著者
三浦 岱栄
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.297-307, 1965-04-15

I.はじめに 私は上記表題のもとにたびたび講演をしたり,また記事として雑誌にのせたことがあるが,その大部分は通俗講演であり,または宗教雑誌においてであつて,本来精神医学のくわしいことを知らぬ大衆を相手としたものであつた。多少アカデミックな論文としては,「精神医学最近の進歩1)」に寄せたものがあるだけである。これも与えられた紙数に制限があつたため,この重要なテーマについての単なる形式的の輪廓を示すに終つたいたつて不満足のものであり,肉づけの豊かな論文を書くことは他日にのこされたのであつた。たまたま本紙の展望欄に本題について執筆することになつたのは私にとつて光栄であるとともに欣快とするところであり,今回は"少しはましなもの"が書けるのではないかと思う。 ひるがえつて考えるに,このテーマの取り扱いかたもいろいろのパースペクチーブから可能であり,そのすべてをここで取り扱うことはできない。展望欄での執筆という制約を考えれば,鳥瞰図(Rundschau)的な,多くの著者らの記述を紹介あるいは批判するのがほんとうかもしれない。これは大変な労を必要とするのであるが,筆者の"性"には合わないし,また多くの文献を渉りようするだけの時間もない。いいわけめくが,これではやはり百科全書的な知識を読者に提供するにとどまり,著者本来の見解がうすくなることはやむをえない。したがつてまた,この後者の点に重点をおく論文もあつてよいと思うのだが,それでは"展望欄の記事"にはふさわしくないかもしれない。そこで私はこの両者の中間をゆくことに決心したが,重点はどうも"著者のパーソナルな見解"を前方におし進めるという方向におかれることになりそうだということをあらかじめお断わりしておく。
著者
功刀 浩
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.641-646, 2016-06-01

うつ病は慢性ストレスを誘因として発症することが多いが,腸内細菌とストレス応答との間に双方向性の関連が示唆されている。動物実験によりプロバイオティクスがストレスに誘起されたうつ病様行動やそれに伴う脳内変化を緩和することが示唆されている。うつ病患者における腸内細菌に関するエビデンスはいまだに乏しいが,筆者らはうつ病患者において乳酸菌やビフィズス菌が減少している者が多いことを示唆する所見を得た。
著者
小川 健比子
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.30, no.11, pp.63-68, 1971-10-01

管内状況 通称茨城県医療連というのは,いわゆる厚生連と内容は同義である.ただし,‘協同病院’というのは茨城県独自のもので,水戸市に茨城県協同病院があって,県北農協の医療センターとなり,一方この新治協同病院が県南の基幹病院となっている.筑波学園都市25万の門戸として将来の発展を約束されている‘土浦’市に,名称を代替する案もあったが,‘新治’の市民や農民に対するイメージはきわめて強く,さたやみとなった. 設計中であった昭和43年6月現在の管内市町村人口および病院数および利川者調査の結果は,表1のとおりであるが,数量的に土浦市諸医療機関の中心的存在は決定的である.ただし土浦地区では,表2のように,新治協同病院が必ずしも中心的医療機関ではなく,他に国立霞ケ浦,東京医大霞ケ浦,東京医歯大付属霞ケ浦などの諸病院がある.それにもかかわらず,旧協同病院の位置が土浦駅の直前にあって,地域住民に親しまれていたが,特に病室などの老朽がはなはだしく,県南農民の基幹病院としての機の熟したのをみて,構想を新たにし,新敷地に一気に新築をみたものである.
著者
深町 建
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1361-1369, 1985-12-15

I.はじめに 摂食異常症患者の心理療法の困難さの第一の理由は,その言語的表現の貧困さであり,第二の理由は治療意欲の乏しさである。本症患者の入院を引き受け,定期的面接の中で,その乏しい発言や入院中の行動を手がかりに,やせるという自分の肉体のコントロールを通してしか自分をコントロールできないと感じているその根底には,Bruck1)のいう無力感が存在していること,およびその無力感のゆえに家族の者や医療スタッフに一方で依存しながら,他方その相手を自分の思い通りに支配しようとし,その矛盾した周囲とのかかわり方が,その身体症状や異常行動となって現われていることなどを,何とか気付かせようと試みてきた。しかしそれらはいずれも徒労に終り,その治療過程の中で浮きぼりにされたものは,患老の無力感ではなく,治療者の無力感にほかならなかった2)。 その後当時摂食異常症患者に対してすぐれた治療効果が報告されていた行動療法4)にヒントを得て,患者を入院後一定の行動制限下において心理面接を行ってみた。その結果本症患者では,全面受容的な治療状況よりは,制限された一定の治療的枠組みの中で,より豊かな感情的,言語的表出がなされることが明らかになった3)。その後2,3の修正を加え,現在〈行動制限療法〉と称し患者の治療を行っているが,以下この技法の紹介と,その技法を用いた2症例の具体的な治療経過を報告し,最後に患者のもつ"枠"の病理について考察を加えたい。
著者
森 幹士 本城 昌 茶野 徳宏 福田 眞輔
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.1155-1158, 1996-10-25

抄録:異常筋を伴った片側上肢肥大の症例を報告する.症例は20歳の女性である.単純X線,CT,MRI等の検索で,右手手指骨の肥大,示指の尺側偏位および右上肢,特に手部での筋肥大を認めた.示指尺側偏位,片側上肢肥大の特徴より,腫瘍性疾患,RA等の関節疾患,さらにdistal arthrogryposisも考えられたが,臨床所見より上記疾患は否定され,異常筋を伴う片側上肢肥大が疑われた.術中,異常筋の存在を認め,異常筋の切除,中手骨の骨切りを併用した示指尺側変位の矯正術を行った.本症例でみられた異常筋の一つ(短指伸筋)は,分化上の先祖帰り,atavistic muscleと考えられている.他の異常筋も同様に,系統発生学上の進化過程にある不安定な筋群より出現し,筋肥大や片側上肢肥大を起こしたものと考えた.
著者
掛川 渉 柚﨑 通介
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.7, pp.677-687, 2018-07-01

脳内の神経細胞をつなぐシナプスは,記憶・学習を支える重要な構造である。近年,シナプスは経験や環境に応じて絶えずその形態や機能を変化させることがわかってきた。中でも,運動系を制御する小脳は,一生涯を通じて観察されるダイナミックなシナプス改変を介して運動記憶・学習に寄与する。今日,デルタ受容体やC1qファミリー分子をはじめ,シナプス機能や記憶・学習に関わるさまざまな分子たちの挙動が明らかにされつつある。
著者
髙田 幸尚 白井 久美 岡田 由香 雑賀 司珠也
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.515-520, 2013-04-15

要約 目的:白内障手術を受けた網膜色素変性患者の術前の期待や術後の感想の調査報告。対象と方法:過去5年間に両眼に白内障手術が行われた網膜色素変性患者7例を対象とした。男性3例,女性4例で,年齢は39~71歳である。手術に至る経緯と動機,術後の視機能や感想につき,手術から平均2年後にアンケートで調査した。客観的な視機能は診療録などで調べた。視力はlogMARで評価した。結果:平均矯正視力は術前1.25±0.71,術後1.11±0.85であった。5例が眼科医に手術を勧められた。全例が術後の視機能の改善を期待し,5例で視機能が改善した。手術を後悔している症例はなかった。結論:網膜色素変性患者での白内障手術では,高い満足度が得られた。術前に詳細な説明をすることで,満足度がより高くなることが期待される。
著者
徳川 英樹 切通 洋 山本 修士
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.801-803, 2006-05-15

目的:網膜色素変性症患者に施行した白内障手術の結果と問題点の解析。症例:過去3年間に白内障手術を行った16眼22例を対象とした。年齢は40~82歳(平均61歳)で,ゴールドマン視野検査でⅠ-2イソプターに対する損失率は98%であった。視力は平均0.148であった。全例に水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズレンズ挿入術を行った。結果:手術3か月後の視力は平均0.426で,有意に改善した(p=0.0097)。手術前後で視野に有意な変化はなかった。結論:網膜色素変性症患者に対する白内障手術で視力が改善し,生活の質(QOL)が向上した。
著者
後藤 拓
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.752-757, 2016-09-10

「妊娠から出産,子育てまでの切れ目ない支援」が全国的に求められている現在,母子保健行政に期待される役割は大きい。母子保健行政の指標の1つとして乳児死亡率があり,厚生労働省の調査では,2013(平成25)年には出生千対2.1(1947[昭和22]年は同76.7)となっている。このような状況で,「母子保健が世界一の水準にあるのは,戦後の公衆衛生活動の成果であることは疑う余地がない」1)と言われている。 一方で,母子保健行政の課題は児童虐待,発達障害,思春期保健等の広範囲にわたっており,児童福祉部門や教育部門等の他の行政部門との連携も重要である。しかし,その取り組みにおいては「保健が『児童虐待は福祉の仕事であり,福祉主導の方針に受身的に役割を果たす』立場をとることでは済まなくなっている」2)とも言われている状況である。また,地方分権の流れとして,2013年の母子保健法の改正により,基礎自治体が母子保健行政の全面的な実施主体となっている。
著者
古嶋 正俊 今泉 雅資 中塚 和夫
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.835-838, 1994-05-15

若年性糖尿病患者の糖負荷試験で,調節麻痺眼にも近視化と眼圧降下が生じる。こうした屈折調節系の変化が高血糖に基づくものか否かを明らかにする目的で,調節麻痺剤点眼処置をした若年健常人5名に経口糖負荷を行い,血液生化学と屈折調節系の変化を調べた。糖負荷により,血糖値と血漿浸透圧が上昇し,眼圧の降下,屈折度の近視化,浅前房化,水晶体の肥厚が生じた。近視化の程度は,調節麻痺による残余調節力以上の変化を示した。負荷後の血糖値正常化に伴い,眼圧は正常化し,近視化も改善した。以上の結果から,高血糖に伴う近視化は,眼圧降下によって生じたチン小帯張力の減少が誘発した水晶体肥厚に基づくと推論された。遠視化は血糖正常化に伴う近視化の改善によると考えられた。
著者
川添 裕子 高原 真理子 望月 學
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.525-528, 2006-04-15

34歳男性が前日からの急激な近視化を主訴として受診した。裸眼視力は従来は左右とも1.5であったという。初診時には右眼に-3.5D,左眼に-3.0Dの近視があった。軽度の毛様充血と浅前房があったが,明らかな虹彩炎の所見はなかった。蛍光眼底造影で斑状の色素漏出,髄液に細胞増多があり,原田病と診断した。メチルプレドニゾロンによるパルス療法とプレドニゾロンの内服で多発性滲出性網膜剝離は軽快し,右眼+1.0D,左眼+0.5Dの遠視になった。この症例は,原田病が急性近視で初発する可能性があることを示している。
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.274, 2014-03-10

昭和35年に三島由紀夫が『近代能楽集』(新潮社)の一編として発表した『弱法師』は,俊徳という盲目の青年を主人公とする戯曲である.俊徳は5歳の時に空襲の炎で両眼を焼かれて失明し,実の両親とはぐれてしまったために,その後15年間他家で養育されたのだが,養父母は,俊徳のことを,「あの子は一種の狂人です」として,その奇妙な性格を次のように語っている.「あの子の性質には,私どもにどうにも理解できない妙なところ,固い殻のようなものがあるのです」,「あの子には感動というものがないのです.実の御両親が現われたときいても,あの子はまるで感動を示しもせず,ここへ来るあいだも至極つまらなそうな顔をしていました.そうかと思うと些細なことに,急に激して手に負えなくなったり……」. 養父母は,このように俊徳の不可解な性格を語り,それを聞いた実の親は,「すっかりひねくれて育ってしまった」と慨嘆するのだが,実は俊徳には,空襲時の光景がありありと蘇るというフラッシュ・バックを思わせる症状も記されている.
著者
松本 竹久 松田 和之 本田 孝行
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.1053-1058, 2010-10-01

新しい知見 リボソームRNA(ribosome RNA,rRNA)遺伝子は,塩基配列を基に生物の系統分類の指標として用いられる.細菌を対象とした場合,rRNA遺伝子配列がわかれば,インターネット上のデータベースを利用することで細菌検査の経験がなくても,容易に属レベルもしくは菌種レベルでの菌名の推定が可能である.なかでも16S rRNA遺伝子は,菌種の登録の際に遺伝子配列の登録が義務付けられており,各菌種の遺伝子配列データが豊富に存在するため,菌種の同定に利用される.形態学的検査と生化学的性状検査では菌種の同定が困難な場合に,16S rRNA遺伝子配列を用いた検査が実施されるようになり,今までに報告されてこなかった菌種による感染症が報告されるようになってきた.
著者
大森 哲郎 原田 勝二 日比 望 村田 忠良 山下 格
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.26, no.8, pp.883-885, 1984-08-15

I.はじめに アルコールに対する生体反応には個人差が大きく,小量の飲酒でも顔面の紅潮するflushingを来す人と,多量に飲酒してもその傾向を示さない人がいる。このようなアルコール感受性の差異は,アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)の個体差によるところが大きいことが指摘されている4)。 周知のようにアルコールは生体内で主にアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH)の作用によってアセトアルデヒドになり,次いでアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸へと代謝され,最終的には水と2酸化炭素に分解される。そのうち飲酒時の酩酊状態に関与するのはアルコールそのものとアセトアルデヒドであり,特にnushingや心悸亢進などの徴候は専ら後者の作用によることが知られている7)。またアセトアルデヒドの血中濃度を規定しているのは主としてALDHの活性である。このALDHには2つのisozymeがあり,日本人の約4割は,アセトァルデヒドと親和性の高いALDH-I(low km AL—DH isozyme, km=3μM)を遺伝的に欠いている。これを持たない個体ではALDH-II (high kmALDH isozyme, km=30μM)が代謝に与るが,ALDH-IIはアセトアルデヒドとの親和性が低いため,その濃度がある程度以上高くならないと効率よく作用しない。したがってALDH-Iを保有する個体に比べて飲酒時にアセトアルデヒドが血中に蓄積され,その直接的あるいはモノアミンなどを介する間接的な作用のために,flushingその他の中毒症状が発現すると考えられる6)。 われわれは臨床的にALDH-Iの表現型(活性の保有または欠損)を検討し,flushingとの相関を再確認するとともに,飲酒習慣およびアルコール症との関連について興味深い結果を得たので報告する。
著者
川口 務 河野 輝昭 風川 清 本間 輝章 金子 好郎 小泉 徹 堂坂 朗弘
出版者
医学書院
雑誌
Neurological Surgery 脳神経外科 (ISSN:03012603)
巻号頁・発行日
vol.25, no.11, pp.1033-1037, 1997-11-10

I.はじめに 頭蓋内解離性動脈瘤は,比較的稀な疾患と考えられてきたが,本邦を中心に報告は増加している.特徴の一つとして内頸動脈系では,非くも膜下出血例が多く,椎骨脳底動脈系ではくも膜下出血例が多い点があげられる9).今回,われわれはくも膜下出血と脳梗塞をほぼ同時に発症した解離性中大脳動脈瘤を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
著者
山村 隆 小野 紘彦 佐藤 和貴郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.35-40, 2018-01-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の生物学的病因を探索する近年の研究により,血液・脳脊髄液における種々のサイトカイン上昇,ME/CFS亜群と関連した自己抗体などの異常が明らかにされている。またB細胞を除去する抗CD20抗体(リツキシマブ)がME/CFSに有効であるという医師主導治験の報告もあり,自己免疫応答亢進などの免疫異常を背景とする中枢神経系炎症がME/CFSの本態である可能性が議論されている。
著者
阿部 隆明
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.447-449, 2014-05-15

はじめに コタール症候群は抗うつ薬や電気痙攣療法(ECT)の導入によって減少したと指摘されるが,最近では英語圏での関心の高まりを受けて,臨床報告や神経生物学的研究が相次いでいる。とはいえ,臨床的な文脈と無関係に,自分が死んでいるという妄想的信念を持つだけで,その診断がなされる傾向もある3)。これは,器官の否定,不死・巨大妄想,永罰・悪魔憑き(possession)妄想などの特徴をセットで指摘したCotardの原著からの大きな逸脱である。操作的な診断基準が存在しないので仕方ない面もあるが,筆者自身はCotardの意図を最大限尊重する立場である。ここでは原著に立ち返るとともに,その後の諸研究もまとめていくが,特に最近の文献は必ずしも古典的なコタール症候群を扱っているわけではないことを念頭に置いていただきたい。なお,本概念は日本でも繰り返し紹介されている8,9,11)ので,こちらも参照されたい。
著者
岡ノ谷 一夫 黒谷 亨
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.1223-1232, 2017-11-01

われわれは,計時行動に関わる新たなモデルを提案する。このモデルは,ラットの後部帯状回・脳梁膨大後部皮質(RSC)浅層の遅延発火性細胞の性質に基づき,単位時間を刻むクロックを必要としない。事象AのN秒後に事象Bが起き,それにより行動Cが起こるとする。行動・生理・解剖実験から,視床から入る知覚事象AがRSC浅層内の神経細胞のカスケード接続による遅延を受け,海馬で想起される事象BがRSC深層に入ること,RSCの神経細胞が試行時間に応じた周期を示すこと,RSCの損傷により計時行動が阻害されることを示した。浅層と深層の活動のANDを取りヘブ学習することで,行動Cが喚起されることを示すのが今後の課題である。