著者
杉山 健治 上田 泰久 鈴木 泰之 逸見 旬 浅見 優 木暮 一哉 田村 岳久 齋藤 智幸 鈴木 明恵 平塚 尚哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1250, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 上位頚椎と下位頚椎は解剖学的構造や機能に異なった特徴を持っており,さらに頚椎と肩関節複合体との解剖学的連結も強いことが数多く報告されている。臨床においても肩関節可動域制限を有している症例に対して頭頚部からの介入により肩関節可動域が変化することを経験する。しかし,頭頚部のアライメントと肩関節可動域の関係性を示した報告は少ない。そこで,本研究では,頭頚部のアライメント変化と肩関節の可動域との関係を検討することを目的とした。【方法】 対象は肩関節・頚部・顎関節に整形外科疾患の既往のない健常成人男性12名(年齢24.8±2.8歳)とした。被験者の利き手はすべて右利きとした。測定肢位は,頚部を正中位にした背臥位(以下,頚部正中位)・頭部を右側屈位にした背臥位(以下,頭部右側屈)・頭部を左側屈位にした背臥位(以下,頭部左側屈)・頚部を右側屈位にした背臥位(以下,頚部右側屈)・頚部を左側屈位にした背臥位(以下,頚部左側屈)の5肢位とした。頭部の左右側屈位は,下顎下端中央と剣状突起・左右ASISの中点の3点を結ぶ線(基本軸)と左右外眼角の中点と下顎下端中央を結ぶ線(移動軸)のなす角度が10度になる肢位とした。頚部の左右側屈位は,頚切痕と剣状突起・左右のASISの中点の3点を結ぶ線(基本軸)と左右外眼角の中点と頚切痕を結ぶ線(移動軸)のなす角度が10度になる肢位とした。測定内容は,肩関節の水平内転・2nd positionでの内旋・2nd positionでの外旋の自動運動時の関節可動域とした。関節可動域は,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が制定する「関節可動域表示ならびに測定法」に準じて被検者の右上肢で測定した。なお,頭頚部の左右側屈位のアライメント設定および関節可動域の測定は同一検者が行い,代償動作の確認を他検者と2名で行った。測定肢位と測定運動はランダムに実施し,頭頚部の5肢位における肩関節可動域の変化を調べた。統計処理はSPSSを用い,一元配置分散分析後に多重比較(Bonferroni)を行い,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究の内容を書面と口頭にて十分説明し,同意書に署名を得た上で行った。【結果】 水平内転では,頚部正中位53.8±7.7度,頭部右側屈60.4±7.2度,頭部左側屈48.0±6.6度,頚部右側屈52.1±6.9度,頚部左側屈52.1±8.9度であった。頭部右側屈は他4肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。また,頭部左側屈は頚部正中位より有意に可動域が減少した(p<0.05)。 2nd positionでの内旋では,頚部正中位102.5±9.7度,頭部右側屈107.9±10.5度,頭部左側屈93.3±10.1度,頚部右側屈98.8±13.3度,頚部左側屈100.8±11.6度であった。頭部右側屈は頭部左側屈・頚部右側屈・頚部左側屈の3肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。 2nd positionでの外旋では,頚部正中位101.7±10.1度,頭部右側屈106.3±9.6度,頭部左側屈95.4±11.8度,頚部右側屈97.9±10.3度,頚部左側屈94.6±11.0度であった。頭部右側屈は頭部左側屈・頚部右側屈・頚部左側屈の3肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。 頚部左側屈と頚部右側屈では,各測定運動において可動域に有意差は認められなかった。【考察】 頭部側屈位は,頚部側屈位と比較して肩関節可動域に大きく関与していることが示唆された。頭部側屈位は環椎後頭関節や環軸椎関節の上位頚椎の運動が主であり,頚部側屈位は下位頚椎の運動が主である。頚椎の側屈には回旋が伴なう複合運動(coupling motion)があることが報告されており,頚椎の複合運動により上位頚椎および下位頚椎に付着する筋の作用が異なるものと考えられる。上位頚椎および下位頚椎に付着する筋には僧帽筋上部線維や肩甲挙筋などがあり,これらは肩甲帯へ付着する。そのため,側屈の運動様式が変わることが肩関節複合体に影響を与えたものと考えられる。以上より,上位頚椎の機能障害や位置異常が肩関節機能を最大限に発揮することを制限する一因になると考える。今後,筋硬度等も含めて引き続き検証をしていこうと考えている。【理学療法学研究としての意義】 上位頚椎および下位頚椎の動きが肩関節に関係していることが認められた。肩関節に可動域制限を有する症例に対して,頚部の評価・治療を考慮した理学療法展開が必要であると考えられる。
著者
朴 容成 中川 一彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】超高齢社会を迎え医療ニーズが高まる一方,医療費抑制政策により病院経営破綻の問題が深刻化している。病院内のセラピストの影響力が増す一方で,医療環境の影響を受けセラピストの立場も変化してきており,今後はより責任ある対応が必要となってきている。今回我々はこれらの医療環境の変化を勘案し,法人と協同の上で病院経営の視点に立ち,売上実績,教育向上効果,組織力強化の評価からなる総合的な業績評価制度を導入し,「業務改善と働き易さ」にもたらす影響を検討した。【方法】期間はI期を業績評価制度導入前,II期を導入中6ヶ月,III期を導入後6ヶ月とした。検討は業績評価の大項目に準じ,①月間売上実績,②従業員満足度,③組織力評価で行った。項目は①月間売上,1日取得単位数,日当点,損益分岐や報酬点数の理論値と比較した月間売上目標達成率とした。②従業員満足度,③組織力評価はセラピスト28名に一部記述を含む選択方式のアンケートを行い調査・集計した。項目は,働き易さ,やりがい,職場の雰囲気,上司の信頼度,チーム力,人間関係,運営ビジョン,能力開発などの60項目である。【結果】①売上実績はII期がI期比較で23%増加,II期達成率が102%,III期がI期比較で32%増加,III期の達成率107%であった。1日取得単位数はII期がI期より1.1増加,III期がI期より1.6増加であった。日当点はII期がI期比較で24%増加,III期がI期比較で28%増加であった。アンケート回収率100%で,②従業員満足度の質問27項目中19項目に改善を認めた。③組織力評価では,チーム力:「集団であり組織ではなかった」から「規定形成期である」,人間関係:「不十分であるが良好であった」から「良好である」,運営ビジョン:「理解していなかった」から「理解している」,個人能力開発:「発揮できなかった」から「不十分であるが発揮している」に変化した。【結論】①売上実績はデーターを経時的に比較・公表することによりプラス効果をもたらした。②従業員満足度,③組織力評価は業績評価制度を運営しつつ地道な指導・面談,業務改善を12ヶ月間継続することにより有効に作用することが示された。業績評価制度の導入により評価基準が明確になり,実績主義はセラピストのコミットメントにつながった一方,年功序列職務機能の低下は一部の従業員に多方面のマイナス効果をもたらす可能性も示唆された。しかし,今回法人の理解が最大限に得られ,従業員満足度や組織力強化がモチベーションにつながった。部署に運営担当を配置することで現場主体の運営となり,コンピテンシー面談の顕在能力評価により年功から能力主義となり,労働環境の整備,知識技術への投資,役職ポストの拡大,専門性とマネジメントを機能分化したことによりプラス効果となった。以上,法人との協同による総合的な業績評価制度導入は業務改善と働き易さの改善に有効な施策と考える。
著者
中泉 大 淺井 仁
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0506, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】ハムストリングスの短縮の評価には下肢伸展挙上(以下,SLR)テスト,膝伸展テストなどが用いられる。SLRテスト時には骨盤が後傾するため,見かけ上のSLR角度ではハムストリングス短縮の評価法として妥当性が低い可能性がある。膝伸展テストでは膝伸展運動の様式や股関節屈曲保持方法などの条件を変えたときの骨盤の傾斜角度については明らかになっていない。本研究は健常成人を対象として,SLRテストと膝伸展テストにおける運動様式を変えたときの骨盤後傾角度の違いを明らかにすることを目的とした。研究仮説:自動運動での膝伸展テスト時,骨盤の後傾が少ない。【方法】被験者は健常な学生20名とし,右下肢を対象に背臥位でのSLRテストと膝伸展テストが行われた。皮膚上から骨盤(左右上後腸骨棘の高さで正中仙骨稜上)に傾斜角度計が取り付けられた。傾斜角度計はSLRテスト時には右下肢の大腿前面に,膝伸展テスト時には右下肢の脛骨前面にそれぞれ取り付けられた。全ての実験は測定用ベッド上で行われた。1)SLRテスト背臥位を開始肢位とし,この肢位での骨盤傾斜角度が記録された。テスト最終域でのSLR角度と骨盤傾斜角度が記録された。測定は5回行われた。測定条件は運動様式の違い(自動,他動)と骨盤・対側下肢の固定の有無の合計4条件とした。2)膝伸展テスト背臥位で股関節及び膝関節90°屈曲位を開始肢位とし,この肢位での骨盤傾斜角度が記録された。テスト最終域での膝伸展角度と骨盤傾斜角度が記録された。測定は5回行われた。測定条件は股関節屈曲保持方法の違い(自動,他動),運動様式の違い(自動,他動),骨盤・対側下肢の固定の有無の合計8条件とした。両テストともに骨盤の傾斜角度はテスト開始肢位から最終域までの角度変化量とした。統計処理:SLRテストでは2元配置,膝伸展テストでは3元配置の分散分析を行い,その後多重比較検定を行った。同条件でのテスト間の比較は対応のあるt検定を用いた。有意水準はそれぞれ0.05未満とした。【結果】SLRテスト,膝伸展テストともに運動様式(自動,他動)と骨盤・対側下肢の固定の有無について交互作用が認められず,それぞれに主効果が認められた。股関節屈曲保持方法の違い(自動,他動)については主効果が認められなかった。SLRテスト,膝伸展テストのそれぞれで,骨盤角度変化量が最も小さかったのは,いずれも自動運動,骨盤・対側下肢の固定あり条件であり(SLR4.2±2.7°,膝伸展0.6±2.1°),他動運動条件での値(SLR11.0±3.8°,膝伸展3.4±1.6°)よりも有意に小さかった。自動運動,骨盤・対側下肢の固定あり条件でのSLRテストと膝伸展テストにおける骨盤角度変化量は膝伸展テストでの値が有意に小さかった。【結論】本研究の結果より,自動運動での膝伸展テストが,臨床で多く用いられている他動でのSLRテストよりもハムストリングスの短縮の評価法として妥当性が高いことが明らかとなった。
著者
須藤 愛弓 三和 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0484, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 高齢者の問題として転倒が注目されているが、これに関連する心理的問題として転倒に対する恐怖心がある。恐怖心やそれに関連したバランス低下が転倒を招くとされており、両者の関連性について理解する必要があると考えられる。本研究では、異なる条件下で不意の外乱刺激を与えることにより、恐怖心が姿勢の安定性にどのような影響を及ぼしているか検討することを目的とした。【方法】 対象は本研究に同意の得られた健常成人14名(平均:年齢21.4歳、身長168cm、体重58.9kg、男性8名、女性6名)である。方法は、重心動揺計を可動式の床面上に設置し、高さと視覚条件を変えた4条件下(平地開眼、平地閉眼、高地開眼、高地閉眼:以下LO, LC, HO, HC)で立位姿勢をとらせ、予告なしに前方への外乱刺激を与えた。重心動揺計にて総軌跡長、動揺平均中心変位、動揺速度、三次元動作解析装置にて下肢の角度変化を同時に測定した。恐怖心はVASおよびSTAI(状態・特性不安検査)にて評価した。統計学的解析は、級内相関係数による再現性、恐怖心と各項目の関連性はPearsonの相関係数及びANOVAの多重比較検定を行った。なお、有意水準は5%とした。【結果】 恐怖心はLO、LC、HO、HCの順に増加した。恐怖心と重心動揺の各項目は有意な正の相関を示し、外乱刺激の前後ともLOやLCに比べHO、HCで有意に増加した(p<0.05)。外乱前の平均中心変位は恐怖心が増すにつれ徐々に前方へ変位し、HCの時では約2.4cm前方へ変位していた。一方股関節及び足関節の角速度は弱い負の相関を示し(r=-0.24, r=-0.27, p<0.05)、LOに対しHO、HCで有意に減少した(p<0.05)。4条件とも外乱刺激から約0.5秒後に股関節が先行して反応した。足関節の反応時間との差は0.1秒程度で、条件間で統計学的な有意差は認められなかった。【考察】 恐怖を感じることにより、支持基底面内における姿勢の安定性が低下するのに加え、基底面から重心が外れないようにするための下肢の姿勢調節機能が働きにくくなると考えられる。この時健常者では下肢関節の協調した働きや危険を予測した身体の準備反応により自身の安定性を確保している可能性が考えられる。しかし高齢者の場合、身体機能が低下し、外乱に対する反応が鈍くなっていることが予想される。そのため下肢の協調性や準備反応が不十分となり、更に姿勢の安定性が低下するかもしれない。【まとめ】 健常成人を対象に、恐怖心と姿勢の安定性との関連性を検討した。恐怖を感じることで姿勢の不安定性が増し、身体機能が低下している高齢者の場合には転倒に至る可能性があることが示唆された。
著者
荒木 浩二郎 池添 冬芽 田中 浩基 簗瀬 康 森下 勝行 中尾 彩佳 磯野 凌 神谷 碧 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1306, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】筋力トレーニング直後に生じる筋厚の増加(筋腫張)は血流増加,血管透過性亢進による組織間液増加に起因し,筋肥大に必要な低酸素状態や代謝物蓄積の程度を反映すると考えられている。我々は高齢者を対象に最大等尺性筋力の10%の負荷での膝関節伸展運動を10回1セットとして5セット実施した結果,1~2セット後には筋腫脹がみられず,3セット以降から筋腫脹が生じることを報告した(第2回基礎理学療法学会,2015)。筋腫張は筋肥大を引き起こす重要な要素とされているが,筋腫脹が生じる最低限の運動量でトレーニング介入をした場合に筋肥大効果が得られるかは明らかではない。そこで本研究では高齢者を対象に,最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫張が生じる最低限の運動量を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を実施し,介入効果が得られるか検討した。【方法】対象は健常高齢者26名(男性3名,女性23名,年齢75.0±4.2歳)とし,介入群13人,対照群13人にランダムに割り付けた。介入群のみ週3回(1回監視下運動,2回自主練習),12週間の低強度膝伸展筋力トレーニングを実施した。運動負荷として,椅子坐位,膝関節90°屈曲位で測定した最大等尺性筋力の10%の重錘を用いた。膝関節屈曲90°から0°の範囲での膝関節伸展運動(求心相3秒,保持3秒,遠心相3秒)を10回1セットとし,3セット行なった。セット間の休息は1分とした。介入前後に筋力,筋厚を測定した。筋力の測定には筋力計(OG技研製マスキュレーターGT30)を用いて椅子坐位,膝関節30,60,90°屈曲位で最大等尺性膝関節伸展筋力を測定した。筋厚の測定には超音波診断装置(フクダ電子社製)を用いて,背臥位,膝伸展位で大腿直筋(RF),中間広筋(VI),外側広筋(VL),内側広筋(VM)の筋厚を測定した。測定部位はRF,VIが上前腸骨棘(ASIS)~膝蓋骨上縁の50%,VLが大転子~大腿骨外側上顆の50%,VMがASIS~膝蓋骨上縁の80%の高さの5cm内側とした。超音波画像は各筋2枚撮影し,平均値を解析に用いた。統計解析は群と時期を2要因とした分割プロットデザインによる分散分析を行なった。なお,有意水準は5%とした。【結果】12週介入後の測定が可能だった介入群12名(男性2名,女性10名,年齢75.9±4.0歳),対照群10名(男性1名,女性9名,年齢73.7±3.3歳)を解析対象とした。低強度筋力トレーニングにおいて用いた重錘の重さは2.2±0.7kgであった。分散分析の結果,すべての膝関節角度の膝関節伸展筋力において交互作用を認めなかった。また大腿四頭筋各筋の筋厚も交互作用を認めなかった。【結論】本研究では先行研究によって明らかとなった最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫脹を生じさせる運動量(セット数)を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を行っても筋力増強,筋肥大効果は得られないことが示唆された。低強度筋力トレーニングでも効果を得るためには運動量を増やす必要があると考えられる。
著者
安里 和也 比嘉 裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0988, 2005 (Released:2005-04-27)

【はじめに】頚部の動きとして、大後頭顆関節での制限があり、下位頚椎レベルにて代償を行っている患者は多いように感じている。そのような患者に対し、乳様突起部に音叉を用いて振動刺激を入力すると大後頭顆関節での動きが増し、頚部全体の緊張軽減が得られることが多い。これは頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者のみではなく多くの患者についてみられるものである。そこで今回、振動覚刺激入力が頚部の緊張についてどのような影響を及ぼしているのかという疑問を抱き、検討を行ったのでここに報告する。【対象と方法】本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人9名(男性6名、女性3名;平均年齢26.11±3.59歳)に対して行った。乳様突起部への音叉での振動刺激前後で以下の(1)~(3)を比較し、(4)音叉を当てている間の感じ方のコメントを含めて考察を行った。(1)体幹の固定目的にて椅子坐位を用いて日本整形外科学会による頚部の前屈・後屈・側屈・回旋の全てのROM(以下、頚部ROM)を測定する。また、振動刺激前後の頚部ROMの平均値をt-検定にて比較する。(2)椅子坐位にて頚部を動かしてもらい、主観的な変化をコメントとして聴取する。(3)安静坐位の姿勢をデジタルカメラにて撮影し、肉眼にて姿勢を観察する。振動刺激は、坐位にて左右の乳様突起へ128Hzの音叉を用いて5秒間の5回づつ加えた。【結果】振動刺激後は、(1)全ての頚部ROMで有意に拡大した(P<0.005)。特に回旋のROMにて有意水準が高かった(P<0.001)。(2)被験者9名中9名がなんらかの動きやすさを感じた。(3)大後頭顆関節での動きが大きくなることが観察された。(4)音叉での振動刺激入力中のコメントとして、1回目よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。【考察】今回の結果から乳様突起への振動刺激後は頚椎上部でのrelaxationが促され、ROM制限が軽減していると捉えることができた。これは大後頭下筋や頭斜筋などの乳様突起近辺の後頭下筋群に対しrelaxationが促され、大後頭顆関節での動きが円滑になり、ROM拡大という結果に繋がったのではないかと考えられた。また、1回目の音叉刺激よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。その背景を考えると、生理学的には、60Hz以上の振動刺激に優位に反応するパチニ小体が興奮し、ある一定の刺激量を超えたところで、膜電位の変化が起こると言われている。その膜電位の変化に伴い、筋紡錘内筋が反応し収縮した。その収縮後の弛緩としてrelaxation効果が得られたのではないかと考えられた。以上のことから、乳様突起に対し、振動刺激を入力する事で頚部の緊張に影響を及ぼすことも考えられるのではないかと示唆された。【おわりに】今後は、頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者についても検討していきたい。
著者
鈴木 郁美 神先 秀人 石山 亮介 山本 恭平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】日常生活において,私たちは様々な種類の鞄を種々の方法で持ち歩いている。運動学や力学的,筋電図学的分析に基づく先行研究では,その持ち方により身体へ種々の異なる影響を及ぼすことが報告されている。しかし,多くは重量物の運搬時の運動開始直後における測定に基づいた報告であり,日常生活にみられるような比較的軽負荷で歩行開始後ある程度時間が経過した後の評価はなされていない。本研究では,軽負荷の荷物を持ち,10分間歩き続けた際の,運搬方法の違いによる運動学的パラメーターへの影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常若年者10名(平均年齢22.2±1.03歳)である。測定課題は,体重の5%の負荷を一側の肩に鞄を掛ける方法(肩掛け)と一側の手で鞄を把持する方法(手提げ)の2種の持ち方と無負荷時(対照群)における,トレッドミル上での10分間の快適歩行とした。疲労による影響を排除するために,肩掛けと無負荷時での歩行,手提げと無負荷時での歩行を,日を変えて行った。三次元動作解析装置(VMS社製VICON-MX)を用いて,体幹,骨盤,下肢の角度変化および重心の変位を求めた。サンプリング周波数は50Hzとし,座標データに対し6Hzのローパスフィルタをかけた。解析には,歩行開始後9~10分時の連続する3歩行周期を任意に選択した。各歩行周期における体幹,骨盤,下肢の関節角度最大値と側方および上下の重心移動幅を求め,3回分の平均値を用いて,2種の持ち方と対応する無負荷時の比較を行った。統計処理は各項目において正規性の検定を行った後,対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付順位和検定を行った。有意水準は5%とした。【結果】上下方向の重心移動幅において,無負荷時には31.5±5.9mmであったのに対し,肩掛けでは34.6±4.1mmと有意に増大した。手提げでは無負荷時と比較し荷物把持側への体幹側屈角度の有意な増大がみられた。また肩掛け,手提げ両条件歩行において,無負荷時と比較し体幹・骨盤の水平面における回旋角度に有意な減少がみられた。【結論】本研究の結果,手提げ歩行時に,把持側への体幹の側屈角度の増大がみられた。このことは,軽度の負荷であっても,長く持ち続けることやその機会が増加することで,骨関節系に何らかの悪影響をもたらす可能性があることを示すものと考えられた。肩掛け,手提げの2条件において骨盤回旋運動の減少がみられたのは,荷物保持に伴う腕の振りの減少による影響が考えられた。また,肩掛け歩行時の上下方向の重心移動幅の増大は,骨盤回旋の減少による,立脚初期の重心位置の下降が原因の一つとして考えられた。今回の結果が,荷物を持って一定時間歩き続けたことによる影響であるか否かを確認するためには,歩行開始直後からの経時的変化について検証する必要性がある。
著者
徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100108, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】バランスや歩行の観点で婦人靴のヒールの高さの許容範囲を身体運動学的に評価し明らかにする.【方法】動的バランスの解析 対象:健常な女子大学生7名(年齢:21.4±0.8歳,身長:157.0±3.1cm,BMI:20.4±2.3 kg/m²,靴のサイズ:23.0cm~23.5cm)とした.測定方法:市販のスニーカーおよび婦人靴(ヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cm)の計5種類の靴をランダムに履いて,筋電計(DHK社TRAISシステム,サンプリング周波数1,000Hz)の電極を下腿三頭筋部に装着し,フォースプレート(Kistler社, サンプリング周波数100Hz)上で静止立位の状態からファンクショナルリーチテスト(以下FRT)を実施し,FRTの測定値,下腿三頭筋の筋活動量,重心動揺を同時に計測した.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.解析は,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれのFRTの測定値を比較した.FRTでの下腿三頭筋の筋活動量を比較するために,各筋電波形の計測3秒間の積算値を筋活動量とし,各被験者でスニーカーの活動量を基準にヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比率を筋活動量として算定した.FRTでの前後方向の重心移動距離をスニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比較をした.歩行パラメーターの解析 対象:健常な女子大学生18名(平均年齢:21.1±0.9歳,身長:157.8±4.2cm, BMI:20.3±1.7kg/m²)とした.測定方法:被験者に上記5種類の靴で被験者に廊下を普段歩く速さで歩くように指示して10m歩行を行わせた.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.歩行速度(m/min),ストライド(m),ケイデンス(step/min)を,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmのそれぞれについて比較した.統計学的解析はWilcoxon の符号付き順位検定にて有意水準5%で検定した.【倫理的配慮、説明と同意】学内倫理委員会で研究計画の承認を得た上で,各実験に際しては被験者に予め実験の趣旨と方法,リスクを説明し,口頭および書面による同意を得て行った.【結果】動的バランスの解析の結果,ヒール高さ10cmではスニーカーに比べFRTの値が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ7cmおよび10cmはFRTでの前後方向の重心移動距離が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ5cm,7cm,10cmは下腿三頭筋の筋活動量が高かった(p<.05).特にヒール高さ10cmの場合,筋活動が著明に高かった.歩行パラメーターの解析の結果,スニーカーに比べ,歩行速度は,ヒール高さが高くなるに従い遅くなる傾向であった.ケイデンスに差がなかった.ストライドはヒール高さ3cm,5cm,7cmでは約10cm短く,ヒール高さ10cmでは約20cm短かった.【考察】ヒール高さ10cmは,いずれの評価でもスニーカーに比べ差が認められた。このデザインの靴の場合,足関節を極度に底屈位にするためバランスや歩行の観点で実用性が著しく劣ると考える.ヒール高さ7cmは,FRTではスニーカーと差がなかったことから,今回の被験者のような若年者が履く場合,立って手を前方に伸ばすということにおいては一応可能である.その時の重心の前方移動距離を見ると,スニーカーに比べ小さいことから,FRT時に十分な重心移動ができず腰を引いた姿勢で無理をして手を前方に伸ばしていることが理解できる.ヒール高さ5cmは,FRTで手を前方に伸ばす範囲,その時の重心移動距離に差はない.足底圧測定と歩き心地,トレッドミル歩行の疲労解析をした先行研究で婦人靴のヒール高さ5cmを超えたところに限界があるとしている(細谷,2008).また,歩行時のエネルギーコストを比較した先行研究では,婦人靴のヒール高さは5cm位までを推奨している(Ebbeling CJ, et al, 1994).本研究の結果から若年者が履く婦人靴の実用的な許容高さとしてヒール高さ5cmは概ね妥当と考える.しかし,FRTでの筋電図から筋活動量を比較した結果,ヒール高さ5cmの婦人靴はスニーカーに比べ筋活動量が多いことから,長時間履くとスニーカーより疲れやすいことが示唆された.ヒール高さ3cmは,FRT,FRTでの重心の前方移動距離,FRTでの下腿三頭筋の筋活動量のいずれもスニーカーと差がなく,この点において最も推奨できるヒールの高さと考える.エネルギー代謝の観点からヒール高さを検討した先行研究では最適値は3cmとしている(石毛, 1961).本研究の結果は先行研究を追認する.一方,歩行パラメーターの評価ではスニーカーに比べ,歩行速度が若干遅くなり,ストライド小さく,やや小股で歩く傾向であった.ヒール高さ3cmの婦人靴は,動的バランスではスニーカー程度の性能があるが,歩行時はスニーカーよりストライドの小さな歩行になることが考えられる.【理学療法学研究としての意義】婦人靴によるけがや障害予防のためのユーザーへの注意喚起に必要な基礎的データを示すものとして意義がある.
著者
岩坂 憂児 大友 伸太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0338, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】観察学習は他者の運動を観察することで学習が図られるものであり,学習心理学の分野で研究されてきた。近年では運動観察学習による学習の効果の神経基盤について研究が進められている。Rizzolattiら(1988)はサルのF5領域(人における補足運動野)からミラーニューロンを発見し,これが観察学習の神経基盤である可能性を示唆した。Fadigaら(1995)はポジトロン断層法(PET)を用いた研究で人にも存在することを示唆している。したがって運動観察学習では,ミラーニューロンが活動することで,脳内で観察した運動を自動的にリハーサルし,これが技術の向上に関わっていると考えられる。Erteltら(2007)はこの運動観察を脳血管障害患者に対して介入として導入し,麻痺側の上肢機能が有意に改善したこと,また運動に関する脳領域の賦活を報告し,運動観察がリハビリテーションに有効であることを述べているが,長時間・長期間の介入を実施する必要があり,より運動観察の効果を高めることが今後のリハビリテーション導入には必要であると考えられる。運動観察学習の効果を向上させるための方法として,Maedaら(2000)は観察する動画と実際の上肢の位置が同一であるほうが効果を向上させることができることを示唆している。また,運動観察によって脳内で自動的に運動のリハーサルが起こるならば,実運動と同様に難易度を徐々に高めていく方法が有用であることが考えられる。そこで本研究は,運動観察学習における提示動画の速度変化が学習に及ぼす影響を検討するために実施した。【方法】対象者は専門学校・短期大学に在籍する学生33名とした。課題は手掌でのボール回転課題とし,30秒間可能な限り早く右手で時計回しに回転するように指示した。課題は2回実施し,回転数を測定値として採用した。その後,3分30秒の動画を視聴してもらい,同じ課題を実施した。対象者を視聴する動画ごとにランダムに3群に振り分けた。視聴する動画について3種類作成(再生速度が変化しない動画:通常観察群,再生速度が徐々に上がっていく動画:介入観察群,再生速度がランダムに提示される群:ランダム観察群)し,学生をランダムに割り当てた。統計処理にはRを利用し,二元配置の分散分析を用いた。多重比較検定にはBonferroni法を採用した。有意水準は0.05以下とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者に対して本研究の目的及び介入における効果と身体にかかる影響を文章および口頭にて説明して同意を得た。【結果】介入前後の回転数は通常観察群は30.9±10.5回から33.1±8.4回,介入観察群は35.4±10.2回から40.9±9.6回,ランダム群は30.1±8.1回から32.5±8.6回へそれぞれ変化した。分析の結果,介入前後と群間における主効果は有意差を認めたが,相互作用には有意差は認められなかった。主効果を確認したため,多重比較検定を行なったところ,介入観察群と通常観察群,ランダム観察群の視聴後における回転数に有意差が認められた。【考察】本研究は観察する動画の速度が学習効果に影響を及ぼすかを見たものである。動作観察中の脳活動は実運動と共有している部分が多く,運動観察学習の効果も実運動と似たような傾向を示す可能性が考えられる。したがって簡単な運動の観察から徐々に難易度の高い運動の観察へ変化させたほうが学習効果を高める可能性が示唆される。過去の研究では熟練した運動を観察しているときはミラーニューロンシステムと考えられる部位の活動がより賦活かされることを示している。そのため,観察学習を実施する際に単に同じ動画を観察させるよりも速度を徐々に速めるような画像を提示したほうが学習の定着が高い可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】近年,運動観察に関する効果が検討されている。本研究は運動観察を理学療法に導入し,より高い運動学習効果を保証するための新しい視点を示していると考えられる。
著者
平川 史央里 白仁田 秀一 小栁 泰亮 堀江 淳 林 真一郎 渡辺 尚
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0749, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】The Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)が報告しているCOPDに対する呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)のエビデンスにおいて,不安や抑鬱の軽減はエビデンスAと強い根拠を示している。当院においても3ヵ月間の呼吸リハを施行したCOPD78例に対し,HADS鬱の点数は初期が6.8±3.1点から3ヵ月後は5.1±3.0点(p<0.01)で,また,HADS鬱疑いである8点以上の割合も初期が38%から3ヶ月後は22%(p<0.01)と有意な改善が認められた。しかし,鬱疑いのあるCOPDは22%も継続されていることは課題である。そこで今回,鬱が改善した群と改善しない群の諸項目の変化量の比較と変化量の影響因子の検討をする事で鬱改善はどのような項目のリハ効果に影響しているのか調査した。【方法】対象はHADSが8点以上の鬱疑いのある外来COPD30例(年齢:71.8±10.6歳,BMI:22.2±4.3,%FVC:80.0±26.7%,%FEV1.0:60.0±29.9%,modified Medical Research Council scale(mMRC):2.4±1.1,COPD Assessment Test:19.3±8.9点)中,呼吸リハ実施3ヶ月後にHADSが8点未満になった(鬱改善群)13例,HADSが8点以上のままだった(鬱非改善群)17例とした。検討する項目は,症状検査はmMRC,生活範囲検査はLife Space Assessment(LSA),身体活動量検査は国際標準化身体活動質問票(IPAQ),身体機能検査は膝伸展筋力/体重比(%膝伸展筋力)と6分間歩行距離テスト(6MWT),QOL検査(St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)とした。統計解析方法は,鬱改善群と鬱非改善群の諸項目の変化量の比較を対応のないt検定を用い,また,HADSの点数の変化量と諸項目の変化量の関係をpearsonの積率相関を用いて分析した。なお,帰無仮説の棄却域は有意水準5%とし,解析にはSPSS ver21.0を用いた。【結果】2群間の実測値と比較結果は,改善群vs非改善群の順に⊿mMRCは-0.5±0.7vs-0.4±0.6(p=ns),⊿LSAは+13.2点±11.4vs+0.4±12.5点,⊿IPAQは+164.9±206.4vs+48.4±366.7(p=ns),⊿%膝伸展筋力は+9.0±11.7%vs+6.3±9.4%(p=ns),⊿6MWTは+44.6±56.1mvs+38.2±37.3m(p=ns),SGRQは-7.0±10.9vs-0.7±7.1(p<0.05)であった。⊿HADSとの相関分析の結果は,⊿mMRC(r=0.05),⊿LSA(r=-0.48),⊿IPAQ(r=-0.27),⊿%膝伸展筋力(r=0.33),⊿6MWT(r=0.12),⊿SGRQ(r=0.05)で有意差が認められたのはLSAだけであった。【考察】鬱改善群は非改善群より,生活範囲や外出の頻度,QOLの改善が高かった。その他の身体活動量,症状,身体機能は両群ともに同量の改善を示した。また,HADSの変化量には特にLSAの変化量の影響を受ける事が示唆された。鬱軽減に対して,身体活動や身体機能の改善ではなく,外出頻度向上させることが重要となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,COPDの鬱改善に関わる検討であり,COPDの鬱に対する呼吸リハの効果を客観的に示した研究である。本研究結果は鬱に対する呼吸リハプログラムのアセスメントとなる研究である。
著者
亀山 顕太郎 高見澤 一樹 鈴木 智 古沢 俊祐 田浦 正之 宮島 恵樹 橋川 拓人 岡田 亨 木島 丈博 石井 壮郞 落合 信靖
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1000, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】成長期の野球選手において野球肘の有病率は高く予防すべき重要課題である。その中でも離断性骨軟骨炎(以下,OCD)は特に予後が悪く,症状が出現した時にはすでに病態が進行していることが多いため,早期発見することが重要である。OCDを早期発見するためにはエコーを用いた検診が有効であり,近年検診が行われる地域が増えている。しかし,現状では現場に出られる医師数には限界があり,エコー機器のコストも考慮すると,数十万人といわれる少年野球選手全体にエコー検診を普及させるのは難しい。もし,エコー検査の前段階に簡便に行えるスクリーニング検査があれば,無症候性のOCDを初期段階で効率的に見つけ出せる可能性が高まる。本研究の目的は,問診・理学検査・投球フォームチェックを行うことによって,その選手のOCDの存在確率を推定し,二次検診が必要かどうかを判定できるスクリーニングシステム(以下OCD推定システム)を開発することである。【方法】調査集団は千葉県理学療法士会・スポーツ健康増進支援部主催の「投球障害予防教室」に参加した小中学生221名とした。この教室では問診・理学検査20項目・投球フォームチェック5項目の他に医師による両肘のエコー検査が行われた。OCDが疑われた選手は病院での二次検査に進み,そこでOCDか否かの確定診断がなされた。上記の記録をデータベース化し,OCDの確定診断がついた選手と有意に関連性のある因子を抽出した。この抽出された因子をベイズ理論で解析することによって,これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率を推定するシステムを構築した。推定されたOCDの存在確率と実際のデータを照合し,分割表を用いてシステムの妥当性を評価した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ条約に基づき,事前に各チームの監督,保護者に対して検診の目的,内容について説明し同意を得た。また,「プライバシーの保護」「同意の自由」「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し当日文書にて配布した。【結果】221名中17名(7.7%)の選手が,エコー上で骨頭異常を認め二次検診を受けた。結果,4名(1.8%)の選手がOCDと確定診断された。OCDに関連性の高かった問診項目は「野球肘の既往があること」「野球肩の既往がないこと」であり,理学検査項目は「肘の伸展制限があること」「肘と肘をつけた状態で上肢を鼻の高さまで上げられないこと(以下 広背筋テスト)」「非投球側での片足立ちが3秒間安定できないこと」,投球フォームチェックでは「投球フォームでの肩肩肘ラインが乱れていること(以下 肘下がり)」であった。これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率をベイズ理論を用いて推定した。推定したOCD存在確率のcut off値を15%に設定し,二次検査が必要か否かを判別し,実データと照らし合わせたところ,感度100%,特異度96.8%,陽性的中率36.4%,陰性的中率100%,正診率96.8%と高精度に判別できた。【考察】本システムは,OCDの危険因子を持った選手を抽出し,その存在確率を推定することによって,危険性の高い選手にエコー検査を積極的に受けるように促すシステムである。このシステムでは問診や理学検査を利用するため,現場の指導者でも簡便に使うことができ,普及させやすいのが特徴である。こうしたシステムを用いることで,選手や指導者のOCDに対する予防意識を高められるという効果が期待される。本研究でOCDと関連性の高かったフィジカルチェック項目は,投球フォームでの肘下がりや非投球側の下肢の不安定性,肩甲帯・胸椎の柔軟性を評価するものが含まれている。こうした機能の低下はOCDに対する危険因子の可能性があると考えられた。今後普遍性を高めるために,他団体とも連携し縦断的かつ横断的観察を進めていく予定である。【理学療法学研究としての意義】OCD推定システムを開発し発展させることで,理学療法士がOCDの予防に貢献できる道筋を開ける。今後,より簡便なシステムを確立し,無症候性のOCDを高精度にスクリーニングできれば,より多くの少年野球選手を障害から守ることが可能になる。
著者
白勢 陽子 桑原 希望 中本 幸太 木曽 波音 国分 貴徳 村田 健児 金村 尚彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0624, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】脳由来神経栄養因子(以下BDNF)は,シナプスの可塑性に関与し,記憶や学習の形成において重要な役割を果たす分泌タンパク質である。また,BDNFは,Synaptophysinなどのシナプス関連タンパクの産生を促進し,神経伝達効率を改善すると報告されている。成人期ラットに対する運動介入では,脳内の様々な領域や骨格筋でのBDNFの発現を高めることが報告されている。しかし,老齢・中年齢ラットを対象とした長期的な運動介入が神経栄養因子に与える影響は不明である。そこで,本研究では,老齢・中年齢の2群の異なる週齢のラットに対する長期的な運動介入による運動療法の効果について,脊髄におけるBDNF,Synaptophysinの発現への影響を解明することを目的として行った。【方法】Wistar系雄性ラット20匹(老齢,中年齢各10匹)を対象とし,各群を走行群5匹,非走行群各5匹と無作為に分類した。走行群は小動物用トレッドミルを使用し,60分を1日1回,週5回,4週間の運動を行った。実験終了後,脊髄(L3-5レベル)を採取し,凍結包埋し厚さ16μmで切片作製を行い,一次抗体としてBDNF,Synaptophysin,二次抗体としてDylight488,Alexa546を使用し,蛍光免疫組織化学染色を行った。観察した切片は画像解析ソフトで解析を行い,脊髄横断切片の単位面積当たりの積算輝度を算出した。算出された値を比較するために一元配置分散分析を用い,Tukey法による多重比較を用いた(有意水準5%未満)。【結果】BDNFの単位面積当たりの積算輝度は,老齢群の走行群(8.69),非走行群(9.20),中年齢群の走行群(13.89),非走行群(7.93)であり,老齢群では両群に差はなかったが,中年齢群では,走行群は非走行群と比較して増加傾向であった。Synaptophysinの単位面積当たりの積算輝度は,老齢群の走行群(2.22),非走行群(1.79),中年齢群の走行群(4.26),非走行群(0.84)であり,中年齢群では,走行群が有意に増加した(p<0.01)。老齢群では,走行群が非走行群に比べ増加傾向であった。【結論】老齢群では,運動によるBDNFの増加はみられなかったが,Synaptophysinは増加傾向であった。中年齢群では,運動によってBDNFは増加傾向となり,運動によりSynaptophysinが有意に増加し,神経伝達効率が高まり活性化が図られた。週齢の影響では,加齢に応じて神経活性化の程度が異なり,中年齢群のほうが老齢群に比べて,神経活性化の度合いが高かった。Synaptophysinは神経小胞体の中にあり,神経伝達に関与している。運動により,Synaptophysinが増加することで,神経の伝達効率が高まったと考えられる。しかし,週齢により,運動による神経活性化の度合いの違いが明らかとなり,個別的運動介入の必要性が示唆された。
著者
西川 正一郎 平 勝秀 松田 洋平 藤井 隆文 朽木 友佳子 西廼 健 南口 真 下代 真也 今村 裕之 池内 裕貴子 新立 勇一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】急性期の臨床現場におけるリスク管理は,卒後教育の中でも知識や経験と現場判断が問われるスキルである。我々は,第50回日本理学療法学術大会において,臨床現場における現場対応の教育について「当院理学療法訓練室における急変時対応のシミュレーション訓練の試行」を発表した。今回,続報として新たなシミュレーション教育の結果を得たので,考察を加えて報告する。【方法】当院理学療法課スタッフ57名に対して,昨年同様の緊急時対応に関するアンケート調査とシミュレーション練習(シナリオを3パターン用意し,患者役,セラピスト役に振り分け急変対応手順を行う)に加え,新たなシミュレーション練習を追加した。昨年は,急変対応を行う前提の状況下で訓練を行ったが,今回はスタッフへ事前連絡を行わず当課会議中に1人のスタッフが急変する設定(以下,突発的な状況下)で行った。評価は周辺スタッフに応援を呼ぶまでの時間,Drハート(救急対応応援要請の全館放送の隠語)要請までの時間,搬送用意までの時間を計測した。【結果】アンケート結果に昨年と大きな変化は見られず,シミュレーション練習や急変対応に関する知識向上の勉強会などを行っても,臨床現場では常に急変時に対する不安は強い結果であった。突発的な状況下におけるシミュレーション練習では,異常に気付くまでに22秒であったが,その後は応援要請まで1分20秒,搬送用意まで3分を要した。昨年と同様のシミュレーション練習では応援要請は3パターンとも2秒以内に行い,応援に駆け付けたスタッフがバイタルやストレッチャーの用意など的確に行うことが出来ていた。練習風景は動画にて撮影し,後日参加スタッフにフィートバックと対応行動に関する意見交換と室内における物品や施設設備のレイアウトを再考した。【結論】当院では昨年よりシミュレーション練習を行い,臨床の場における急変場面が実施から1年で3度遭遇したが,当該スタッフは異常に気付いた時点で周りに応援を呼ぶ行動が行え,スタッフ全体も協力する体制や配慮が行える環境であった。シミュレーション練習ではアクシデントに遭遇しなかったスタッフもいたが,教育心理においてはモデリングが有効であり類似した事象に対する,模倣,同一視,内在化,環境学習などが習得となる。今回の突発的な状況下の練習結果は,昨年行われた練習を観察学習した者と直接経験した者の両者とも,経験における選択的強化による学習成果が得られていると考えられる。平成27年10月より施行されている医療事故調査制度では,診療の記録や実施内容の調査報告が必要であり,急変時のバイタルや意識レベルなど医学的状況の把握の正確性が求められる。我々理学療法士のリスク管理に対する知識と経験は社会的責任であり,今回の研究,研修内容は今後の理学療法教育に必要な知識であると考えられる。
著者
玉利 光太郎 Kathy Briffa Paul Tinley
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O1136, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】わが国の50歳以上人口における変形性膝関節症(以下膝OA)の有病率は,男性では約44%,女性では約65%と報告されている.これは欧米諸国と比較してもより高い割合であることが示唆されているが,その理由は明らかになっていない.また50歳以上では,女性が男性に比べ高い発生率を有し,70歳代に限るとその数は1/100人年まで上昇する.これらの疫学的数値は,膝OAに対する治療のみならず,発生予防・重症化予防の重要性を示唆している.また肥満や過去の膝受傷歴等の危険因子に対する取り組みだけでなく,文化的差異や性差を念頭においた関連因子の探索が重要である.近年は横断面上の下肢マルアライメントや股関節モーメントの異常と膝OAとの関連が指摘されているが,理学療法において日常的に取り扱われる下肢回旋可動域と膝OAとの関連についてはいまだ不明である.そこで本研究では,下肢回旋可動域と膝OAとの関連,およびその性差・人種差を明らかにすることを目的とし,以下の調査を実施した.【方法】対象は,日本または豪州在住の50歳以上の健常者86名(うち男性33名,白人34名,),膝OA者202名(うち男性69名,白人102名,)であった(平均年齢±標準偏差:健常群67.5 ± 9.4歳,膝OA群69.5 ± 8.1歳,p=0.07).測定変数は股関節および膝関節外旋,内旋可動域(以下それぞれ股・膝外旋,内旋)とし,電子傾斜計を用いて測定した.なお大腿骨・脛骨の捻転角度や,膝関節・足関節・足部の動きが上記可動域値へバイアスを与えることが報告されているため,これらバイアスを除く方法を考案し股・膝内外旋を測定した(検者内信頼性ICC=0.74-0.96).データの分析には三元配置の分散分析を用い,有意水準αは0.05とした.【説明と同意】本研究はCurtin University of Technologyの倫理委員会の承認を得て実施した.各被験者には紙面で研究内容を説明し,同意書を得た.【結果】分析の結果,膝OA群の股外旋は健常群に比べ有意に小さく(Δ=5.8度,p=0.004),[性別]×[膝OAの有無]には有意な交互作用が認められた(p=0.049).すなわち,男性においては健常群,膝OA群の股外旋に差は認められなかった一方,女性においては膝OA群の股外旋が有意に小さかった(Δ=8.4度,p<0.001).股内旋において健常群と膝OA群に違いは認められなかったが,[人種]×[膝OAの有無]に交互作用が認められた(p=0.002).すなわち日本人においては膝OA群の股内旋が小さい傾向が認められたが(Δ=3.6度,p=0.078),白人においては膝OA群の股内旋が有意に大きかった(Δ=5.0度,p=0.029).膝OA群の膝外旋は健常群に対して有意に小さい値を示したが(Δ=2.5度,p=0.005),膝内旋には両群間に違いは無かった.また膝外旋,内旋ともに交互作用は認められなかった.【考察】本研究結果より,膝OAと下肢回旋可動域には関連があり,股回旋と膝OAとの関連には性差または人種差が存在することが示唆された.特に膝OAを有する女性の股外旋は健常者に比べ明らかに小さい一方,男性ではほぼ同等であることが示唆された.下肢回旋可動域と膝OAとの関連について調査した先行研究は少ないものの, Steultjensら(2000)は129名の膝OA患者の下肢関節可動域と障害度との関連について調査を行なっている.その結果股関節の外旋,伸展,および膝の屈曲可動域の減少と障害度が有意に関連していたと報告している.これは膝OA者の日常生活における活動減少が,股外旋を含む可動域制限を導いている可能性が示唆される.同時に,本研究では股外旋制限が女性膝OA者で強く認められたことから,女性に多く見られる膝OAの関連因子として股外旋が何らかの役割を担っている可能性もある.本研究は横断的デザインのため因果関係については言及できず,また対象者のうち健常男性、健常白人数が少ないため結果の一般化に限界がある.今後は,縦断的に股外旋と膝OAとの関連について調査して行く必要がある.【理学療法学研究としての意義】日本人や女性に多く認められる膝OAの特徴を二カ国にまたがって調査した研究はまだ少なく,膝OAと股関節可動域に関する性差を報告した研究は無い.膝OA者において通常症状を有さない股関節にも可動域制限があることを示したことは,臨床理学療法学を構築していくためのひとつのエビデンスになると考える.
著者
河合 成文 中川 勝利 中川 大樹 土橋 孝政 小林 千恵子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>近年,共働きや少子高齢化により近隣同士の繋がりや,新旧住民の交流,多世代の交流,さらに家庭内でも交流が減少傾向である。各家庭で多くの介護問題を抱えている現状がある。奈良県橿原市では,「地域の課題は,地域自らが解決する」との観点から,市民が自主的かつ自発的に取り組む公益性のある活動や社会貢献活動を支援しており市民活動の活性化を図るとともに,市民と行政とが協働して地域課題の解決に取り組み,住民サービスの向上を目指している。今回,イベントを通し橿原市,行政,企業,住民同士,自治会,近隣の商店に至るまでの広くて強い繋がりをつくる事を最重要目的とした。地域全体で助け合える地域力向上を目指し,その第一歩として,海のない奈良県で海の日に「第1回橿原ウォーターガンバトル」を実施した。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>地域で暮らす現役子育て世代を中心に34名で橿原市から公認された市民活動団体(WAKUWAKU@橿原)を立ち上げた。キャラクターを作成し,ポスターを市内の商店や遊技場,施設などに設置した。SNSを使い参加の募集をした。競技は,5人で1チームとし,子供,大人の部をそれぞれ16チーム,未就園児40名の計200名が参加。勝敗は,頭にポイを装着し,制限時間は2分間とし水鉄砲で打ち合い破れると負け。最終,コートに残った人数が多いチームを勝ちとした。昼食は地域の名店街などでとってもらい交流を図った。コート横に応援スペースを設置した。大会開催場所は橿原市資産経営課に使用許可を得て県立橿原文化会館前広場で実施した。さらに県立橿原文化会館の更衣室,控え室,トイレも使用許可を得た。使用する水は,橿原市水道局と連携し,競技用の水を給水車から直接使用。さらに防災意識の啓発活動も実施。イベント終了後に参加された方や孫を見に来た方にアンケートをとった。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>応援スペースには孫を見ようと自ら会場まで足を運ぶ高齢者の方が多く,直接外に出ようというのではなく,2次的に外出意欲がでることが分かった。アンケートからは①家族で話す時間が増えた②近隣の人と話をするいい機会になった③近所にある飲食店やお店を知った④市役所や行政の方と話がしやすくなった⑤相談窓口などの存在を知った⑥楽しかったので是非来年も参加したいという意見が多かった。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>橿原市,橿原市教育委員会,橿原市水道局,近鉄八木駅前商店街振興会,近鉄八木駅名店街,橿原市市民協働課,橿原市資産経営課,橿原市水道局,奈良県中和保健所,橿原警察署,橿原消防署と我々理学療法士含め,地域住民が関わることで,市役所や行政の職員とも話がしやすくなったのではないかと考えられる。近隣でも介護の工夫などを共有することや,助け合える関係に近付いたと考えられる。来年はシニアの部や障がい者の部も実施し,地域住民が顔見知りで相談できる環境になり,地域力向上に繋がると考えられる。</p>
著者
佐藤 慎也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0717, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,海外のスポーツ分野を中心に高周波治療器Tecnosix-Red Coral(以下,Tecnosix)が用いられている。この機器の特徴として,導子によって熱の深達度を変更することが可能である。capacitive modeでは水分含有量の多い表在組織に対して有効であり,resistive modeは水分含有量の少ない深部組織に対してより有効であると考えられている。先行研究では,Tecnosixによる温熱刺激は表面・深部温度を上昇させると報告されているが,臨床的効果に関する報告は少ない。そこで,本研究はTecnosixによる温熱刺激方法の違いが組織の伸張性と硬度に与える影響について検討した。【方法】健常学生32名(男性16名,女性16名)を対象とした。高周波治療器Tecnosixを使用し,実験条件はcapacitive照射群,resistive照射群,ダミー照射群,control群(以下,cap群,res群,ダミー群,cnt群)の4群とした。まず被験者に足関節柔軟性の計測を一度練習させた後,5分間の馴化時間をとり,照射前の計測を実施した。さらに5分間の馴化時間を設けた後,それぞれの条件で照射を実施した。照射部位は右下腿三頭筋筋腱移行部とし,導子に専用のクリームを塗布した後,ストローク法で照射を実施した。周波数は1000kHz,照射出力は50~55%とした。照射中は「Dose」による主観的温熱感を聴取し,DoseIIIが10分間維持できた時点,また照射開始から15分間経過した時点のいずれかで照射終了とした。表面温度の計測はサーモグラフィーFSV-1100を用い,照射前計測終了後の馴化時間から照射終了時まで行った。軟部組織硬度の計測にはNEUTONE TDM-N1を用いた。足関節底背屈中間位で腹臥位をとらせ,計測部位は右下腿三頭筋筋腱移行部とした。計測は照射前および照射後にそれぞれ5回ずつ行い,最大値と最小値を除いた残りの数値の平均値を各計測値とした。足関節柔軟性の計測はBennelらが考案した,Dosal Flexion Lungeによる壁から第一趾間距離の計測方法を用いた。足関節柔軟性および軟部組織硬度について前後差を求めた後,Kruskal-Wallis検定およびSteel-Dwassによる群間比較を行った。なお,統計学的有意水準は危険率5%未満を有意差あり,10%未満を有意傾向ありと判断した。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に対し本研究の目的について十分に説明し,文書にて同意を得た。なお,本研究はすべてヘルシンキ宣言に基づいて実施した。【結果】表面温度は照射群において,クリーム塗布後の温度低下とその後の温度上昇を認めた。さらに,照射群においてDoseIIIを維持することが可能であった。軟部組織硬度の前後差はcap群-1.96±1.33N,res群-2.46±1.75N,ダミー群-0.67±2.44N,cnt群1.00±1.69Nであった。cnt群と比較しcap群(p=0.02)およびres群(p=0.02)にて軟部組織硬度の低下を認めた。足関節柔軟性の前後差は,cap群8.13±8.63mm,res群9.75±6.11mm,ダミー群8.88±7.00mm,cnt群0.13±12.36mmであった。cnt群と比較しres群(p=0.07)およびダミー群(p=0.06)にて足関節柔軟性の増加傾向を認めた。【考察】先行研究ではcap群,res群ともに約3℃の表面温度上昇が認められているが,本研究においてはcap群で約7℃,res群で約5℃の上昇が認められた。また,照射群でDoseIIIを維持することが可能であった。これより本研究では,出力を調節したことでより高い温熱効果をもたらすことが可能であったと考える。軟部組織硬度についてはcnt群に対し,cap群,res群で軟部組織硬度の低下が認められた。先行研究より温熱刺激はコラーゲン線維の伸張性を高め,軟部組織硬度の低下に作用することが報告されており,本研究においても類似した結果が得られた。足関節柔軟性について,本研究ではcnt群に対しres群,ダミー群で足関節柔軟性が増加する傾向を認めた。先行研究では,温熱刺激によって筋の伸張性が改善したと報告されており,本研究においてもこれに近い結果が得られたと考える。また,軟部組織に対する触圧刺激はマッサージ効果をもたらすと報告されている。本研究では導子による触圧刺激がマッサージ効果につながった可能性が示唆された。そのため,Tecnosixでは温熱効果だけでなく,導子によるマッサージ効果も期待される。【理学療法学研究としての意義】Tecnosix照射は軟部組織に対し,温熱効果を発揮することが知られているが,エビデンスは少なく,本実験はその効果を立証するものである。また,被験者の主観的温熱感に基づき出力を調節することで,より高い温熱効果をもたらす可能性が示唆された。今後,他の物理療法機器との比較や温熱以外の効果についても検証していく必要がある。なお,本実験における利益相反はない。