著者
佐藤 努 佐藤 絢 木幡 修 鈴木 宏幸 坂田 真也 大波 清貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1412, 2017 (Released:2017-04-24)

目的脳卒中片麻痺患者における就労支援や社会参加を促していく上で,移動手段の選択は重要であり,その後の活動範囲に大きく影響を及ぼしている。自動車運転は,移動手段のひとつを担っているが,心身機能等の状態や制度上の問題により,積極的な運転再開と至っていないのが現状である。今回,アンケート調査を実施し自動車運転再開における現状を把握することを目的とした。方法2014年4月から2016年3月までに脳卒中片麻痺を呈して,当院回復期病棟へ入院した148名中,当院が独自におこなっている自動車運転評価を実施し,自宅退院となった37名を対象とした。方法としては,郵送にて対象者に対し調査目的,調査対象などを書面により十分に説明し,同意が得られた場合に限り返送してもらうこととした。アンケート内容に関しては,退院後における自動車運転の実施の可否など,12項目について質問形式にて実施し,2016年5月から7月末までの2ヶ月間を回収期間とした。結果回答数は,81.0%(30名/37名中)であった。アンケート結果は,自動車運転免許の保有者は24名,退院後に更新手続きを行った12名,入院中および退院後に臨時適正検査を受けた15名であった。自動車運転に関しては,現在も自動車運転を行っている者は21名であり,毎日運転をしている16名,週の半分程度1名,週に1回程度2名,月に1回程度2名であった。さらに,自動車運転の目的においては,仕事12名,買い物16名,移動手段14名,用事12名,趣味活動9名,特に目的は無い2名であった。運転を行っていない者は9名であり,入院前から1名,退院後から6名,半年前から2名であった。運転を行わなくなった理由に関しては,運転操作が困難のため1名,運転免許を有していないため1名,自動車が無いため1名,退院時に運転許可が出なかったため1名,特に理由は無い1名,家族の同意が得られないため3名であった。また,自動車運転における必要性に関しては,生活で必要であると答えた者25名であり,必要理由として,仕事の継続のため13名,楽しい生活のため12名,1人で自由に移動するため17名,便利だから14名であった。必要性が無いと答えた者3名の理由としては,自動車運転を諦めた1名,送迎サービスを利用1名,生活の中で必要性が無い2名,家族の協力があるため3名であった。結論日常生活における必要性だけではなく,社会参加や就労促進において自動車運転の可否は,移動手段として大きな影響を与えていることが推測された。自動車運転を取り巻く社会情勢の変化や道路交通法の改正により,障がい者における自動車運転の再開には,多くの課題がある。今後,自動車運転再開を円滑に遂行するにあたり,運転技能等の心身機能面や事故回避能力等の高次脳機能面などの関連性も含め検討し,障がい者の自動車運転支援プログラム確立へ向け,関係機関や家族との連携を図り,安全な移動の保障を進めていく必要性が示唆された。
著者
堀川 美奈 百瀬 公人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2046, 2010

【目的】<BR>術後早期からpatella settingなど特に内側広筋(以下VM)に注目して大腿四頭筋の筋活動増加を目的とした等尺性収縮練習を積極的に行っているが,筋収縮が充分に得られない症例が多い. VMは古くから膝関節最終伸展域にて有意に活動すると考えられていたが,LiebらはVMだけでは膝関節を伸展できないことや膝関節伸展角度を大腿四頭筋各筋の働きに差はない事を報告している.また,筋は静止長で最も筋力が発揮しやすいとされているが,生体で静止長を明らかにすることは不可能であり,実際に筋活動を得られやすい肢位を予測するのは困難である.そこで今回, 等尺性収縮下のVM・大腿直筋 (以下RF)・外側広筋(以下VL)に着目し,表面筋電図を用いて膝関節屈曲角度別の筋活動と膝伸展トルクの変化を調査したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR>対象は膝関節に外傷既往のない健康成人男性10名,女性5名の計15名(平均年齢25.8±3.0歳)の右膝とした.測定肢位は股関節屈曲75°・内外旋中間位,足関節は測定直前に背屈0°に設定した.膝関節屈曲角は0 °,15°,30°,45°,60°,75°,90°とし,各肢位で3秒間膝関節伸展の最大等尺性収縮を行った.筋電図は日本光電社製誘発電位検査装置「MEB5504」を用い,VM,RF,VLの最大等尺性収縮時の筋波形が安定した0.3秒間の平均積分値を測定した.VM,RF,VLに電極を貼付し,電極間の距離は3cm,アース電極は左手背に貼り付けた.膝関節屈曲90°を基準とし,正規化のため%IEMGに換算した.膝関節の各肢位でVM,RF,VLの筋活動を比較するため一元配置分散分析を行い,事後検定としてPSL法を用いた.筋力の測定はLumex社製Cybex350,CSMI社製Humacシステム を用い,膝関節屈曲角の各肢位での膝伸展ピークトルクの平均値を用いた. また,計測は全て同一検者が3回測定した平均値を用いて行った.<BR><BR>【説明と同意】<BR>対象者には研究内容を説明し同意を得て実験を行った.<BR><BR>【結果】<BR>膝関節屈曲30°でVM・VLに比しRF(p=0.007),膝関節屈曲45°でVMに比しRF(p=0.026),膝関節屈曲60°でVMに比しRF(p=0.043)の%IEMGが有意に大きかった.また,膝伸展ピークトルクは膝関節屈曲75°で最大を示した.<BR><BR>【考察】<BR>今回の実験では膝関節伸展0°でVMは他の筋と比較して有意な%IEMGの上昇は認められず,3筋の活動に有意差は認められなかった.膝関節屈曲30°でVMはRFより有意に活動が低く、膝関節屈曲45°,60°でVMはRF,VLより有意に活動が低かった.市橋らの報告では足関節フリー(殆どが底屈位)の条件で,VM,RFの筋活動は殆ど同じとされているが,今回の実験ではRFの筋活動が大きい傾向にあった. <BR>Smidtは膝伸展トルクは膝関節屈曲45°~60°で最大となり,膝関節角度が伸展するに従い低下すると報告している.Rajalaらは膝屈曲50°~60°で最大となることを報告している。今回の実験では膝関節屈曲75°で最大値をとり,膝を伸展するに従って低下した.これらは市橋らの報告と一致した.Smidtは膝の伸展動作においては、内的モーメント・アームは膝関節屈曲45°で最大値をとることを報告している.内的モーメント・アームは膝関節屈曲75°では最大長よりも短くなっているため,この角度で膝伸展トルクが最も大きかった理由は大腿四頭筋の筋力がどの角度よりも最大であるといえる.Bandyらはより膝関節を屈曲した角度で等尺性収縮を行った群では,伸展した角度での筋力も増加していたが,より伸展位で運動した場合には屈曲位での筋力増強は得られなかったと報告している.この報告を参考にすると,等尺性収縮に限っては,膝伸展トルクが最大となる膝関節屈曲75°で筋力強化を行えば,より効率的に大腿四頭筋の筋力増強が図れる可能性があると推察される.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>膝関節角度別に筋力を調査することで,特に角度制限がある症例に対して臨床で最も効率的な筋力強化練習の肢位を予測する手がかりとなると考える.<BR>
著者
緒方 美湖 森 いつか 松岡 達司 河崎 靖範 槌田 義美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea0368, 2012

【はじめに、目的】 回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)の役割は、ADL能力向上による寝たきり防止と家庭復帰である。先行研究では、退院後の環境変化によって患者のADLが低下しやすいとの報告があるが、回復期病棟のセラピストが患者の退院後の生活に関わる機会は少ない。そこで、在宅患者のADLの確認・指導と、患者の在宅復帰後の生活を把握する為のセラピスト教育を目的に、H21年度から退院後訪問指導を導入した。今回、在宅復帰した患者の環境調整状況と満足度、活動範囲、セラピストの意識調査を行い、入院から在宅までの在宅復帰支援システム構築の一助となったので報告する。【方法】 (1)H21年4月~H23年5月までに退院後訪問指導を実施した脳血管障害患者57名(年齢69±14歳、男性30名、女性27名)を対象に、家屋改修や福祉用具導入などの環境調整状況の確認と満足度、Life-Space-Assessment(LSA)を調査し、χ2検定を用いた。(2)退院後訪問指導を実施した当院セラピストPT・OT・STの50名(経験年数6.8±4.3年)を対象に、セラピストの訓練内容の変化、訪問時に指導した内容、感じたこと等に関するアンケート調査を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はデータ抽出後、集計分析した後は個人情報を除去し、施設内の倫理委員会の審査を経て承認を得た。【結果】 環境調整調査:環境調整場所としては玄関、寝室、トイレ、浴室、屋外の順で多く、満足している患者が77%、不必要だと感じた患者が10%、要改善と感じた患者が12%であり、有意な差を認めた(P <0.01)。不必要な調整内容として、ベッドのL字バーは使用していない、玄関のベストポジションバーは使用せず勝手口から出入りしている等があった。要改善内容として、シャワー浴時の手すりが必要、2階への昇降の為の手すりが必要、夜間移動時に廊下の電気が必要等があった。LSA:活動範囲として、町外への外出が37%、町内までの外出が53%、隣近所までの外出が10%、自宅周辺や自宅内活動は0%であり、有意な差を認めた(P <0.01)。外出先として、通所系サービス+通院が46%、通所系サービス+それ以外の外出が35%、通院のみが7%であった。セラピストアンケート:家屋改修後の環境を意識した訓練を行うようになった、家族から詳細に患者の生活背景や家屋の情報収集をするようになった、リハビリテーション(リハ)効果の確認や患者への動作再指導が行えた、家族指導の重要性を感じた等の意見が得られた。【考察】 環境調整に関しては、80%弱の患者が満足していると感じており、適切な環境調整が施されていることが明らかになった。しかし、20%強の患者では不必要、または改善が必要と感じており、環境調整施行における課題が残った。課題解決の為には、患者の在宅復帰後の身体能力やADL能力の予後予測、在宅復帰後の活動範囲や活動内容の把握、発症前の生活様式の理解など在宅生活を十分に予測し、環境調整に活かす必要がある。活動範囲に関しては、町内外への外出がほとんどを占めており、外出先として通所系サービスが多い事から、退院後の社会参加への取り組みとして通所系サービスへの介入が施されている事が分かった。しかし、疾患管理を中心とした通所系サービスの外出だけでなく、在宅生活の経過と共に、本人の望む外出や活動につながるアプローチが必要である。退院後訪問指導では、患者の在宅生活における環境調整の満足度や社会参加を知る手がかりになると考えられる。これらの調査結果から、個々の患者の在宅生活を見据えたアプローチの必要性が明らかになった。アンケート結果からも、退院後訪問指導を通して、セラピスト自身がそれらを認識し、アプローチの視点が在宅へも向くようなった。退院はリハのゴールではなく、在宅生活へのスタートである。退院後訪問指導は、環境調整後の動作確認や指導、相談、アドバイスなど在宅生活のフォローの機会となる。またセラピストが患者の生活期を見る機会でもあり、セラピストが予測、計画した退院後の生活を実際に確認し、在宅で生じた問題の修正の場となる。この経験の繰り返しが、リハや家族指導の再考の機会となり、在宅を見据えたリハの提供につながると考えた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は、回復期病棟に勤務するセラピストにとって退院後訪問指導が、在宅生活フォローや、在宅生活を見据えたアプローチを行う上で、その糸口となる事を示唆するものと考える。
著者
谷川 伸也 倉山 太一 影原 彰人 須賀 晴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P1074, 2010

【目的】3次元動作解析装置は、現況では、どの施設でも導入出来るような安価なものは少なく、特に光学センサーを用いるタイプは測定場所が限られてしまう。そこで我々は、臨床における客観的な評価ツールとして、安価で使いやすい動作解析システムを構築することを念頭に情報収集を始めた。2008年8月、任天堂の汎用ゲーム機Wiiのリモコン(以下:Wiiリモコン)を用いて、パソコンをコントロールするソフトウェアがフリーで公開されたこと、また2009年4月に刊行された技術評論社ソフトウェアデザイン5月号の記事がヒントとなり、我々は公開されているフリーソフトを改変してパソコンにWiiのデータを保存し、エクセル上で解析を行うというシステムを構築した。具体的にはWiiリモコンには高感度な3軸加速度センサーが内蔵されており、経時的に加速度データを送信しているが、このデータをBluetoothという通信機器でパソコンと接続し(無線通信)、Wii Flashというアプリケーション用いて、100Hzの頻度でパソコンに取り込むものである。なお必要経費はPCも含め5万円を下回る(システムについては問い合わせに応じる)。元々、Wiiリモコンは人間の3次元的な動作を元にアプリケーションを操作する「physical computing」の分野から生まれたものであり、動作解析には適している。今のところ医療分野において正式な研究報告は少ないが、テニスプレーヤの動作解析など国内においてWiiリモコンを使用した動作解析の研究報告があり、測定機器としての信頼性も獲得されつつある。そこで今回我々は、Wiiリモコンを用いて脳卒中片麻痺患者の歩行を定量的に評価する試みを行った。また同時に健常者でも測定を行い、患者との相違について比較検討した。<BR>【方法】対象患者は、脳卒中片麻痺患者(以下患者群)11名(男性8名、女性3名、平均年齢65.5±10.4歳、左麻痺8名、右麻痺3名、Brs3:2名、4:5名、5:3名、6:1名、発症からの年数3.0±2.1年)とし、対照群は、健常者(以下健常群)11名(男性8名、女性3名、平均年齢27.4±5.1歳)とした。患者は近位監視レベルで屋外歩行が可能な者を対象とした。測定課題は左・右下腿外側にWiiリモコンをバンドで固定し、平地歩行路を快適速度で100歩歩行することとした。加速度データは3軸で、前後方向(X軸)、上下方向(Y軸)、左右方向(Z軸)となるようWiiリモコンを固定した。解析は、Root Mean Square(RMS)を算出し、患者群、健常群それぞれで、左・右下肢のRMS平均値の差を取り、その絶対値について、対応の無い t検定を用いて患者-健常者間で比較した。<BR>【説明と同意】全て参加者には、事前に研究の趣皆、実施内容を説明し同意を得ている。<BR>【結果】X軸方向(前後)における患者群のRMS平均値の左右差は、健常群よりも有意に増大していることが認められた(p<0.05)。また、患者、健常者で、測定条件および測定場所を同一にし、複数回測定を行った結果、患者、健常者両者とも、ばらつきが少ない結果が得られており、再現性が確認された。<BR>【考察】片麻痺患者の下肢加速度については、特にX軸方向(前後)で有意な左右差が認められ、これは麻痺側の振り出しの加速度が非麻痺側に比べ減少していることに起因すると考えられた。なお、「ぶん回し歩行」による横方向の加速度は検出できなかったが、今後、Wiiの角加速度データについても解析することで検出が可能か検討したい。なおデータから左右下肢の加速度の相違についてのグラフなどによる可視化、数値化が可能であった。視覚的、数値的に歩行の性質を明示出来ることから、Wiiリモコンによる動作解析は脳卒中片麻痺患者の歩行の特徴を捉えることが可能であること、また経時的変化を記録して、治療効果判定に利用できる可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、これまで敷居が高く臨床現場で気軽に実施することが難しかった3次元動作解析を、汎用ゲーム機であるWiiリモコンを用いることで可能とした点で重要である。また実際に片麻痺患者における歩行解析に有用であることも示した。測定機器を用いた客観的な動作解析が臨床現場で普及しない要因は大きく"価格"と"気軽さ"にあると考えるが、今回のシステムはこれらの問題をクリアしており、今後の普及が期待できる。
著者
坂本 淳哉 片岡 英樹 吉田 奈央 山口 紗智 西川 正悟 村上 正寛 中川 勇樹 鵜殿 紀子 渋谷 美帆子 岩佐 恭平 濱崎 忍 三村 国秀 山下 潤一郎 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P1138, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】大腿骨近位部骨折(以下、近位部骨折)術後の多くの症例では、痛みは骨折部や術創部がある股関節周囲に発生し、骨癒合と術創部の治癒が進むに従い消失する。しかし、これらの治癒が進んでも痛みが残存する症例や、股関節周囲の遠隔部に痛みが発生する症例も存在し、このような症例では痛みが理学療法プログラムの進行の阻害・遅延因子となることがある。このような近位部骨折術後の痛みの実態に関しては経験的には把握しているものの、痛みの発生率や発生部位、程度などの基礎資料を提示した報告は非常に少ない。そこで、本研究では近位部骨折術後の痛みの実態把握を目的に理学療法開始時からの痛みの発生状況を調査した。【方法】対象は、2008年7月から2009年8月までに当院整形外科にて観血的治療を受け、理学療法を行った大腿骨頚部骨折23例、大腿骨転子間骨折3例、大腿骨転子部骨折22例、大腿骨転子下骨折5例、大腿骨転子部偽関節1例の計54例(男性9例、女性45例、平均年齢83.1歳)で、術式の内訳は人工骨頭置換術11例、ガンマネイル12例、compression hip screw (以下、CHS)15例、鍔つきCHS 6例、ハンソンピン7例、その他 3例である。なお、理学療法は平均して術後8.3日から開始した。調査項目は1)安静時痛(背臥位)、動作痛(起き上がり、立ち上がり、歩行)を有する対象者の割合(以下、有痛者率)、2)安静時痛、動作時痛の発生部位、3)安静時痛、動作時痛の発生部位の中で最も痛みが顕著であった部位(以下、最大疼痛部位)の痛みの程度とした。なお、痛みの発生部位については対象者がその部位を身体図に提示した結果を用い、川田らの報告(2006)に準じて腰部、鼠径部、臀部、大転子部、大腿前面、大腿外側、大腿内側、大腿後面、膝部以下の9箇所に分類した。また、痛みの程度はvisual analog scale(以下、VAS)で評価した。調査期間は理学療法開始時から12週後までとし、上記の調査項目の経時的変化を捉えるため2週毎に行った。そして、対象者を理学療法開始時の改訂長谷川式簡易知能評価スケールの得点により21点以上の非認知症群と20点以下の認知症群に分け、分析を行った。【説明と同意】本研究は、当院臨床研究倫理委員会において承認を受け、当院が定める個人情報の取り扱い指針に基づき実施した。【結果】安静時痛の有痛者率は理学療法開始時、非認知症群が約20%、認知症群が約47%であったが、4週後には非認知症群が約5%、認知症群が約11%に減少した。また、安静時痛の発生部位のうち鼡頚部、大転子部といった股関節周囲が占める割合は理学療法開始時、非認知症群が約20%、認知症群が約7%であったが、これは4週後にほぼ消失した。一方、動作時、特に歩行時痛の有痛者率は理学療法開始2週後で、非認知症群が約70%、認知症群が約83%で、6週後でも両群とも約40%までしか減少せず、それ以降も増減を繰り返した。また、理学療法開始時の動作時痛の発生部位は両群とも、大腿後面・内側・外側・前面および膝部以下で全体の約60%以上を占め、この傾向は12週後でも変化なかった。痛みの程度として、非認知症群の安静時痛のVASは理学療法開始時から12週時まで1以下であったが、認知症群は理学療法開始時から2週後まで2~3と非認知症群より高値を示した。また、動作時痛のVASは理学療法開始時、非認知症群が4.6、認知症群が6.5と認知症群が高値を示し、両群とも経時的に減少したが、12週後でも非認知症群が3.0、認知症群が4.6と認知症群が高値であった。【考察】今回の結果から、安静時痛の有痛者率は経時的に減少し、特に股関節周囲に存在する痛みが消失した。つまり、安静時痛は近位部骨折の受傷、あるいは手術侵襲といった組織損傷に伴う炎症に起因した痛みであると推測できる。一方、動作時痛、特に歩行時の有痛者率は経時的に減少するものの、残存する傾向があり、その発生部位も骨折部位から離れた大腿部や膝部以下に認められることから、炎症に起因したものとは考えにくい。次に、非認知症群と認知症群を比較すると安静時痛、ならびに動作時痛の有痛者率やその発生部位について違いは認められず、このことから痛みの発生状況に関しては認知症の影響は少ないといえる。ただ、痛みの程度に関しては認知症群が非認知症群より高いことから、情動面が影響しているのではないかと推察される。【理学療法学研究としての意義】近位部骨折術後の痛みについて、有痛者率、発生部位、ならびにその程度といった実態の一部を明らかにしたことは今後の理学療法を考える上でも貴重な基礎資料になると考えられる。
著者
高崎 恭輔 米田 浩久 谷埜 予士次 鈴木 俊明 渡辺 美鈴 河野 公一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2096, 2009

【はじめに】ファンクショナルリーチ・テスト(以下 FRT)はバランス機能を評価する方法として臨床で頻繁に用いられる手法であり、転倒の危険性を予測する指標とされている.これまでFRTは、そのリーチ距離に着目され各年代の基準値を指標に用いられてきた.しかし先行研究ではリーチ距離と足圧中心の前方移動距離との相関性は低いという報告があり、また鈴木らのスモン患者における研究でもリーチ距離が歩行機能に与える影響は少ないといわれている.これらのことから我々はFRTを転倒予防や運動能力の評価指標として用いるためにはそのリーチ距離だけでなく、動作戦略にも着目する必要があるのではないかと考えている.そこで本研究では、FRTを有効に活用するための新たな指標の構築の前段階として、健常者におけるFRTの動作戦略について検討した.<BR>【対象と方法】対象は実験に同意を得た健常大学生83名(男性46名、女性37名)である.方法はDuncanの方法に従いFRTを行わせ、矢状面からデジタルビデオカメラにて定点撮影した動画によって計測中の足関節、股関節の関節運動開始順序を確認しパターン分類した.<BR>【結果】以下に分類した動作戦略パターンと全試行数に占める該当数の割合を示す.分類されたパターンは、a.股関節屈曲のみのパターン(42.6%)、b.足関節背屈の後に股関節屈曲するパターン(37.3%)、c.股関節屈曲の後に足関節底屈による膝過伸展を示すパターン(10.8%)、d.足関節背屈のみのパターン(5.6%)、e.股関節屈曲と足関節の底屈による膝過伸展が同時に出現するパターン(1.6%)、f.股関節の屈曲の後に足関節背屈するパターン(1.2%)、g.股関節屈曲と足関節背屈が同時に出現するパターン(0.4%)、h.足関節底屈の後に股関節が屈曲するパターン(0.4%)であった.<BR>【考察】本研究ではFRTにおける股関節、足関節の運動開始順序に着目し動作戦略のパターン分類を行った結果、上記の8パターンを示した.一般的に姿勢制御戦略において、足関節戦略はわずかな重心の乱れに対応するのに対し、股関節戦略は足関節戦略で対応できない大きな外乱に対して用いられるといわれる.また高齢者は足関節戦略より股関節戦略を頻繁に用いるようになり、これが転倒の原因の一つになるとも言われている.このことから、前方へのリーチ動作を合目的的に行う戦略として足関節底屈筋群の活動により足関節の背屈を制御し、さらに股関節の屈曲が見られるa.やb.のパターンは、足関節が底屈するパターンに比べて高いバランス機能を有するのではないかと考える.本研究では健常者を対象としていることから、多数みられたパターンを高度な姿勢制御を有すると仮説して考察したが、今後さらにパターンの優位順序を明確化していくために、他のバランステストとの関係性や年代毎のパターン分類なども行いたいと考えている.
著者
橋本 貴幸 中安 健 吉田 幸代 立石 智彦 岡田 恒夫 杉原 勝宣 岡安 利夫 伊藤 万理 大西 弓恵 豊田 和典 村野 勇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.213, 2003

【はじめに】骨化性筋炎は、骨や関節周囲の軟部組織に外傷などの刺激が加わって起こる異常骨化現象である。主な症状は、疼痛と可動域制限で、症例によっては骨切除術を行うこともある。今回、外傷性左大腿血腫後、骨化性筋炎を呈し、膝関節屈曲可動域制限を生じた症例の理学療法を行う機会を得たので考察を踏まえ報告する。【症例紹介】17歳、男性、高校2年生、空手部所属現病歴:平成14年8月24日、部活動練習中、相手方のローキックを左大腿外側部に強打し受傷した。練習を継続していたが疼痛が強くなり8月31日近医受診し、関節穿刺にて4mlの血腫を認めた。同年9月18日紹介にて当院整形外科受診し、外傷性左大腿血腫後骨化性筋炎と診断された。x-p所見は、左大腿骨外側部に紡錘状の骨化像を認めた。CT所見では、左外側広筋に骨化像を認めた。【初診時理学的所見】跛行にて治療室来室、視診・触診では、大腿外側中央に熱感、腫脹、筋硬結、大腿全体に筋スパズムを認めた。疼痛検査では、屈曲、伸展時の運動時痛および大腿外側中央に圧痛を認めた。大腿周計は、膝上15cm、47.0/48.5cmで、膝上10cmでは、43.0/44.5cmと患側の筋萎縮を認めた。膝関節可動域(以下ROM)は、屈曲70°p、伸展0°、lag10°であった。徒手筋力検査は、可動範囲内で、屈曲3+、伸展4-であった。【経過】平成14年9月18日当院受診し、理学療法を開始した。頻度は週2回から3回の指示であった。9月20日ROM屈曲120°、9月24日部活動での筋力トレーニング中に再度受傷部に疼痛を伴いROM屈曲90°と逆戻りとなった。10月19日ROM屈曲155°、正座可能となり理学療法終了となった。【理学療法】I、水平面での股関節・内外転運動、II、外側広筋を狙った軽微抵抗運動、III、大腿直筋ストレッチング、IV、外側広筋クライオストレッチングを施行した。更に運動前には、icingを運動後には、RICE処置を徹底した。【考察】骨化性筋炎の治療は、薬物療法及び局所の熱感と炎症時期が治まる頃より理学療法を開始することが一般的であり、疼痛を伴う可動域訓練は、症状を悪化させる危険がある。今回、治療手順として、受傷周辺の軟部組織、主に二関節筋の軽い収縮とストレッチングを施行し、柔軟性を引き出した。これは、受傷部の疼痛に伴う周辺組織の防御性収縮に伴う二次的な可動域制限を排除する目的である。次に、CT所見で受傷が確認された外側広筋にクライオストレッチングを施行した。これは、冷却による無感覚化に伴う疼痛緩和、筋スパズムの軽減の効果が期待され、実際の可動域制限因子である外側広筋の伸張性を獲得する目的である。これら治療により、関節可動域の二次的制限因子を排除することで、一次的制限因子の治療が効果的に行えたこと、運動後のRICE処置による炎症反応を軽減できたことが加わり、骨化を助長することなく、早期に正常可動域に回復することができたと考えられた。
著者
中井 英人 荒本 久美子 澄川 智子 長谷川 美欧 鳥山 喜之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O1025, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】当院では腰椎変性疾患に対し大きく分けて固定術と、固定を行わない除圧術を合わせて年間300件程実施している.固定術術後にはモールドジャケット型TLSOの硬性コルセットを、また除圧術にはダーメンコルセットを装着し離床となる.我々は術後体幹装具装着により、術創部の安定化と保護作用があるものの、周囲筋力低下と運動制限に影響を及ぼすと報告した.また臨床において術後数日しても歩行、動作時ふらつく例があり、その要因として様々あるものの、このふらつきは体幹装具によるバランスへの一要因があると考えたが、体幹装具装着とバランスとの関係を示した文献は散見しない.そこで今回健常成人を被験者とし、体幹装具装着によるバランスの影響を調査し若干の知見を得たので報告する.【方法】対象は腰下肢痛がなく、腰椎、下肢および耳鼻科的に既往のない健常成人24人(男性9人、女性15人、平均年齢25.0±3.6歳、平均身長163.6±8.2cm、平均体重57.5±11.4kg、平均BMI21.4±2.8)であった.全被験者に硬性コルセットとしてモールドジャケット型TLSO装着(以下条件H)、軟性コルセットとしてダーメンコルセット装着(以下条件S)、コルセット非装着(以下条件N)の3条件をランダムに行い、動的バランスと静的バランスの2種類のバランス検査を行った.各条件にて5分経過後動的バランス、静的バランスの順で検査を実施し、前条件の影響をなくすため10分間休息をいれて次の条件へと移った.動的バランスにはFunctional Reach Test(以下FRT)を用い、Duncanらの方法に基づいて、前方および側方最大移動距離を測定した.測定は裸足閉足にて行い、開始肢位は前方では上肢は床と水平になるように肩関節屈曲、肘関節伸展、前腕回内、手指中間位とし、側方では肩関節外転、肘関節伸展、前腕回内、手指中間位とした.移動時の上肢高は任意とし、踵離地しないように最大移動距離到達後、開始位置まで戻るよう説明した.測定は前方、側方とも左右両上肢に実施した.静的バランスには重心動揺計グラビコーダー G-620(ANIMA社製)を用い重心動揺測定を実施した.測定方法は、裸足閉足立位、上肢は体側に自然下垂させ2m前方の指標を注視し開眼、閉眼それぞれ60秒間計測とした.検討項目はFRTにおける前方、側方左右移動距離の平均値を求め、さらに身長、年齢等の個人的影響を避けるため、各条件データを条件Nデータで正規化した値および重心動揺における開眼、閉眼の外周面積、単位軌跡長、単位面積軌跡長、各中心変位、ロンベルグ率、各軌跡長、各位置ベクトル、各速度ベクトルとし、3条件で比較検討した.統計学的処理には分散分析を行った後にFisherのPLSDを行い、有意水準を5%とした.【説明と同意】全対象者には研究の趣旨を十分に説明し、参加に同意を得られた者に実施した.【結果】FRTにおける前方平均移動距離は条件Hでは33.4cm、条件Sでは35.2cm、条件Nでは36.6cmで、条件Nは条件Hより有意に大きく、側方平均移動距離は条件Hでは14.0cm、条件Sでは14.8cm、条件Nでは16.8cmで、条件Nは他の2条件より有意に大きかった.重心動揺における開眼前方平均速度ベクトルにおいて条件Sは他の2条件より有意に大きく、開眼後方平均速度ベクトルにおいて条件Sは条件Nより有意に大きかった.また前後変位、位置ベクトルにおいて条件Sは条件Nより小さい傾向にあった.【考察】本来体幹装具は姿勢矯正、体幹支持、動作制限、外部からの保護、体幹筋の補助作用、体幹安静等の役割があり、またその役割が悪影響を与えることもある.モールドジャケットは体幹屈伸、側屈、回旋を強く制限し、姿勢矯正と体幹支持の役割をしている.ダーメンコルセットは屈伸、側屈、回旋を制限し、腹圧を高くし、弱い体幹支持の役割をしている.FRTの結果より条件Nに比較して条件Hは前方、側方への移動距離がより少ないことは動的バランスが劣っているというより、モールドジャッケットの特性による体幹屈曲、側屈制限が大きな要因と考えた.同様に条件Sの側方移動距離が少ないこともダーメンコルセットによる体幹側屈制限が関与していると考えた.重心動揺計では速度ベクトルが大きいほど速く揺れることを示し、重心動揺の結果より条件Nに比較して条件Sは前方、後方へより速く揺れることから、測定時間を長くすると前後軌跡長等に影響を与える可能性があると考えた.またこの要因はダーメンコルセットによる腹圧上昇が重心を上方へ移動させ不安定となり、さらに腹筋背筋筋力の調整に影響を及ぼしたのではないかと考えた.【理学療法学研究としての意義】体幹装具装着下において体幹の動きが制限されていることが確認でき、術後動作制限のために体幹装具を装着して運動療法を行うことは有用であると再認識できた.またダーメンコルセット装着下では重心動揺に影響を与える可能性がある.
著者
大和 洋輔 長谷川 夏輝 藤江 隼平 小河 繁彦 家光 素行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1513, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】動脈硬化度の増加は,冠動脈疾患や脳血管疾患などの心血管系疾患の独立した危険因子である。習慣的な有酸素性運動は動脈硬化度を低下させ,心血管系疾患リスクを改善させる効果が認められる。近年,筋の柔軟性改善を目的として主に用いられているストレッチ運動を習慣的に実施することにより,動脈硬化度を低下させることが報告されている。しかしながら,ストレッチ運動による動脈硬化リスクの改善効果は,ストレッチした部位で生じる効果かどうかは明らかでない。そこで本研究では,一過性の局所的なストレッチ運動による動脈硬化リスクへの影響について検討するために,片脚に対する一過性のストレッチ運動が動脈硬化度および血流量に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】健常成人男性14名(年齢:21±1歳,身長:172±2 cm,体重:65±2 kg)を対象とした。ストレッチ運動は,右下腿三頭筋に対する他動的なスタティックストレッチング(ストレッチ脚:30秒×6セット,セット間休息10秒)を実施した。ストレッチ運動の強度は,疼痛のない範囲で全可動域を実施した。また,左脚は非ストレッチ脚とした。中心および末梢の動脈硬化度の指標として頸動脈-大腿動脈間(cfPWV)および大腿動脈-足首間(faPWV),全身の動脈硬化度の指標として上腕-足首間(baPWV)の脈波伝播速度をストレッチ運動施行前,直後,15分後,30分後に測定した。また,上腕および足首の収縮期血圧と拡張期血圧,心拍数も同時に測定した。さらに,超音波画像診断装置を用い,ストレッチ脚におけるストレッチ運動中および運動前後の後脛骨動脈の血管径と血流速度を測定し,血流量を算出した。統計処理は繰り返しのある二元配置分散分析法および一元配置分散分析法を用い,有意水準は5%とした。【結果】ストレッチ脚において,ストレッチ運動施行前と比較して,faPWVは直後および15分後で,baPWVでは直後,15分後,30分後で有意に低値を示した(P<0.05)。一方,非ストレッチ脚ではfaPWV,baPWVにおいて有意な変化が認められなかった。また,cfPWV,上腕および足首の収縮期血圧と拡張期血圧,心拍数にはストレッチ運動による有意な変化は認められなかった。ストレッチ脚の後脛骨動脈の血流量は,ストレッチ運動施行前と比較し,ストレッチ運動施行間のセット間休息時には増加し,また,ストレッチ運動後の血流量も増加傾向であった。【結論】健常な若年男性における片脚への一過性の局所的なストレッチ運動は,ストレッチされた部位の動脈硬化度を低下させる可能性が示唆された。また,一過性のストレッチ運動による動脈硬化度の改善には血流量の変化が関与している可能性が示唆された。
著者
矢箆原 隆造 伊藤 慎英 平野 哲 才藤 栄一 田辺 茂雄 林 美帆 加藤 翼 海藤 大将 石川 裕果 澤田 雄矢 宮田 恵里 山田 唯 藤範 洋一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】我々は,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットとテレビゲームを組み合わせたバランス練習アシストロボット(Balance Exercise Assistant robot:以下,BEAR)を考案した。BEARで使用しているロボットは,搭乗者が前後に重心を移動するとその移動に合わせてロボットが前後移動し,左右に重心を移動するとロボットが旋回する装置である。従来のバランス練習には,適切な難易度が存在しない,動きが少ないためフィードバックが得にくい,退屈な練習内容,またバランス戦略への転移性が乏しいという問題点があった。一方でBEARを用いたバランス練習では,ロボット制御による練習者に適した難易度設定,実際の移動という形での重心移動のフィードバック,ゲーム感覚で飽きずに楽しく継続できる練習内容,ankle/hip strategyのバランス戦略に対して高い転移性を持つ類似課題,と改善が図られている。本研究では,中枢神経疾患患者に対しBEARを用いたバランス練習を行い,そのバランス能力の改善効果について検討を行った。【方法】対象は,当大学病院リハビリテーション科の通院歴があり,屋内歩行が監視以上の中枢神経疾患患者9名(脳出血3名,脳梗塞2名,脳腫瘍1名,頭部外傷1名,脊髄損傷2名)とした。対象の詳細は,年齢60±18歳,男性7名,女性2名,発症後35±27ヶ月,Berg Balance Scaleは47±8点であった。BEARのゲーム内容は,ターゲットに合わせて前後方向に能動的な重心移動を行う「テニスゲーム」,ターゲットに合わせて左右方向に能動的な重心移動を行う「スキーゲーム」,組み込まれた多様な外乱に抗してゲーム開始位置を保つ「ロデオゲーム」の3種類を実施した。1回の練習は各ゲームを4施行ずつ,予備練習を含めた合計20分間で構成されており,週2回の頻度で6週間あるいは8週間実施した。練習期間の前後には,バランス能力の改善指標としてTimed Up and Go Test(以下,TUG)および安静立位時の重心動揺を計測した。重心動揺計測はアニマ社製のツイングラビコーダ(G-6100)を用い,30秒間の安静立位から矩形面積を算出した。加えて,下肢の筋力も併せて計測を行った。測定筋は腸腰筋,中殿筋,大腿四頭筋,ハムストリングス,前脛骨筋,下腿三頭筋の6筋とし,アニマ社製ハンドヘルドダイナモメータを用いて等尺性で計測を行い,その最大値を採用した。統計解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,各評価について練習期間前後の比較を行った。【結果】TUGは,練習期間前後の平均値が21.5秒から17.4秒と有意な改善を認めた(p<.05)。安静立位時の重心動揺は,練習期間前後の矩形面積の平均値が3.3cm<sup>2</sup>から2.7cm<sup>2</sup>と有意な改善を認めた(p<.05)。下肢の筋力においては,練習期間前後の中殿筋の平均値が20.8kgから24.2kgと有意な改善を認め(p<.01),下腿三頭筋の平均値が44.0kgから47.7kgと有意な改善を認めた(p<.05)。一方で,その他の4筋については変化量が小さく有意差は認められなかった。【考察】本研究ではBEARを用いたバランス練習の効果を検討した。BEARの練習において前後方向の重心移動を行うテニス・ロデオゲームでは下腿三頭筋が,左右方向の重心移動を行うスキー・ロデオゲームでは中殿筋がそれぞれ求心性・遠心性収縮を繰り返し行う必要がある。このことが筋力増強に必要な条件を満たし,効果を発揮したと考えられた。このようにBEARの練習が3つのゲームにより構成されていることが,前後・左右方向どちらの制御の改善にも効果を示すため,安静立位時の重心動揺の改善にも効果的であったと考えられた。またTUGは総合的なバランス能力を表す指標であるため,この改善には筋力や姿勢制御の改善が反映されていると考えられた。TUGは転倒リスクに関連するとされていることから,BEARの練習には転倒予防の効果もあるのではないかと期待される。今後は,中枢神経疾患のうち特に効果を認めやすい対象を明確にしていくとともに,従来バランス練習群との比較を行う必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】バランス能力低下を認め,日常生活活動能力が低下している中枢神経疾患患者は非常に多い。したがって,効果の高いバランス練習を考案し,転倒による二次的な障害を予防していくことは理学療法研究として大変意義のあるものである。
著者
鶴卷 俊江 清水 朋枝 石川 公久 江口 清
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0605, 2012

【はじめに】 障害児の就学においては、就学指導委員会にて障害児への特別な教育ニーズを把握し、個々の障害児の教育的ニーズを具体化することが望まれるが、委員会単独で障害を評価し、就学先を決定することに限界があると言われている。今回、重度肢体不自由および知的障害の重複障害のあるに二分脊椎児の特別支援学校への転校を、長期的に関わっている医療者が中心となり、両親・教育委員会・小学校・行政と共に検討する機会を得た。ここに、その経過とともに就学前関係機関の一つである医療者として、就学支援の在り方について考察する。【方法】 9歳女児。普通小学校3年生。第9胸髄から第11腰髄の脊髄髄膜瘤。キアリII型。閉鎖術およびV-Pシャント術施行。身体機能レベルをSharrard分類、改訂HOFFER分類、生活能力レベルをPEDIにて評価。特別支援学校への転校を決定するまでを、両親の思い、学校側の対応、医療者としての対応についてまとめた。【説明と同意】 趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。【結果】 Sharrard分類I、改訂HOFFER分類はNon Ambulatoryであり主な移動能力は車いすである。生活能力レベルはPEDIの尺度化スコアにて、セルフケア56.8、移動29.0、社会的機能61.5。特にセルフケアで更衣・排泄の後処理で減点を認めた。また社会生活での自立度の低さが明らかとなり、将来を見据え長期的に介入が必要な状況と推察された。進路に対しては、児の希望を尊重した両親は普通小学校入学を決定。介助員の配置、昇降機・スロープ・導尿室の設置など施設・設備面への配慮はなされたが、重度の肢体不自由児の扱いに戸惑い、学校側は医療との連携を模索していた。しかし、主治医から現在の教育環境を配慮するような意見・指導が得られず苦慮していた。また両親も学校側の過剰な対応に不満を抱き、年々学校と家族との関係は混迷を呈していた。このままでは児や家族にとって望ましい療育とならないと考え、リハビリテーション部が中心となり問題を整理することをはじめた。まず、医療者より両親へ身体機能・認知等の障害特性から推察する児の将来像を提示。現在の教育環境での限界、今後の課題等に向け、能力を勘案した上で児に適切な教育が受けられることが望ましいという意見を提案したところ、両親から同意が得られた。そこで、医療者が学校へ訪問し、教育環境へ配慮したカリキュラムの検討、身体機能に合わせた介助指導、福祉用具の取り扱い方などを適宜検討した。また児を中心とした支援体制を構築し、教育的ニーズを具体化した。その結果、小学校での人的・物的環境の限界が再確認でき、児の教育環境整備を主と考え、両親・教育委員会・小学校・行政と共に1年間の猶予を持ち、次年度の特別支援学校への転校を決定した。【考察】 小池は、教育機関選択時の支援として重要なことは、個々の子どもの教育ニーズを適切に評価し、保護者と確認・合意し、就学相談に臨めることが望ましいと述べている。本症例を通して、就学支援における理学療法士の役割を検討する。就学前では、将来を見据えたプログラムを実施、学齢期以降の療育を保護者と相談・検討出来る人間関係を築く、求められれば就学指導委員会への情報を提供する。就学後は、学校集団生活がスムースに行えるよう、介助方法や学校環境整備についての助言を行う、が挙げられる。特別支援学校が中心となる障害児教育に対する地域支援システムは教育では既に実施されている。しかし、今回のように、医療ケア度の高い児では、医療チームによる支援が必要と推察する。そこで、我々は医療チームの窓口に、児の全体像を広く把握しているリハビリテーション部、理学療法士が就くことを提案する。茨城県では地域の中で小児リハビリテーションを普及促進するために県内で当院を含め9施設を小児リハ・ステーションとしている。今回はこのシステムの枠組みもあり院内院外活動を円滑に行うことができた。このような地域小児リハシステムが拡大し、児の将来を見据えた療育が多職種協働のもとで為されることが期待される。【理学療法学研究としての意義】 地域で行われる就学相談においては、多様で複雑な障害像がある重複障害児のニーズを明確にするには多面的・総合的な評価が必要である。理学療法士としての介入意義は大きく、今後の就学支援における当院の役割を小児リハ・ステーションとして、就学前後および地域の小学校に在籍する障害児の支援に向け、児・療育者、教育・行政機関等への支援体制の構築も視野に入れ研究を進めて行きたいと考える。
著者
芹澤 志保 中澤 理恵 白倉 賢二 大沢 敏久 高岸 憲二 山路 雄彦 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.483, 2003

【目的】我々は、群馬県高校野球連盟(県高野連)からの依頼により第84回全国高校野球選手権群馬県大会においてメディカルサポートを行った。以前より高校野球全国大会ではメディカルサポートによる傷害予防がなされているが、本県では今回が初の取り組みとなった。本研究の目的は、メディカルサポートの内容を紹介すると共に今後の課題を検討することである。【対象及び方法】対象は、第84回高校野球選手権群馬県大会4回戦(ベスト16)以降に出場した延べ32チームとした。メディカルサポートを行うため、群馬県スポーツリハビリテーション研究会を通じ、本県内の理学療法士にボランティア参加を募った。県高野連から依頼のあったメディカルサポートの内容は、投手及び野手別のクーリングダウン(ストレッチング)指導であり、これら指導内容を統一するため事前に3回の講習会を行った。また、高校野球における投手では連投となることが多いため、投球イニング、肩および肘関節の痛みの有無、疲労感等に関するチェック表を作成した。準決勝・決勝戦を除き試合会場は2球場であり、各球場に理学療法士は投手担当2名、野手担当4名以上、医師は1名以上が常駐するよう配置した。【結果及び考察】メディカルサポート参加者は、理学療法士延べ64名(実数40名)、医師9名(実数5名)であった。その内訳は、投手担当が延べ19名、野手担当が延べ46名であった。メディカルサポート内容は、クーリングダウン、試合前および試合中のアクシデントに対するテーピング、熱中症対策であった。準々決勝の1チームと決勝の1チームを除く30チームに対してクーリングダウンを行った。投手は延べ37名であった。投手の肩および肘の痛みについては、肩外転位での外旋で痛みを訴えたもの0名(0%)、水平内転で痛みを訴えたもの1名(2.7%)、肘に痛みを訴えたもの11名(29.7%)であり、肘痛が最も多かった。また、テーピングは延べ13名(実数6名)に実施し、その全員が野手であった。さらに、熱中症に対する応急処置として理学療法士・医師が相当数救護にあたり、過呼吸に対する応急処置の依頼もあった。これらクーリングダウン以外のサポートは、当初県高校野球連盟より依頼されていなかったものであるが、現場では外傷・熱中症などの応急処置は必要不可欠であったためすべてに対応した。今後の課題として、メディカルサポートの内容について県高野連と調整すると共にテーピングを含めた応急処置に関する技術の確認などの必要性が示唆された。
著者
玉地 雅浩 青山 宏樹 佐伯 武士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】姿勢制御は視覚,体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年,これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために,飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。飲水前後で安静椅座位での重心動揺や姿勢が変化するか否かを重心動揺計並びに三次元動作解析装置を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。【方法】対象は本学学生の健常男性10人,平均年齢21.6歳とした。被験者は前日21時より絶食状態で,測定開始3時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中の貯留物を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。被験者は,重心動揺計(ユニメック社製JK101+UM-ART:測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1分間の安静座位をとった後,90秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長,矩形面積,外周面積,単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は,その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。また同時に三次元動作解析装置(Motion Analysis社製MAC3D)を用いて計測部位,C7,両肩峰,Th7,L4,両上前腸骨棘,両上後腸骨棘の計9カ所の位置変化を計測した。計測は条件①飲水無し及び条件②飲水有りにて2回計測した。条件①飲水無しでは,1分間の安静座位後90秒間の計測を実施した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間の計測を計4回行った。条件②飲水有りでは,1分間の安静座位後90秒間の測定を行い,その直後の1分間のインターバル中に60秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間計測を計4回行った。計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃の位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。各重心動揺計測項目についての統計は,各条件における重心動揺と90秒間計測区間の二要因について2×5の分散分析を実施した。有意差の認められたものは,多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。三次元動作解析装置を用いての計測結果の統計には,ランドマーク間と90秒間計測区間(平均移動量)の二要因についての3×5の分散分析を実施した。ランドマーク間には有意な主効果が認められた。計測区間間には有意な主効果が認められなかった。ランドマーク間には主効果が認められたため,各ランドマーク間において一元配置分散分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,へルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で,被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。【結果】重心動揺計による計測条件②飲水有りにて,飲水直後の90秒間に総軌跡長,外周面積,単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)。条件①と②の比較では飲水直後の90秒間にて総軌跡長,外周面積,矩形面積,単位軌跡長に条件②に有意な増加が認められた(P<0.05)。三次元動作解析装置による計測条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にTh7が前方に移動した(P<0.05)。条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にC7が前方に移動した(P<0.01)。また飲水後2回目の90秒間と4回目の90秒間の間にも有意にC7が前方に移動した(P<0.05)。【考察】本実験において飲水直後と飲水前,そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。また飲150秒後からは骨盤に対してC7,Th7が前方に移動する事が確認できた。飲水により胃の重量が増加した際に,各ランドマークが一度後方に移動したにも関わらずC7とTh7が有意に前方への移動に反転した現象は骨盤の位置が変化しない分,上部体幹や頭部が前方に移動して姿勢調節を行う過程で起こった可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から,臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前,そして後と継時的に計測することによって,飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。
著者
松井 知之 高島 誠 池田 巧 北條 達也 長谷 斉 森原 徹 東 善一 木田 圭重 瀬尾 和弥 平本 真知子 伊藤 盛春 吉田 昌平 岩根 浩二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1122, 2010

【目的】われわれは整形外科医師の協力を得て,理学療法士(以下PT),トレーナーでメディカルサポートチームを有志で組織し,スポーツ選手の肩肘関節疾患の障害予防と治療を目的に2008年から活動を行っている.今回その活動内容と特徴について報告する.<BR>【方法】1. 京都府高校野球連盟(以下高野連)からの依頼によって,京都府高校野球地方大会のサポートを,PT,医師,トレーナーが協力して行っている.具体的には,試合前検診,処置,試合中の救急対応,試合後の検診およびアイシング,コンディショニングを行い,選手が安心,安全にプレーできるようにサポートしている.<BR>2.中学生,高校生の野球選手に対してシーズンオフである冬季に行われる技術・トレーニング講習会で検診を行っている.医師による肩肘超音波検査,PT3名,1グループによる理学所見評価を行い,トレーナーがコンディショニングを指導している.<BR>3.肩肘関節の障害を認め,保存療法が必要な選手を月2回医師,PT,およびトレーナーでリハビリテーション加療を当院で行っている.<BR>4.月一回,PTが中心となって円滑な情報交換を行うことを目的に勉強会を行い,多施設(病院およびスポーツ現場を含む)共通の問診表,評価項目,投球復帰プログラムの作成を行っている. <BR>【説明と同意】京都府高校野球地方大会のサポートに関しては,高野連から各チームに事前通達を行った.またわれわれも大会前の抽選会,試合前のコイントス時に部長,主将に説明し,試合前後の検診やコンディショニング指導を行っている.検診事業も,原則希望者のみとし,施行するにあたっては,監督,保護者,選手に十分な説明と同意を得た上で実施している.<BR>【結果】1.京都府高校野球大会のサポートは,春・夏・秋の準々決勝から行った.2009年秋季大会では,登板投手24名中,検診およびコンディショニングを実施したのが14名,アイシングのみ実施が3名であった.<BR>2.検診事業は,昨年投手68名に対し,肘関節の超音波検査および理学検査を行った.その際超音波検査で上腕骨小頭障害の投手は5名であった.同年12月には中学生野球教室の際に287名に対し肘関節の超音波検査,投手57名に理学検査を行った.上腕骨小頭障害の選手は8名であった.いずれの検診の際も,検診結果のフィードバックおよびコンディショニング内容のパンフレットを配布し指導を行った.<BR>3.2008年6月から2009年10月までに当院スポーツリハビリテーションに受診した選手は,小・中学生7名,高校生24名,大学・社会人が24名であった.うち投球障害肘が16名,投球障害肩が31名,その他8名であった.多施設間の情報交換資料として,問診表から評価表を作成した.<BR>【考察】京都府高校野球大会のサポートとしては,抽選会時などにメディカルサポートチームの案内に加え,傷害予防,熱中症対策など講演を行い,啓蒙活動を行った.大会中には,投球直後の身体所見を評価し,コンディショニング指導を行った.コンディショニングに関しては,どこまでわれわれが介入するか,難しい問題であるが,コンディショニングの大切さを啓蒙することが重要と考えている.大会サポートに関しても,選手のみならず,可能な限り指導者とコミュニケーションを図る必要があると考える.<BR>検診事業は,ポータブル超音波機器を使用することで,障害の早期発見,早<BR>期治療が可能であり,フィールドで簡便に行える有用な評価法とされ,われわれも導入した.PT3名1グループによる理学所見検査によって,正確なデータを蓄積し,それを分析することで,根拠ある評価,治療を確立し,障害予防に寄与すると考えた.しかし,検診の開催時期,二次検診などフォローアップに関する問題点も多く,今後の課題である.当院スポーツリハビリテーション受診数は増加傾向にあるが,現状は月2回程度の実施であり,多施設で協力して診療を行う必要であり,施設間における共通の評価,投球障害復帰プログラムの作成の必要性が生じる.これによって,選手の現状把握が容易となり,円滑な情報交換が行なえると考えた.また,診療場面に多くのスタッフが集まることで,実際の評価,診療内容を共有可能であり,選手の問題点についても討論することも可能であった.しかし医師,PTおよびトレーナーの連携は良好だが,指導者や家族とのコミュニケーションは十分とは言えず,今後の課題である.<BR>【理学療法学研究としての意義】われわれの取り組みは,多くの職種との連携を重視したものである.投球障害の治療は原則保存療法であり,PTが担う役割は大きいが,投球障害を有する選手の競技復帰は,医師や現場のトレーナーなど多職種との連携,協力が必要である.本活動は,他府県の活動を参考にしているが,今後このような活動を行う方への参考になれればと考える.
著者
玉地 雅浩 佐伯 武士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101941, 2013

【はじめに、目的】姿勢制御は視覚、体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年、これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために、飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。その際に胃の位置や大きさも変化する事を超音波診断装置を用いて確認すると共に、飲水前後で安静椅座位での重心動揺が変化するか否かを重心動揺系を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。【方法】対象は本学学生の健常男性10 人、平均年齢21.4 歳とした.被験者は実験に先立ち、研究の目的、方法について十分に説明を受けた上で参加した。被験者は前日21 時より絶食状態で、測定開始3 時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中に貯留物が残っていない事を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。被験者は、重心動揺計(ユニメック社製JK101 +UM-ART : 測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1 分間の安静座位をとった後、90 秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長、矩形面積、外周面積、単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は、その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。計測は条件一飲水無しと条件二飲水有りにて2 回計測した。条件一飲水無しでは、1 分間の安静座位後90 秒間の重心動揺を計測した。その後1 分間のインターバルを挟んで90 秒間の重心動揺の計測を計4 回行った。条件二飲水有りでは、1 分間の安静座位後90 秒間の重心動揺の測定を行い、その直後の1 分間のインターバル中に60 秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した、その後1 分間のインターバルを挟んで90 秒間で計4 回計測を行った。また計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃が動く事によって位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。統計には、各条件における重心動揺の変化を反復測定による分散分析を用いて、被験者内変数を重心動揺とし、各90 秒間計測区間を因子とし検討した。さらに有意差の認められたものは、多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。条件一、二の各測定区間の比較はt検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、へルシンキ宣言に基づき、事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で、被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。【結果】条件二飲水有りにて、飲水直後の90 秒間に総軌跡長、外周面積、単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)条件一と二の比較では飲水直後の90 秒間にて総軌跡長、外周面積、矩形面積、単位軌跡長に条件二に有意な増加が認められた(P<0.05)。【考察】本実験において飲水直後と飲水前、そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。さらに、飲水直後90 秒間は超音波画像診断装置にて胃内部の微炭酸水の貯留を確認し、内蔵器官への物質の移動が重心動揺に影響を及ぼすことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から、臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前、そして後と継時的に計測することによって、飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。
著者
西野 竜也 高橋 悠 七五三木 好晴 内川 千恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,人口の高齢化が進み大腿骨頚部骨折の受傷者が増加傾向にある。また,地域包括ケアシステムの導入により居宅を中心とした地域での生活が,早期から安全に長く行えることが必要になると考える。しかし,現在,大腿骨頚部骨折受傷者における退院時の身体機能やADLに関する報告は数多くされている一方で,退院後の活動量や生活状況に関しての報告は少ない。そこで,今回,自宅退院6ヶ月後での生活状況や生活習慣の調査を目的にアンケート調査を行った。【方法】対象者は,2012年1月~2013年3月の間に当院の回復期病棟を退院した大腿骨頚部骨折の患者60名の内,回答のあった自宅退院者30名(退院時の平均年齢:75.8±11.4歳,男性:11名,女性:19名)とした。方法は,退院6か月後の歩行様式,歩行自立度,外出頻度,家事や仕事の実施状況,日常の運動頻度などについてアンケートを実施した。歩行様式は「独歩・杖歩行・伝い歩き・歩行器・車いす」の5項目,歩行自立度は「自立・監視・介助」の3項目で調査を行った。外出頻度においては「ほぼ毎日・週2回以上・月に数回・めったに外出しない」の4項目,家事や仕事,運動頻度は「している・時々している・ほとんどしていない」の3項目で調査を行った。また,退院時の屋内外歩行自立度と移動手段をカルテ記録から情報収集を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,前橋協立病院倫理委員会の承認を得,患者様にはその旨を十分に説明し,書面上において同意を得ている。【結果】自宅退院者の退院時の屋内歩行自立度は,自立が30名中26名(87%),監視が3名(10%),介助が1名(3%)であった。屋外歩行自立度は,自立が30名中18名(60%),監視が9名(30%),介助が3名(10%)であった。屋外移動手段は自立群では,杖歩行自立が18名中14名(78%)と最も多く,続いて,独歩自立が2名(11%),歩行器自立が2名(11%)となった。退院6カ月後における屋外歩行自立度の変更は,向上が22名中4名(18.1%),維持が18(81.9%)名となった。屋外歩行自立群において退院6カ月後の外出頻度は「ほぼ毎日」が22名中6名(27%),「週2回以上」が6名(22%),「ときどき」が7名(32%),「めったに外出しない」が3名(14%)であった。家事・仕事の状況では「している」が22名中7名(32%),「時々している」が12名(54%),「ほとんどしていない」が3名(14%)となった。運動状況は,「している」が22名中10名(46%),「時々している」が4名(18%),「ほとんどしていない」が8名(36%)であった。運動内容においては,屋外歩行自立群は散歩と通所リハビリが6件と最も多く,続いて自主トレーニングが3件,スポーツが1件の順であった。地域活動を行っている回答は得られなかった。また,家事・仕事が「時々している」「ほとんどしていない」,外出が「月に数回」「ほとんどしていない」の両方に適応する割合が40.9%であった。運動が「時々している」「ほとんどしていない」で外出が「月に数回」「ほとんどしない」に適応する割合が31.8%であった。【考察】大腿骨頚部骨折受傷者で,自宅へ退院された方の退院6ヶ月後の屋外歩行は7割以上が自立していた。しかし,屋外歩行自立群において,退院6ヶ月後での運動習慣と外出頻度がともに乏しい方の割合が半数以上,家事・仕事と外出頻度が共に乏しい方の割合が3人に1人以上となった。このことから,退院時に獲得した能力を,退院後生活において十分に生かし切れておらず,歩行自立群の方々の活動性の低下及び閉じこもり傾向が示唆された。運動習慣においては,散歩やデイサービス,自主トレーニングといった自己完結型の運動や受動的サービスのみの利用が多かった。一方,「地域の活動」や「スポーツ」といった,受動的サービスの外での,地域での役割や関わりを行っている人はほとんど見られなかった。このことから,在宅生活が広がり,社会との関わりにつながる運動習慣及びシステムの欠如が考えられる。そのため,退院後に外出,運動,家事や仕事などの居宅での生活へ移行していくためには,入院中のADL自立度のみでなく,居宅生活の広がりを考えたフォローアップが必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今後,2025年に向けた地域包括ケアシステムにより居宅での生活が中心となっていくと考えられる。本研究では,自宅退院6カ月後の患者様にアンケート調査を行い,退院後の運動習慣や生活状況の傾向を明らかにすることで,入院中でのリハビリテーション今後の課題や地域でのリハビリテーションのあり方を考えることの一助になると考える。
著者
小山内 大地
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>高尾らは健常者を対象に長下肢装具(以下LLB)下での遊脚相について報告している。しかし,健常者を対象としてLLB装着下での立脚相について先行研究した報告はない。そこで本研究は,健常者を対象に立脚時の荷重割合を50%から漸増させた時の筋電図学的変化についてLLB装着の有無で比較することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>・対象は,神経学的および整形外科的疾患を有さない健常男性8人とした(年齢27.4±3.8歳,身長168.6±2.4cm,体重65.0±7.2kg)。</p><p></p><p>・方法は,立位にて検査側下肢へ体重の50%,60%,70%,80%,90%,100%を荷重し,その際の筋電図をLLB装着時(膝継手はリングロック固定,足継手はダブルクレンザック)と非装着時で計測した。荷重量は,足圧計を用いて調整し,前荷重と後荷重を4対6とした。筋電図は,多裂筋(同側・対側),内腹斜筋(同側・対側),大殿筋,中殿筋,内側広筋,前脛骨筋,腓骨筋,ヒラメ筋内側頭に貼付した。解析は荷重中の筋電波形を整流・平滑化し,10秒間のうち安定した3秒間の積分値を算出し,それを個人の標準化筋活動とした。各筋単位で被験者毎におのおのの荷重量(50%~100%の6条件)にてLLB装着時から非装着時を減算し,筋活動の増減について全体の傾向を検討した。判定は各筋単位で6条件の荷重量を通算し,筋活動の増減が7割を越えた場合を筋活動の上昇あるいは低下とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各筋においてLLB装着が非装着に比べて筋活動が上昇したものは,多裂筋同側(36/48,75%),多裂筋対側(32/45,71%),内側広筋(45/47,96%),前脛骨筋(42/47,89%)であった。逆に,LLB装着が非装着に比べて筋活動が低下したものは,内腹斜筋同側(33/47,70%),ヒラメ筋内側頭(41/47,87%)であった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>LLB装着は非装着に比べて多裂筋の筋活動が両側性に上昇している人が多かった。この理由はLLB装着によって下腿後面の半月よって膝軽度屈曲位になり,重心位置が前方に変位することの代償として体幹伸筋の活動が上昇したと考えられた。内側広筋については,荷重時,下腿半月によって膝軽度屈曲位を矯正されているため,半月を支点に筋活動が上昇したと考えられた。</p><p></p><p>前脛骨筋の上昇とヒラメ筋内側頭の低下については,荷重時の下腿の前傾矯正と下腿半月による安定性が,前脛骨筋の短縮位での筋活動を増加させ,ヒラメ筋内側頭の筋活動を抑制したと考えられた。</p>
著者
堀 弘明 由利 真 千葉 健 佐橋 健人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>我々は,変形性股関節症患者において健常人より腹横筋の筋活動は低下し,前額面の骨盤レントゲン画像から得られた骨盤傾斜角と大腿骨頭被覆率では腹横筋厚変化率と関連がある研究結果を得た。腹横筋の筋活動低下の原因として,姿勢や形態学的な変化のみならず筋自体の質的な変化も考えられた。近年,超音波画像を用いた筋輝度と筋力は負の相関を示すことが報告されている。そこで,本研究は筋輝度を用いて変形性股関節症患者と健常人の体幹筋の質的変化について明らかにすることを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象者は,北海道大学病院に片側変形性股関節症の診断を受け手術目的に入院し,術前理学療法を実施した患者を変形性股関節症群(19名。男2名・女19名:60.6±6.5歳)とした。また,変形性股関節症群の年齢に合わせ身体に整形疾患等の既往歴のない者を健常者群(20名。女20名:62.9±3.2歳)とした。測定項目は腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋,骨盤傾斜角とし実施日は術前理学療法開始1日目とした。</p><p></p><p>腹部筋の測定肢位は膝を立てた背臥位とし,超音波診断装置はVenue 40 Musculoskeletal(GEヘルスケア・ジャパン)を使用し画像表示モードはBモード,8MHzのプローブで撮影した。Urquhartらの測定部位を参考にして腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の境界を描出した。測定時の運動課題は,安静呼気終末として腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋を測定した。</p><p></p><p>筋輝度は,Adobe Photoshop CC 2014(Adobe Systems Inc. San Jose, CA, USA)を使用し,超音波診断装置で得られた画像から各筋の関連領域を設定し,8-bit gray-scale analuysisのhistogram functionにおいて値を求めた。</p><p></p><p>また,当院整形外科の処方により入院時に撮影した背臥位における前額面の骨盤レントゲン画像を用い,骨盤傾斜角を土井口らの方法で算出した。この方法で得られた値は,算出値が小さいほど前傾が増強していることを示す。</p><p></p><p>変形性股関節症群と健常者群の各筋の筋輝度測定についてはMann-Whitney U検定を用い,変形性股関節症群の骨盤傾斜角と各筋の筋輝度との相関ついてはSpearmanの順位相関係数を用い統計学的処理は5%未満を有意水準とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>筋輝度の比較では,腹横筋は変形性股関節症群111.8±12.0pixel,健常者群89.2±7.0 pixel,内腹斜筋は変形性股関節症群91.4±14.7 pixel,健常者群107.2±14.0 pixelとなりそれぞれ2群間で有意差(p<0.05)が認められた。</p><p></p><p>変形性股関節症群の骨盤傾斜角は17.6±3.6度であり,骨盤傾斜角と腹横筋の筋輝度は中等度の負の相関(r=-0.57。p<0.01)が認められ,骨盤傾斜角と内腹斜筋の筋輝度は中等度の正の相関(r=0.48。p<0.05)が認められた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本研究の結果から,変形性股関節症患者の腹横筋の筋輝度高値と内腹斜筋の筋輝度低値は変形性股関節症患者の骨盤傾斜角に関連し,特に腹横筋では骨盤前傾の増強により筋収縮力が低下する可能性が示唆された。</p>