著者
中村 伸枝 石川 紀子 武田 淳子 兼松 百合子 内田 雅代
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は,2型糖尿病患者や肥満児を含めた小児とその親が,どのように自分の健康についての認識をもち,日常生活や健康管理行動を行っているのかを明らかにし,看護援助方法を検討することである。目的に添って2つの調査研究を行った。研究1(平成9年度):小児期発症の2型糖尿病患者および1型糖尿病患者を年齢・性をマッチさせた各20名を対象として療養行動,自尊感情,ソーシャルサポートについての自記式質問紙調査と,病気や療養行動の認識についての面接調査を行った。その結果,(1)2型糖尿病患者も1型糖尿病患者と同程度に病気の影響を受け止めていたが,1型糖尿病患者の方が,より肯定的に病気を受け止めていた。(2)外来受診,ストレス管理,禁煙,体重管理について1型糖尿病より2型糖尿病患者の方が大切であるという認識が少なかった。(3)セルフケアの動機づけは外来受診,体重増加,合併症発症により,高められていた。研究2(平成10年度):1485組の学童とその親に日常生活習慣と健康状態の実態と認識についての自記式質問紙調査を行った。その結果,(1)学童と親の日常生活習慣と肥満度には関連がみられた。(2)楽しく体を動かすことは,学童の心身両面を整えるうえで重要であった。(3)親は学童の身体面の問題はとらえやすいが,ストレスなどの心理面の問題はとらえにくい傾向がみられた。(4)学童の生活習慣が改善できない理由には,生活習慣の内容により特徴がみられた。(5)肥満度20%〜30%の軽度肥満の学童の親や,喘息など肥満以外の健康問題をもつ学童の親は,肥満を問題ととらえにくく,日常生活習慣の改善が必要であるとは考えにくいことが示唆された。本研究の成果をもとに,小学校で実施できる日常生活習慣改善プログラムを養護教諭とともに作成し,実施することを計画中である。
著者
今村 浩明 宮内 孝知 武笠 康雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. 第2部 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.37-56, 1982-12-20

行為体系理論の立場から設定された4種の価値,スポーツ体系構成要因間の投入産出の相互交換,及びR.ベネディクトの文化型にみられる日本的特性を手掛りにした調査の結果,わが国競技者(陸上競技,野球,剣道)の価値意識について次の事実が明らかになった。1.全体的な傾向についてみれば,スポーツ,チーム,試合,練習に関する価値については業績価値,献身価値が多く選ばれた。これは競技スポーツの特性とよく合致している。指導者の資質,年長者-年少者の関係についてみれば,献身価値,和合価値等の個別主義的価値への志向が多くみられたが,これはベラーの指摘する日本文化の伝統的特性と対応するものである。2.世代間の差についてみれば,スポーツ,チームに関してはOB,現役とも業績価値,献身価値という成就本位の価値に志向する者が多いが,OBは現役よりも和合価値を,現役はOBよりも充足価値を選ぶ者が多い。集団を構成する人間関係についてみれば,年長者-年少者という先天的属性のみにかかわる上下関係では双方とも和合価値を志向し,指導者-競技者という機能的上下関係に関してはOBは現役よりも厳しい献身価値を,現役はOBよりも暖かい和合価値や,自由な充足価値をより多く志向する。これはOB,現役が競技者としておかれた社会的文化的背景の差,また監督経験の有無の差によるものであろう。3.種目間の差についてみれば,陸上競技は合理的な業績価値を,野球はスポーツに対しては和合価値を,チームや連帯,指導者に関しては克服価値を他種目より多く選ぶ。これは個人の記録の客観比較である陸上競技と,監督による統制の強いチーム競技である野球との間のスポーツ文化としての特質の差によるものであろう。剣道は人間関係に関する項目では和合価値を選ぷ者が他の2種目より多いが,この点に限ってみれば個別主義性質本位という日本文化の特徴の一つと対応する。しかし,これ以外の項問では,和合価値以外の諸価値へと志向が分散しており,結果として価値の4類型間のバランスが最もよくとれたものとなっている。これに関しては,伝統的価値への反作用,抽象化と昇華による価値意識の意味拡大などの解釈が可能であろうが,これは今後の課題である。4.各種目の価値意識を世代間で比較すると,陸上競技が最もOB,現役間の差が少ない。これは陸上競技それ自体の客観的,合理的性格から,競技の型や競技のおかれる状況が世代をこえて比較的安定していることによるものであろう。野球では価値意識の世代間の差は,他の2種目と比較して最も大きい。これは野球の現代社会での急速な普及と,それにともなう大衆化,世俗化によるという解釈が可能であろう。剣道にもOBと現役間に若干の差がみられ,特に目立つのはチームの目標決定について,全員の希望の最大充足のために全員で決定することを(充足価値)を現役の大多数が望ましいとしていることである。5.スポーツ体系の構成要因である練習,試合,連帯,楽しさ間の投入産出の相互交換についてみれば,全体では練習-試合間の相互交換量が多く,練習と試合への他の要件からの投入が多かった。これは競技スポーツの特性からみて当然のことであろう。世代間の比較においては,OBでは連帯と練習への投入量が現役より多く,現役では試合と楽しさへの投入量がOBより多かった。これは連帯と練習の揚でのOBの「自己統制」と,試合やインフォーマルな楽しみの場での現役の「自己解放」「自己表現」という態度の差として理解できよう。種目別にみると,陸上競技は他の2種目に比較して試合と練習,特に練習への他要件からの投入量の比率が高く,連帯の比率が低い,また野球は他種目と比較して連帯の比率が高く,楽しさの比率が小さい。これは個人の運動能力の客観比較という陸上競技と,チームスポーツである野球との特質の差をよく表わしている。剣道は他の2種目と比較して,試合の比率が小さく,楽しさの比率が大きいということ,またそのことによって,4要件間の比率のバランスが最もよいものとなっている。これは先にみた4種の価値への志向のバランスのよさと対応している。以上の作業を通してスポーツに関する価値意識の分布様態と,スポーツ体系における投入産出のパタンとの間に蓋然的な対応関係があることが明らかになった。6.競技者の価値意識にみられる日本的特性を明らかにするため,ベネディクトの日本文化の型の特性をスポーツ場面に援用し調査したところ,OBが現役よりも多くの日本的価値意識をもつことが明らかとなった。種目別では陸上競技が最も日本的な型から遠く,剣道が最も日本的な価値意識の型に近いことが明らかとなった。この分析を通して,マクロな普遍文化とその下位体系としての特殊文化,任意文化であるスポーツとの対応関係,及びスポーツの場における文化,集団,個人の意識の3者を総合的に理解するための一つの手掛りを得ることができた。
著者
小室 一成 瀧原 圭子 松原 弘明 斉藤 能彦 室原 豊明 福田 恵一
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本研究の目標である心不全の病態解明と新たな治療法の確立について多角的に研究を推進できたと考えられる。特にマウスの心機能解析法(心臓カテーテル検査、心臓エコー検査)を確立させたことは、我が国全体における心機能解析技術の飛躍的な向上に寄与できだと思われる。また、本研究代表者や研究分担者らがこれまで世界的にもリードしてきた研究対象であるナトリウム利尿ペプチド、アンジオテンシンII、サイトカイン、三量体G蛋白質、などに着目し、これらの遺伝子改変マウスを作製し実験に用いることができた。心機能に関与する遺伝子をターゲットとした遺伝子改変マウスの解析をおこなうことで心不全の病態を分子レベルで解明した。さらにこれらのマウスに胸部大動脈の縮窄または冠動脈の結紮などの手術を施し、圧負荷心肥大モデル、心筋梗塞モデル、虚血再灌流モデルなどを作製した際の心不全の発症・進展に対する影響も検討した。得られた知見は心不全の発症機序のみならず、心筋細胞が正常機能を維持するための機序についても新しい概念を与えた。心不全発症の分子機序を明らかにすることで心不全の新たな治療基盤を打ち立てることができた。また、心筋細胞の分化・発生の機序に関する研究をおこない、心筋細胞の分化に必須の転写因子や成長因子などを同定した。複数の転写因子を同時に発現させることにより心筋細胞の分化が誘導されることを明らかにした。細胞治療に関する研究では幹細胞生物学と再生医学、心臓病学の領域において先駆的な業績をあげ、国内外における心筋細胞の再生研究に大きな進歩をもたらした。
著者
南野 徹 小室 一成
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

老化の研究は世界的にもまだ端緒についたばかりであり、その機序はほとんど解明されていない。通常ヒト正常体細胞の分裂回数は有限であり、ある一定期間増殖後、細胞老化とよばれる分裂停止状態となる。その寿命は培養細胞のドナーの年齢に相関すること、また、早老症候群患者より得られた細胞の寿命は有意に短いことも報告されている。そこで我々は、血管の老化研究を「細胞レベルの老化が個体老化の一部の形質、特に病的な形質を担う」という仮説に基づいて進めることにした。我々はこのアプローチによってこれまでテロメアシグナル(Mol Cell Biol.2001;21:3336-3342,Circulation.2002;105:1541)やAngiotensinII/Ras/ERKシグナル(Circulation.2003;108:2264,Circulation in press)、インスリン・Aktシグナル(EMBO J.2004;23:212)が細胞レベルの老化に重要であることを報告し、さらにこれらのシグナルが血管老化・動脈硬化の病態生理に深く関与していることを示唆してきた。本研究ではさらに高齢者に認められる日内リズムの障害に細胞老化シグナルが関与していることを調べるために、細胞レベルの老化が時計遺伝子の発現にどのような影響を及ぼすかについて検討した。初期経代の血管細胞に血清刺激を加えると、時計遺伝子の発現は24時間周期の変化を示すようになる。それに対して老化した細胞では、その振幅が明らかに低下していた。テロメレースの導入によって細胞老化を抑制すると、その障害は解除された。老化したマウスにおいても、末梢臓器の時計遺伝子発現は障害されていた。そこで生体内における細胞老化の関与を調べるために、若年マウスに老化した細胞を含んだマトリゲルを移植、あるいは逆に、初期経代細胞を老化マウスに移植して、時計遺伝子の発現を観察した。その結果、老化マウスに移植された初期経代細胞ではほぼ正常であったのに対し、若年マウスに移植された老化細胞では、著しく時計遺伝子の発現が障害されていた。この障害は、細胞老化を抑制する遺伝子を導入しておくことによって正常化したことから、細胞老化シグナルの制御によって個体老化に伴う時計遺伝子の発現を改善し、高齢者で認められる生理的な日内変動リズムを改善しうることを示唆すると考えられた。
著者
加藤 修
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

この研究では、地域活性化ワークショップを大学の授業として取り入れ、学生に継続的な活動環境を確保することで、主体的に思考する機会と実践経験量を増やすことができた。それにより彼らは自己理解と他者理解、技術能力の向上とともに高い問題意識を持つように変化した。さらに2年目からの商店街との恊働による実践的課題との対峙、多世代間との交流によって、多角的思考力を身につけた。大学と地域の連携のあり方についても、両者にとってリアルな知識・文化・情報の接触領域として、街なかの「スタジオ」を創設し、その運営を継続している。
著者
近藤 悟 平井 伸博 菅谷 純子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

リンゴ樹を供試し、光量条件が花芽形成に及ぼす影響を検討した。リンゴの花芽形成に関連する遺伝子として、幼若性に関連するMdTFL1および花形成に関連するMdFT1の発現について検討した。MdTFL1の発現は光量制限下で高くなった。この結果は、リンゴの花芽形成に及ぼす光量制限の影響はMdTFL1との関わりが強いことを示唆する。ブドウ樹を供試し、夜間における青色光あるいは赤色光LEDの照射が果実のアブシシン酸(ABA)代謝およびアントシアニン合成に及ぼす影響を検討した。夜間の赤色LED照射は内生ABA濃度に影響するが、必ずしもアントシアニン濃度とは一致しないこと、青色LED照射は内生ABAに及ぼす影響は大きくないものの、mybA1などアントシアニン合成に関連する遺伝子に影響することが示唆された。
著者
瀧口 正樹 松本 絵里子 松本 絵里子 岩瀬 克郎 大平 綾乃 有田 恵美子 平良 暁子
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

夜行性のマウスを通常食にて飼育すると,休眠絶食期である明期に,肝臓において,アミノ酸からグルコースを合成する糖新生系が活性化される。今回,高タンパク質食にてマウスを飼育すると,糖新生系酵素のmRNAレベルが,通常食に比べ活動摂食期の暗期を中心に,上昇することを明らかにした。また,コルチコステロンの血中レベルには著変が認められなかったのに対し,グルカゴンは高タンパク質食の摂食期に顕著な上昇を示し,食餌アミノ酸に応答した糖新生系酵素遺伝子の活性化を媒介する液性因子の候補と考えられた。
著者
兼岡 理恵
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の成果として、近世に本格的に始まった風土記研究について、播磨・出雲、それぞれの地域における写本伝播や研究活動の具体像を明らかにしたことがある。この研究成果を大学講義や市民講座において発表、活用するツールとしてGoogle Earthを活用した風土記デジタル地図を開発した。以上の業績が認められ、若手研究者を対象とする平成25年千葉大学先進科学賞を受賞した。さらにこれらの成果を『風土記の世界観(仮称)』として吉川弘文館より刊行予定である。
著者
松岡 延浩 今 久
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

超音波風速温度計から得られた気温が湿度の影響を受けることを利用して,超音波風速計と細線K熱電対温度計を用いた潜熱フラックスの簡単な評価方法を提案し,その実現を試みた。このシステムのコストダウンを図るためには,安価な高速サンプリングデータロガーの分解能に合わせて熱電対の出力を増幅するためのアンプ(熱電対アンプ)の開発が必要となった。このシステムを屋外に取り付け,応答特性,ノイズの分離,零点補償部分の精度の検討を行った。
著者
加藤 磨珠枝
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学人文研究 : 人文学部紀要 (ISSN:03862097)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.XCV-CXXIV, 2004-03-31

ローマに残る初期イコンのなかでも,とくに聖母子イコンを中心に考察を行い,そこから得られた知見に基づいて,今後筆者が取り組んでゆく西欧イコン研究の展望を示す。
著者
仙波 恒雄 萩原 弥四郎 中村 征一郎 吉川 武彦 大塚 明彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.277-283, 1969

われわれは,熱電効果による手掌皮膚血流の測定が精神生理学領城において,情動の指標として用いられる可能性を指摘した。今回は更に本法と指尖容積脈波とを比較し,かつ若干の測定条件に検討を加えた。1.情動負荷刺激により一過性の指尖容積脈波の振幅の減少,指尖容積の減少が,手掌皮膚血流の減少に伴っておこる。また指尖容積の変化は,皮膚血流の消長とほぼ平行する。しかしその特徴は,GSRと同じく指尖容積脈波はon-reactionの判定に便であり,皮膚血流はon-off-reactionを示すので3者をポリグラフ的に記録を行なうことが望ましい。2.四肢の挙上により,皮膚血流の減少,指尖脈波振幅の増大,指尖容積の減少がみられ,垂下により皮膚血流の初期減少,のち増大,指尖脈波振幅の減少,指尖容積の増大を示す。3.各情動負荷により,個人が惹起されるべき皮膚血流の変化は,テストに対する検者の不安,緊張などの構えや,反復による慣れにより影響をうけるので測定時考慮されるべきである。
著者
関 実 山田 真澄
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

マイクロ流体工学技術を駆使することで,複数種の細胞の位置を正確に制御しつつ,異方的なハイドロゲル材料に導入する技術開発を目指した。主に肝組織をターゲットとし,個別の単位材料を複合化することで,潅流培養可能な機能的組織を作製した。また同時に,細胞選抜技術,細胞外基質の加工技術などの周辺技術の開発を行い,3次元生体組織構築における基盤技術の確立を目指して研究開発を行った。
著者
小林 進 落合 武徳 堀 誠司 宮内 英聡 清水 孝徳 千葉 聡 鈴木 孝雄 軍司 祥雄 島田 英昭 岡住 慎一 趙 明浩 大塚 恭寛 吉田 英生 大沼 直躬 金澤 正樹 山本 重則 小川 真司 河野 陽一 織田 成人 平澤 博之 一瀬 正治 江原 正明 横須賀 收 松谷 正一 丸山 紀史 税所 宏光 篠塚 典弘 西野 卓 野村 文夫 石倉 浩 宮崎 勝 田中 紘一
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.265-276, 2004-12-01

千葉大学医学部附属病院において2000年3月から,2003年8月まで8例の生体部分肝移植手術を施行した。5例が18歳未満(7ヶ月,4歳,12歳,13歳,17歳)の小児例,3側が18歳以上(22歳,55歳,59歳)の成人例であった。2例(7ヶ月,4歳)の小児例は左外側区域グラフトであるが,他の6例はすべて右葉グラフトであった。2側が肝不全,肺炎のため移植後3ヶ月,2ヶ月で死亡となったが他の6例は健存中であり,元気に社会生活を送っている。第1例目は2000年3月6日に実施した13歳男児のウイルソン病性肝不全症例に対する(ドナー;姉22歳,右葉グラフト)生体部分肝移植である。現在,肝移植後4年3ヶ月が経過したが,肝機能,銅代謝は正常化し,神経症状も全く見られていない。第2例目は2000年11月23日に実施した12歳男児の亜急性型劇症肝炎症例である(ドナー;母親42歳,右葉グラフト)。術前,肝性昏睡度Vとなり,痛覚反応も消失するほどの昏睡状態であったが,術後3日でほぼ完全に意識は回復し,神経学的後遺症をまったく残さず退院となった。現在,術後3年7ヶ月年が経過したがプログラフ(タクロリムス)のみで拒絶反応は全く見られず,元気に高校生生活を送っている。第3側目は2001年7月2日に実施した生後7ヶ月男児の先天性胆道閉鎖症術後症例である。母親(30歳)からの左外側区域グラフトを用いた生体部分肝移植であったが,術後,出血,腹膜炎により,2回の開腹術,B3胆管閉塞のためPTCD,さらに急性拒絶反応も併発し,肝機能の改善が見られず,術後管理に難渋したが,術後1ヶ月ごろより,徐々にビリルビンも下降し始め,病態も落ち着いた。術後6ヵ月目に人工肛門閉鎖,腸管空腸吻合を行い,現在,2年11ケ月が経過し,免疫抑制剤なしで拒絶反応は見られず,すっかり元気になり,精神的身体的成長障害も見られていない。第4例目は2001年11月5日に行った22歳男性の先天性胆道閉鎖症術後症例である(ドナー:母親62歳,右葉グラフト)。術後10日目ごろから,38.5度前後の熱発が続き,白血球数は22.700/mm^3と上昇し,さらに腹腔内出血が見られ,開腹手術を行った。しかし,その後敗血症症状が出現し,さらに移植肝の梗塞巣が現れ,徐々に肝不全へと進行し,第85病日死亡となった。第5例目は2002年1月28日に行った4歳女児のオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症症例である(ドナー;父親35歳,左外側区域グラフト)。肝移植前は高アンモニア血症のため32回の入院を要したが,肝移植後,血中アンモニア値は正常化し,卵,プリンなどの経口摂取が可能となり,QOLの劇的な改善が見られた。現在2年5ヶ月が経過したが,今年(2004年)小学校に入学し元気に通学している。第6例目は2002年7月30日に行った17歳女性の亜急性型劇症肝炎(自己免疫性肝炎)症例である(ドナー:母親44歳,右葉グラフト)。意識は第2病日までにほぼ回復し,第4病日まで順調な経過をたどっていた。しかし,第6病日突然,超音波ドップラー検査で門脈血流の消失が見られた。同日のCTAPにて,グラフトは前区域を中心とした広範囲の門派血流不全域が示された。その後,肝の梗塞巣は前区域の肝表面領域に限局し,肝機能の回復が見られたが,多剤耐性菌による重症肺炎を併発し,第49病日死亡となった。第7例目は2003年3月17日に行った59歳男性の肝癌合併肝硬変症例(HCV陽性)症例である(ドナー:三男26歳,右葉グラフト)。Child-Pugh Cであり,S8に4個,S5に1個,計5個の小肝細胞癌を認めた。ドナー肝右葉は中肝静脈による広い環流域をもっていたため,中肝静脈付きの右葉グラフトとなった。術後は非常に順調な経過をたどり,インターフェロン投与によりC型肝炎ウイルスのコントロールを行い,移植後1年3ヶ月を経過したが,肝癌の再発も見られず順調な経過をとっている。第8例目は2003年8月11日に行った55歳男性の肝癌合併肝硬変症例(HBV陽性)症例である(ドナー;妻50歳,右葉グラフト)。Child-Pugh Cであり,S2に1個,S3に1個,計2個の小肝細胞癌を認めた。グラフト肝は470gであり過小グラフト状態となることが懸念されたため,門脈一下大静脈シヤントを作成した。術後はHBV Immunoglobulin,ラミブジン投与により,B型肝炎ウイルスは陰性化し,順調に肝機能は改善し合併症もなく退院となった。現在移植後10ヶ月が経過したが,肝癌の再発も見られず順調な経過をとっている。ドナー8例全員において,血液及び血液製剤は一切使用せず,術後トラブルもなく,20日以内に退院となっている。また肝切除後の後遺症も見られていない。
著者
塚越 覚 池上 文雄
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

培養液濃度がミシマサイコの生育,養分吸収特性,サイコサポニン含量などに及ぼす影響を調査し,ミシマサイコに好適な培養液濃度,組成を明らかにした.また,種子発芽に好適な条件についても検討した.ミシマサイコの養液栽培における好適な培養液濃度はEC1.2~2.4dS/mと考えられた.さらに植物体中の無機成分含有比から推定した培養液の無機成分組成は,N:P:K:Ca:Mg=7:26:8:1.5:2(me/L)であった.また,ミシマサイコ種子の発芽促進には,1.5μg以上の種子重選別が有効であり,発芽の適温は22℃前後と考えられた.
著者
萩原 弥四郎 戸井 道夫 伯野 中彦 石原 真 伊藤 賢章 浦野 俊雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.384-397, 1965-11-28

Surface circulation of the body in cats and human materials was measured by a thermoelectric element. The element type is unique in that it uses a thermopile instead of a double thermocouple. The skin blood flow at the capillary level was measured with this element, uninterfered with the muscle blood flow and arteriovenous shunt in the precapillary region. 1) The blood flow of skin, in the resting stage, shows a slight undulation which is mostly independent of systemic blood pressure change. However, in some cases, the skin blood flow decreases when systemic blood pressure markedly falls. 2) The skin blood flow decreases after local intra-arterial injection or intravenous administration of epinephrine and norepinephrine. The blood flow decreasing action of epinephrine is diminished with pretreatment of phentolamine (regitine) and enhanced with dichloroisoproterenol (DCI). The action of norepinephrine is blocked with phentolamine but not influenced by DCI. 3) Constriction of blood vessels in the skin is probably due to adrenergic (α-type) control, while dilatation seemed only slightly adrenergic (β-type) and parasympathetic influenced, some secondary effects such as metabolic factors being possibly concerned. 4) In some experiments on the- human being, mental work immediately decreases the skin blood flow in many cases. 5) The following points were discussed in the present paper : merits and demerits of this method, factors which influence the blood flow change, method of setting the element on the skin, standard to calculate the blood flow value, influence of clamping the inflow vessel, mechanism of constriction and dilation of skin blood vessel, psychic influence on the skin blood flow and application of this method in clinical use.
著者
三宅 明正
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1 研究経過平成6年度には、いずゞ自動車株式会社、東京急行株式会社、神奈川県立公文書館、横浜市史編集室、東京大学社会科学研究所、同志社大学人文科学研究所を調査し、神奈川県地域を主な対象として、戦時・戦後の労働組織に関する史料を調査、収集した。また、労働関係図書を購入し、これを併せて参照しつつ、収集した史料を分類して整理した。新たに得られた知見としては、(1)いくつかの工場には、戦時・戦後の労働組織について、学界でなお末利用の史料があるということ、(2)戦時、戦後初期(労働組合結成期)、企業再建整備時(占領後期)の3つの時期について、労働組織のありかたには共通する側面が強いということの、2点である。後者について、やや詳しく述べると、表面的なイデオロギーとは別に、労働組織の編成原理(工員と職員を包含しようとする点、従業員を生産を行なう主体として位置付けしようとする点)に一貫性がうかがわれるということである。2 研究の評価当初に計画した研究目的、計画方法との関連では、史料の存在状況から、調査対象を一部変更した点を除いて、ほぼ予定通りに遂行された。また、当該テーマの少し後の時期の労働者組織に関連する論文もまとめることができた。