著者
佐藤謙次 細川智也 関口貴博 鈴木智
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】膝前十字靱帯(ACL)再建術後再断裂の危険因子に関する報告は散見されており,低年齢やスポーツ活動レベルの高さが指摘されている。一方,ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツの再断裂率は高いとされており,コンタクトスポーツとノンコンタクトスポーツでは傾向が異なることが予測される。しかし,スポーツカテゴリーの違いが再断裂に及ぼす影響に関する報告は渉猟し得ない。本研究の目的はACL再建術後の再断裂の危険因子を明らかにすることである。【対象と方法】対象は当院において2005年から2010年に膝屈筋腱を用いた初回解剖学的二重束ACL再建術を受け2年以上経過観察可能であった949例(男性500例,女性449例:平均年齢26.5歳)とした。両側ACL損傷例,再再建例は除外した。診療記録より再断裂の有無を調査した。再断裂は担当医が理学所見,KT2000,MRI,関節鏡所見から総合的に判断した。性別,年齢(18歳以下・19歳以上),スポーツレベル(競技レベル・レクリエーションレベル),スポーツカテゴリー(コンタクトスポーツ・ノンコンタクトスポーツ)に分けて再断裂率を算出した。なお,練習回数が週4回以上を競技レベル,週3回以下をレクリエーションレベルとした。また,コンタクトスポーツは,フルコンタクトスポーツとリミテッドコンタクトスポーツを含んだものとした。統計学的解析は,再断裂率を項目ごとに両群間でχ2検定を用いて比較した。また,多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を用いて,再断裂の危険因子を抽出した。目的変数を再断裂の有無とし,説明変数を性別,年齢,スポーツレベル,スポーツカテゴリーとした。なお統計ソフトはR2.8.1を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行い,データの使用にあたり患者の同意を得た。個人情報保護のため得られたデータは匿名化し,個人情報が特定できないように配慮した。【結果】再断裂は949例中45例に認められ再断裂率は4.7%であった。性別(男性4.2%,女性5.3%)において男女間に有意差は認められなかった。年齢(18歳以下8.1%,19歳以上2.8%),スポーツレベル(競技レベル8.1%,レクリエーションレベル2.3%),スポーツカテゴリー(コンタクトスポーツ5.8%,ノンコンタクトスポーツ2.7%)において両群間に有意差が認められた(p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果,スポーツレベルとスポーツカテゴリーが危険因子として選択された(モデルχ2検定:p=0.000)。スポーツ活動レベルのオッズ比は3.4,スポーツカテゴリーのオッズ比は1.8であった。【考察】ACL初回損傷において女性は男性よりも2~8倍受傷リスクが高いことが知られているが,再断裂については男女間に有意差はなく危険因子としても抽出されなかった。したがってACL再建術後のスポーツ復帰に際しては男女ともに同等に注意を要すると思われた。2群間の比較において低年齢,競技レベル,コンタクトスポーツが有意に高い再断裂率を示したが,ロジスティック回帰分析による危険因子の抽出では,低年齢は選択されず,競技レベルとコンタクトスポーツが選択された。これはステップワイズ法により多重共線性をもつ低年齢が除外されたものと解釈できる。一方,スポーツレベルについては過去の報告と同様に危険因子として抽出され,競技レベルはレクリエーションレベルよりも3.4倍再断裂のリスクが高いことが明らかになった。さらにこれまで指摘されてこなかったスポーツカテゴリーにおいて,コンタクトスポーツが危険因子であることが新たに明らかになった。得られたオッズ比からコンタクトスポーツはノンコンタクトスポーツよりも1.8倍再断裂のリスクが高いことが分かった。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,競技レベルとコンタクトスポーツの選手がハイリスク群として抽出された。したがってこれらに対して集中的に再断裂予防策を講じることが効率的・実用的と考える。競技レベルはレクリエーションレベルより3.4倍,コンタクトスポーツはノンコンタクトスポーツよりも1.8倍再断裂のリスクが高いことを患者に対しても説明可能であり,術後理学療法を円滑に進める一助になると考える。とくにスポーツの種類により再断裂率が異なることを新たに証明できた意義は大きいと考える。
著者
福山 支伸 冨岡 貞治 藤川 知香 松見 勲 安倍 浩之 小林 裕和 下 嘉幸 田川 維之 石元 泰子 有木 隆太郎 竹田 俊也 中川 哲朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0276, 2004

【はじめに】<BR> 我々は,第19回東海北陸理学療法学術大会において,打撃動作時のスタンスとBat head speedの関係について報告した.しかし,スタンスという指標では,打撃動作のパフォーマンス向上の指標として,十分とは言えなかった.そこで今回我々は,打撃動作に影響を与える因子として,打撃動作時の重心移動に着目し,Bat head speedとの関係について検討し,若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】<BR> 某高校野球部に所属していた高校生18名(右打者14名、左打者4名).平均年齢16.50±0.50歳.平均身長170.56±5.43cm,平均体重61.97±6.00kgを対象とした.<BR>【方法】<BR> 2001年度より定期的に実施しているメディカルチェック項目の中から,三次元動作解析器による打撃動作解析結果を用い,分析した.<BR> 動作解析には,三次元動作解析system(ヘンリージャパン株式会社製)を用いて,打撃動作を分析し,Bat head speed(m/sec),重心移動距離(m)を算出した.<BR> 重心位置は,両側腸骨稜を結んだ中点を重心位置とし,開始肢位から,テイクバック時,足部接地時の重心移動距離を,X方向(ピッチャー方向),Y方向(垂直方向),Z方向(ベース方向)にそれぞれ算出した.<BR> 統計処理は,テイクバック時,足部接地時のX,Y,Z方向への重心移動距離とBat head speedとの相関分析を行った.<BR>【結果】<BR> テイクバック時の重心移動距離と,Bat head speedとの関係では,X,Y,Z方向で相関関係は認められなかった.<BR> 足部接地時の重心移動距離と,Bat head speedとの関係では,X方向で有意な正の相関関係が認められた(r=0.714).Y方向では,有意な負の相関関係が認められた(r=0.487).Z方向については,相関関係は認められなかった.<BR>【考察】<BR> 野球における打撃動作は,様々な要素から構成され,高度にプログラミングされた動作である.この様々な要素を分析していくことが,打撃動作を解析し,運動特性を捉えるためには,非常に意義深いことと考える.<BR> 今回の結果から,打撃動作時の重心移動は,足部接地時に,ピッチャー方向かつ下方へと重心移動すれば,Bat head speedの向上が期待できると考える.<BR> 今後は更なるデータ収集と共に,より詳細な解析を実施していきたい.<BR> 本学会において更に、データ解析、考察を加え詳細について報告する。
著者
熊丸 めぐみ 大島 茂 谷口 興一 高橋 哲也 山田 宏美 廣瀬 真純 河野 裕治 畦地 萌 横澤 尊代 櫻井 繁樹 安達 仁
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0593, 2005

【背景】呼吸器疾患患者や心疾患患者は,荷物を運ぶなど上肢が関与する日常生活活動(ADL)中にしばしば息切れを訴える.上肢動作中は,呼吸補助筋である僧帽筋などの肩甲帯周囲筋が上肢活動に参加し,相対的に呼吸を補助する割合が減ることなどにより息切れが生じると考えられている.ADLの中でも特に荷物を持ち上げて運ぶ時に呼吸困難感が増強すると訴える患者も少なくない.本研究では,荷物を持ち上げて運ぶ際に増強する呼吸困難感のメカニズムについて,大胸筋や腹直筋,僧帽筋,広背筋など胸郭を取り巻く筋群が運搬物を固定するために持続的に活動し,胸郭の動きを制限することが原因ではないかとの仮説を立て,その検証を,各種呼気ガス指標や呼吸補助筋,体幹筋の筋電図を測定することで行った.<BR>【対象と方法】対象は健常成人5名(男性3名,女性2名).男性は5kg,女性は3kgのダンベルを両手に把持した状態で6分間のトレッドミル歩行(時速4.8km,傾斜角0度)を各2回施行した.テスト1は上肢下垂位でトレッドミル歩行を行い,テスト2は肘関節90度屈曲位で上腕を体幹前腋下線上で固定した肢位でトレッドミル歩行を行った.各テスト中の酸素摂取量(VO<SUB>2</SUB>)や分時換気量(V<SUB>E</SUB>)など各種呼気ガス指標はコールテックス社製MetaMax3Bを用いて測定し,心拍数(HR)はPOLAR製心拍モニタを用いて連続測定した.表面筋電図は,腹直筋,腹斜筋,大胸筋,胸鎖乳突筋,僧帽筋,脊柱起立筋を被検筋とし,電極間距離は2cm,電極間抵抗は5キロオーム以下となるように皮膚処理を行った後にMega Electronics社製ME6000T8を用いて測定した.サンプリング周波数1kHzでA/D変換を行ってパソコンに取り込み,Mega win2.21により各試行の生波形をRMS変換し終了前1分間の積分値を算出した.<BR>【結果】VO<SUB>2</SUB>,V<SUB>E</SUB>,呼吸数,HRはいずれもテスト2において有意に高値を示した.換気効率を示す二酸化炭素に対する換気当量(V<SUB>E</SUB>/VCO<SUB>2</SUB>)も,テスト2において有意に高値を示した.また,各筋の活動量もテスト2において増加し,特に胸鎖乳突筋,大胸筋,僧帽筋,脊柱起立筋で有意な増加が認められた.<BR>【考察】同量のダンベルを負荷し,同速度で歩行しているにもかかわらず,VO<SUB>2</SUB>やHRなどの呼吸循環反応がテスト2で高値を示したのは,上腕二頭筋をはじめ大胸筋や脊柱起立筋などがより多く活動したことよるものと考えられた.また,V<SUB>E</SUB>/VCO<SUB>2</SUB>がテスト2において有意に高値を示したことは,ダンベルを持ち上げている最中は,胸郭に固定された上肢の重さや,大胸筋などの等尺性筋活動により胸郭の動きが制限されたことが換気効率を低下させた要因と考えられた.さらには,胸腔内圧の上昇が静脈還流量を減少させたり,肺動脈圧を上昇させたことが呼吸困難感の増強に影響していたと考えられた.
著者
山本 哲生 山崎 裕司 山下 亜乃 片岡 歩 中内 睦朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0122, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】変形性膝関節症は,病期の進行に伴い疼痛,変形,関節拘縮,筋萎縮等の症状が進行し,歩行能力や動作能力の低下が生じる。一方,歩行能力は下肢筋力や立位バランスによって規定されることが知られ,適切な運動療法や日常生活指導によって筋力や立位バランス能力が維持された場合,病期が進行した変形性膝関節症患者でも歩行能力が維持される可能性がある。本研究では,変形性膝関節症の病期と身体機能が歩行能力に及ぼす影響について検討した。【方法】対象は60歳以上で変形性膝関関節症を有し,独歩での通院が可能な症例196名(男性13名,女性182名,年齢75.5±6.3歳)である。疾患内訳は,両変形性膝関節症112名,片側性変形性膝関節症84名であった。病期分類は,横浜市大分類を用いGrade1:3名,Grade2:41名,Grade3:108名,Grade4:42名,Grade5:2名で,両変形性膝関節症患者は左右で重度な側を採用した。体重,年齢,歩行速度,Functional Reach Test(FRT),膝伸展筋力(アニマ社製 徒手筋力計測器μTasF-1)の5項目を調査・測定した。膝伸展筋力は左右の平均値を体重で除したものを採用した。分析はまず上記計測項目で歩行速度と関連の強い項目を重回帰分析で算定した。病期はG1.2,G3,G4.5に分類した。歩行速度が1.0m/secを下回った者を不良群,それ以外を良好群とし,病期別にその割合を比較した。また良好群,不良群での身体機能の差を比較した。最後に病期別に歩行速度が1.0m/secを下回る症例の膝伸展筋力とFRTのcut-off pointをROC曲線によってもとめた。【結果】重回帰分析の結果,歩行速度との間に有意な偏相関係数を認めたのは,膝伸展筋力(r=-0.40)とFRT(r=-0.32)であった。病期別にみた歩行速度不良群の割合は,G1.2 11%,G3 19%,G4.5 25%であり,重症度が高い群で多い傾向であったが,統計学的には有意ではなかった。各病期における膝伸展筋力は良好群と不良群の順に,G1.2では0.35kgf/kg,0.23kgf/kg,G3では0.36kgf/kg,0.24kgf/kg,G4.5では0.30kgf/kg,0.24kgf/kgであり,いずれも不良群で低値を示した(p<0.05)。同様に,FRTは,G1.2では28.8cm,20.8cm,G3では26.6cm,22.2cm,G4.5では24.8cm,21.4cmであり,いずれも不良群で低値を示した(p<0.05)。病期別のcut-off pointは,G1.2で膝伸展筋力0.26kgf/kg以上,FRT24.0cm以上,G3は膝伸展筋力0.25kgf/kg以上,FRT25.0cm以上,G4.5は膝伸展筋力0.25kgf/kg以上,FRT24.5cm以上と病期による差を認めなかった。【結論】変形性膝関節症の重症度と歩行速度には明確な関連は認めなかった。いずれの病期においても歩行速度不良群の膝伸展筋力,立位バランス能力は低く,理学療法による身体機能の維持が変形性膝関節症患者の歩行能力を維持するうえで重要なことが明らかとなった。
著者
冨永 千代子 中村 睦美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3P3207, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】座位姿勢時の座圧では、座面・背もたれ角度やクッションの有無に着目した報告は多く見られるが、足台やレッグレスト角度に着目した報告は少ない.本研究の目的は、足台の高さやレッグレスト角度の違いによる座圧の変化について検討する事である.【方法】対象は健常成人21名(男性7名、女性14名)で、平均年齢33.4±9.2歳、平均身長163.2±8.5cm、平均体重59.1±11.4kgであった.対象者には研究内容について説明を行い文書にて同意を得た.方法は、簡易体圧測定器(ケープ社製セロ)を使用し、左右坐骨への座圧を各3回ずつ計測し最大値を採用した.対象者は治療台に端座位となり胸の前で上肢を組み、1)股・膝関節90度となる高さの足台使用時、2)1)より高い足台使用時、3)足台無しで足底面離床の3条件で計測を行った.また、リクライニング車椅子に深く腰掛け、座面に対するレッグレストの角度を0°、15°、30°、45°、60°、90°と変化させ計測した.統計は、各条件間における座圧の比較に分散分析を用い、体重と座圧の関係にはピアソンの積率相関係数を求めた.有意水準は5%未満とした.【結果】足台の条件を変化させた際、座圧の平均値は1)95.6±29.5mmHg、2)138.9±29.2mmHg、3)81.9±21.1mmHgで、足台なしの条件で最も低値を示し、各条件間で有意差がみられた.レッグレスト角度による座圧の変化は、レッグレスト角度が大きくなると座圧は小さくなる傾向を示し、0°で73.66±23.5mmHg、15°で68.78±21.4mmHg、30°で67.26±19.4mmHg、45°で64.69±18.7mmHg、60°で64.08±13.4mmHg、90°で63.95±15.2mmHgとなり、0°と30°、0°と45°、0°と60°、0°と90°の間に有意差がみられた.各条件において体重と座圧に相関関係は見られなかった.【考察】車椅子座位において股・膝関節90度での座位は最も良肢位と言われ、推奨されている.そのため我々は、股・膝関節が90度となる様に高さを調節した足台を使用した際に最も座圧が低いと予想したが、実際は足台無しで足底面離床時に最も低値を示した.これは足底面が離床する事で下腿が下垂し、大腿遠位部後面の接触面積が増大し、坐骨部への圧が分散された為と考えられる.またレッグレスト角度による座圧の違いは、レッグレスト角度が大きいと座圧は小さくなる傾向を示し、90度で最も低値を示した.レッグレスト角度が大きくなると、下腿が下垂し、大腿遠位部後面の接触面積が増大し、坐骨部への圧が分散された為と考えられる.本研究では坐骨部へかかる圧力に着目し健常成人での検討を行ったが、高齢者を対象とした場合、車椅子の座位姿勢は下肢の循環状態や浮腫なども考慮に入れる必要がある.今後は実際に車椅子を利用する高齢者を対象としさらに検討を続けたい.
著者
上原 江利香 佐藤 浩二 森 敏雄 森 照明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bb1427, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 ギランバレー症候群(以下、GBS)は、自己免疫性機序により急性発症する末梢神経疾患である。比較的予後は良好とされているが、約20%以内が後遺症を残すという報告もある。回復期リハ病棟に入棟するGBS患者は回復遅延例である事が予測されるが、臨床症状は様々であり症例報告に留まる事が多い。今回、過去8年間に当院回復期リハ病棟に入棟したGBS患者のADL経過について整理したので報告する。【方法】 平成15年4月1日~平成23年3月31日の期間にGBSを主病名として当院回復期リハ病棟へ入棟した8症例であり、この内GBSの亜型であるFisher型2例と再燃し転院した1例を除いた5症例を対象とした。5症例の基本情報及び、極期症状、入棟から1カ月ごとのADL能力を症例ごとに整理した。なお、ADL能力はBarthel.Index(以下、B.I.)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院の倫理委員会の規定に沿って行った。【結果】 症例1は脱髄型の男性39歳、症例2は軸索型の男性67歳、症例3は軸索型の男性75歳、症例4は軸索型の女性80歳、症例5は軸索型の男性41歳であった。平均年齢は60.4±19.2歳、当院入棟までの平均経過日数は55.6±23.4(30~88)日であった。急性期加療では全症例がIVIGを施行し、症例1、5はステロイドパルス療法を併用していた。また、極期に全症例が四肢麻痺を呈し、症例1、2は呼吸筋麻痺により人工呼吸管理を行っていた。入棟時のB.I.は症例1~5それぞれ、60、40、40、40、15点であった。ADLの経過をB.I.の項目別で整理すると、食事は症例1、2は入棟時自立、介助を要した3例の内、症例4、5は入棟から10~20日で自立した。症例3は退院時も介助を要した。椅子とベッド間の移乗は症例4が入棟時自立、介助を要した4症例全例が60~90日で自立した。整容は症例1が入棟時自立、介助を要した4例の内、症例2、4、5は30日~90日で自立した。軸索型の症例3は退院時も介助を要した。トイレ動作は全例が入棟時介助、30~150日で全例自立した。しかし、症例3、5は下衣の操作に補助具の使用、衣服の工夫が必要であった。入浴は入棟時に全例が介助を要し、症例1、4は入棟から120~150日で自立した。症例2、3、5は退院時も介助を要した。移動は入棟時、全例が介助、30~150日で全例が歩行自立した。症例1、3、5はロフストランド杖、症例2は下肢装具とロフストランド杖が必要であった。階段昇降は入棟時全例が介助、症例1、2、4、5は入棟から120~150日で自立、症例3は退院時介助を要した。更衣は入棟時全例が介助、症例1、2、3、4は30~150日で自立したが、症例5は退院時も介助であった。排便・排便コントロールは入棟時、症例3、4が自立、介助を要した症例1、2、5は入棟から14~20日で自立した。退院時B.I.は症例1~5までそれぞれが、100、95、75、100、90点に改善した。なお、5症例の平均在院日数は147日±17.9日であり全症例が自宅退院に至った。【考察】 当院へ入棟した患者5症例は日本神経治療学会/日本神経免疫学会合同の治療ガイドラインで予後不良因子として挙げられている高齢者や呼吸筋麻痺などの重度麻痺、軸索障害などの項目に当てはまった。また、入院時B.I.は脱髄型の症例1を除くと4例が40点以下であり、回復遅延例と考える。ADL能力の経過をB.I.の項目別で整理すると、自立に要した期間や達成度から概ね排便・排尿コントロール、食事、整容、トイレ動作、移動、更衣、階段昇降、入浴の順で難易度が高いと考える。自立しなかった項目を整理すると、整容や食事といった比較的容易な項目で減点となる症例がいた。これは、上肢に麻痺が残存した症例の特徴であり、手指の拘縮を認めた症例では補助具の装着も困難であった。一方、下肢麻痺が残存した場合は下肢装具や歩行補助具の使用により、退院時には全症例が歩行自立した。これらから、上肢麻痺がADL能力獲得の阻害因子となる可能性が高い事が示唆された。その為、GBS患者に対しては、早期より上肢の機能改善を目的とした機能訓練と補助具の活用、上肢装具による拘縮予防に努める事が重要と考える。【理学療法学研究としての意義】 回復期リハ病棟における、GBS患者に対するアプローチの意義は機能回復を促し、ADLを獲得させ、社会復帰に繋げる事であり、円滑な訓練転換のためにはGBS患者の訓練経過を理解しておく必要がある。今回の結果は、適切な訓練展開や目標設定の指標の一助として活用できるものと考える。
著者
渡会 昌広 林 謙司 柳田 俊次
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0148, 2004

【目的】<BR>変形性膝関節症症例では足部・下腿の矢状面上回転運動が正常歩行と比較して,立脚相初期の回転運動が減少し,障害の一因となりうることを報告した(2002,日本理学療法学術大会).歩行における回転運動とは,足部・下腿の矢状面上での回転運動で,踵を中心とする回転運動(Heel Rocker:HR),足関節を中心とする回転運動(Ankle Rocker:AR),前足部を中心とする回転運動(Forefoot Rocker:FR),の機能的な連鎖運動をいう(Perry,1992).この回転軸による運動が停滞したり,運動連鎖が破綻したりすることで異常運動が生じ,支持性の低下や速度の減少といった歩行障害の原因となることが考えられる.本研究では,代表的な歩行障害例である片麻痺症例の歩行分析を行うことで,歩行障害に共通した歩行異常を指摘し,歩行分析・観察の着目点を探ることを目的とした.<BR>【対象と方法】<BR>被験者は変形性膝関節症患者2名,右片麻痺症例2名とした.比較する正常歩行例として,下肢に特に既往のない健常成人2名を選んだ.測定課題は自由速度による裸足歩行とし,側方から矢状面上の下肢の運動をデジタルカメラにより撮影した.あらかじめ下肢各標点(腓骨頭:F,外果:LM,踵骨隆起:C,第5中足骨底:M5,第5趾末節骨:DP5)にマーカを貼付し,立脚相のLM―C間線分の水平線とのなす角度(HR角),F―LM間線分とLM―M5間線分とのなす角度(AR角),LM―M5間線分とM5―DP5間線分とのなす角度(FR角)の時間的変化を計測した.デジタルビデオで撮影した映像をPCに取り込み,Scion Image(画像解析ソフト,Scion corporation)を使用して角度の測定を行った.<BR>【結果】<BR>歩行立脚相において,健常者ではHR角,AR角,FR角という順序で連鎖的に回転運動見られた.一方,変形性膝関節症症例と片麻痺症例では共通した特徴として次の2点がみられた.<BR>(1)踵接地後のHR角の回転運動が減少していた.(すなわち全足底接地に近い状態で接地している)<BR>(2)踵接地後からAR角が大きく,回転運動の減少がみられた.(すなわち下腿が直立し,膝屈曲位の状態で接地している)<BR>【考察】<BR>支持性と推進性を同時に獲得すべき立脚相初期において,回転運動の減少は推進性を阻害する.しかし疼痛や麻痺といった障害を有する場合,支持性の獲得を優先させるための方略を取る.全足底接地と膝屈曲位での接地はその結果であることが推測される.しかし,膝屈曲位での接地は関節の力学的支持性の低下を招くと推察される.今回の結果でも,星野ら(2001)が報告した加齢に伴う回転運動の減少と同様の変化がみられ,加齢や障害に伴う異常運動が歩行の推進性や支持性の低下に影響を与えていると示唆される.
著者
前岡 浩 松尾 篤 冷水 誠 岡田 洋平 大住 倫弘 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0395, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】痛みは不快を伴う情動体験であり,感覚的,認知的,情動的側面から構成される。したがって,知覚される痛みは刺激強度だけでなく,不快感などの心理的状態にも大きく影響を受ける。特に,慢性痛では認知的および情動的側面が大きく影響することが報告され(Apkarian, 2011),運動イメージ,ミラーセラピー,バーチャルリアリティなどの治療法が提案されている(Simons 2014, Kortekass 2013)。しかしながら,これらの治療は主に痛みの認知的側面の改善に焦点を当てており,情動的側面からのアプローチは検討が遅れている。そこで今回,痛みの情動的側面からのアプローチを目的に,情動喚起画像を利用した対象者へのアプローチの違いが痛み知覚に与える影響について検証した。【方法】健常大学生30名を対象とし,無作為に10名ずつ3群に割り付けた。痛み刺激部位は左前腕内側部とし,痛み閾値と耐性を熱刺激による痛覚計にて測定し,同部位への痛み刺激強度を痛み閾値に1℃加えた温度とした。情動喚起画像は,痛み刺激部位に近い左前腕で傷口を縫合した画像10枚を使用し,痛み刺激と同時に情動喚起画像を1枚に付き10秒間提示した。その際のアプローチは,加工のない画像観察群(コントロール群),縫合部などの痛み部位が自動的に消去される画像観察群(自動消去群),対象者の右示指で画像内の痛み部位を擦り消去する群(自己消去群)の3条件とした。画像提示中はコントロール群および自動消去群ともに自己消去群と類似の右示指の運動を実施させた。評価項目は,課題実施前後の刺激部位の痛み閾値と耐性を測定し,Visual Analogue Scaleにより情動喚起画像および痛み刺激の強度と不快感,画像提示中の痛み刺激部位の強度と不快感について評価した。統計学的分析は,全ての評価項目について課題前後および課題中の変化率を算出した。そして,課題間での各変化率を一元配置分散分析にて比較し,有意差が認められた場合,Tukey法による多重比較を実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】痛み閾値は,自己消去群が他の2群と比較し有意な増加を示し(p<0.01),痛み耐性は,自己消去群がコントロール群と比較し有意な増加を示した(p<0.05)。また,課題実施前後の痛み刺激に対する不快感では,自己消去群がコントロール群と比較し有意な減少を示した(p<0.05)。【結論】痛み治療の大半は投薬や物理療法など受動的治療である。最近になり,認知行動療法など対象者が能動的に痛み治療に参加する方法が提案されている。本アプローチにおいても,自身の手で「痛み場面」を消去するという積極的行為を実施しており,痛みの情動的側面を操作する治療としての可能性が示唆された。
著者
大平 功路 田中 和哉 山村 俊一 入谷 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0845, 2006

【目的】第40回日本理学療法士学会において、歩行時の骨盤回旋に影響する因子として立位における上部体幹の回旋の可動性が下肢の回旋を含む骨盤回旋運動より影響が大きいことを報告した。この報告より、歩行では上部体幹と骨盤は協調して動いていると考えられる。また、骨盤回旋運動は股関節を中心として生じることから、上部体幹の可動域と股関節の可動域には関係があると考える。そこで今回、入谷が考案した上部体幹の可動性を評価する自動体幹回旋テストを用い、上部体幹の可動域と股関節の可動域の関係について調べたので報告する。<BR>【方法】対象は健常成人14名(男性7名、女性7名)、年齢24.9±2.2歳である。測定はゴニオメーターを使用し、1)自動体幹回旋テストでの上部体幹の可動域(左右の後方回旋)2)股関節可動域(腹臥位での左右の内外旋角度)の2項目を測定した。自動体幹回旋テストは立位において骨盤を固定した状態で上半身を後方に回旋するものである。分析は、上部体幹の可動域の左右角度差と左右の股関節内旋及び外旋の角度差の相関関係を調べた。また、股関節内旋の角度差と外旋の角度差の相関関係も調べた。なお、左右差については各項目において右側から左側を減じた。統計処理は、Spearman順位相関を用いた。<BR>【結果】上部体幹可動域の左右差と股関節内旋角度差の関係では負の相関関係を認め(r=-0.588、p<0.05)、股関節外旋角度差とは相関関係を認めなかった。上部体幹の後方回旋の大きい側が股関節外旋の大きくなったものが14名中10名、反対側の外旋が大きくなったものが14名中2名、外旋角度に左右差がないものが14名中2名であった。上部体幹の後方回旋の小さい側が股関節内旋の大きくなったものが14名中13名、内旋角度に左右差がないものが14名中1名であった。また、股関節内旋の角度差と外旋の角度差の関係では負の相関関係を認めた(r=-0.759、p<0.01)。<BR>【考察】第40回日本理学療法士学会では上部体幹の後方回旋の可動性が大きい側が歩行時の骨盤の前方回旋が大きくなるという報告をした。この報告と今回の結果より上部体幹の後方回旋の可動性が大きい側が歩行時の骨盤の前方回旋が大きくなり、歩行時の骨盤の後方回旋が大きい側は股関節内旋角度が大きく、前方回旋が大きい側は股関節外旋角度が大きくなる傾向があると考えられる。骨盤の後方回旋に伴い股関節は内旋運動を、前方回旋では外旋運動を伴うために股関節の回旋可動域に左右差が生じたと考える。日常生活において歩行は日々繰り返される動作であり、歩行時の形態と関節可動域角度の左右差との間に関係があったことは、歩行動作によって関節可動域が規定されたと考えられる。理学療法において、関節可動域の特徴と動作との関係を明確にすることは評価・治療において有意義なものと考える。<BR><BR>
著者
白浜 幸高 田中 利昭 藤本 英明 神田 勝利 東海林 麻里子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.G0433, 2007

【目的】<BR> 臨床実習において、レポート等の提出物における個人を推定できると考えられる項目の記載方法、並びに実習終了後の実習中収集した情報の取り扱いは重要な問題である。「個人情報の保護法」の施行以降、各施設間での対応は様々で養成校で書式を統一するのは困難である。<BR> 我々は第28回九州PT・OT合同学会において、追跡調査で実習終了後提出されたレジュメから「臨床実習における個人情報管理の動向」について発表を行った。今回、臨床実習指導者(以下SV)がチェックした「匿名化に関する確認事項」より、流出しやすいデジタル情報の実習中及び実習後の取り扱いなどを新たに加えて、個人情報に関する取り扱いの対応の動向を調べた。またそれに対する本校の取り組みも加えて報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 本校学生が平成18年5月~平成18年11月にSVから指導を受けた「匿名化に関する確認事項」の中から、この研究の趣旨の説明に対して同意のあった61施設を対象とした。<BR> その中で個人の特定に関する項目、(1)実習施設名、(2)患者氏名、(3)生年月日、(4)年齢、(5)現病歴、(6)家族構成、(7)家屋情報、(8)病名、(9)疾患部位画像(CT、X-p など)、(10)動画の記載方法、(11)実習終了後の学生パソコンの中のデータの取り扱い方法について項目毎に分類し、割合を検討した。<BR>【結果】<BR>(1)施設名記載許可92%、不許可8%、(2)患者氏名の記載方法イニシャル52%、姓のみのアルファベット25%、代替表示(症例1など)23%、(3)生年月日記載許可42%、不許可13%、簡略表示(年と月のみ)45%、(4)年齢記載許可64%、不許可1%、簡略表示(70歳後半など)35%、(5)現病歴記載許可79%、簡略表示(年と月のみ)21%、(6)家族構成記載許可80%、記載制限(キーパーソンのみ)20%、(7)家屋情報記載許可87%、記載制限(関連箇所のみ)13%、(8)病名記載許可98%、不許可2%、(9)疾患部位画像手書きによる写しのみ許可43%、デジタルカメラによる撮影画像許可57%、(10)動画撮影許可85%、不許可15%、(11)実習終了後のデータ保存についてテキストデータのみ保存可54%、動画データも保存可30%、保存全て不許可16%<BR>【考察及びまとめ】<BR>・各項目において、施設毎、また同施設でも実習時期における取り扱いには違いが見られた。<BR>・動画、画像などのデジタルデータは、多くの実習で活用されているが、保存の許可は30%であった。<BR>・本校で臨床実習初日に、SVに「匿名化に関する確認事項」として紙面上に記載してもらい、学生は厳守して実習に臨むよう指導を行っている。<BR>
著者
熊澤 浩一 幸田 仁志 坂東 峰鳴 山野 宏章 梅山 和也 粕渕 賢志 福本 貴彦 今北 英高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0536, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】フォワードランジ(以下,FL)とは,片脚を前方へ踏み出し,踏み出した脚の膝と股関節を曲げることで,姿勢を変えて体重を前脚にかける運動である。FLによって下肢の筋力,柔軟性,バランスの総合的な評価とトレーニングを行うことができ,スポーツ選手から高齢者まで幅広く用いられる。臨床現場において,膝前十字靭帯損傷など下肢運動器疾患を有する人を対象にFLを行う際では,踏み出し時に加わる膝関節への負荷を考慮して,前後に脚を広げた状態を開始肢位として行う場合もある。しかしながら,FLに関する先行研究では踏み出しの有無による膝関節への負荷軽減効果については分析されていない。そこで,本研究の目的は,膝関節への機械的ストレスの指標とされる外部膝関節モーメントを用いて,FL時の踏み出しの有無が膝関節へ及ぼす影響を検討することとした。【方法】対象は,下肢に整形外科疾患の既往のない男性12名(年齢20.8±2.0歳,身長171.6±7.6cm,体重63.9±7.6kg)とした。測定には,三次元動作解析装置(Vicon社)と床反力計(AMTI社)を用いた。対象者は利き足(ボールを蹴る足)を前脚とした踏み出し有りと無しのFLを各3回ずつ実施した。その際,踏み出し及び前後開脚幅は棘果長の80%,足幅は上前腸骨間距離,前脚足尖方向は前方と規定した。踏み込みの速度を統一するためにメトロノームを用い,2秒で踏み込み,2秒で開始肢位に戻るよう指示した。また,FL時は可能な限り前脚に体重をかけ,前脚踵が床から離れない範囲で足尖方向に膝を屈曲させた。動作中の外部膝関節屈曲モーメントと外部膝関節内外反モーメントを体重で除して正規化し,3回計測した平均値のピーク値を解析対象とした。統計学的解析には,踏み出しの有無の違いによる各モーメントの差異について対応のあるt検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。【結果】外部膝関節内外反モーメントは,全例内反モーメントを示した。踏み出し有りのFLでは,外部膝関節屈曲モーメント0.89±0.19Nm/kg,外部膝関節内反モーメント0.65±0.23Nm/kgであった。踏み出し無しのFLでは,外部膝関節屈曲モーメント0.75±0.19Nm/kg,外部膝関節内反モーメント0.65±0.13Nm/kgであった。踏み出し無しでのFLは踏み出し有りと比較して,外部膝関節屈曲モーメントが有意に減少しており(p<0.05),外部膝関節内反モーメントには有意な差がなかった(p=0.89)。【結論】踏み出し無しのFLは,踏み出し有りと比較して膝関節へ加わる外部膝関節屈曲モーメントを軽減できるが,外部膝関節内反モーメントは軽減されないことが示された。踏み出し有りのFLは,外部膝関節内反モーメントを増加させることなく,外部膝関節屈曲モーメントを加えることができる。臨床では,踏み出し無しのFLが一様に膝関節への機械的ストレスを軽減するものでは無いことを念頭におき,運動方法を選択する必要があろう。
著者
堀江 貴文 辰巳 裕美 永瀬 隆浩 田野 俊平 大月 さとみ 南場 芳文
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI2098, 2011

【目的】<BR> 近年、ノルディック(ポール)ウォーキング(以下、NW)用のポールを用いた歩行に関する研究が進んでいるが、側弯や円背を呈する変形性脊椎症やパーキンソン病に対するNWの有効性に関する研究は少ない。今回、当院を退院した患者において、ポールを使った歩行様式は、T-caneを使った歩行様式と比較し、どのような効果があるのかを検証した。<BR>【方法】<BR> この研究に同意を得た80歳代の女性。診断名はパーキンソン病(H11.2、Yahr1)、変形性脊椎症(H11.6)。既往歴、H11年、左変形性膝関節症にて左TKA術施行、H12年に右踵固定術施行。H19年、直腸脱にてストーマ置換術施行。H22.5までは歩行器歩行も可能であったが、内科疾患をきっかけに臥床がちとなり、H22.6より歩行不能となり、当院へ入院してのリハビリ開始となった。身長145.0cm、体重35.8kg。脊柱はTh10レベルを頂椎とした右凸の側彎を呈し、cobb角は30°。MMT上肢4レベル、下肢4レベル、体幹3+レベル。握力右18.0kg、左16.5kg。HDS-R20点。FIM(入院時/退院時)64点/113点。 <BR> 以下のア~ウに対して、10m歩行における歩数と所要時間(ケイデンス)を計測。なお、計測はNW指導の初回日とした。ア.T-cane(片側)による歩行、イ.T-cane(両側)による歩行、ウ.NWによる交互型歩行、デフェンシブタイプ。また、ア~ウの静止立位姿勢は、canon社製IXY1000にて前額面、矢状面、後面よりデジタル撮影、歩行動作は、sony社製SH-800にてデジタル動画撮影し、評価を加えた。NW用ポールは、(株)サンクフルハート社製KD Pole Waker伸縮タイプを使用した。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究の目的と方法を口頭及び書面にて説明し、同意を得た。対象者の人権保護や個人情報保護に配慮し、守秘義務を遵守した。<BR>【結果】<BR> 10m歩行における歩数はア.59(歩)、イ.41(歩)、ウ.30(歩)、ウはアと比較し49.2%の向上、イと比較し26.8%の向上を認めた。平均所要時間はア.39.2(秒)、イ.33.3(秒)、ウ.27.5(秒)であり、同様にウはアと比較し29.8%の向上、イと比較し17.4%の向上を認めた。ケイデンスはア.90.7(歩/分)、イ.73.8(歩/分)、ウ.65.4(歩/分)であり、ここではウはアと比較し27.9%の向上、イと比較し11.4%の向上を認めた。静止姿勢、動的姿勢ともにNW用ポール使用時に脊柱などの伸展が確認できた。また静止立位に於けるcobb角は、両T-cane使用により23°にまで減少、NW用ポール使用により20°にまで減少した。<BR>【考察】<BR> 以上の結果より、変形性脊椎症とパーキンソン病を呈し、廃用性の機能低下を起こした患者に対してのNW用ポール使用は、ケイデンスの向上、姿勢アライメントの改善の効果を示した。<BR> この事は、両腕に把持するNW用ポールの長さは、身長の約68%程度に相当し、大腿骨大転子部に握りの位置を合わせるT-caneの場合と比較すると、高位置に存在する。また、身体重心の位置が身長の約55%の位置にあるが、NWポールの握りの位置は、それを超えた高さに存在しており、基礎疾患による重心偏位などの影響があっても、歩行動作中の安定性は向上し、ケイデンスなどの改善に寄与したと考える。同時に、T-caneと比較し、NWポールの使用による静止立位姿勢は、より容易に改善できたと考える。<BR> その他の特徴として、これらの改善効果は、即時的に認められ、高齢者に対してのポールの使用の理解もされやすく、導入が容易であった印象が強い。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 近年NWは健康増進等の目的で徐々に利用される様になってきており、その健常者に対しての有用性も数々の研究により明らかとされている。今後は、医療施設等における術後患者や機能障害を示す疾患を持つ状態の方に、NW用ポールを使用した理学療法に応用していかなければならないと考える。<BR>今回は、重度脊椎症と軽度のパーキンソン病を呈す患者に対してNW用ポールを理学療法に取り入れ、評価を実施したが、今後は対象疾患数を増やし、医療現場におけるNWの更なる可能性を見出していきたい。本研究が今後の医療現場におけるNWの発展の礎となる事を期待する。
著者
墨谷 由布子 尾崎 亮 内藤 勝行 中嶋 正明 小幡 太志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1331, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】運動学の概念では,日常生活動作における長時間の立位姿勢では,足を台上に上げることで通常よりも腰痛が軽減すると言われている.しかし,この台の高さに関する明確な記述はあまりなされていない.そこで今回は,高さをどの程度に設定すると最も腰部のストレスが軽減されるかを脊柱の彎曲,骨盤の後傾度,筋放電を測定して明確にすることを目的とし,検討した.【方法】対象は,腰痛の既往のない健常成人男性6名とした.年齢,身長,棘果長,転子果長の平均はそれぞれ21.3±0.5歳,167.0±4.8cm,87.1±4.2cm,78.8±4.1cmであった.測定肢位は,立位で5kgの重錘を体幹の前方に両肘関節90度屈曲位で水平に保持した状態での静的立位姿勢および10cm,15cm,20cm,25cm,30cmの各台に片足をのせて行った.この肢位で,スパイナルマウスを用いて脊柱の彎曲,上前腸骨棘と大転子に目印を貼付し,デジタルカメラで撮影しScion Imageにて骨盤の後傾度,筋電計で脊柱起立筋群の筋放電を測定した.【結果】静的立位と比較し10cm以上の踏み台では骨盤の後傾が有意に増加した.15,30cmでは腰仙角,腰椎の前彎が有意に減少した.足を台にのせた側の脊柱起立筋群の筋放電は,立位と比較して10cm~25cmで有意に増加し,15cmでは対側と比較して同側で有意に増加した.15cmにおいては,両側の脊柱起立筋群の筋放電と腰仙角に負の相関関係,同側の脊柱起立筋群の筋放電と腰椎の彎曲,対側の脊柱起立筋群の筋放電と胸椎の彎曲にはそれぞれ正の相関関係が認められた.【考察】今回の結果において,骨盤の後傾度では10cm以上の台に片足をのせた肢位で骨盤の前傾が有意に抑制でき,腰椎の前彎では15cm以上で有意に前彎が抑制することが明らかとなった.一方,筋放電では立位と比較して片足を台にのせた側の脊柱起立筋群の筋放電が,台の高さが高くなるにつれて有意に増加したのに対し,対側では有意な増加が認められなかった.これは,片足を台にのせる動作によって骨盤の対側への回旋が生じ,これを抑制するために同側の脊柱起立筋群の筋放電が各肢位で有意に増加したと考えられる.筋放電から考えると,10cm以上の台で行った肢位で同側の脊柱起立筋群の筋放電が有意に増加し,腰部の負担が増加することが明確となった.筋活動が少ない対象者に対しては,筋活動を促す目的で片足を台にのせることが有効ではないかと考えられる.また,筋緊張が高く腰痛を生じている対象者に対しては,腰痛を増悪させる可能性があると推測できる.【まとめ】以上のことから考えると,理学療法としては,15cmの台に片足をのせることによって腰部に負担をかけることなく,腰痛を軽減することができると推測される.今回の対象者では,台の高さが身長の9.0%,棘下長の17.2%,転子果長の19.0%であった.この割合に関しては,本研究では対象人数が少なく,今後さらなる研究が必要であると考えられる.
著者
武市 尚也 渡辺 敏 松下 和彦 飯島 節 西山 昌秀 海鋒 有希子 堀田 千晴 石山 大介 若宮 亜希子 松永 優子 平木 幸治 井澤 和大
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100763, 2013

【はじめに、目的】 大腿骨頸部・転子部骨折 (大腿骨骨折) 患者における退院時の歩行自立度は退院先や生命予後に影響を与える. 先行研究では, 退院時歩行能力に関連する因子として年齢, 性, 認知機能, 受傷前歩行能力などが報告されている (市村, 2001). しかし, 術後1週目の筋力, バランス能力が退院時の歩行自立度に及ぼす影響について検討された報告は極めて少ない. そこで本研究では, 大腿骨骨折患者の術後1週目の筋力, バランス能力が退院時の歩行自立度に関連するとの仮説をたて, それを検証すべく以下の検討を行った. 本研究の目的は, 大腿骨骨折患者の術後1週目の筋力, バランス能力を独立変数とし, 退院時歩行自立度の予測因子を明らかにすることである.【方法】 対象は, 2010年4月から2012年9月の間に, 当院に大腿骨骨折のため手術目的で入院後, 理学療法の依頼を受けた連続305例のうち, 除外基準に該当する症例を除いた97例である. 除外基準は, 認知機能低下例 (改訂長谷川式簡易認知機能検査: HDS-R; 20点以下), 入院前ADL低下例, 術後合併症例である. 調査・測定項目として, 入院時に基本属性と認知機能を, 術後1週目に疼痛と下肢筋力と下肢荷重率を調査および測定した. 基本属性は, 年齢, 性別, 術式である. 認知機能評価にはHDS-Rを, 疼痛評価にはVAS (Visual Analog Scale) をそれぞれ用いた. 疼痛は, 安静および荷重時について調査した. 下肢筋力の指標には, 膝関節伸展筋を用い, 検者は筋力計 (アニマ株式会社, μ-tasF1) にて被検者の術側・非術側の等尺性筋力値 (kg) を測定し, 体重比 (%) を算出した. バランス能力の指標には下肢荷重率を用いた. 測定には, 体重計を用いた. 検者は被検者に対し, 上肢支持なしで体重計上5秒間, 最大荷重するよう求め, その際の荷重量 (kg) を左右測定し, 体重比 (%) を算出した. 歩行自立度は退院1日前に評価された. 歩行自立度はFIMの移動自立度 (L-FIM) に従い, 歩行自立群 (L-FIM; 6以上) と非自立群 (L-FIM; 6未満) に分類した. 統計解析には, 退院時歩行自立群および非自立群の2群間における基本属性および術後1週目の各因子の比較についてはt検定, χ²検定を用いた. また, 退院時の歩行自立度を従属変数, 2群間比較で差を認めた因子を独立変数として, ロジスティック回帰分析を実施した. さらに, 退院時歩行自立度の予測因子とロジスティクス回帰分析で得られた予測式から求めた数値 (Model) のカットオフ値の抽出のために, 受信者動作特性 (ROC) 曲線を用い, その感度, 特異度, 曲線下面積より判定した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院生命倫理委員会の承認を得て実施された (承認番号: 第91号).【結果】 退院時における歩行自立群は48例, 非自立群は49例であった. 基本属性, 認知機能は, 年齢 (自立群73.9歳 / 非自立群81.8歳), 性別 (男性; 35% / 10%), 術式 (人工骨頭置換術; 56% / 29%), HDS-R (27.2 / 25.9) であり2群間に差を認めた (p<0.05). 術後1週目におけるVASは安静時 (1.0 / 1.8), 荷重時 (3.7 / 5.0) ともに非自立群は自立群に比し高値を示した (p<0.05). 膝伸展筋力は術側 (22.0% / 13.8%), 非術側 (41.8% / 27.6%) ともに自立群は非自立群に比し高値を示した (p<0.05). 下肢荷重率も術側(75.3% / 55.8%), 非術側 (98.2% / 92.3%) ともに自立群は非自立群に比し, 高値を示した (p<0.05). 2群間比較で差を認めた因子を独立変数としたロジスティクス回帰分析の結果, 退院時歩行自立度の予測因子として, 術側膝伸展筋力 (p<0.05, オッズ比; 1.14, 95%信頼区間; 1.04-1.28)と術側下肢荷重率 (p<0.05, オッズ比; 1.04, 95%信頼区間; 1.01-1.08) が抽出された. その予測式は, Model=術側膝伸展筋力*0.131+術側下肢荷重率*0.04-4.47であった. ROC曲線から得られたカットオフ値は, 術側膝伸展筋力は18% (感度; 0.72, 特異度; 0.77, 曲線下面積; 0.78), 術側下肢荷重率は61% (感度; 0.76, 特異度; 0.68, 曲線下面積; 0.76), そしてModelは0.77 (感度; 0.76, 特異度; 0.87, 曲線下面積; 0.82) であった.【考察】 大腿骨骨折患者の術後1週目における術側膝伸展筋力と術側下肢荷重率は, 退院時の歩行自立度を予測する因子であると考えられた. また, ロジスティクス回帰分析で得られた予測式から算出したModelはROC曲線の曲線下面積において上記2因子よりも良好な判別精度を示した. 以上のことから, 術側膝伸展筋力および術側下肢荷重率の両指標を併用したModelを使用することは, 単一指標よりも歩行自立度を予測する因子となる可能性があるものと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義は, 術後早期における退院時歩行自立度の予測因子およびその水準を示した点である. 本研究の成果は, 急性期病院において転帰先を決定する際の一助になるものと考えられる.
著者
小寺 麻美 石川 大樹 露木 敦志 前田 慎太郎 浅野 晴子 谷川 直昭 中澤 加代子 園田 剛之 福原 大祐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P1481, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は非接触型損傷が7割以上を占め、その多くはknee-in&toe-out肢位での受傷であることが報告されている.そして近年、ACL損傷予防として股関節外転筋トレーニングが注目されるようになってきた.当院でもACL再建術後の再損傷や反対側損傷予防のため、リハビリテーションプログラムにCKCでの股関節外転筋トレーニングを追加したところ、反対側損傷が大幅に減少したことを報告した(2008年日本臨床スポーツ医学会学術集会).今回は当院で行っている股関節外転筋トレーニングを臥位と立位に分け、それぞれ中殿筋と大殿筋に着目し表面筋電図を用いて解析したところ、興味深い結果を得たので以下に報告する.【対象および方法】対象は下肢に整形外科的疾患の既往がない健常男性3名とした.被検者には本研究の主旨を十分に説明し、同意の下で協力を得た.測定項目は1)側臥位での股関節外転運動、2)サイドブリッジ、3)立位での股関節外転運動(OKC)、4)3の時の支持側(CKC)の4項目とし、測定筋は中殿筋および大殿筋とした.中殿筋は腸骨稜から1横指遠位、大殿筋は筋腹中央のそれぞれ筋繊維に沿って電極を貼付した.測定にて得られた筋電信号をサンプリング周波数1000Hzにてコンピューターに取り込み、筋電積分値(IEMG)を求めた.各運動は1秒毎にリズムを取りながら行い、各測定時間から4秒間(各2運動)を抽出した.求めたIEMGを比較検討するため、Danielsらの肢位にて各筋の最大随意等尺性収縮を測定し正規化した(%IEMG).立位運動にはROTARY HIP(CYBEX社製)を用いた.【結果】%IEMGの比較より、中殿筋と大殿筋の筋放電量は臥位より立位において有意に多かった.また、立位での筋放電量はOKCに比べてCKCで多かった. 筋電図波形の比較より、すべての運動において中殿筋が先行して活動した.また、このことは特に立位において著明であった.【考察】すべての股関節外転運動の筋電図波形において、中殿筋が先行して働き、遅れて大殿筋が活動していた.また、このことは臥位より立位にて著明であった.これらよりknee-in&toe-outを予防するためには中殿筋だけでなく大殿筋にも着目する必要があり、さらに中殿筋が活動するタイミングも重要であることが示唆された.また、筋放電量は臥位に比べて立位で多かった.特に立位での大殿筋放電量においてはOKCよりもCKCで有意に多かった. 以上より、ACL再建術後のリハビリテーションにおける再損傷や反対側損傷を予防するための股関節外転筋トレーニングは、全荷重が許可され次第可及的早期に立位かつCKCで行うことが望ましいと考えた. 本学会では、表面筋電図解析にて効果的と思われた股関節外転筋トレーニングの実際を紹介する.
著者
松田 雅弘 田上 未来 福原 一郎 花井 丈夫 新田 收 根津 敦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】我々は福祉用HALを用いた運動療法が,発達期中枢神経障害児者の歩行・バランス能力に対して,即時的・長期的効果について報告してきた。今回,発達期中枢神経障害児者の膝関節の動きに対して,単関節HAL(以下,HAL-SJ:single joint type)を用いた運動療法を実施した。その効果について,担当PTにアンケートを実施し,HAL-SJが運動機能に及ぼす影響について検討したので報告する。【方法】発達期中枢神経障害児者に対し,HAL-SJを使用した理学療法士5名(経験年数約10~30年)に使用目的および時間,その効果に関してアンケート調査を実施した。対象となった発達期中枢神経障害児者は13名(平均年齢13.2歳,9-12歳,男性7名,女性6名,痙性四肢麻痺4名,痙性両麻痺7名,痙性片麻痺2名),GMFCSI:2名,II:3名,III:4名,IV:4名であった。アンケート調査時の使用回数は1回目12名,2回目以上7名の計19回のアンケートについて分析を行った。運動療法の効果に関しては5件法を用いて,目的にそった効果について検討した。また,自由記載にて使用方法とその効果について調査した。【結果】HAL-SJを利用した目的は,両側(16回)または一側膝関節(3回)に装着して,随意性の向上(14回)と立位練習(14回),歩行練習(6回),段差昇降練習(3回),その他(自転車)であった。HAL-SJを用いた平均運動時間39.5±12.6分(20-60分)であった。膝関節の随意性の改善は平均2.8±1.2点,歩行の改善は平均3.5±0.9点,立位姿勢制御の改善は平均3.7±1.0点,立ち上がり動作は平均3.8±0.8点,段差昇降の改善は平均4.0±0点となった。目的とする姿勢動作時には,HAL-SJを利用することで立位・歩行時の機能改善,特に膝伸展筋の活動が向上して立位時の支持性の改善がみられた。その他,筋活動を視覚的にPTまたは患者自身が確認でき,フィードバックしながら運動が可能である,軽量のため動作練習を行いやすいなどの自由記載があった。【考察】HAL-SJを使用した運動療法の効果は,装着した膝関節の動きだけではなく,近位関節である股関節制御も高め,立位・歩行機能の改善につながった。HAL-SJ,福祉用HALと異なり,生体電位は大腿の筋のみで,制動する関節は膝関節の1関節でなる。発達期中枢神経障害児者の下肢運動は,分離運動が困難なため,HAL-SJが膝関節の分離運動を促すことで,下肢関節にトータル的な運動制御の改善がなされ,身体運動が円滑になったと考えられる。特に,立位・歩行制御を目的とした運動療法の一部として有効的な手段になると考えた。視覚的なフィードバックはPTにも患者にも有効的で,その情報をもとに運動指導や学習が可能なことも効果を実感した一助になったと考えられる。また,福祉用HALは小児を対象とした場合,身長制限が問題となるが,HAL-SJはその制限に関わらず使用することが可能である。</p>
著者
石田 文香 森 憲一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)の診断基準であり病態を表す気流制限は,生活の質(以下QOL)や予後を反映する評価とは必ずしも一致しない。今回,COPDの呼吸障害に対する理学療法(以下PT)の効果を検討する目的で,職業動作のパフォーマンスとQOLを追跡評価し治療を展開したので考察を加え報告する。【方法】カナダ作業遂行測定(以下COPM)により目標と治療戦略を立案し,修正MRC息切れスケール(以下mMRC),Updated BODE index,胸郭拡張差,6分間歩行距離,PCI,COPD assessment test(以下CAT),MOS36-Item Short-Form Health Survey(以下SF-36v2™)にて効果判定を行った。症例は50歳代前半男性。BMI22.4kg/m<sup>2</sup>。独居。職業ラーメン屋店員。喫煙歴約35年。6年前COPD重症度III期と診断。徐々に症状増悪しX年より在宅酸素療法(安静時O<sub>2</sub>1L,労作時O<sub>2</sub>2L)を開始。X+1年9月,重症度IV期に進行,当院PT目的にて入院し1ヶ月の治療を実施。身体機能面とQOLの改善が得られた。退院前にNPPV導入。週1回の外来PTを実施し職場復帰を果たした。その後の追跡にて,各評価測定値の悪化と外来通院継続困難が原因となり,X+2年8月NPPV再教育及びPT目的のため,約3週間の再入院となった。本発表は再入院時を初期評価,退院時を最終評価とした。外来通院期間は仕事や家事のため通院が不定期となり,来院時に運動負荷をかけないコンディショニングが中心とならざるを得ない状態であった。しかし入院期間中は,これらの治療に加えNPPVを併用したトレッドミル歩行の高負荷運動療法を実施できた。また自宅での家事動作や職場での姿勢・動作に特化した動作学習も実施できた。【結果】初期評価→最終評価で記載。COPM(遂行度/満足度)①呼吸困難を減らす(1→7/1→9)②自分より年上の方に負けないように歩く(1→7/1→5)③咳,痰を減らす(3→10/3→10),平均スコア1.7→8.0/1.7→8.0。mMRC Grade3→2.Updated BODE index12→8点。胸郭拡張差(腋窩-剣状突起-第10肋骨)2.0→2.0-3.0→4.0-4.0→5.0cm。6分間歩行距離205→327 m。PCI 0.41→0.29 beats/m。CAT30→22点。SF-36v2™下位尺度得点は身体機能25→50,身体日常役割機能25→37.5,体の痛み22→31,全体的健康感20→25,活力37.5→56.3,社会生活機能25→37.5,精神日常役割機能25→41.7,心の健康30→55と全ての項目において改善がみられた。退院後,週1回の外来PTを再開し,再職場復帰を果たした。【結論】本症例は,家事・仕事による時間・体力的制約により外来通院が困難となり,入院加療が必要となった。通院に体力を消費しない分,入院中では運動負荷をはじめ外来とは異なる治療を展開した。COPD患者の背景は多様であり,治療も画一的ではない。COPMにより個別性を重視した目標設定と治療展開を行い,ラーメン屋で行う動作特性を考えたパフォーマンスの改善を検討できた。不可逆性であり進行性であるCOPDの病態について残存機能に着目し,個別性を重視した治療展開がQOL維持・向上には必要であると考える。
著者
光武翼 中田祐治 岡真一郎 平田大勝 森田義満 堀川悦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】後頭下筋群は筋紡錘密度が非常に高く,視覚や前庭覚と統合する固有受容器として中枢神経系との感覚運動制御に関与する。後頭下筋群の中でも深層の大小後頭直筋は頸部における運動制御機能の低下によって筋肉内に脂肪浸潤しやすいことが示されている(Elliott et al, 2006)。脳梗塞患者は,発症後の臥床や活動性の低下,日常生活活動,麻痺側上下肢の感覚運動機能障害など様々な要因によって後頭下筋群の形態的変化を引き起こす可能性がある。本研究の目的は,Magnetic Resonance Imaging(以下,MRI)を用いて後頭下筋群の1つである大後頭直筋の脂肪浸潤を計測し,脳梗塞発症時と発症後の脂肪浸潤の変化を明確にすることとした。また,多変量解析を用いて大後頭直筋の脂肪浸潤に影響を及ぼす因子を明らかにすることとした。【方法】対象は,脳梗塞発症時と発症後にMRI(PHILPS社製ACHIEVA1.5T NOVA DUAL)検査を行った患者38名(年齢73.6±10.0歳,右麻痺18名,左麻痺20名)とした。発症時から発症後のMRI計測期間は49.9±21.3日であった。方法は臨床検査技師によって計測されたMRIを用いてT1強調画像のC1/2水平面を使用した。取得した画像はPC画面上で画像解析ソフトウェア(横河医療ソリューションズ社製ShadeQuest/ViewC)により両側大後頭直筋を計測した。Elliottら(2005)による脂肪浸潤の計測方法を用いて筋肉内脂肪と筋肉間脂肪のpixel信号強度の平均値を除することで相対的な筋肉内の脂肪浸潤を計測した。大後頭直筋の計測は再現性を検討するため級内相関係数ICC(2,1)を用いた。発症時と発症後における大後頭直筋の脂肪浸潤の比較はpaired t検定を用いた。また,大後頭直筋の脂肪浸潤に影響を及ぼす因子を決定するために,発症時から発症後の脂肪浸潤の変化率を従属変数とし,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),発症から離床までの期間(以下,臥床期間),Functional Independence Measure(以下,FIM),National Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS),発症時から発症後までのMRI計測期間を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。回帰モデルに対する各独立変数はp≧0.05を示した変数を除外した。回帰モデルに含まれるすべての独立変数がp<0.05になるまで分析を行った。重回帰分析を行う際,各独立変数間のvariance inflation factor(以下,VIF)の値を求めて多重共線性を確認した。すべての検定の有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての患者に対して文章,口頭による説明を行い,署名により同意が得られた者を対象とした。【結果】対象者のBMIは21.5±3.3,臥床期間は5.3±9.5日,FIMは84.6±34.5点,NIHSSは5.6±5.9点であった。大後頭直筋の脂肪浸潤におけるICC(2,1)は発症前r=0.716,発症後r=0.948となり,高い再現性が示された。脳梗塞発症時と発症後に対する大後頭直筋の脂肪浸潤の比較については発症時0.46±0.09,発症後0.51±0.09となり,有意な増加が認められた(p<0.001)。また重回帰分析の結果,大後頭直筋における脂肪浸潤の変化率に影響を及ぼす因子としてNIHSSが抽出された。得られた回帰式は,大後頭直筋の脂肪浸潤=1.008+0.018×NIHSSとなり,寄与率は77.5%(p<0.001)であった。多重共線性を確認するために各変数のVIF値を求めた結果,独立変数は1.008~4.892の範囲であり,多重共線性の問題は生じないことが確認された。【考察】脳梗塞患者の頸部体幹は,内側運動制御系として麻痺が出現しにくい部位である。しかし片側の運動機能障害は体軸-肩甲骨間筋群内の張力-長さ関係を変化させ,頸椎の安定性が損なわれる(Jull et al, 2009)。この頸部の不安定性は筋線維におけるType I線維からType II線維へ形質転換を引き起こし(Uhlig et al, 1995),細胞内脂肪が増加しやすいことが示されている(Schrauwen-Hinderling et al, 2006)。脳梗塞発症時のMRIは発症前の頸部筋機能を反映し,発症後のMRIは脳梗塞になってからの頸部筋機能が反映している。そのため,脳梗塞を発症することで大後頭直筋の脂肪浸潤は増加する可能性がある。また大後頭直筋の脂肪浸潤に影響を及ぼす因子としてNIHSSが抽出され,麻痺の重症度が関係している可能性が示唆された。今後の課題は,脳梗塞患者における大後頭直筋の脂肪浸潤によって姿勢や運動制御に及ぼす影響を検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】脳梗塞片麻痺患者は一側上下肢の機能障害だけでなく頸部深層筋に関しても形態的変化をもたらす可能性があり,脳梗塞患者に対する理学療法の施行において治療選択の一助となることが考えられる。
著者
安里 和也 比嘉 裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P1364, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】 我々は「ヒトの動き」というメインテーマで研究をすすめてきた中、これまで得られた見解として、「動き」は様々な環境因子(内的・外的を含む)により決定され、厳密な条件設定を行わなければ一定の刺激で一定の結果が得られるとは限らないと考えている.つまり「動き」という表現形には多くの自由度があるものと捉えている.その自由度の高い「ヒトの動き」ではあるが立位に主眼をおいて、足部をつま先か踵、及び内側か外側の4象限に分割し、主にどの部分で支持しているのかという4スタンス理論を用いて分類してみた際、愁訴部位との関連性を見出せないかと考え、検証したのでここに報告する.【対象と方法】 対象は本研究の主旨に賛同を得た疼痛を訴える外来通院患者133例(男性47例、女性86例、平均年齢58.1±18.36歳)とし、カルテを後方視的に調査した.対象者を、4スタンス理論の分類検査のうち上肢牽引検査、手指牽引検査、足部-体幹回旋検査、下肢筋力検査、上肢引っ張り検査の5つの検査を用い、つま先内側(以下A1)・つま先外側(以下A2)・踵内側(以下B1)・踵外側(以下B2)の4群に分類した(以下、分類1).また調査時の愁訴部位を頚・肩・肘・手・腰・股・膝・足・その他(重複あり)の8つの関節に分けた(以下、分類2).上記により分類した分類1と分類2との関係をχ二乗検定にて検証した.【結果】 検定の結果、4スタンスの分類と愁訴部位との関連性において有意差はみられなかった.対象133例の分類1の内訳はA1が56例、A2が56例、B1が11例、B2が10例であった.分類2の愁訴部位の内訳は全体では腰・膝・頚の順に多く、A1・B1・B2の各群でも同様の順に多く、A2は腰・膝・肩の順となっていた.A2の頚への愁訴は少ない傾向であった.【考察】 結果から廣戸が提唱する4スタンス理論での分類と愁訴部位との関連性はみられなかった.しかし分類1にてA1とA2(以下A群)が多くを占め、B1とB2(以下B群)が少数であったことは興味を引く結果となった.廣戸によるとA群は足底・膝・鳩尾、B群は足底・股関節・頚を運動軸として合わせることにより、そのヒトなりの効率の良い動き方に繋がると述べている.これは臨床的にも立ち上がりなどの動き出しにおいて鳩尾及びその背側部から動きを誘導するとスムースに動き出せる方が多い印象と一致すると感じている.また廣戸はA2及びB1は体幹の動きが後方主導として動いた方が効率の良い動きになりやすいと述べており、頚を運動軸として用いず体幹が後方主導となりやすいA2では頭部前方肢位となりにくく、今回の頚への愁訴が少ない傾向となったのではないかと考えている.【まとめ】 今回の研究では明示できなかったが、「ヒトの動き」の多彩な視点の一つとして4スタンス理論も今後、発展の余地は残されていると考えている.
著者
嘉陽 宗朋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P2413, 2009

【はじめに】 今回、交通外傷にて約7週間膝屈曲可動域制限のある症例に理学所見をもとに半膜様筋と膝窩筋を中心にアプローチを行い良好な結果が得られたので、考察を加えここに報告する.以上、症例者に説明と同意を得た.<BR>【症例紹介】 71歳、男性.6月5日バイク運転中、乗用車と接触し受傷.MRI所見にて外側半月板損傷、脛骨外顆面の軟骨損傷、内側側副靭帯損傷疑いがある.歩行にて膝痛増悪があり、階段昇降も2足1段でしか行えないため休職中.<BR>【初期評価】 7月23日.膝関節可動域:伸展0°屈曲100°.受傷後、可動域制限が残ったまま生活していたことで膝周囲の筋伸張性は低下.膝屈曲時に膝前面伸張痛と膝窩外側にインピンジメント様の疼痛あり.大腿四頭筋の伸張性低下と外側半月板の後方移動が制限されていると考えられる.また約7週間の膝屈曲可動域制限にて内側半月板の後方移動も制限されていると考えられる.<BR>【方法】 膝窩筋の収縮にて外側半月板の後方移動を誘導するために、背臥位にて軽度の下腿内旋と膝屈曲を行ってもらい、述者は下腿近位を持ち膝の前方引き出しと伸展の徒手抵抗を加え膝窩筋の筋収縮を促通し、屈曲運動を誘導した.また、内側半月板の後方移動を誘導するために半膜様筋に対しても同様の手技を行った.自主トレとして下肢ストレッチと膝周囲筋力強化を指導した.<BR>【結果】 理学療法前、屈曲100°だった膝関節可動域が屈曲140°へ改善し、インピンジメント様の疼痛は消失した.また週に1回の外来通院を行い、1週間後には膝関節屈曲150°、3週間後には155°となり可動域制限を認めなくなった.さらに9週間後には歩行時の膝痛も軽減し階段昇降が1足1段で可能となり職場復帰され、14週間後には5分以上の正座が可能になった.<BR>【考察】 初期評価にて膝の屈曲制限は、内・外側半月板の後方移動が阻害されていることが原因と考え、それに対してアプローチを行った.文献では半膜様筋腱膜での張力伝達が内側半月板後節~後角を後方へ誘導し、膝窩筋支帯での張力伝達が外側半月板後節~後角を後方へ誘導すると述べられている.また、可動域改善には、後方移動を誘発する要因が筋である以上、他動運動は出来る限り選択させるべきではないと述べられている.以上のことから、本症例でも筋収縮を伴いながら膝屈曲運動を誘導することで、内・外側半月板の後方移動が誘発され屈曲制限が改善されたと考えられる.また文献では関節軟骨の栄養には膝関節屈伸運動によるパンピング作用が貢献していると述べられている.膝関節可動域が改善したことや、自主トレーニングでストレッチと筋力強化を行ったことで、パンピング作用が効果的に働き、関節内の修復が進んだことで、階段昇降や正座が可能になったと考えられる.<BR>【まとめ】 半月板の滑走障害による膝関節屈曲可動域制限には半膜様筋・膝窩筋の収縮を伴った膝屈曲運動が有効であることが示唆された.