著者
筑田 真 宮倉 幹夫 田中 寧 小原 喜隆
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.979-981, 1991-06-15

両眼の老人性白内障と左眼の黄斑部網膜上膜形成による視力低下および変視症を訴える症例に対して,右眼に白内障手術,左眼に白内障手術と同時に硝子体手術を施行した。左眼白内障は硝子体手術が可能な程度の後嚢混濁であったが,黄斑機能の改善を言的に早期に網膜増殖膜の除去と白内障手術を行った。その結果,網膜機能の回復は順調で,視力は改善し,変視症も消失した。また,両眼視機能も良好となった。高齢者の増加に伴って白内障と黄斑病変を有する症例に遭遇することが多くなる。黄斑上膜の手術予後は良好なことから,白内障との同時手術は視機能の回復のために試みる方法と考える。
著者
山口 浩二 笹部 哲也 倉恒 弘彦 西沢 良記 渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.533-542, 2008-06-15

はじめに 「疲労」は誰もが日常生活の中で感じることのある一般的な感覚で,また大多数の疾患において程度の差こそあれ経験する症状の1つであり,心身の疲弊を自らに知らせ,休息を求める生体のアラームである。ありふれた感覚ではあるが,今まで,医学の対象として重要視されていなかった。その理由として考えられることは,疲労が多数の因子が関与した複雑な現象であること,個人により,また同一個体でも状況により感じ方が異なることにより,客観的評価が困難で,科学の対象として扱い難いということに帰している。また,疲労を表現する言葉が,関西では「しんどい」というが,関東では「だるい」,九州では「きつか」,東北では「こわい」というように,狭い日本の国内においても種々の表現があり,その意味する内容も微妙に異なっていることも客観的評価を困難にしていると思われる。このように疲労は主観的な感覚であるため,これまでの評価は各種問診表やvisual analogue scale(VAS)を用いた自己申告式のものが中心となっており,評価として十分に耐え得るものとは言い難かった。一方,なんらかの課題を行った際の反応時間の遅延や,誤反応の増加,多重注意の困難といった疲労時におけるパフォーマンスの低下をもって疲労を評価する手法もあるが,疲労感とこれらパフォーマンスの低下が乖離することが多々あることも我々は日常生活でよく経験し,こういった事情が疲労の客観的評価を困難にしている。 ところで,慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome;CFS)は,ウイルス感染やストレス曝露を機に発症する疾患であるが,高度の全身倦怠感をはじめ,微熱や全身の疼痛,脱力感などの身体症状や,思考力・集中力低下,抑うつなどの精神症状,睡眠障害などの症状が長期間持続し,健全な社会生活が困難となる症候群で,今もって原因は不明とされている。診断は日本疲労学会による診断指針や米国CDCの診断基準に基づくが,いずれにおいても,高度の疲労により日常生活に支障を来していることが診断の必要条件となっている。しかし,高度の疲労か否か,疲労を訴える患者の疲労を客観的に評価することは難しい。 そこで,本稿では,今まで定量化手法を持ち合わせていなかった疲労という現象に対し,加速度脈波を用い,自律神経機能や複雑系の観点から,疲労を定量化する試みについて,CFSを例に紹介することとし,最後にいくつかの慢性疾患の疲労についても検討した結果を例示する。
著者
野村 照幸
出版者
医学書院
雑誌
訪問看護と介護 (ISSN:13417045)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.468-477, 2017-06-15

ここまで、クライシス・プランの活用例を紹介してきました。各ケースでのやりとりを見ると、決して特別な関わり方をしているわけではないとわかります。しかしながら、どういう利用者に対し、どのような点でクライシス・プランをお勧めでき、実際にはどういったやりとりのなかで作成していけばよいのか、「もう少し詳しく知りたい!」という方もいるのではないでしょうか。 ここで、前項の「こんなケースに使えます、クライシス・プラン」の事例を用いながら、クライシス・プランの作成・導入・運用のプロセスを11のステップに切り分け、必要な考え方や知識を整理していきます。
著者
小田 晋
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.145-152, 1964-02-15

I.はじめに 現代の日本での宗教と精神障害の病態との関係を考えてゆくこころみの一つとして仏教のなかで,日蓮宗の一分派に属するN-S宗派(仮称)の信者に属する精神障害者の病態について,宗教精神病理学的な考察を加えてみた。N-S宗派は仏教分派としては特殊の存在である。その信者が増大し,組織が拡大してきたのは近年であるが,実は日蓮以来の伝統をもち,日蓮宗系教団のなかで教義の正統性と純粋性をもつとも頑強に主張する宗派と結びついた一つの宗教団体なのであつて,現在の形態での団体として発足したのは1930年である。つまり,N-S宗派は大衆的な,新興の宗教団体ではあるが,一方,富士大石寺を本山とする日蓮宗の一派と相互に提携するという形をとつており,小口および佐木の記述をかりると,現代大衆社会における新興の,大衆的な宗教であるという意味では新興宗教であるが,既成教団と密接に結びつき,教学をおもんじて,教祖が生神様として扱われることがなく,神がかり(シャマニズム)の傾向がないという点では一般の新興宗教とは違つたものであるとされる。 本宗派はその信仰の組織,形態および教義のはつきりしていることによつて,戦後とくにいちじるしい発展をとげている。 現在,信者の数は約300万世帯と公称され,その社会的な活動力,政治的影響力で社会的な注目をあびているものである。ここでこの宗派をとりあげた一つの理由は,この宗派のもつ特殊な性格から伝統的宗教と,新興宗教の両者のもつ比較宗教心理学的な特徴に出会うことができるだろうということ,さらに最近2年間にこの宗派に属する患者で精神病院に入院するものが,その病態のもつ一種の特性とまとまりによつて,注目をひいたことがあげられる。 ここでは,最近2年間に東京,神奈川の5ヵ所の精神病院に入院した同宗派信者のうち宗教に関連した病態をもつもの2例について,病態と信仰のあいだの関連を考察したのである。
著者
澤口 俊之
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.929-936, 2000-12-10

はじめに 近年の認知脳科学で大きく注目されてきた認知機能の一つに,ワーキングメモリがある。この働きは,とくに「思考」の中心・ベースとなっており,ワーキングメモリの脳内メカニズムを明らかにすることが,思考に代表される高度な精神機能の脳レベルでの解明に直結すると考えられている。そして,PETや機能MRIなどによる脳イメージング法での研究や,サルを用いたニューロンレベル,さらには情報伝達分子レベルでの研究が豊富になされてきた。 そうした精力的な研究の結果,多くのデータが得られてきたが,ワーキングメモリの「ニューロンシステム」に関しては,まだ十分にわかっていない。ワーキングメモリの脳内メカニズムの解明には,それを担うニューロンシステムの理解(システム的理解)が不可欠である。ところが,実証データに基づくそうしたモデルとしては,現時点では,一つしか提唱されていない。
著者
竹村 道夫
出版者
医学書院
雑誌
Brain and nerve (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.1177-1186, 2016-10
著者
倉恒 弘彦
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.666-670, 2013-08-15

疲労感,倦怠感とは 疲労感や倦怠感は,人間にとって痛みや発熱などと同じように体の異常や変調を自覚するための重要なアラーム信号の1つであり,健康な人でも,激しい運動や長時間の労作を行った場合,また過度のストレス状況に置かれた場合などに,「だるい」,「しんどい」という感覚でそれを自覚し,体を休めるきっかけとなっている. 激しい運動や長時間の作業をしていると,体の細胞レベルではたんぱく質や遺伝子に傷が増えてくる.限界以上に増えると細胞は破壊されるので,傷を修復する必要がある.しかし,活動を続けたままでは細胞内のエネルギーをタンパク質や遺伝子の修復をするために利用できない.そこで,ヒトは疲労感の助けによって休息を取り,体を元の健康な状態に戻しているのである.
著者
雨宮 哲郎
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.1606-1609, 2018-09-10

Point◎ICUにおける深在性真菌症は,カンジダ血流感染症と侵襲性肺アスペルギルス症が多い.◎ガンジダ血流感染症,侵襲性肺アスペルギルス症は特有のリスク因子をもつ患者に生じる.◎深在性真菌感染症の診断は血清学的検査に依存せず,可能な限り微生物学的に証明する.
著者
眞鍋 欣良 猿渡 和彥 重信 文男 添原 治夫 今井 維準
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.11, no.7, pp.471-474, 1956-07-20

緒言 原爆被爆者の皮膚毛細血管に"荒癈失調状態"が観られることは既に数次に亘り発表して来たが今回は広島に於ける原爆被爆者の10年後の皮膚毛細血管像について調査した成績を大略記載し皆様の御参考に供し度いと思う. 扨て原爆被爆者の皮膚毛細血管像について観察した成績は今迄に幾つか報告がある.即ち被爆後早期の検索では東大坂口内科,粥川,熊取,椿,尾山,京大真下,舟岡及び富田,横田の記載があり所謂後遺症期に於ける観察では吾々の成績のほか東大中泉津屋の報告がある,粥川等は原爆後81日目の被爆者について皮膚毛細管抵抗を検査しその中異状のある者13名に皮膚毛細管像の顕微鏡観察をなして6例に出血を認めたと云つており,真下,富田等は被爆1ヵ月後の15例について火傷部の皮膚毛細管像を観察し中央部では毛細血管の荒癈,周辺部では乳頭毛細血管の延長,その中間移行部では乳頭毛細血管の増加,口径拡大,延長異常屈曲,充盈度増強並に血流遅延を観たと云い火傷中央部及び周辺部は治癒過程を示し移行部は炎症が存在すると述べている.此の両者はいずれも特殊例についての早期の観察であるがその後の後遺症期に於てはどうであろうか.此れについては吾々の今迄の発表や津屋の報告でも明らかなように被爆後数年を経た者にも猶皮膚毛細管像の変化が多数に観られており,津屋は形態上からその変化を数型に分類して考察している.
著者
河邉 憲太郎 越智 麻里奈 松本 美希 近藤 静香 伊藤 瑠里子 芳野 歩美 妹尾 香苗 堀内 史枝 上野 修一
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.545-557, 2018-05-15

抄録 本研究は愛媛大学病院精神科外来において,成人期発達障害における発達障害の特徴を,診療パスの内容により検討することを目的とした。対象は2013〜16年に当院を初診し,発達障害の精査を希望した18歳以上の患者104名(男性57,女性47)である。診療パスは生育歴の聴取や主訴の問診票と,AQ-J,ASRS,CAARS,BDI-Ⅱ,SFS,SRSなどの質問紙とWAIS-Ⅲで構成されている。対象者のうちASD29例,ADHD18例,精神疾患に該当しない18例の3群を比較した。結果,ASD群はADHD群と比較して有意に男性,精神症状の主訴が多く,SFSが低値,WAIS-ⅢのVIQが高値であった。ADHD群は不注意の主訴,既婚者の割合,ASRSが有意に高かった。診療パスは精神症状や社会機能の把握に一定の有用性があった。本研究は予備的研究であり,診療パスにはさらなる検討が必要である。
著者
安田 利顕
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚泌尿器科 (ISSN:21886156)
巻号頁・発行日
vol.12, no.13, pp.1365-1371, 1958-12-20

高年者程皮膚は菲薄であり,弛緩いていて,シワが多くなつてくることは衆知の通りである。且つ皮膚は乾燥して,鱗屑が認められる。その上,色素沈着,紫斑,毛細血管拡張などの病変と共に,老人性疣贅(近年Seborrheic Keratosisなる名称もあげられている),老人性角化症,老人性血管腫などの形態学的変化を発生いてくる。これらの発生には,先天的素因,あるいは遺伝的関係が関与していることは勿論であるが,外因の環境的因子もまた重視しなければならない。Seeman'sskin,あるいはFarmer's skinとして知られている項部菱形皮膚は,一種の皮膚萎縮であるが,この適例である。 他方,皮膚老化の成因といて内分泌的因子を無視できないことは,下垂体機能低下による下垂体性侏儒症(Hypophyseal Dwarfism)竝にPro-geriaにおいて皮膚は乾燥し,弛緩いて,シワが多くなり,また多産婦に多くみられる下垂体前葉破壊に起因するシモンズ氏病(Simmond's dis-ease)の皮膚は蒼白で,乾燥し,光沢,緊張を失い,菲薄になつてシワの多い老人性皮膚所見と類似していることからも知られる。
著者
倉林 工 森川 香子
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.222-231, 2018-03-10

●ホルモン補充療法における黄体ホルモン投与の目的は,全身的なエストロゲン投与による子宮内膜がんや子宮内膜増殖症のリスクを増加させないことにある. ●黄体ホルモン投与中は浮腫,不安や抑うつなどが起こりやすく,エストロゲン単独に比べ乳がんや静脈血栓塞栓症の発症率が高くなる. ●子宮を有する女性には黄体ホルモン併用を原則とするが,乳がん発症を抑えるため近年ジドロゲステロンの使用が増加している.
著者
山鳥 重
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.540-546, 1994-08-10

I.本稿で扱う観念失行の定義 使用すべき道具の認知は保たれており,運動遂行能力にも異常がないのに,道具の操作に失敗する状態・使用のまずさ(運動拙劣症)によるのでなく,使用に際しての困惑,誤りによる障害(山鳥,1985)。 単一物品の操作でも複数物品を用いる複雑な操作でもみられるが,複数物品操作の方が出現しやすい。
著者
江崎 孝行 三宅 正美
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.19, no.9, pp.770-771, 1991-08-01

マイクロプレートハイプリダイゼーション(microplate hybridization)法は,2つの菌株間の遺伝学的類似度を測定するために開発された定量的DNA-DNAハイブリダイゼーション法であるが,この方法はDNAの標識にアイソトープを使わないため,一般の細菌検査室で菌種の同定に応用できる.同定に利用する場合は,図に示した手順で実験を行う.市販のキットを使う場合は,DNAを固定したプレートはすでに作製してあるのでこの操作は必要なくなる. まず,分離された菌株のDNAを抽出しフォトビオチンで標識する.同定したい菌株と類似した菌種のDNAが固定された96穴のプレートに標識DNAを分注し,ハイブリダイゼーションを行う.90分後,未反応の標識DNAを洗い流した後,streptavidin-conjugated enzymeを加え,ビチオンとストレプトアビジンを結合させる.洗浄後酵素の基質を加え,二本鎖になったDNA量を定量し,標識菌と基準株のDNAの相同性を算出し最も近い基準株を探す.菌液を作製してから同定まで約3時間しかかからず,細菌の迅速同定が可能になった1).以下この方法を解説する.

1 0 0 0 女性器

著者
伊藤 博之
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.29, no.11, pp.83-85, 1992-10-30

女性器に対する診察(内診)は,通常,婦人科診察台(いわゆる内診台)上で軽い砕石位にて行うが,その成否のカギは,いかにして患者の理解,協力が得られるかにかかっている.実際の診察にあたっては,ほとんどの患者は(特に初診時では)緊張状態にあるので,どうすれば羞恥心を和らげ,リラックスさせられるかを考える.具体的には内診の際に,さりげない会話,例えば患者の特技・趣味(スポーツや音楽など)について,ちょっと一言,話を交えるだけでも急に打ちとけ,スムーズに診察できることを何度も経験している.さらに,診察に際し,患者に少しでも不快な思いをさせないための配慮も必要である(表1). さらに,内診に必要な基本的な条件を一括して表2にあげる.