著者
竹内 由香里
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

新潟県妙高山域に位置する幕の沢は,冬期の最大積雪深が4m以上になる多雪地である上,傾斜が沢の上流ほど急になり,源頭部では35〜40度と表層雪崩が発生しやすい地形になっているため,流下距離が2000〜3000mに達する大規模な雪崩がしばしば発生している.そこで本研究では,大規模な雪崩の発生条件を明らかにする目的で,幕の沢に雪崩発生検知システム,地震計およびビデオカメラを設置して雪崩のモニタリング観測を継続してきた.併せて雪崩堆積域近くの平坦地において気温,降水量,積雪深を1時間間隔で測定し,積雪断面観測も適宜実施してきた.これらのデータは,気象庁や他機関の気象観測点が少なくデータが乏しい多雪地域の山地で得られたものであるので,とりまとめて「森林総合研究所研究報告」に公表した.さらに,今冬期に幕の沢で発生した大規模な乾雪表層雪崩を検知することに成功した.この雪崩は2008年2月17日13時48分頃に発生したことが地震計の記録とビデオカメラの映像により確かめられた.そこで気象データにより積雪安定度の変化を推定し,滑り面となった積雪層の形成過程を解析するとともに,雪崩堆積量,到達距離についての現地調査を行なった.一般に,表層雪崩の発生危険度の目安となる斜面積雪安定度を算出する際には,せん断強度を平坦地の積雪密度から推定することが多いので,斜面と水平面の密度の関係を明らかにすることが必要である.そこで低温実験室内の人工降雪や露場における自然降雪について斜面傾斜による初期密度の比較を行なった.その結果,傾斜と初期密度の関係には降雪時の気象条件が大きく関わることが示唆された.さらにデータを増やして検討する必要がある.
著者
船越 資晶
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「研究の目的」に記載した通り、本研究は、(1)社会的な討議/闘技に開かれた過程において、(2)差異/再分配の承認をめぐる実践が展開される、したがって(3)非基礎づけ主義的なアイロニズムの地平に立つ、ポストモダンの法体制論へと批判法学を鍛えることを目指すものである。今年度は、「研究実施計画」に記載した通り、上記内容のうち(3)「地平」研究を中心としつつ、(1)「過程」研究および(2)「実践」研究を同時並行的に実施した。(3)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法的思考論「法的思考の系譜学」の再検討を行い、ニーチェ/ウェーバー的視点から現代の法的思考を把握する理路を深化させた。同時に、批判法学運動史についても検討を行い、現代の法的地平がアイロニズムに満たされたものであることをいわば理論外的視点からも明らかにするよう努めた。これらの成果は、現代の法体制がよって立つポストモダンの精神史的地平がどのようなものかをより重層的な仕方で明らかにするものである。(1)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法社会理論「ピンク・セオリー」を鍛える作業を行い、同理論をポスト・マルクス主義的法理論として把握する理路を解明し終えた。この成果は、まさしく批判法学に基づく法体制の記述を可能とするものである。また、(2)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の実践論「脱正統化プロジェクト」の再検討を行うとともに、ダンカン・ケネディの法学教育論についても検討を行った。これらの成果は、批判法学の実践論の意義と射程をより十全な形で明確にするものである。
著者
水野 慎士
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々が開発している仮想彫刻・版画システムの機能・表現手法の改良を行うと共に,一般の人々に実際に使用してもらうことでシステムの検証・評価を行った.仮想彫刻および仮想木版画では切削,彩色,版画摺工という作品制作の各工程において,筆圧タブレットを利用して操作の強さを考慮した操作を実現した.三次元仮想彫刻に対する彩色では,筆圧と彫刻表面形状を考慮しながら色と水分量の情報を持つ絵の具を対話的に塗布することが可能となった.そして仮想版木表面に水分量を様々に変化させた絵の具を塗布することで,絵の具の色と水分量,版木形状,ばれんの操作具合の相互作用によって生み出される浮世絵などの多版多色摺り木版画を仮想空間内で忠実に再現することが可能となった.また筆圧タブレットに対応した仮想彫刻・木版画システムのプロトタイプを構築して,コンピュータやCGの専門家ではない人に実際にシステムを使用してもらって評価を行った.実験では,多くの被験者にとって筆圧タブレットによる仮想彫刻操作はマウスに比べて直感的な操作が可能で,操作感覚も実際の彫刻に近いと感じることがわかった.また操作力と変形量の関係を変化させることで,素材の固さの違いを感じ取ることができるという結果を得た.ただし,タブレットペンが滑りすぎることや,音や削り屑などが出ないなど,実際の彫刻との細かな違いが彫刻としての操作感覚を損ねているという意見もあり,これらの問題を解決する必要がある.仮想銅版画システムでは銅版画制作物理モデルの改良に加えて,様々な銅版画手法の濃淡の解析を行い,より実世界の銅版画に近い画像の合成を実現した.特に代表的な銅版画手法の一つであるメゾチントでは目立てた銅版をスクレッパーとバニッシャーで削ることで濃淡表現を行うが,それぞれの使用頻度に応じた中間表現方法を提案して,操作の違いによる銅版表面状況の変化とそれに基づく版画画像の濃淡の変化を実現した.これらの研究内容は,論文や国内外の会議で発表した.
著者
千秋 博紀
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、天体衝突によって作られた蒸気の塊(以下衝突蒸気雲と呼ぶ)の内部で進行する化学反応系を、数値的にシミュレーションし、どのガス種が、どれだけ作られるのかを求める。衝突蒸気雲は、形成直後はきわめて高温・高圧だが、急激に膨張・冷却する。高温・高圧の条件下では化学反応の速度は速く、容易に化学平衡が達成される。これに対し、膨張・冷却が進むと、化学平衡はもはや達成されなくなる。従来の研究では、膨張過程のある瞬間で化学反応がクエンチ(停止)すると考え、単純に衝突蒸気雲の膨張のタイムスケールと、ある化学種がかかわる反応のタイムスケールとの比較から、膨張・冷却後の衝突蒸気雲の組成を見積もってきた。本研究では昨年度までに、開発した1次元球対称モデルを用いて得られる結果について、ガス成分の種類や量について議論を重ね、論文の準備を行ってきた。しかし一連の議論の中で、蒸気雲中の化学反応ネットワークは、系全体がサブシステムに細分化されてゆき、サブシステムの中で局所平衡が達成されるように進むことが明らかになってきた。この描像は従来考えられていたものとは異なっており、この性質をうまく使うことでガス種同士の相対存在度から逆に衝突条件を求めることができるようになるかも知れない。ただし、どのガス種組合せでサブシステムを構成するようになるのかは、温度圧力条件(衝突条件)だけでなく、初期組成にも依存する。本研究では今後も、衝突蒸気雲が地球システムに与える影響を議論するための、幅広いパラメタ空間でのシミュレーションなどを続けてゆく。
著者
和田 直也
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.前年度得られた成果を、本年度ソウルで開催された国際生態学会で口頭発表した。2.本年度は、周北極植物チョウノスケソウの開花結実繁殖様式を調べる予定であったが、調査地における開花個体数が例年に比較して非常に少なかったため、当初の調査予定を変更し、チョウノスケソウを除くバラ科高山植物の花粉発芽の温度依存性を明らかにすることを第一の目的とした。次に、少数ながら採取できたチョウノスケソウの種子を用い、同科雪田植物のチングルマの種子と比較することで、両種の発芽特性と温度依存性を明らかにすることを第二の目的とした。富山県立山山地で採取したサンプルを実験室内の恒温器で培養・栽培し、以下に示す結果を得た。3-1.周北極植物ではないが、チョウノスケソウと同所的に生育しているバラ科の風衝地高山植物、ミヤマダイコンソウおよびミヤマキンバイと同科雪田植物であるチングルマについて、花粉発芽の温度依存性を調査した。その結果、花粉の発芽率および花粉管の伸長量ともに、風衝地植物であるミヤマダイコンソウは最適温度がともに低く10℃〜15℃であった。それに対し、同科雪田植物であるチングルマは、前年の結果と同様に最適温度が20℃であることが確かめられた。風衝地にも雪田地にも生育しているミヤマキンバイでは、前記両種の中間的なパフォーマンスを示した。これらのことから、風衝地に生育している植物は周北極植物に限らず、花粉の発芽と花粉管伸長の最適温度が雪田植物よりも低く、開花時の低温環境に適応している可能性が示唆された。3-2.周北極植物・風衝地植物であるチョウノスケソウは、低温湿潤処理を行わなくとも種子が発芽することが分かった。チングルマは低温湿潤処理を行わなければほとんど発芽しなかった。また種子の最適発芽温度はチョウノスケソウの方が5℃低かった。30℃以上の高温環境では、チングルマの種子の方が耐性が高かった。以上のことより、花粉および種子の発芽ともに、風衝地植物はより低温環境に雪田植物はより高温環境に適応していることが示唆された。従って、温暖化がそれぞれの種の繁殖成功に及ぼす影響も異なることが予想された。
著者
亀山 慶晃 工藤 岳
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高山生態系では雪解け時期を反映した連続的な開花現象が認められ、傾度に沿って花粉媒介者や近縁他種との関係が変化する。北海道大雪山系におけるツガザクラ属植物では、雪解け傾度に沿って雑種第一代が優占する広大な交雑帯が形成されており、雑種と親種の間で花粉媒介者を巡る競争が生じていた。親種の受粉成功は開花時期や年によって大きく変動し、繁殖成功(他殖率)に多大な影響を及ぼしていた。
著者
掛田 崇寛
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、代表的な甘味物質である蔗糖が誘発する鎮痛効果について探求することを目的に実施した。従来、蔗糖の甘味を利用した痛み抑制効果の検討は新生児領域では多く行われているに対して、それ以外の対象ではほとんど検討されていない。本年度は昨年に引き続き、成人を対象に、実験的疼痛による侵害受容刺激に対する蔗糖溶液の効果を検証した。実験的疼痛には、冷水を用いて痛みを誘発する方法、Cold Pressor Test (CPT)を用いた。被験者は2℃に維持された冷水中に手を浸すことで、痛み(冷痛)を感じた。使用溶液には24%蔗糖溶液と蒸留水(control)を用いて、各溶液による痛み反応の違いを検討した。各溶液はクロスーバーデザインを用いて被験者に無作為に割り付けた。その結果、蒸留水に比べて、蔗糖溶液を口に含んでいる時の方が有意に痛覚潜時(冷水中に手を浸けて痛みとして感じてまでの時間(秒))が延長した。また、蔗糖溶液は蒸留水に比べて、その味が有意に心地よいと評価されていた。よって、蔗糖の甘味刺激による鎮痛効果は新生児同様、成人でも一時的ではあるが得られることが明らかになった。また、この鎮痛機序には甘味による心地良さ、つまり情動への影響が鎮痛に関与している可能性がある。今後は成人を対象に得られた鎮痛効果が、どのような機序によってもたらされるかを検討する。また、甘味以外の味質を用いて、味刺激による痛みへの影響を検証する。以上から、本研究申請時における目標は全て達成された。
著者
高木 健太郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

積雪寒冷地域における冬季の大気一土壌間の二酸化炭素輸送メカニズムを明らかにするために,雪面下の二酸化炭素濃度・温度プロファイルを測定するシステムを小型二酸化炭素濃度計と熱電対温度計,データロガー,タイマ,リレーにより構築し,北海道大学天塩研究林林内の森林伐採跡地に設置した.雪面からの二酸化炭素放出量を評価するために,三次元超音波風向風速計とオープンパス型CO_2/H_2O分析計を用いた二酸化炭素フラツクス観測システムを積雪内濃度プロファイル測定地点に隣接する場所に設置した.近接した場所において,融雪量,積雪深,地温の観測を行った.積雪による地温低下緩和によって冬季も土中の微生物による呼吸が行われ,土壌から積雪内部に二酸化炭素が供給されることが明らかになった。二酸化炭素は積雪内で下層ほど濃度が高くなる濃度勾配をもって分布し,弱風速時には雪面上の大気との濃度差が3000ppmに達した。一方,強風時には空気塊が積雪内部に進入し大気との濃度差が大きく減少した。以上の観測結果に基づいて,積雪を介した二酸化炭素の挙動について検討した結果,以下の関係を考慮することにより再現できることが明らかになった。1.指数関数的に地温に依存する地面からの二酸化炭素発生2.拡散則に従う積雪内部の二酸化炭素の雪面への移動(弱風速時:摩擦速度0.1ms-1以下)3.摩擦速度に比例する空気塊の移動による二酸化炭素の雪面への移動(強風速時:摩擦速度0.1ms-1以上)
著者
神尾 真樹
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

子宮内膜症は生殖年齢の約10%に発生する原因不明の良性疾患である。本研究では、子宮内膜症におけるシグナル伝達(JAK-STAT系、RAS-MAP系)に関して検討した。子宮内膜症、コントロール群各々50例での検討を行った。15症例でJAK-STAT経路の活性化を認めたが、年齢、鎮痛剤の使用、罹患期間、について一定の傾向は見られなかった。術前のGn-RHa投与群において活性が低い傾向が認められた。RAS-MAP経路については明らかな傾向を認めなかった。
著者
谷田貝 亜紀代
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

乾燥地域の水資源への温暖化の影響を評価することは、重要な課題となっている。乾燥地域の水資源は近接する(流域の)山岳地域への降水が重要な役割を占める。そのため、対象地域には物理モデルによるダウンスケーリングだけでなく、山岳地域への降水を適切に評価した上で、統計的なダウンスケーリング手法を適用することが、期待される。そこで本研究は、山岳降水を衛星データを利用して評価し、統計的な手法により温暖化影響のダウンスケーリングを行うことを目的としている。対象地域は中国北部とトルコの乾燥地域である。平成17年度は、平成16年度に作成した、山岳の効果(山の上の方で雨が多く降るなど)を考慮した日降水グリッドデータを用いて、ダウンスケーリング手法を開発した。衛星データについては、熱帯降雨観測衛星(TRMM)と、NOAA/CPCで作成されたCMORPHという、マイクロ波による推定降水量と静止気象衛星による雲風ベクトルを組み合わせて算出される降水量データセットを利用した。TRMM/PRデータは雨量計データから作成されたデータセットに対し、強い雨に対して系統的な誤差がみられることがわかった。また、GPCP1DDなど他のいくつかの衛星による降水プロダクトと比較してCMORPHの降水量や、TRMM3B42プロダクト(マイクロ波TMIとSSMIによる)は量的にも経年変動の点でもよい見積もりを示していることがわかった。これらのことから、ECMWFによる1.125度解像度の客観解析データと、TRMM/PRおよびCMORPH降水量により、対象地域についての、水蒸気輸送場・大気循環場と降水分布について比較研究を行った。また気象庁気象研究所の温暖化実験結果と本研究により作成されたデータセットやこれら衛星データを比較することにより、ダウンスケーリング手法を開発した。
著者
山田 朋人
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

近年,世界各地で極端現象による被害が頻発しており,対策および予測精度の向上は喫緊の課題である.本研究は大陸スケールで発生した旱魃を対象事例とし,全球気候モデルにおける陸面初期情報が与える準季節スケールの予報スキルの評価を行った.人間活動の影響を考慮した陸面初期データを予報実験に用いたところ, 1988年夏に北米大陸において発生した旱魃の準季節スケールの予報スキルは向上し,高い精度で旱魃の事前把握の可能性を示した.また大陸河川の河川流量に与える陸面初期情報の影響についても検討を行い,人為的な河川流量の調整がない場合, 1か月先の河川流量の挙動は陸面初期情報に強く依存するという結果が得られた.
著者
小原 哲郎
出版者
埼玉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

パルスデトネーションエンジン(PDE)は,これまでのジェットエンジンの構造と大きく異なる.すなわち,PDEではエンジン筒内に燃料と酸化剤をパルス状に噴射させて,混合気を着火しデトネーション波を発生させ既燃気体をノズルによって噴射し推力を得るのが基本原理である.しかしながら,PDEはまだ構想あるいは試験段階にあり,実用化するには至っていない.そこで,申請者はPDEの開発に必要な基礎データを得ることを研究目的とし,本研究課題を遂行した.まず,研究の初年度において,PDEの試作機を構築し,実験を開始した.本年度においては系統的に実験を進め,主に以下の知見が得られた.(1)本装置におけるデフラグレーション波からデトネーション波への遷移過程(DDT過程)では,混合気の点火位置を管端より下流の側壁上で行うことで上流と下流へ伝ぱする2つのデトネーション波を生成し,特にスラスト壁付近で生じる過大デトネーションは点火位置から非常に短距離で生じることを明らかにした.(2)筒内に噴射するした際の混合気の初期圧力や当量比の影響について調べ,燃焼後の圧力変化について明らかにした.また,量論混合比においてDDT過程への短縮効果が大きいことを明らかにした.(3)本装置により作動周波数50Hzまでのパルス作動が可能なことを明らかにした.また,得られる比推力は作動周波数によらず一定となること,すなわち推力がサイクル速度に比例して増加することを明らかにした.(4)エンジン筒内に挿入する内部障害物はデトネーション波の伝ぱ持続性を高め比推力が増加すること,また管の長さの増加はノズルのように作用し比推力を増加できることが明らかとなった.
著者
宮東 昭彦
出版者
杏林大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

齧歯類精巣では、精細管精上皮ステージが精細管長軸方向に周期的に繰り返される、精上皮の波"the wave of the seminiferous epithelium"の存在が知られる。今週齢および30週齢マウス精巣を材料とし、連続切片(PAS染色)の立体再構築法を用い、精上皮の波の進行パターンについて検討した。10週齢精巣では、精巣網から始まる精細管に沿って、観察される精上皮周期ステージが若くなっていく、従来記載されているパターンが観察された。一方、30、60週齢精巣では、精上皮の波は、蛇行する精細管の反転部位毎に分断され、分断部位の両側では波の方向が逆転する現象が高頻度に観察された。また、この逆転に伴い、精細管の反転部位間の各部分の波の方向は、空間的には同じ向き、すなわち精巣の頭側から尾側方向にステージが若くなる向きに揃っていた。また、10、30週齢精巣において、特定のステージの精細管が有意に高頻度で集合するという現象が観察された。これらの現象は、精上皮周期の進行が、10週齢精巣では精細管内を伝わる情報によって決定されるのに対し、30週齢では、隣接する精細管、間質細胞を含む精細管周囲の情報の影響をより受けていることを示唆する。研究代表者らは、精細管の精上皮周期ステージが異なると、(1)隣接している間質Leydig細胞の水酸化ステロイド脱水素酵素活性、および、(2)精細管上皮のアンドロゲン受容体レベルが変動すること見い出しており,これと合わせて考えると、アンドロゲンが"paracrine factor"として精細管周期の調節に機能している可能性があるものと思われる。
著者
山岡 俊一
出版者
呉工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

地区交通対策の事後評価に関する研究は多数見られるものの、長期供用後の評価に関する研究は数少ない。また、地区交通対策の実務においても、長期供用後のメンテナンスや追加的な対策を実施した例もあまり見られない。そこで本研究では、供用後5年が経ちコミュニティ・ゾーンが地区に馴染んだ名古屋市長根台地区を事例に、交通量・自動車走行速度・路上駐車台数等の調査、地元住民を対象としたアンケート調査を実施し、各調査で得られたデータを分析することにより供用後数年経過したコミュニティ・ゾーンの効果を再評価した。また、地区内の交通状況が改善され地区内住民から良い評価が得られたとしても、周辺に悪影響を及ぼしたり、周辺住民に自分たちの地区が整備されていないことに対する不公平感を感じたりしているかもしれない。そこで、長根台地区周辺の交通状況と道路に対する意識、長根台地区内の道路に対する意識と評価、長根台地区内のハード的対策とソフト的対策に対する意識、周辺住民への事業の周知・説明の有無等をアンケートで尋ね、周辺住民の立場からコミュニティ・ゾーンを評価した。以下に得られた知見を列挙する。(1)ゾーン内の自動車交通の抑制効果は整備直後とほとんど変わっていない。(2)交通事故件数が、事業完了3年後と5年後で事業実施前の件数に戻っており、特に自動車と自転車の事故が多い。(3)地元住民のコミュニティ・ゾーンに対する各種評価も依然として満足傾向にある。(4)各種物理的デバイスは地元住民から十分な評価を得ている。(5)安全で快適な地区を維持するために、自主的な対策を講じている住民が存在する。(6)ゾーン内住民は安全性と快適性を重視し、ゾーン周辺住民は利便性を重視している。(7)ゾーン内住民とゾーン周辺住民でコミュニティ・ゾーンに対する不満は共通点が多い。(8)ゾーン周辺住民はコミュニティ・ゾーンの形成によるゾーン周辺道路の悪化は無いと考えている。
著者
柚木 貴和
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、ヒト膀胱平滑筋細胞のATP感受性カリウムチャネル(KATpチャネル)におけるKir及びSUR蛋白のサブタイプの決定を行い、膀胱平滑筋KATPチャネルの分子実体の解明を第一の研究目的とした。さらに現在開発中の膀胱選択性KATPチャネル開口薬や従来のKATPチャネル開口薬を用い、モルモット及びヒト膀胱平滑筋収縮に及ぼす効果を詳細に検討し過活動膀胱治療薬としての有効な薬剤を検索することを第二の研究目的とした。第一の研究目的であるが、ヒト膀胱平滑筋のKATpチャネルは電気生理学的実験および分子生物学的実験よりKir6.2+SUR2Bという構造が主に機能し、加えてKir6.2+SUR1という構造も一部機能していると考えられた。このようなサブタイプの組み合わせは血管平滑筋などの他の臓器のKATpチャネルとは明らかに異なっており、膀胱選択的なKATPチャネル開口薬の開発の可能性を期待させるものであった。第二の研究目的については、膀胱選択的といわれているZDO947と他の薬剤を比較しながら、さらに膀胱平滑筋と血管平滑筋を比較しながら検討した。その結果、ZDO947は他の薬剤より低濃度の領域から膀胱平滑筋のカルバコールによる収縮を抑制し、さらに血管との比較によって他の薬剤より優れた膀胱選択性を有することが明らかとなった。またこの膀胱選択性にはSUR1の発現が関与している可能性も示唆されたが、それについては現在検証中である。さらにKATPチャネル開口薬を臨床応用に近づけるために、現在過活動膀胱のモデル動物を作成し、それらにおける各種KATPチャネル開口薬の作用、副作用も検討する実験を試みている。
著者
大槻 信
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

「文献資料年代推定のためのガイドライ.ン」のプロトタイプを作成し、その試用と改訂を行った。原本の実地調査を重ね、ガイドラインへのフィードバックを繰り返した。昨年度までの研究を受け、「文献資料年代推定のためのガイドライン」のプロトタイプを作成した。これは文献資料年代推定のための指標(メルクマール)となる事象を整理し、その年代別の推移を記述したものである。その上で、貴重古典籍を多く蔵する京都大学附属図書館(貴重書庫を含む)、京都大学文学部図書館(貴重書庫を含む)、高山寺、勧修寺などを中心に原本の実地調査を行った。加えて、国立国会図書館、東京大学、東洋文庫、金沢文庫などを訪れ、資料の収集を行うと同時に、「文献資料年代推定のためのガイドライン」へのフィードバックを繰り返した。つまり、ガイドラインを実際の調査で実用し、その有効性を測定しながら、改善を加える作業を数度にわたり繰り返した。その過程で、大型液晶ディスプレイを導入し、作業の効率化を図った。今年度の研究で、ひとまずプロトタイプの完成を見たが、複数の研究者にガイドラインを試用してもらうこと、ならびに、ガイドラインの公表までには至らなかった。
著者
深谷 優子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,日本の文化・社会に特有の省略や直接表現を避けた言語表現の代表として俳句を取りあげ,俳句理解に関連する個人特性測定のための尺度として,読書経験・読書態度尺度を開発した。また,ピアレビュー(共同推敲)の教授技法を用いたところ,主に俳句理解の質的側面が支援可能であること,またその前提として,自分で予想したり考えたりするなどの思索専念傾向の態度を保障するような環境づくりが重要であることが明らかとなり,俳句理解の支援のための実践的な方策の示唆を得た。
著者
山田 邦夫
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

前年度は、バラ‘プリティーウーマン'の切り花が開花する際には、インベルターゼやアミラーゼの活性が上昇し、その活性はスクロース処理により制御されていることを明らかにした。本年度は引き続き糖代謝酵素の発現と花弁生長の関係を明らかにするための研究を進め、特に本年度は、糖代謝酵素cDNAを単離し、発現解析を試みた。その結果、液胞型インベルターゼと細胞壁型インベルターゼが数種類ずつクローニングすることが出来た。液胞型インベルターゼは、液胞に蓄積したスクロースを分解する酵素で、浸透物質の液胞への蓄積に大きく関与している酵素である。一方、細胞壁型インベルターゼは、葉から転流してきたスクロースをアポプラストで分解し、ヘキソースの形での細胞への取り込みに重要な働きを持つ。また、液胞型インベルターゼの発現解析の結果、本酵素mRNAはバラ花弁が大きく肥大生長する時期に強く見られることから、花弁生長との関係が考えられた。花弁細胞の肥大には、糖の蓄積だけでなく細胞壁のゆるみも重要な要因となる。本年度は糖代謝関連の実験を平行し、細胞の肥大生長の観察および細胞壁のゆるみを制御すると言われているエクスパンシンの解析も試みた。その結果、バラ花弁細胞ではつぼみのごく小さいステージですでに細胞分裂を停止しており、その後はまず海綿状組織の細胞肥大、引き続き表皮(特に表側の表皮)細胞の横方向への肥大が起こっていることが明らかとなった。また、エクスパンシンcDNAはバラ花弁から4つのパラログが単離され、それらの発現解析から海綿状組織の肥大と表皮細胞の肥大がそれぞれ別々のエクスパンシンパラログによって引き起こされている可能性が示唆された。本研究成果は、引き続きさらなる検討を加え、将来的には切り花の開花促進技術の開発に重要な知見となるものと思われる。
著者
竹中 治堅
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、戦後日本の政策決定過程において野党が内閣の政策に及ぼした影響を明らかにすることを試みた。特に1990年代以降、いくつもの内閣が野党の掲げた政策に影響され、主要政策の一部に野党の構想を取り入れたことを明らかにした。野党が影響を及ぼすことになった主要な要因は二つある。一つは1994年の政治改革により選挙制度が小選挙区・比例代表制に変更され、二大政党化が進捗したこと。二つはしばしば国会が「ねじれ」の状況になり、内閣は政策課題に対処するためには政策について野党の考えを取り入れざるを得なかったこと。
著者
秋根 茂久
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

不斉情報の自在な記録を可能にする分子素子の開発を目指し、メタロヘリセンの合成と機能化について研究を行ってきた。本度は、直鎖状オリゴオキシムの末端のベンゼン環部分にアリル基などのらせん固定化部位を導入した配位子を合成し、金属と錯形成させてメタロヘリセンへと導くことを検討した。ここで、金属としては、亜鉛(II)-ランタン(III)や亜鉛(II)アルカリ土類の組み合わせを用いることとした。らせん型金属錯体のらせん構造の固定化について、閉環オレフィンメタセシスによる検討を行ったところ、第二世代のGrubbs触媒を用いた条件で反応が進行した。特に、亜鉛-カルシウムの系では、単離収率64%で環化体が得られた。また興味深いことに、cis体のオレフィンのみが生成していることが明らかとなった。亜鉛-ランタンの場合には副反応が進行するために収率は低下したが、この場合も環化体の生成はcis選択的であった。また、らせん型構造とならない亜鉛(II)ホモ三核錯体の場合は、cis,trans体の混合物(32:68)が得られた。一方、金属と錯形成させていない配位子のオレフィンメタセシスではtrans体が主として生成した。これらの結果から、直鎖状配位子をらせん型金属錯体に変えても十分にメタセシス反応が効率的に進行し、その際に、生成するオレフィンのcis/trans比が逆転するということがわかった。このように、Grubbs触媒を用いた閉環メタセシスが不斉情報保存のためのらせん構造の固定化反応に有用であることを明らかにした。