著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

水素が材料の強度を劣化させる水素脆化はよく知られた現象である.水素エネルギーを安全に利用するためには,水素脆化のメカニズムの解明は非常に重要である.本研究では,水素と格子欠陥との相互作用に着目することで鋼材中での水素の役割に関する研究を行った.様々なシミュレーション手法を駆使した解析の結果,水素が格子欠陥を増殖し易くさせたり,運動性を大きく変化させることが明らかになった.
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

金属ガラスは極めて高い降伏応力や特殊な機能特性を有するものの,マクロな延性が乏しいという欠点を有する.常温での金属ガラスの変形と破壊はせん断帯の生成と伝ぱによって支配されているため,その詳細を解明して対策を考えることが必要である.ここでは,まず,切欠きを含む平板にモードIIの変形を加えることで,切欠き底からせん断帯を伝ぱさせる大規模な分子動力学シミュレーションを実施し,せん断帯内部の温度と応力の時間変化を詳細に評価した.そして,分子動力学シミュレーションの結果に基づき,金属ガラス中のせん断帯を粘性流体を含むモードII型き裂としてモデル化することで,不安定伝ぱを生じる可能性のある限界せん断帯長さを計算した.そして,その結果から実験的に観察されているせん断帯の長さをうまく説明できることを示した.さらに,金属ガラスが示す圧縮下と引張下での延性の大きな違いを,それぞれの場合の限界せん断帯長さの違いから説明した.また,初年度に引き続き,ナノ結晶を含む材料中のせん断帯伝ぱ挙動に関する計算も実施し,せん断帯の伝ぱ抵抗をJ積分を用いて評価した.その結果,せん断帯の伝ぱ挙動を効率的に変化させるためには,せん断帯の幅に対して十分なサイズを有する結晶粒子が必要であることが明らかになった.本研究によって,金属ガラスの延性を向上させるためには,(1)限界せん断帯長さを長くすること,(2)せん断帯を捕捉する機構の導入が重要であることがわかった.(1)を達成するためには,不均質性によって低い応力レベルからせん断帯を生成させることが有効であり,(2)を達成するためには,適切なサイズの軟質介在物の導入が特に有効であると考えられる.
著者
宮崎 則幸 池田 徹 松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

先端デバイスの強度信頼性評価に使用することができる解析プログラムおよび実験手法を開発した。すなわち、解析プログラムとしては、異種材界面強度の破壊力学的評価プログラム、転位密度というミクロ情報を含む構成式を用いた転位密度評価解析プログラム、および大規模分子動力学解析プログラムを開発した。また、実験的手法としては、撮像装置として光学顕微鏡および走査型レーザ顕微鏡を用いた微小領域ひずみ計測システムを開発した。これらの解析的、実験的手法を用いて、電子デバイスの強度信頼性評価を行った。
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

水素を安全に用いるためには,水素環境での金属材料の力学的挙動を正確に予測することが重要である.本研究では,材料/力学/環境的因子が金属の破壊形態に及ぼす影響を,解析と実験の両方から調べた.代表的な成果は以下の通りである.(a)境界条件によって支配的な水素の影響が変化する.(b)水素によって格子欠陥濃度が増大する機構を明らかにした.(c)水素が存在すると破壊直前に局所的な塑性ひずみ速度が急速に増大する.
著者
足利 健亮 金田 章裕 応地 利明 成田 孝三 山田 誠 青木 伸好
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

都市の立地決定は、計画都市の場合、大別して二つのタイプに分かれる。一つは近代以前に多いタイプで、立地決定が1人の権力者によって為されるものである。もう一つは近現代に多いタイプで、権力者というよりは為政者の合議によって決定が下される。後者のタイプは、特に時代が新しいものは、立地決定に至る経過が記録に残されていると考えてよいから、それを把握することは容易である。しかし、北海道の諸都市や新大陸の諸都市でも、19世紀以前の計画都市では、立地決定に至る経過の完全な復原は、史料の散逸ではやくも困難になっていることが多い。一方、近代以前の計画都市の選地にあたっては、多くの場合選地主体者たる権力者の意図が記録されることはない(戦略機密なので)から、文献史料による方法で「意図」と「経過」を解くことは不可能と言ってよい。ところが、都市が作られたという事実は地表に、従って地図上に記録されて残り続けてきているから、これを資料として上記設問の解答を引き出すことが可能となる。徳川家康や織田信長の城と城下町の経営の意図、つまり安土や江戸をどうして選んだかという問題は、上記の歴史地理学的手法による研究で解答を得ることができた。例えば、江戸を徳川家康が選んで自らの権力の基盤都市として作ったのは、不確かな通説とは異なり、富士が見えるという意外な側面の事実を「不死身」と読みかえて、自身の納得できる理由[選地理由]としたと説明する方が明快であることを、研究代表者は明らかにした。その他、各研究分担者によって日本古代地方官衙、同近代の計画都市、前近代アジア都市、アメリカ・ワシントン、カナダ諸都市など具体的に取り上げて選地理由と経過を明快に説明する結果を得た。詳細は、報告書(冊子)に論述された通りである。
著者
池田 徹 宮崎 則幸 松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,まず,マイクロ構造物の接合強度評価パラメータを解析する数値解析手法の開発を行うことを目的とした.このために,前年度までに3次元異方性異種材界面き裂の応力拡大係数を解析する手法を開発していたが,これにグラフィック・ユーザー・インターフェースを整備して,一般ユーザーが'使用しやすいソフトウエアを完成させた.また,当該年度には,熱応力下の異方性異種材接合角部の応力拡大係数を解析する手法を完成させた.これにより,界面き裂のみでなく,さまざまな角度をもって接合した接合角部の特異性応力場の評価が可能となった.これまで,このような熱応力下の異方性異種材界面角部の応力拡大係数を解析する手法は無く,本手法はマイクロ構造物のみに限らず,あらゆる異種材接合角部の定量的な強度評価に道を開くものである.次の目的は,デジタル相関法を用いた々イクロ接合部のひずみ分布の直接測定手法の開発である.これについては,レーザー顕微鏡画像に対するレーザー走査時の位置ずれに起因する画像誤差を,異なる方向に走査した2枚の画像を使って補正する手法を開発し,デジタル画像相関法によるひずみ測定の精度を向上させた.さらにこの計測手法を用いて,部品内蔵基板中のひずみ分布を計測することにも成功した.以上の成果によって,マイクロ構造物中の破壊現象について,数値計算手法による解析結果を実測によって確認することが可能となったことから,強度評価の信頼性を高めることが期待できる.また,数値計算手法では解析が難しい,複雑な内部構造をもったマイクロ構造物内のひずみ分布や,構成部材の材料定数などを実測によって調べることが可能となった.
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

鋼材は高強度になるほど水素感受性が強くなり遅れ破壊が起こりやすくなる. 近年, 巨大ひずみを付加し結晶粒を微細化することにより, 材料を高強度化する方法が注目されている. これらの材料では, 材料中に大量の格子欠陥(粒界, 転位)が含まれるため水素の拡散速度が遅くなり, き裂先端部等の静水応力集中部への水素の集積が遅れることが考えられる. また, 本手法で製造された材料には, 従来の材料と比べて高エネルギーの粒界が多く含まれることが分かっており, 材料に含まれる粒界特性の違いによる影響が現れることも考えられる. したがって, これまでの材料とは異なる耐水素特性が現れる可能性がある. 本年度は, 原子モデルにより理想的な粒界を取り扱い, 水素トラップ量に与える粒界特性の影響に関する解析を行った.粒界を含むα-Feでは, 粒界特性(粒界エネルギー, フリーボリューム)と水素トラップ量は対応関係にあることがわかった. すなわち, 粒界エネルギーが低い粒界は, 隙き間が少なく水素トラップ量も少ない. 逆に, 粒界エネルギーが高い粒界は, 隙き間が多く水素トラップ量も多い. つまり, 巨大ひずみを加えて作成した微細粒材料は高エネルギー粒界を多く含むため, 水素吸蔵量が多くなる. 粒界への水素トラップ量を減らすためには, 水素との親和性が低く粒界フリーボリュームを減らす元素の添加が有効と考えられる. また, 水素環境下では, 温度が高く圧力が低いとトラップされる水素原子が少なく, 温度が低く圧力が高いと水素原子は多くトラップされること, トラップされる水素原子の数は, 水素ガス圧力より温度の影響を受けやすいことがわかった.
著者
前田 昌弘
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度(平成20年度)は、インド洋津波に起因したスリランカにおける再定住事業の全体像を把握するために、政府・統計資料を用いて事業制度の分析、再定住地の建設動向と計画内容の分析、被災地から再定住地への人口移動の分析を行った。また、分析を踏まえ、再定住事業の影響が特に大きいと予想されるスリランカ南部・ウェリガマ郡の津波被災集落と再定住地を対象として、居住者の再定住プロセスと行政・NGOの再定住支援に関する実地調査を実施した。本年度は主に調査結果の分析を行い、再定住事業における環境移行にともなう居住者の環境適応の困難化の実態を指摘するとともに、従前居住地コミュニティ内のソーシャル・キャピタルの蓄積が環境移行の影響を緩和し住民環境適応を促進する可能性を指摘した。本研究は、再定住地の実態を踏まえ、従前居住地コミュニティ内のソーシャル・キャピタルを、世帯間関係(地縁関係、血縁関係、マイクロクレジットの関係)および住宅敷地の所有・利用関係という具体的な関係に着目して把握している。そして、それら関係の再編プロセスの分析を通じて、再定住地に環境適応している住民は従前居住地コミュニティとの関係性を何らかの形で維持していること、従前居住地との関係性は地縁・血縁だけでなくマイクロクレジットのような地縁・血縁によらない関係によっても維持されていることを明らかにした。自然災害に起因した再定住事業は一般的に、「住宅再建」と「住宅移転」の二者択一に陥りがちである。また、居住地の範囲で完結した計画が行われ、再定住地と従前居住地の関係性が無視されがちである。しかし、上記した調査結果は、「住宅再建」と「住宅移転」の二者択一の限界を改めて指摘するとともに、従前居住地と再定住地を補完的に捉えて住宅移転および再定住地を計画することの有効性を指摘しており、自然災害に起因した再定住事業の計画論に関する有意義な研究成果になり得ると考えられる。
著者
林 春男 河田 恵昭 BRUCE Baird 重川 希志依 田中 聡 永松 伸吾
出版者
京都大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2005

平成17年12月10日〜18日、平成18年3.月18日〜27日の2回に渡って、1)米国の危機管理体制、2)被害の全体像、3)災害対応、4)復旧・復興に関する現地調査を行い以下のような知見を得た。調査対象機関は以下の通りである。(1)連邦:連邦危機管理庁・米国下院議会、(2)ルイジアナ州:連邦・州合同現地対策本部、州危機管理局、ルイジアナ復興局、(3)ミシシッピ州:連邦・州合同現地対策本部、州危機管理局、州復興担当事務所、(4)ニューオリンズ市:災害対策本部、都市計画局、(5)レイクビューコミュニティー、(6)在ニューオリンズ日本総領事館。(1)3つの災害:ハリケーン・カトリーナ災害として一括りで語られている災害は1)ハリケーン・カトリーナ、2)ニューオリンズの堤防決壊、3)ハリケーン・リタという3つの事案の複合災害として捉える必要があり、2)の事案は想定外であり、その事が今回の災害対応に関する大きな批判に繋がっている事が明らかになった。(2)危機対応システム:2001年の同時多発テロ以降の危機管理システムの見直しによりDHSの外局とされたFEMAの災害対応の失敗が大きな問題となっているが、その一方で新たに導入されたNRP(国家危機対応計画)、NIMS(国家危機対応システム)が上手く機能した。(3)応急対応期の活動:NRPに規定されるESF(危機支援機能)に基づき自治体の災害対応支援が行われた。被災者に直接支援を行うIndividual Assistance並びに被災自治体に対する支援を行うPublic Assistance共、現地に設置されたJoint Field Officeにおいて連邦政府直轄で業務が行われた。(4)復旧・復興期の活動:ルイジアナ州は復興事業を行う新たな機関Louisiana Recovery Authorityを設置し、復興計画の策定を行っており、住宅再建支援に最大15万ドルが支出される事がほぼ決定された。
著者
吉田 治典 上谷 芳明 梅宮 典子 王 福林
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

都市のヒートアイランドなどに代表される熱的環境悪化の改善と都市の省エネルギーを、都市街区と建築をリンクした熱環境評価をベースにして研究し、次の5つのサブテーマに分けてまとめた。1.都市街区の熱的環境分析と環境改善種々の街区構成や地表面状態の異なる都市上空で顕熱・潜熱流を計測し、その特性を分析するとともに、街区の3次元CFDシミュレーションを建物や道路の表面温度と緑化の蒸散モデルを与えることにより行って熱環境の改善や開発の指針を示した。2.都市と建築のインターフェイス空間としての街路における熱的快適性評価自然の影響を受けて形成される内外空間の体感評価を、申告調査と物理的温熱環境要素の測定結果の両方を基にして行った。また、町家の多様な住まい方や工夫を,環境の物理測定、主観申告調査、行動様式調査などの総合的な視点から調査分析し、住み手が主観的に快適な環境と感じるのはどういう環境かを明らかにした。3.樹木からの蒸散量推定のためのモデル化樹木の蒸散現象を気孔コンダクタンスによってモデル化し、そのパラメーターを推定する手法と実在の樹木の葉面積を算定する手法を確立して、街区の熱環境予測に利用できる樹木の蒸散量を見出す手法を開発した。4.全天空輝度分布の推定法と応用天空放射分布をモデル化し熱負荷への影響を一様分布の場合と比較し、その差を分析した。また、人工衛星で得られるリモートセンシングデータを用いて特定の室の照度をシミュレーションで推定し照明設備を制御する手法を確立した。5.都市への熱負荷を減少するための季間蓄熱システム季間蓄熱システムを備えたビルの蓄熱エネルギー最適制御法を開発し、このシステムの性能をシミュレーションで再現して検証を行った。また、このモデルを用い最適な運転制御方法を開発し、それを実システムで確認した。以上の成果を、33編の査読付き論文と、99編の口頭発表論文に報告した。
著者
佐藤 史郎
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

これまで、政策上、核抑止の重要性を主張することは「現実主義」である一方、核軍縮・不拡散措置の重要性を主張することは「理想主義」として捉えられてきた。前者が核に依存して安全の確保を試みるのに対して、後者は核に依存しないで安全確保を試みるからである。本研究は、威嚇型と約束型という2つの再保証(reassurance)の行動予告に着眼することで、核軍縮・不拡散措置の重要性を主張することは「現実主義」である旨を提示した。
著者
中坊 徹次 山本 圭介 堀川 博史 中山 耕至
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1)日本近海の魚類相の分析;東シナ海及びその隣接海域の魚類の分類学的研究の基礎として、日本近海の魚類相の特徴が17型に分けられることを明らかにした。2)メバル属魚類の分類学的研究;浅海岩礁での漁業対象種であるメバルは従来から3つの色彩変異型が知られていたが、それらの生物学的な意味は未研究であった。これらのメバル3色彩型を形態学と分子遺伝学を用いて分析した結果、それぞれが生物学的に独立した種であることが判明した。メバル属ではやや深海に棲むウケクチメバルの2色彩型についても、メバル3色彩型と同様に研究を行った結果、それぞれが生物学的に独立した種であることが判明した。3)マエソ属魚類の分類学的研究;大陸棚砂泥底に生息するマエソ属魚類は漁業対象でありながら、種の分類が混乱していた。これらのうちマエソと呼ばれる種の分類が特に混乱していた。マエソ属魚類はインド・西太平洋域に広く分布しているので、日本近海を含むこれらの海域から得られた標本を入手し、形態を比較し、過去の文献を渉猟して分類学的研究を行った。その結果、マエソと呼ばれる種は2種であり、ひとつは新種であることが判明した。この論文は現在、学術雑誌に投稿中である。4)カマス属魚類の分類学的研究;カマス属のうち、アカカマスと呼ばれる種は最も美味であるが、分類が混乱し、複数種が含まれていることが示唆されていた。これらを詳細に検討した結果、3種であることがわかり、そのうち1種は新種であることが判明した。これも投稿中である。5)その他の魚類の分類学的研究;上の他、アオメエソ類、メジナ類、エボシダイ類、ウマズラハギ類、トラギス類について、分類学的研究を行った。これらは3編の論文が公表され、2編が投稿中である。
著者
鎌田 東二 梅原 賢一郎 河合 俊雄 島薗 進 黒住 真 船曳 建夫 原田 憲一 藤井 秀雪 中村 利則 小林 昌廣 尾関 幸
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本語の「モノ」には物質的次元、人間的次元、精神的・霊的次元が含意されているという問題認識に基づき、日本文明の創造力の基底をなすその三層一体的な非二元論的思考の持つ創造性と可能性、またその諸技術と表現と世界観をさまざまな角度から学際的に探究し、その研究成果を4冊の研究誌「モノ学・感覚価値研究第1号~第4号」(毎年3月に研究成果報告書として刊行)と論文集『モノ学の冒険』(鎌田東二編、創元社、2009年11月)にまとめて社会発信した。また最終年度には、「物からモノへ~科学・宗教・芸術が切り結ぶモノの気配の生態学展」(京都大学総合博物館)と、モノ学と感覚価値に関する3つの国際ンポジウムを開催した。
著者
三宅 正浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

日本近世の幕府(将軍)と藩(大名)による政治秩序の形成・展開過程を解明するという研究課題に基づき、本年度は、昨年度に引き続いて研究に利用する史料の収集を行うと共に、これまでの研究成果をまとめて日本史研究会大会において口頭報告し、後にその内容を活字化して発表した。まず、近世政治史に関わる史料等を購入して分析を進めた。平成22年5月及び7月に高知県高知市の土佐山内家宝物資料館において史料調査・撮影を行い、平成22年5月・8月・11月には東京都文京区の東京大学史料編纂所において史料調査を行った。土佐山内家宝物資料館では、山内家文書を閲覧し、近世前期の藩主書状を中心に構成されている史料である「長帳」を撮影した。東京大学史料編纂所では、広島藩浅野家の編纂史料である「済美録」をはじめとした諸大名家関係史料を閲覧した。また、昨年度に収集した各史料の記事検索・分析作業を継続して進めると共に、近世政治秩序に関わる研究史のまとめを行うため、重要な先行研究を収集して評価し、整理した。昨年度から今年度にかけての研究成果を集大成したものとして報告した「幕藩政治秩序の成立-大名家からみた家光政権-」(2010年度日本史研究会大会共同研究報告)では、近世大名家が持つ固有(個別)性と共通(普遍)性を連関させて理解することを目的として、共通性の形成過程を考察した。事例としては、主に西国の外様国持大名を取り上げ、大名家の視点から徳川家光政権期の歴史的位置を描き出した。以上のような研究により、「日本近世政治秩序の形成と展開」を研究課題とする本研究は、一定の達成をみたと考えている
著者
松沢 哲郎 友永 雅己 田中 正之 林 美里 森村 成樹 大橋 岳
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2008-06-04

人間の認知機能の発達をそれ以外の霊長類と比較した。進化的に最も近いチンパンジーが主な対象である。チンパンジーの子どもには人間のおとなより優れた瞬間記憶があるという新事実を見つけた。いわばチンパンジーは「いま、ここという世界」を生きているが、人間は生まれる前のことや死んだあとのことに思いをはせ、遠く離れた人に心を寄せる。人間の「想像するちから」はそれ以外の動物には見出しがたいことが明らかになった。
著者
栗山 浩一 竹内 憲司 庄子 康 柘植 隆宏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,世界自然遺産知床を対象として,環境政策が自然環境の保全と観光利用とのバランスを取るために有効に機能しているのか,経済学的な視点から分析を行った。2011年から知床五湖で運用が開始された利用調整地区制度が利用動態に及ぼした影響を分析するため,導入前後の利用動向を比較した。これを実験経済学におけるフィールド実験(自然実験)と位置付けることで,利用動態の変化から本制度の経済学的な評価を行った。
著者
藤田 潤 西山 博之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

一般に低温では細胞増殖・遺伝子発現ともに低下するが、哺乳類の精子形成細胞は体温よりも32度前後の軽度低温下でよりよく増殖・分化する。この理由・生物学的な意義は不明である。本研究では、軽度低温により特異的に誘導される低温ショック蛋白質Cirpの発現を制御する分子機構を明らかにし、ストレス応答との関連を解析した。またcirp遺伝子を欠失したマウスを作成し、Cirpの精子形成における役割を明らかにした。
著者
大谷 雅夫 YANG K. YANG Kunpeng
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

二十二年度の主たる実績は、科学研究費補助金「和漢聯句の研究」(基盤B、代表大谷雅夫教授)における討議をもととして『看聞日記紙背和漢聯句訳注』を臨川書店より2011年2月に刊行したことである。代表者大谷雅夫、研究分担者楊昆鵬はともに研究会に常に出席するとともに、訳注執筆を担当した。次に、楊昆鵬は、前年度に引き続いて、近世初期の和漢聯句作品資料の翻刻と紹介を進め、慶長九年(1604)後陽成天皇主催の和漢千句を取り上げ、「慶長九年和漢千句翻刻と解題」(中村健史と共著)として『京都大学国文学論叢』(第25号、2011年3月、85-111頁)に掲載した。この千句は近世初頭の堂上和漢聯句の第一次資料であり、当時の和歌・連歌また漢文学などの研究にも資することの多いものである。そのような重要な資料を新たに学界の共有財産となしえた功績は小さくないと考えられる。楊昆鵬は、さらに俳文学会第六十二回全国大会(2010年10月16日、徳島四国大学)において「和漢聯句にみえる友情の連想」という題で研究発表を行った。本発表は和漢比較文学の視点から、友情を最大の主題とする漢詩文と、あまり正面から友情を詠う事のない和歌・連歌という異なる文学の伝統が、和漢聯句においてどのように接触し、結合したかを検討するものである。友情をめぐる連想に、歌や俳諧と同じ付合文芸でありながら、和漢聯句にはそれら歌俳に見られない独自な特徴のあることが見いだされるという楊昆鵬の発表は、新発見を含むものとして高く評価された。楊は、本発表を基に論文を執筆し、現在学術雑誌に投稿中である。
著者
冨谷 至 矢木 毅 岩井 茂樹 赤松 明彦 古勝 隆一 伊藤 孝夫 藤田 弘夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

「東アジアの法と社会」という研究題目の下、4年間に渡って続けてきた我々の共同研究の成果として、以下の成果を報告する。第一は、国内国外で二度にわたって国際シンポジウムをおこない、東アジアにおける空間的、時間的座標のうえに死刑・死罪を考え、各時代、各地域の相違が浮き彫りにされたことである。その適用理念は、応報にあるのではなく、一に予防と威嚇にあることである。それは今日の中国の死刑に実態をみれば、罪と罰が均衡をかくこと、死刑廃止の議論が希薄であることからもわかる。各担当者の課題を深めて論文にした当研究の成果報告『東アジアにおける死刑』(科学研究費成果報告:冨谷篇)において、かかる東アジアの死刑の歴史的背景、本質が明らかにされている。報告書には、スウェーデンのシンポジウムには、参加できなかった藤田弘夫、岩井茂樹、周東平の各論考の収録し、社会学の視座からの死刑問題の考察、現代中国の死刑制度をテーマとする。さらに報告書は、さきの平成15年のセミナーの報告も加えたもので、英語でなされたセミナーの報告は、英文で、その後の主として日本側の研究分担者、および周東平論文は日本語で掲載している。なお、本研究のさらなる成果として、京都大学学術出版会から、平成19年に『東アジアにおける死刑』(仮題)を出版する予定である。我々の研究成果が今日の日本の死刑問題を考える上で、寄与できるのではないかと自負している。
著者
澤田 裕子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は父子関係・兄弟関係・養子関係の三つの観点から、平安貴族社会における家族のあり方を明らかにし、中世的な「家」の成立に伴う変化について考察することを目的とする。今年度は昨年度の成果を基にさらに分析を重ね、特に中世的「家」が成立する直前の十世紀から十一世紀前半にかけての元服と叙爵の変遷を中心に考察した。従来、父の地位に基づいて元服と同時に叙爵される元服同時叙爵は十世紀前半に摂関等子息の特権として成立し、十一世紀初頭には公卿層子息にまで広まったとされる。しかし実際に十世紀から十一世紀前半の元服と叙爵の関係を調べると、十一世紀前半の元服同時叙爵は摂関の近親者など一部の公卿子息に限定されており、一般公卿子息ではむしろ元服以前の叙爵が主流であったことがわかった。そしてこの時期の叙爵の変遷、特に元服前叙爵という変則的な叙爵の背景を解明することにより、元服と叙爵のタイミングが公卿層の中でも摂関との親疎によって異なっていたことが明らかとなった。また、こうした元服と叙爵の分析を通して、昨年度手がけた養子に関する分析もさらに深化させることができた。従来、家のための養子が成立するのは院政期とされてきた。しかし関白藤原頼通の養子信家(頼通同母弟教通一男)は摂関等子息の正妻子に相当する初叙を元服と同時に与えられており、頼通の後継とするために養子とされた可能性が考えられる。信家のケースが家のための養子であったとすれば、家のための養子の成立時期は一世紀ほどさかのぼることになる。本年度はこのように、叙爵や養子の問題から中世的「家」が成立する直前の社会変化の解明に取り組んだ。