著者
宮田 伸一
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

昨年までに,カンキツグリーニング病を罹病させたニチニチソウの主脈を用いて、Cα. L. asiaticusの濃縮画分からの抽出DNAを用い,ゲノムDNA増幅キットによってゲノムDNAの増幅の後,プラスミドベクターにショットガンクローニングして塩基配列決定を行った。今年度は本クローニング手法を繰り返し実行し,その結果,第1段階スクリーニングによってα-プロテオバクテリア由来の配列に分類されるクローンを選抜し,さらにPCRによる第2段階スクリーニングを行って陽性クローンについては全塩基配列を改めて決定した。これらの陽性クローンの塩基配列情報を元に疎水性領域をもつものを探索したが,膜タンパク質のようにトランスメンブレンドメイン(疎水性領域と親水性領域が咬互に存在する)を持つものは見つからなかった。またドメインデータベースに対して検索を行ったところ、細胞外にSecシステムやABCトランスポーターによって輸送されるようなシグナルドメインをもつものも存在しなかった。しかし細胞外からの熱・浸透圧・イオン濃度などの刺激を受容して遺伝子発現制御を行うシグナル伝達系である二成分制御系因子の受容体であるSensor Kinase候補が存在したため,今後は全長配列の決定に向けてTail-PCR法やGenomic Walker Kitなどによる隣接領域の取得を試み、さらにペアとなるReceiver Domainの候補遺伝子の探索に取り組む。
著者
植村 隆文
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、単一分子の発光現象の観測・制御を目標として研究を行った。走査トンネル顕微鏡を用いて単一分子を観測しながら、単一分子からの非常に微弱な発光を検出可能にするために、プラズモン増強効果による発光増幅効果を応用し、単一分子からの発光現象の観測に成功した。また、この結果を応用し、将来のディスプレイ・照明デバイスとして期待される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上に成功した。
著者
田ヶ谷 浩邦
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

慢性不眠症における睡眠状態誤認のメカニズムを明らかにするため、睡眠圧の高い条件(高睡眠圧)と睡眠圧の低い条件(低睡眠圧)において、主観的睡眠時間について検討した。被験者は若年健常男性7人(21-23歳)で、実験は室温・湿度・照度・騒音レベルを厳密に統制して4日間に渡って行った。被験者は、第1日目の夕刻に来所し、0時より7時まで適応睡眠をとったあと、第2日朝から第3日昼にかけて28時間の断眠を行った。断眠中は室内の照度は150luxに保ち、運動は控えさせた。第3日の12時より21時まで、高睡眠圧条件での睡眠をとり、第4日の12時より21時まで低睡眠圧条件での睡眠をとった。高睡眠圧および低睡眠圧条件における9時間の睡眠ポリグラフ記録(PSG)を90分ごとの6睡眠区間に分割し、それぞれの区間で睡眠段階2の時に覚醒させ、構造化面接を行い、主観的睡眠時間、主観的時刻、主観的入眠潜時を聴取した。それぞれの面接は照度5lux以下で行い、2分以内に終了させ、直ちに消灯した。PSGは国際判定基準に従って判定し、客観的睡眠時間、入眠潜時を求めた。統計解析には分散分析、Spearman順位相関を用いた。合計84の睡眠区間のうち、高睡眠圧条件の41区間、低睡眠圧条件の38区間で、1エポック以上の睡眠が記録され、この79区間を解析した。主観的睡眠時間は両条件下で客観的睡眠時間より有意に長かった。その他の客観的睡眠指標は条件による違いがなかった.主観的睡眠時間は低睡眠圧条件で高睡眠圧条件より有意に短かかった。主観的睡眠時間は客観的覚醒時間(分)、客観的覚醒時間(%)、面接施行時刻と有意な負の相関を示した。しかし、客観的睡眠時間(分)とは相関を示さなかった。主観的睡眠時間は低睡眠圧条件において高睡眠圧条件より短く、客観的睡眠時間ではなく、客観的覚醒時間と相関を示した。
著者
齋藤 学
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

名作椅子を用いた"体感型"鑑賞教育プログラムは、一般的な"見る"鑑賞に比べ、生活におけるデザインの働き(形状・素材・色・機能など造形の諸要素の関係性)について理解が得やすく、その学習効果の優れた特性が認められた。また、本プログラムをシステム化し効果的に運用(教材の管理とアウトリーチ)していくためには、地域における学校間の連携と、自治体、公共施設、非営利団体、企業等の支援体制の整備が不可欠となる。
著者
渡部 幹
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

社会的交換ネットワークの変容とその規定要因となる心理的特性--公正感と信頼感--に焦点を当てた実験研究を行った。社会的交換状況において不公正分配をされた者が、その状況から脱出しようとする傾向を持つこと、そしてそれによりネットワーク構造全体が変容しうることを確かめるための実験を行った。20名程度の実験参加者がコンピュータを介して、資源の取引を行うという状況を作る。この実験では、すべての参加者が相手に対して不利になるようにあらかじめ設定されており、参加は必然的に、取引相手から搾取され、不公正な分配を受け入れなくてはならない状況におかれる。実験では、このような状況にいる参加者が、公平な分配を受けている場合に比べ、コストをかけてでも取引相手からの離脱を望むかどうかを検討した。予測通り、不公正な分配を受けた参加者は、公正な分配を受けた参加者よりも、交換状況から脱出する傾向の強いことが示された。この結果は、2002年12月に米国で行われた研究会にて発表され、その際の議論をもとに、現在、結果のより詳しい分析を進めている。また、不公正・公正な分配そのものを左右する心理的要因を探るために、最後通牒ゲームと独裁ゲームを用いた研究を行った。これらのゲームは、見知らぬ他者と自分との報酬分配に関するもので、公正な報酬分配を行う者に特徴的な感情や行動傾向との関連性を調べるために、日本人被験者を用いた実験が行われた。この結果、「他者一般への共感能力」の高い者が自発的な公正分配を行う傾向の高いことが見出された。この結果は、2001年8月のアメリカ社会学会、2001年10月の日本社会心理学会にて報告された。この他にネットワーク変容に影響を及ぼすもうひとつの規定要因である信頼感について、その醸成に関する実験研究も行われた。この理論的概要と結果は、土木学会誌および2002年の日本社会心理学会にて報告されている。
著者
原口 弥生
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、2005年夏に米国で発生したカトリーナ災害に関する環境影響の総合的把握と、災害に由来する環境問題への政治的社会的対応について、特に人種関係に留意しつつ明らかにすることを目的として研究を行った。とくに、複合災害の事例として住宅地における石油流出事故、災害廃棄物をめぐる環境正義運動、生態系サービス機能に着目した湿地保全運動、復興過程における住民の居住する権利と都市の防災力向上とのジレンマなどについて実態を把握し、考察を進めた。
著者
深港 豪
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では、真の単一分子デバイスの実現に向けて、情報を読み出す光とスイッチを行う光刺激がそれぞれ独立に作用する "非破壊読み出し"機能を有するフォトクロミック蛍光スイッチング分子の開発をめざした。紫外領域でのみフォトクロミズムが起こる不可視型ジアリールエテン分子を開発し、その不可視型ジアリールエテンと蛍光色素を連結した分子を用いることで、分子内電子移動を利用した可逆的な蛍光スイッチングおよび完全な非破壊読み出しが達成できることを実証した。
著者
山下 淳
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,方向変化が可能な複数台の視覚センサを持つロボットに対して,複数観測戦略を導入することで環境認識の確実性を向上させたロボットの行動設計手法を提案する.具体的には,(1)観測精度の向上と(2)視界の明瞭さ向上を目的とする.ここで,人間の目の可動範囲は限られているため,主にステレオ視のみで物体との位置関係を推定する.一方,ロボットの場合は可動範囲の制限がないため,(1-a)ステレオ観測(同じ物体を複数カメラで観測),(1-b)灯台式観測(別の物体をそれぞれのカメラで観測),(1-c)複合型観測((1-a)と(1-b)の組み合わせ)など同じ場所で環境認識を行う際においても,複数観測戦略を採ることができる.そこで,各方法の観測精度を向上させるとともに,状況に応じて観測戦略を切り替えることで,(1)を解決した.具体的には,環境中の目印となる物体の配置や個数などに応じて最適なロボットの移動経路・観測地点・観測戦略をそれぞれ計画する手法を構築した.ここでは,特にロボットのカメラの性能や移動性能に応じた行動設計方法を提案した.さらに,計画手法を改善することにより,行動設計に必要な計算時間を短縮した.また,悪天候時にはカメラの保護ガラス面に水滴や泥が付着するなど,常に明瞭な視界が得られるわけではない.そこで,(2-a)同じシーンを観測中の複数カメラの情報融合,(2-b)カメラ方向を変化させることにより得た単体カメラからの時系列情報融合,によってそれぞれ(2)を解決した.具体的には,視差のあるステレオ画像について,ノイズが付着していない部分の情報を組み合わせることで明瞭な画像を生成する方法を構築した.また,移動物体が存在する状況においても視野明瞭化を行う手法を提案した.
著者
大歳 太郎
出版者
星城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

従来のシンボルを取り入れたコミュニケーションエイドの一種であるPDAを参考として,新しいPDAのプロトタイプ機器を開発し,予備的実験を実施する.そして,当該機器を用いて,自閉性障害児の重症度別,精神発達年齢別におけるPDAを用いたシンボルのマッチング得点の比較から適応年齢を検討し,セラピストが自閉性障害児にPDAを提供する際の適応指針を構築する.
著者
梅田 克樹
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

イタリアの農業は、危機的状況に陥っている。厳しい環境下において農場を維持するために、生産コストの圧縮や農産物の付加価値向上、農外部門への進出などが図られている。イタリア中北部においては、アグリツーリズモや農場レストランと、農産物加工・販売とを組み合わせる事例が多くみられる。そのために必要なコンヴァンシオンを獲得するための手段として、地理的表示システムの活用や有機・減農薬農業への参入が相次いでいる。
著者
島田 照久
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高解像度の衛星観測と気象シミュレーションデータを解析し、山形県庄内平野に吹き込む季節風は、ユーラシア大陸の地形の影響を受けつつ、日本海の海洋フロントによって段階的に気団変質を起こしていることを明らかにした。冬季季節風は、冬の日本海の海況や日本列島の気象に決定的に影響し、強い季節風が気象災害の原因となることもあった。本研究で明らかになった日本海における大気海洋陸域相互作用は、日本の冬の気象のさらなる理解に貢献する。
著者
植村 一広
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ロジウム挿入型白金一次元鎖(-Pt-Rh-Pt4-Rh-Pt-Cl-)の結晶構造をもとに, -Pt-M-Pt4-M-Pt-Cl-(M=異種金属)の繰り返し単位を有する,新規異種金属挿入型白金一次元鎖の合成検討を行った.検討の結果,Pt-Rh部位の補助配位子と架橋配位子を替えた新規ロジウム挿入型白金一次元鎖とロジウム挿入型白金八核錯体の合成,そして、その単結晶X線構造解析に成功した.また,興味深い電荷分布を持つ,新しい白金-異種金属多核錯体の合成に成功した.
著者
田中 浩基
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

高効率かつ精度よく二次荷電粒子を検出する手法として、飛程の違いを利用した粒子識別方法を考案し、その原理実証のためのマルチワイヤ二次元ガス検出器の開発を行った。原子力機構FNS 施設において、アルミニウム薄膜ターゲットに14MeV 中性子を入射することにより発生する荷電粒子の放出角(飛程)とエネルギー情報の同時測定を実施した。本研究の飛程識別手法を用いることで高効率かつ精度良く二次荷電粒子を検出できることを実証した。また高速中性子の二次元イメージングが取得可能であるという、新たな知見を得ることができた。
著者
背戸 博史
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

日本近代化過程における民衆統合のメカニズムは、「伝統」の擬制的創造の過程であり、その実質化をすすめてきたのは、明治以降に創設された近代学校による「伝統」の擬制化であった。早急な近代化をすすめる過程において、近代学校は、旧来からの民衆的慣習を巧みにアレンジすることで、進行する近代社会の進展に「自然性」を付与し、民衆による受容を促進してきたのである。しかし、「琉球処分」により、旧来からの支配機構を温存させたまま、日本近代社会に編入された沖縄にあっては、近代学校の果たす役割は「本土」のそれとは対照的なものであった。そこでは、急速な近代化を「自然」に装う戦略は選ばれず、近代学校は、極めて抑圧的に、新たな言語・文化・思想を注入する場として機能したのである。ただし、本研究においてその過程をいくつかの事例によって検証した結果、抑圧的な沖縄型近代学校も、一義的に「抑圧的」であったとは結論し得ないことが明らかになった。本研究が事例としたのは伊平屋島や伊計島のような離島地域であったが、沖縄の中心地から隔たる地域にあっては、むしろ積極的に近代学校を受容し本土化することで、沖縄圏内におけるそれまでの(離島的)後進性を払拭しようとする傾向も少なからず見られるのである。その際注目されるのは、沖縄においても展開された報徳会運動であった。沖縄における報徳会運動には、本土のそれとは異なる論理が貫かれていたと考えられるが、沖縄近代化過程の特異性は、沖縄において展開された報徳会運動の特異性を検証することでより明確になるという仮説を得ることができた。
著者
岡澤 慎一
出版者
宇都宮大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

重度・重複障害児3事例を対象として,彼らが表出した行動を確定し,その意味を見出すとともにその際のやりとりにおける関係性のあり方について検討した.その結果,(1)対象児から表出された微弱微細な状態変化を糸口として係わりを展開することが妥当であること,(2)視覚的に確認できないほど微弱な身体の動きが係わり手との共同的活動のなかで拡大すること,(3)重度肢体不自由事例との話題の共有化過程の様相,等が明らかになった.
著者
宮崎 隆彦
出版者
東京農工大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、80℃以下の温水を利用して10℃前後の冷水を供給する吸着冷凍機の高性能化を目的とし、新たな吸着冷凍サイクルの提案・実証を行った。シミュレーションによる性能予測から、提案する二段蒸発型吸着冷凍機は従来型の1.5倍の冷凍能力、1.7倍のCOPとなることが予測された。実験機による性能検証の結果、想定した温度・圧力範囲で動作することを確認し、温水温度80℃の条件においてCOPが約1.5倍となることを実証した。
著者
小川 朝生
出版者
国立がんセンター(研究所及び東病院臨床開発センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

化学療法の発展に伴い長期的な予後が期待できるようになった一方、化学療法後に慢性的に中枢神経系有害事象(認知機能障害)が生じる可能性が指摘されるようになった。この認知機能障害はchemo-brainと総称される。しかし、認知機能障害と化学療法との関連性、その機序に関する検討は未だ途上である。そこでわれわれは、化学療法前後を通して、脳構造画像の変化を追跡し、その病態メカニズムを検討する研究計画を立案し、脳画像の測定技術を確立した。
著者
渡部 守義
出版者
明石工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

浅海域底層の生物環境の良否を簡易に評価する指標として、世界中の海に生息する特徴的なパルス音を終始発しているテッポウエビに着目した。その一分間あたりの発音回数(パルス数)が環境指標として利用可能であるかを探ってきた。本研究は、これまでの研究を受け、本手法を実用化するための課題を解決し、テッポウエビの発音計数による浅海域生物環境評価法が誰にでも利用可能できるものにすることである。1.パルス計測システムの開発(テッポウエビカウンター):本装置を用いれば、現地でテッポウエビカウンターに水中マイクを接続し、計測ボタンを押すだけでパルス数(回/分)を表示することができる。2.測定条件明確化のための海域調査:上記テッポウエビカウンターを用い港湾にて各月の定点モニタリング調査と兵庫県の沿岸部のパルス数分布調査を実施した。その結果、定点モニタリングではパルス数の季節変化を再現するとともに夏期の貧酸素発生によるパルス数の減少を確認することができた。また兵庫県の日本海側ではどの地点でもほぼ同数のパルス数であったのに対し、瀬戸内海側ではパルス数が日本海側より多い地点や全く観測されない地点が混在していた。テッポウエビ類は水質よりもその場の生息環境を反映するため地点間の水質の相対比較は難しいと考えられる。3.既存の環境指標生物との関係の明確化:今後も引き続き学会参加あるいは文献検索を通じて情報を収集していく必要がある。本事業により開発されたテッポウエビカウンターは、改良すべき点があるもものの水中マイク一本で海域に生息するテッポウエビ類の生息状況を誰でも簡単に知ることができる装置である。複雑さを増す環境汚染を総合的に評価する指標の一つとしても有用となり得ると考えている。
著者
高尾 徹也
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

PETを用いて健常成人における尿意を感じる際の脳活性化部位の検討をおこなった。初期尿意では、両側小脳、右海馬傍回、左上前頭葉、左帯状回が活性化され、最大尿意では両側小脳、左下前頭葉、左淡蒼球、島(右側)、左中脳、左視床が活性化されていた。中脳水道灰白質と橋排尿中枢はROI解析を行うと有意に血流の増加があった。
著者
屋代 如月
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,整合界面を構成する種々の格子構造について「第一原理格子不安定解析」を行うことにより,界面転位発生の臨界ミスフイットの評価や第三元素添加による界面安定化など,2相整合耐熱超合金の界面原子構造設計につながる重要な知見を,電子レベルから精密に評価することを目的とする.昨年度は,基本となるNiおよびNi_3Al単結晶の格子不安定性を詳細に評価した上で,W, Cr, Bの添加の効果について検討した.本年度は,界面原子構造設計の指針となる格子不安定クライテリアマップをより多くの元素について検討するために,Ni以外の10族元素Pd, Ptならびに11族元素Cu, Ag, Auについて,[001]方向単軸引張下の格子不安定性を評価した.本研究の動機にあるように,小数の原子しか扱えない第一原理計算では,強い周期性を仮定した上で変形させるため,系が不安定となっても転位等の局所変形を生じることなく,引張方向の原子面はく離に相当する点まで応力は単調に増加した後,ピーク応力を示して低下する.このピークを「理想引張強度」として評価すると,臨界ひずみは0.23〜0.34の範囲内に分布し,そのときの応力の大小関係はほぼヤング率に応じたものとなった.一方,引張下の格子不安定性を調べると,これまでの報告同様いずれの元素も上述のピークひずみより遙かに小さいひずみで格子不安定条件に達していた.ここで,Pd, Cu, AgはNi, Ni_3Alと同じく横方向変形の等方性がくずれるBorn不安定を示していたのに対し,Pt, Auはせん断に対するB_<44>不安定となっていた.臨界ひずみ-臨界応力上に各元素の理想引張強度ならびに格子不安定となる点をプロットすると,前者は広く分布して相関が見られなかったのに対し,後者は低ひずみ側で,原点を通る同一直線上に乗るような分布を示した.