著者
西 亮介 原 耕介 野中 理絵 小保方 祐貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1307, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】投球障害に与える因子として肩関節可動域低下や原テストの低値等の上肢機能の影響のみならず,股関節可動域及び下肢柔軟性の低下等の下肢機能の影響が報告されている。しかし,上肢機能と比較し下肢機能と投球障害との関連性についての報告は少ない。また,上肢機能検査においては投球動作を考慮した検査項目があるのに対し,下肢機能検査では投球動作を考慮した検査項目は散見しない。そこで本研究では,投球動作を考慮した下肢機能検査(以下,投球下肢機能検査)を考案し,投球障害との関連性を上下肢機能検査とともに明らかにする事を目的とした。【方法】甲子園出場レベルの高校野球選手48名を対象とした。除外基準は投球側肩及び肘関節術後で主治医から全力投球の許可がないものとした。アンケートを実施し,当日投球時に痛みを訴える者を疼痛群,それ以外の者を非疼痛群とした。上肢機能検査として肩関節可動域(肩関節外転位内外旋・肩関節屈曲位内旋)・原テスト,下肢機能検査として股関節可動域(屈曲・伸展・内旋)・下肢柔軟性検査(SLR・HBD・トーマステスト),投球下肢機能検査として股関節可動域(股関節90度屈曲位内転)・下肢柔軟性(股関節90度屈曲位からの膝伸展角度・膝関節90度屈曲位股関節伸展角度)を測定した。股関節90度屈曲位内転及び膝関節90度屈曲位股関節伸展は各々非投球側・投球側における加速期,股関節90度屈曲位からの膝伸展は非投球側のボールリリースの動きを考慮した。統計処理にはSPSSver.17.0を用いて群間比較をMann-WhitneyのU検定・カイ二乗検定を用い,有意水準5%とした。【結果】アンケート結果から疼痛群29名,非疼痛群19名,疼痛部位は肩延べ17名・肘延べ21名,疼痛発生相で最も多い相は加速期で18名であった。尚,除外基準に当てはまる者はいなかった。投球側肩関節屈曲位内旋角度・CAT・HFT・投球側下垂位外旋筋力において疼痛群で有意に低値を示した(p<0.05)。その他項目に有意差は認めなかった。【結論】投球側肩関節屈曲位内旋角度・CAT・HFT・投球側下垂位外旋筋力で群間に有意差を認め,先行研究と同様の結果を示した。これらの項目は投球動作を再現する項目が含まれることから,投球障害に対する評価において投球動作を再現した検査項目は重要であると考えられる。しかし,投球下肢機能検査では有意差を認めなかった。瀬尾らは,加速期における非投球側股関節屈曲角度は100度,投球側膝関節屈曲角度は40度,ボールリリースにおける股関節屈曲角度は100度と報告しており,投球下肢機能検査における開始肢位の各関節角度と異なる角度であった。よって,本研究における投球下肢機能検査は,投球動作中の動きの再現が不十分であった可能性が考えられた。今後は,投球下肢機能検査の各関節の角度設定を変更し,検討する必要性がある。
著者
安藤 久美子 長尾 啓子 川島 敏生 渡邊 幹彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.462, 2003 (Released:2004-03-19)

【目的】我々は投球障害肩の治療において野球肘の既往を認める者を多く経験し、肘関節の可動域(以下ROM)制限が肩の運動に影響を与えている可能性があると考えた。そこで上肢回旋ROMを測定する方法を考案し、肘関節や手関節などの固定が上肢のROMに影響を与えることを報告してきた。今回、投球障害肩の選手の上肢回旋ROMを測定し健常群と比較検討したので報告する。【対象】健常肩群(以下N群)健常な上肢を有する者22名。男性10名女性12名。平均年齢は25.0歳。投球障害肩群(以下Ab群)当院を受診し、投球障害肩と診断された野球選手。男性9名。平均年齢19.5歳であった。【方法】測定は各被験者1回、肘関節伸展位で上肢を矢状面・前額面で両上肢挙上させ、挙上角度0°60°120°における上肢の回旋運動を最大努力にて行い、前腕回内外運動器(YAESU社HKY式)を用いて測定した。これを以下の4条件で行い、_丸1_固定なし:Free_丸2_手関節固定:Wrist_丸3_前腕回内位固定:P -elbow_丸4_前腕回外位固定:S-elbow。各条件でのAb群とN群の平均値を比較検討した。【結果】(1)上肢回旋ROM(屈曲挙上角度:N群/Ab群)Free(0:360/320)(60:340/300)(120:310/280)Wrist(0:320/300)(60:310/290)(120:290/270)P-elbow(0:250/230)(60:250/230)(120:240/220)S-elbow(0:230/240)(60:230/250)(120:220/220)(2)上肢回旋ROM(外転挙上角度:N群/Ab群)Free(0:360/310)(60:370/320)(120:320/290)Wrist(0:320/300)(60:350/220)(120:300/270)P-elbow(0:250/220)(60:290/260)(120:260/210)S-elbow(0:230/240)(60:260/250)(120:230/220)であった。Ab群の回旋ROMはN群と比較してS‐elbow以外では前額面、矢状面ともに可動域が低かった。S‐elbowではAb群とN群に大きな差は認めず、矢状面上では逆転していた。【考察】上肢の回旋運動は肩甲胸郭節と肩関節と前腕の複合運動である。今回の実験よりAb群は上肢の回旋可動域の低下が認められた。しかし、前腕回外位固定では正常群と大きな差は認められなかった。これはAb群が前腕回外位で固定された状態に近く、前腕の回内位に入らないのを肩関節内旋で代償していると考えられ、こうした動きの制限が可動域減少の1つの要因と考えられた。投球障害肩の発症の1つの要因に前腕の回内外制限を肩関節内外旋で過度に代償した結果が推測された。
著者
栗田 健 高木 峰子 木元 貴之 小野 元揮 吉田 典史 中西 理沙子 山﨑 哲也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101721, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】われわれは過去に投球障害肘患者(以下肘群)と投球障害肩患者(以下肩群)において手内筋である母指・小指対立筋(以下対立筋群)の機能不全について検討をしたところ,肘群が肩群より有意に機能不全を認めた.さらに対立筋群機能不全を多く認めた肘群において, 非投球側に対立筋群の機能不全がある場合,投球側にも機能不全を認めた.また,この対立筋群の機能不全は,筋や骨などの成長が関与している可能性が考えられた.そのため,今回は年齢により対立筋群に機能不全の差が認められるのかどうかを検討したので報告する.【方法】対象は投球障害で当院を受診した45名の投球側45手とし,他関節の障害の合併や既往,神経障害および手術歴を有する症例は除外した.性別は全例男性で,年齢によりA群10歳~12歳,B群13歳~15歳,C群16歳~18歳の3群に分けた.評価項目は,投球時のボールリリースの肢位を想定した対立筋群テストとし,座位にて肩関節屈曲90°位にて肘伸展位・手関節背屈位を保持して指腹同士が接するか否かを観察した.徒手筋力検査法の3を基準とし,指腹同士が接すれば可,IP関節屈曲するなど代償動作の出現や指の側面での接触は機能不全とした.なお統計学的解析には多重比較検定を用い,3群間に対し各々カイ二乗検定を行い,Bonferroniの不等式を用いて有意水準5%未満として有意差を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対し本研究の目的を説明し同意の得られた方のデータを対象とし,当院倫理規定に基づき個人が特定されないよう匿名化にてデータを使用した.【結果】各群の人数は,A群9名,B群17名,C群19名であった.また,機能不全の発生率はA群33.3%,B群52.9%,C群47.3%であり,各群間のカイ二乗検定では,A群×B群(p=0.34)A群×C群(p=0.48)B群×C群(p=0.738)となり,すべての群間において有意差は認められなかった.【考察】一般的なボールの把持は,ボール上部を支えるために示指・中指を使い,下部を支えるために母指・環指・小指を使用している.手内筋である母指・小指対立筋は,ボールを下部より効率よく支持するために必要である.ボールの把持を手外筋群によって行うと,手関節の動きの制限や筋の起始部である上腕骨内側上顆に負担がかかることが示唆される.過去の報告から投球障害における母指・小指対立筋機能不全は投球障害肘群に多く認めることが分かっている.しかし手指の対立動作は骨の成長による影響や運動発達による影響など,年齢による影響がある可能性もあり,機能不全発生の機序までは断定できなかった.本研究の結果から,対立筋群の機能不全は年齢間差が無いことから,年齢を重ねることで機能不全が改善する可能性は否定的な結果であった.また同様に年齢を重ねることで対立筋群の機能不全が増えるわけでもなく,どの年代においても一定の割合で発生している事がわかった。この事から対立筋群の機能不全は骨の成長による影響や運動発達など成長による影響ではなく,癖や元々の巧緻性の低下などその他の要素によって発生していることが示唆された.以上により手内筋による正しい対立機能を用いたボールの把持できなければ投球動作を繰り返す中で肘の障害が発生する可能性が示唆された.その為、投球障害肘の症例に対してリハビリテーションを行う場合には,従来から言われている投球フォームの改善のみではなく遠位からの影響を考慮して,母指・小指対立筋機能不全の確認と機能改善が重要と考えられた.また障害予防の点においても,投球動作を覚える段階で手指対立機能の獲得とボールの持ち方などの指導が必要であることも示唆される.【理学療法学研究としての意義】本研究では対立筋群の機能不全は年齢による影響はないと示唆された.また過去の研究より投球障害肘の身体機能の中で手内筋である母指・小指対立筋に機能不全を多く有することが分かっている.投球障害を治療する際には、対立筋群の機能に着目することが重要と考える.また今回設定した評価方法は簡便であり,障害予防の観点からも競技の指導者や本人により試みることで早期にリスクを発見できる可能性も示唆された.
著者
岡棟 亮二 横矢 晋 出家 正隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1466, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】スポーツ障害予防の観点から,競技による身体特性を知ることは重要である。本研究の目的は健常野球選手と肩関節の使用機会の少ない競技者であるサッカー選手において,原テスト及び下肢・体幹機能の理学所見を比較し,野球選手の身体特性を明らかにすることである。またその身体特性を踏まえ投球障害肩の症状を呈する野球選手と健常野球選手を比較し,投球障害肩の症状を呈する野球選手に特徴的な所見を明らかにすることで,その治療や予防に繋げることである。【方法】対象を投球障害肩を示す野球選手12名(P群),本研究に影響する既往のない野球選手11名(B群)とサッカー選手10名(S群)とし,原テスト11項目,下肢・体幹機能4項目を検査した。原テストとは,scapula spine distance(SSD),下垂位外旋筋力(ISP),下垂位内旋筋力(SSC),初期外転筋力(SSP),impingement test(Impinge),combined abduction test(CAT),horizontal flexion test(HFT),elbow extension test(ET),elbow push test(EPT),関節loosening test(loose),hyper external rotation test(HERT)のことであり,下肢・体幹機能4項目とはstraight leg raising angle(SLR),指床間距離(FFD),踵臀間距離(HBD),股関節内旋角度(HIR)である。なお本研究ではHERTを,同様に肩関節過外旋をさせる手技であるcrank test(crank)で代用した。またISP,SSC,SSP,ET,EPTは,ハンドヘルドダイナモメーター(MICRO FET2,Hoggan Health社製)を,CAT,HFT,SLR,HIRは角度計を用いて計測した。筋力の項目は非投球側に比べ投球側で10N以上の弱化,CATとHFTは非投球側に比べ投球側で10°以上の可動域制限があれば陽性とし,その他は原らの基準に従い陽性の判断をした。各項目陽性率,合計陽性項目数,各測定での投球側値,非投球側値の群間の差の検討と,同群内での各測定の投球側値と非投球側値の差を検討した。統計処理は,対応のあるt検定,Wilcoxonの検定,一元配置分散分析,Tukey-Kramer,Steel-Dwassの方法を行い,危険率5%未満を有意,10%未満を傾向ありと判断した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の目的と趣旨を説明した上で同意の得られた者を本研究対象とした。本研究は所属施設倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】S群,B群間でHBDの投球側値に有意差を認めた(S群>B群)。B群,P群間では原テスト合計陽性項目数(P群>B群),crankの陽性率(P群>B群),Impingeの陽性率(P群>B群)で有意差を認めた。また,同群内の投球側,非投球側値の差ではS群のHFT(非投>投),B群のCAT(非投>投),P群のIR(非投>投),CAT(非投>投),HFT(非投>投)にて有意差を認め,B群のSLR(非投>投),P群のISP(非投>投),SLR(非投>投)にて傾向を認めた。【考察】サッカー選手に比べ野球選手の投球側におけるHBDの距離は有意に小さく,SLR角度は小さい傾向にあった。つまり,野球選手は非投球側に比べ投球側下肢の大腿四頭筋が柔軟でハムストリングは短縮しているという特性が示唆された。また,野球選手の投球側においてCATの角度が有意に小さいことから,投球側のCATの可動域制限は野球選手の特性であり,投球側肩関節の関節包の拘縮,腱板の筋緊張や筋拘縮,innerとouter muscleの筋バランス異常等が疑われた。一方,HFTではサッカー選手にも投球側の可動域制限を認めた。つまりこの現象は野球選手の特性ではなく誰にでも起こり得る利き腕側の特性であることが考えられた。投球障害群において,投球側のISPは弱化傾向にあり,IRは有意に弱化していた。すなわちrotator cuffの不均衡により前後のinstabilityが生じ,internal impingement等を惹起している可能性が示唆された。野球選手と投球障害群との比較から,野球選手の中でも投球障害群は原テスト合計陽性項目数が多くなること,またその中でもcrank,Impingeが投球障害肩に特徴的な検査であるといえる。原らはImpingeとHERTを含む9項目以上が陰性であることを投球開始基準としており,大沢らは原テストの項目のうち,SSP,Impinge,CAT,ET,EPT,HERTが投球障害群で有意に陽性率が高かったと報告している。今回の結果は原らがHERT(crank),Impingeを重要視していることと大沢らの報告の一部を裏付けるものとなった。しかしSSP,CAT,ET,EPTの陽性率に差を認めなかったことが大沢らの報告と異なった。これは,今回我々が筋力値を定量化して陽性の判断をしたために生じた相違と考えられる。このことから原テストの定性的評価と定量的評価の場合の陽性検出率の差異が考えられた。【理学療法学研究としての意義】野球選手及び投球障害群の原テスト,下肢・体幹機能における特性を明らかにしたことで,今後,検査等で野球選手の身体異常を判断する際の一助となると考える。
著者
栗田 健 小野 元揮 木元 貴之 岩本 仁 日野原 晃 田仲 紗樹 吉岡 毅 鈴木 真理子 山﨑 哲也 明田 真樹 森 基 大石 隆幸 高森 草平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1390, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 先行研究で投球障害肘群は肩群に比べ手内筋の筋力低下を有していることが分かった。このことは手内筋が効率よく機能せずに、手外筋を有意に働かせてボールを把持することで、手・肘関節への影響が大きくなることが示唆された。しかし手内筋機能不全が投球動作の繰り返しで生じたものか、もともと機能不全が存在したことにより投球障害肘の原因となったのかは不明であった。そこで今回我々は手内筋機能不全が多く認められた投球障害肘群において、投球による影響がない非投球側の評価を行い、両側に機能不全を有する割合について調査したので以下に報告する。【方法】 対象は、投球障害肘の診断により当院リハビリテーション科に処方があった20例とした。対象は肘単独例のみとし、他関節障害の合併や既往、神経障害および手術歴を有する症例は除外した。性別は全例男性で、年齢は、平均16.4±5.1歳(11歳~34歳)であった。観察項目は、両側の1.手内筋プラス肢位(虫様筋・骨間筋)と2. 母指・小指対立筋の二項目とした。共通肢位として座位にて肩関節屈曲90°位をとり、投球時の肢位を想定し肘伸展位・手関節背屈位を保持して行った。1.手内筋プラス肢位(虫様筋・骨間筋)は、徒手筋力検査(以下MMT)で3を参考とし、可能であれば可、指が屈曲するなど不十分な場合を機能不全とした。2.母指・小指対立筋も同様に、MMTで3を参考とし、指腹同士が接すれば可、IP関節屈曲するなど代償動作の出現や指の側面での接触は機能不全とした。なお統計学的評価には、二項検定を用い、P値0.05未満を有意差ありと判断した。【説明と同意】 対象者に対し本研究の目的を説明し同意の得られた方のデータを対象とし、当院倫理規定に基づき個人が特定されないよう匿名化に配慮してデータを利用した。【結果】 投球障害肘の投球側虫様筋・骨間筋機能不全は、65.0%、に発生しており、そのうち健側にも認められたものが76.9%であった(統計学的有意差なし)。投球側母指・小指対立筋機能不全は、65.0%に発生しており、そのうち健側にも認められたものは53.8%であった(統計学的有意差なし)。一方、非投球側での機能障害をみると、両側に発生している比率が、虫様筋・骨間筋機能不全例では90.9%、母指・小指対立筋機能不全例では100%であった(統計学的有意差あり)。【考察】 我々は第46回日本理学療法学術大会において手内筋機能低下が投球障害肩より投球障害肘に多く認められることを報告している。しかし手内筋機能不全が伴って投球動作を反復したために投球障害肘が発生するのか、肘にストレスがかかる投球動作を反復したために手内筋機能不全が発生したのかは過去の報告では分からなかった。そこで今回投球していない非投球側の機能と比較することで投球による影響なのか、もともとの機能不全であるのかを検討した。今回の結果より、各観察項目での投球側・非投球側の両側に手内筋の機能不全を有する割合は多い傾向があったが、統計学的有意差はなかった。一方、非投球側に機能不全がみられた症例は、投球側の機能不全も有す症例が多く、統計的有意差もあることが分かった。このことより手内筋の機能不全は、投球の影響によって後発的に生じるのではなく、もともと機能不全を有したものが、投球動作を繰り返したことにより投球障害肘を発症している可能性が高いと考えられた。そのため投球障害肘の発生予防や障害を有した場合のリハビリテーションの中で虫様筋・骨間筋機能不全および母指・小指対立筋機能不全の評価と機能改善が重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 投球障害肘の身体機能の要因の中で手内筋である虫様筋・骨間筋や母指・小指対立筋に機能不全を有することが多いということが分かった。本研究から投球障害肘を治療する際には、評価として手内筋機能に着目することが重要と考える。また今回設定した評価方法は簡便であり、障害予防の観点からも競技の指導者や本人により試みることで早期にリスクを発見できる可能性も示唆された。
著者
小田 桂吾 鈴木 恒 平野 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0926, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】今回、腰椎椎間板ヘルニアを患ったプロ総合格闘技選手の競技復帰に向けたリハビリテーション(以下リハ)を経験したのでここに報告する。【症例紹介】29歳、男性。診断名:腰椎椎間板ヘルニア(L5/S1)。身長163cm、体重58kg。【現病歴】2004年より腰痛、左下肢のしびれが出現。以降、試合出場困難となる。2006年、2年振りに復帰し2試合2勝の成績を収めるが腰痛が改善されず、更なる競技能力向上を目的として2週間、リハ目的の入院となった。【初期評価】主訴:常に腰が重い感じ。練習後、腰が張る。(ともに特に左側)アライメント:立位前額面で左肩甲帯下制、脊柱やや右側弯で体幹軽度左側屈あり。矢状面で腰椎前弯、骨盤前傾あり。タイトネステスト:SLR;右60度、左50度。HBD;右0cm、左5cm。FFD;-10cm、MMT:左中殿筋4【経過】1週目の主なリハプログラムは腰部の筋緊張改善を目的とした物理療法、ストレッチ。腹部の深層筋を意識しながらフォームローラーやバランスボールを使用したコアトレーニング。股関節周囲筋力強化を目的としたアウフバウトレーニング等を中心に行った。2週目はトレーニング強度を高めつつ、立位でアライメントが崩れない身体の軸作りを目的としたバランストレーニング、スタビライゼーショントレーニング等を導入していった。退院時、タイトネステストでSLRは左右共70度、HBD左右共0cm、FFD0cmに改善、疼痛は練習後少し張りが残る程度の訴えに軽減。退院後は外来及びジムでフォローしながら退院2週後より実戦練習再開。8週後、初の打撃のみの試合に出場し判定勝ちを収めた。【考察】実戦動作の問題点のひとつとして、左ストレートを打つ際に骨盤の右回旋が不十分で体幹の左側屈が出現しており左腰部に過度なストレスが考えられた。原因としては軸足となる右股関節周囲の筋力低下や左腹斜筋、腸腰筋の柔軟性低下が考えられ、これを改善するために軸足を不安定板に乗せた状態で打撃練習を行い、骨盤を回旋させ体幹と左腕の連携を意識させながらパンチを出す練習を行った。近年、腰痛の治療は体幹の前後、左右、ひねり、上、下肢との連動性を十分考慮したコアトレーニングの概念が必要であると報告されている。また力が発揮する姿勢であるパワーポジションを獲得するためには骨盤の安定性が必要であるとも言われており、激しい動きを伴う総合格闘技選手は様々な技術と体力が要求されるためリハは単に症状の改善を目的とするだけでなく、そのファイトスタイルを考慮する必要があり今後さらなるレベルアップを選手とともに目指していきたいと考える。
著者
清水 優子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1061, 2007

【はじめに】<BR> 発症から約10年経過している脳卒中後の片麻痺患者の訪問リハビリテーションを担当する機会を得た。状態は安定しており、これ以上の能力を向上させることが困難と思われていた症例であり、外来リハビリの内容としては能力維持・家族指導が主であった。しかし、訪問リハビリを開始したことで能力の向上が見られたため、今回ここに報告する。<BR>【症例1】<BR> 69歳男性 平成9年発症 脳内出血左片麻痺<BR> 訪問開始時のADLはほぼ全介助。移動は車椅子介助。トイレはズボンの上げ下げに介助要し、その間立っていることが困難な状態。妻から「もっと立っていられれば」との要望あり。<BR> 訪問介入により立位保持の安定、足サポーター使用にて短距離の歩行可能となる。<BR>【症例2】<BR> 63歳男性 平成9年発症 脳内出血右片麻痺 <BR> 訪問開始時の移動は屋内車椅子自走、屋外は数mのみ4点杖・装具にて介助歩行実施。もっと長い距離を歩行したいとのNeedあり。<BR> 訪問介入により、診察通院時は院内は全て歩行にて移動可能となる。<BR>【考察】<BR> 今回これらの症例の能力向上が見られた背景には、生活に直結したNeedsに即したリハビリが提供できたこと、直面している問題に合わせた環境下で行うことで動作習得が行ないやすかったことなどが考えられる。また、発症から10年という年数に、セラピストの考えが固定化しプラトーを決めてしまっていたことも推測される。<BR> そもそもプラトーとは、心理学者であるブライアントハーターが「練習の階級説」と呼び「技術を習得する際には進歩が止まる"踊り場"があり、どんな場合にも避けて通ることはできない。しかし、この状態は一時的でありその後また伸びる可能性がある」と提唱している。プラトーが出現する原因としては、適切な学習方法の獲得の失敗→課題に対する動機づけの低下→大きな練習単位への移行の困難さ→能力の向上停滞が考えらる。<BR> そのため、セラピストがプラトーを決めてしまい能力向上のために必要な指導を行わないことで、適切な学習方法の獲得の失敗が再度起こり、悪のスパイラルの状態に陥り患者の能力を停滞させていると考えられる。<BR> 今回、訪問リハビリを開始し新たな視点を入れたことで悪のスパイラルを断ち切り、適切な環境下でリハビリを提供できたため、発症から10年たった状態でも能力の改善が見られたのではないかと推測される。<BR>【まとめ】<BR> いかなる時も患者の状態を確認し、常に向上させることを念頭に置き治療に携わる重要性を再認識した。<BR> また、普段我々が個々の状態についてプラトーと客観的に判断する基準は何なのか、いまだ曖昧なことが多い。本来、効果とその限界を明らかにすることは治療学の基本である。しかし、リハビリテーション医療では明らかにされていることは少なく、経験則で話されることが多い。これらのことを、明確にしていくことも今後に課せられた課題である。
著者
木下 利喜生 橋崎 孝賢 森木 貴司 堀 晋之助 藤田 恭久 幸田 剣 中村 健 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100176, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 当院リハビリテーション(リハ)科では、リハ室で患者が急変した場合、緊急カート、心電図モニター(ECG)、パルスオキシメーター、血圧計、ストレッチャーなどの準備、装着を現場スタッフで行う。同時に他のスタッフがリハ医へ報告、現場での診察を依頼し、身体所見やモニターなどの情報をもとに対応の指示を仰ぐまでの一連の流れを救急時対応とし、全スタッフを対象にトレーニングを実施している。そのため、当科では、これまでにも幾度となく血圧や意識レベル低下などの急変が発生しているが、全ての案件において対応が可能であった。 今回、リハ実施時において、開設から始めて患者が心肺停止となる状況に直面した。その際にリハ科で対応可能であったこと、またシステム上の不備や対応不足が明らかとなったことを情報の共有のために報告する。【方法】 10時20分頃、理学療法室で立位練習開始、血圧低下認めないため、平行棒内での歩行練習をこの日より開始する。平行棒内での歩行練習後もバイタルの著明な変動ないため、10時40分頃に歩行器での歩行練習を行う。歩行器歩行10m程度で両下肢の脱力、意識消失を認め、理学療法士数名でベッドへ寝かせている間に、リハ医と外来看護師に連絡、ECG、パルスオキシメーター、血圧計を装着した。ECG上60台でサイナスリズム、酸素飽和度98%、血圧測定行えないためベッド上で下肢挙上する。10時45分頃リハ医・看護師到着、何度か血圧測定するも測定できず、病棟に連絡し、ストレッチャーでの迎えを要請する。その後、意識レベル改善認めず、徐々に酸素飽和度が低下し始めたため、10時48分にホワイトコール(救急対応依頼の全館放送)を要請する。リハ医と看護師により酸素投与開始し、アンビューバックを準備している際に多数の医師、看護師到着。頚動脈も触知困難のため救急医師により、心臓マッサージ、挿管により気道確保され、救急処置室へ搬送される。その後の検査の結果、急変原因は肺血栓塞栓症であることが判明した。【倫理的配慮、説明と同意】 本症例の情報は、医療記録から特定できないよう匿名化し、プライバシーに配慮した。また、今回の発表にあたり当大学医療安全推進部に発表内容および目的を十分に説明し、発表の了承を得た。【結果】 初期対応は、手順通り実施できており問題ないと思われた。しかし、多数の医師、看護師が到着、理学療法室内が騒然とし、リハ中の患者を移動するなどの対応をとるべきであったが、これまでに心肺停止でのホワイトコール経験がなく、迅速な対応が行えず、駆け付けた看護師の判断により、病棟へ帰室するかたちとなった。 また、当科では酸素配管はあるがボンベを常備しておらず、リハ室から救急対応室へ搬送する際の酸素ボンベを救急部に借りに行く必要があった。【考察】 今回の対応の不備は、これまでに心肺停止によるホワイトコールの経験がなく、我々の想定していない状況下に陥った事が背景にある。これを受けて、ボンベの常備を早急に行い、ホワイトコール時は、一旦、リハ中の患者を発生現場以外の訓練室に移動したのち、病棟へ搬送すると決定した。また、シミュレーションをホワイトコールまでを想定したものに変更し、すぐに全体研修を実施、また人事異動のある4月初旬に必ず全体研修を実施すると決めた。 院内対応としては、長期臥床患者のリハを開始する際は、下肢深部静脈血栓症・肺梗塞のリスク因子を評価し、必要があれば下肢静脈エコーを行うなど早期発見・早期予防に務めるよう全科へ指導が行われた。当科でも下肢の腫脹などの身体所見の確認だけでなく、Dダイマー、FDPなどの血液データの確認を指導した。またリハ科で行える静脈血栓塞栓症の予防として、早期からの歩行および積極的な運動が重要であることを再教育し、早期離床を再度徹底した。 今回の案件を経験し、考えうる最悪の状況を想定した急変時対応を常に考えていく重要性を痛感した。本案件だけでなく、ひとつひとつの事例背景を分析し、対応マニュアルの強化、更新が必要であり、また積極的に文献抄読や学会参加をすることで、常に新しい情報を収集しておくことも重要であると感じた。【理学療法学研究としての意義】 最も重篤な急変の1つである心肺停止事例における、対応時の問題、さらにその解決策を報告することは、今後のリハ室での急変時対応マニュアル作成や強化などをする際の貴重な情報になると考えられる。
著者
稲月 辰矢 伊藤 拓緯
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】頚髄損傷は交感神経系の遮断により相対的に副交感神経が優位となり徐脈をきたす場合がある。また,迷走神経過反射が誘発されることで徐脈がさらに助長されて心停止を生じる可能性もあるとされる。今回頚髄損傷に対して後方固定術を施行し,亜急性期の理学療法実施中に洞停止を来した症例を経験した。その詳細と今後の当科での予防的対応策について検討したので報告する。【方法】性別:男性 年齢:80歳代 診断名:第6頸椎脱臼骨折,第6頚髄損傷,神経原性ショック 現病歴:2014年9月,本人が自動車運転中に山道を車ごと7m下に転落。1時間後通行人が発見し,救急搬送。来院時意識レベルGCS E1V1M1,収縮期血圧88mmHg,脈拍67,肛門反射は認めず,C7以下の完全運動麻痺,知覚障害あり,Frankel A。【結果】2病日目意識レベルGCS E4V-M6まで改善するも,低血圧と洞性徐脈が出現したためドパミンを開始。4病日目より理学療法開始し,ドパミンが中止となったが,脈拍40台の洞性徐脈は残存。10病日目C6-7後方固定術を施行し,11病日目に理学療法を再開,21病日目より車椅子乗車してリハビリ室での座位,起立台練習を開始した。起立台練習では40°起立で収縮期血100mmHgから70mmHgまで低下あり,対応策として下腿に対する弾性ストッキングを利用した。28病日目も起立台練習実施したが,30°起立で収縮期血圧100mmHgから70mmHgまで低下したため水平に戻した。その直後に声かけに対する反応が乏しくなり,検脈・血圧測定不可,呼吸停止,洞停止し,院内の急変対応チームに応援要請。担当理学療法士が胸骨圧迫を開始し,1分後救急医到着した際に心拍再開し,ICU入室。翌日より理学療法再開したが37病日目病棟看護師による尿道カテーテル交換中に再度洞停止あり,胸骨圧迫にて20秒程度で心拍再開した。その後,ベッドサイドでの理学療法介入となり,59病日目回復期病院へ転院となった。【結論】先行報告では頚髄損傷患者において徐脈から洞停止に至るケースは超急性期を脱しても生じる可能性があるとし,徐脈発生率は高位頚髄損傷で45%,下位頚髄損傷で17%,頚髄損傷全体の心停止発生率は2%としているが,重度頚髄損傷に限定すると心停止発生率は16%だった。このことから,頚髄損傷が重度で,かつ高位損傷なほど徐脈,心停止発生率が高いと考えられる。本症例の場合,亜急性期で下位頚髄損傷であったが重度麻痺を呈し,徐脈が遷延していた。今回の洞停止は理学療法場面での起立台練習による起立性低血圧や,尿道カテーテル交換に伴う迷走神経過反射が,副交感神経系優位とし徐脈から洞停止を惹起した可能性が考えられる。今回の症例を経験し,当科では重度頚髄損傷で徐脈(脈拍60以下)を呈する場合については理学療法実施中の心電図を含むモニタリングを徹底し,また起立性低血圧の予防として下腿のみでなく,腹部までを加圧するパンティストッキングの導入を検討している。
著者
森下 誠也 三浦 理沙 曽我本 雄大 山中 孝訓 森 一起
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0022, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】ICU入院中の患者に対して理学療法実施中に心停止となった患者の経験に対する考察【症例提示】年齢性別:70歳代男性。診断名:脳梗塞,第5頸髄損傷,右肋骨骨折,右肩甲骨骨折,外傷性気胸。現病歴:外来リハビリ受診時にレベル低下。MRI施行し脳梗塞にて入院。第26病日に頚動脈血栓内膜剥離術施行。第31病日に転落により第5頸髄損傷,右肩甲骨骨折,右肋骨骨折,右外傷性気胸及び血胸受傷。【経過と考察】第32病日に呼吸状態悪化し気管挿管し人工呼吸器管理。第37病日理学療法実施中に心停止。ボスミン投与後即座にセラピストによる胸骨圧迫を行い,3分後心拍再開。第39病日より理学療法再開。その後のバイタルサインや意識レベルに関しては心肺停止による影響はなかった。今回の心肺停止の原因は挿管チューブが若干浅く,側臥位への体位変換時に更に浅くなり,人工呼吸器での換気が不十分になったことによる低換気が引き金になったと考えられる。理学療法再開までの期間が短期間であった理由に,ICUでの理学療法であったため心停止の認識が早かったこと,心拍再開までの時間が短かったことが挙げられる。その他,セラピストはBasic Life Support(BLS)を受講しており心停止時の胸骨圧迫に対する知識および技術が十分にあったことも要因の一つであったと考えられる。今回のようなモニタリング管理下でのリハビリは,異常があればアラームが鳴ることや医師や看護師が近くにいるため,緊急時の対応は行いやすい。しかし,リハビリの実施場所はモニタリングのないリハビリ室や,他の職種のいない訪問リハビリでの現場の方が多く,その際は各セラピストが緊急性の判断を行うこともある。今後,リハビリスタッフへの救急救命教育が必須であると考える。
著者
保本 孝利 中 徹 實延 靖 北川 雅巳 中村 晋一郎 岡田 和義 横山 大輔 速水 明香 谷山 貴宏 中嶋 正明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3145, 2009

【目的】スパズムが生じた筋に対して圧迫によるストレッチ(PS)を加えると,スパズムが緩和することはよく経験するところである.しかし PSを施行する際の有効な施行時間についてはあまり明らかではない.そこで今回,筋スパズム緩和に有効なPS施行時間について,筋硬度,筋組織酸素飽和度(StO<SUB>2</SUB>)などの諸点から比較検討したので報告する.<BR><BR>【方法】対象は立ち仕事の多い健常成人男性6名(29.0±4.2歳)とし,就業後に同一施術者が被検者の腓腹筋中央部に対してPSを腹臥位にて行った.PS時間は10,20,30,60秒とし,各施行は異なる日に行った.各施行の直前,直後,一時間後に,筋硬度,StO<SUB>2</SUB>,組織内ヘモグロビン量(Total Hb)を測定した.筋硬度はASKER社製・DUROMETERを,StO<SUB>2</SUB>およびTotal Hbは近赤外線分光器(オメガウェーブ社製,BOM-L1TR)を用いた.併せて,足関節の背屈のROMを用手計測,筋疲労度(MF)を主観的評価VASにて調べた.統計処理にはフリードマン検定を使用し有意水準5%とした.なお,全ての被験者には本研究の趣旨を説明し,同意を得た上で実施した.<BR><BR>【結果】筋硬度については10,20秒では変化がなく,30秒では,直後で減少(p<0.05)し,一時間後は直前の状態に戻った.60秒の場合は,直後で減少(p<0.01)し,一時間後は直前よりも減少傾向(直前や直後との間に有意差が無い状態)にあった.StO<SUB>2</SUB>は全ての施行時間で直後に増加傾向にあるが有意差は無く,一時間後は直前の状態に戻った.Total Hbは全ての施行時間で変化は無かった.ROMは直後で増加傾向にあるが有意差は無く,一時間後では直前の状態に戻る傾向にあった.MFは全ての施行時間で直後のみ減少(10,20,60秒:p<0.01,30秒:p<0.05)した.<BR><BR>【考察】筋スパズム緩和に有効なPS施行時間としては,筋の柔軟性を短期的に向上させるには30秒間が必要であること,60秒間では施行直後に筋の柔軟性を持続させる可能性があることが今回の研究により示唆された.また,結果は以下についても示唆している.1-筋の柔軟性の変化は血流動態のみで規定されない.2-下腿三頭筋へのPSは短期的に足関節背屈の可動域を増加させる可能性はあるが,持続効果は無い.3-PSは刺激時間に関係なく施行直後に心的なリラクセーションを与える.
著者
岡本 貴幸 爲季 周平 榎 真奈美 藤沢 美由紀 阿部 泰昌
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.B0057, 2006

【はじめに】運動機能は比較的良好であったが、重度記憶障害により能力との乖離を認めた症例を経験した。運動療法に加え記憶を代償するため外的補助具の使用により、活動範囲が拡大した症例についてPTの役割を検討する。<BR><BR>【症例】44歳男性。公務員。(現病歴)頭痛、嘔吐出現。2日後発熱、見当識障害を認め、3日後K病院を受診しヘルペス脳炎と診断。機能障害として左片麻痺、重度記憶障害が残存。8日後ベッドサイドにてPT開始。1ヶ月後ADL能力拡大目的にてOT開始。更なるリハビリテーション目的にて4ヵ月後当院入院。<BR><BR>【評価】(画像所見) CTより右前頭葉、側頭葉、後頭葉にLDAを認め、両側前頭葉、右側頭葉に軽度脳萎縮を認める。(理学所見)随意性はBRS左上肢、手指、下肢とも6。深部感覚は左下肢中等度鈍麻。筋力はMMT右下肢5、左下肢4。姿勢筋緊張は立位、歩行時に左上肢屈筋群、足関節底屈筋群軽度亢進。歩行は屋内T字杖使用100m、非使用で80m可能。(ADL)最小介助だが自発性は無く、促して行ったことも忘れる。排泄はトイレの場所が分からず、しばしば紙オムツ内に排泄する。FIMは運動項目47点、認知項目21点。(神経心理学的所見)記憶は、病前20年程の逆行性健忘と重度の前向性健忘を認める。更に、前向性健忘に由来する日時や場所の見当識障害、近時記憶障害を認める。記憶検査は、RBMT SPS 1/24、SS 0/12、WMS-R言語性記憶73、視覚性記憶 62、一般的記憶66、注意/集中力103、遅延再生50↓。知的機能はWAIS-R VIQ105 PIQ78 FIQ92。遂行機能はBADS総プロフィール得点18、全般的区分平均。<BR><BR>【経過】入院時より歩行練習と並行してサーキットトレーニングを実施するが、指示通り実施不可能。外的補助具としてメモリーノートを導入することで問題解決がある程度可能あり、手続き記憶の残存が示唆される。次の段階では、外的補助具として地図を利用して目的地に行く練習を実施。1ヶ月後、歩行能力はT字杖非使用で屋外歩行200m可能となるが、地図の使用が習慣化せず、一度病室を出ると帰室困難。病室隣のトイレに行くにも迷う。2ヶ月後、遠位監視下で地図を使用して目的地まで間違わず移動が可能となり、4ヶ月後、院内移動が自立。記憶検査は著変なし。FIMは運動項目85点、認知項目27点となる。<BR><BR>【考察】本症例は、重度記憶障害によりPT場面での歩行能力と病棟での活動が乖離していた。手続き記憶が残存していることに着目し外的補助具の使用を検討した。外的補助具の使用が習慣化したことで目的動作へつながり、院内の生活が自立したと考えられる。<BR><BR>【まとめ】PTとして残存している手続き記憶に着目し、移動能力の向上を目的にアプローチ法を検討、実施した。結果、活動範囲は拡大し、院内の生活は自立に至った。<BR>
著者
西山 知佐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3O1166, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】リハビリテーション(以下リハとする)医療における今後の展開として、訪問リハサービスの提供量を増やし、かつ質も高めることで国民により認知されるよう働きかける動きがある。一方で鍼灸マッサージ師等が訪問マッサージを行っているが、なかには「訪問リハビリマッサージ」と称して機能訓練も行う業者も存在する。介護保険制度においては利用者本位の観点から必要でかつ適切な介護サービスが選択できることが理念の一つとして謳われている。我々現場で携わる者としては質の良いサービスを提供しないと利用を中止され、さもないと経営面にも大きく影響する場合もある。このような状況下にありながらも、どの程度サービスを利用されているのか実態を調査した文献はなかった。そこで訪問リハと訪問マッサージの併用利用について調査し、現状を把握することを目的とした。【方法】対象者は平成20年10月から21年9月までの間で当院理学療法士(以下PTとする)が提供する訪問リハを1か月以上利用した76名とした。サービス利用状況は調査期間内の対象者のサービス提供票から集計した。必要に応じて担当PTやケアマネージャー、利用者およびその家族からの情報を参考にした。さらに愛知県介護サービス情報公表センター、社団法人愛知県鍼灸マッサージ師会のホームページを参考に、当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区の資源の分布状況を調査した。【説明と同意】訪問リハ開始にあたって契約時に個人情報の取り扱いについて説明を行い、文書で同意を得た。個人情報取り扱いに関する院内規定に則り実施した。この中には質の向上のための研究が使用目的の一つに挙げられている。【結果】対象者76名のうち訪問マッサージを利用しているのは10名、過去に利用していたのは3名、加えて接骨院等へ通っているのは2名であった。うち訪問マッサージを利用した13名の介護度は要介護2が3名、要介護3が1名、要介護4が2名、要介護5が7名であった。該当する利用者の障害像は要介護2、3の場合は疼痛が強く日常生活に何らかの支障を来していた。ADLのほとんどは自立もしくは一部介助レベルであるが、外出は諸々の事情により困難であった。一方要介護4、5の場合は関節可動域制限や疼痛のあるケースがほとんどであり、寝たきりでおおむね全面的に介助が必要な状態であった。訪問マッサージ利用者が他に利用している介護保険サービスとその人数は訪問介護8名、訪問入浴6名、訪問看護9名、通所介護2名、通所リハ1名、短期入所3名であった。当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区のサービスの分布状況は訪問リハが11箇所、リハを提供している訪問看護ステーションが15箇所であった。また従事者数は訪問リハのPT38名、訪問看護ステーションのPT24名に対して、鍼灸マッサージ師会の登録者は164名であった。【考察】今回当院訪問リハ利用者の中における訪問マッサージ利用者の割合は19.7%であったが、他事業所との比較については言及できない。あくまで当院利用者における傾向を知るものであり、この研究の限界である。また資源の分布状況についても公表されているデータを用いたため、妥当性に欠けるところがある。ある文献にて「近隣に訪問リハサービスがなかったため、訪問マッサージを導入した」という報告が散見されたが、当院近隣の状況はこれとは違い決してサービス量は少なくない。だが訪問リハに従事しているPTよりも鍼灸マッサージ師の方が圧倒的に多く、提供できるサービス量の上でも後者の方が多いと思われた。しかし単純に量だけでなく、併用しているケースが存在することを考えるとリハとマッサージを使い分けて利用していることが示唆された。その背景として訪問マッサージは医療保険を使用できること、訪問リハよりも自己負担が少ないこと、ケアマネージャーの中で「リハは運動、マッサージはリラクゼーション」というイメージを持っていることが挙げられる。特に要介護4、5の利用者は利用限度枠近くまでサービスを利用しており、それに伴い経済的負担も大きく困っている利用者も少なくなかった。さらに関節拘縮予防の目的で短時間でもよいので運動頻度を増やしたい思いが利用者の中にあり、訪問マッサージも導入したのではないかと考えられた。またこれ以外のケースにおいては疼痛緩和やリラクゼーションの目的でマッサージを選択し、リハは運動や生活指導の目的で利用していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今後PTの職域の拡大を目指し、PTをはじめ多くの人々が努力している。さらなる発展のためには我々の置かれている現状とそれを取り巻く周囲の様子を把握しておく必要があると考える。
著者
松村 剛志 大場 美恵 山田 順志 楯 人士 青田 安史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】介護保険制度においてリハビリテーション(リハ)専門職は,生活機能全般,特に活動の向上に働きかける役割を求められている。役割にはこうした社会や制度の中で付与される集団的役割だけでなく,関係的地位の相手方の期待に基づく関係的役割も存在する。外来理学療法では患者の期待と理学療法士(PT)の役割認識にズレが生じていることが明らかとされているが,介護保険サービスにおいて要介護者が抱くPTへの役割期待は十分に解明されておらず,その変化を捉えようとする試みも見当たらない。そこで今回,通所リハ利用者の抱くPTへの役割期待の変化を質的研究手法を用いて明確にすることを試みた。【方法】対象者は静岡県中部地域にある2カ所の通所リハ事業所にてPTによる通所リハ・サービスを受けており,重度の記憶障害がなく言語によるコミュニケーションが可能で,かつ同意が得られた14名の要介護高齢者であった(男性10名,女性4名,平均年齢76.9±4.1歳)。主要疾患は脳血管障害9名,パーキンソン病3名,その他2名である。2012年9月に11名,追加調査として2013年3月に3名の対面調査を行った。面接は録音の許可を取った後に,通所リハ利用の目的,PTへの期待とその変化等について半構成的インタビューを行った。20~40分の面接終了後に,録音内容の逐語録を作成し,Steps for Coding And Theorization(SCAT)を用いて分析した。SCATによる分析では,まずSCATフォームの手順に沿って文字データから構成概念の生成を進めた。同時に,データに潜在する研究テーマに関する意味や意義を,得られた構成概念を用いてストーリーライン(SL)として記述した。次に,個々の対象者においてSLを断片化することで個別的・限定的な理論記述を行った。得られた理論記述の内容をサブカテゴリーと位置づけ,その関係性を検討した上でカテゴリーを構築した。最後に集約されたカテゴリーを分析テーマに沿って配列し直し,研究対象領域に関するSLを再構築した。対象者14名にて理論的飽和の判断が可能かどうかは,シュナーベル法を用いて構成概念の捕獲率を求め,捕獲率90%以上にて理論的飽和に達していると判断した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は平成24年度浜松大学研究倫理委員会の承認を受けており,対象者に対して書面ならびに口頭での説明を行った後に同意書への署名を得た。【結果】本研究では,76種類154個の構成概念が構築され,14例目における捕獲率は93.54%であった。また,全対象者から37個の理論記述が生成され,6つのカテゴリーに分類された。これらのカテゴリーから構築されたSLは以下の通りである。通所リハ利用者は,サービス開始当初,PTに対して身体機能や歩行能力の回復に対する働きかけを期待していた。ただし,脳血管障害の対象者にその傾向が強く,慢性進行性疾患の場合は悪化防止に焦点が当てられていた。リハ効果は,自己による自己評価と他者による自己評価の認知によって確認されており,息切れや歩行といったモニタリング指標を各自が持っていた。リハ効果が期待通り或いは期待以上であれば,PTへの信頼感に基づく全面的委任や担当者の固定による現状の継続が希望され,PTには得られた効果の維持が期待されるようになった。一方,転倒のような失敗体験の反復は,自己信頼感を低下させ,リハ効果が期待外れや不十分と認識される要因となっていた。この場合,サービスへのアクセスそのもの(回数増加や治療時間の延長)が期待されるようになり,治療効果を生み出すことは期待されなくなっていた。さらに,利用者に回復の限界に関する気づきがみられると,利用者は通所リハをピアと会える新たなコミュニティと位置づけていた。【考察】本研究においては,利用者のPTに対する役割期待に変化が認められ,その変化にはモニタリングされたリハ効果をどのように自己評価しているかが大きく影響しているものと考えられた。通所リハにおける利用者の満足感に関する背景要因には,(1)設備や雰囲気といった場,(2)サービス担当者の知識・技術・言動,(3)プログラムの多様性や治療機会,(4)心身の治療効果が挙げられている。利用者がPTから満足感を得ようとする場合,これら要因を組み合わせてPTへの役割期待を作り上げているものと考えられ,モニタリングの結果によって役割期待を能動的に変更している可能性も示唆された。【理学療法学研究としての意義】本結果は一地域の通所リハ利用者に限定されるものではあるが,通所リハ利用者の抱くPTへの役割期待の変化をSLとして明らかにし,PTが利用者理解を深めるためのモデルケースを提示できたものと考えられる。
著者
生野 正芳 綾部 雅章 政時 大吉 山下 奈美 刈茅 岳雄 松下 泰輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】平成12年に介護保険法が施行され介護保険を利用しての訪問リハビリテーション(以下 訪問リハ)の実施が開始されて十数年が経過している。厚生労働省の介護給付費実態調査月報では平成13年5月では1.4万人であった訪問リハの利用者数が,平成26年7月では8.6万人にまで増加している。しかし同じ月の訪問介護約140万人,訪問看護36万人に比べると非常に少ない数字である。この要因として訪問リハのサービス提供事業所数やマンパワーの不足,ケアマネージャー(以下CM)の認識不足などの指摘を受けることが多い。本研究ではCMが訪問リハについてどのような認識を持っているのか,どの程度訪問リハについて周知されているのかを調査することで今後の訪問リハのサービス充足に役立てることを目的とした。【方法】対象は福岡県うきは市およびうきは市周辺の居宅介護支援事業所26件(以下 事業所)にてCMとして業務に従事している者62名とした。調査方法は無記名の多肢選択式および自由記述式のアンケート調査を実施した。質問内容は基礎職種,実務経験年数,訪問リハの利用歴,給付実績数,現在訪問リハをサービスに組み込んでいる件数,訪問リハの利用に至らなかった理由,ケアプラン作成上よく使用するサービス(複数回答可),訪問リハへの要望とした。【結果】事業所数26件,CM数62名,回収数46名,無効回答数2名,有効回答数44名,有効回答率71.0%であった。基礎職種は介護福祉士43.2%,看護師16.0%,相談援助業務従事者16.0%,ホームヘルパー2級9.1%であった。ちなみにリハビリ関係職は0.0%であった。実務経験年数は平均6.7年±4.1年,最高15年,最低1年であった。訪問リハビリの利用歴は利用したことがあるCMが77.3%,一度も利用したことがないCMが22.7%であった。給付実績数は平均3.7±4.2件,最高20件,最低0件であった。現在訪問リハをサービスに組み込んでいる件数は平均1.0±1.3人,最高5件,最低0件であった。訪問リハの利用に至らなかった理由は「本人・家族が希望しない」が44.4%,「訪問リハの対象となる利用者がいない」が33.3%であった。ケアプラン作成上よく使用するサービス(複数回答可)は通所介護が90.9%,福祉用具貸与が86.4%,通所リハが79.5%,訪問介護が77.3%,ショートステイが43.2%,訪問看護が29.5%,訪問リハが11.4%であった。訪問リハへの要望は「訪問リハの内容・利用方法を教えてほしい」が52.9%と特に多かった。【考察】CMはケアプラン作成時まず通所系のサービスや訪問介護の導入を考えることが多く,訪問リハに関しては対象となる利用者がおらず,いたとしても本人や家族が希望しないため利用に至らない場合が多いという認識の傾向があった。しかし一方で,訪問リハの内容・利用方法を教えてほしいという要望も多い。またCMによって訪問リハの利用状況にばらつきが大きい状態である。これらのことから,CMに訪問リハの内容や方法,利用効果について十分に周知されていない可能性が考えられる。これはCMとして業務に従事している者の基礎職種にリハビリ関係職がほとんどいないことが要因の一つとして考えられる。理学療法士・作業療法士法施行以降,先人たちの努力により「リハビリテーション」という言葉とそのおおまかな内容は多くの国民に周知されてきている。しかし今回の結果から,訪問リハに代表される在宅でのリハビリテーションに対しては十分に周知されていないのではないかと考えられる。今後の訪問リハにおける課題はサービス提供事業所数やマンパワーの充足だけではなく,訪問リハに関する啓蒙活動による周知の徹底が重要であると考えられる。そうすることで訪問リハが必要だが現在は訪問リハを利用していない利用者に対して,必要なサービスを提供できる可能性が大きくなり,地域における訪問リハのサービス充足につながるのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】訪問リハに関する研究は症例報告や介入効果についてなどが多く,CMを対象とした調査は少なく,福岡県うきは市のような中山間地域を含んだ地方の自治体での調査は更に少ない状態である。今回介護保険サービスに関わる職種の中でも特に中核を担っているCMが訪問リハに対してどのような認識を持っているか知ることで,今後の訪問リハのサービス充足につながるための一助となると考える。さらに今後都市部の状況と比較することで地域格差の実態把握とその解消の一助となると考える。
著者
藤原 務 平山 哲郎 小関 泰一 多米 一矢 川﨑 智子 稲垣 郁哉 小関 博久 石田 行知 柿崎 藤泰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0455, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腹直筋,側腹筋群は,胸郭と骨盤を連結し体幹の安定性に重要な役割を果たす。また恒常的な胸郭可動性の維持や強制呼気に重要な作用を担う。体幹側方偏位の増大は胸郭形状の左右非対称性が助長され胸郭に付着する腹直筋,側腹筋群の長さ,張力関係にも変化を来たし体幹機能に影響を及ぼすと考えられる。したがって収縮活動の左右差を可及的に最小限にすることは臨床結果を判定する指標になり得る。本研究の目的は体幹の側方偏位が腹直筋,側腹筋群筋厚および呼吸機能への影響を検討することとした。【方法】対象は健常成人男性15名であった。測定肢位は安静背臥位とした。体幹偏位の測定はデジタルカメラを用い,得られた画像を画像解析ソフトImageJにて体幹偏位量を算出した。この値を元に,他動的にベッドをスライドさせ安静位,正中位,偏位量増大位の3条件で検討した。腹直筋および側腹筋群筋厚の測定は超音波診断装置を用いた。課題動作は安静呼気,努力呼気とし,腹直筋の測定は第3筋区画の中央点にプローブを位置させ,側腹筋群筋厚の測定は第10肋骨下端と骨盤の中央点にプローブを位置させ短軸像を抽出した。それぞれの呼気終末時で得た画像は画像解析ソフトImageJを用いて筋膜間距離を筋厚として算出した。呼吸機能の測定は,呼気ガス分析装置とスパイロメーターを用いて測定した。統計処理は各項目における代表値を対応のあるt検定を用いて比較検討した。なお,危険率5%未満を有意とした。【結果】体幹偏位は有意に左側へ偏位していた(p<0.01)。腹直筋および側腹筋群筋厚は,安静呼気において偏位量増大位で左側が有意に減少した(p<0.01,p<0.01)。また努力呼気でも両筋は偏位量増大位で左側が有意に減少した(p<0.05,p<0.05)。正中位は,安静呼気および努力呼気で両筋に有意な差がみられなかった(n.s.)。呼吸機能は,TVにおいて偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)RRは偏位量増大位で有意に増大した(p<0.01)。MVは有意な差がみられなかった(n.s.)。VC,FVC,PEFR,%VCおよびV25においては偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)。FEV1.0においては有意な差がみられなかった(n.s.)。また,FEV1.0%は偏位量増大位で有意に増加した(p<0.05)。【結論】今回の結果から安静背臥位では,骨盤に対して体幹は有意に左側へ偏位し左側方偏位が増大すると左右の腹直筋,側腹筋群筋厚に左右差が生じ呼出機能低下に通ずることが示された。体幹側方偏位の改善は,胸郭のニュートラル化に寄与し付着する左右腹直筋,側腹筋群の均等な張力の再建に結びつき,呼吸運動における左右対称性の胸郭運動や筋活動により呼出機能改善が図れたと考察する。また,強制呼気に関与する協調的な腹直筋,側腹筋群機能の発揮が得られ,効率的な呼出機能が獲得できたと考察する。体幹側方偏位に伴う胸郭機能低下は,呼吸機能低下の一要因に関与し,呼吸器疾患をはじめ多くの臨床応用ができるものと考察する。
著者
森野 佐芳梨 堀田 孝之 大橋 渉 有馬 恵 山下 守 山田 実 青山 朋樹 石原 美香 西口 周 福谷 直人 加山 博規 谷川 貴則 行武 大毅 足達 大樹 田代 雄斗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】妊娠により,女性の身体には様々な解剖学的および生理学的変化が生じ,腰痛に代表される多様な不快症状が発生する。これらの症状は医学的に母児への影響が少ないとされ,マイナートラブルと定義されている。しかし,この症状により妊婦のQOLが損なわれ,妊娠経過に悪影響を与えることから,対処を行う必要があるが,妊娠経過とマイナートラブルに関する調査は十分ではない。また妊娠前には,ホルモンバランスを整え,順調な妊娠経過を送るために,適正なbody mass index(BMI)を維持することが重要である。しかし,これは主に妊娠高血圧や妊娠糖尿病などとの関連において重要視されており,マイナートラブルとの関連についての十分な検討はなされていない。そこで本研究の目的は,妊娠中の女性に発生するマイナートラブルと妊娠前BMIとの関連を縦断的に検討することとする。【方法】対象は名古屋市内のXクリニックグループにおけるマタニティフィットネスに参加していた妊婦355名(31.1±4.1歳)とした。調査項目は2009年から実施されたメディカルチェックシート,および電子カルテから得られる身体情報(年齢,身長,妊娠前体重)である。メディカルチェックシートは,日本マタニティフィットネス協会が発案したものであり,睡眠,便秘,手指のこわばり,むくみ,足のつり,腰背痛,足のつけ根の痛み,肩こり・頭痛,肋骨下の痛み,食欲・むねやけの10項目について,妊婦が即時的に症状のある項目をチェックする自己記入式質問紙である。これをもとに,マイナートラブル有病率を算出し,記述統計的に検討を行った。また,妊娠前のBMI値からBMI低値群(BMI:18kg/m<sup>2</sup>未満),BMI標準群(BMI:18~22 kg/m<sup>2</sup>),BMI高値群(BMI:22kg/m<sup>2</sup>以上)の3群に群分けを行い,妊娠中期,妊娠後期のマイナートラブルの発症との関連を検討した。統計解析は,それぞれの時期において,従属変数を各マイナートラブルの有無,独立変数にBMI標準群をリファレンスとして低値群および高値群を投入し,年齢で調整した二項ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当該施設の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】BMI各群の人数は低値群47名(30.4±4.2歳,BMI:17.4±0.6kg/m<sup>2</sup>),標準群236名(31.2±4.0歳,BMI:19.8±1.0 kg/m<sup>2</sup>),高値群72名(31.2±4.2歳,BMI:23.5±1.8 kg/m<sup>2</sup>)であった。対象者全体での各種マイナートラブル有病率の推移は,妊娠経過が進むにつれて大部分の項目は増加傾向を示したが,便秘,肩こり・頭痛については減少傾向を示した。回帰分析の結果,BMI高値群において妊娠中期では足のつけ根の痛みの有病率が有意に高く(OR:2.38,95%CI:0.41-3.94),妊娠後期では睡眠障害(OR:2.00,95%CI:1.08-4.82),手指のこわばり(OR:3.00,95%CI:0.51-5.09),足のつり(OR:2.29,95%CI:0.50-2.40),腰背痛(OR:2.20,95%CI:0.99-3.98),足のつけ根の痛み(OR:2.14,95%CI:0.94-4.03),肩こり・頭痛(OR:2.01,95%CI:0.69-3.86)の有病率が有意に高かった(p<0.05)。一方,BMI低値群において妊娠中期では肩こり・頭痛の有病率が有意に高く(OR:2.84,95%CI:1.35-5.96),妊娠後期では便秘の有病率が有意に高かった(OR:2.28,95%CI:1.08-4.82)(p<0.05)。【考察】本研究の結果,マイナートラブルの中には,妊娠経過とともに有病率が増加するだけでなく,減少傾向を示す項目もあることが明らかとなった。また,妊娠前BMIとマイナートラブル有病率が関連することが示された。BMI低値群においてはBMI標準群と比較して,妊娠期のホルモン変化の影響を受けるとされる便秘や頭痛などの項目に関して強い関連がみられた。一方,BMI高値群においては腰背痛や足のつりなどの筋骨格系および循環系のトラブルの項目に関して強い関連がみられた。これまで妊娠準備のために適切なBMIを保つことが重要であることは指摘されていたが,マイナートラブルの発症を防止するうえでも重要であることが示された。マイナートラブルに関しては,妊娠中という治療法が限られる状況を考えると,妊娠前からの予防が重要である。今後は,BMI以外の要因も考慮に入れ,より詳細なリスク予測の指標を作成していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】近年,理学療法学の分野において,ウィメンズヘルス分野への参加が重要視されている。本研究結果より,妊娠期に問題とされる各種マイナートラブルについて,それぞれの発症が母体の妊娠前のBMIと関連する結果が示されたことから,理学療法士として妊娠前の女性の体型にアプローチする事で各種トラブルに対する予防・対処の方法を提案する一助となると考える。
著者
松尾 篤 草場 正彦 進戸 健太郎 冷水 誠 岡田 洋平 森岡 周 関 啓子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P3295, 2009

【目的】脳卒中後の運動障害治療として,ミラーセラピーが臨床応用されつつある.この治療は,上下肢の鏡映像錯覚を利用して,運動前野領域を活動させ,患肢の運動イメージ生成を補助する有効な手段とされている(Yavuzer, 2008).我々もミラーセラピーの臨床応用を試み,幾つかの有効性に関する知見を報告してきた.また,最近では運動観察治療も運動障害治療の手段として報告されている.運動観察治療は,他者の意図的行為を観察した後に,自身で身体練習を反復実施する治療であり,脳卒中患者での有効性も報告されている(Ertelt, 2007).今回は,健常者における複雑で精緻な手の運動学習課題を使用して,ミラーセラピーと運動観察治療の効果を明らかにすることを目的とする.<BR>【方法】研究内容を説明し同意を得た右利き健常大学生30名(平均年齢22.5±2.8歳)を対象とし,参加条件としては右手でペン回しが可能なこととした.ペン回しとは,母指,示指と中指を巧緻に操作ながら,把持したペンの重心を弾いて母指を中心に回転させる課題である.本研究では左手でのペン回し課題を運動学習課題とした.30名をランダムに3つのグループに各10名ずつ割り付けた.グループは,ミラーセラピー(MT)群,運動観察(OB)群,身体練習のみ(PP)群とし,MT群とOB群は5分間の身体練習に加えて各介入を実施した.MT群では,作成したミラーボックス内の正中矢状面に鏡を設置し,右手でのペン回し鏡映像が,左手でペン回しを実施しているかのような錯覚を惹起するように設定し,5分間ミラーセラピーを実施した.OB群では,あらかじめ撮影したペン回し映像をPC上で表示し,対象者は安静座位の肢位でこの映像を5分間観察した.PP群では,5分間の左手でのペン回し練習のみとした.介入期間は10分間/日で5日間とし,測定は介入前と介入期間中の計6回実施した.測定アウトカムは,左手でのペン回し成功回数,3軸平均加速度とした.分析には二元配置分散分析を実施し,有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】ペン回し成功回数は,介入前と比較して介入1日目から順に5日目まで増加し(P<0.001),グループ間にも主効果を確認した(P<0.001).特に,MT群においてはOB群,PP群に比較して介入1日目の変化率が大きいことが観察された.3軸平均加速度にはグループ間で有意差を認めなかった.<BR>【考察】本研究の結果から,健常者における新規で巧緻な手の運動学習では,ミラーセラピーを身体練習に組み合わせることが,運動観察や身体練習のみの場合よりも効果的な方法であることが示唆された.また,介入直後の変化がMT群で大きなことから,ミラーセラピーは運動学習初期の段階で,新規運動課題の運動イメージ生成をより効率的に促進させる効果がある可能性が示唆された.今後の臨床においても,より効果的なミラーセラピーの適応を検討していく必要がある.