著者
平松 亜衣子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、現代クウェートにおけるイスラーム復興運動について、政治的領域だけでなく経済・社会的領域における影響について検討しようとするものである。本年度は、まず5月に開催された日本中東学会年次大会において、「現代クウェート議会における投資のイスラーム適格性をめぐる議論」と題する研究報告を行った。本発表では、クウェートの金融部門においてイスラーム的な規範を重視しようとする動きが観察されることについて、クウェートの政府系ファンドであるクウェート投資庁の投資活動に関するクウェート国民議会の議論を材料に明らかにした。本発表では、近年膨大な石油収入を獲得している他の湾岸アラブ産油国においても類似の潮流があることを念頭におきつつ、クウェートの事例を紹介した。また、湾岸アラブ産油国の政府系ファンドについては、近年大きな関心が寄せられるようになっているものの、その実態について分析した研究がなされてこなかった。本研究はこの研究上の空白を埋めるという点においても意義がある。次に、7月に実施した現地調査では、議会におけるクウェート国民議論の全貌が記された議事録を入手した。また、調査対象であるイスラーム主義系の国会議員へのインタビューのほか、クウェートの政府系ファンドであるクウェート投資庁では同庁幹部へのインタビューおよび資料収集を行うことができた。現地調査で収集した資料をもとに、9月に中国・北京で開催された、日本・中国・韓国・モンゴルの中東学会に属する研究者が一同に会する国際会議であるアジア中東連合において、"Overseas Investments and "Shari'a Compliance" in the Arab Gulf Countries : A Case of Study on Kuwait Investment Authority"と題する研究報告を行った。そこでは、四力国を代表する中東専門家たちからコメントを受けた。それらをふまえて、10月に開催された国際ワークショップ"Technology, Economics and Political Transformation in the Middle East and Asia"において、"Where should Kuwait's Oil Wealth Be Invested?-Islamists' Demands in Kuwaiti National Assembly"と題する報告を行った。上記3つの研究報告をもとに、12月には『日本中東学会年報』に「現代クウェートにおける政府系ファンドと投資のイスラーム適格性」と題するペーパーを提出、査読審査のうえで掲載が決定した。2月には、チュニジアやエジプトで民主化への革命が連鎖的に生じたことから、『中東・イスラーム諸国民主化ハンドブック』が商業出版されることになり、同書の「クウェート」の章を執筆した。
著者
門田 有希
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

<具体的な研究内容>イネは2004年に日本晴の全ゲノム塩基配列が解読され、遺伝子の同定および機能解析が盛んに進められている。近年は、次世代シークエンサーを用いた比較ゲノム解析により、コシヒカリおよび雄町と日本晴との間において、それぞれ約67,000箇所、約130,000箇所の一塩基多型(SNP)が同定された。しかし、短いリードをReference genomeにマッピングし、小さな変異を同定する手法では、欠失、挿入、逆位等、大きな構造変異を同定することはできない。そこで本研究では、銀坊主のゲノム配列を高い精度で解読、新規コンティグを用いた比較ゲノム解析により、多様なゲノム構造変異についても明らかにした。イネ品種銀坊主を用いて、二種類のライブラリー(500bpのPair endlibrary、3kbのMate pair library)を作成、Hiseq2000によりシークエンス解析を行った。得られた配列を、日本晴ゲノム配列にマッピングした後、123,299か所のSNP、43,480箇所の短い欠失および挿入を同定した。さらに、複数のソフトウェアを組み合わせ、数100bpから数100kb以上に及ぶ大きな構造変異を1500箇所以上同定した。その後、銀坊主の新規コンティグを作成し、マッピング解析により得られた構造変異の妥当性を検証した。確認された構造変異の70%は、転移因子配列の切り出しもしくは挿入によるものであり、転移因子を介して生じたと思われる逆位も複数存在した。<意義および重要性>今回の研究結果から、イネ近縁品種間において大規模なゲノム構造変異が多数存在していること、並びに、このような構造変異に転移因子が密接に関与することを明らかにした。これは、自殖性作物であり遺伝的均一性の高いイネにおいて、転移因子を介したダイナミックなゲノム進化が短期間に進行することを示す重要な成果である。
著者
杉山 文子 野島 武敏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近年、算数・数学を敬遠する子供が増えている。この数学離れの問題を解決する手段として折紙を用いて、エデュテインメント性に富む教材の開発を行った。報告者らは数理に基づく工学用の折り紙モデルや動植物の形態を模擬した折り紙モデルを数多く開発してきたが、本研究ではこれらの研究で定式化した折りたたみの基礎理論とこれに基づき設計された膨大なモデルを基に、エデュテインメント性に富む折り紙教材を開発し、数学教材用のモデルを系統的に構築した。
著者
山本 博之
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は、災害被災地に関する新聞記事、写真、聞き取り調査などの多様な情報を地理情報を用いて1枚の地図上で迅速かつ簡便に表現する「災害地域情報プラットフォーム」を構築するための基本的な制度設計を行うものである。2009年9月の西スマトラ地震では日本の緊急救助チームなどが被災地入りしたが、現場では被害と救援活動の全体像が見えずに効果的な救援活動が行えなかったとの声が聞かれた。被災の現場に入ると情報収集しにくいことに加え、英語による情報収集では得られる情報量に限りがあることなどの背景がある。本研究課題が構築している災害地域情報プラットフォームは、現地語のオンライン情報を収集して地図上で示すことで、被害と救援の状況を把握しやすくするものである。本研究課題が構築するプロトタイプをもとに、情報の収集および翻訳の自動化を行うことで、より簡便かつ迅速に災害地域情報の収集が可能になる。今年度は、昨年度公開した2009年西スマトラ地震の災害地域情報を用いたプロトタイプをもとに、(1)西スマトラ州の県・市、郡、村の地理情報の一覧を作成し、(2)インドネシア語の日刊紙『コンパス』から「地震」「津波」「災害」の3つのキーワードで記事を自動収集する巡回検索システムを作成し、(3)記事中の地名をもとにその記事を地図上で表現するシステムを追加した。これにより、西スマトラ州に関しては、上記の3つのキーワードに関連する記事を自動収集し、地図上で表現することが可能になった。この災害地域情報プラットフォームは、さらに、(1)対象範囲を西スマトラ州から他の地域にも拡大する、(2)対象紙を『コンパス』以外にも拡大する、(3)検索キーワードを増やす、(4)記事内容の自動翻訳機能を加えるなどの処理により実用性がさらに高まるものとなる。
著者
平島 崇男 北村 雅夫 下林 典正 中村 大輔 大沢 信二 三宅 亮 小畑 正明 山本 順二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

地下深部流体活動の実態解明を目指し、顕微ラマン分光分析器を導入し、流体包有物の同定システムを構築した。この機器を用いて、日本や海外の地下深部岩石中の流体包有物の研究を展開した。その結果、三波川変成岩中の石英脈から地下25km付近で岩石中にトラップされた地下深部初生流体を初めて見出すことに成功した(Nishimura et al., 2008)。また、Pseudosection法とモード測定から、塩基性変成岩において、ローソン石の出現・消滅に伴う含水量変化(Matsumoto & Hirajima, 2007)や、硅質変成岩中の含水量を明らかにした(Ubukawa et al., 2007)。
著者
吉川 左紀子 NORASAKKUNKIT V. NORASAKKUNKIT Vinai
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

昨年度は、ひきこもりの家族関係の役割とメンタルヘルスの状態を調査するためにニート、ひきこもり、そして京都大学の学生を対象に質問紙データの収集を行った。ひきこもりと京都大学の学生のデータには彼等の両親のデータも含まれていた。このデータとそれに関連する調査結果は2010年6月29日に行われた京都大学こころの未来研究センター研究会にて口頭発表、2010年12月18日に行われた京都大学こころの未来研究センター研究報告会2010にてポスター発表を行った。それに加えて、影響力のある査読付き論文集であるJournal of Social Issuesのグローバライゼーションにおける心理学という特別号にニートにおける動機づけのパターンに関する研究についての論文を執筆した。また、収集したデータについて3つの国際学会、7つの国内での会合、5つの招待講演において発表した。現在は、ニートの日本の標準の行動パターンからの逸脱傾向における文化価値の役割について追従、帰属、そして社会的サポートからの知見を検討する実験の準備中である。また、現在社会的不安に関して京都大学こころの未来研究センター内田由紀子准教授と、ミシガン大学心理学部北山忍教授と論文を共同執筆し、その論文はJournal of Cross-Cultural Psychologyに掲載されることが決まっている。
著者
奥乃 博 尾形 哲也 駒谷 和範 高橋 徹 白松 俊 中臺 一博 北原 鉄朗 糸山 克寿 浅野 太 浅野 太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2007

音環境理解の主要機能である混合音の音源定位・分離・認識技術を開発し,ロボット聴覚ソフトウエアHARKとして公開し,国内外で複数の講習会を実施した. HARKを応用し,複数話者同時発話を認識する聖徳太子ロボット,ユーザの割込発話を許容する対話処理などを開発し,その有効性を実証した.さらに,多重奏音楽演奏から書くパート演奏を聞き分ける技術,実時間楽譜追跡機能を開発し,人と共演をする音楽ロボットなどに応用した。
著者
松岡 久和 木南 敦 潮見 佳男 藤原 正則 平田 健治 川角 由和 中田 邦博 森山 浩江 多治川 卓郎 油納 健一 渡邊 力 山岡 真治 廣峰 正子 吉永 一行 瀧久 範 村田 大樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

各人がおびただしい数の関連業績を研究成果として挙げ、それを基礎に共同研究として、民商法雑誌に2度の特集を組んだほか、ヨーロッパにおける不当利得法の比較の概観につき飜訳を発表した。こうした比較法の動向の研究をふまえ、日本私法学会第75回大会において、シンポジウム『不当利得法の現状と展望』において、成果を学会に問う形でまとめた。
著者
藤岡 悠一郎
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、南部アフリカに広がるモパネ植生帯における人間-環境系の持続性を気候変動、植生の動態、地域社会の脆弱性という3つの視点から検討することを目的としている。研究実施計画では、最終年にあたる2011年度には、アンゴラ、ナミビアの農村において、一か月程度の補足調査を実施すること、調査結果の総合分析を行うことを予定していた。当該年度には、研究対象国であるナミビアおよびアンゴラにおいて2011年12月からのべ3か月間滞在し、現地調査を実施した。ナミビアでは、調査村において前年度雨季の大雨洪水イベントの影響と人々の対処方法を明らかにした。2009年度、2010年度のデータをあわせ、計3か年分の大雨洪水イベントに関するデータを取得することができ、長期的な人間-環境系の動態を考える上で貴重な情報となった。また、村の植物利用に関する集中的な聞き取り調査を実施し、植生動態に関する人間活動の影響を明らかにした。アンゴラにおいては、西部を中心に南部から北部まで広域調査を実施し、地図上で選定した数ヶ村において植生の移行形態や農業の実態、洪水旱魃の状況に関する調査を実施した。この調査により、ナミビアからアンゴラにかけて広がる湿地帯の全体像が明らかになり、調査地の位置づけがより鮮明になった。また、アンゴラでは内戦の影響で基礎調査がほとんど実施されていないため、貴重なデータになると考えられる。研究内容の一部は、2011年5月の日本アフリカ学会、2012年3月の日本地理学会において発表を行った。
著者
岡本 正明 水野 広祐 パトリシオN アビナーレス 本名 純 生方 史数 見市 建 日下 渉 相沢 伸広
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

冷戦崩壊後のアジア経済危機を克服した東南アジア諸国は今、グローバルなビジネス・ネットワークやイデオロギー・ネットワークの展開・拡大により急速な社会・政治・経済変容を遂げている。本研究で明らかになったのは、東南アジアの地方レベルで新しい政治経済アクター、或いは新しい政治スタイルを活用する政治アクターが台頭してきていることである。タイ、フィリピン、インドネシアでは、地方分権化が進展して地方首長の権限が拡大したことで、彼らはグローバル化、情報化の時代の中で獲得した新しい政治経済的リソース(情報も含む)を武器にして新しい、よりスマートな権力掌握・維持のスタイルを作り上げてきている。
著者
口羽 益生
出版者
京都大学
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.229-248, 1969-09

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
米田 稔 中山 亜紀 杉本 実紀 三好 弘一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究ではシリカナノ粒子を対象として、一般環境からのナノ粒子の曝露量評価を行った。シリカナノ粒子の生活環境中大気濃度をロープレッシャーインパクターで捕集し、ICP-AESで測定した。その結果、生活環境空気中シリカナノ粒子濃度として12. 7ng/m3という値を得た。この値をマウスの生体組織中シリカナノ粒子の分布モデルの計算に使用した結果、シリカナノ粒子の内、0. 3pgは肝臓に蓄積することが、また人間に対する分布モデルの計算では肝臓に1200pgのシリカナノ粒子が蓄積することが明らかとなった。
著者
木下 彩栄
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

我々は、認知症の患者や家族介護者の在宅療養支援のツールの一つとしてInformationTechnology(以下ITと略)の有効性に着目し、既存のインフラを利用した双方向性の在宅支援システムを立ち上げるべく、本課題を立案した。京大病院に外来通院する認知症患者を対象群とテレビ電話介入群に分けて各10名ずつ3カ月の介入試験を行った。この結果、テレビ電話による介入は、在宅医療を支援するために簡便かつ有効であることが実証された。
著者
蘆田 裕史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、シュルレアリスムにおける衣服と身体の問題を理論的な見地とモードとの関連の双方から考察していくことを目指した。その際に着目したのが「切断=裁断」の概念である。シュルレアリスムの「イメージ」においては、衣服が人間身体に代置されるものとして描かれることが珍しくない。それはすなわち、身体が不在のものとなり、衣服のみが現前することである。また、シュルレアリストが描く身体はしばしば切断され、パーツへと解体されている。これはある意味で、衣服的なありかたである。というのは、衣服は本来いくつかのパーツが縫合されることで成立するものであり、常に解体可能なものであり、切断される身体はあたかも衣服であるかのように扱われているといえる。アンドレ・ブルトンがパピエ・コレを型紙になぞらえていることから、衣服制作とコラージュとの関係に着目し、当時現れはじめた立体裁断の手法との関連を明らかにした。つまり、身体にあてられた布地は既にして身体と同一化しているのであり、表象のレヴェルにおいては布地にハサミを入れることと身体にハサミを入れることが同じ行為と見なされるのである。このことを踏まえつつ、ブルトンの『狂気の愛』における有名なスプーンの分析を参照することで、シュルレアリスムにおいては衣服が潜在的な身体として捉えられうることを口頭発表「シュルレアリスムにおける衣服と身体-切断=裁断の概念をめぐって-」において提示した。これはシュルレアリスム内部での問題にとどまらず、シュルレアリスムを同時代のモードの世界に関連づけられる点において、シュルレアリスムにおける衣服の問題を語る上で外せない論点となることは間違いない。
著者
山本 祐輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は「Web情報の信頼性の評価」に関する研究として2つの課題に取り組んだ.1つ目の研究課題は,Webページに掲載された画像の信憑性を分析するためのアルゴリズムの開発である.本アルゴリズムのために,昨年度開発したWeb情報の信憑性を分析する汎用的なアルゴリズムを画像信憑性分析のために応用・改善した.開発した分析アルゴリズムは,画像の信憑性を画像とその周辺テキスト内容(例:キャプション)との整合性に着目した分析アルゴリズムである.また,提案アルゴリズムの応用システムとして,Web画像の信憑性をブラウジング時にリアルタイムに解析できるアプリケーションImageAlertを開発した,ImageAlertを用いることで,閲覧中の画像の信憑性を分析し,より信憑性の高い画像を取得することが可能となる.開発したアルゴリズム・アプリケーションは,既存のメディア情報とは異なり信憑性の検証がほとんど行われないWeb情報,特にインターネット広告の画像の信憑性検証に有益である.2つ目の研究課題は,インターネットユーザの信憑性判断モデルの推定に基づくWeb検索結果の最適化に関する研究である.情報の信憑性は,情報の種類や情報を閲覧するユーザによって評価尺度が異なる情報特性であることが知られている.そこで,2つ目の研究課題では,検索結果に対するユーザの信憑性フィードバック情報から信憑性判断時にユーザが重視する信憑性評価観点を推定し,それを基にWeb検索結果を再ランキングするシステムを開発した.提案システムによって,(1)通常のWeb検索結果では確認することが難しい信憑性判断情報を確認すること,(2)膨大なWeb情報の中から各々のユーザにとって信憑性が高いと思われるWebページを効率よく検索することが可能となる.