著者
生田 真一 初瀬 一夫 川原林 伸昭 相原 司 望月 英隆
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1554-1558, 2000-08-01
被引用文献数
1

症例は透析歴10年の48歳の男性.近医で直腸癌を疑われ当科紹介入院となった.術前検査中に黄疸が出現, 精査で肝門部胆管・直腸同時性重複癌と診断された.1998年8月6日, 拡大肝右葉・尾状葉切除, 胆管切除, 左肝管空腸Roux-en-Y吻合術を施行した.術前3日間は連日透析を施行し, 輸血により貧血を補正した.術中出血量は2,950ml, 尿量は0ml, 術中輸液は1号液と5%ブドウ糖液で維持し, 濃厚赤血球6単位, 新鮮凍結血漿(FFP)18単位を輸血した.術後輪液は50%ブドウ糖液とFFPを中心にGI療法を併用して1日1,500ml前後としたが, 心不全, 肝不全徴候は認めず血清K値は正常範囲で経過した.術後透析は48時間後から抗凝固剤にフサン^〓を用いて再開したが出血傾向は認めなかった.術後17週目に直腸癖に対しHartmann手術を施行した.慢性血液透析患者においても周術期管理に留意すれば, 広範囲肝切除などの高度侵襲の手術も重大な合併症なく施行しうると思われた.
著者
松本 由朗
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.614-623, 1986-03-01
被引用文献数
2

過去15年間に経験した胆道疾患約1,500例について,胆道の画像診断,胆道シンチグラフィおよび臨床所見の総合的解析から,胆道および肝臓,膵臓疾患のなかには,その成因として胆道の形成異常が大きく関与していることを実証した.胆道形成異常は先天性総胆管拡張症と膵管胆道合流異常であり,これらの形態上の新しい定義を提唱し,機能面からも胆管拡張症は胆管内胆汁うっ滞を,合流異常は十二指腸乳頭部における胆汁の通過障害を来すことを明らかにした.その結果胆道の形成異常の存在のみでは機能障害は存在しても臨床症状の発現に至らないことが証明され,加齢,炎症などの後天的要因の関与によって初めて臨床症状が発現することを明らかにした.そして胆道形成異常は胆管結石症,肝内結石症,急性肝炎および肝内胆汁うっ滞型肝障害発生のhigh risk stateであることを提唱した.
著者
松森 正之 大久保 琢郎 向井 友一郎 築部 卓郎 渡部 宜久 大森 敏弘 家永 徹也 佐藤 洋 笹田 明徳 中村 和夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.1994-1998, 1992-07-01
被引用文献数
2

食道平滑筋肉腫はまれな疾患で文献的にはこれまで95例が報告されているにすぎない.最近,われわれは2例の巨大な食道平滑筋肉腫の手術切除例を経験したので報告する.症例1は39歳の男性,多発性の肝転移をともなった巨大な腫瘍であったが,手術を2期に分けて切除しえた.まず1回目の手術で右開胸により腫瘍が浸潤した右肺下葉を切除し体位を変え左開胸開腹連続切開により1,500gの腫瘍を切除した.食道再建は胃管により胸骨後経路で行った.2回目の手術は40日後に非定型的肝右葉拡大切除術を施行し肝の内側区,前下および後下区域の肝転移巣を切除しえた.術後経過は良好で20日後に退院したが,第1回目手術から1年2か月後に多発性縦隔および肝転移で死亡した.症例2は46歳男性,左開胸開腹連続切開により腫瘍が浸潤した左肺下葉と下部食道を切除した.腫瘍の重量は800gであった.再建は空腸を間置し術後経過良好であり,現在術後3か月目になるが外来で経過観察中である.
著者
別府 真琴 土居 貞幸 呉 教東 藤本 憲一 谷口 積三
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.2127-2132, 1988-08-01

肝門部胆管癌手術症例11例につき検討を行った.11例のうち5例は姑息的内瘻術に終ったが,予後は平均12.8カ月(最長26カ月)で治癒切除可能症例が含まれていたことが示唆された.また切除例は6例で,乳頭浸潤型1例を除き,5例が結節浸潤型ですべてV因子陽性でStage IIIまたはIVであった.V因子陽性5症例中,4例は左または右の片側浸潤で,3例に血管浸潤側肝葉切除を施行し,そのうち左尾状葉合併切除を伴う左葉切除術(治癒切除)を施行した症例は6年8カ月後再発なく健在である.残り1例はV_3(Arh)で肝門部切除術,右肝動脈切断を行ったが,肝不全で失った.そして結節浸潤型5例全例が,ly_<1〜3>,pn_<2〜3>で,n(+)は1例であった.
著者
三谷 眞己 片岡 誠 桑原 義之 呉山 泰進 岩田 宏 正岡 昭
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.907-911, 1994-04-01
被引用文献数
18

症例は59歳の男性,十二指腸乳頭部癌にて膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的診断は内分泌細胞癌と管状腺癌の複合癌であった.両癌部位を,グリメリウス染色,フォンタナマッソン染色,免疫組織化学的染色にて検索したところ,内分泌細胞癌部において,グリメリウス染色,Leu7が極散在性に,腺癌部においてグリメリウス染色,クロモグラニン,neuron specific enolase(NSE), Leu7, carcinoembryonic antigen(CEA)が陽性を呈した.これは両者の起源が共通であることを示唆しているとともに,通常,神経内分泌機能を有することが多いとされる内分泌細胞癌部より,腺癌部にかえって神経内分泌機能がみられた.
著者
徳永 信弘 篠原 央 大西 英胤 別所 隆 栗原 博明 森 光生 郭 宗宏 片田 夏也
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.2824-2826, 1991-11-01
被引用文献数
16

異時性に両側発生した閉鎖孔ヘルニアの1例を経験したので報告する. 症例は85歳の女性で右大腿内側部痛を主訴に整形外科を受診したが腹部単純 X 線写真で鏡面像が認められ入院となった. 保存的治療にて改善傾向なく右 Howship-Romberg sign 陽性のため右閉鎖孔ヘルニア嵌頓の術前診断にて開腹された. 同症例は術後21週目に嘔吐と上腹部痛が出現し腸閉塞の診断で再入院となった. 入院後今度は左大腿内側部痛を訴え再開腹が施行され左閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断された. 閉鎖孔ヘルニアの異時性両側性発生の報告例は本例を含め4例で, いずれも術後6か月以内に対側の閉鎖孔ヘルニアを発症したと報告されている. 閉鎖孔ヘルニアの開腹手術の際には対側の閉鎖管を検索すること, およびその対処が必要であると思われる.
著者
角田 明良 渋沢 三喜 草野 満夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.8, pp.1457-1460, 2002-08-01
被引用文献数
3

1996年10月から2001年4月までに,著者自身が主治医となった癌患者235人のうち癌告知を行ったのは221人(94%)で,この間に癌病死した患者は45人である.これらを対象として,計画的なinformed consent(IC)と緩和ケアが未確立であった前期と確立した後期に分けて,患者が死を迎えた場所を調査した.前後期に亡くなった患者はおのおの10人,35人であった.死を迎えた場所は,前期では大学病院8人,緩和ケア施設と他院がおのおの1人であったのに対し,後期では大学病院のほかに緩和ケア施設16人,自宅6人,癌専門病院4人と多様であり,その分布は前後期で有意の差が認められた(p=0.019).大学病院の比率をみると前期80%(8/10),後期21%(8/35)で後期は前期より有意に低頻度であった.これは計画的なICと緩和ケアの確立によって,多くの患者が死を迎える場所を自己決定したためと考えられた.
著者
五本木 武志 小形 岳三郎 飯田 浩行 軍司 直人 中井 玲子 折居 和雄
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.395-400, 2006-03-01

症例は狭心症を有する78歳の女性で,2002年6月頃より下腹部痛を自覚し,同年10月当院紹介人院となった.注腸造影X線検査および大腸内視鏡検査にて,直腸を除く結腸に非連続性の大小不同卵円形の潰瘍性病変を認めた.保存的治療にていったん軽快したが,2003年3月,39℃台の発熱と腹痛が出現し,腹膜炎を認めたため,結腸亜全摘,回腸直腸吻合術を施行した.術後,全身カンジダ感染症を併発し,抗真菌剤を投与したが,術後第131病日,残存直腸に潰瘍を形成,心不全と腎不全が出現し,全身状態が悪化,術後275病日死去した.切除結腸の病理学的検索にて,虚血性潰瘍と疑われた.虚血性潰瘍が結腸全域にわたって多発した症例の報告例は少なく,本例は診断に困難を来した.今後,高齢者動脈硬化症例が増加すると考えられるので,本例のような症例も診断上考慮すべきと考える.
著者
森田 隆幸 橋爪 正 今 充 松浦 和博 山中 祐治 小野 慶一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.20, no.10, pp.2431-2434, 1987-10-01
被引用文献数
13

昭和50年から60年までの大腸癌初回手術491例中, 70歳以上の高齢者は102例, 20.8% であった. 組織学的に高分化型腺癌が多く, stageI, II 症例が 49% を占め, 治癒切除例の累積5生率 72.8%, 相対5生率 75.5% と非高齢者と遜色ない手術成績が得られた. 直腸癌手術では排尿・排便に関する慎重な配慮が必要であるが, 高齢者大腸癌の手術適応とし, 生活意欲があり普通の生活をしている限り年齢自体での手術適応の制限はないと判断され, 根治性を計った標準術式の採用により良好な成績が得られると考えられた. また, risk の高い重症例でも麻酔法の工夫により原発巣切除を試みれば愁訴もとれ延命効果も期待できることが知られた.
著者
中川 昭一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.9, no.5, pp.583-590, 1976-09

雑種成犬に胃切除術を合併しない各種迷切術を段階的に施行し, この間の血中ガストリンの変動をインスリンおよび試験食刺激を用いて検討した. さらに試験食刺激では幽門形成術の有無の影響をガストリン面から検討した. インスリン刺激によるガストリン分泌は, SPV で高値の傾向を示し, SV+P では刺激による反応は消失した. 試験食刺激によるガストリン分泌は, SPV で有意の高値を示し, SV および TV では SPV より有意の低値を示した. SPV, SV, TV に幽門形成術を追加すると, ガストリン分泌は低下傾向を示したが, 有意差は認められなかった. 迷走神経幽門洞枝はガストリン分泌促進作用を有すると考えられた.
著者
豊川(任) 貴弘 小川 正文 高島 勉 山崎 政直 田中 浩明 坂崎 庄平
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.266-271, 2003-04-01
被引用文献数
2

症例は50歳の女性.心窩部痛を主訴に来院し,腹部単純X線写真上,仰臥位では右上腹部に胆嚢およびその左側で総胆管の走行に一致した淡い石灰化様陰影を認め,立位ではこの胆嚢様の石灰化様陰影は下に凸の半月様に変形を示した.CT,DICなどにより総胆管結石,胆嚢結石,石灰乳胆汁と診断し手術を施行した.胆嚢の病理所見は慢性胆嚢炎で,総胆管結石はコレステロール79%,炭酸カルシウム21%で胆嚢内の石灰乳胆汁は98%以上が炭酸カルシウムであった.石灰乳胆汁は炭酸カルシウムを主成分とし,腹部単純X線写真上,特徴的な石灰化像を示すことで知られる.その生成には胆嚢管または頸部の閉塞が必要で,通常は胆嚢内にしかみられないが,ごくまれに総胆管内にもみられる.自験例は嵌頓結石とともに総胆管へ石灰乳胆汁が流出したと思われる症例で,本邦報告21例を検討し報告する.
著者
森本 光昭 辻 義明 原 靖 古閑 敦彦 牛島 正貴 田口 順 吉村 文博
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.163-168, 2005-02-01
被引用文献数
5

患者は68歳の女性で,主訴は腹部腫瘤.身体所見では左側腹部に弾性硬,可動性良好な約15cm大の腫瘤を認めた.腹部CT所見では胃小彎側前壁に接して11.5×9.0cmの腫瘍を認めた.手術所見では腫瘍は約15cm大,胃体中部小彎側に一部癒着し胃体部前壁に騎乗していた.腫瘍および胃部分切除を行い,腫瘍は完全切除された.摘出標本では腫瘍は13.5×10.0×9.0cm凹凸不整,弾性硬で,大部分は出血壊死を伴う嚢胞性腫瘍であった.病理所見では紡錘形腫瘍細胞が密に錯綜して増殖していた.免疫組織染色にてKIT(CD117), CD34, Vimentinが陽性,Desmin, S-100 proteinが陰性のためGISTと診断した.術後1年たった現在,再発の兆候はない.
著者
鈴木 雅雄 綿引 元 河合 隆 百々 修司 山本 英明 竹内 鉄郎 樋口 哲也 白石 勉 日置 弥之 近藤 真弘 都宮 伸 木村 恵理子 神谷 明江 小川 博 家本 陽一 下川 邦泰
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.2191-2192, 1999-08-01

従来より食道表在癌のX線学的深達度指標として, 病変正面像での陰影斑の濃度, 病巣内隆起の大きさ, 辺縁隆起の程度の3因子と各々の組み合わせ, 病変側面像で壁不整像, 陰影欠損像, 伸展障害の程度の3因子と組み合わせにより深達度推定を行い, 高い精度を得ている。表在癌m_1 35, m_2 20, m_3 22, sm_1 6で再検討を行った。陥凹型では陰影斑の濃度と顆粒像の組み合わせが最も有用であり, m_3の顆粒像は5mm以下であった。不整な顆粒像では4mmでもsm_1があった。隆起はm2bから欠損像を呈し, 腫瘍量を表している。伸展障害はsm以深の線維化の程度を反映した。