著者
小林 まり子 森 佐苗 徳森 啓訓 小林 隆司 原田 和宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P1234, 2009

【背景と目的】<BR> 加齢や疾病に伴う歩行能力の変化では,歩容の側面からも重要な情報がもたらされることが少なくない.Wolfsonら(1990)は,転倒予防のための16項目の歩行観察評価を作成し,Gait Abnormality Rating Scale(GARS)として報告した.VanSwearingenら(1996)は,改訂版GARSの信頼性と妥当性を示すと共に,それが虚弱高齢者の転倒危険性を反映することを明らかにした.改訂版GARSは 7項目で構成され,それぞれ0~3までの4件法で評価し,点数が高いと歩行が不良とされる.今回我々は,改訂版GARSを遠隔環境下で実施し,この評価の使用可能性を検討したので以下に報告する.<BR><BR>【対象と方法】<BR> 対象は,当院入院中の女性患者5名(平均年齢80.0±6.4歳)とした.疾患の内訳は腰椎圧迫骨折1名、変形性股関節症1名、変形性膝関節症1名,大腿骨頚部骨折1名、膝蓋骨骨折1名であった.全員歩行可能で,認知面の問題はなかった.ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には本研究の主旨と方法に関して説明を十分に行い承諾を得た.<BR>対象者に,片道3mの直線コースを2往復してもらった.床面は木製であった.危険防止のためセラピストが横についた.コースから垂直斜め横3mの地点にノートパソコン(pentiumM-1.2GHz, 1GB-RAM, WindowsXP)とウエッブカメラ(Qcam9000)を設置した.skype(ver.3.8)のビデオ通話機能を利用して,歩行の様子をイントラネット(100Mbps)で接続した別室のパソコン(pentium4M-2.2GHz, 1GB-RAM, WindowsXP)にて別のセラピストが観察した.SkypeのビデオをTapur ver1.3にて25fpsで録画するも,コマ落ちが目立つため遠隔ではライブ評価のみとした.遠隔評価と同時に、デジタルビデオ(69万画素)でミニDVカセットに歩行の様子を撮影しておき,1週後に,その映像を必要なだけ見直しながら,原法どおりに評価をおこなった.<BR> 遠隔評価とビデオ評価との一致率と相関係数を求め精度を検討した.<BR><BR>【結果】<BR> 遠隔とビデオ評価との各項目の一致率は60~100%で,全評価項目では77%であった.総合得点のspearmanの順位相関係数は0.9(p=0.037)と相関を示した.<BR><BR>【考察】<BR> 改訂版GARSは,skypeを用いた遠隔環境下のライブ観察でもある程度の一致度が得られることがわかった.しかし,評価を正確に行うには,高スペックのパソコンで映像を録画できることが必要である.また,今回は在宅の環境を想定して歩行距離を3mとしたが,原法に従って10m程度に伸ばすことや側面画像を送ることが精度向上につながると考えられた.今後はセキュリティーの問題を検討し,インターネット環境下でこれを実施する必要がある.
著者
櫻田 弘治 石井 香織 長山 医 中嶋 美保子 葉山 恵津子 氷見 智子 加藤 祐子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1073, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに・目的】栄養関連指標であるGNRI[Geriatric Nutritional Risk Index={14.89×血清アルブミン}+{41.7×(現体重/理想体重)}]は手術後患者や透析患者などの生命予後予測指標として注目されている。我々は,心不全患者におけるGNRIが,その後の心血管疾患による死亡の規定因子であることを報告した。心不全患者は心不全の進行により,呼吸負荷や交感神経系の活性化によるエネルギー消費量の増大や筋肉の異化亢進に伴う筋肉量の低下,腸管浮腫による腸管運動障害による吸収障害や食欲低下によって,低栄養状態に陥りやすいといわれ大きな問題となっており,心不全患者における栄養状態の改善が急務とされている。一方,心不全患者の予後規定因子として確立とされている運動能の指標と栄養状態の関係について検討した報告は少ない。今回,栄養関連指標としてGNRIを用いて,心不全患者の栄養状態と運動療法の効果との関係を検討した。【方法】2011年6月から2013年10月までに,NYHAII度以上の心不全患者に対する運動療法を週2回以上の頻度で291±180日間実施した21例{男性:14例,年齢:62±11歳,NYHA(II度:11例,III度:9例,IV度:1例)}を対象とした。運動療法は,有酸素運動とレジスタンストレーニングを行った。評価項目は,患者基本情報,運動療法前後の血液生化学データ(Hb,CRP,eGFR,ALB,BNP),心臓エコー検査による左室駆出率(LVEF),GNRI,心肺運動負荷検査(AT@VO2,Peak VO2,VE/VCO2 slope,Peak WR)とした。心不全患者による運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率との関係,さらに,心不全患者の中でGNRIが94未満の心不全患者を,栄養障害リスクあり心不全群(7例)の運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率の関係について検討した。統計学的手法は運動療法の効果についてはPaired t-test,相関関係はSpearmanの順位相関係数により統計解析を行った。全ての検定における有意水準はp=0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり,事前に研究の趣旨,研究内容及び調査結果の取り扱いについて説明し同意を得た。また,本研究は他者との利益相反はない。【結果】運動療法前後のHb,CRP,eGFR,ALB,BNP,LVEFは有意差を認めなかった。GNRIは運動療法前が97.3±9.2から運動療法後に100.4±7.1と有意な改善が認めた(p<0.05)。また,運動療法によってAT@VO2は運動療法前が9.2±1.9ml/min/kgから運動療法後に10.0±1.8 ml/min/kg(p<0.01),Peak VO2は運動療法前が12.7±3.8 ml/min/kgから運動療法後に14.4±3.2ml/min/kg(p<0.01),Peak WRは運動療法前が68.1±28.0Wから運動療法後に79.8±27.1W(p<0.01)と有意に改善したが,VE/VCO2 slopeは運動療法前が37.0±9.8から運動療法後に34.7±10.3と有意差は認めなかった。全ての心不全症例において,運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率には有意な相関を認めなかった。しかし,栄養障害リスクあり心不全群において,運動療法前後のGNRI改善率とAT@VO2改善率(r=0.978;p<0.001),GNRI改善率とPeak VO2改善率(r=0.877;p<0.001),GNRI改善率とPeak WR改善率(r=0.791;p<0.05)には有意な正の相関関係を認めたが,GNRI改善率とVE/VCO2 slope改善率には相関関係を認めなかった。【考察】心不全患者を対象とした,GNRIを用いた本研究結果より,栄養障害リスクのある患者は,栄養状態の改善率によって,運動療法の効果に影響を及ぼす可能性がある。このため,今後は積極的な栄養状態の改善に対する介入研究が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】心不全患者に対する運動療法の有効性は周知されている。今回の研究結果によって,栄養障害リスクのある患者は,栄養状態の改善へのアプローチも心臓リハビリテーションの役割のひとつであると再認識できた。栄養状態の改善によって,さらなる効果的な運動能の改善が期待され,心不全患者の生命予後の改善に影響する可能性が示唆された。
著者
増田 一太 篠田 光俊 松本 祐司 中宿 伸哉 宇於崎 孝 林 典雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb0496, 2012

【はじめに、目的】 座位姿勢における腰痛は、一般的に椎間板障害をはじめとする退行性変性疾患に多く合併する症状であるが、椎間板障害はほとんどない若年期に出現するこの種の腰痛は、若年者特有の病態が予想される。本研究の目的は、当院にて椎間関節障害と診断された若年期の症例に対し、座位時の腰痛の有無による理学所見、X線所見の違い、また、座位姿勢時の重心動揺に特徴があるのか否かについて検討したので報告する。【方法】 2009年4月から2011年4までに当院を受診し椎間関節障害と診断された症例の内、15歳以下の症例52例を対象とした。対象を一般に言う体育座り時に腰痛を訴える32例(以下S群:平均年齢11.4歳)と座位時以外の腰痛が主体の20例(以下F群:平均年齢13.3歳)に分類した。座位姿勢の重心動揺の計測には、無作為にS群より21例(以下S2群:平均年齢12.5歳)、F群より7例(以下F2群:平均年齢12.7歳)を抽出した。また、腰痛を有さない正常例14例(C群:平均年齢11.5歳)も併せて計測した。理学所見の検討として、体幹の伸展及び屈曲時痛、腰椎椎間関節の圧痛、多裂筋の圧痛それぞれの割合を求め比較した。X線所見は立位の腰椎側面像より、腰椎前角(L1とL5の椎体上縁のなす角)、腰仙角(L5椎体後縁と仙骨背面とのなす角)、仙骨傾斜角(仙骨上面と水平線とのなす角)について両群間で比較した。重心動揺の計測は、ユメニック社製平衡機能計UM-BARIIを使用した。重心動揺計のX軸を左右軸としその軸上に左右の坐骨結節を一致させた。次に、Y軸を前後軸としこの軸上に両坐骨結節の中点が一致するように体育座りを行わせた。Y軸とX軸との交点より前方重心は+、後方重心は-で表記した。計測時間は5分間としY方向動揺平均変位(mm)を求め、S群、F群、C群で比較した。理学所見の検討にはX2検定を、X線学的検討には対応のないt検定を、重心動揺の検討には一元配置の分散分析を用い有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の趣旨,個人情報の保護の意を本人と保護者に説明し同意を得た.【結果】 体幹伸展時痛の陽性率はS群68.8%、F群85.0%であり有意差は無かった。体幹屈曲時痛の陽性率はS群71.9%、F群30.0%と有意差を認めた(p<0.01)。腰椎椎間関節の圧痛所見の陽性率はS群65.6%、F群75.0%と有意差はなかった。多裂筋の圧痛所見の陽性率はS群81.3%、F群40.0%と有意差を認めた(p<0.05)。腰椎前彎角はS群平均29.3±9.8°、F群平均32.1±6.1°と有意差は無かった。腰仙角はS群平均40.1±7.7°、F群平均46.7±5.6°でありS群で有意に仙骨が後傾化していた(p<0.05)。仙骨傾斜角はS群平均33.1±7.1°、F群平均43.6±6.0°でありS群で有意に仙骨は直立化していた(p<0.05)。座位時重心動揺は、S2群平均-73.3±30.3mm、F2群平均-49.4±46.2mm、C群平均-53.8±43.1mmであり3群間で有意差は無かった。【考察】 椎間関節障害に特有の症状は体幹伸展時痛、椎間関節の圧痛であるが、これらに加え、特に体育座り時の腰痛を訴える若年期の症例では、体幹屈曲時痛と多裂筋の圧痛の陽性率が有意に高い事がわかった。また、X線学的にも、腰仙角、仙骨傾斜角で有意に仙骨が後傾している事が明らかとなった。つまり体育座りにおいて腰痛を訴える症例は、普段の生活から仙骨が後傾した後方重心有意の姿勢である事が伺われ、これは同時に腰部多裂筋の活動が高まると共に、筋内圧が持続して高い状態にある事が推察される。一方、実際の重心動揺の計測結果では3群間に有意差は見られなかった。しかしながら立位姿勢における仙骨の後傾は座位としてもその傾向は認められると考えられ、必然的に胸腰椎を屈曲位とすることでバランス調整を行っていることが重心動揺変位量に差が出なかった理由と考えられた。逆に、胸腰椎の過屈曲で代償した座位姿勢は、腰部多裂筋の持続収縮に加え筋膜の伸張を惹起し、筋内圧はさらに高まる結果となる。つまり、座位時の腰痛を訴える症例に有意に認められた体幹屈曲時痛や多裂筋の圧痛は、一種の慢性コンパートメント症状と考えると臨床所見との整合性が得られるところである。【理学療法学研究としての意義】 本研究は若年者にみられる座位姿勢腰痛を臨床所見、X線所見、重心動揺の面からその関連性を検討したものである。若年者腰痛を症状からカテゴライズし、特徴的な臨床所見と姿勢との関連性に言及した点で、今後さらに詳細な臨床観察に繋がることが期待される。
著者
増田 圭太 谷増 優 今村 亮太 浦田 侑加 蒲田 和芳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.H4P2351, 2010

【目的】<BR>腰痛症は、人類の80%が生涯に1度は経験するとされ、我々が最も身近にする症状のひとつである。腰痛症全体に占める割合が多い非特異的慢性腰痛に対して、効果的かつ再現性の高い治療方法の確立が望まれている。慢性腰痛症の原因の一つとして骨盤の非対称的なアライメントが指摘されてきた(Subotnick1985、DonTigny1990)が、現在まで十分なコンセンサスは得られていない。<BR>骨盤リアライメントを目的としたエクササイズプログラムとして、ストレッチポール(LPN社)を用いた骨盤コンディショニングプログラム(PelCon)(平沼2008)がある。これまでストレッチポールの効果として、脊椎のリアライメント効果(杉野2006)、胸郭拡張機能改善(秋山2007)、肩関節の柔軟性(森内2007)、胸郭スティッフネス低下(伊藤2007)などの報告がある。一方、骨盤帯への効果に関して下肢発揮筋力の左右差減少(増田2008)の報告があるが、骨盤リアライメント効果について、定量的評価はなされていない。<BR>本研究の目的は、PelConが骨盤アライメントに及ぼす効果を検証することであった。研究仮説は、「PelConは骨盤非対称アライメントを対称化させる」とした。<BR>【方法】<BR>取込基準は、健常な成人男女20-65歳であり、除外基準は、急性腰痛、手術歴、内科的リスク、脳障害、精神障害、コミュニケーション障害がある者とした。同意書に署名した105名(男性103名、女性2名)を対象者とした。<BR>本研究は無比較介入研究であり、介入は骨盤アライメント対称化を目的とするPelConとした。観察因子である骨盤の圧分布の計測には、Win-Pod足底圧分布測定装置(フィンガルリンク社)を用いた。計測は、介入直前と介入直後に実施した。約10分間の介入終了後、アウトカム測定までは安静状態を保ち、全員が介入後30分以内に計測を終了した。<BR>測定肢位は、(1)股関節45度屈曲・膝関節90度屈曲の背臥位において測定者が両膝を左右方向へ操作して行う骨盤ローリング運動、(2)膝屈曲位の長座(体育座り)にて測定者誘導のもとで行う骨盤前後傾運動、の2種類とした。各運動を5回連続して行う間、骨盤圧分布を継続測定した。(2)において仙骨遠位部が特定可能であった74名を対象に、両坐骨および仙骨のピーク圧から描かれる三角形に基づき、両坐骨中心に対する仙骨位置の偏位割合を介入前後で比較した。測定結果は、圧力解析プログラム(フィンガルリンク社)により解析し、左右の骨盤圧分布から、左右の寛骨のピーク圧を介入前後で比較した。<BR>統計学的検定には対応のあるt検定を用い、有意水準はP<0.05とした。<BR>【説明と同意】<BR>研究の内容について事前説明を行ない、ヘルシンキ宣言の精神に基づき作成された同意書に署名した者を対象者とした。<BR>【結果】<BR>対象者全員が非対称的な圧分布を示していた。寛骨の最大圧の左右差は、(1)骨盤ローリング運動については介入前84.9 ± 63.0 g/cm<SUP>2</SUP>、介入後57.8 ± 50.0 g/cm<SUP>2</SUP>であり、介入前後で有意な減少が認められた(P<0.001)、(2)骨盤前後傾運動については、介入前57.4 ± 58.8 g/cm<SUP>2</SUP>、介入後52.6 ± 44.4 g/cm<SUP>2</SUP>で、有意差は認められなかった(P=0.41)。また、(2)において両坐骨中心に対する仙骨位置の偏位割合は介入前10.3 ± 13.1 %、介入後9.5 ± 15.1 %であり、有意差は認められなかった(P=0.61)。<BR>【考察】<BR>本研究の結果、骨盤コンディショニングプログラム(PelCon)は骨盤後面のピーク圧の左右差を減少させた。このことは、骨盤アライメントの対称化を示唆する結果といえる。円柱形状のストレッチポール上にて背臥位で行うPelConは、骨盤後傾側の上後腸骨棘(PSIS)に荷重することにより後傾位にある寛骨を前傾させる効果があると推測される。本研究において、初めてこの骨盤リアライメント効果が客観的に示された。<BR>本研究の問題点として、男女割合が不均等であり一般化に制限がある点が挙げられる。またコントロール群がないため、他の運動プログラムとの比較がなされなかった。また、腰痛患者は含まれていなかったため、腰痛の治療効果は不明である。しかしながら、十分なサンプルサイズによる定量的なデータが得られたことから、信頼できる結果であると解釈される。以上より、研究仮説は支持されたと結論付けられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>ストレッチポールを用いた骨盤リアライメントエクササイズ(PelCon)は、健常者の非対称位にある骨盤を対称化させる効果が確認された。今後、骨盤マルアライメントに由来する腰痛の予防等に応用されることが期待される。
著者
小林 準 赤星 和人 永田 雅章 名波 美代子 境 哲生 近藤 広陸 片山 英紀 松野 大樹 伊藤 修一 萩原 朋尚 高梨 晃
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A1047, 2005

【目的】近年「健康日本21」の推進が唱えられ、平成15年5月からは健康増進法も施行された。ヘルスプロモーションへの関心が高まる中で、我々、理学療法士の健康増進に対する役割もますます重要性が高まるものと考えられる。今回、日頃の理学療法場面で運動療法を指導する立場にある理学療法士と、日頃はデスクワークが多い事務職員との安静時及び運動時における換気反応について比較検討を行ったので報告する。<BR>【対象および方法】対象は健康な理学療法士の女性10名と事務職員の女性10名の合計20名であった。実験の前には趣旨を説明して同意を得て行った。年齢、体重、身長は理学療法士群はそれぞれ29.6±4.8歳、161.6±4.0 cm、と54.3±5.1 kg であった。一方事務職員群はそれぞれ 32.5±4.1歳、159.5±7.2 cm、と52.6±7.2 kgであった。測定にはコスメデ社製「テレメトリー式呼吸代謝計測装置K4システム」を用いて、呼気ガス中の酸素摂取量(VO2)、炭酸ガス排出量(VCO2)、呼吸商(RQ)、および心拍数(HR)を計測した。測定方法としては、充分な安静時間の後、更に3~4分間程のオルゴールによる安静時間と3~4分間程の132拍/分のワールドベストヒット曲に合わせて、以下に挙げた2種類の体操を立位にて行った。(1)手を頭上に組んで体幹の側屈、(2)全身運動のリズムダンス。そしてエルゴメーター運動負荷テストも行った。データの統計的検討にはt検定を用いて有意水準を5%とした。<BR>【結果】1,事務職と理学療法士における安静時VO2、最大酸素摂取量(maxVO2)、嫌気性代謝閾値(AT)の比較;安静時VO2、maxVO2、ATとも理学療法士群は高い値を示しmaxVO2とATは、42.5±4.9と19.0±3.1 ml/min/kg であった。安静時VO2とATで有意の差を認めた。maxVO2では理学療法士群の方が高い値を示したが、有意差は認めなかった。2,体操(1)(2)におけるVO2の比較;体操(1)(2)で理学療法士群がともに20.3±3.4と21.0±2.3 ml/min/kgでVO2の高い傾向はあったが、統計的には事務職と理学療法士群での有意差を認めなかった。<BR>【考察】一般的に嫌気性代謝閾値(AT)は、日常の運動能力と等価ではないが、自覚症状を伴わず生活の大半で行っている運動を反映する評価指標として適していることが指摘されている。今回の結果も、日頃、体を動かすことの多い理学療法士が、安静時VO2及びATの値が高くなったことにつながったものと考えられた。「法を説く者、その実践者たれ!」という言葉があるように、健康増進に関心の高まってきている昨今、ますます我々理学療法士自身の体力強化の重要性と同時に、デスクワークの多い事務職におけるヘルスプロモーションの必要性が伺われた。
著者
齊藤 明 岡田 恭司 高橋 裕介 斎藤 功 木下 和勇 木元 稔 若狭 正彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100337, 2013

【はじめに、目的】 膝関節筋は中間広筋の深層に位置し、大腿骨遠位前面を起始、膝蓋上包を停止とする筋である。その作用は膝関節伸展時の膝蓋上包の牽引・挙上とされ、機能不全が生じると膝蓋上包が膝蓋骨と大腿骨の間に挟み込まれるため拘縮の原因になると考えられている。しかしこれらは起始、停止からの推論であり、膝関節筋の機能を直接的に示した報告はない。本研究の目的は膝関節筋が膝蓋上包の動態に及ぼす影響およびその角度特性を超音波診断装置を用いて明らかにすることである。【方法】 健常大学生16名(男女各8名:平均年齢22歳)32肢を対象とした。測定肢位は筋力測定機器Musculator GT30(OG技研社製)を使用し椅子座位にて体幹、骨盤、下腿遠位部をベルトで固定した。動作課題は膝関節伸展位、屈曲30°位、屈曲60°位での等尺性膝伸展運動とし、実施順は無作為とした。いずれも最大筋力で3回行い、このときの膝関節筋の筋厚および膝蓋上包の前後径、上方移動量を超音波診断装置Hi vision Avius(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定には14MHzのリニアプローブを使用しBモードで行った。膝関節筋および膝蓋上包の描写は上前腸骨棘と膝蓋骨上縁中央を結ぶ線上で、膝蓋骨上縁より3cm上方を長軸走査にて行った。膝関節筋筋厚は筋膜間の最大距離、膝蓋上包前後径は膝関節筋付着部における腔内間距離を計測し、等尺性膝伸展運動時の値から安静時の値を減じた変化量を求めた。膝蓋上包上方移動量は安静時の画像上で膝関節筋停止部をマークし、等尺性収縮時の画像上でその点の移動距離を計測した。各膝関節角度間での膝関節筋筋厚、膝蓋上包の前後径、上方移動量の差を検定するため、一元配置分散分析およびTukey多重比較検定を行った。また各膝関節角度において膝蓋上包前後径および上方移動量を従属変数、膝関節筋筋厚、年齢、体重を独立変数とした重回帰分析(stepwise法)を行った。統計解析にはSPSS19.0を使用し、有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に研究目的および測定方法を十分に説明し書面で同意を得た。【結果】 膝関節筋筋厚は伸展位3.21±0.72mm、屈曲30°位2.74±0.71mm、屈曲60°位2.03±0.49mmで伸展位が屈曲30°位、60°位に比べ有意に厚く(それぞれp=0.014、p<0.001)、屈曲30°位が屈曲60°位より有意に厚かった(p<0.001)。膝蓋上包前後径は伸展位2.62±0.94mm、屈曲30°位2.15±0.98mm、屈曲60°位0.44±0.30mmで伸展位および屈曲30°位が屈曲60°位より有意に大きかった(いずれもp<0.001)。膝蓋上包上方移動量は伸展位13.33±4.88mm、屈曲30°位10.44±2.65mm、屈曲60°位5.63±2.02mmで伸展位が屈曲30°位、60°位に比べ有意に大きく(それぞれp=0.041、p<0.001)、屈曲30°位が屈曲60°位より有意に大きかった(p<0.001)。重回帰分析の結果、膝蓋上包前後径のモデルでは調整済みR²値は、伸展位で0.659、屈曲30°位で0.368であった(p<0.001)。膝関節筋筋厚の標準偏回帰係数は伸展位で0.752(p<0.001)、屈曲30°位で0.623(p<0.001)であり、いずれも正の連関が認められた。屈曲60°位では有意な連関は得られなかった。膝蓋上包上方移動量のモデルでは調整済みR²値は、伸展位で0.548であった(p<0.001)。膝関節筋筋厚の標準偏回帰係数は0.750(p<0.001)であり、正の連関が認められた。屈曲30°位、60°位では有意な連関は認められなかった。【考察】 筋厚の結果から膝関節筋はより伸展位で収縮する性質があると考える。また屈曲60°位においても2.03mmの変化が得られたことから、屈曲位でも収縮することが示された。膝蓋上包前後径および上方移動量は伸展位、屈曲30°位に比べ屈曲60°位で有意に小さかった。これは膝関節屈曲時に膝蓋骨と共に膝蓋上包が遠位に移動するため、その緊張が高まり後方および上方への変化量が小さかったと考える。しかし膝関節筋の収縮は認められることから、屈曲60°位においても膝蓋上包への張力は作用しているものと推察される。重回帰分析の結果、膝関節伸展位では膝関節筋の収縮は膝蓋上包前後径、上方移動量に影響することが示され、解剖学的知見から予測された作用と一致する結果であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究は膝関節筋が膝蓋上包を牽引、挙上することを超音波画像より直接的に示したものであり、基礎データとして有意義であると考える。今後は膝関節拘縮や変形性膝関節症との関連性や膝関節可動域制限への介入の新たな視点等、臨床への応用が期待される。
著者
遠藤 浩士 朝倉 敬道 長瀬 エリカ 浦川 宰 佐々木 良江 藤縄 理 竹中 良孝 名塚 健史 水田 宗達 根岸 朋也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1422, 2009

<BR>【目的】平成20年度全国高等学校総合体育大会ボート競技大会において、埼玉県理学療法士会スポーツリハビリテーション推進委員会の中でコンディショニングサポート活動(以下、サポート活動)を行った.本大会でのPTによるサポート活動は全国でも初めての試みであり、競技・障害特性、活動成果について若干の知見を得たので報告する.<BR><BR>【対象・方法】試合出場選手695名、他関係者に対し、競技前・競技後のサポート活動を行った.公式練習を含む計7日間において、PT24名(1日平均6~7名)体制で、活動内容や利用者アンケートの集計結果を基に、競技の障害特性、介入の有効性について検討を行った.介入効果判定として、症状変化(ペインリリース法)、満足度調査(10段階法)、PTの主観的効果を指標とした.評価用紙及びアンケートの使用については、利用者から承諾を得た.<BR><BR>【結果】総利用者件数は311件で、1日平均44件、再利用率としては33%であった.男女率は、男性62%、女性38%、種目別ではシングル15%、ダブル37%、クフォド48%であり、特にクフォドのポジション別では、2番26%、3番30%の利用率が多かった.主訴は、疼痛37%、疲労感27%、張り感19%、だるさ11%であった.障害発生部位としては、男女共に腰部35%と多く、大腿部20%、下腿部14%、肩11%、膝8%であった.男女比による障害発生部位では、肩に関しては、男性よりも女性に高い傾向があった.発症期間は、大会期間中31%、7日以内5.3%、1ヶ月以内6.7%、1ヶ月以上前31%、未回答23%であった.発症機転としては、練習中29%、練習後27%、練習以外5%、不明8%、未回答31%であった.実施した具体的な内容としては、マッサージ30%、ストレッチ29%、リハ指導16%、促通8.7%であった.介入効果として、症状変化は、4以下が全体の57%、満足度調査結果は8点以上10点までが全体の86%、PTの主観的効果は、有効が61%であった.<BR><BR>【考察】障害の特徴としては、男女共に腰部・下肢への障害が多く、競技特性としてローイング運動そのもののパワーが要求される2番・3番のポジションにおける利用者が多かった.長時間における姿勢や不安定状況下での体幹の固定性が影響しているかと考えられる.特に肩の障害発生率では、女性の方が男性よりも高い傾向にあり、女性は男性に比べ、上肢への運動負荷・負担が強いられることや関節の弛緩性の問題なども影響している可能性がある.1ヶ月以上前のものや発症期間が不明確な事例など、慢性的症状を抱えている利用者が多かった.また、大会期間中における発症が予想以上に多く、大会直前の練習の追い込みや日頃抱えている慢性的症状が悪化したと推測できる.今回の利用者の症状変化・満足度調査結果やPTの主観的効果が高かったことから、PTが日常的に選手のコンディショニングに関わる事の重要性が示唆された.
著者
浅川 育世 内田 智子 小貫 葉子 前沢 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】2006年の介護保険改正以降,介護予防が重視されるようになり,地域包括ケアシステムの実現に向けて介護予防の推進が施策に盛り込まれた。一方,介護予防について介護予防の提供者が,活動や参加に焦点をあててこなかった等の指摘もある。特に参加は活動のより高次のレベルであり,参加レベルを維持・向上させることは介護予防に重要である。しかし,参加についての概念は難しく個人によって捉え方も異なる。本研究は,介護予防における一次予防の対象者がどのような項目を重要視しているかICFコードに基づき調査した。【方法】茨城県が介護予防事業のプロジェクトとして取り組むシルバーリハビリ体操の指導士より500名を無作為抽出し,自記式郵送調査を実施した。調査項目はICF Core Setsの活動と参加の項目より第6章から第9章までの第2レベル36項目から下1桁の数値が8及び9のものを除外し24項目に絞った。24項目については対象者が理解し易いよう注釈を加えた。その際に別に扱うより,1つにまとめた方が理解が容易と判断された2項目については1つに集約し23項目とした。23項目を「今現在の生活において,生きがい,家庭や社会生活での役割を形成するためにどのくらい重要ですか」について「全く重要でない」;0,「あまり重要でない」;1,「やや重要」;2,「とても重要」;3の4件法で質問した。また年齢については別に質問した。各項目について選択肢の回答者数を集計した。前期高齢者と後期高齢者の回答状況の比較にはU testを実施した。【結果】368名より返送され,回答に欠損がある,要介護認定を受けている,64歳以下であることを除外基準とし,262名分(52.4%)を有効回答とした。回答者の平均年齢は70.2±4.3歳であり,内訳は前期高齢者が226名(86.3%),後期高齢者は36名(13.7%)であった。なお,回答について「全く重要でない」,「あまり重要でない」を否定的な回答とした場合,回答が半数以上あった項目は,d730【よく知らない人との関係】(回答者の割合;53.1%),d845【仕事の獲得・維持終了】(同;58.4%),d850【報酬を伴う仕事】(同;62.2%),d865【複雑な経済的取引】(同;56.5%),d930【宗教とスピチュアリティ】(同;59.9%)であった。逆に肯定的な回答が多い項目は上位からd710・720【基本的な(複雑な)対人関係】(回答者の割合;96.2%),d760【家族関係】(同;95.4%),d750【非公式な社会関係】(同;94.6%)であった。前期高齢者と後期高齢者の回答の状況は有意差を認めなかった。【結論】第8章主要な生活領域,特に仕事と雇用(d840-d859)に否定的な回答が多く見られた。回答者の多くが,すでに定年退職を迎える年齢以上の者であることに起因するものと思われる。一方,第7章対人関係については肯定的な回答の割合も高く,他者との関係を構築し維持することは生きがい形成につながる重要な参加であることが伺える。
著者
松村 剛志 山田 順志 吉田 英雄 楯 人士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101744, 2013

【はじめに、目的】 近年、高齢者の世帯構造は大きく変化しており、夫婦のみ世帯、単独世帯が増加している。夫婦のみ世帯で要介護者が生じた場合、「今後も二人の生活を継続したい」との希望から、配偶者が介護者になることが多いと報告されている。通所リハビリテーション(通所リハ)利用者においても、夫婦間介護形態は多く認められ、リハ・サービスの提供だけでなく、介護負担軽減も期待されている。しかし、リハ機能に特化している1時間以上2時間未満(短時間)の通所リハの場合、要介護者と介護者が物理的に離れている時間が短く、介護負担の軽減効果は小さいことが想定される。そこで今回、夫婦間介護における介護者から見た短時間通所リハ利用の意味付けの変化を明らかにし、短時間通所リハ・サービスが要介護者の生活機能を介してどのように夫婦間介護生活の安定に寄与できるのかを検討した。【方法】 対象は、夫婦間介護における要介護者がA短時間通所リハ事業所(定員20名/日)を6カ月以上利用しており、かつ2度の対面調査(平成23年9~10月と平成24年8月)が可能であった10名の介護者(うち女性6名、平均年齢73.8歳)である。利用者本人の要介護度は「3」が5名、「2」が2名、他の要介護度は1名ずつであった。 対面調査においては、録音の許可を取った後に半構成的インタビューを20~60分実施した。インタビュー終了後に、録音内容の逐語録を作成した。逐語録の中から短時間通所リハ利用に関係する語りを抽出し、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を参考に質的分析を試みた。M-GTAは、逐語録の注目箇所を抽出した分析ワークシートを用いて概念生成およびカテゴリー生成を行い、得られた概念やカテゴリーから事象の説明モデルを構築する分析手法である。研究内容の質の確保には信頼性や妥当性という概念を適用できないため、複数の地域リハ従事者に分析結果を開示し、信用可能性の確保に努めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は浜松大学研究倫理委員会の承認を得た上で、対象者に対して研究者が書面での説明を行い、同意書への署名を得た。【結果】 分析の結果、16個の概念が生成され、それを9個のカテゴリーにまとめることが出来た。これらのカテゴリー名(「 」内)を用いて構築された説明モデルは以下の通りである。 夫婦間介護における介護者からみた短時間通所リハの意味付けには、「短時間通所リハ限定の利用希望」から「サービス効果の認識」を経て、「不安の相対的増加」、そして「悪くならないように個別リハを続けたい」と考えるようになるプロセスが認められた。同時に、介護者は短時間通所リハを利用することによる生活全般の肯定的変化を認識出来ているものの、家庭と施設の間におけるパフォーマンスギャップといった「要介護者の心身状況に対する不満」や「介護者自身の健康問題」の影響で、「不安の相対的増加」が生じ、個別リハの利用継続を希望するようになる様子が明確化された。サービス利用の継続は、要介護者の「状態は変わらない」という認知や「新たな身体的トラブルの発生」を招く。要介護者の「状態は変わらない」状況にあっても、「介護者の健康問題」から「不安の相対的増加」が生じる。一方、新たなトラブルの発生は直接的に「不安の相対的増加」を招くが、通所介護の追加や生活環境調整の実施等による「リハ・サービス以外の対処法を追加」することで、ニーズを個別リハの継続に留めておくことを可能にしている。【考察】 今回、短時間通所リハを利用している夫婦間介護の介護者という範囲に限定される結果ではあるが、介護者が個別リハの提供という短時間通所リハの特徴を理解した上で、将来に対する不安へ対処するために個別リハの利用継続を希望している様子が明確となった。同時に、アクシデントが発生し、個別リハで対応しきれないニーズが生じた場合、リハ・サービス以外の対処法を追加するという現実的対応を行っている様子も明らかとなった。一方で介護者がサービスの効果を認識しても、介護者自身の健康問題や要介護者への不満によって将来への不安は増加していた。このことは、要介護者のADL能力向上を働きかけるだけでは、夫婦間介護の安定は難しいことを示している。今回明らかとなった説明モデルに基づけば、要介護者のパフォーマンスギャップを埋める働き掛けや安定的な個別リハの提供に努めることが、介護者の不安感の軽減に役立つものと想定された。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、夫婦間介護における介護者が短時間通所リハに個別リハの継続を求めている様子を明らかとした。さらに、他のサービスとの連携によって介護者の抱く不安感を軽減し得るという説明モデルを提示することが出来た。
著者
山田 将弘 森寺 邦晃 森 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0350, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】拡散圧力波は2015年より保険適応で使用可能となり,当院では難治性の足底腱膜炎に対して拡散圧力波を取り入れた治療を行っている。足底腱膜炎に対しては体外衝撃波(集中衝撃波)の研究報告が世界で数例報告されている。しかし,本邦において足底腱膜炎への拡散圧力波による治療介入の報告は,我々が調査した限りでは見当たらない。そこで拡散圧力波を使用し,一定の結果と傾向が得られたため,その治療結果を文献的考察を含めここに報告する。【方法】足底腱膜炎と診断され拡散圧力波による介入を行った患者6名(男性1名72歳,女性7名67.80±11.71歳)7脚を対象とした。初診時の罹患期間は半年から一年半であった。調査期間はH28.5.16~H28.9.30とした。治療内容は,患部への拡散圧力波照射と足底筋に対するストレッチを行った。治療機器はGymna社製,Physio-ShockMasterを使用し,拡散圧力波を圧痛部位に疼痛閾値程度の刺激強度(1.5~4.0bar)で照射し,周波数は8~16Hz,shock数は2000shocks,で統一した。治療頻度はGerdesmeyerの先行研究に習い,週に1回(最小6日・最大14日)とした。痛みの程度をVisual analog scale(以下:VAS)を用いて評価した。初回,1週間ごとに計測し痛みの推移をみた。また拡散圧力波照射前後でVASを計測し,照射前後での痛みの変化を最大8週間計9回までみた。さらに患者の主観を内政調査で聴取した。拡散圧力波照射前後のVASに対し対応のあるt検定を使用し統計学的処理を行った。統計学的有意水準は5%(片側2.5%)未満とした。統計ソフトはStat flex Ver6.0を使用した。【結果】初回のVAS平均66.14±12.67mmであった。6名7脚全ての患者で1週ごとにVASは漸減傾向を示し,4名5脚で4週目でのVASが10mm以下となった。また残りの2名2脚においても8週目でVASは10mm以下となった。拡散圧力波の照射前後でのVASは有意に低下した(p<0.01)。口頭による内政調査では,4名において「朝の一歩目以外は痛くない」との回答が得られた。【結論】1週ごとにVAS値は漸減傾向を示し,4週目でVASが2名を除いた4名5脚においてほぼ0mmに近い値となり,良好な治療効果が得られた。残りの2名2脚に関しても8週目でVASが10mmを切る値となっていた。拡散圧力波の照射前後でVASは有意に低下しており,即時の除痛効果が期待できることが示唆された。拡散圧力波はクラスIIの機器であるため,クラスIIIの機器である体外衝撃波と比べて安全に使用しやすいと思われる。我々の拡散圧力波を用いた方法は拡散衝撃波を用いた諸家の報告と同等の治療効果が得られており,足底腱膜炎に対する拡散圧力波照射は有用な治療法であることが示唆された。
著者
佐々木 嘉光 影山 昌利 吉村 由加里 松浦 康治郎 土屋 愛美 小澤 太貴 松本 博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cc0376, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 体外衝撃波療法(ESWT)は、1988年にドイツで初めて偽関節に対する治療が行われてから、1990年代には石灰沈着性腱板炎、上腕骨外上顆炎、足底筋膜炎などの難治性腱付着部症に対する除痛治療として、欧州を中心に整形外科分野で普及してきた。その後2000年に米国 FDA で ESWT が認可され、本邦では難治性足底筋膜炎を適応症として2008年に厚生労働省の認可がおりて臨床使用が可能となり、当院では2011年10月に国内9台目となる整形外科用体外衝撃波疼痛治療装置を設置した。今回当院において体外衝撃波疼痛治療装置設置後に部位の異なる4例の ESWT を経験したので、疼痛に対する即時効果を中心に報告する。【方法】 体外衝撃波疼痛治療装置は、本邦で認可されているドルニエ社製 Epos Ultra を使用した。本装置は電磁誘導方式で照射エネルギー流速密度は0.03~0.36 mj/mm2 と7段階に可変式である。照射方法は基本的に超音波ガイド下に正確に病変部(腱付着部)への照射を行う。Low energy より始めて徐々に出力を上げ、痛みの耐えられる最大エネルギーで照射を行う。当院における ESWT の照射は、整形外科医師の指示と指導のもと、業者による機器の取り扱いの説明を受けた理学療法士が実施している。<症例>症例1は49歳女性で、4年前に右アキレス腱断裂に対して保存的治療を実施している。現在はソフトバレーをしており、2か月ほど前から鈍痛が出現した。鈍痛は以前から時々生じることがあった。ESWT は照射レベル3、総衝撃波数5000発、総照射エネルギー396 mj/mm2 で実施した。症例2は49歳女性で診断名は右足底筋膜炎であった。半年前にジョギングを始め、5日ほど前から足底部の疼痛が出現した。ESWT は照射レベル7、総衝撃波数2970発、総照射エネルギー1000 mj/mm2 で実施した。症例3は75歳男性。診断名は右上腕二頭筋腱炎で、照射の6か月前に右肩を打撲。当院整形外科で保存的治療を実施し、疼痛は改善したものの、4割ほど残存していた。ESWT は照射レベル7、総衝撃波数2486発、総照射エネルギー800 mj/mm2 で実施した。症例4は14歳女性で剣道部に所属している。以前より左手関節の疼痛があって照射の2か月前に当院を受診し、三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷と診断された。ギプス固定による保存的治療を実施後、3日前に矯正装具が完成して装具下に稽古の再開が許可されている。ESWT は照射レベル2、総衝撃波数5000発、総照射エネルギー300 mj/mm2 で実施した。疼痛の評価は、照射前と照射後に Visual Analogue Scale (VAS)を用いて行った。また再評価が可能であった症例については翌日と1週後に再評価を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 ESWT 実施前に治療効果と副作用について説明し、本人の同意を得て実施した。報告にあたっては口頭および書面で説明し、本人と家族の同意を得た。【結果】 症例1(アキレス腱断裂後)の歩行時痛 VAS は、治療前58 mm、治療後44 mm、翌日7 mm 、1週間後5 mm で、最大(1週間後)53 mm 改善した。症例2(足底筋膜炎)の歩行時痛 VAS は、治療前46 mm、治療後0 mm、1週間後30 mm で、最大(治療後)46 mm 改善した。症例3(上腕二頭筋腱炎)の圧痛 VAS は、治療前29 mm、治療後15 mm、翌日0 mm で、最大(翌日)29 mm 改善した。症例4(TFCC損傷)の圧痛 VAS は、治療前42 mm、治療後0 mm、1週間後14 mm で、最大(治療後)42 mm 改善した。【考察】 今回、4症例に対して ESWT を実施し疼痛に対する即時効果が得られた。靭帯および筋腱付着部に対する ESWT の作用機序は、神経終末に対する変性誘導、脊髄後根神経節において疼痛にかかわる神経伝達ペプチドの減少に由来する疼痛の抑制、腱細胞や血管新生を介した組織修復効果、各種炎症サイトカイン抑制に伴う抗炎症効果などが報告されている。除痛効果持続時間は数週間におよび、時に完全寛解に改善する症例もあると報告されている。今回の4症例においても、治療直後または翌日の除痛効果が高く、3例では1週間後まで除痛効果が持続していた。Ohtori らは除痛メカニズムとしてラット足底に体外衝撃波を照射することにより、自由神経終末の破壊が起こると報告し、照射後3週間でコントロール群と差がなくなっており、この自由神経終末の破壊が初期の除痛に関与していると考えられている。今回は ESWT 照射後1週間の即時効果を報告したが、今後は症例数を増やして除痛の長期的な効果を検討するとともに、運動機能とパフォーマンスの変化を含めて治療効果の検討を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本邦の理学療法分野において ESWT に関する報告はない。運動器に対する超音波画像診断の理学療法と合わせて、ESWT は理学療法領域における新たな物理療法機器としての多くの可能性が期待される。
著者
村木 孝行 山本 宣幸 Zhao Kristin Sperling John Steinmann Scott Cofield Robert An Kai-Nan
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C2Se2052, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】肩関節後方関節包の拘縮は可動域制限を引き起こすだけでなく肩関節のインピンジメントを誘発する因子になるとされている。肩関節内旋や水平内転などの生理的な肩関節運動は後方関節包を伸張しうるが、インピンジメントを避けて伸張を行うには関節の副運動を用いた関節モビライゼーションが有効である。しかし、後方関節包を伸張するために関節モビライゼーションを用いる時にどれくらいの外力を加え、何回反復する必要があるのかについては明らかにされていない。本研究の目的は新鮮凍結遺体から得られた肩関節後方関節包に対し、Maitlandの振幅手技を想定した滑り運動を反復して行った時の関節包の伸張量と機械特性の変化を調べ、重大な組織損傷を引き起こさずに関節包の長期的な伸張効果が得られる最小負荷とその反復回数について検討することである。【方法】標本には新鮮凍結遺体から採取された21肩を用いた。標本準備においては、まず肩関節標本の軟部組織を表層から順に切除し、後方関節包と上腕骨、肩甲骨だけを残した。さらに、この後方関節包の中央部分だけを残して上腕骨と肩甲骨を連結する幅30mmの後方関節包標本を作製した。次に、肩甲上腕関節の後方滑りをシュミレーションできるように試験標本をMTS Systems社製材料試験機に設置し反復負荷試験を行った。反復負荷試験は3種類の負荷(5N、20N、40N)での後方すべり手技を想定して行った。これらの3種類の後方滑り負荷はHsuら(2002)の報告を参考にし、後方すべり手技時に1)最初に抵抗を感じる点(5N)、2)抵抗が徐々に大きくなる点(20N)、3)抵抗が大きくなり滑りが止まる点(40N)として定義し、各負荷の大きさは前実験にて同様の後方関節包標本から得られた負荷‐伸張曲線から算出した。後方関節包標本は各負荷での反復試験に対して7標本ずつ振り分けた。反復負荷の回数は1Hzの振幅手技を10分間行うことを想定し600回とした。また、反復試験の長期効果を観察するために試験1時間後に同様の設定で1回の負荷試験を行った。反復試験は後方関節包に0.2Nの後方滑り負荷をかけた時の肢位から開始した。反復試験時には5Nの後方滑り負荷を加えたときの後方関節包の伸張量(5N伸張量)を反復1回目、100回目、200回目、300回目、400回目、500回目、600回目、そして試験終了1時間後に記録した。また、反復1回目、600回目、そして試験終了1時間後に得られた負荷‐伸張曲線の傾きから後方関節包の剛性を算出した。統計処理にはone-way repeated measures ANOVAを用い、Post hoc検定にはDunnettの多重比較検定とBonferroniの多重比較検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】本研究はメイヨークリニック倫理委員会のサブグループである生物標本研究委員会で承認された。【結果】3種類のすべての負荷において、100回目から600回目の5N伸張量は反復1回目よりも有意に大きかった(p<0.05)。5Nでの反復試験では試験1時間後の5N伸張量は反復1回目に対して有意差はなかったが、20Nと40Nの反復試験では試験後1時間経過しても反復1回目と比較して有意に大きな5N伸張量を示した(p<0.05)。また、試験1時間後の5N伸張量に関して3種類の負荷を比較したところ、40Nの反復負荷では5Nの反復負荷よりも有意に大きな5N伸張量を示したが(p<0.05)、20Nと5Nでは有意差は見られなかった。後方関節包の剛性に関しては、3種類すべての負荷において600回目の剛性が1回目より有意に増加し(p<0.005)、試験終了1時間後には有意に減少した(p<0.05)。5Nの反復負荷では1回目と試験1時間後の間に有意差はなかったが、20Nと40Nでは試験後1時間経過しても剛性は1回目より有意に増加していた(p<0.005)。【考察】本研究の結果より、伸張時に抵抗を感じ始める程度の負荷(5N)では反復負荷終了時(600回目)には後方関節包が伸張されていても1時間後にはその伸張効果が消失してしまうと考えられる。それに対し、抵抗が増加する(20N)、あるいは滑りが止まる(40N)地点まで負荷が加えられた場合は1時間経過しても伸張効果が保たれ、負荷が大きいほどその効果が大きくなることが示唆された。また機械特性の点では、後方関節包の剛性が減少した場合は組織の大きな不可逆損傷が考えられる(Provenzanoら、2002)。本研究ではどの負荷でも反復負荷終了時には剛性が一時的に増加し、1時間後には減少するという経過をたどるが、開始時と比較して剛性が減少することはなかった。この点を踏まえると、滑りが止まる点まで負荷が反復して加えられても重大な組織損傷は起こさず、伸張効果が長期間維持されると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回得られた研究結果は関節モビライゼーションを用いて肩関節後方関節包の伸張を行う際に有用な基礎情報となりうる。
著者
岡元 翔吾 齊藤 竜太 遠藤 康裕 阿部 洋太 菅谷 知明 宇賀 大祐 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1237, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】投球障害後のリハビリテーションでは,病態の中心である肩甲上腕関節への負担を最小限に抑えることが不可欠であり,肩甲胸郭関節や胸椎の動きを十分に引き出し良い投球フォームを獲得する練習として,シャドーピッチング(以下,シャドー)が頻用される。しかし,硬式球を用いた投球(以下,通常投球)時の肩甲胸郭関節と胸椎の角度については過去に報告されているが,シャドーに関しては明らかにされていない。本研究では,シャドー時の肩関節最大外旋位における肩甲上腕関節,肩甲骨および胸椎の角度を明らかにし,運動学的観点より通常投球との相違を検証することを目的とした。【方法】対象は投手経験のある健常男性13名(年齢24.9±4.8歳,身長173.9±4.3cm,体重72.1±7.3kg,投手経験11.2±5.2年)とした。測定条件は通常投球とタオルを用いたシャドーの2条件とし,いずれも全力動作とした。動作解析には三次元動作解析装置(VICON Motion Systems社製,VICON 612)を使用し,サンプリング周波数は250Hzとした。反射マーカーはC7,Th7,Th8,L1,胸骨上切痕,剣状突起に貼付した。また,投球側の肩峰,上腕遠位端背側面,前腕遠位端背側面に桧工作材を貼付し,その両端にも反射マーカーを貼付した。得られた三次元座標値から肩関節最大外旋位(以下,MER)時の肩関節外旋角度(肩全体の外旋角度),肩甲上腕関節外旋角度,肩甲骨後傾角度,胸椎伸展角度を算出した。また,非投球側足部接地(FP)~MERまでの時間と各関節の角度変化量を算出した。尚,各条件とも2回の動作の平均値を代表値とした。統計学的解析にはIBM SPSS Statistics ver. 22.0を使用し,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】肩関節最大外旋角度は,通常投球145.4±14.2°,シャドー136.4±16.8°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)。その際の肩甲上腕関節外旋角度は,通常投球98.4±16.7°,シャドー91.8±13.1°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)が,肩甲骨後傾角度と胸椎伸展角度は有意差を認めなかった。FP~MERの時間は,通常投球0.152±0.030秒,シャドー0.167±0.040秒と有意にシャドーが長かった(p<0.05)が,角度変化量は有意差を認めなかった。【結論】シャドーは通常投球に比して,MER時の肩甲骨後傾角度や胸椎伸展角度に差はないが,肩甲上腕関節外旋角度が小さくなったことから,関節窩-上腕骨頭間での回旋ストレスが軽減する可能性が示唆された。また通常投球では,重量のあるボールを使用する上,短時間に同程度の肩甲上腕関節での外旋運動を求められるため,上腕骨回旋ストレスが大きくなる可能性が考えられる。投球障害後のリハビリテーションにおいて,シャドーは肩甲胸郭関節や胸椎の動きが確保され障害部位への負担が少ない動作となることから,ボールを使った投球動作へ移行する前段階での練習方法として有用であると考える。
著者
永松 隆 甲斐 義浩 政所 和也 河上 淳一 後藤 昌史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1240, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】上肢挙上位での肘伸展筋力は,投球障害肩に対する機能評価であるElbow Extension Testとして有用性が報告されている。挙上位での肘伸展筋力には上腕三頭筋の筋力のみならず,肩甲上腕関節や肩甲胸郭関節,および体幹の固定力が複合的に関与していると考えられるが,これらの関与の詳細は明らかとなっていない。そこで今回は,肩甲上腕関節の安定性を担う回旋筋腱板の1つである棘下筋の機能が上肢挙上位での肘伸展筋力に及ぼす影響を調査した。【方法】対象は健常成人男性10名の利き手側10肩(21.1±0.7歳)とした。実験①棘下筋の選択的疲労運動(ISFP)による肩外旋筋力減少率の確認:Kai,若林の報告に準じ,側臥位にて3kgのダンベル負荷のもと1st外旋運動を1Hzのスピードが維持できなくなるまで行わせた。ISFP前後で1st外旋筋力(ER)を測定し,ER減少率を確認した。ERは座位,回旋中間位での等尺性筋力とした。実験② ISFP前後の挙上位肘伸展トルク(EET)の比較:EETにおける棘下筋の影響を調査した。EETは座位にて肩・肘関節90°屈曲位,前腕90°回外位,前腕長軸が重力線に一致した肢位での等尺性肘伸展筋力とした。また,EET測定中の筋活動量を表面筋電図にて計測した。被験筋は上腕三頭筋長頭,棘下筋,前鋸筋,僧帽筋上部および下部線維とし,電極位置はPerottoの記述を参考に各筋に貼付した。筋電計はテレメトリー筋電計MQ8を使用し,データはVital Recorder2にて収録した。実験①②におけるER,EETはプルセンサー型徒手筋力計MT-100を用い,抵抗部位を前腕遠位端にて測定。測定は5秒間の最大随意収縮を2回計測し,その平均値を採用した。得られたデータは各被験者の前腕長を乗じ,体重で除し正規化した。実験②において収録した筋電図データは,全波整流後,5秒間のデータの中間3秒間の積分筋電を求めた。求めた積分筋電は各筋のMVCで除し,%MVCを算出した。統計処理は,ERおよびEETの測定再現性を確認するため,2回の測定値から級内相関係数ICC(1,1)を求めた。次に実験①②におけるISFP前後のER,EETおよび各筋の%MVCをWilcoxonの符号付順位検定にて比較検討した。有意水準は5%未満とした。【結果】測定再現性はERがICC(1,1)=0.890,EETがICC(1,1)=0.934であり,良好な再現性が得られた。実験①におけるISFP前後のERの比較では,ISFP後のERが有意に低値を示し(P<0.01),平均で40%減少した。実験②におけるISFP前後のEETの比較では,ISFP後のEETが有意に低値を示し(P<0.01),平均で約20%減少した。積分筋電は,棘下筋と僧帽筋上部線維において,ISFP後の値が有意に低値を示した(P<0.01)。【結論】本研究の結果,棘下筋機能低下により挙上位肘伸展トルクは約20%減少することが明らかとなった。Elbow Extension Testは棘下筋の肩甲上腕関節安定化としての機能が密接に関連し,またその機能を評価し得るテストであることが示唆された。
著者
平林 怜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1234, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】体幹機能の低下は投球障害の影響因子であり,村上らは投球障害の改善に体幹と下肢の連動した固定力が必要であると報告している。投球動作では片脚立位の安定性や体幹機能のみでなく体幹と下肢の連動した固定力が必要となる。当院ではその評価の一つとして上肢の肢位を変化させた下肢中間位保持テストを実施している。この評価は中殿筋徒手筋力評価と同等肢位で骨盤を固定せずに徒手抵抗を加え,体幹と下肢の連動を簡便に評価する手法である。そこで本研究は下肢中間位保持テストにおける上肢の肢位変化が体幹と下肢の筋活動動態に及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】下肢中間位保持テストは徒手抵抗に対して抗することができなければ陽性とする。対象は評価で陰性であった健常男性8名,両下肢を対象としたため16肢,平均年齢は24.5±1.9歳であった。今回は上肢の肢位の影響を明らかにするため評価肢位は上肢下垂位,上肢拳上位の2肢位で施行した。2肢位とも側臥位とし評価下肢は股関節膝関節屈曲0°,対側下肢は骨盤前傾代償を防ぐため股関節膝関節屈曲90°とした。上肢下垂位は肩関節屈曲0°,肘関節屈曲90°とし,上肢拳上位は手を頭部に組み肩関節屈曲120°とした。表面電極貼付位置は広背筋,内腹斜筋,外腹斜筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,大腿二頭筋,トリガー電極として徒手抵抗位置に貼付した。徒手抵抗位置は大転子から大腿骨外側上顆を結ぶ遠位35cmの位置とした。また徒手抵抗は100Nで3秒間を各肢位に対して7回試行した。各筋の最大随意収縮測定は徒手筋力検査を用い3秒間の最大等尺性運動(MVC)を試行し,3秒間の安定している0.5秒間を%MVCの基準とした。徒手抵抗前の外転保持で安定した平均値の筋活動量を抵抗前%MVCとし,筋活動開始時点から0.5秒間の筋活動量を抵抗中%MVCとして算出した。また,抵抗前%MVCから抵抗中%MVCの増加率も求めた。筋活動開始時は外転保持にて安定した0.5秒間における筋活動量の平均値に標準偏差2倍の値を加えた値と規定した。統計処理は各肢位で得られた7筋の増加率を比較した。正規性の検定後に上肢下垂位と上肢拳上位での増加率に対して対応のあるt検定を行った。【結果】上肢拳上位と上肢下垂位で比較した筋活動量の増加率は内腹斜筋,広背筋が有意に高く(p<0.05),外腹斜筋が低い傾向であった(p<0.1)。【結論】下肢筋の筋活動には上肢の肢位変化で筋活動量に変化がなかったが体幹筋の筋活動は有意に増加した。渡邊らは座位側方リーチ時に移動側の内腹斜筋は骨盤内の固定力として,広背筋は遠心性収縮として働くと報告している。このことから上肢拳上位では広背筋が遠心性に,内腹斜筋は求心性に骨盤を固定させるために作用すると推察される。本評価はオーバーヘッドスポーツやリーチ動作等における体幹と下肢の連動した安定性を評価する上で有用なものと示唆される。
著者
佐藤 真樹 小林 寛和 金村 朋直 岡戸 敦男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1001, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】肩・肘関節などの投球障害に対する理学療法においては,投球動作の特徴と関係する機能的要因を確認し,対応することが重要となる。投球障害発生に関係する投球動作の問題として,早期コッキング期から加速期における肘下がりや肩関節水平外転位でのボールリリースが代表的である。しかし,投球動作は前の位相における動的アライメントの特徴が後の位相に影響を与えるため,問題が生じる位相のみでなく,原因となる位相への対応が求められる。後の位相につながる動作の問題として,ワインドアップ期における骨盤後傾の増大が挙げられる。理学療法を行う上では後の位相への影響を予測し,必要に応じて改善を図る。本研究では,ワインドアップ期の動的アライメントの問題とされる骨盤後傾に着目し,機能的要因との関係について確認を試みた。【方法】対象は,高校在学中に野球部に在籍した健常男子大学生20名とした。対象に約3 mの距離に設置したネットへ5球の全力投球を行わせた。その際の投球動作を三次元動作解析機器VICON Nexus-1.3.106(VICON社製)を用いて撮影・解析し,ワインドアップ期の骨盤傾斜角度を算出した。あわせて,歩行解析用フォースプレートZebris FMDsystem(Zebris Medical GmbH社製)を用いて足圧中心軌跡面積を測定した。5球の試技のうち,非投球側下肢の離地から最大挙上までの足圧中心軌跡面積が最小の試技を代表値として採用した。機能的要因として次の項目を測定した。1,股関節可動域:屈曲,伸展,内転,外転,内旋,外旋の各関節可動域を測定した。測定は,日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の関節可動域測定法に準じた方法で実施した。2,下肢筋力:股関節屈曲・伸展・外転・内転,膝関節屈曲・伸展の各筋力を測定した。股関節筋力は,徒手筋力検査法に準じた肢位での等尺性筋力をアイソフォースGT-300(オージー技研社製)を用いて測定した。膝関節筋力は,Bte(Primus RS社製)を用いて60deg/secでの等速性筋力を測定した。3,体幹抗軸圧筋力:両足部接地・右足部接地の2条件で,片側の肩甲帯に軸圧負荷を加えた際に体幹正中位を保持しうる左右それぞれの等尺性筋力を測定した。測定には,アイソフォースGT-300を使用した。4,体幹筋筋厚:超音波診断装置Xario SSA-660A(東芝メディカルシステムズ社製)を用いて,安静時・収縮時における左右の腹横筋・多裂筋の筋厚を測定した。また,変化率:(収縮時-安静時)/安静時の筋厚×100も算出した。統計学的解析は,Pearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は日本福祉大学倫理審査委員会の規定に基づき,対象に本研究の主旨を説明し,内容を十分に理解したうえで書面にて同意を得て実施した。【結果】骨盤後傾角度は10.9±8.6°(平均±標準偏差)であった。骨盤後傾角度と機能的要因との関係については,体幹抗軸圧筋力においては,両条件で左右ともに有意な負の相関がみられた(両足部接地左軸圧負荷:r=-0.58,両足部接地右軸圧負荷:r=-0.57,右足部接地左軸圧負荷:r=-0.68,右足部接地右軸圧負荷:r=-0.58)。深部筋筋厚においては,非投球側腹横筋変化率で有意な負の相関がみられた(r=-0.53)。その他の要因に関して相関はみられなかった。【考察】体幹抗軸圧筋力と骨盤後傾角度との間に,有意な負の相関がみられた。Hodges(2008),金岡ら(2009)は脊柱運動時のトルクを発生させる表在筋と,腰椎・骨盤の制御を担う深部筋は,いずれも腰椎骨盤安定性に関与するとしている。体幹抗軸圧筋力は,片側肩への長軸方向の負荷に抗して体幹正中位を保持しうる筋力として,体幹の表在筋と深部筋の機能を示す指標と考える。したがって,骨盤固定筋としての体幹表在筋・深部筋の機能低下は,ワインドアップ期の骨盤後傾増大につながると考えられる。さらに,非投球側腹横筋の変化率と骨盤後傾角度との間に負の相関がみられたことから,骨盤後傾の代償を伴わずに股関節屈曲を行うには非投球側腹横筋の収縮が重要である可能性が確認された。ワインドアップ期における骨盤後傾について,股関節可動域や下肢筋力との関係も指摘されているが,今回の結果では相関がみられなかった。今後,ワインドアップ期の骨盤後傾が他の位相における動的アライメントに与える影響について検討を加えていきたい。【理学療法学研究としての意義】投球動作のワインドアップ期の骨盤後傾に関係する機能的要因のひとつとして,体幹筋機能の関係が確認できた。投球障害の理学療法を行う上で,ワインドアップ期に骨盤後傾を呈する対象には,体幹筋機能の改善も重要であるといえる。
著者
浅川 大地 河内 淳介 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101999, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節は可動性が高く動的バランスに大きく関与しており,投球動作での片脚立位時のアライメントにも関与していると考えられる.そのため足関節捻挫などによる足関節背屈制限が投球動作時のアライメントに影響し,肩・肘などの投球障害に結びついているのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,足関節背屈制限によるアライメントの変化が投球動作時の上肢関節へ及ぼす影響について検討することとした.【方法】対象は健常成人男性8名(右投げ5名・左投げ3名,年齢19.9±2.0歳,身長178.8±6.3cm,体重68.8±5.4kg)とし,野球経験6年以上で投球障害がなく,足関節傷害の既往のないものとした.投球開始肢位をセットポジションとし,通常投球と軸足の足関節背屈可動域を制限した投球(以下,制限投球)の2条件の試技を行った.足関節背屈制限角度は膝伸展位で10°とし,非伸縮性テーピングによって固定した。尚,投球前後での足関節背屈制限角度に有意差は認められなかった.投球距離はマウンドから本塁間(18.4m)とし,側方・後方から2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hzで同期させ,各条件3回の試技を撮影した.また,反射マーカーを両肩峰,投球側肘頭,投球側手関節背側中央に貼付し,得られた画像から反射マーカー部位の3次元座標(DLT法)を算出した.各部位の3次元座標から球速,足部接地(FP)時及びボールリリース(BR)時の肩水平外転角度,肩外転角度,肘屈曲角度を求めた.統計学的分析は表計算ソフト(Excel,Microsoft社)上で,2条件間の比較において対応のあるt検定を行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の目的,危険性について口頭及び書面にて十分に説明し同意を得た.【結果】球速およびFP時の各関節角度において,2条件間に有意差は認められなかった. BR時では制限投球の肩外転角度は72.2±4.8°であり,通常投球時(73.6±6.2°)と比較して有意に減少していた(p<0.05).また,BR時の肩水平外転角度は3.36±2.5°,肘屈曲角度は69.5±17.3°であり,通常投球時の肩水平外転角度(1.85±2.2°),肘屈曲角度(62.5±20.7°)と比較して有意に増加していた(p<0.05).【考察】制限投球は通常投球に比べて肩外転角度が有意に減少し,肩水平外転角度・肘屈曲角度が有意に増加した。このことから,制限投球では投球動作時の肩・肘へのストレスが増加していると考える.投球動作時に体幹・骨盤が後傾する選手は,上半身・上肢・肩甲帯が動員されバランスをとろうとし,体幹の回旋不足が起こる可能性があり,その補正のため肩が過度に水平外転をとるとされている.本調査の制限投球においては,ワインドアップ時に足関節の背屈が制限されたため後方重心となり,体幹の回旋不足が生じ,BR時の肩の水平外転角度が有意に増加したと考える。BR時に肩が水平外転位にあると肩に加わる前方負荷が増大するとされているため,制限投球では肩関節へのストレスが増大すると推察する.また,先行研究においてBR時の肩水平外転角度の増加,肩外転角度の減少は,ゼロポジションと比べて肩関節にかかる負荷が有意に大きいとされており,今回も同様の結果となった.このことから,制限投球でのBRは肩関節へのストレスを増加させていると考える.また,投球動作の加速期における上腕の加速運動は肩関節内旋運動と肘関節伸展運動が中心に担っており,この2つの運動のどちらか一方が強調されることなく投球動作を行う必要がある。しかし,制限投球では肘屈曲角度の増加も認められたことから,肩内旋運動が強調されていた可能性が考えられ,肘関節への外反ストレスも増大する可能性が推察される.投球における運動連鎖は,下肢・体幹・上肢へと全身の各関節が効率良く連動することが必要であり,運動連鎖の破綻は肩や肘の外傷発生やパフォーマンスの低下につながる.制限投球条件でのBR時の各関節角度には有意な差が認められており,運動連鎖の破綻があったと考えられる.しかし,球速について有意な差は認められなかったため,パフォーマンスは低下していなかったと考える.パフォーマンスを維持するために,上肢に大きなストレスをかけているか,骨盤・体幹などに何らかの代償が起きていたと推察する.【理学療法学研究としての意義】投球動作において後期コッキング期から加速期にかけて肩や肘に痛みを生じやすいが,この位相での動作修正は容易でない.そのため,それ以前の位相からの影響について検討することで投球障害のリスクを減少することが可能と考える.その一要因として足関節が投球動作に与える影響についても考慮することも必要であると考える.
著者
宮下 浩二 松橋 朝也 播木 孝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1214, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩甲骨のマルアライメントは投球障害の発生要因の一つとする報告は多く,その問題を実感することは少なくない。投球障害を有する選手は投球側の肩甲骨が非投球側よりも外転変位していることが多く,その評価として肩甲骨内側縁から脊柱までの距離を測定する方法が多く用いられている。しかし,人類学的には鎖骨・肩甲骨は左側が有意に大きい(坂上2003)ことが明らかにされており,脊柱と肩甲骨の距離を評価するためには骨格比を考慮する必要があると考える。そこで今回は,肩甲骨の大きさを基準に肩甲骨外転変位の評価を行った。【方法】対象は肩に投球障害の既往と現病のない右投げの高校野球選手38名とした。両側肩甲棘基部,両肩峰角,C7とTh5の棘突起に反射マーカを貼付し,安静立位の背面からデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフトを用いて次の3つの距離について左右ともに算出した。①内側縁距離(C7とTh5の結線を基線とし,基線から肩甲棘基部までの距離),②肩峰距離(基線から肩峰角までの距離),③肩甲骨幅(肩甲棘基部から肩峰角までの距離)とした。次に投球側において,④肩甲骨幅を基準とした際の内側縁距離の割合(①/③×100)を算出した。統計的分析として,①,②,③の左右差について検定した(対応のあるt検定)。また,①と④の相関を検定した(ピアソンの相関係数)。さらに①内側縁距離の左右差と②肩峰距離の左右差の相関も検定した。【結果】①内側縁距離は右9.2±1.6cm,左8.1±1.6cmで有意に右が大きかった(p<0.01)。②肩峰距離は右19.3±3.0cm,左19.5±3.2cmで有意な差はなかった(p=0.39)。③肩甲骨幅は右10.1±1.8cm,左11.3±2.0cmで有意に右が小さかった(p<0.01)。④は93.0±17.3%であり,①と④にはr=0.47(p<0.01)の相関があった。また,①の左右差と②の左右差には有意な相関はなかった(r=0.49,p=0.65)。【結論】野球選手の内側縁距離は投球側が非投球側より大きい点は先行研究と一致していた。しかし,肩峰距離で外転変位を評価すると左右差はないことになる。これは,肩甲骨幅が先行研究と同様に右側が左側より小さいため,内側縁距離で右側の肩甲骨がより外転位になっても肩峰距離に左右差がなかったと考えられる。一方,内側縁距離を肩甲骨外転変位の指標とする報告は多いが,骨格の個体差を考慮すると基準値が必要になる。①と④は強い相関関係とは言えず,同時に内側縁距離の左右差と肩峰距離の左右差には有意な相関がないことからも,測定方法により外転変位の評価が異なることになる。野球選手の肩甲骨のアライメント変化は投球に対する適応とする報告(Seitz 2012,松橋2016)もある。野球選手の肩甲骨外転変位の測定値に対する評価は,絶対値のみならず骨格との比較等も必要であり,さらには投球時の肩甲骨の運動や肩甲上腕関節との連動への影響も踏まえる必要があると考える。
著者
平本 真知子 松井 知之 東 善一 瀬尾 和弥 福嶋 秀記 長谷川 敏史 西尾 大地 相馬 寛人 伊藤 盛春 山内 紀子 水嶋 祐史 森原 徹 木田 圭重 堀井 基行 久保 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100563, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】 投球障害のリハビリテーションでは、局所のみならず、全身の評価・アプローチが重要である。投球障害の原因として、身長や関節可動域の低下が報告されているが、成長期である小学生・中学生と高校生における関節可動域の変化については明らかではない。われわれは、投球障害のリハビリテーションを行う上の、小・中・高校生の関節可動域特性を明らかにする目的で、投手に対して上肢・体幹・下肢関節可動域を測定し、比較検討した。【方法】 対象は2008年から2011年にメディカルチェックに参加した京都府下の小・中・高校生投手517例であった。内訳は高校生264例、中学生182例、小学生71例であった。 検討項目は、肩関節2nd外旋および内旋、肩関節3rd内旋、股関節内旋および外旋(90°屈曲位)、SLR、HBD、頚部・胸腰部回旋の各関節角度とし、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて行った。 検者は操作、固定、角度測定、記入を分担し、代償動作に十分注意し、4名1グループで行った。 得られたデータを小・中・高校生の各年代間で比較検討した。検定は、クラスカル・ワーリス検定を用い、事後検定として、多重比較検定(Steel-Dwass法)を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は京都府立医科大学倫理委員会の承認を得た。参加者およびチーム責任者に対し、メディカルチェックの意義、重要性の説明を行った。同意を得られた希望者のみを対象とした。【結果】 肩関節2nd外旋では、小学生133.2±12.3度、中学生124.1±11.6度、高校生125.3±9.9度であった。小学生が中・高校生に比べ有意に大きな値であった。 投球側股関節外旋では、小学生62.5±13.1度、中学生56.9±8.4度、高校生56.1±10.1度であり,小学生が中・高校生に比べ有意に大きな値であった。 非投球側股関節内旋では、小学生41.3±12.2度、中学生41.3±13.6度、高校生35.6±12.9度であり,小・中学生が高校生よりも有意に大きい値であった。 投球側SLRでは、小学生59.3±12.1度、中学生58.6±9.1度、高校生53.7±13.9度であった。非投球側SLRでは、小学生59.7±11.0度、中学生58.9±9.5度、高校生54.8±14.8度であった。投球側、非投球側ともに小・中学生が高校生よりも有意に大きい値であった。 投球側HBDでは、小学生6.1±5.3度、中学生10.8±6.0度、高校生14±6.6度であった。非投球側HBDでは、小学生6.3±5.5度、中学生11.3±6.5度、高校生14.2±6.5度であった。投球側・非投球側ともに年代が上がるとともに有意に増加した。 投球側頚部回旋では、小学生83.5±12.6度、中学生85.4±14度、高校生77.9±12.8度であった。非投球側頚部回旋では、小学生83.6±9度、中学生82.5±12.6度、高校生77.3±10度であった。投球側・非投球側ともに小・中学生が高校生に対して有意に大きな値であった。 投球側胸腰部回旋では、小学生46.0±13.4度、中学生47.4±11.9度、高校生50.9±9度であった。非投球側胸腰部回旋では、小学生46.7±12.8度、中学生47.3±12度、高校生52.3±9.2度であった。投球側・非投球側ともに高校生が小・中学生よりも有意に大きな値であった。【考察】 全国的に投球障害の早期発見・治療を目的とした検診やメディカルチェックが行われているが、野球選手の身体特性を検討したメディカルチェックの報告は少ない。 一般健常人は年齢と共に柔軟性が減少すると報告されている。本研究の結果も、年代が上がるにつれ関節可動域は減少する傾向であった。しかし、胸腰部回旋のみ高校生が有意に大きな値であった。投球動作中における体幹機能については,成長とともに、体幹回旋角度が増大する、体幹の回旋が投球スピードに影響を与えるなど多数報告されている。 年代が上がるにつれて、各関節可動域は減少していくが、投球動作に重要な要素である胸腰部回旋角度は増大する傾向であった。投球障害を有する選手へのリハビリテーションを考える上で、各年代の関節可動域特性を理解することは重要である。【理学療法学研究としての意義】 各年代の関節可動域特性が明らかになり,投球障害で受診した選手へのリハビリテーション、投球障害予防におけるスポーツ現場でのコンディショニング指導の基礎的なデータとなりうる。