著者
川村 皓生 加藤 智香子 近藤 和泉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.65-73, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的:通所リハビリテーション事業所(以下,通所リハ)利用者の生活活動度を構成する因子は多様であるが,様々な生活背景や既往歴を持つ高齢者の生活活動度の関連因子について多方面から調査した研究は少なく,また生活活動度の違いがその後の要介護度の変化にどのような影響を与えるのかについては不明な点が多い.今回は,通所リハ利用者に対し精神・社会機能も含めた複合的な調査を行い,生活活動度の関連因子および,約1年後の要介護度変化の差について検討することを目的とした.方法:2カ所の通所リハ事業所利用者のうち,65歳以上であり,要支援1・2・要介護1いずれかの介護認定を受け,屋外歩行自立,MMSE(Mini-Mental State Examination)≧20の認知機能を有する83名(平均年齢79.5±6.8歳)を対象とした.主要評価項目の生活活動度はLife Space Assessment(LSA)にて評価した.LSAとの関連を調査する副次評価項目として,一般情報(年齢,既往歴,要介護度など),身体機能・構造(握力,Timed Up and Go test(TUG),片脚立位など),精神機能(活力,主観的健康感,転倒不安など),社会機能(友人付き合い,趣味,公共交通機関の有無など)について調査した.また,調査開始から約1年後の要介護度について追跡調査を行った.結果:重回帰分析の結果,TUG(β=-0.33),趣味の有無(β=0.30),友人の有無(β=0.29),近隣公共交通機関の有無(β=0.26),握力(β=0.24)の順にLSAとの関連を認めた.次に,LSA中央値54点でLSA高値群,LSA低値群に二分し,約1年後の要介護度変化(軽度移行・終了,維持,重度移行)についてカイ二乗検定にて検討したところ,群間の分布に有意な差を認めた(p=0.03).結論:通所リハ利用者の生活活動度には,身体機能に加えて,外出目的となり得ることや実際の外出手段を有することといった複合的な理由が関連していることが示唆された.また高い生活活動度を有することにより,その後の要介護度の軽度移行や利用終了に結びつきやすくなる可能性が推察された.
著者
山本 ひとみ 牧上 久仁子 福村 直毅 牛山 雅夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.516-524, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
18

目的:回復期リハビリテーション(回復期リハ)病棟で入院患者に積極的な摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)と栄養療法の強化を行い,入院中の肺炎発症予防効果を検討する.方法:本研究は後ろ向きコーホート研究である.46床の回復期リハ病棟において,積極的な嚥下リハ手法(新手法)が導入された前後で,入院患者の肺炎発症率を比較した.アウトカムは入院中の肺炎発症とした.新手法群で新たに導入した手法は,入院時全症例に嚥下内視鏡検査を行って食形態・摂食体位を指示する,体位による唾液貯留位置のコントロール等による慢性唾液誤嚥対策,経口・経管あわせて原則2,000 kcal/日を目標として栄養管理を行う,などである.新・旧手法群で患者背景が異なっていたため,統計的手法を用いて新しい嚥下リハ手法の肺炎発症予防効果を検討した.結果:新手法の嚥下リハを受けた291人と,それ以前に入院した460人を対照群として比較した.新手法群は旧手法群より嚥下障害の患者の割合が多かった(新手法群59.1%,旧手法群33.0%).肺炎発症者は新手法群5人(1.7%),対照群13人(2.8%)であった.肺炎発症を従属変数とし,年齢・性別と各患者背景を投入したロジスティック回帰を行ったところ,嚥下障害の調整オッズ比は24.0(95%信頼区間3.11~186.0,p=0.002)と大きかった.年齢,性別と嚥下障害の有無で調整した新しい嚥下リハ手法と入院中の肺炎発症の関連をみたオッズ比は0.326(95%信頼区間0.11~0.95,p=0.040)であった.結論:嚥下障害は肺炎発症の重大なリスクであり,内視鏡等を用いて積極的に嚥下障害をスクリーニングし,栄養療法やリハを行うことで回復期リハ病棟入院中の肺炎発症を抑制できる可能性がある.
著者
北 正人 藤井 信吾
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.507-510, 2000-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
22

閉経とは卵巣機能の衰退・消失によって起こる月経の永久的な閉止である. ヒト女性の閉経年齢は平均50歳前後であり, 環境因子や排卵状態などの個体差の影響を受けにくい. 卵巣の寿命を規定する遺伝子はX染色体上にあると考えられているが, その発現メカニズムは明らかになっていない.卵巣機能の最初の老化徴候は35歳頃より卵胞からの inhibin 分泌が低下しはじめることであると考えられている. 40歳代を過ぎると, この傾向が著明になり下垂体からのFSH分泌は亢進する. 卵胞期間は短縮し黄体の寿命も短縮し月経周期は短縮する. 卵巣の原始卵胞数は急に減少しはじめる. 卵胞のホルモン反応性が悪くなると今度は卵胞発育は遅延し, 月経周期の延長や無排卵周期がみられるようになる. この間, 原始卵胞の数はますます減少する. 卵胞からのE2分泌の低下を代償するために, 間脳からのGnRH分泌は亢進し下垂体からのLH分泌も亢進する. しかし, しばらくするとFSH・LHの上昇にも卵胞は反応しなくなり, 卵胞発育は不十分となり排卵に至らなくなる. E2分泌は低下し, 子宮内膜の反応も低下する. じきに月経は停止し閉経となる.閉経後2~3年以内に卵巣の卵胞は消失し, estrogen の分泌がなくなる. その後の estrogen の主体は体内の末梢組織のアロマターゼで androgen から転換された estrone であるが, その値は閉経前に比べてかなり低く, 閉経以降の女性は相対的に androgen 過剰状態となる. GnRH・LH・FSH分泌は亢進の状態が続き, 70歳代にはいって徐々に下降する.閉経による低 estrogen 状態は身体的悪影響を及ぼすが, 基本的にはホルモン補充療法によって代償が可能である. しかし, 閉経に伴う排卵の停止の予防や治療は困難である.
著者
奥町 恭代 山下 大輔 肥後 智子 高田 俊宏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.354-358, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
7
被引用文献数
4

目的:一般の市中病院において高齢の高度認知症患者が死亡に至る理由を検討する目的で,認知症を合併する高齢者の入院が多い当科での死亡退院症例を検討した.また,当院の全診療科において作成された死亡診断書を後ろ向きに閲覧し,認知症患者の死因についてさらに検討した.方法:①2010年6月からの3年間に大阪府済生会中津病院老年内科に入院し,入院中に死亡あるいは回復が見込めないと判断され自宅で看取り退院となった高度認知症の31名につき入院時・死亡時の病名と死亡に至る背景を検討した.②2013年4月1日からの1年間に大阪府済生会中津病院で死亡診断書が作成され直接死因欄に老衰あるいは肺炎と記載された症例について,死亡の原因と関連する疾患の記載につき調査した.結果:①高度認知症で死亡退院した31名のうち,3分の2にあたる21名で認知症の進行に伴う摂食・嚥下障害の存在が死亡と関連していた.②全診療科の死亡診断書において,「老衰」と記載されていた13名はカルテ等で調査したところ全例に高度の嚥下障害があり,11名が高度認知症,2名がパーキンソン病末期であった.直接死因欄に「肺炎」あるいは「嚥下性肺炎」と記載された症例のうち,死因に関連する疾患の欄に認知症や嚥下障害に関連した病名が記載された症例はなかった.結論:認知症患者の終末期像として,摂食・嚥下障害や嚥下性肺炎が認められた.認知症は嚥下障害を引き起こし,ひいては死亡につながる疾患であるという事実が広く認識されることが必要であり,当該する患者では認知症もしくは認知症の原因疾患名を死亡診断名として使用するのが適切であると考えられた.
著者
磯谷 一枝 山中 学 石川 元直 扇澤 史子 望月 友香 稲葉 百合子 山本 直宗 山中 崇 大塚 邦明
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.570-571, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

入院中の高齢者において抑うつは疾患治療を困難にする重要な問題であるが影響を与える因子については明らかではない.65歳以上の入院高齢患者174名を対象に,Geriatric depression scale(以下,GDS)を実施し,性別,年齢,基礎疾患,居住形態,認知機能との関連を検討したところ,患者の居住形態がGDSに最も強く独立して関連し独居群は家族同居群よりもGDSが高く治療意欲の低下を支持する回答が多く,独居高齢者では入院中に心理的援助がより必要である.
著者
大類 孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.558-560, 2010-11-25
参考文献数
14

誤嚥性肺炎の危険因子として最も重要なものは,脳血管障害および変性疾患に併発しやすい不顕性誤嚥である.不顕性誤嚥は,大脳基底核病変を有している人に多く認められる.降圧剤のACE阻害薬などの不顕性誤嚥の予防薬はハイリスク高齢患者において肺炎の予防効果を有する.また,寝たきり高齢者でも肺炎球菌ワクチン投与は有効で,発熱日数の減少および入院回数の抑制効果が認められる.さらに,寝たきり高齢者で低下し易い細胞性免疫の賦活法としてBCG接種があり,BCG接種は高齢者肺炎の予防効果を有する.<br>
著者
坂本 直治 杉原 栄一郎 朴 宗晋 福田 洋 礒沼 弘 饗庭 三代治 檀原 高
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.47-51, 2010 (Released:2010-03-25)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

目的:肺炎は一般臨床の場でよく遭遇する疾患であり,高齢者にとっては死因の上位を占めている.我が国は高齢化社会を迎えており,高齢者肺炎患者を診る機会も多い.そこで高齢者市中肺炎の死亡例を解析し予後因子の検討を行った.対象と方法:順天堂東京江東高齢者医療センター高齢者総合診療科に2005年1月から2006年12月までの間に入院を要した65歳以上の高齢者の一般市中肺炎患者200例を対象とした.これらの200症例を死亡群,治癒群に分け,入院時において早期に把握できる項目として患者背景,基礎疾患,身体所見,一般検査所見,胸部レントゲン所見,A-DROPを用いた重症度の比較検討を行った.結果:対象患者の死亡率は15%であった.平均年齢は死亡群の方が高く,入院までの期間も死亡群の方が長い経過を要していた.基礎疾患では脳血管障害,循環器疾患,認知症を多く認めたが,複数の基礎疾患を合併している症例が多くみられた.検査所見では死亡群の方が,総蛋白値,アルブミン値は低値,BUN値は高値であった.胸部レントゲン所見では死亡群のほうが陰影の広がりが大きい傾向がみられた.A-DROPによる重症判定では死亡群の方が重症,超重症例を多く認めた.考察:高齢者肺炎死亡例を検討したが予後因子として治療までの期間,総蛋白質値,アルブミン値などの栄養状態や,脱水などの臨床所見,胸部レントゲン所見の広がり具合が重要であった.A-DROPによる重症度判定は簡易に日常臨床の場で行うこともでき有用であると考えられた.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵 中島 務 西田 裕紀子 丹下 智香子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.325-329, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

目的:耳垢は高齢者および知的障害者に頻度が高いことが知られており,湿性耳垢の頻度が高い欧米では高齢者の約3割に耳垢栓塞があるという報告もある.しかしながら乾性耳垢の多い日本においての報告はない.今回,本邦における一般地域住民における耳垢の頻度と認知機能,聴力との関連について検討した.方法:『国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究』第5次調査参加者中,60歳以上で,耳垢確認のための鼓膜ビデオ撮影検査を受け,かつ耳疾患の既往のない一般地域住民男女792人を対象とした.Mini-Mental State Examination(MMSE)と良聴耳の耳垢の有無,良聴耳の4周波数平均聴力との関連について一般線形モデルで検討した.結果:対象792人中良聴耳の耳垢を85人(10.7%)に認めた.MMSE 24点以上の群では良聴耳の耳垢が有るのは10.0%だけだったが,MMSE 23点以下の群では23.3%に耳垢を認めた.また良聴耳の平均聴力は年齢,性を調整しても耳垢有群では無群より有意に悪かった(p=0.0001).また,年齢,性,良聴耳平均聴力,教育歴を調整しても耳垢有の群では有意にMMSE得点が低かった(p=0.02).結論:本邦においても高齢者の1割に良聴耳の耳垢を認め,耳垢により聴力が低下している場合があることが示唆された.また耳垢を有する群では認知機能が悪いことが明らかとなった.
著者
入来 正躬 小坂 光男 村上 悳 村田 成子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.172-177, 1975-05-31 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2

65歳以上の男子943名, 女子1671名, 計2614名について腋窩温を測定した. 測定時刻は午後1時より4時の間, 測定時間は30分である. 同時に血圧, 身長, 体重を測定した. 被検者のうち, 独力で普通の日常生活の不可能なもの, 身体の異常を強く訴えるものを除き男子875名, 女子1595名, 計2470名について統計学的検討を行なった. この結果より結論づけることができるのは次の諸点である. 比較のために成人腋窩温についての田坂ら (1957)の報告を用いた.1) 老人腋窩温分布は正規分布に近い分布を示し, その平均値は36.66℃, 標準偏差は0.42℃である.老人腋窩温の平均値は成人腋窩温の平均値36.89℃に比し0.23℃低い.老人腋窩温の標準偏差は, 成人腋窩温の標準偏差0.34℃より大きく, 老人腋窩温の個人によるバラツキが成人のに比し大きいことを示している.2) 男子老人腋窩温は平均値36.55℃, 標準偏差0.41℃であるのに, 女子老人腋窩温は平均値36.72℃, 標準偏差0.42℃である. 男子老人腋窩温の平均値は女子のに比較して0.17℃低い. 成人の腋窩温では男子は女子より高いので, 老人と成人の男女差は逆の傾向を示す.3) 老人腋窩温と最高血圧, 最低血圧, 平均血圧との相関関係は有意ではない. しかし, 老人腋窩温は体型により左右され, 身長, 体重, 比体重と逆の相関関係が成り立つ. 比体重の大きい, すなわち肥満型の人ほど腋窩温が低い.なお本統計は, 独力で普通に生活している老人の日常生活にあらわれる時間的な一断面における腋窩温について述べたもので, 長期間臥床を保っているような条件の老人にこの数値をただちにあてはめることはできないかと考えられる.
著者
飯田 真也 加藤 徳明 蜂須賀 研二 佐伯 覚
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.202-207, 2018-04-25 (Released:2018-05-18)
参考文献数
8
被引用文献数
1

現在,高齢運転者の認知症対策を強化した改正道路交通法が施行され,ニュース等で取り上げられる高齢者の自動車運転に関する話題も多い.自動車運転は「知覚→判断・予測→運動」に至る複合的な機能が動員される複雑な作業であり,本稿ではまず,高齢者の運転特性について,次に高齢者の運転適性を行うにあたり路上運転評価よりはるかに簡便な簡易自動車運転シミュレーターを使用した自動車運転に必要と考えられる高齢者の認知機能面の特徴について論述する.
著者
角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.465-468, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
9
被引用文献数
6

高齢社会の進展に伴い,嚥下障害患者や口腔管理が自立できない高齢者の数も増加しており,QOLの維持や生きがいの観点から適切な嚥下機能,口腔機能を維持・改善することは重要な課題である.嚥下障害患者は,誤嚥性肺炎に罹患しやすい上に,低栄養状態になりやすい.嚥下障害患者に対する口腔ケアは,単に口腔内を清潔にするだけでなく,死亡原因となる誤嚥性肺炎を未然に防ぐとともに,摂食・嚥下機能の改善,脱水や低栄養状態の予防にかかわり,生活の質(QOL)向上の観点からもきわめて重要である.さらに,口腔ケアは機械的刺激が摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練としての役割も果たす.以上のように,嚥下障害患者における口腔ケアの意義は,(1)誤嚥性肺炎の予防,(2)低栄養の予防,(3)摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練の3点が挙げられる.5分間で終了する標準化した口腔ケアである"口腔ケアシステム"は,口腔期のリハビリテーションとして有効性が期待される.
著者
西永 正典
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.441-444, 2007 (Released:2007-09-06)
参考文献数
4

日本高血圧学会の高血圧診療ガイドライン(JSH2004)では,高齢者高血圧に対して,前期高齢者(65歳以上75歳未満)と後期高齢者(75歳以上)の降圧目標をいずれも140/90mmHg未満とした.しかし,ガイドラインの中でも示されているように,私たち老年科医が日々遭遇している,80歳前半以降の高齢者高血圧に対してのエビデンスは未だに少ない.海外のEWPHE(European Working Party on High Blood Pressure in the Elderly Trial)では,80歳以上では降圧治療の効果がほとんど消失するとしたのに対し,HYVET(Hypertension in the Very Elderly Trial)パイロット試験では,降圧療法によって脳卒中だけが,降圧療法のベネフィットがあった.さらに,STOP-Hypertension, MRC-old, STONEと同様に,NIPPON DATA90の解析でも,降圧薬を服用していて,正常血圧レベルに達していない群のリスクがもっとも高く,降圧薬を服用し正常血圧にコントロールされている群では,降圧薬を服用せず正常血圧である健康群とほとんどリスクが変わらなかった.我々のフィールドでも高齢者の降圧コントロールが十分でなく,高血圧コントロール不十分例で要介護になりやすいことを考えると,欧米に比し脳卒中が多い日本人では,降圧療法により脳卒中の発症がある程度抑制できるならば,「介護予防の観点」からも高齢者に対する降圧療法は可能な範囲で勧められるべきと考えられる.
著者
丹野 宗彦 中山 雅文 京増 芳則 川上 睦美 間島 寧興 遠藤 和夫 千葉 一夫 山田 英夫 丹野 瑳喜子 笠原 洋勇
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.190-197, 1992-03-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
16
被引用文献数
1

脳幹部に疾患が疑われ, 脳幹部のMRIを施行した97症例のMRI所見につき検討した. 対象は昭和63年6月より平成元年3月迄に施行した97症例である. その内訳は男性53症例, 女性44症例である. 平均年齢は共に71歳である. 病変の判定はT1強調像, T2強調像およびプロトン像で行った.その結果, 1) 61歳以上の高齢者では脳幹部, 特に橋部に病変を認めた症例が多く, その内訳では梗塞例が最も多かった. また橋部にT2強調像で高信号域を認め, T1強調像で同部の異常信号を認めないMRIの画像診断上, いわゆる典型的な梗塞パターンを示さない症例も多く認められた. 2) この二つの所見を呈した症例では共に高い頻度で基底核, 視床などに病変を合併していた. 3) 高血圧症の既往を有する症例では, 認めない症例に比して, 橋部により高い頻度で病変を認めた (α<0.01)
著者
富田 哲治 長瀬 隆英
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.440-443, 2001
被引用文献数
9

哺乳類, 昆虫などにおいて感染防御を司る生体内の抗菌物質の存在については以前より知られている. ヒトにおける抗菌ペプチドはディフェンシンと総称され, 細菌, 真菌など広範囲にわたり抗菌活性をもち, このうち粘膜上皮の感染防御に関与しているのがβ-defensin である. 現在, 3種類のβ-defensin が単離・構造決定されているが, human β-defensin-2 (hBD-2) は, 1) 肺, 気管にて発現がみられる, 2) 細菌感染や炎症性サイトカイン刺激にて発現誘導される, という特徴をもっている. そのため, hBD-2は呼吸器感染症により密接な関係をもつことが示唆されている. その抗菌活性機序として従来より細菌細胞膜表面にディフェンシン重合体が孔 (pore) を形成し, 細胞膜透過性を亢進するためと考えられているが, hBD-2ではそれ以外に膜電位への静電気的な関与によるものと考えられている. また発現誘導されるhBD-2の転写活性としてはCD14と Toll like receptors (TLRs) を介してNF-κBを活性化すると報告されている. hBD-2は元来生体で産生されるものであり, 広範囲に抗菌活性を有することより, 今後の臨床的応用が期待される.
著者
高橋 宏三 藤永 洋 小林 元夫 内藤 毅郎 飯田 博行 青木 周一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.643-647, 2002-11-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

高齢者においてリウマトイド因子陰性の多発性関節炎を診たときに, 考えるべき疾患はいくつかあるが remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE) 症候群もその1つである. これまで7症例経験した. 男2例, 女5例. 年齢は平均75.9歳 (67~82歳) と高齢で, 比較的急速な発症, 多関節炎, 両側の手背足背の pitting edema, リウマトイド因子陰性, 抗核抗体陰性ということが共通しており, McCarty らの提唱するRS3PE症候群とよく一致した. ただし本疾患は性別では男に多いとされているので, この点では異なっていた. 発熱を7例中4例に認め, 初診時CRP 0.9~27.8mg/dl, 赤沈70~140mm/hrであり, 全例が変形性関節症を伴なっていた. いずれも経過良好で, 有効治療はプレドニゾロン20mgが3例, 同10mgが2例, 非ステロイド性抗炎症薬が1例, 漢方薬が1例であった. 本邦での報告例は少ないが, まれな疾患ではないと思われる. 特に高齢者医療においてはこの疾患を知っていることが大切であり, 日常診療における注意深い観察が必要である.
著者
藤井 昌彦 佐々木 英忠
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.114-118, 2017-04-25 (Released:2017-06-07)
参考文献数
45
被引用文献数
1

人の脳は新皮質と大脳辺縁系に大別されるが,大脳辺縁系の情動が目的で新皮質の知識は道具でしかない.道具は加齢とともに衰えることは自然の摂理であるが,情動の異常興奮であるBPSDは情動療法により本来のやさしさを取り戻すことができる.すると在宅介護も可能になり認知症の定義から外れることにより認知症は治療可能な疾患であると考えられる.更に加えて在宅介護には介護者のBPSCの治療が必要になる.
著者
北沢 明人
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.175-182, 1982-03-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20

糖尿病患者317例および健常者82例を対象に, 血小板粘着能, ADPによる血小板凝集能および血漿β-thromboglobulin (以下βTGと略す) 濃度を測定し, 糖尿病患者における血小板機能の加齢による変化を明らかにするとともに, 糖尿病性血管障害進展因子としての血小板の役割を検討した. その結果, (1) 血小板凝集能の加齢による変化は, 健常者では明らかでなかったが, 糖尿病患者では加齢とともに亢進する傾向がみられた. (2) 血漿βTG濃度は, 健常者では加齢とともに高値を示したが, 糖尿病患者では若年群において既に健常者老年群に匹敵する高値を示し, 加齢による増加はみられなかった. (3) 血小板凝集能の亢進は, 糖尿病性網膜症合併群において明らかに認められ, 網膜症非合併群では健常者と有意差を示さなかった. (4)血漿βTG濃度の増加は, 糖尿病性網膜症の有無にかかわらず認められた. (5) 糖尿病患者の血小板凝集能および血漿βTG濃度は, 糖尿病治療方法, 血糖コントロール状態あるいは糖尿病性網膜症の重症度と関連を示さなかった. (6) 糖尿病患者未治療群では治療群に比べ, 最大凝集率が低値であるにもかかわらず血漿βTG濃度は高値を示した. (7) 糖尿病罹病期間が長い程, 最大凝集率は高値をとる傾向を示したが, 血漿βTG濃度は罹病期間の短い群で高値を示した. (8) 血小板粘着能はばらつきが大きく, 健常者と糖尿病患者で差は認められず, 加齢との関係もみられなかった.すなわち, 血小板凝集能の亢進と血漿βTG濃度の増加は平行関係を示さなかった. 血漿βTG濃度の増加が若年群において既にみられ, 罹病期間の短い群にむしろ著しく, 網膜症の有無や血糖コントロール状態に無関係であったことは, この現象が血管障害による単なる二次的な現象ではないことを示すものであり, 血管障害進展に果す役割が注目される.
著者
神森 眞 田久保 海誉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.365-368, 2004-07-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1

テロメアは染色体末端に存在し, 染色体の安定に貢献している. また, 正常培養細胞における細胞老化はテロメア短縮によって説明されている. 今回, 我々は組織切片を用いたテロメア長測定法を開発したので, テロメア長測定法を中心に記述し, テロメア研究の進歩について述べる. 従来は, 細胞や組織から抽出したDNAを制限酵素で切断し泳動像のピーク値などをテロメア長としていた. 1996年に培養細胞を用いた細胞分裂中期 (metaphase) の染色体個々のテロメア長測定が quantitative fluorescence in situ hybridization (Q-FISH) により可能となり, 癌組織では, 特異的に限られた染色体のテロメアが短縮していることが報告された. 培養細胞や末梢血のテロメア測定は flow cytometery による flow FISH が行われ, 多くの白血病細胞におけるテロメア代謝が明らかにされた. 組織切片を用いたテロメア長測定法 (tissue FISH) は, 少数の論文の中で紹介されていたが良好な結果を得ることが困難であった. 我々の研究グループにより確立された組織切片を用いたテロメア長の測定法を紹介し, この方法は測定が容易であると同時に, 組織像と対比できる点で利点が大きく, 今後の組織のテロメア代謝の解明に貢献すると思われる.
著者
伊藤 正毅
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.69-81, 1999-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
127

高齢者糖尿病の頻度, 成因, 症状の特異性, 治療目的, 治療内容-食事, 運動, 薬物療法-, 慢性の合併症, コントロール目標について考察した. 60歳以上の高齢者の糖尿病の頻度は13~14%に達した. 30歳以後, 年齢とともに食後の血糖の上昇が認められるが空腹時の糖の上昇は著明でない. 高齢者糖尿病の成因としてインスリン抵抗性とインスリン分泌障害が考えられ, 肥満者は抵抗性が主であり, 非肥満者は分泌障害が主であると報告されている. インスリン抵抗性の原因として年齢を経てもインスリン受容体の減少がないことより受容体以後, GLUT4の translocation までのいずれかの機構の障害があり, インスリン分泌障害はインスリンの first, second phase ともに障害されていると報告されている. 相対的なプロインスリンの増加も報告され, プロインスリンからインスリンの転換の障害も示唆されている. 高齢者には口渇中枢の障害や糖の排泄域値の上昇が見られることから糖尿病の症状は非定型的になりやすい. 高齢者糖尿病には認知障害が認められがその程度や障害内容がどのような治療の妨げになるかは解明されておらず, この分野の研究が重要である. 高齢者糖尿病の食事療法は低栄養や vitamin, mineral, 亜鉛などの欠乏→創傷治癒の遅延に繋がる可能性があるので食事指導は個人の能力, 社会的環境に即した個別指導が必要である. 持続した運動療法は高齢者でも中年者と同様の効果が認められているが, 運動前に充分なチェックが大切である. 薬物療法は年齢に伴う薬物代謝の変化から副作用の出現-特に, 低血糖の遷延-に注意が必要である. 高齢者の低血糖は counterregulatory hormone の分泌低下や低血糖の認知低下などがあり重症化しやすい. 血糖コントロールの recommendation としてFBS 140mg/dl以下, 食後血糖200mg/dl以下, HbA1cは測定上限値1%以内が提示されている.
著者
川本 龍一 土井 貴明 山田 明弘 岡山 雅信 鶴岡 浩樹 佐藤 元美 梶井 英治
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.861-867, 1999-12-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
15 22

地域在住の高齢者を対象に, 主観的幸福感とその背景因子を解明するための横断調査を実施した. 対象は, 地域在住の自記式回答可能な高齢者であり, 調査は, 松林らの香北町健康長寿研究で用いられたと同様の Visual Analogue Scale を用いたアンケートを使って行われた.地域在住の自記式回答可能な高齢者2,379人中2,361人 (99.2%) より回答を得た. そのうち回答不備例を除く分析可能な対象は, 1,873人 (78.7%), 男性860人, 平均年齢72.7 (95%信頼区間: 72.3~73.0) 歳, 平均主観的幸福感69.1 (67.6~70.5), 女性1,013人, 平均年齢72.8 (72.4~73.1) 歳, 平均主観的幸福感68.5 (67.2~69.7) であった. 主観的幸福感と背景因子との関係については, 主観的幸福感は同居家族のいる人 (p=0.0051), 配偶者のいる人 (p=0.0240), 血圧の高くない人 (p=0.0096), 脳卒中歴のない人 (p=0.0039), 医師による定期的内服治療を受けていない人 (p=0.0039), 運動習慣のある人 (p<0.001), 仕事をしている人 (p<0.001) ほど有意に大きかった. 主観的幸福感と各種スコアーとの関係については, 主観的幸福感はADL, 情報関連機能, 手段的・情緒的支援ネットワーク, 健康状況, 食欲状況, 睡眠状況, 記憶状況, 家族関係, 友人関係, 経済状況の値が高いほど有意に大きかった (各々p<0.001). 主観的幸福感を取り巻く背景因子を説明変数とする重回帰分析では, 手段的支援ネットワーク (p<0.001), 情緒的支援ネットワーク (p=0.0254), 健康状況 (p<0.001), 記憶状況(p=0.0027), 友人関係 (p<0.001), 経済状況 (p<0.001) は有意な正の偏相関を示した. 抑うつ状態 (SDS) と主観的幸福感との関係では, SDSが重症 (高得点) になるほど主観的幸福感のスコアーは有意に小さかった (p<0.001).地域に在住する高齢者の主観的幸福感の向上のためには, 今回明かにされた背景因子の改善を計り, 今後経年的に経過をみて行くことが必要であろう.