著者
佐々木 朝子
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

旧制下での林学に関する高等教育は、農学部を設置する帝国大学及び高等農林学校が担っており、これらの高等教育機関では学生・生徒の実習を目的として演習林を設置していた。そして、卒業生の多くは、専門知識を活かして森林行政や林産業に従事した。本研究では、1880~1940年代における林学に関する高等教育の実態を明らかにするため、各高等教育機関のカリキュラムや演習林を利用した実習の内容に関する調査を行う。また、在学中の教育が卒業後の職業生活にどのような影響を与えたのか明らかにするため、学生・生徒が卒業後に従事した職務等を調査する。以上の調査に基づき、林業における教育と産業の連関を考察する。
著者
高橋 裕介
出版者
北海道大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)
巻号頁・発行日
2018

大気再突入時に高温プラズマに包まれた宇宙機が、地上局やデータ中継衛星との通信途絶現象(通信ブラックアウト)に陥ることは大きな問題である。その一方で、再突入機近傍のプラズマ諸量分布や電磁波挙動の正確な予測が難しく、通信ブラックアウト低減に繋がる知見の探索が困難な状況である。したがって、この問題を回避・緩和するために通信ブラックアウト低減化技術は必要である。いま表面触媒性を用いた宇宙機後流プラズマ密度低下を利用することによる通信ブラックアウト低減が提案されている。本研究では表面効果による通信ブラックアウト低減化メカニズムおよび低減化技術の指針を見出すことを目的とする。本年度では、ドイツ航空宇宙センター(DLR)に滞在し通信ブラックアウト低減化の研究を実施した。DLR研究者との議論の中で、これまで取り組んできた表面触媒性とは別のメカニズムを利用した新しい通信ブラックアウト低減化手法を提案した。これは冷却ガスを再突入機表面から噴出して空力加熱低減する技術(フィルムクーリング)を応用したものである。とくにここではフィルムクーリングによる低減化の実現可能性を数値解析的手法によって調べた。本課題の基課題となる研究課題 (若手研究B17K14871)では表面触媒性による通信ブラックアウト低減化の実験的実証を行った。このメカニズムを本研究課題では数値解析的手法によって次の通り明らかにした:(1)表面触媒によって生じる分子が再突入機後流に流出する。(2)後流において分子の増加が原子種の不足を招く。(3)原子種を補う方向に電子の再結合反応が促進することで、電子が低減する。(4)電子の低減によって通信電波の伝播が緩和される。
著者
浅見 克彦
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.299-313, 2003-12-16

マクルーハンは、晩年の著作、Laws of Media とGlobal Village で、彼のメディア理解をシフトさせた。第一に、72年前後から彼が採用した「図-地」の分析枠組の顕著化により、メディアとその社会的環境との相互作用、とりわけ「図」としてのメディアが、「地」である社会的環境に左右されつつ形成される関係が明確化された。メディアが人々の認識様式や文化環境を左右することを強調する それまでの理論的構図に、社会的環境がメディアのあり方に作用するという「裏の」関係が付加されたのである。第二に、誤解の余地なく技術決定論を否定する説明の図式が築き上げられた。とりわけ、人間のあり方を規定するメディアの作用を強調し、人間をテクノロジーの下僕と見なす理解が事実上否定され、メディアが「使用者の精神性」の所産であることが明確化された。第三に、右脳と左脳の共働という脳神経学の知見に触発されながら、聴覚的なニューメディアが視覚的な活字文化を駆逐してゆくという将来予測が、ニューメディアと活字文化の共存、並立を強調する理解へとシフトしていった。晩年の両著作は、マクルーハン理論への多くの誤解をとき、新たな理論的探求を可能にする刺激的な記述に満ちている。
著者
遠藤 辰雄 谷口 恭
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

電気ゾンデとして降水粒子の電荷と雲内の大気電位傾度の二要素を交互に時分割で測定して送信するものを製作した。これをレーダにて予め到来時を予測した降雪雲に合わせて飛揚し、それを自動追尾するラジオゾンデ受信機の空中線制御の方位角に合わせてレーダの縦断面の走査をしながら追跡した。得られた観測結果の7例中6例について、降雪雲の下部半分や雲底近くは正の電位傾度であるのに対して、上半分や雲頂近くでは、逆に負の電位傾度であることが共通していた。このことは降雪雲の電気的性質の一つとして特筆すべきことである。例外のケースはレーダエコーから判断して、一連の攪乱の末期のものであったと判断された。電気ゾンデとレーダの同時観測については、最も条件の良い例から順に詳しく解析してみた。そのレーダのRHI図の縦断面図によるとエコーが尾流雲の形で風のシャーによって進行方向に対して約2/3の勾配で前傾しているのがわかった。これは海上から上陸すると、さらに前傾が進んでいくが、電気ゾンデは幸いに、その尾流の中をつらぬく様に飛航した。その中で雲の下部は正電場で、そこの降水粒子の電荷の負が卓越していた。また雲の上半分の電場は負で、そこの電荷は正で逆相関である。電場の符号の変り目には空間電荷密度が算出されるので、雲層全体の中層付近は正の空間電荷が存在していることになる。また雲頂近くには負の空間電荷が同様に計算される。冬の雷は通常の落雷と異って正の電荷が落ちることで注目されている。この研究によって得られた電気的構造によると、その正電荷は雲の中層の空間電荷か、またわ雲の上半分に存在する降水粒子の正電荷のいずれかであるが、それらに対する反対符号の電荷と単に重力分離しているだけでなく風のシヤーによって水平にひきはなされていて、これが大地に対し露出するために正極性落雷になると考えられる。
著者
高倉 祐樹
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
2019-03-25

【目的】失構音(anarthrie)とは,脳血管障害や神経変性疾患によって生じる発話障害のひとつであり,臨床上では,一貫性の乏しい「構音の歪み」と「音の連結不良」を主症状とする病態と定義されている(大槻,2005).失構音は,神経心理学の歴史において,20世紀初頭から今日に至るまで,常に議論の中心となってきたテーマのひとつではあるものの(大東,2009),その障害の内実はいまだ明らかではない(Maasら,2008).従来から,その病態の均質性については疑問がもたれていたが(大東,1981),体系的な症状の分類法はいまだ確立されておらず,症状の具体的記述や病態解釈も研究者間で一貫していない.その要因として,1)既報告においては,失語症を伴う失構音例が研究対象となることが多く,純粋な失構音例を対象とした研究が少ないこと,2)純粋な失構音例の発話症状と脳の損傷部位の両者を詳細に検討した研究が少ないこと,が挙げられる.近年,失構音は脳血管障害の領域のみならず,神経変性疾患の領域でも注目されており,失構音の症状のみが緩徐に進行する「原発性進行性発語失行(primaryprogressiveapraxiaofspeech;PPAOS)」(Josephsら,2012)という概念が提唱されている.失構音の症状が,神経変性疾患における背景病理を推定する指標となる可能性も指摘されており(Josephsら,2012;Harrisら,2013),疾患単位として確立しつつある.その一方で,失構音の定義が研究者間で一貫しておらず,失構音の症状自体を検出することの難しさも指摘されている(Sajjadiら,2012).本研究の目的は,失語症を伴わない純粋失構音を対象に,詳細な聴覚心理学的評価と脳の解剖学的検討を組み合わせることによって,失構音のサブタイプの存在を明らかにし,失構音の評価や分類に有益な臨床指標を提起することである.さらに,対象を脳血管障害のみならず,神経変性疾患にも拡大することで,失構音の病態機序と脳解剖学的基盤に関する,より普遍的な知見を明らかにすることを目指す.【対象と方法】対象は単一の脳血管障害により純粋失構音を呈した右利き症例8名(男性4名,女性4名),神経変性疾患により純粋失構音を呈した右利き症例3名(男性1名,女性2名)の計11名の症例群(平均年齢74.7歳)であった.実験手続きとして,単語の呼称,復唱,音読,無意味語復唱,無意味語音読を実施し,発せられた単語の「構音の歪み」,「音の途切れ」,「音の引き延ばし」,「息継ぎ」の有無を,検査者間・内の信頼性を確保したうえで,聴覚心理学的に評価した.さらに,「息継ぎ」の有無については,音響分析による評価を実施し,「音の途切れ」と「息継ぎ」の差異を明確化した.発話素材は,モーラ数や意味の関与などの単語属性を統制した.さらに,脳血管障害例においては磁気共鳴画像(MRI)によって,脳損傷部位を同定した(1例のみCTを使用した)。神経変性疾患例においては,MRIによって,脳血管障害など他疾患がないことを確認した上で,単一光子放射断層撮影(SPECT)によって,血流低下が認められる脳領域を同定した.【結果】発話の聴覚心理学的評価の結果,1)「構音の歪み」が「音の途切れ」よりも優位なタイプ(タイプI),2)「音の途切れ」が「構音の歪み」よりも優位なタイプ(タイプII),3)-4-「構音の歪み」と「音の途切れ」が同程度のタイプ(タイプIII)という,従来指摘されていた3タイプ(大槻,2005;Duffyら,2015)に分類が可能であった.さらに,タイプIの主病変は左中心前回後方部,タイプIIの主病変は左中心前回前方部,タイプIIIの主病変は左傍側脳室皮質下と,差異が認められた.さらに,進行性失構音を有する症例は全例,「構音の歪み」が「音の途切れ」よりも優位ではあったが,以下の3つの特異性を有していた.1)「音の途切れ」よりも「音の引き延ばし」が前景に立つ,2)単語発話であっても「息継ぎ」が生じる,3)左運動前野の上部および両側の補足運動野に脳機能低下を認める.【考察】失構音の発話症状と病巣との関連について,大槻(2005)は,「構音の歪み」優位のタイプはブロードマン4野の損傷で出現し,「音の途切れ」優位のタイプは4野と前方の6野にも侵襲が及んだ場合に出現し,両者が同程度のタイプは,4野・6野からの連絡線維が存在する傍側脳室皮質下の損傷で出現することを報告している.本検討におけるI~IIIのタイプの発話特徴と損傷部位の対応についても,既報告(2005)と同様の結果が得られており,「構音」と「音のわたり」に関わる発話運動プログラムの解剖学的基盤は,それぞれ異なる可能性を支持した.進行性失構音を有する症例の病巣について,既報告では,運動前野の上部や補足運動野の変性が,症状発現に関与していることが示唆されている(Josephsら,2012;Josephsら,2013;Whitwellら,2013;Utianskiら,2018).本検討においても同部位の血流低下が確認されており,既報告を支持した.なお,運動前野や補足運動野といった高次運動野は,時間構造の制御や運動プランの形成に関与するとされる(丹治,2013).この視点に基づくと,進行性失構音を有する3症例に特異的であった「音の引き延ばし」は,発話運動を適切なタイミングで「終了」させるための,時間構造の制御の問題を反映しており,「息継ぎ」は,発話遂行に必要となる吸気量や呼気量を調整するための,運動プラン形成の問題を反映していると仮定すると,進行性失構音における特異的な発話症状と病変部位との関連性が説明できると考えた.【結論】本研究の結果から,失構音は単一次元の障害ではなく,多様性を有することが明らかとなった.また,発話症状と脳の解剖学的基盤を検証することで,それぞれの失構音のタイプにおいて,異なる病態機序が関与している可能性が示唆された.さらに,進行性失構音を有する症例における特異的な発話症状として,「音の途切れ」よりも「構音の歪み」と「音の引き延ばし」が前景に立ち,単語発話中の「息継ぎ」が生じるという現象が同定可能であった.本症状に着目することは,失構音を呈する神経変性疾患の早期発見と,適切なリハビリテーション介入において,重要な意味を持つと考えた.今後は,それぞれの病態に応じた具体的なリハビリテーションプログラムの構築が必要であるが,本検討で得られた知見はその第一歩に繋がるものと考える.
著者
押見 善久
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
2004-12-24

北海道大学. 博士(法学)
著者
藏田 伸雄 森岡 正博 村山 達也 久木田 水生 古田 徹也 鈴木 生郎 八重樫 徹 吉沢 文武 杉本 俊介
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、「人生の意味」に関するメタ倫理学的研究と「死」の形而上学的研究との関連を、「人生の意味」についての規範的議論を手掛かりにして検討する。さらに「人生の意味」という概念の規範性について批判的に検討する。またこの分野での主張に見られる、「人生の意味」に関する命題についても真理条件が成立するという前提について検討を進める。そして決定論的な世界観を採用することは、「人生の意味」の価値を減じるのかという問題について分析する。
著者
小池 聡 竹田 将悠規
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

ウシは第一胃(ルーメン)に共生する微生物に飼料の分解を委ねており、ルーメン微生物の働きは乳肉生産に大きく影響する。本研究では、ウシの生産性と関連するルーメン微生物を特定し、これをバイオマーカーとして利用する可能性について検討した。まず、ウシや作業者の負担を軽減するために、ルーメン内容物の代替として口腔内の反芻残渣が利用可能であることを確認し、サンプリング手法の簡便性を大きく改善した。この手法を応用して、黒毛和種肥育牛においてはPrevotella属細菌群の分布量と体重に正の相関がある可能性を明らかにした。今後、本属細菌を体重増加のバイオマーカーとして活用できるかもしれない。
著者
高橋 浩晃 大園 真子 宮町 宏樹 谷岡 勇市郎 蓬田 清 吉澤 和範 中尾 茂 一柳 昌義 山口 照寛 ゴルディエフ エフゲニー ブイコフ ビクター ゲラシメンコ ミハイル シェスタコフ ニコライ ワシレンコ ニコライ プリトコフ アレキサンダ レビン ユーリ ワレンチン ミハイロフ コスティレフ ドミトリ チェブロフ ダニラ セロベトニコフ セルゲイ
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ロシア極東地域から中国東北部を含むアジア北東地域のテクトニクスの解明を目指し,地震とGNSS観測を実施した.2011年東北地方太平洋沖地震による広域的な余効地殻変動が観測され,ロシア沿海州地方は地震時変動を上回る変位が得られた.ロシア極東地域に展開した広帯域地震観測網のデータから,当該地域の上部マントル地震波速度構造を明らかにし日本海下に低速度異常を確認した.上部マントルの粘弾性構造の推定から,日本列島周辺で繰り返し発生する巨大地震がアジア北東地域に長期的な余効変動を引き起こしてきた事実を明らかにした.また当該地域の特徴的な地震活動を明らかにした.
著者
久井 貴世
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2016-08-26

本研究の目的は、歴史資料を用いた調査から、江戸時代の日本に生息していたツル類各種の生息実態のうち、特に渡りに関する生態を明らかにすることである。江戸時代の幕府・藩の公用記録、博物誌資料、地誌、紀行・旅行記などを対象としてツルに関する記録を収集し、ツルの渡来地・渡来時期を示す記録を用いて、GIS(地理情報システム)によって種別、月別の分布図を作成した。これにより、江戸時代におけるツルの分布と渡りを視覚的に把握することを可能とした。本研究では、ツルの種による渡来状況や移動傾向の違い、現在日本では繁殖しないマナヅルやナベヅルの繁殖、あるいは北海道外でのタンチョウの繁殖の可能性を明らかにした。
著者
松下 拓 松井 佳彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、遺伝子組み換え技術により発現させたノロウイルス外套タンパクと、ヒト水系感染症ウイルスを、全国の浄水場から送付いただいた水道原水に添加し、回分式凝集沈澱処理実験より浄水処理性を調べた。その結果、通常の浄水処理における凝集沈澱処理でのノロウイルスVLPsを含むヒト感染ウイルスの除去率は0~2.5 log程度であることが分かった。また、大腸菌ファージMS2はヒト感染ウイルスの代替指標として使うのは難しく、大腸菌ファージφX174の方が代替指標として適する可能性が示された。