著者
佐藤 文信
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、X線マイクロビームを用いて、神経細胞め分化を制御し、人工的に配列された神経回路モデルを製作する。神経モデル培養細胞PC12は、放射線照射によってNGF成長因子を必要とせずに神経突起を成長させることが報告されている。卓上型のX線マイクロビーム照射装置を用いて、単一のPC12細胞に照射し、細胞の分化制御を行う技術を開発する。予備実験として、PC12細胞を培養シャーレで培養し、PC12のCo-60γ線照射を行った。吸収線量は最大10Gyで、細胞核内のDNA二重鎖切断の指標となるγ -H2AXの産生を蛍光抗体法で調べた。γ線照射直後では、γ -H2AXを示す応答が最大となり、24時間後には、修復作用によって10%程度まで減少していることが判った。また、4〜5日後より、神経突起を成長させる細胞が現れ、全体の20%のPC12細胞が分化することが判った。人工的に細胞を配列するためにマイクロチェンバーアレイチップを製作した。マイクロチェンバーアレイチップは、SU-8感光樹脂を用いてフォトリソグラフィーでガラス基板上に形成した。細胞を格納するための1個の容器の大きさは40x40μmで深さ15μmとなっている。また、オートクレーブで滅菌処理し、表面にゼラチン層を塗布した。マイクロチェンバー内にPC12細胞が培養されたサンプルを用意し、X線マイクロビーム照射装置を用いて最大10Gyまで照射した。γ線実験と同様に、照射直後では、γ -H2AXを示す応答が最大となり、24時間後には応答は小さくなっていた。ただし、神経細胞の分化については、ターゲット細胞の数%以下で見られ、γ線をもちいた場合と比較して、低い値となった。
著者
波照間 永子 花城 洋子 大城 ナミ
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、琉球舞踊の技法「動作単元」のデータベース化を企図したものである。動作名称・動作特性・伝承方法等の総合的なデータを記録しているが、今回は、伝承方法に焦点をあて、5名の県指定無形文化財保持者およびそれに準じる者に聞きとり調査を実施した。その結果、1960年代初頭の流派発足以前は、複数の師から十八番芸を学ぶ「複数師匠型」の伝承スタイルであり、動作単元の定義や伝承方法に多様性が認められることが明らかになった。これらの多様性をも視野に入れたデータ内容の検討が必要である。
著者
漆原 あゆみ
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

電離放射線により引き起こされる様々な影響の中でも、放射線発がんにつながると考えられている遺伝的不安定性の原因因子を特定する事は、放射線の生物影響を明らかにするだけでなく発がん過程を解明する上でも重要である。本研究は、遺伝的不安定性の誘発原因を明らかにするため、電離放射線によって生じるDNA損傷の中でも非DSB型のクラスター損傷に着目し、その遺伝的影響について、染色体異常を指標とした解析を行った。
著者
橋本 温
出版者
阿南工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

都市部の下水および河川水から検出されたクリプトスポリジウムオーシストを顕微鏡下でマニピュレートして単離し,オーシスト1細胞からDNAを抽出して,18S rRNA遺伝子領域の一部を標的としたPCR法でDNAを増幅した。増幅したDNAはシーケンスして塩基配列を明らかにし,検出されたクリプトスポリジウムの種・遺伝子型を調べた。下水からは239個のクリプトスポリジウムオーシストを単離し,そのうち121個(62%)の遺伝子型が明らかになった。最も検出頻度が高かったものはCryptosporidium parvum genotype1で,78個(33%)で,ついでC.parvum genotype2 16個(7%),C.meleagridis 13個(5%)であった。下水では人への感染が報告されているこの3つのタイプがほとんどであった。河川水については,遺伝子型の解析が困難であったものの割合が下水よりも多く,71個のクリプトスポリジウムオーシストを単離したうちの23個(32%)についてのみ,遺伝子型が明らかになった。このことは,河川水中で検出されるオーシストが下水中のものよりも感染者より排出されてからの時間が長いなどによって,DNAの保存性が低くなっていることが一つの要因として推測された。河川から単離されたクリプトスポリジウムも下水同様にC.parvum genotype1の割合が最も高く18個(23%)であった。さらに豚を由来とするC.sp PG1-26が3個(4%)であった。オーシストのDNAの保存性についてFISH法を用いて調査する手法について検討したところ,精製水中では保存性は高いものの,下水に暴露させたオーシストでは2日程度でFISH法の染色性が著しく低下した。このように,FISH法を生育活性の評価に用いるための基礎的な情報を得ることができた。
著者
西村 直子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,ヤジュルヴェーダサンヒター冒頭のマントラ(祭詞,祝詞)集成とそのブラーフマナ(マントラの解釈,意義付けと神学議論)のローマ字テキスト作成,翻訳と注解,並びに分析を行い,ヴェーダ祭式における穀物祭の本祭前日に成される準備儀礼について全容を解明することを目的として出発した。内容は「放牧」「敷き草刈り」「搾乳と酸乳製造」という3つの表題に分けられ,研究全体は「総論」「テキスト」「翻訳」「各論」の4部構成を取る。本年度は「搾乳と酸乳製造」の「各論」後半部分に着手し,酸乳製造の由来を伝えるタイッティリーヤサンヒターII5,シャタパタブラーフマナI6,4と,他派に対応のないマントラを集めたタイッティリーヤブラーフマナIII7,4以上の文献箇所のテキスト作成と翻訳・注解を行った。これらの箇所は文献成立史と祭式の整備過程を解明する重要な典拠となる。しかし,それ故に一つの単語の意味を確定するのにも細心の注意を払わねばならない。また,各文献におけるマントラの扱いに関しては,後代の儀規文献(シュラウタスートラ)への展開の跡付けにもつながる問題を孕んでいる。中でも,先に挙げたタイッティリーヤブラーフマナIII7,4のマントラの殆どは,タイッティリーヤ派から分派した一学派であるアーパスタンバ派のシュラウタスートラにしか採用されていない。当該箇所を,ヴェーダ文献全体の歴史という大きな枠組みから検討し直す必要のあることも明らかになった。本研究を通じ,タイッティリーヤ派とヴァージャサネーイン派とがヴェーダ祭式を大きく転換させる原動力となったことが更に明らかとなった。それは,両派より古層にあるマイトラーヤニーヤ派,カタ派の議論が前提となっていることは明らかである。その過程の解明には,ヤジュルヴェータ学派全体のマントラ集とヴラーフマナとの精査が必要不可欠である。
著者
西村 直子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,ヤジュルヴェーダのマントラ(ヤジュス:個々の行作に伴って唱える祭詞)と,これに対するブラーフマナ(マントラの解釈,意義付けと神学的議論)の翻訳・精査を通じ,古代インドの祭式文献及び祭式の展開を最古層から解明することを目的としている。特に「搾乳と酸乳製造」に関わる諸問題を精査・解明し,穀物祭の準備儀礼に留まらずヴェーダ祭式全体との関連の中で解明することを目指した。本年度は,インドラによるヴリトラ殺しの後日譚を中心として研究を進めた。この神話は,ヤジュルヴェーダ文献の古層以来,特別な新月祭の供物であるサーンナーィヤと結びつけて議論が重ねられてきた。その展開を辿り,ヴァージャサネーイン派のシャタパタブラーフマナに至って,ソーマの循環理論の整備を促したことを指摘した。サーンナーィヤは,酸乳と熱した牛乳とを献供の直前に混ぜ合わせたものである。本祭前日(ウパヴァサタの日)の晩に搾乳した牛乳を酸乳にし,本祭当日の朝に搾乳した牛乳を加熱する。従来は朔の夜に先立つ日中にウパヴァサタを行っていたものと思われるが,ヴァージャサネーイン派は,月の満ち欠けと神々の食物たるソーマが循環するという観念とを連動させ,新月祭のウパヴァサタを朔の夜が明けた日中に行うべきであると主張する。地上の草や水に宿ったソーマを牛達に回収させ,牛乳として手に入れ,献供することによって月を天界に返すことになる。しかし,この新たな方法は貫徹せず,ヴァージャサネーイン派の人々も朔の夜に先立つ日中にウパヴァサタを行っていたことが贖罪法の議論から推測される。その背後にはソーマの循環理論の整備が関与しており,後の五火説を準備する基盤の一つとなっていたことが窺われる。
著者
長江 拓也
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

現行の設計指針類での露出柱脚の終局せん断特性の評価では,露出柱脚ベースプレートと基礎モルタルの摩擦による最大耐力とアンカーボルトのせん断耐力のうち大きい方を柱脚せん断耐力としている。柱脚負担せん断力が最大摩擦耐力に達し,すべりが生じたのちも一定の摩擦抵抗力が保持されるならば,適切なモデル化を通して強度の加算も可能と考えられるが,実験的裏づけが不足しているため,現状の評価では一旦すべりが生じたのちの摩擦抵抗は考えていない。摩擦係数にして0.5を超えるせん断耐力が安定的に発揮されるとすれば,アンカーボルトのない柱脚,つまり基礎に緊結しない柱脚の可能性や,鋼とモルタルをダンパー材料として用いる損傷制御型柱脚の現実味がおびてくる。本研究はでは,露出柱脚と基礎モルタル間の摩擦実験システムを振動台上に構築し,鋼とモルタル間に動的な多数回繰返しすべりを生じさせることで,すべり進行時における動摩擦抵抗を検証した。得られた知見は以下に示すとおりである。(1)静止摩擦係数:多数回の繰返しすべりに対して静止摩擦係数は常に安定していた。入力波の振幅と振動数に依存せず,静止摩擦係数はほぼ一定であり,実験値の平均値は0.78であった。(2)動摩擦係数:本加振条件下における,すべり時の動摩擦係数は静止摩擦係数と等しく,すべり進行時における摩擦抵抗力は一定となった。つまり,水平外力は静止摩擦を経て,すべり出した後も同等の摩擦抵抗を発揮する。これは,露出柱脚のせん断耐力をアンカーボルトのせん断耐力と摩擦抵抗力の足し合わせによって評価することの可能性を示唆するものである。(3)数値解析による摩擦挙動の再現:すべり時の動摩擦係数を一定と仮定した剛塑性モデルを用いる数値解析では,ほぼ実験で得られた摩擦係数において実験結果のすべり応答を再現でき,すべり応答を通して解析から与えられる動摩擦係数が鋼構造接合部設計指針等で用いられる摩擦係数0.5を上まわることを確認した。
著者
井上 浄
出版者
北里大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

LPSのシグナル伝達はMyD88とTRIFの2つを介した経路が存在する。本研究で新たに開発したLPS-liposomeがTRIF経路のみを活性化することを明らかとし、さらにその活性化にはクラスリン依存性のエンドサイトーシスが重要であることを示した。このLPS-liposomeによる活性化は、これまでTRIF経路活性化に必須とされているCD14を必要としないことから、通常のLPSの認識においてCD14がクラスリン依存性エンドサイトーシスと強く関連することが予測される。
著者
高橋 大輔
出版者
長野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

雄性ホルモンの免疫抑制効果とハンディキャップ原理を組み合わせた性的二形の進化モデルである免疫適格ハンディキャップ仮説を魚類において検証した。その結果、コイ科魚類オイカワでは、本仮説を構築する3つの仮定[1)雌は顕著な二次性徴形質を持つ雄を好む、2)雌の配偶者選択に関わる雄の二次性徴形質の発現は雄性ホルモンに制御される、3)雄性ホルモンは免疫機能を抑制する]が全て成立し、魚類の性的二形の進化モデルとして本仮説が有効であることが示唆された。
著者
川口 敦子
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

前年度にイエズス会ローマ文書館(ローマ、イタリア)で調査収集した資料のうち、日本巡察師ジェロニモ・ロドリゲス宛の書簡2点(Jap.Sin.34,180r-181v,188r-189v)のローマ字書き日本語の本文を翻刻・翻字し、考察した。発信年は不明であるが、発信者とその内容から、1621年頃に書かれたものであると推定した。全体的にキリシタン版の規範にほぼ則った表記であるが、188r-189vの書簡では、版本では二重母音イイを示す表記ijをジの表記とする、特異な表記が見られる。この研究成果は「国語と教育」(長崎大学)第32号に発表した。2007年9月にはポルトガルのアジュダ図書館、リスボン国立図書館、リスボン科学アカデミー図書館(以上リスボン)、エヴォラ公共図書館(エヴォラ)、マヌエル2世図書館(ヴィラ・ヴィソーザ)において、キリシタン関係の写本・書簡類およびキリシタン版を閲覧・調査し、資料の保存状態についての意見交換、先方の書誌情報の修正等の学術的交流を行った。このうち特に重要と思われる資料10点の複写を収集した。ポリトガルでの調査では、ローマ字書き日本語文の文書を探し出すことは困難で、このことからも、イエズス会ローマ文書館に所蔵されているローマ字書き日本語文の書簡は希少なものであり、資料的価値が高いと言える。平成17年度からの研究成果を総合してみると、キリシタンの写本・書簡類におけるローマ字書き日本語の表記は概ね版本の規範に準しており、活用語尾のcuとquの書き分けも守られている。その一方で版本には見られない特異な表記も散見し、年代による傾向も認められるが、個人の癖に拠るものもあるかと思われる。反復記号「.y.」のようなポルトガル語の古文書でも見かけない表記もあり、これらの特異な表記が何に由来し、日本のキリシタン社会でどのような広がりを見せていたのか、今後追究すべき課題である。
著者
嶋田 貴子
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

子宮頸がんの腫瘍マーカーとしてSCCがあるが、慢性腎不全患者などの患者では偽陽性を示すことがある。そこで血漿中のHPVDNAを定量し、それが子宮頸がん発症の診断や再発のマーカーとなるか否かについて検討した。2007年4月から2008年9月までに当院を受診し、HPV16陽性の子宮頸部異形成または子宮頸癌(扁平上皮癌)と診断された43名を対象とした。DNA定量はSYBR Greenを用いたリアルタイムPCRで行った。子宮頸管内HPVDNAの有無はインフォームドコンセントを得た女性に対しHybrid Capture法を用いて検査した。本研究は当院倫理員会の承認を得て行った。HPV16陽性子宮頸癌患者20例中6例(30.0%)の治療前血漿中からHPV16DNAを検出することが出来た。臨床進行期分類(FIGO分類)のI期よりII期やIV期の症例の方が血漿1mlあたりのHPV16 E6E7 DNAコピー数が多い傾向が認められた。また腫瘍マーカーであるSCCAが正常範囲であっても血漿中にHPV16 DNAが検出された例があった。子宮頸癌が浸潤または壊死をおこすときにDNAが切断されて断片化し、血漿中のHPV DNAの断片として認められるのではないかと考える。術前のSCC値が陰性の子宮頸癌患者に対して、血漿中のHPVDNA定量が低侵襲なマーカーとして利用できることが期待できる。
著者
高久 洋暁
出版者
新潟薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

酵母Candida maltosaは蛋白質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(CYH)に対し、生育の一時停止後に再び生育が回復する誘導的耐性を示す。これは、CYH添加後、転写活性化因子C-Gcn4pが、CYH耐性L41リボソーム蛋白質遺伝子(L41-Q)の転写を誘導し、CYH耐性型リボソームが合成されることに起因する。CYH添加後及びヒスチジン飢餓を誘導する3-AT添加後の転写活性化因子C-Gcn4pの制御をmRNA、蛋白質レベルにおいて解析するため、GFP又はHAタグと融合したC-Gcn4pの検出を試みたが、十分に解析できるレベルのものは構築できなかった。そこでFLAGタグ融合型C-Gcn4pを用いたところ、機能も相補、検出感度も解析に十分であった。FLAGタグ融合型C-GCN4をC-GCN4破壊株に導入し、3-AT或いはCYH添加後のC-GCN4mRNA、蛋白質レベルの解析を行った。3-AT添加後、C-GCN4mRNA量の上昇率以上にC-Gcn4p量の上昇率が大きかったので、転写、翻訳段階における制御、特に翻訳制御が大きく寄与していることが示唆された。CYH添加1時間後、C-GCN4 mRNA量は一時的に大きく上昇するが、逆にC-Gcn4p量は減少した。その後、C-GCN4mRNA量は減少するが、逆にC-Gcn4p量は増加し、CYH添加前の約1.5倍まで上昇し、一定となった。すなわち、CYHによるmRNAの安定化で一時的にRNA量は上昇するが、CYH添加直後の蛋白質合成は厳しく抑制されるためにC-Gcn4p量は減少したと考えられた。その後、C-Gcn4pの上昇ともにL41-Q転写誘導が促進されたが、C-Gcn4p量が一定量になったにもかかわらず、転写誘導効率がその後数時間上昇し続けたことから、C-Cpc2pなどのC-Gcn4p活性調節因子の関与の可能性が考えられた。
著者
井ノ口 順一
出版者
宇都宮大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1)2003年に発表した論文Minimal surfaces in 3-dimensional solvable Lie groups, Chinise Annals of Mathematics B24(2003),73-84において3次元ユークリッド空間・3次元双曲空間・双曲平面と直線の直積,これらをすべて含む3次元等質空間の2径数族を構成した。族内の空間はすべて可解リー群である。この2経数族に属する各空間内の極小曲面に対するガウス写像の満たす積分可能条件を求めた.この積分可能条件を用いて,ガウス写像とある複素数値函数の組が極小曲面を定めるための必要十分条件である偏微分方程式系を導出した.その偏微分方程式の解から極小曲面を与える積分表示公式を与えた。この公式はユークリッド空間内の極小曲面に対するWeierstrass-Enneper公式を一般化したものである。論文:Minimal surfaces in 3-dimensional solvable Lie groups IIとしてBullentin of the Australian Mathematical society誌に掲載が決定した。2)極小はめこみ・調和写像の拡張概念である重調和写像・重調和はめ込みの具体例の構成を研究した。3次元双曲空間・3次元ユークリッド空間には極小でない重調和曲面が存在せず,3次元球面には極小でない重調和曲面は特定の半径をもつ小球のみであることが知られている。これらの事実に立脚し,極小でない重調和曲線・重調和曲面を許容する3次元等質空間を考察した。とくに3次元既約標準簡約等質空間内の重調和曲線を分類した。この成果はJong Taek Cho氏,Jin-Eum Lee氏との共著論文Biharmonic curves in 3-dimensional Sasakain space formsとしてAnnali di Matematica et pura Applicata誌に掲載が決定した。
著者
高橋 信二
出版者
東北学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,中高齢者の身体活動量を従来の方法(回帰法)と研究代表者が開発した方法(FCS法)の比較を行った.成果は以下の通りである.成果1:FCS法は回帰法よりも身体活動量を高く評価する.この結果は,生体の動的特性をFCS法が反映したものである成果2:一方,両方法の健康状態の変化に対する関係性はほぼ同等で低い値であった.分析手続きの複雑さを考慮すると回帰法の方が一般性に優れることが示唆された.
著者
横山 裕一
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

軽度認知障害(mild cognitive impairment : MCI)は、その14%が1年で、40%が4年で認知症へ転換するといわれ、その予後の違いを予測する因子を明らかにすることが重要である。本研究は、認知障害の時間的推移と、認知症転換への予測因子を総合的に解析し、最終的には認知症への転換を予測するニューラルネットワークモデルを構築することを目的とした。レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies : DLB)では早期から自律神経機能の障害が出現することが先行研究で報告されており、心臓交感神経機能を評価する目的で使用されているMIBG心筋シンチグラムを用いた先行研究では、DLBの病早期からMIBGの心筋への集積低下がみられることが報告されている。このため、心臓交感神経機能の障害はMCIからDLBへの転換を予測する因子となり得る。しかしながらMIBG心筋シンチグラムは国内では保険適応外であり、検査が非常に高額であるためスクリーニングとしては適さないのが現状である。その代替法を考案するため、心臓交感神経賦活と前頭葉ヘモグロビン濃度変化の関連について、近赤外線スペクトロスコピィNIRO200(Hamamatsu Photonics K.K., Japan)と心臓交感神経機能を反映すると考えられる心拍計R-R間隔変動の最大エントロピー法によるリアルタイム解析(MemCalc/Tarawa, GMS)を用い、健常対照群と患者群における比較研究を行い、その結果を第32回日本生物学的精神学会において発表した。結果としては残念ながら上記代替となる十分な指標は得られず、研究法の改善を今後の課題とした。研究者は、平成23年4月から更に研究を推進するべく大学院へ進学することとなり、本研究費を得る資格を失うこととなったが、今後も認知障害の研究に取り組んでいく所存である。
著者
棚瀬 幸司
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

花弁(がく片を含む)が脱離する花きは花弁と花床との間に離層が形成され、その後花弁が落下する。代表的な種としてバラ、デルフィニウム、チューリップ、ユリ、トレニアなどがあげられる。花弁の離層形成機構については園芸植物ではあまり調べられていない。また、ユリやチューリップなどの球根類はエチレン非感受性であり、エチレン阻害剤やエチレン生合成関連遺伝子のアンチセンス導入などによる花持ち延長効果は期待できない。そのため、離層の形成機構に関する基礎データを得る必要がある。そこで本研究では、離層形成に最も関連のある細胞壁分解酵素遺伝子のうち、セルラーゼ(β-1,4-グルカナーゼ)とペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ)遺伝子のクローニングを行った。さらに、デルフィニウムからエチレン受容体遺伝子をすでにクローニングしていることから、合わせて発現解析を行った。始めに、デルフィニウムがく片の離層から5mm以内の組織を切り取り、RNAの抽出を行った。トマト、アラビドプシス等の植物間で保存されているセルラーゼとべクチナーゼ遺伝子の配列をもとにプライマーを作成し、RT-PCRを行った。増幅されたcDNA断片はpT7 Blue T-Vectorにクローニングし、塩基配列を決定した。クローニングしたcDNAの部分塩基配列を決定し、それぞれをBLASTを用いて推定されるアミノ酸配列を比較した。グルカナーゼのcDNAクローンは推定されるアミノ酸がトマトのグルカナーゼと88%、アボカドのグルカナーゼと86%、モモのグルカナーゼと86%類似しており、Del-cellはβ-1.4グルカナーゼであると考えられた。ポリガラクツロナーゼのクローニングを行ったところ、2種類のクローン(Del-PG1とDel-PG1-PG2)はβ-1,4-グルカナーゼであると考えられた(形)を得た。これらの推定されるアミノ酸の類似性は43%であった。それぞれをBLASTで検索したところ、Del-PG1はend型のポリガラクツロナーゼと、Del-PG2はexo型のポリガラクツロナーゼと類似性が高かった。一方、エチレン受容体遺伝子(D1-ERS1-3、D1-ERS2)の発現は花で高く、茎や葉では低かった。これらの遺伝子は花において老化にともなう変動が少なかったが、エチレン処理を行うとがくでのみ発現が高くなった。
著者
長谷川 千尋
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

連歌作品を研究する上で、作品に付された古注釈(江戸時代以前に執筆されたもの)は、すこぶる有益で欠くべからざる資料であるが、すべての本文が学会に提供されているわけではない。そこで本研究では、連歌の百韻・千句の古注釈の伝存状況を網羅的に調査した。その結果、『伊勢千句』『牡丹花宗碩両吟百韻』『宗牧独吟何人百韻』に関わる新出の古注を発見したのを始め、既存の古注にも新たな伝本を補い、未翻刻の古注を全翻刻し、基礎的研究を行った。
著者
富野 貴弘
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、付加価値の高いものづくりのあり方について考察し、それを実現させるための施策を具体的に提示することである。その際に、生産と販売の組織間連携という視点を重視した。本研究で明らかになったことは、日本のトヨタ自動車やホンダのように継続して高い競争力を生み出している企業は、長い時間サイクルをベースにした、ある種プロダクトアウト的なものづくりを生販一体となって連携し実現しているという点にある。
著者
阪本 博志
出版者
宮崎公立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

大宅没後に編まれた「大宅壮一全集」には未収録の著作も多いため、前年度より継続して進めている、大宅の著作の全体像を明らかにする作業を、主に戦後期の雑誌を中心に行った。その過程では当時の担当編集者へのインタビュー調査を遂行した。そしてこれらで得られた知見の一部をまとめた論考を発表したほか、占領期の大宅について口頭発表を行った。また出版メディア史の変遷やマクロな社会の変動と個人のライフヒストリーとのかかわりについて考察した論考を発表した。これについても引き続き文献資料調査・インタビュー調査に取り組んだ。これらのほか研究で得た知見を広く社会に伝えるべく、新聞への寄稿を行うとともに(「毎日新聞」2009年4月5日朝刊9面、「宮崎日日新聞」2009年6月7日朝刊2面・10月4日朝刊2面・2010年2月7日朝刊2面、「公明新聞」2009年7月12日4面、「週刊読書人」2009年11月20日号31面・2010年4月9日号6面)、世界思想社の「世界思想」37号に寄稿した(2010年4月発行)。またインタビュー取材に応じた(「朝日新聞」2010年2月3日朝刊宮崎面、「宮崎日日新聞」2010年3月5日朝刊15面)。なお前年度上梓した著書により、今年度第30回日本出版学会賞奨励賞、第18回橋本峰雄賞を受賞した。
著者
富田 晋介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

この研究は、東南アジア大陸山地部を事例に、今後いかに自然資源の利用を行っていけばよいのかという問題に対して、過去数十年間に地域で行われてきた自然資源管理・利用を長期のフィールドワークとリモートセンシングを用いて経年的・定量的に復元し、慣習的な管理・利用の仕組みの形成過程に着目して、取り組んだ。この報告では、1.家族における水田の保有と分与がどのように行われてきたのか、2.水田の分与システムが社会階層の形成にどのように関係してきたか、3.水田の分与システムが耕地面積の拡大にどのように影響してきたかの3点について報告する。調査村では、開拓可能な水田面積の減少による世帯間の経済格差の固定化が、耕地拡大の背景のひとつになった可能性があった。一方で、市場経済が浸透し、商品作物と裏作などの新しい技術が導入され、それまで用いられていなかった乾季の水田や森林が土地として価値をもつようになった。このような土地の資源化は、水田面積による世帯階層の固定化を、土地利用の集約化と耕地の拡大によって緩和したと考えられる。