- 著者
-
塩沢 健一
- 出版者
- 中央大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
本年度の研究においては、市庁舎整備をめぐり5月20日に住民投票を実施した鳥取市に着目し、投票日の約1週間後より、郵送調査を行った。市の有権者3,000名を対象として実施した結果、1,189件の有効回答を得た。本調査の当初の目的は、「平成の大合併」により誕生した広域自治体における「民意」のあり方について、本研究課題の初年度に長野県佐久市で実施した意識調査との比較も交えながら、検討を加えることにあった。そうした観点からは、佐久市のケースと同様に、旧鳥取市と旧町村部とで、有権者の投票行動の傾向に一定の差異のあることが明らかとなった。他方、鳥取市の住民投票では当初から、2つの案から一方を選ばせる設問形式や争点提示の仕方に疑問の声が上がっていたが、住民投票で過半数の支持を得た「耐震改修案」が、その後の検証の過程で「当初案では実現不可能」と結論付けられ、市が計画していた新築移転案の対案として耐震改修案を提示した議会の説明責任が問われる状況となった。そうした経緯を踏まえて分析を試みたところ、住民投票を実現させた議会に対する有権者の「信頼」が、耐震改修案への投票と相関のあることが明らかとなった。すなわち、庁舎整備をめぐる「実質的な選択」という側面においては、鳥取市の投票結果に正統性があるとは言い難い。このように、鳥取市の事例は、住民投票における議会の「議題設定」という観点から見て、重要な教訓を残したと言える。その点において、本年度の研究の成果は、当初の計画において想定していた以上に、貴重なものとなったと言える。