著者
松浦 茂 長部 悦弘 山本 光朗
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)研究代表者は、満洲語档案と探検記録とによって、清朝の繊維製品がアムール川下流・サハリン地方に流入する過程と、同地域の辺民がそれを衣料その他に受容する過程を明らかにした。またそれらの一部は、この地域の交易のネットワークを通じて、周辺地域に流れたことを解明した。研究代表者はまた、満洲語档案に現れる北方の少数民族の言語をとりあげて、その意義と、それがなぜ満洲語の中に入ったかを考えた。たとえば清の漢文献においては、17世紀のアムール地方に現れたロシア人を「羅刹」と記すが、その語源は、サンスクリット語ではなくて、アムール地方の少数民族が、これらのロシア人をロチャ(ルチャ)と呼んだことに由来することを明らかにした。こうした視点は、北方史の研究に不可欠である。(2)研究分担者は、15世紀以前の北方の少数民族について、研究を行なった。金朝を作った女真は、後に中国本土に移住して、漢族と雑居するようになると、漢姓を名のることが多くなった。ただその理由はさまざまで、それにより民族的なアイデンティティーを失ったという見方は、単純にすぎるということを明らかにした。研究分担者はまた、古林・遼寧省と内蒙古自治区・山西省に分布する、鮮卑族の史跡に関する近年の報告・記事・論文を、日本と中国の学術雑誌などから拾い出して、そのリストを作成した。(3)研究代表者と分担者は、明朝がアムール川の河口に建設した奴児干都司と永寧寺について、従来の学説を再検討した。とくに永寧寺碑文の内容を吟味して、当時の交易のネットワークについて考察した。このことについては、さらに研究を深めてから発表するつもりである。
著者
高谷 好一 マツラダ Mattulada 深沢 秀夫 田中 耕司 古川 久雄 前田 成文
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本研究計画は、これまで実施した科学研究費による海外学術調査、「熱帯島嶼域における人の移動に関わる環境形成過程の研究」(昭和55ー59年度)および「マレ-型農耕文化の系譜ー内発的展開と外文明からの変容」(昭和61ー63年度)、の研究成果を統合・総括するために計画されたものである。上記の調査によって、東南アジア島嶼部、スリランカ、南インド、マダガスカルなどのインド洋をとりまく諸地域が古くからの東西交流・民族移動によって共通の農耕文化要素をもつことが明らかになってきた。本計画は、上記二つの調査をとりまとめ、東南アジア、インド、マダガスカルにわたる、いわば「環インド洋農耕文化」ともよべる、この地域に共通の農耕文化の性格を明らかにし、海域世界の人の移動と農耕文化展開との関係を総合的に解明しようとして計画された。研究計画は、若干の補足調査を必要とするスリランカ、南インドへの分担者1名の派遣と、これまでの国外の共同研究者を招へいしての研究集会の開催、および調査成果の刊行の準備作業からなる。まず、補足調査については、分担者田中が10月21日から11月12日の派遣期間のうち前半はスリランカ、後半は南インドに滞在して調査を行い、スリランカでは分担者のジャヤワルデナが調査に参加した。スリランカでは、南西部ウェットゾ-ンの水田稲作における水稲耕作法について精査し、とくにマレ-稲作と共通する水牛踏耕や湿田散播法の分布と作業の由来などについて聴取調査を行った。また、稲品種の類縁関係からマレ-稲作との関連をさぐるための資料として、在来稲の採集・収集を行った。南インドの調査は、タミ-ルナドゥ、ケララの2州を中心にスリランカと同様の調査を実施するとともに、インジ洋交易の中継点となったカリカット、ゴアなどの港市都市を観察した。国外の分担者マツラダおよびジャヤワルデナをそれぞれ約1週間招へいし、分担者との共同研究とりまとめの打ち合せを行うとともに、平成2年1月19日と20日の2日間にわたり研究集会を開催した。研究集会では、各分担者が以下の研究報告を行い、各報告の検討と共同研究成果のとりまとめについて協議された。高谷:環インド洋をめぐる自然環境と人の移動史前田:マダガスカルとマレ-の農耕儀礼古川:環インド洋におけるアフリカ農耕とマレ-農耕田中:環インド洋に共通する稲作技術とその分布深沢:マダガスカル、ツィミヘティ族の村落、農業と牧畜マツダラ:東南アジア島嶼部の漂海民バジョウとその生業ジャヤワルデナ:スリランカ・マレ-の移住、その歴史と現在調査成果の刊行については、上記の研究報告を各分担者の責任において関連の学術雑誌に報告することが研究集会で確認された。また、研究成果を単行本として出版することが計画され、その第一段階として分担者古川が東南アジア島嶼部の低湿地に関するモノグラフをとりまとめた。これは平成2年秋に出版の予定である。
著者
藤田 耕司 松本 マスミ 谷口 一美 児玉 一宏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

中間動詞構文は、狭義の統語論・意味論の相関のみならず事態認知の有り様を反映した言語現象でありながら、これまで理論横断的な包括的研究はあまり行われてこなかった。本研究では、現代理論言語学の二大潮流である生成文法と認知言語学の双方の利点を組み入れた統合的なアプローチを採ることによって、この多様な側面を持つ現象のより優れた分析方法を提案するとともに、生成文法、認知言語学それぞれの問題点と今後の展望を浮き彫りにした。
著者
石川 裕彦 植田 洋匡 林 泰一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

西太平洋上で発生し日本付近まで北上してきた台風は、中緯度の大気の傾圧性の影響を受け、その構造が徐々に変化する。この過程で、さまざまなメソ擾乱が発生し、災害発生の原因となることが多い。本研究では、数値シミュレーションにより台風を再現し、その構造変化、メソ擾乱の発生、気象災害との関連を調べた。不知火海の高潮災害や豊橋の竜巻等の災害をもたらした1999年の台風18号は、日本海で一旦弱まった後再発達をとげたが、この様子を数値モデルで再現することに成功した。そして、再現結果を解析することにより、最盛期の台風の上層に形成される負渦位偏差が台風衰弱に重要であること、再発達期には対流圏上層のトラフにともなう正の渦位とのカップリングが生じ、これが再発達の要因となっていることを解明した。さらに、豊橋市付近で発生した竜巻に着目した数値計算を行い、竜巻発生場所の周辺で、対流潜在位置エネルギー(CAPE)とストーム相対ヘリシティ(SREH)との積であるエネルギーヘリシティ示数(EHI)が大きな値を持つことが示された。これは、将来、台風に伴う竜巻発生を予報できる可能性を示唆した者である。近畿地方、特に奈良盆地に大きな強風害をもたらした1998年の台風7号に関しては、消防署等も含むさまざまな期間から集めた気象観測データを解析し、台風に伴う地上風を詳細に調べた。これらの強風は、台風の背面で発生していること、強風域はバンド状のメソ降水系に対応していることを明らかにした。さらに、この強風域は台風の循環と中緯度の西風との号流域にから発生していることが数値実験で示された。秋に襲来する台風にともないしばしば観測される時間スケールの短い急激な気圧低下(pressure dip)に関しても、その発生頻度や性状を観測データからあきらかにするとともに、その発生メカニズムを数値シミュレーションで明らかにした。
著者
山口 尚
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2010-03-23

新制・課程博士
著者
天野 晃 松田 哲也 水田 忍
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,臓器としての生物学的知見が豊富な心臓を対象として,近年急速に解明が進み実現されるようになった,タンパク分子機能に基づく精密な細胞モデルを元に,心筋細胞の配列,組織の微小循環,冠動脈血流,心筋組織の力学的特性に基づいた心臓の3次元拍動モデルの実現を目指した.まず,左心室3次元拍動モデルの編集ツールを実現し,シミュレーションアルゴリズムとして,心筋細胞のタンパク分子機能に基づいたモデルが生成する収縮力と,材料特性に基づく3次元形状の変形を精密に計算する連成シミュレーションアルゴリズムを提案した.次に,心臓拍動モデルの形式的記述と,実験プロトコルの形式的記述言語としてPSPMLを設計した.さらに,日々蓄積される生物学的知見を容易に導入し,有効性等を評価するシステムとして,形式的に記述された心筋細胞モデルを非専門家が安全に編集可能で,さらに実験プロトコルの修正も可能な編集システムを実現した.また,心臓拍動の精密な再現に不可欠な血管系のモデルとの連成計算を行うシステムを実現した.このシステムにより,様々な細胞モデル,左心室モデル,血管系を用いたシミュレーションにおいても,自由に組み合わせを変更して循環動態シミュレーションが可能となった.最後に,これらのシステムを用いて,左心室構造力学モデルにおける応力評価を行った.心臓は拍動に伴う能力や効率を最大化するため,収縮末期における応力分布が均等化するように細胞配列が最適化されているという仮説があるが,実際の心臓で心壁内部の応力が評価できないため,仮説の検証にはシミュレーションモデルが利用されるようになってきている.構築したシステムを用いて,収縮末期における心壁の応力分布を評価した.この結果,従来の報告で評価が困難であった心尖部において,明瞭な応力集中を確認できた.これは,バチスタ手術等の外科手術において,経験的に重要性が認識されている心尖部の重要性を示唆する結果であると考えることができる.
著者
前田 晴良
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

北海道・上部白亜系中の菱鉄鉱ノジュールを産する貧酸素環境の層準等から, Sphenoceramus naumanniのセンサス群集を発見した.これらは合弁で,非常に薄く壊れやすい後耳が保存されており,当時の個体群がそのまま埋没・固定された可能性が高い.底生生物の活動に不適な環境下で,逆に生態情報を保ったままの化石群が保存されるという逆説的な結果は,今後のイノセラムス類の古生態復元の上で重要なヒントとなる.
著者
中北 英一 田中 賢治 戎 信宏 藤野 毅 開發 一郎 砂田 憲吾 陸 旻皎 立川 康人 深見 和彦 大手 信人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究プロジェクトは「琵琶湖流域の水・熱循環過程解明に向けた総合研究と衛星同期共同観測」を骨子としたオープンなプロジェクトであり,1989年の山梨大学工学部砂田憲吾による提唱をベースに,様々な方々,関係機関のサポートを頂戴しながら,手弁当による参加をベースに継続して続けられてきたものである.フリーな議論をベースにそのあり方を問い続けてきたプロジェクトでもある.その土台をベースに砂田憲吾をプロジェクトリーダーとして進んできた第1ステージが1994年に終了し,1995年からは,1)衛星リモートセンシングデータの地上検証 2)衛星データを用いた水文量抽出アルゴリズム/モデルの開発 3)地表面-大気系の水文循環過程の相互作用の解明 4)水文循環過程の時空間スケール効果の解明 を目的として,本科学研究費補助金をベースとした第2ステージを進めてきた.そこでは,これまでの地上,衛星,航空機による観測に加え,対象領域全体を表現するモデルとのタイアップを新たに目指してきた.その中で,どのスケールをベースに水文過程のアップスケーリングを図って行くべきなのかの議論を深めながら,20km×20kmまでのアップスケーリングをめざし第3ステージに橋渡しをするのが,わが国に根付いてきた琵琶湖プロジェクトのこの第2ステージの果たすべき役割である.'95共同観測では,様々なサポートにより上記第2ステージの目的を追求するのに何よりの航空機,飛行船を導入した大規模な観測態勢を敷くことができた.また,96年度から初の夏期観測をスタートすると共に,モデルとタイアップさせたより深い共同観測のあり方についての議論を行ってきた.成果としては,上記目的それぞれに関する各グループの成果報告,観測・モデルを組み合わせたスケール効果の解明と今後のあるべき共同観測態勢,研究グループ外部をも対象としたデータベースや観測・解析プロダクツを報告書として啓上している.
著者
野上 大作
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ブラックホールに降着円盤から突然大質量の降着が起こって増光し、光速に近いジェットが吹き出すX線新星や、同じく降着円盤起源の爆発現象を起こす矮新星は、ジェット現象や降着円盤の性質を調べる格好の材料である。しかし、これらはいつどの天体で爆発現象が発生するか予期できないために、その最初期の部分の観測は難しい。だがここにこそ、その機構の解明の為の鍵が隠されている。そこであらかじめプログラムした数百の天体を晴れた日は毎晩自動でモニタし、特異な現象を発見後すぐに通報するシステムを開発することを計画した。これにより降着円盤系の増光現象の最初期の挙動を明らかにし、増光やジェット現象の機構の解明を行う。本研究課題では前年度まで30cm望遠鏡によりほぼ自動モニタシステムが稼動することは確認し、モニタする天体に関しても、低質量X線連星10個程度、矮新星200個程度でリストアップは大方終了していた。最終年度の今期は、まず最終的な動作のチェックを行い、一晩で100〜150個ほどの天体のデータが得られるシステムの構築は完成した。その後、自動モニタシステムを飛騨天文台新館屋上に設置し、梅雨明けに本観測に移行した。このシステムにおいて実際に150個ほどの天体の日々の光度曲線を取得し、データベースを作成した。この中で20個ほどの矮新星の爆発現象を捉え、そのうち4回の爆発はこのシステムにおいて世界で他に先駆けて増光を捕らえたものである。その中で1個の矮新星についてはすぐにフォローアップ観測を呼びかけ、世界的な分光観測キャンペーンを組織した。その結果、爆発初期の降着円盤において約1000km/秒の円盤風が吹き出す証拠を見つけ、降着円盤の厚みが爆発の極大に向けて厚くなり、その後徐々に元に戻っていくことで解釈される、可視光分光観測としては初の観測結果を得た。これは爆発初期を捉えるこのシステムでこそ得られた成果である。しかし申請した金額からの減額によってこのシステムを保護するドームを導入することはできず、天候の変化が激しく特に冬季に非常に厳しい気象状況となる飛騨で定常的に安定して運用することはできず、当初の予定よりもデータを収集できなかったのは残念であった。
著者
陰山 洋 上田 寛 益田 隆嗣 加倉井 和久 川島 直輝
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フラストレート2次元系(CuX)A_<n-1>B_nO_<3n+1>では、反強磁性強磁性の競合があり、その比に応じて強磁性Shastry-Sutherlandスピン一重項状態((CuCl)LaNb2O7))や磁化プラトー((CuBr)Sr_2Nb_3O_<10>)などの新奇相や量子相分離現象を明らかにした。フラストレート1次元系LiCuVO_4では、同様の競合により,ネマティック状態関連の新奇秩序状態の発見、また、フラストレート3次元系K_2Cr_8O_<16>では強磁性金属-強磁性絶縁体転移がパイエルス機構で起こることやSr(Fe,Mn)O_2における新奇磁気秩序状態を示した。このように、量子フラストレーションではあまり注目されていなかった強磁性相互作用(と反強磁性相互作用の競合)により、次元によらず多彩な新しい現象が現れることが明らかになった。
著者
古本 淳一
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

気温を高い時間分解能で観測できるレーダーリモートセンシング技術であるRASS(Radio Acoustic Sounding System)の性能を向上させ従来観測できなかったより微細な気温観測を可能とした。複数のレーダー周波数観測により鉛直分解能を向上させる周波数領域干渉計映像法をRASS観測に応用する新アルゴリズムを開発しMUレーダーを用いて従来150mに留まっていた鉛直分解能を60mまで向上させることに成功した。また、沖縄におけるRASSの自動連続観測の実現や、従来観測が難しかった接地境界層領域への展開を進めた。
著者
平井 啓久
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

(1)ヒト第2染色体形成メカニズムを再検討する目的で、ヒト第2染色体ペイントDNAおよびα-サテライトDNAをプローブとして、ヒト、チンパンジー、およびゴリラの染色体に蛍光in situsハイブリダイゼーション(FISH)を行った。その結果、ペイントDNAは、従来の見解(ヒト第2染色体はチンパンジー第12・13染色体の末端融合によって形成された)を、確認した。α-サテライトDNAは、厳しい条件下で、ヒト第2染色体、チンパンジー第12染色体および小型メタセントリック(未同定)、およびゴリラ第11染色体のセントロメアに対してポジティブな反応を示した。今回のデータからでは、ヒト第2染色体の形成メカニズムに新しい知見を加える事はできなかったが、チンパンジーに、共通セントロメアを有する2対の染色体が存在する事は、その2対の染色体が共通の染色体から派生した可能性を示唆している。そこで、現在、染色体顕微切断法を用いて、チンパンジー第13染色体のセントロメアのDNA採取およびそれを用いてのFISHを行っている。また、チンパンジーの染色体分化の解明のための新戦略を検討中である。(2)シロテテナガザル、アジルテナガザル、ミューラーテナガザル、クロッステナガザル、およびワウワウテナガザルの染色体をC-バンド染色で観察したところ、従来発表されているパターンと異なるデータが得られた。腕内介在バンド、末端バンド、短腕全ヘテロクロマティン等を有する染色体が多く観察された。また、G-バンド染色で従来観察されていた第8染色体の逆位多型も、以前とは異なる状況で観察された。現在、染色体44本型テナガザル類の染色体分化のメカニズムを、今回観察した事実を基に、従来とは異なる方向から検討している。さらに、そのデータを基に、染色体変異ネットワークおよび核グラフ法を用いて数量的に解析中である。
著者
石崎 公庸
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、植物における栄養生殖の分子メカニズムを解明することを目標とし、タイ類ゼニゴケをモデルとして解析を行った。前年度までの研究成果から、ゼニゴケにおける栄養生殖器官である杯状体の基底部で、オーキシン生合成系の発現上昇とそれに伴うオーキシンの蓄積が観察されており、栄養生殖器官の発生プロセスにおいてオーキシンが何らかの役割を持つことが示唆されている。本年度、オーキシン低感受性株の解析から単離されたオーキシンシグナル伝達系の主要転写因子MpARF1の機能欠損変異体について、栄養生殖プロセスにおける表現形を詳細に解析した。その結果MpARF1の機能欠損変異体では、無性芽発生における分裂組織の発生と機能に異常が確認された。さらに別のオーキシン低感受性株mt37について、カルボキシペプチダーゼをコードするALTERED MERISTEM PROGRAM1(AMP1)の相同遺伝子MpAMP1の機能欠損変異体であることを明らかにした。mt37についても無性芽発生における分裂組織の発生と機能に異常が確認された。現在、これらの変異体の表現型や原因遺伝子の機能について詳細な解析を進めている。単離された複数のオーキシン低感受性変異体において、無性芽の分裂組織形成に異常が確認されたことから、杯状体底部におけるオーキシン応答が無性芽の分裂組織形成において重要な役割を持つと考えられる。
著者
小山 勝二 鶴 剛 松本 浩典
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

銀河中心領域からのFeI, FeXXV, Fe XXVI のKα線を分離し、その空間分布を正確にもとめた。その結果、銀河中心は7000 万度のプラザがほぼ1×2度の範囲を満たしていること、またFeI のKα線は銀河中心にある巨大ブラックホールが約300年前に強いX線を放射し、それが蛍光、反射した結果(X線反射星雲)であることを確認した。このようなX線反射星雲の候補をいくつも発見した。SCI 時のCTE 補正法、および、その補正パラメータの決定法を開発した。こうして全ての「すざく」XIS の観測はSCI を使うに至った。
著者
内山 秀樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

天の川銀河中心領域の「すざく」による大規模観測データの系統的解析を行った。銀河拡散X線放射の3本の鉄輝線を分離した上で、銀河中心・リッジ・バルジにわたる2100×700光年の領域での強度の空間分布を初めて取得した。その結果、高階電離鉄輝線の空間分布が赤外観測による星質量分布と互いに異なることを示した。水素・ヘリウム状鉄輝線強度比が中心領域とリッジ領域で有意に大きい一方、中心領域とバルジ領域では両者に差は見られなかった。輝線強度比は高温プラズマの温度を反映する為、銀河拡散X線放射の起源解明の鍵となる。更に、熱的成分の寄与を取り除いた中性鉄輝線の等価幅が中心領域よりリッジ領域で小さいことを明らかにした。これは中性鉄輝線の起源も中心領域とリッジで異なる可能性を示唆する。本研究は「すざく」による高エネルギー分解能を活かし銀河中心・リッジ・バルジにおける鉄輝線の差異を明確にした点で、銀河拡散X線放射の起源解明の新たな手がかりとなるものである。また、データ中から新たなX線天体Suzaku J1740.5-3014を発見した。強い3本の鉄輝線、432.1sの自転周期と見られるパルスを検出し、強磁場激変星候補であることを突き止めた。この天体は、欧米のX線衛星では深い観測が無い、中心とリッジの中間に位置し、この領域でのX線点源、特にGDXEの起源の候補天体と目される激変星(白色矮星連星)のサンプルとして貴重である。
著者
信川 正順
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

我々の太陽系が含まれている天の川銀河の中心領域(以後、銀河中心領域)は多数の天体群が密集する高エネルギー現象の宝庫である。近年のX線観測から銀河中心領域の分子雲から強い中性鉄輝線(中性状態の鉄からの特性X線)が放射されていることが分かってきた。分子雲は高々100ケルビン程度の低温なので、自らX線を放射することはなく、その背後に高エネルギー現象が存在することを示唆する。これまでに私を含め、様々な観測結果から中性鉄輝線を放射するためには、外部からの強いX線によって分子雲が照射され、内部の鉄原子を電離していると考えられている。しかし、これまでに照射天体を決定的に示す観測的証拠は得られていなかった。そこで、私はX線天文衛星「すざく」を用いて、銀河中心の射手座B2領域の観測を行った。2005年の観測データと比較し、2つの分子雲からの中性鉄輝線と連続X線の強度が4年間で相関して減少していることを明らかにした。この観測結果から分子雲を照らすX線照射天体候補は太陽程度の質量の天体では不可能な光度を持っている必要があることを解明し、唯一の候補が太陽の400万倍の質量を持つ銀河中心ブラックホールであることを明らかにした。銀河中心ブラックホールは数100年前に少なくとも100万倍以上の活動性であったことが分かったのである。さらに、私が前年度までにも明らかにしたように銀河中心領域にはこの他にもX線を放射する分子雲が多数存在している。これらのX線放射の起源も巨大ブラックホールの過去のX線フレアである可能性を初めて示した。
著者
小林 圭 山田 啓文 桑島 修一郎
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は、カンチレバーを用いた周波数検出型バイオセンサーにおいて、その最小検出質量を決定する周波数ノイズを定量的に予測するモデルを考案し、また実際にノイズ評価を行うことで、その妥当性を評価した。従来、カンチレバーの共振周波数を検出する周波数検出型のバイオセンサーでは、その変位を検出する変位検出系のノイズによって周波数ノイズが決定されると考えられてきた。つまり、周波数変調(FM)通信と同様に取り扱われてきたのである。しかしながら、実際にバイオセンサーで用いられるカンチレバーの機械的Q値は非常に低く、しばしば10以下となるため、そうした取り扱いが妥当であるかについては疑問視されてきた。我々は、変位検出系のノイズが自励発振ループ内で発生することを考慮に入れた、カンチレバーの周波数ノイズを定量的に予測するモデルを考案した。これにより、低Q値のカンチレバーの周波数ノイズも正確に予測することができるようになった。また、この妥当性を実際に液中で自励発振させたカンチレバーの周波数ノイズを計測することにより確認した。一方、カンチレバーの変位検出系の低ノイズ化対策をさらに進め、10fm/√Hz以下を達成した。また、このように十分に変位検出系を用いた場合、カンチレバーの変位をセンサー出力とする変位検出型のバイオセンサーにおいて、本研究課題で提案した多重反射方式のカンチレバーセンサーは平行レーザ光を用いれば、感度の向上に大きく寄与できることを示すことができた。
著者
押川 文子 村上 勇介 山本 博之 帯谷 知可 小森 宏美 田中 耕司 林 行夫 柳澤 雅之 篠原 拓嗣 臼杵 陽 大津留 智恵子 石井 正子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本科研は、複数地域を研究対象とする研究者による地域間比較や相互関連を重視したアプローチを用いることによって、グローバル化を経た世界各地の地域社会や政治の変容を実証的に検証し、それらが国内外を結ぶ格差の重層的構造によって結合されていること、その結果として加速するモビリティの拡大のなかで、人々が孤立する社会の「脆弱化」だけでなく、あらたなアイデンティティ形成や政治的結集を求める動きが各地で活性化していることを明らかにした。
著者
村上 勇介 狐崎 知己 細谷 広美 安原 毅 柳原 透 重冨 恵子 遅野井 茂雄 新木 秀和 幡谷 則子 二村 久則 山崎 圭一 新木 秀和 小森 宏美 後藤 雄介 佐野 誠 幡谷 則子 二村 久則 箕輪 真理 山本 博之 山崎 圭一 山脇 千賀子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

発展途上地域で最も早い時期から「民主化」と市場経済化を経験したラテンアメリカにおいて、近年、政治が最も不安定化しているアンデス諸国(ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラの5ヶ国)に関し、現地調査を踏まえつつ、ポスト新自由主義の時代に突入したアンデス諸国の現代的位相を歴史経路や構造的条件を重視しながら解明したうえで、近年の動向や情勢を分析した。そして、5ヶ国を比較する研究を行い、対象国間の共通点と相違点を洗い出し、事例の相対化を図り比較分析の枠組を検討した。