメータにも不確かさがある場合を扱えるようになった, さらに, 通信される情報の不確実性についても, ある期間に集中的に通信障害が発生する場合を表現できるように障害の発生モデルを一般化した.(2)システムの安定性に加え, 収束速度についても解析を行った. Markov Jump Linear Systemsの結果を基に, 状態の収束速度が, ある行列のスペクトル半径で評価できることを示した. これにより, 安定化限界を満たしている場合にっいても, 不確実性が収束速度をどの程度悪化させるかを評価することができるようになった.以上の成果の一部を, 学術論文誌や国際学会に投稿し2編の採録が決定したほか, European Control Conference (7月, Zurich, Switzerland)にて発表を行った. 本発表はBest Student Paper Award Finalistとして選出される評価を受けた.
著者
森内 健行
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は環境にやさしい次世代モバイル用エネルギー源として,光合成バクテリアを利用し,光エネルギーのみで持続的発電が行える,長寿命,マイクロバイオ燃料電池の実用化へ向けたプロトタイプの開発とその性能評価を目的としている.本年度は特にマイクロバイオ燃料電池の出力向上および長寿命化に向け,以下の研究を実施した.(1)電池の高出力化に向け,C-MEMS(Carbon-Micro Electro Mechanical Systems)技術を用い多孔質カーボン電極を作成し,マイクロバイオ燃料電池に適用し性能評価を行った.多孔質カーボン電極を用いることで,2.14μW/cm^2と従来研究と比較して8倍の高出力化を行うことができた.(2)電気化学測定の一つである,サイクリックボルタンメトリー(CV)を用い,ポリアニリン電極の酸化還元電位,及び,ポリアニリンによる細菌からの電子抽出を評価した.ポリアニリン電極の酸化還元電位は標準水素電極(SHE)に対して,+0.3V付近を示した.実際にポリアニリン電極を細菌溶液(シアノバクテリア+リン酸緩衝液)中に入れ,CV測定を行ったところ,細菌を入れる前と後で,+0.45V付近における酸化電流が大幅に増加していることが確認できた.これより,ポリアニリンによる細菌からの電子抽出を実験的に検証することができた.(3)電池の長寿命化に向け,培地還流システムの試作,及び,その評価を行った.本研究では細菌から電子を抽出することで発電を行っており,発電に伴い細菌の活性が低下し,電池寿命が短くなるという問題があった.そこで,電池内の細菌を循環させることで,活性の高い細菌から持続的に発電を行える培地還流システムを提案し,電池に適用した.培地還流システムを用いることで,従来研究と比較して3倍以上の長寿命化を達成でき,本システムの有効性を示すことができた.
著者
小林 照義
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

『名目.G.DPターゲティングと為替レートの変動』では、従来閉鎖経済モデルのもとで分析されていた名目GDPターゲティングのパフォーマンスを開放経済に拡張した。この論文では、開放経済のもとで発生する交易条件ショックの安定化についても、名目GDPターゲティングの設定によって適切に対処されることが明らかになった。この結果はGDPターゲティングの望ましさを開放経済のもとでも確認するものである。『Hybrid inflation-price-level targeting in an Economy with output persistena』では、従来から頻繁に議論されてきたインフレ・ターゲットや物価水準ターゲットだけでなく、その中間的な物価目標を提案している。この分析によると、生産量の持続性が比較的強い場合には"ハイブリッド型ターゲット"が最も望ましくなることを示している。その上で、最適なターゲット水準を明確に求めることに成功した。また、この論文はいわゆる"new classical model"で分析しているが、その後同様の研究を"New Keynesian model"で行ったところ、やはりハイブリッド型の物価目標を導入することで社会的厚生が高まることが明らかになった。
著者
則 のぞみ
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本年度特別研究員は、ICU入室患者が有する複数の疾病の組合せを反映する患者に個別化されたリスク予測手法を開発した。特別研究員はこれまでの研究で、疾病をタスクの単位とするマルチタスク学習手法により、疾病に個別化された予測モデルを構築した。しかし、患者は通常複数の疾病を有するため、これら複数の疾病の組合せを考慮することで、患者の個別性をより捉えたモデル構築が可能になると期待される。一方、患者の有する疾病の組合せは多くの場合、当該患者に固有の組合せとなるため、疾病の組合せごとにタスクを明示的に構築するようなナイーブな手法は有効ではない。特別研究員は患者の個別性を捉えたモデリングのため、患者が有する複数の疾病群から患者の潜在的なタスクを学習するマルチタスク学習手法を開発した。また、実データを用いた実験により、提案手法の有用性を予測精度や予測モデルに基づく知見抽出等の観点から評価した。提案手法により、患者に個別化されたリスク予測および学習モデルの分析等を通じた患者の個別性に対する知見抽出が期待された。更に、その他のこれまでの研究テーマについても、より網羅的な評価実験等を行い研究を進めた。
著者
水垣 滋
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、湿原における過去約100年間の土砂堆積実態を明らかにし、1960年代を境に激変した流域の土地利用が土砂動態に与える影響を検討することである。本年度は、湿原内における堆積土砂の年代測定に基づいて土砂堆積量を推定し、昨年度までの流域土砂生産・流送・氾濫堆積過程の解析結果と併せて、土地利用変化に伴う流域土砂動態の変化実態を明らかにした。【調査及び分析】昨年度に引き続き、河床縦横断測量及び浸食量モニタリングと湿原土壌の放射能(^<137>Cs、^<210>Pb)測定を実施した。また、粒度、有機物含有率及び土粒子密度も測定した。【データ解析】湿原内の堆積速度は^<137>Cs及び^<210>Pb測定に基づく年代測定により推定した。また湿原堆積土砂量を推定するため、土層区分と^<137>Cs分析による1963年表土深との関係について検討した。さらに浸食量データより推定した年間土砂生産量を既存の土砂流送量データと比較検討した。【本年度の成果】河川湿原流入部では、明渠排水路工事期間(1960〜70年代)に顕著な土砂堆積が認められ、工事以前(1940〜50年代)と以降(1980年代〜)の堆積速度は十数倍に増加していた。湿原流入部における1963年以降の微細土砂堆積量(約7500t/year)は、土砂流送量(約9900t/year)と同オーダーであり、湿原流入土砂の大部分が湿原流入部で氾濫堆積していることが明らかとなった。一方、中流域で1985〜1990年以降に河床低下が進む流路直線化区間の微細土砂生産量は4400t/yearであり、土地利用開発後の新土砂生産源としての重要性が示された。さらに中流域氾濫原では土砂貯留量の減少が示唆された。以上から、流路直線化により中流域では微細土砂貯留量の減少と生産・流送量の増加がもたらされ、下流湿原内の堆積速度が大きく増加したものと考えられる。
著者
吉田 幸司
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本年度は、前年度までの、F.H.ブラドリー、W.ジェイムズ、A.N.ホワイトヘッドの形而上学研究、およびそれらと現代英米哲学の主潮との比較研究を継続しつつ、価値経験や宗教的経験のような個別的経験と科学知を統合的に論じた形而上学としてホワイトヘッド哲学を評価し直す研究を遂行した。1.現代英米哲学の主潮、特にクワインの自然主義と、ホワイトヘッド哲学の方法を比較研究した。その結果、両者とも科学と形而上学の境界は曖昧だと考える一方、ホワイトヘッドは「よりよい理解」を通じて「よりよい生」へ冒険する働きを「思弁」に見出す点で自然主義と一線を画すことが明らかになった。2.むしろ、ホワイトヘッドにとって哲学が例証を見出す事実は、科学が扱う経験的事実だけでなく、情感的経験や宗教的経験の事実でもあった。本研究は、ホワイトヘッドが、科学史や哲学史を解体しロマン主義的自然観を取り入れる中で独自の術語群を作り出し、世界に関する「よりよい理解」を獲得するとともに、科学・哲学・芸術を有機的に結びつけたことを明らかにした。3.彼の形而上学における神の記述も、本研究では、神学ではなく、S.アレグザンダーらの創発的進化論や哲学的人間学の脈絡のうちで展開した。これにより、生の意義や神的経験に関する形而上学的記述を我々の具体的経験に即して論じ直すことに成功した。4.さらに、ジェイムズの『宗教的経験の諸相』やブラドリーの方法論、現代スピリチュアリティ思想や脳科学研究を参照しながら、宗教的経験の意味に対する科学・哲学・宗教のアプローチの違いを研究した。その際にプラグマティズムを発展的に応用し、意味の世界を支えているがそれに先立つ基準の転換として宗教的経験の宗教性を捉える新たな提案を行った。5.また、科学者やアーティストとの学際的な研究活動・報告も積極的に行い、哲学を実践において活かす様々な提言をすることができた。
著者
宇佐美 こすも
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

今年度は学会発表1件、論文掲載2件の成果を得た。学会発表は今年も東大比較文学比較文化研究室主催の大澤コロキアムにて、英語で口頭発表を行った。同研究会には修士進学以来5度目の参加で、毎年刀剣に関する研究発表を行っている。日々の研究活動で英語を必要としない一方で、留学生や海外研究者の関心が高い分野であるので、毎年この機会を活用して外国語でも研究発表ができるよう意識的に練習ができたと思う。本年の大澤コロキアムの発表内容をもとに体裁を整えたものが、本年受理された論文の1つである。英語で日本史の論を展開するにあたって、課題としては古記録の扱い方や古文書等の出典の書き方、専門語に対し適切な翻訳を施すなどいくつかあるが、引き続き練習してゆきたい。本年度に掲載決定したもう一つの論文は、日本美術刀剣保存協会の『刀剣美術』に投稿した。内容は、室町時代の上流階級で贈答されていた刀剣の拵とその使い分けを、日記をもとに明らかにし、それをもとに室町将軍と天皇家・公家との関係を考察したものだ。当初は文献史学系の雑誌に投稿しようと計画していたものの、用語解説や補足説明に紙幅をとられ十分な議論展開ができないと考え日本刀専門誌に投稿した。幸いなことに、既に多くの反響をいただいている。とりわけ刀身の鑑定・鑑賞が主だった刀剣研究を、政治史・文化史に結び付けようとする拙稿の視点を高く評価してくださり、調査協力を申し出ていただいている。
著者
鈴木 雄大
出版者
専修大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

「反因果説に基づく反自然主義的な行為観の構築」という本研究プロジェクトの第3年目の本年度は、行為に関する「選言説」と呼ばれる立場を整理し、そのうちのあるバージョンを擁護することを主目標とした。行為に関する選言説は、行為にとって重要な三つの要素に関連して、三つの種類に分類される。その三つの要素とは、身体動作・意図・理由である。理由に関する選言説についてはすでに前年度に研究を進めたので、本年度の主な研究対象は身体動作の選言説と、意図の選言説であった。行為の反因果説に対立する因果説によれば、何らかの行為がなされるためには、ある身体動作が何らかの意図によって引き起こされたのではなければならない。この主張を導き出すために、意図の共通要素説と、身体動作の共通要素説が前提となる。意図の選言説と身体動作の選言説は、そうした前提をそれぞれ拒否することによって、因果説を導くことを防ぐ。まず身体動作の選言説に関しては、行為に関わる身体動作と、行為とは無関係な身体動作との間の比較が問題となり、身体動作の選言説は、二つの身体動作は同種のものではないと主張する。本研究は、身体動作の選言説を擁護するための理論構築を行い、その研究成果を、2016年6月6日に立正大学で開かれた国際ワークショップTaipei-Tokyo Workshop in Philosophyにおいて発表した。次に意図の選言説に関しては、行為へと実現した意図と、行為へと実現しなかった意図との間の比較が問題となり、意図の選言説は、二つの意図は同種のものではないと主張する。本研究は、意図の選言説を擁護するための理論構築を行い、その研究成果を、2016年11月26日に台湾の東呉大学で開かれた国際ワークショップSoochow International Workshop on “Knowledge and Action”において発表した。
著者
生出 拓馬
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本年度は,昨年度に実施したプロトタイプシステムの試作に基づき,実環境・実端末上で動作可能なセンサ指向ソフトウェア構築プラットフォームの研究開発を推進した。具体的には,既存のWi-FiおよびBluetoothプロトコルを協調させた新たなプロトコルを設計し,提案プロトコルを用いてスマートフォン間で自由にD2Dネットワークを構築可能な通信基盤を実装した。提案プロトコルは,事前設定が不要で周辺端末と接続し,任意の端末とのユニキャスト通信が可能である。各端末は定期的に情報を更新して他端末の位置情報および通信経路を学習するため,同基盤を搭載する全ての周辺端末との接続性をアプリケーションに提供する。このプロトコルおよび通信基盤により,既存の通信インフラを介さずに周辺端末との自由な通信が可能となり,特に災害時における情報共有といったユースケースへの適用が期待できる。商用のAndroid端末を用いた実証実験においては,既存の通信インフラを用いずに端末間のみでWi-Fiネットワークを構築し,任意の端末と低遅延でユニキャスト通信が可能であることを確認した。また,未知の周辺端末およびIoTデバイスとの任意のセンサデータの流通では,流通データにパーソナルデータが含まれることが懸念されるため,交渉・契約プロトコルにプライバシーの概念を導入することが求められる。そのため,利用者のプライバシー感覚に応じた適切な流通データの開示程度決定手法について,詳細設計及びシミュレーション評価を実施した。
著者
田中 亜以子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成23年度は、避妊による快楽と生殖の分離が、夫婦間の性行為にいかなる変容をもたらしたのかということを明らかにするために受胎調節の啓蒙が国家政策となった1950年代に着目した。これまで先行研究は、避妊技術と夫婦の「快楽の性」への志向性が手を携えて浸透していったこと、さらにそのことと連動して性行為における「感じさせられる女」と「感じさせる男」という役割規範が浸透していったことを指摘してきた(川村1998、荻野2008)。だが、夫婦間の性が「快楽」への志向性を高めた結果、なぜそこで「感じさせられる女」「感じさせる男」が演じられるようになったのか。その受容過程は、ほとんど問われてこなかった。「戦後」という時代に「感じさせられる女」「感じさせる男」が、たしかに脚光を浴びたことは、ヴァン・デ・ヴェルデの『完全なる結婚』が1946年にベストセラー化したことによって証拠づけられてきた(橋爪1995、川村1998、田中雅2010)。セックスのゴールを男女の同時オーガズムに設定した『完全なる結婚』は、女をオーガズムに導く責任を男に課し、そのための技巧や体位を詳細に記述した性のマニュアル本である。そうした書がベストセラーになったことが、日本社会に大きな影響を与えたことを否定するつもりはない。だが、『完全なる結婚』において何が提示されたのかということが繰り返し論じられてきたのに対し、そこで提示されたことがどのような論理によって受容されたのかということについては、これまでほどんど問われてこなかったのである。啓蒙側と受容側にズレはなかったのか。あるいは男と女の間のズレはどうだろうか。申請者は、そうした問いを立てることによって、「感じさせられる女」「感じさせる男」が共に平等と支配と関係を取り結んできたメカニズムを解明した。具体的には、まず性に関する当時のオピニオンリーダーたちが何を考え、何を発言していたのかということを整理した上で、夫婦雑誌の流行に着目し、「感じさせられる女」「感じさせる男」が「戦後」という時代にどのような枠組みにおいて注目されることになったのかということを浮かび上がらせた。続いて、1949年6月に創刊され、既婚男性を主たる読者とした『夫婦生活』という雑誌に着目し、「感じさせられる女」「感じさせる男」がどのようなものとして啓蒙され、かつ、どのような論理で男たちに受容されていったのかということを分析した。最後に、50年代を通して女性月刊誌の中で最も読まれた雑誌であり続けた『主婦の友』に着目し、性生活関連の記事を『夫婦生活』との比較の観点から分析することで、受容の論理の男女差に光を当てた。
著者
猪瀬 優理
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

平成14年度は、札幌市に住む活動的創価学会員の入会・入信動機、活動頻度、家族状況、ジェンダーに関する意識、二世信者の背景的状況などについて調査するため、北海道創価学会の方と交渉の末、1200名の活動的学会員を対象に調査票調査を実施した。平成14年の11月に実施し、820票あまりが回収された。本研究の目的は、信仰継承過程の解明であるため、非活動者や組織から離脱した二世信者への調査が実施されるべきであったが、実際的には困難がともなうため、活動的二世信者の状況について調査した。一世信者との比較などから間接的ではあるが、信仰継承に関する知見を得られるものと思われる。年度終了近くの調査であったため、まだ詳細な分析結果は出ていない。今後は、この調査の分析を深めるとともに、調査票調査では拾いきれなかった信仰継承とジェンダーの再生産過程の質的な側面をインタビュー調査によって補充する予定である。また、ものみの塔聖書冊子協会については、雑誌論文(『宗教と社会』第8号,19-38)が掲載された。ここでは、信仰を継承しない場合も二世信者特有の問題があり、またジェンダーの要素が重要な意味を持つことを確認している。日本宗教学会大会のテーマセッションにおいて家庭にとどまることが多い既婚女性が教団組織活動へ参加する理由は、ジェンダーに規定されている部分が大きいことについて事例をもとに発表した(外部との接触、知的刺激にかけていたこと、仕事中心などの理由から夫とのコミュニケーションが希薄であったことなどを解消する手段として教団活動が女性たちに認知された)。本年度の調査研究から、教団組織におけるジェンダーの問題をとらえるには教団組織活動への関与度を確かめる必要性が確認され、創価学会の調査においても家族における社会化過程とともに組織における社会化の側面をより重視した分析を行う方向に修正された。