著者
上田 周平 鈴木 重行 片上 智江 堀 正明 水野 雅康
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BaOI2019, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】頭頚部の運動は環椎後頭関節を中心とする頭部の運動と下位頚椎を中心とする頚部の運動から規定される(Hislop H.J.2002)。頭頚部のアライメントの相違は咽頭、喉頭などに形態的差異をもたらし嚥下機能に密接に関与すると報告されているが、頭頚部の関節可動域(以下ROM)を頭部と頚部に分け嚥下機能との関連性を検討した報告はみられない。我々は第45回本学術大会において施設入所中の50名の高齢者を対象に誤嚥性肺炎の既往の有無で頭頚部のROMを比較し、複合(頭部+頚部)屈曲には差はないが、誤嚥性肺炎群では頭部屈曲ROMが低値であることを報告した。そこで本研究は、嚥下機能の変化に伴い複合屈曲と頭部屈曲のROMにどのような変化が見られるのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は嚥下障害でリハ依頼のあった者のうち、才藤らの嚥下障害の臨床的病態重症度分類(以下class)で4以下の障害を有し、急性期の脳血管障害、腫瘍などによる通過障害、臥位で頭部が床面に接しない円背の者を除外した36例(男性20例,女性16例,平均年齢84±8歳)とした。リハ開始時と最終時に嚥下機能はclass、改訂版水飲みテスト、食物テストを指標として評価した。また頭頚部機能は頭部屈曲と複合屈曲のROM、舌骨上筋機能グレード(以下GSグレード)、相対的喉頭位置(吉田.2003)を評価した。リハ開始時と比較して最終時に嚥下機能の評価指標のいずれかが1ランクでも改善が見られた者を改善群とし、それ以外の群(不変・悪化群)との2群に分類し、頭頚部機能を比較した。なお入院期間中は全例PT、STによる介入を行った。ROMの測定肢位はベッド上臥位とし、他動運動にて最大角度と可動範囲を測定した。頭部屈曲の最大角度は外耳孔を通る床からの垂直線と外眼角と外耳孔を結ぶ線とのなす角(A角)の最大値、可動範囲は最大角度に開始肢位でのA角を加えた角度とした。複合屈曲の最大角度は肩峰を通る床との平行線と肩峰と外耳孔とを結ぶ線とのなす角(B角)の最大値、可動範囲は最大角度から開始肢位でのB角を引いた角度とした。測定にはデジタルカメラを用い、カメラが被検者と平行になるように三脚に固定して撮影を行った。その後データをPCに取り込み画像解析ソフトImage J(NIH)を用いて角度を算出した。統計学的手法は群内の比較には対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位検定、2群間の比較には対応のないt検定、Mann-Whitneyの検定を用い、危険率5%未満を有意水準とした。【説明と同意】対象者またはその家族には研究の主旨を十分に説明し、研究に参加することへの同意を得た。また本研究は所属機関の倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】最終評価後の嚥下機能は改善群18例、不変・悪化群18例であった。両群間で基礎データ(年齢,性別,リハ開始時と最終時Barthel Index,脳血管疾患既往の有無,入院からリハ開始までの日数,入院期間,リハ日数)に差を認めなかった。群内の比較は改善群では頭部屈曲の最大角度と可動範囲、複合屈曲の最大角度と可動範囲に有意な増大を認めた。不変・悪化群では複合屈曲の最大角度と可動範囲、GSグレードに有意な増大を認めた。2群間の比較では最終評価時の頭部屈曲の最大角度と可動範囲、リハ開始時と最終評価時のGSグレードが改善群で有意に高値であった。【考察】頭頚部機能として評価した相対的喉頭位置は群内、群間ともに差を認めなかった。この指標は吉田らが脳卒中患者を対象に検討を行っている指標であり、今回のような高齢なADLの低い者では両群とも高値を示しており、嚥下機能を反映しないことが考えられた。GSグレードにおいては改善群では群内の変化は認められなかった。不変・悪化群では有意な増大を認めたが、リハ開始時、最終評価時ともに改善群が不変・悪化群と比較し有意に高値を示しており、先行研究と同様に舌骨上筋群の機能が嚥下運動に影響を与えることが示された。ROMに関しては改善群では複合屈曲、頭部屈曲ともに改善を認めたが、不変・悪化群では複合屈曲のみ改善を認めた。頭頚部屈曲の効果には舌圧の増加、嚥下後喉頭蓋谷残留の減少、喉頭閉鎖不全の代償などが報告されているが、報告者により複合屈曲、頭部屈曲が混在している状況である。しかし今回の縦断調査の結果から治療における頭部屈曲へ対する介入の必要性は明確になったと考える。【理学療法学研究としての意義】高齢嚥下障害患者の嚥下機能改善の為の介入を行ううえで、また悪化させないように維持するうえで注目すべき頭頚部機能として頭部屈曲ROMがあげられることが示唆された。
著者
木村 朗 水池 千尋 大城 昌平 吉川 卓司 甲賀 美智子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D1191, 2005

【目的】近年、生活習慣病を有す高齢片麻痺患者の維持期では新たに動作障害に応じた身体活動量の増加が求められている。生活習慣病は生理学的指標のバイアスになる。そこで、本研究は、生理学的指標を用いずに動作の加速安定性から定常状態を評価するための条件を探った。リズムに合わせた動作指導時の時間要因と、3方向の動作軸の空間要因が動作時間と加速度へ及ぼす影響を明らかにすることを目的として調べた。<BR><BR>【方法】介護老人保健施設に通所する測定協力に同意が得られたCVA発症後5年以上経過した年齢が70歳から83歳の片麻痺患者5名(男性3名、女性2名)をランダムに選んだ。ステージは上肢4、手3、下肢4。手順は被験者にイス座位で加速度センサー(microstone、MVPA305)を正中位に両手保持し、肘を90度屈曲位にしたまま左右に体幹を回旋するよう指示した。次いで、ラルゲットテンポ(66Hz)の <I>リンゴの唄</I>を頭部後ろから聞き取らせ、60秒間、唄のテンポに合わせ左右に最大回旋するよう指示した。5ms時からの最初の5動作と最後の直前の5動作49510ms時までのxyz軸方向の反復動作時間(加速度のピークからピークまでの時間:PPD)とピークの加速度を測定した。初期vs定常期(時間要因:TF)と前後-上下-水平:xyz方向要因(空間要因:SF)がPPDおよび加速度に及ぼす影響をANOVAで調べた。<BR><BR>【結果】開始初期のPPD(平均±SD単位はms)、 前後:1047.5±105.2、上下:2076.2± 54.5、水平:2071.2±59.7定常状態期のPPD前後:1072.5±441.9、上下:2093.7±45.8、水平:108.70+/-51.2。開始初期の加速度(平均±SD単位はm/sec<SUP>2</SUP>)前後:5.7±.6、上下: 8.8±.9、水平:14.6±.9定常状態期の加速度、前後:6.7±.9、上下:8.7±1.2、水平:15.0±1.0。ANOVAの結果:PPDのTF:ns、SF:p<0.001。Tukeyは95%CIがx-y:-1268.0から-781.9、y-z:-248.0から238.0(ns)、x-z:-1273.0から-786.9であった。加速度のTF:ns、SF:p<0.001。Tukeyは95%CIがx-y:-3.6から-1.4、y-z:-9.6から-7.4、x-z:1.4から3.6。nsを除き、p<0.01。<BR><BR>【考察】被験者は意識的に体幹の回旋とリズムを合わせようと指示され、肘が体幹に固定されているため上下の動きで随意的努力が少なく済み、水平の動作では四肢の片麻痺でも体幹が両側支配で、座位での体幹回旋は、四肢に比べ麻痺の影響が少ないためにリズムに合わせることが可能であったと考えられる。注意を促さない前後の動きで加速が定常期に増えるのは動作の継続を可能にするための身体効率を高める何らかの自動制御機構の関与が加わる可能性が考えられる。<BR><BR>【まとめ】座位体幹回旋エアロビクス運動では定常状態に至るにつれ前後方向の加速度はリズムを反映しないで増加する。この<B>揺れ増加現象</B>に注意して指導する必要があろう。
著者
山口 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P3271, 2009

【目的】拘縮は、我々理学療法士が日々の臨床において古くから最も頻繁に出くわす代表的な障害の一つであり、それ自体が患者にとって大いに苦痛であると同時に、日常生活において多大な不具合をもたらす.拘縮の病態は時代を追うごとに解明されてきている一方で、その予防に関しては本邦の臨床現場において充分な効果が得られていない現状がある.特に、脳血管疾患や中枢神経系難病によって重度の障害を負った患者において顕著である.こういった問題意識から、リハビリ及びケアの分野において先駆をなす国の一つであるスウェーデンにおける中枢神経疾患患者に対する拘縮予防のあり方について知るべく、同地を訪れて事例を調査して考察を加えたので報告する.<BR><BR>【方法】2000年から2008年にかけて、スウェーデンの複数の自治体において、主に回復期にあたる患者が滞在しているリハビリセンター、いわゆる維持期の障害者が暮らすサービスアパート、ケア付き特別住宅、住み慣れた自宅といったさまざまなシテュエーションで、以下に掲げる何れも痙性の強い患者に対する拘縮予防のための療法内容を抽出した.<BR><BR>【結果】いずれの患者も機能障害は重度であったが、拘縮はごく軽度に抑えられていた.そこで、拘縮予防に繋がるメニューを抽出した.1.療法士による定期的な治療だけでなく、ケア看護師(日本における准看護師に相当)によってケアの一環として日々におけるルーティーンのリハビリが施行されていた.2.体幹及び四肢における万遍ない持続的なストレッチングが施されるように工夫して療法士によって作成されたリハビリメニューが、ケア看護師やその他のケアスタッフにより励行されていた.3.手関節、手指、足関節といった拘縮を特に引き起こしやすい部位に対しては、拘縮予防を目的とした各種装具が医療的治療の一環としての扱いで無料もしくは極安価で処方されていた.4.オイルを用いた充分な時間(30分程度)をかけてのマッサージも拘縮予防を目的として無料で処方されていた.5.数十分に及ぶプール療法も、必要と判断されれば一般的に処方されている.6.大型の専用機器(レンタル代は無料)を用いた立位練習が自宅内において日常的に行われていた.<BR><BR>【考察】先行研究において、持続的なストレッチングは拘縮の予防に効果があるとされている.今回スウェーデンで経験した症例におけるリハビリの特徴は、生活のあらゆる場面において身体の各部位がストレッチングされる機会が確保されるように療法内容が工夫されている点にあると考えられた.こういった療法を施行できる背景には、保健医療法(HSL)という法制度面による裏付けがあることも明らかとなった.
著者
米ヶ田 宜久 中島 喜代彦 松本 貴子 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1584, 2009

【目的】<BR> 当学院において本年度より地域貢献事業の一環として、転倒予防教室を開催している.内容は転倒に関するアンケート調査・おたっしゃ21によるリスク判定・運動機能検査・1時間程度の講話を行っている.特に参加者に自らの身体状態をできるだけ把握してもらうため、各種検査結果の迅速なフィードバック(以下FBとする)を重視している.そこで、迅速なFBを可能にする為に、Microsoft社のExcel2003(以下Excelと する)を用いて運動機能検査に関する結果の入出力方法を確立したので、検査内容並びに、その手法を報告する.<BR>【方法】<BR> FBする内容は1.血圧・脈拍・BMI等の基本情報、2.握力・下肢筋力、3.ファンクショナル・リーチテスト・外乱負荷・片脚立位を用いたバランス検査、4.歩行能力検査として5m歩行・Time up and Go testである.各種検査は東京都老人総合研究所の測定方法に則して行う.これらの測定結果を講話中に入力し、参加者個人毎にプリントアウトを行う.それらを参加者1人1人に直接、理学療法士が結果の説明を行っている.<BR>ソフトは結果入力シートと結果出力シート、判定用シートで構成される.測定データを結果入力シートに順次入力を行うと、身体運動機能のランクが結果出力シートに瞬時に表示される.ランクは5段階で数値の他に「注意が必要です」「非常に良い結果です」等のメッセージも同時に出力される.カットオフ値は判定用データシートに入力されており、性別・年齢の違いが適宜選択されるように設定されている.また、各々の検査種別の転倒危険境界点と測定結果を比較したグラフも出力され、これらのカットオフ値・メッセージ等は自由にカスタマイズが可能な仕様となっている.<BR>また、各々のデータは1つのExcel ファイルとして保存される.このファイルに保存されたデータを自動処理で読み取り、一覧表にするためのソフトもVBA(Visual Basic for Applications)を用いて開発した.このソフトにより結果をまとめる作業が不要となり、個人データの入力後すぐに統計処理等を可能とした.<BR>【結果と考察】<BR> Excelを用いることで、現在のITスキルを用いたデータの活用が容易となる.つまり直感的な操作を可能とするデータの入出力形式にしたことで、さまざまな病院・施設で簡易に使用でき、誰でも容易にデータの入力・出力が可能であることと、統一性および統合性をもったデータの処理とその蓄積が可能となった.<BR> 今後は利便性の向上を目的に無線LANを利用し、検査をしている現場でデータを入力し、結果の出力を可能にするシステム構築を目指す予定である.
著者
杉本 紘介 道口 康二郎 佐原 由希子 深堀 ユリエアリーシア 南 太貴 川越 陽介 酒井 康成 江島 美希 請田 咲紀 山下 将毅 井上 美沙 田村 美由紀 橋本 誠 力武 宏樹 松田 朋子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1028, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】超高齢社会を迎え,高齢者においては栄養状態の評価や栄養状態改善への取り組みが注目されており,低栄養状態は創傷治癒の遅延だけでなく入院期間の延長や死亡率にまで影響すると言われている。理学療法の臨床においても低栄養状態により動作レベルが制限され,身体機能や各種動作,ADL等に影響を及ぼすケースがあり,転帰先への影響も考えられる。そこで高齢者の低栄養状態を判断する一つの指標である血清アルブミン値(以下Alb)が転帰先に対して影響しているのではないかと考えた。本研究は,当院回復期病棟入院患者を対象に入退院時のAlbを用いて比較検討を行い,また動作等への影響を調べるためFIM,日常生活機能評価との関連性を調べたので報告する。【方法】対象は平成24年6月から1年間で当院回復期病棟に入院した70歳以上の運動器疾患30名,脳血管疾患14名,廃用症候群(術後・肺炎等)36名の計80名(男性26名,女性54名),平均年齢84.79±5.69歳である。方法は入退院月のAlb,FIM,日常生活機能評価を用いて,自宅及び施設に退院した自宅施設群と転院やその他であった転院他群を比較した。FIM,日常生活機能評価の入退院月は自宅施設群63名(平均年齢84.7±5.51歳,男性15名,女性48名),転院他群は17名(平均年齢85.12±6.52歳,男性11名,女性6名)であった。Albは検査した対象者のみの比較であるため,入院月は自宅施設群59名(平均年齢84.64±5.47歳,男性15名,女性44名),転院他群16名(平均年齢85.13±6.73歳,男性10名,女性6名)であり,退院月は自宅施設群22名(平均年齢85.14±5.63歳,男性11名,女性11名),転院他群16名(平均年齢86.06±5.4歳,男性10名,女性6名)であった。また対象者の入院期間内の総評価数を用いてAlbとFIM(評価総数n=143),Albと日常生活機能評価(評価総数n=140)の関連性を求めた。なお解析ソフトはSTAT VIEWを使用し,入退院月の比較はMann-WhitneyのU検定とt検定(対応なし),各項目の関連性はSpearmanの順位相関にて解析した。有意水準は全て5%とした。【説明と同意】本研究は所属の倫理委員会の承認を得て,患者・患者家族に研究の目的・方法を十分に説明した上で協力の可否を問い,同意書にて同意を得た。【結果】Albでは,入院月では自宅施設群(中央値3.4g/dL)が転院他群(中央値2.85g/dL)に比べ有意に高い値を示した(p<0.001)。また退院月でも自宅施設群(中央値3.2g/dL)が転院他群(中央値2.7g/dL)に比べ有意に高い値を示した(p<0.05)。FIM,日常生活機能評価では,入院月・退院月ともに自宅施設群が有意に高い値を示した(全てp<0.0001)。Albとの関連性では,FIM(相関係数0.375,p<0.0001),日常生活機能評価(相関係数-0.327,p<0.001)と有意な相関関係が認められた。【考察】先行研究では退院時のAlbにおいて自宅退院群が非自宅退院群に比べ有意に高値を示した報告がある。本研究では,退院月は栄養状態に問題のある対象者のみの検査結果ではあるが同様の結果を示した。さらに退院月だけでなく入院月のAlbが自宅や施設退院につなげる因子の一つであることが示唆された。またFIM,日常生活機能評価に関しても同様に入院時から能力が高い方が自宅や施設へ退院できる要因と言える。Albとの関連性では有意な相関関係が認められ,AlbがFIMや日常生活機能評価に関係している結果も得られた。Albは骨折,手術及び点滴,輸液などで低値を示す。つまり急性期から回復期へ転院する際の値が後の転帰先に影響を及ぼしていることになる。超高齢社会が進む中,理学療法においても在宅復帰を実現するためには,基本動作やADLなどの動作能力や認知機能の向上とともに高齢者の低栄養状態の改善を考慮し,急性期から他職種との連携による栄養状態の把握や積極的な介入が必要だと考える。【理学療法研究としての意義】超高齢社会が進む中,高齢者の栄養状態は理学療法を実施する上でも把握する必要がある。AlbがFIMや日常生活機能評価と関連性は認められたが,相関係数としては低い値であった。今後は各評価項目の中で何に対して影響が大きいのかを調べていくことで,栄養状態と基本動作能力やADL能力,認知機能など踏まえて適切な予後予測につながっていくと考える。
著者
坂本 慎一 平尾 浩志 飯星 雅朗 国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1315, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】近年、呼吸器疾患患者の運動療法において体幹機能や姿勢制御機構を基にした報告がなされている。また呼吸に深く関与している横隔膜や腹横筋が体幹の安定化と呼吸の維持を図る二重作用についても言及されている。今回、熊本大学形態構築学分野のご遺体にて、腸骨筋と腹横筋が広範にわたり連結しているのを確認した。また腹横筋と横隔膜の関係においても、横隔膜の後方部にて腹横筋筋膜より起始しているのを確認でき、横隔膜肋骨部は肋骨弓より起始しており、また腹横筋も肋骨弓より起始している。上記より、横隔膜の張力を効果的に発揮させるためには、腸骨筋と腹横筋における腹部の固定性が重要になると推察した。そこで、腸骨筋と腹横筋の連結に着目し、腸骨筋へのアプローチを行うことで呼吸機能への影響の有無を検討した。【解剖所見】腹直筋は起始、停止とも遊離、外腹斜筋、内腹斜筋も遊離し外方に翻してあった。腹横筋は、肋骨弓部を起始より遊離し、停止部は腹直筋鞘の正中部で左右に翻してあった。腹部内臓は摘出し、体壁筋のみが存在した状態で観察を行った。また、骨盤腔においても恥骨を除去し、ある程度骨盤壁を左右に翻せる状態であった。その状態で、腹横筋の起始部と腸骨筋の起始部を観察した。通常腸骨筋は腸骨窩とされているが、観察した遺体では、すべて腹横筋の腸骨稜内唇の起始部と同じ所より起始していた。腹横筋との連結は筋線維の連結はなく、筋膜および骨膜を介して行われていた。【対象】理学療法学科1年から3年までの健常学生17名(男性15名、女性2名、平均年齢23.1歳)を被検者とした。【方法】呼吸機能計測はMICROSPIRO HI-701(日本光電)を用い、腸骨筋へのアプローチの前後で計測した。計測項目は肺活量(VC)、呼気予備量(ERV)、吸気予備量(IRV)、努力肺活量(FVC)とした。腸骨筋へのアプローチは、端坐位を取り両上肢にて坐面を押さえることで上体を固定した姿勢にて、股関節の屈曲運動を行わせた。また、腹部内臓の影響を避けるため測定は全例、昼食より4時間空けて行った。上記の測定データをWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準を5%として解析を行った。また、解析ソフトはStatViewを用いた。【結果および考察】VC値においてアプローチ前(4.69±0.16L)とアプローチ後(4.78±0.17L)で有意な増加が見られた(P<0.05)。VCの増加は17名中12名に認めた。その他の項目について有意差は認めなかった。遺体の解剖所見に基づき今回腸骨筋にアプローチを行い、呼吸機能の測定を行いVC値に変化が見られた。この結果より腸骨筋と腹横筋の関係が腹部体壁の固定性を高め、横隔膜の張力を高める可能性が示唆された。このことより、腸骨筋へのアプローチが呼吸機能へ影響すると考えられる。
著者
秋田 朋子 中祖 直之 松浦 晃宏 松本 浩実 萩野 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】世界有数の長寿国である我が国において,医療技術の進歩,健康志向の高まりにより,今後もさらに平均寿命が延びると予想される。同時に,要介護者の割合も年々増加し,介護予防は大きな課題である。要介護状態となる原因の一つとして,加齢に伴い筋肉量が低下するサルコペニアがあげられる。サルコペニアを引き起こす要因は複数あるが,中でも活動量の不足は中核的な問題であり,特に退職後の高齢期における活動量の減少が懸念される。一方,山間地域では高齢期にも農業に従事する者が多く,その場合の活動量は高く維持されると考えられる。そこで,本研究では,山間地域在住高齢者におけるサルコペニア有症率を調査し,さらに農業への従事がサルコペニアに関連するかを検討した。【方法】鳥取県西部の山間地域で実施された特定健診において,平成26年または27年に受診した65歳以上の高齢者で,研究参加への同意の得られた281名(年齢75.4±6.8歳,男性105名,女性176名)を対象とした。自己記入式アンケートおよび問診にて,運動器疾患の診断歴,現在の職業と農業従事の有無などを聴取した。サルコペニアの判別はEWGSOPの診断アルゴリズムに従った。補正四肢骨格筋量低下はインピーダンス法により測定し,Tanimotoらの基準(男性7.0kg/m<sup>2</sup>未満,女性5.7kg/m<sup>2</sup>未満)を採用した。そのうち,握力低下(男性30kg未満,女性20kg未満)もしくは歩行速度の低下(0.8m/s以下)のある者をサルコペニアと定義した。統計解析は,サルコペニア群と非サルコペニア群間で説明変数の差の検定を行った。次に単変量解析にて有意差の認められた項目を説明変数とし,年齢と性別を調整変数,サルコペニアの有無を従属変数とするロジスティック回帰分析を行い,サルコペニアの有無に関連する要因を検討した。有意水準は5%未満とした。【結果】農業従事者155名中11名(7.1%)がサルコペニアに該当し,非従事者は126名中19名(15.1%)がサルコペニアに該当した。対象者全体の有症率は10.7%であった。サルコペニア群と非サルコペニア群間における単変量解析では,年齢(P<0.001)と農業従事の有無(P<0.05)に有意な差を認めたが,その他には認めなかった。サルコペニアの有無を従属変数とし,農業従事の有無を説明変数,年齢と性別を調整変数として行ったロジスティック回帰分析においては,農業従事の有無は有意な関連を認めず(odds ratio=0.61,95%CI:0.25-1.43,P=0.254),年齢にのみ有意な関連を認めた(odds ratio=1.19,95%CI:1.11-1.27,P<0.001)。【結論】山間地域の高齢者においては,農業従事者はサルコペニアの有症率が有意に低いという結果を得た。これは農業を行うことが身体活動性を高く維持し,サルコペニアの発症頻度を軽減させる可能性を示唆する。また,サルコペニアは農業活動以上に加齢の影響を受けやすいことが考えられた。
著者
須貝 勝 平田 藍 齋藤 博子 大橋 恭彦 山田 彰 安孫子 修 井上 元保 平山 美麻 間宮 加奈 谷口 暁代 瀬尾 大樹 吉田 哲平 鶴見 太朗 永松 康太 和田 優子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,膝蓋骨脱臼に対して内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術が導入されており,概ね良好な結果が得られている。一方,術後リハビリテーションプロトコールについては様々な報告が行なわれており,一定の見解を得ていない。当院では,術後早期より再建靭帯に強度が得られるなどの理由から,人工靱帯を用いたMPFL再建術を行ない,術後早期より膝関節可動域運動等の理学療法を実施している。今回,当院におけるMPFL再建術後の膝関節可動域の完全屈曲獲得日数,ならびに膝蓋骨脱臼再発の有無の調査を行なった。その結果を踏まえた上で,早期膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性について検討したので報告する。【方法】対象は2006年12月~2012年6月までに当院にて人工靭帯(LK-15)を用いMPFL再建術を施行した反復性膝蓋骨脱臼患者のうち,経過を追うことができた17例22膝(平均年齢25.75(±9.92)歳,男性1名1膝,女性16名21膝)である。術中,膝屈曲60°にて再建靱帯を固定し,膝屈曲伸展全可動域にてlength patternを確認している。方法は,術後膝完全屈曲獲得日,術後1年後のCrosby&Install grading system,術前及び術後1年後のapprehension test,ならびに単純X線画像から膝屈曲30°のCongruence angle(正常値-6±11°)を測定し,膝蓋骨脱臼再発有無の調査を行なった。術後リハビリテーションプロトコールは,術後1日目よりQuad setting等の大腿四頭筋エクササイズ開始,3日目より膝屈曲45°からCPM開始し1日5°毎に屈曲角度を拡大する。5日目よりニーブレース装着下での部分荷重歩行及びセラピストによる膝関節可動域運動を開始,12日目よりパテラブレースでの全荷重歩行許可,2週目以降より症状に応じて階段昇降,自転車エルゴメーター,スクワット開始,8週目よりジョギング許可,16週でフルスポーツ許可となっている。【倫理的配慮,説明と同意】対象患者には治療,研究を目的に検査結果を使用することを事前に説明し,本研究の発表にあたり同意を得た。【結果】術後膝完全屈曲獲得日は平均80.9(±62.57)日であった。術後1年後のCrosby&Install grading systemは,Excellent,16膝(72.72%),Good,5膝(22.73%),Fair to poor,1膝(4.55%)であった。Fair to poorの1膝は術後感染による腫脹,疼痛の残存を認めていた。apprehension testは術前では全例陽性であったが,術後1年後では全例陰性となった。膝屈曲30°のCongruence angleは,術前では,平均22.61(±21.50)°であったが,術後1年後では平均-1.70(±17.40)°と正常化した。【考察】当院におけるMPFL再建術後の膝屈曲関節可動域獲得は良好であり,膝蓋骨脱臼再発も認めなかった。生体内の正常MPFLにおいては,膝屈曲60°までが膝蓋骨のstabilizerとして機能しており,MPFLは膝屈曲60°付近で最も緊張し膝蓋骨の制動効果が高いといわれている。また,MPFL再建術後においても,膝屈曲60°以上では再建靭帯にストレスはかからず,膝深屈曲位での5mm程度の緩みはむしろ生理的であり望ましいといわれている。したがって,膝屈曲60°までは再建靭帯へのストレスを考慮する必要があるが,膝屈曲60°以上の関節可動域運動は早期より実施可能であると考えた。本研究の結果,人工靱帯を用いたMPFL再建靱帯後における早期膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性が示唆された。膝蓋骨脱臼の病態は複雑かつ多様であるため,MPFL再建術後の理学療法を実施していく上では,軟部組織や骨形態などの先天的解剖学的因子に加え,内側広筋の筋収縮力や下肢のアライメントなどの膝関節に関わる安定化機構も考慮する必要がある。今回,人工靭帯を用いたMPFL再建術での調査報告であったが,今後,自家腱を用いた場合についても検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】MPFL再建術後の理学療法は,膝蓋骨制動機能及び膝蓋骨脱臼の病態を理解した上で,再建靱帯へのストレスを考慮して実施する必要がある。本研究は,MPFL再建術後早期からの膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性を示唆するものである。
著者
大泉 杏 山田 英司 三浦 亜衣子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0147, 2006

【目的】大腿骨頚部内側骨折に対する治療は、一般的に手術療法が選択されるのが現状である。しかし、高齢者であるため様々な合併症があり手術が不可能な場合、あるいは患者様自身や家族が手術を希望しない場合にはやむをえず保存的療法が選択される。Garden分類stage1、2に対しては骨癒合を目的とした保存療法が可能であることが報告されている。しかしstage 3、4では支配血管の損傷が伴いやすく、解剖学上、骨癒合が困難であるため、現在のところ統一されたプロトコールは確立されておらず、保存療法の経過を報告した研究は散見する程度である。そこで今回、大腿骨頚部内側骨折のGarden分類stage3、4を受傷し、保存療法を施行した5例において移動能力を中心にした成績の検討を行ったので報告する。<BR>【方法】2000年から2004年までに大腿骨頚部内側骨折Garden分類3、4を受傷し保存療法を施行した5例(男性2例、女性3例、平均年齢83±5歳)を対象とした。追跡期間3ヶ月から14ヶ月、手術が施行されなかった理由は合併症4例,手術拒否1例であった、また、受傷前歩行能力は独歩3例、T字杖歩行1例、老人車による歩行1例であり全員自立歩行が可能であった。<BR>当院に転院後、疼痛に対して温熱療法、消炎鎮痛剤による薬物療法及び介達牽引を施行した。そして可能な限り疼痛をコントロールしながら、積極的な運動療法を行った。まず、端座位から開始し、車椅子への移乗練習、可能ならば平行棒内起立練習を開始した。荷重は痛みに応じて漸増していき、平行棒内歩行、歩行器歩行、杖歩行へと進めた。筋力強化練習、他動的関節可動域練習は歩行練習と併用し積極的に行った。<BR>【結果】受傷からリハビリ開始までの期間は最短17日、最長6ヶ月、平均2.7ヶ月であった。5例中1例がGarden分類3にもかかわらず内反位で骨癒合し、残りの4例は骨折部の2次的転移により偽関節が形成された。その結果,1.5~3cmの脚長差が生じたが、補高をすることにより代償することが可能であった。疼痛もリハビリ開始当時と比べ徐々に軽減した。また5例共に受症前と比べADLの低下を生じたが、四輪型歩行器による自立歩行2例、四脚型歩行器による自立歩行1例、四点杖による監視歩行1例、片ロフストランド杖による監視歩行1例と何らかの移動能力は獲得することができた。<BR>【考察】今回の結果から保存療法は決して放置、あきらめではなく可能な限り疼痛をコントロールし,離床を促していくことが重要であり、積極的な運動療法を行なうことでGarden分類stage3、4例における保存療法でも移動動作の再獲得ができる可能性があると考えられた。<BR>
著者
吉松 竜貴 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 堤本 広大 上村 一貴 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】虚弱高齢者における体重減少や低体重は低栄養の指標とされる。低栄養は多くの健康問題との関連が指摘されている。しかしながら,高齢者の体重と身体機能の関連を体組成と血液学的データから包括的に検討した報告は,我々の知る限りみあたらない。本研究の目的は,地域在住高齢者の歩行速度低下と体重,体格,血液学的データとの関連について検討し,老年期の歩行速度低下に関する栄養学的な知見を得ることである。【方法】本研究の対象は,愛知県大府市で行われたObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名から,パーキンソン病または脳卒中の既往歴がある者,Mini-Mental State Examinationが18点未満の者,採血が困難だった者を除外した4,654名(平均年齢72.0±5.6歳,女性2,417名,男性2,237名)とした。測定項目は歩行速度,身長,体重,体組成,血液学的データとした。歩行速度は2.4mの歩行路で通常歩行を5回行わせ平均値を採用した。なお,本研究における「歩行速度低下」の判断基準は,先行研究での検討より,通常歩行速度1.0 m/sec未満と定めた。身長は立位身長とし,裸足で計測した。体重と体組成は生体電気インピーダンス方式の体組成計(TANITA社製MC-980A)を用いて衣類着用下で測定した。得られた体組成値のうち体脂肪率(Percentage of body fat:以下%BF)と四肢骨格筋指数(Appendicular skeletal muscle index:以下ASMI)を分析に用いた。血液学的データとして以下の血清濃度を得た:総蛋白(Total protein:以下TP),アルブミン(Albumin:以下Alb),中性脂肪(Triglyceride:以下TG),総コレステロール(Total cholesterol:以下T-Cho)。統計学的分析として,第1に,測定値の群間比較を行った(t-test,χ<sup>2</sup>-test)。その際,検定の効果量も検討した。第2に,多重ロジスティック回帰分析により,歩行速度低下に関わる因子を抽出した。単変量分析にて有意差と一定の効果量が認められた変数を独立変数として採用し,年齢,性別,精神心理機能,医学的情報などで調整した。第3に,Receiver Operating Characteristic分析を用いて,歩行速度低下に強い影響があるとされた変数のカットオフ値を算出した。【結果】歩行速度低下に分類された対象者は511名であり,全体の12%であった。歩行速度が低下した者は,そうでない者に比べ,%BFが有意に高く(31 vs 28%,p<0.001,<i>d</i>=0.38,<i>r</i>=0.29),Albが有意に低かった(4.19 vs 4.33 g/dL,p<0.001,<i>d</i>=-0.53,<i>r</i>=0.38)。T-Choにも有意差を認めたものの,効果量が低かった(200 vs 209 mg/dL,p<0.001,<i>d</i>=0.27,<i>r</i>=0.08)。Body mass index(以下BMI)とASMI,TP,TGには有意差を認めなかった。歩行速度低下を従属変数,%BFとAlbを独立変数とした多重ロジスティック回帰分析では,調整後も両変数の有意性が保たれた(%BF[1%あたり],Odds ratio=1.05,p<0.001;Alb[0.1 g/dLあたり],Odds ratio=0.90,p<0.001)。歩行速度低下に対するAlbのカットオフ値は4.25 g/dLであった(Area under the curve=0.64,感度0.64,特異度0.43)。【考察】歩行速度が低下している地域在住高齢者は,そうでない者と比べて,体格(BMI)や四肢筋量(ASMI)は同程度だったが,%BFが高く,Albが低かった。地域在住高齢者にはサルコペニック肥満が潜在していることが懸念される。Albは,基礎情報での調整後も歩行速度低下と強く関連しており,地域在住高齢者の身体機能を検討するために重要な指標であることが示唆された。しかしながら,以上は横断研究による結果であるため,血液学的データと身体機能低下の関連についての更に明確な根拠を得るためには,縦断的検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】地域在住高齢者の身体機能を維持するためには,単に体重減少に着目するのではなく,体組成を考慮して体重管理を行う必要がある。本研究で示されたAlbのカットオフ値(4.2 g/dL以下)は,地域リハビリテーションにおいて,虚弱に陥り易い高齢者をスクリーニングするための新たな参考値として活用できる可能性がある。
著者
重松 康志 横山 茂樹 竹ノ内 洋 塩塚 順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0976, 2004

【はじめに】<BR>(社)長崎県理学療法士会では平成11年より全国高等学校野球選手権長崎大会準々決勝からスポーツ外傷(以下、外傷)の予防やリコンディショニングを目的として、現場に会員を派遣してストレッチングやアイシング等のサポート活動を実施してきた。この活動を通して、外傷を有する選手が不安を抱えたまま試合に出場することもしばしば見受けられた。この現状を踏まえ、長崎県高校野球連盟(以下、高野連)と協力して、試合等で発生した外傷の状況とその経過を把握することを目的に調査を実施したので報告する。<BR>【対象および調査方法】<BR>県下高等学校硬式野球部所属の選手を対象に自己記述選択方式でアンケート調査を行った。内容は、「スポーツ外傷の有無・部位・状態」「復帰状況」「通院形態」等17項目について調査した。高野連所属の60校全てから回答があり、内訳は1年生461名、2年生535名、3年生11名、合計1007名であった。調査期間は新人戦終了後の平成15年9月中旬から10月上旬とした。<BR>【結果および考察】<BR>過去6ヶ月以内の外傷は475名(47.1%)で、外傷部位では肩、腰、肘の順に多く、競技特性が見受けられた。また371名(36.8%)の選手が痛み等の自覚症状を持ちながら試合等へ出場する現状が窺われ、外傷を有した選手の約8割に及んだ。一方、外傷予防を意識的に取り組んでいる選手は790名(78.5%)であり、関心が高い傾向にあった。その大半はストレッチングやアイシングの施行等、ウォーミングアップやクーリングダウン(以下、アップ等)を行っていた。このように多く選手が、外傷予防の意識は高く、アップ等を施行しているが、痛みや体調に不安を持つ選手が多い現状から、一般的なストレッチングではなく外傷予防に向けたストレッチング方法等について、我々理学療法士が専門的立場から指導していく事が求められていると考えられた。<BR>通院については、466名(46.3%)の選手が行っており、病院が56.3%、整骨院などが43.6%であった。頻度は、週1回程度の通院が321名中165名(51.4%)、週3回以上が146名(45.5%)、毎日通院が10名(3.1%)とごく少数であった。この様に自覚症状を有する殆どの選手は練習に参加しつつ治療に取り組んでいるが、約半数が病院以外で対応されている現状が窺われた。<BR>【まとめ】<BR>今回の調査結果から、過去6ヶ月(約1シーズン)において選手の約半数が痛み等を訴えて通院している現状を窺うことができた。また痛みを持ちながらも試合等へ参加する選手が全体の1/3程度を占めていた。このような状況から選手が痛みを訴えられる環境づくりが必要不可欠である。そのため今後は、選手自身の自己管理能力の向上や指導者の外傷に対する知識の啓蒙活動、さらに地域医療機関と連携できる支援体制を組織化していくことが課題であると思われた。
著者
新谷 和文 古川 裕子 大川 久美子 宮下 亜衣 本郷 富 瓦林 啓介 古島 悦子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0954, 2006

【はじめに】病院等の施設におけるインシデント・アクシデントレポートは、転倒・転落事故が最も多いことが報告されている。<BR>転倒・転落には身体機能・薬物・認知・環境など多様な要因があるといわれている。また、抑制廃止や活動向上などの対策は、リハビリテーションの効果を上げる要因ではあるが、転倒のリスクは向上するといえる。そこで転倒・転落事故減少を目的とした多職種によるチームを作り、会議とカンファレンスを開催したのでその内容を紹介する。<BR>【転倒・転落事故の実態】当院での平成15年10月から平成16年9月の1年間のインシデント・アクシデントレポートは385件で、うち転倒・転落に関するものは134件(34.8%)と最も多く、月別の発生件数件数では新入職員や部署異動の4月が21件と最も多かった。また、リハビリテーション科の転倒・転落事故は55件で、うち担当以外の患者様を受け持った時の事故は12件(21.8%)であった。当院のセラピストが担当以外の患者様を受け持つのは1~2週間に1度でありこの発生率は高率といえる。これらは転倒・転落事故は患者様を正確に把握していないことが大きな原因と考えられた。<BR>【会議・カンファレンスの開催】転倒・転落事故防止を目的とした会議、カンファレンスを平成17年6月より開始した。<BR>会議・カンファレンスとも月に一度行っている。転倒・転落防止会議は看護師およびリハスタッフで行っている。主な議題は、転倒・転落に関する事故報告・環境面の改善策・危険者のスタッフへの周知・予防のための知識についての教育などである。<BR>また、転倒防止カンファレンスは会議のスタッフに薬剤師・管理栄養士を追加した多職種で開催している。主な内容は転倒危険者の正確な把握とその対策である。まず、病棟看護師から転倒危険者をリストアップしてもらい、各部署が評価を行っている。具体的には看護師が転倒スコアのチェックおよび病棟での危険行為状況、理学療法で身体機能(ファンクショナルリーチテスト)および自己管理能力、作業療法・言語聴覚士による認知機能(HDS-R)、薬剤師による転倒関連の薬剤チェック、管理栄養士による栄養面のチェックなどを行い、カンファレンスを開催している。これにより多方面での転倒リスク把握に努めている。また、これらの評価をもとに対策を立てスタッフに周知している。<BR>【考察】転倒防止のための会議・カンファレンスを開催し、センサーマット購入、ベッドのキャスターの固定性向上、ポータブルトイレの正しい使い方の徹底など転倒防止のための成果が徐々に見られてきている。また、各部署による転倒の評価を行うことにより、転倒危険者の正確な把握が向上してきており、転倒発生状況は減少傾向のように思える。今後は、この会議・カンファレンスが転倒・転落事故防止に成果をあげているかどうかを検討する予定である。<BR><BR>
著者
春名 匡史 板野 哲也 立花 孝 田中 洋 信原 克哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】Wind-up期である,踏み出し脚の膝が最も高く挙がった時点(以下KHP:Knee Highest Position)における体幹アライメントや身体重心位置が,early cocking期である踏み出し脚接地時(以下FP:Foot Plant)に影響を及ぼすといった報告が散見される。しかし,この点を定量的に検討した報告はほとんど見当たらない。そこで今回,KHPにおける体幹アライメント・身体重心位置が,FPの体幹アライメントに実際に影響を与えるか否かを定量的に検討した為報告する。【方法】対象は,踏み出し脚の膝を軸脚側の上前腸骨棘より挙上して投球を行った様々な競技レベルの野球選手55名とした(年齢9-30歳)。左投手は右投手に変換して分析を行った(以下左右は右投手を想定して記載する)。KHPにおける上半身重心位置,骨盤左回旋・後傾角度,体幹伸展・右側屈角度の5つの変数群と,FPの骨盤左回旋角度,体幹伸展・右側屈角度の3つの変数群に対し,正準相関分析を行った。なお,重心位置と体幹・骨盤角度では単位が異なる為,変数は標準化を行った。上半身重心位置は合成重心法により算出した点の,水平面上における軸脚足部長軸方向の位置を,つま先方向を正として求め,軸脚足部長軸の長さで規格化した。骨盤運動はカメラ座標系に対する骨盤座標系の回転を,体幹運動は骨盤座標系に対する胸部座標系の回転をそれぞれオイラー角で表現した。有意水準は5%とした。【結果】正準相関分析の結果,第1正準変量では,正準相関係数がr=0.656(p=0.002)で,正準負荷量は,KHPの変数群では上半身重心=-0.017,骨盤左回旋=0.518,骨盤後傾=-0.915,体幹伸展=0.963,体幹右側屈=0.007であり,FPの変数群では骨盤左回旋=0.072,体幹伸展=0.914,体幹右側屈=-0.268であった。KHPの体幹屈曲伸展,骨盤前後傾,骨盤回旋,上半身重心,体幹側屈の順に,FPにおける体幹伸展への影響度が高かった。第2正準変量以下は正準相関係数が有意でなかった。【結論】本検討の結果より,KHPにおいて体幹がより伸展位,骨盤がより前傾位であると,FPの体幹伸展が大きくなると考えられた。しかし,有意な正準相関係数が認められ,正準負荷量が高値であったものは,FPの変数群では体幹伸展のみであった。FPでの不良動作として頻繁に述べられる,「体の開き」を表すと考えられるFP骨盤左回旋等は,KHPによる有意な影響はみられなかった。つまり,KHPによるFPへの影響は,定量的には限定的であった。この為,実際の臨床において,KHPの影響によりFPの不良な体幹アライメントが生じていると考える時は,慎重な検討が必要である。
著者
後藤 達志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1118, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】HAM(HTLV-1 associated myelopathy)はHTLV-1無症候性感染者(鹿児島県では一般の抗HTLV-I抗体陽性率9.8%と高い)の一部に発症する慢性進行性の脊髄疾患である。主な症状の一つとして体幹から下肢にかけての運動障害(痙性対麻痺)や排尿・排便障害、自律神経障害などが挙げられる。これらの症状が進行するとしだいに足先が引っかかるようになり、杖歩行→押し車→車椅子移動へと進行していくケースが多数報告されている。このことを踏まえ今回、患者を移動能力別に分け各々の身体機能を評価し比較検討を行ったので報告する。 【対象と方法】当院へ入院または外来通院しているHAM患者10例(女性7名、男性3名;平均年齢62±25歳;平均罹病18±37年)を対象とし、杖なし歩行群(2例)・杖歩行群(5例)・車椅子群(3例)の3群に分け評価を行った。評価の内容として運動機能障害重症度(以下:OMDS)、筋肉CT、歩行距離、MMT、痙性スコア(MAS)、深部腱反射、排尿障害の重症度、圧迫骨折の有無、腰部の痛み(VAS)、BMI、FIMを行ない、これらをもとに次の項目について調べた。1)OMDSと他の評価との相関。2)3群のMMT(体幹・下肢)の比較。3)筋肉CTにて脊柱起立筋の比較。【結果】1)OMDSとFIM,歩行距離,痙性スコアに強い相関が得られた。また、圧迫骨折,腰痛に関しては有意差はなかったが強い相関は得られた。2)筋力(MMT)では傍脊柱筋群,腸腰筋,外転筋,ハムストリングス,下腿三頭筋が著明に低下しており、総体的な筋力では車椅子群が有意に低下していた。3)筋肉CTでは杖歩行群にて胸椎レベルの脊柱筋の萎縮、車椅子群にて胸椎・腰椎レベルの脊柱筋の萎縮が認められた。その他は腸腰筋なども萎縮していた。【考察】今回の結果から、HAMの進行と下肢痙性の程度と脊柱筋力低下の関係を考えると、(一期)痙性出現期・脊柱筋力減弱,(二期)痙性ピーク期・脊柱筋力低下,(三期)痙性減少期・脊柱筋・下肢筋力低下,(四期)弛緩期・脊柱筋・下肢筋力著名な低下の四期に分けられる。二期において筋肉CTでは胸椎レベルの脊柱筋が著明に萎縮していた。また三期では車椅子となるケースが多くみられた。この歩行困難となる主な理由として、腰から殿部・下腿三頭筋などの突っ張りや重み(鈍痛)などが挙げられる。これら痛みの原因として、荷重下での腰背筋や三頭筋などの痙性増強や体幹筋力低下(腰背部)による、椎間関節での神経根への影響などが考えられる。四期において両下肢は弛緩傾向にあり、体幹CTでは胸椎・腰椎レベルの脊柱筋に著明な萎縮が認められた。この時期になると患者は歩行不能となる場合が多く臥床傾向による廃用の影響なども考えられる。
著者
高橋 崇太 岡坂 政人 白井 唯
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2286, 2011

【目的】<BR> 今回、神奈川県体育協会(以下県体協)から依頼を受け、第65回国民体育大会(千葉国体)に、山岳競技神奈川県代表トレーナーとして帯同する機会を得た。同大会の山岳競技に於るトレーナーの帯同は今回が初の試みであり、チームスタッフ間の連携や選手への関わり方に課題は残った。しかし、概ね良好な活動が出来たと考えている。<BR> そこで、活動内容を報告すると共に、帯同にて明らかになった今後の課題と対策についても述べてみたい。<BR>【方法】<BR> 活動期間は平成22年10月1日から4日である。大会前には、施行内容、携帯備品検討のため、選手に身体状況をアンケートにて情報収集した。大会中のトレーナーは選手隔離場所であるアイソレーションルーム(IR)に1人、会場に2人の理学療法士を配置した。また、宿舎での処置も行った。<BR> 携帯器具は、治療用ベッド1台、治療用マット2枚、クーラーボックス2個、アイシングバッグ6個、低周波1台、EMS1台、ホットパック、テーピング各種、アイスラブ、メンタームQ等消耗品を用意した。<BR> 主な施行内容は、競技前後のクーリング、ストレッチ、マッサージ等の徒手療法を施行した。また、希望に応じてテーピングも施行した。競技後のクーリングに関しては、クーラーボックス、またはアイスバッグの水温を10~15°に保ち施行した。<BR>【説明と同意】<BR> 事前アンケートに関しては、経験年数・現病歴、既往歴、処置希望部位の項目を作成した。アンケート回答に関しては、監督選手へ承諾を得た上で配布し記入して頂いた。<BR> トレーナーとしての活動に関しては、各選手へ現在の身体状況を説明し施行した。<BR>【結果】<BR> 事前アンケートの結果は、肩1件、前腕1件、手指1件、腰背部1件であった。また、既往歴として、手指の腱鞘炎1件、TFCC損傷1件が挙げられた。<BR> 今大会中の処置件数集計は、県体協指定の用紙により主訴部位、処置部位、処置方法の件数をまとめた。大会期間中に対応した選手数は、実人数10名、延人数28名、延件数138件であった。主訴部位は、前腕13件、手指10件、肩関節9件、腰背部17件、頸部3件、下腿1件であった。処置部位は、前腕18件、手指13件、肩関節10件、腰背部16件、股関節9件、頸部3件、下腿8件であった。処置方法はアイシング0件、マッサージ22件、低周波治療7件、テーピング2件、徒手療法5件、クーリング20件であった。<BR> 今大会中、チームの選手において障害や事故を呈することなく大会が終了した。<BR>【考察】<BR> 山岳競技は、リード、ボルダリングの2種目に分けられる。リード競技は壁に設置された金具に、自分で登りながらロープを通し、安全を確保して登っていく競技である。ボルダリング競技は一般に高さが5m位までの岩や壁を、ロープを使わずに登る競技である。今回の集計結果より、前腕、手指、腰背部の主訴、処置件数が多かった点に関して述べていきたい。2つの競技に関して共通の動作は、把持動作である。競技はホールドと呼ばれる把持物を掴み登っていく。把持動作はホールドの形が一定ではなく多種多様であり、様々な状況下で前腕屈筋群、手内在筋等に持続的な筋収縮が必要になる。そのため、筋緊張及び、筋収縮による代謝亢進による疲労物質蓄積が生じ前腕、手指の主訴件数、処置件数が多くなったと考える。また、腰背部に関しては、競技中のリーチ動作や身体重心を壁に近づけるため、腰背部の伸展が必要になってくる。今大会においても、競技が予選から決勝に進むにつれて壁の傾斜角度は増し、競技中の腰背部伸展は多く見られていた。そのため、主訴件数・処置件数が多くなっていたと考えられる。これらの部位に関しては、アンケート結果によってもその競技特性上負担がかかることが言えるのではないかと考える。<BR> 今大会における施行内容に関しては、上記内容に対するクーリンング、マッサージが多くなっていた。クーリングは一般的に筋温、皮膚温の低下による代謝抑制、疲労物質蓄積の防止を目的に行う。大会中競技後は選手終了通告と呼ばれる宣言が出るまで、選手は控え場所に待機していなければならなかった。そのため、競技直後にはクーリングを施行出来ない場面もあった。今後はその様な状況下においてどのように選手に処置を施していくかが検討課題である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 国民体育大会での山岳競技における、代表選手トレーナーとしての帯同は今回が初であった。今後、山岳競技はその競技特性上、局所への負担が大きく特に手指、前腕等に関しては、競技を継続していく上で重要な部位である。そのため、継続的な経過観察、障害特性の探索を行っていくことで選手のパフォーマンス向上及び、選手の競技継続年数の延長、競技中の障害防止に繋がると考える。
著者
八谷 瑞紀 村田 伸 大田尾 浩 久保 温子 松尾 奈々 甲斐 義浩 溝田 勝彦 浅見 豊子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】歩行能力の評価は,5mや10mの短距離における歩行時間を計測することが多い。しかし,元気高齢者では天井効果のために適切に身体機能を把握できない可能性がある。そこで我々は,高齢者のための新たな歩行能力評価法として,多くの施設で確保されている10m歩行路を利用した50m歩行時間を考案した。本研究では,50m歩行時間の有用性について,男性元気高齢者を対象に50m歩行時間中のlap間の所要時間の変化を検討し,つぎに50m歩行時間および5m歩行時間を測定し,下肢筋力,持久力,バランス能力との関連について検討した。【方法】対象は,地域在住の高齢者用フィットネスジムを利用している男性13名(年齢71±3歳)とした。なお,対象者は,自宅生活が自立しており,自家用車などで自ら調査に参加できる者であった。歩行能力の評価は,50m歩行時間のほか5m歩行時間を実施した。身体機能の測定項目は,大腿四頭筋筋力,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),開眼片足立ちテスト,Timed Up & Go Test(TUG)を実施した。50m歩行時間は,10mの歩行路間に配置したコーンを3往復折り返して合計60mを歩き,開始からの50mにかかる所要時間を計測する。準備するものは,10mの歩行路,方向転換時の目印(コーン),ラップ機能付きのストップウォッチである。測定方法は,開始前の姿勢は静止立位とし,コーンの横に立つ。被験者への説明として,検査者の合図で歩き出すこと,目印の外側を3往復することを伝えた。その際の歩行条件は最速歩行とした。10mの歩行路を直進し,コーンの外周で方向転換を行い,再び直進歩行を行う。3往復する間は休憩を入れず連続して歩行を行う。ストップウォッチの操作は,歩行開始から40m(2往復目)までは10mごとにラップ計測を行い,50m終了時にストップを押す。記録する評価項目は,50m歩行の所要時間(秒),およびラップ機能で計測したlap1~lap 5の10mごとの所要時間(秒)である。実施する上での注意点として,下記の3点を説明した。第一に,最初に立つ位置は,コーンの左右どちらでもよいこと。第二に,歩行補助具の使用を認めた。しかし,方向転換時に杖をコーンの内側についたり,触れたりすることがないように配慮した。このほか,歩行補助具を使用しない場合であっても,コーンに触れないように事前に説明を行った。第三に,安全確保を最優先に考慮し転倒などの事故には十分に注意した。統計学的分析方法は,対象者の50m歩行時間の方向転換を含まないlap1を除く,lap2からlap 5までの各ラップから得られた所要時間を一元配置分散分析にて比較した。また,50m歩行時間および5m歩行時間の測定値と,身体機能の測定値との関連をピアソンの相関係数を用いて検討した。なお,統計解析にはSPSS19.0(IBM社製)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて行われた。対象者に研究の趣旨と内容を十分に説明し,同意を得たうえで測定を開始した。また,研究の参加は自由意思であること,参加しない場合に不利益がないことを説明した。本研究は,事前に施設の施設長の承認を得て実施した。【結果】50m歩行時間のlap2からlap5までに得られた所要時間を比較した結果,すべてのラップ間に有意な差は認められなかった(F=0.16,r=0.92)。歩行能力と身体機能との関連をみたところ,50m歩行時間と有意な相関が認められたのは,大腿四頭筋筋力(r=-0.62,p<0.05),CS-30(r=-0.90,p<0.01),開眼片足立ちテスト(r=-0.70,p<0.05),TUG(r=0.89,p<0.01)であった。一方,5m歩行時間と有意な相関が認められたのは,大腿四頭筋筋力(r=-0.57,p<0.05),TUG(r=0.58,p<0.05)であり,CS-30,開眼片足立ちテストとは有意な相関が認められなかった。【考察】本研究の結果から,50m歩行時間のlap2からlap5の所要時間において有意な差が認められなかったことより,男性元気高齢者では最速歩行を50m行っても,lap間による所要時間の落ち込みはないことが確認された。一方,50m歩行時間は,今回測定を行ったすべての身体機能と有意な相関が認められ,5m歩行時間は,大腿四頭筋筋力,TUGと有意な相関が認められた。以上のことから,5m歩行時間は男性元気高齢者の歩行能力を適切に表すことが困難である可能性が示めされた。また,50m歩行時間は,下肢筋力,持久力,バランス能力と関連が認められたことから,男性元気高齢者の歩行能力を適切に表す歩行能力評価法である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】身体機能の評価は,対象者の現状を正確に表せる指標であることが求められる。50m歩行時間は,高齢者の歩行能力を適切に評価する指標として期待できる。
著者
野原 隆博 新村 核 小木曽 沙織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P2340, 2010

【はじめに】<BR> 当院は月間平均350台の救急車を受け入れている急性期病院である.病状に応じて入院日に医師より処方され,訓練が開始となる早期リハビリテーション医療を提供できる体制を整えている.急性期病態で訓練を実施する際,リスク管理が重要となりハイリスクの状況の中,より安全で,充実した訓練を実施する必要がある.と同時に,医師・看護師だけでなく,コメディカルスタッフも急変時に際して対応できる知識・技術を習熟する必要がある.なぜなら,現代のリスクマネジメントのあり方としては当然の事と考えるからである.<BR> 今回,当院脳神経外科専門医の協賛のもと,理学療法士(以下PT)をはじめとするコメディカルスタッフ対象にBLS(一次救命処置)・ACLS(二次救命処置)勉強会の活動を行ったので考察を加え以下に報告する.<BR><BR>【目的】<BR> 急変時に際して対応できる知識・技術の向上を目的とした.<BR><BR>【方法】<BR> 当院PTをはじめとするコメディカルスタッフ対象に, AED(自動除細動器)を用いた心肺蘇生法であるBLS(一次救命処置),及び除細動器,薬剤を用いた心肺蘇生法であるACLS(二次救命処置)に関する基礎知識の講義及び実技を中心に勉強会を行った.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 勉強会にあたり,当院脳神経外科専門医に同意を得て協賛のもと行った.<BR><BR>【結果】<BR> 勉強会にはリハビリテーション科スタッフ全員参加,また看護師・臨床工学技師・レントゲン技師など多職種の参加があった.勉強会実施後のアンケートでは,「急性期病院に従事する者として有意義な講義であった.」などの意見が多く,救命救急に対しての関心が高まった結果となった.<BR><BR>【考察】<BR> 今回,主にBLS(一次救命処置)に重点を置き勉強会を行ったが,医療従事者であるPTは,より高度な救命処置を提供できるようACLS(二次救命処置)まで理解しておく必要があると考える.臨床の場においては,急変時に対する救命処置を実施するのは医師・看護師が中心となるが,実際にPTがサポートできるよう知識・技術を習得しておくことは重要なことであり,そういった体制を整えていることで,リハビリテーション業務をより安全に行うことができると考える.<BR> 今後の展望として,当院ではPTが中心となり急変時に対する勉強会の活動を継続して行うべく,日本救急医学会認定の講習会に随時参加して質を高めるよう努めている.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 近年,PTが従事する環境は,病院・クリニック・施設に留まらず,在宅や予防教室,スポーツ大会など多岐にわたっている.そのため,医療従事者がPTのみという場面もありうる現状において,PTはリスク管理に努め,緊急時の対応方法を熟知しておく必要があり,BLS(一次救命処置)・ACLS(二次救命処置)の知識・技術を習得しておくことは重要であり,PTが積極的に活動しなければならない分野でもある.<BR><BR>
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0814, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は膝関節痛やこわばりを主訴とする代表的な運動器疾患である。その病態の中心は関節軟骨の摩耗・変性であるが,近年では病態の認識が改まり,発症早期より生じる軟骨下骨の変化が,関節軟骨の退行性変化を助長している可能性が指摘されるようになった。我々も同様の認識から,半月板損傷モデルラットを作成し,その早期から軟骨変性と軟骨下骨嚢胞が共存していることを明らかにした(Iijima H. Osteoarthritis Cartilage 2014)。理学療法を含む非薬物治療は,膝OAの疼痛緩和を目的とした治療戦略の大きな柱であるが,このような早期膝OAの病態を考慮した,OA進行予防策に関する研究蓄積は乏しい。また,病態モデル動物を用いた研究において,歩行運動が関節軟骨の退行性変化を予防しうる,という報告は散見されるが,そのメカニズムは不明であった。そこで,我々はこれらの課題に対して,早期の病態に関与する軟骨下骨変化を歩行運動によって抑制することが,膝OA進行予防に寄与するのではないかと着想し,これまで不明であった,運動による膝OA進行予防メカニズムの解明へと研究を進めてきた。本研究では,我々が報告した半月板損傷モデルラットを使用し,疑似的に早期膝OAの状態を作り出し,歩行運動が軟骨下骨変化に与える影響を評価し,軟骨変性予防効果との関連性を検討した。【方法】12週齢のWistar系雄性ラット24匹に対して,内側半月板の脛骨半月靭帯(MMTL)を切離する内側半月板不安定性モデルを作成した。MMTLの切離は右膝関節のみに行い,左膝関節に対しては偽手術を施行し,対照群とした。その後,術後8週間に渡り自然飼育を行うことで,OAを発症・進行させるOA群(n=8)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点からトレッドミル歩行(12m/分,30分/日,5日/週)を行う運動群(n=8)の2群に分類した。時系列変化を評価するため,術後4週まで飼育する介入前群(n=8)を設定した。主な解析対象および群間の比較は,MMTLを切離した全群の右膝関節とし,対照群とも比較した。解析内容は,μ-CT撮影および組織学的手法を用いて,4週間にわたる歩行運動介入の効果を検討した。μ-CT撮影所見より軟骨下骨嚢胞の最大径を評価し,組織学的解析では破骨細胞マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)染色とともに,骨細胞死数,軟骨下骨損傷度(0-5点)を評価した。また,軟骨変性重症度(0-24点)を評価し,軟骨下骨損傷度との関連性の評価としてSpearmanの順位相関係数を算出した。【結果】μ-CT所見では介入前から脛骨内側関節面にて軟骨下骨嚢胞が確認されたが,運動群では最大嚢胞径が縮小し,介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.01)。組織学的所見では,軟骨下骨嚢胞内にTRAP陽性破骨細胞が多数観察され,直上の関節軟骨が嚢胞内に落ち込む所見が介入前群では30%で確認された。OA群ではその後悪化し,80%で確認されたが,運動群では0%であった。併せて,介入前およびOA群では多数の骨細胞死が観察されたが,運動群ではいずれも軽度であり(P<0.01),軟骨下骨損傷度は介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.05)。軟骨変性重症度は,運動群で最も低値を示し(P<0.05),軟骨下骨損傷との間に強い相関を認めた(P<0.01,r=0.91)。【考察】半月板損傷後に発症した早期膝OAに対する緩徐な歩行運動は,骨細胞死の減少とともにTRAP陽性破骨細胞活性に起因する軟骨下骨嚢胞を縮小させることが明らかになった。つまり,半月板損傷後に生じた損傷軟骨下骨は可逆的な状態にあり,自然飼育のみでは進行する一方,歩行運動によって治癒することを示している。軟骨下骨の損傷により形成された陥没は,関節軟骨に加わるひずみを増大させる要因となるだけでなく,関節軟骨-軟骨下骨間の炎症性サイトカインの交通を介してOAを進行させることが知られている。したがって,軟骨下骨の治癒が歩行運動によってなされることで,その直上の軟骨に加わる力学的,化学的ストレスを緩和させ,膝OAの進行予防に一部寄与しうることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝OAに対する従来の理学療法は,摩耗・変性した関節面へ加わる応力を,分散あるいは減弱させることを主目的としてその進行予防に寄与してきたため,歩行運動のような運動負荷を治療手段とするという考え方は希薄であった。本研究結果は,半月板損傷後の早期膝OAに対する一定の運動負荷がOA進行予防に寄与する可能性を提示し,そのメカニズムの一部を病態モデル動物を使用して病理組織学的にはじめて明らかにしたものである。
著者
大沼 剛 戸津 喜典 阿部 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1223, 2010

【目的】<BR>地域在住高齢者の過去一年間の転倒発生率は本邦では約20%といわれている。一方、パーキンソン病患者の転倒発生率は高く、外来通院パーキンソン病患者の過去一ヶ月間の転倒率が67.7%との報告がある。また、Woodらは転倒率が68.3%であったと報告している。さらに、一週間に13%転ぶといった報告もある。一日に複数回転倒をしているパーキンソン病患者も多く、認知機能障害を併せ持つ患者も多いため、転倒に関する記憶が不明確となっている可能性がある.そのため今回、転倒を高頻度に繰り返すパーキンソン病患者一症例に対し、療養日誌を用いて転倒の詳細について記録した。本研究の目的は、重度パーキンソン病患者の転倒実態について調査することである。<BR>【方法】<BR>対象は訪問リハビリテーションを行っているHoehn & Yahr分類IVの重度パーキンソン病患者一症例(女性、年齢64歳、罹患年数9年)である。ADL状況は、屋内はほぼ自立しており、屋内歩行は四点歩行器を使用し、布団にて寝ている。脊柱変形があり立位は前傾姿勢著明である。服薬状況は、ドーパミンアドニストを5種類朝食後、昼食後、15時、夕食後の4度に分けて服用している。<BR>転倒調査方法はカレンダー式の日誌を用いて転倒の有無について調査した。転倒場所は「居間」「台所」「その他」の3つに分類し調査した。また、自覚的体調を把握するため、「5:非常によい」「4:良い」「3:普通」「2:悪い」「1:非常に悪い」の5段階で自己評価し「朝」「昼」「夕方」「夜」の4回記録した。調査期間は平成21年4月1日から9月30日の6ヶ月間行った。また観察期間として、療養日誌導入前に1ヶ月間、週一回の訪問時に転倒についての聞き取り調査をした。訪問時の介入内容としては、歩行練習として、四点歩行器の操作方法の指導、筋力維持・向上練習、筋ストレッチ、療養指導を行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には本研究の主旨を十分に説明し、書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 観察期間の1ヶ月では聞き取り調査した当日及び前日に、一日2~3回転倒があったと答えた。調査期間の6ヶ月間の総転倒回数は117回であった。また一日の転倒率は47%で少なくとも二日に1度は転倒していた。一日に最も多く転倒した回数は9回であった。外傷を伴う転倒はあったが、骨折など病院受診を必要とする転倒はなかった。月別の転倒率は7月が58%と最も高く、8月が39%と最も低かった。転倒場所は、居間が35%、台所が54%、その他は11%で、その他の場所としてはベランダが多かった。自覚的体調の平均は「朝:3.1」「昼:2.9」「夕方:2.6」「夜:2.5」であり、朝が最も良く、夜が最も体調が悪かった。<BR>【考察】<BR> 今回、重度パーキンソン病患者一症例に対して療養日誌を用いて転倒に関する調査を実施した。転倒回数は117回であり、1日の転倒率は47%であった。Moritaらは、姿勢調節障害、突進現象、すくみ足、重度のパーキンソン病患者に特徴的なジスキネシアが転倒と関係していると述べている。またパーキンソン病患者の姿勢調節障害やすくみ足は薬物治療などの治療に反応しにくく、転倒の大きなリスクとなる。重度のパーキンソン病患者でベッドからの転倒・転落や移乗動作時の転落事故が多い要因として体幹機能の低下及び姿勢調節障害により、立位のみならず座位でも不安定であることが考えられる。今回対象とした患者は2DKのマンションに居住し、主に居間で生活している。最も転倒が多かったのは台所であり、台所はトイレや浴室、冷蔵庫から物を取る場合などに動線がほとんど台所を通過するため最も多かったと考えられる。洗濯等を自分で行っているためベランダでの転倒もみられた。骨折など病院受診を必要とする転倒がなかったのもパーキンソン病患者における転倒の特徴の一つと考えられる。パーキンソン病患者の場合、体幹機能の低下及び姿勢調整障害により崩れるように転ぶことが多く、今回の対象者も尻餅をついたと後方に転倒することが多かったと述べている。<BR> 転倒を多く引き起こすパーキンソン病患者に対して療養日誌などを用いて、自覚を促すことは必要である。転倒を高頻度に繰り返すと転倒に慣れてしまい、危険性を感じなくなる可能性がある。そのため一回一回の転倒に対して場所や状況を調査し転倒予防に努める必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> パーキンソン病患者は高頻度に転倒を引き起こすため転倒予防をはかる方略は重要である。その方略の一つとして今回の療養日誌の導入は一定の効果を出したと考えている。今後は、対象者数を増やし、パーキンソン病患者の転倒を引き起こす要因を導きだす必要がある。<BR>