著者
荒野 泰 上原 知也 遠藤 啓吾
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

3'-Iodohippuryl-N^ε-maleoyl-L-lysine (HML)で標識した抗体Fabフラグメントは腎臓の刷子縁膜酵素の作用で,ヨード馬尿酸を遊離して,腎臓での放射活性を投与早期から低減する.本薬剤設計を細胞滞留性の官能基を有するヨード化合物あるいは放射性金属核種へと展開するため,グリシルリジン以外の配列のペプチド結合について刷子縁膜小胞を用いて検討を行った.その結果,リジンをアスパラギン酸,チロシン,フェニルアラニンに変換したペプチド配列は,速やかに馬尿酸を遊離した.とりわけ,チロシンおよびフェニルアラニンが速やかな遊離を示したことから,タンパク質への結合部位の導入の可能なチロシンについてさらに検討を行った.その結果,グリシルチロシン配列は,シラスタチンにより大きく阻害を受けることから,腎刷子縁膜に存在する金属酵素のなかでもヒトにおいてもその高い発現が知られているジペプチーダーゼによる開裂を強く受けることが明らかとなった.次いで,チロシンのフェノール性水酸基にタンパク質との結合部位を導入した化合物を合成し,放射性ヨウ素標識後に抗体Fabフラグメントとの結合した.本標識抗体は,血液中でも安定に存在し,グリシルチロシン配列は,血液中で安定な構造を維持することが確認された.さらに,実験動物に投与したところ,投与早期から,腎臓への放射活性の集積を大きく低減した.本研究成果は,刷子縁膜酵素を利用した標識薬剤の開発において,ヨード馬尿酸以外の標識化合物を遊離する標識薬剤の設計の多様性を示すことを示すものであり,本薬剤設計のさらなる応用への可能性を強く示すと考えている.
著者
中澤 秀雄
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

研究代表者は平成12年度から13年度にかけて、「リスク社会における情報空間と社会的亀裂に関する比較都市研究」というタイトルで科学研究費を受けているが(課題番号13710119)、平成15年度から開始された本課題はその継続という性格を持っており、本年度が最終年度となる。本課題による成果は3点に要約できる。第1に新潟県巻町・柏崎市を対象とした地域社会研究が終了したことである。毎年1回の現地調査によって継続的に情勢をフォローしてきたが、平成15年度末に巻町民を対象としたサーベイ調査を実施した。これらのデータをもとに、地域情報空間の配置に関する比較研究の成果として、『住民投票とローカルレジーム』(ハーベスト社)を世に問うた(2005年11月)。これが最終年度にふさわしい成果としてまず挙げられる。第2に、メディア・社会情報研究と地域社会学を結びつけ、情報空間の地域間格差に関して理論的彫琢を行い、その成果を『講座地域社会学』(東信堂,2006年1月刊行予定)および『越境する都市とガバナンス』(法政大学出版局,2006年1月刊行予定)に執筆した論文に盛り込んだ。第3に、当初構想していた研究課題からさらに進んで、北海道野幌におけるまちづくり活動を暫定的に総括する論文(中澤・大國 2005)やサステナブル都市論を日本に適用する論文(中澤 2004)、地域間比較の視点のもとに持続可能な地域自治を探求する仕事(中澤 2005)も積み重ねてきた。この3年間において発表した著書・論文は(共著を含め)合計13編にのぼり、与えられた研究費に比して十分効果的に、研究課題の目的を達成したと考えている。以上の成果から明確化してきた今後の方向性は2つある。A.東京圏内、あるいは東京圏と非東京圏の亀裂の状況を、より総合的に明らかにすること。B.その亀裂状況をこえて、持続可能な自治のモデル(ビジネスモデルならぬガバナンスモデル)を探求していくこと。とくに後背地としての農村をプロデュースしながら存立基盤を作っていけるような都市のあり方を理論化し、同時に説得的な具体例を構築していくこと、である。
著者
高橋 信良
出版者
千葉大学
雑誌
言語文化論叢
巻号頁・発行日
vol.5, pp.A43-A74, 1999-03-31
著者
津村 紀子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1998年7月27日から9月15日まで北海道日高衝突帯で地震の臨時観測を行いデータを収集した.観測点は衝突域の先端部と考えられる日高主衝上断層付近から北東方向に3〜5kmの間隔で6点配置した.いずれも商用電源のない地域であるため,バッテリで駆動するレコーダで波形データをDATに連続収録した.刻時にはGPSを利用した.また,地震計の設置・保守時に同地点の岩石について簡単な記載も行った.得られたデータはDATからパーソナルコンピュータ(PC)のハードディスク上に再生した.データ再生用の装置には当初自作のPCを用いる予定だったが,既存のPCを改造する方が費用が削減されることがわかったため,そちらを採用した.この観測期間中北海道大学の微小地震観測網により震源決定された地震は1205個である.この震源データをもとに収録された連続波形データから地震波形データを切り出した.データの再生,切り出しの結果,観測網中央部分の1観測点は機器の不良によりデータが収録できなかったことが判明した.しかし他の観測点では概ね良好な記録が得られている.まず,観測網直下で起こった地震11個について解析を行った.まだ,解析は途中であるが,少なくても1観測点では東西と南北の水平動地震計でS波の着信に差がみられる傾向があることがわかった.今後この差を定量的に評価するため,波形の相互相関を取って調べる予定である.得られた11個の地震はいずれも震源が35〜50km前後で深さ方向への広がりに欠けている.しかし,観測期間中に日本の近傍だけでも数個のM5〜6クラスの深発地震が発生している.これらの地震のScS波を用いることにより浅い部分と深6部分の異方性を分離できる可能性がある.
著者
戸井田 宏美
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

湿潤な日本において,現在の細霧冷房法は細霧噴霧速度や噴霧時間は気象条件などによらず一定であり,日射強度や換気速度を考慮して可変とする制御法の検討が十分でないために,温室内気温の不均一化,高相対湿度,蒸発しきれなかった水滴の植物表面への付着による病害発生などの問題がある.本年度は,比較的小規模の実験用植物生産施設において,上記の問題を解決することを目的として(1)細霧発生方法の改良および(2)細霧発生量制御方法の改良について,短期的な効果の検証を行った.(1)日射のない室内において細霧ノズルに直径10cmの送風装置を取り付けて強制通風した場合の細霧蒸発率は,従来の送風装置のない場合に比べて1.6倍の95%となり,ノズル直下の気温水平分布もより均一となった.送風装置の効果により発生させた細霧のほとんどが蒸発するために,植物に未蒸発細霧が付着して病害が発生する危険を回避でき,細霧冷房システムを連続運転できることが示された.(2)従来,細霧冷房システムは未蒸発細霧を蒸発させるためにタイマー制御による断続噴霧を行うが,これにより気温および相対湿度の急激な変動が起こる.また,噴霧速度および噴霧時間は気象条件などによらず一定であった.(1)の細霧冷房システムを小型植物生産施設内に設置し連続運転を行った結果,未蒸発細霧の植物表面への付着は見られず,施設内気温を外気温より常に低く維持でき,かつ,気温および相対湿度の変動を減少させることができた.さらに,噴霧速度を可変とすることにより気温低下幅も可変となったため,連続運転制御法を確立するための基礎知見を得ることができた.植物生産施設内気温の測定には,通常,通風乾湿球計を用いるが,細霧冷房システム運転中には未蒸発細霧がセンサー部に付着して,実際の気温よりも低い数値を計測してしまう問題があることが本研究中に明らかとなった.そのため,細霧冷房システム運転中の正確な気温の測定法についても検討を行い,新たな測定法を提案した.
著者
伊藤 谷生 宮内 崇裕 金川 久一 伊勢崎 修弘 佐藤 比呂志 岩崎 貴哉 佐藤 利典
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は本研究の最終年度であるため、2000年9月に行われた日高超深部地震探査結果の解析を行い、日高衝突帯の超深部構造を明らかにする糸口を見つけだすことが中心的課題であった。このため、年度の前半は、探査結果解析のための前処理を千葉大学所有の反射法処理システムを用いて行い、後半は、新たに導入した汎用地震探査処理システムSuper XCを用いて解析作業を進めた。また、この作業と平行して、測線周辺の地質調査を行った。これらを通じて明らかになったことは以下の点に要約される。1)日高主衝上断層(HMT)は低角であり、しかも地下2km程度でほとんど水平になる。これは、変成岩類主帯の構造から推定されてきたことと調和的である。2)TWT14秒付近に顕著な反射面群として把握されているものは、自然地震の震源分布との対応関係から太平洋プレート上面と推定される。3)デラミネートした千島下部地殻下半分のイメージは現在までの処理過程では把握されていない。その理由としては、高角なためイメージングできない、破砕されているため地震波が散乱し反射面を形成できない、エクロジャイト化して上部マントルと区別できない、の3つが考えられるが、1つを特定できない。4)東北日本側のウェッジにも顕著な反射面が認められ、当初考えられていた単純なデラミネーションーウェッジモデルよりも複雑な"刺しちがえ"構造の存在が碓定される。5)イドンナッブ帯中の冬島変成岩類の西縁断層は衝上断層である。6)日高超深部地震探査と平行して行われた遠地自然地震のレシーバ関数解析についての予察的研究によれば、4)に対応するインターフェースの存在が確認される。これまでの解析は最もベーシックな段階であるにもかかわらず、日高衝突帯超深部構造解明の糸口を与えるものである。今後の木格的な処理作業によって、解明へ大きく前進するであろう。
著者
千坂 武志 山崎 良雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. 第2部 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.161-184, 1973-08-31

房総南部には鴨川地溝帯,北条地溝帯(館山と千倉間)など断層による凹地形が発達している。館山市,加賀名部落付近は三方が断層によって囲まれた盆地状の地形をなしている,地上調査とともに電気探査法によって地質構造と地下水の賦存状態を研究した結果について報告する。1.地層の分布と地質構造 西岬累層(中新世)-主にシルトからなり本地域の周辺に分布し,丘陵地をなしている。背斜軸は北西から南東の方向にはしっている。鏡ヶ浦層(鮮新世)-おもに凝灰質粗粒砂岩からなり,平野部に分布している。一般的な走向,傾斜はNW-SE,20〜30°NEの単斜構造をなしている。地層の垂直の厚さは北部および東部で50m以上になっている。沖積層-おもに中粒から粗粒の未固結の砂からなり,平野部に広がっている。平野部を流れる2本の河の周辺で数メートル以上の厚さになっている。2.比抵抗値からみた各層の特徴 西岬累層-30(Ω-m)以下の非常に低い値でシルト質の岩相を示している。鏡ヶ浦層-30から185(Ω-m)で,本地域の鐘ヶ浦層の分布している地域の西端で低い値を示す。沖積層-16〜500(Ω-m)で,平野部の中央及び海岸地域で比較的高い値を示す。3.地下水の賦存状態 西岬累層-主に固結したシルトから成る不透水層で,本地域での水理地質学的基盤岩となっている。鏡ヶ浦層-主にやや固結した凝灰質粗粒砂岩から成る透水層で,採水可能の水を多くもっている。本地域内の深井戸はこの水を利用している。平野部の北及び東側でより多く採水できる可能性が大きい。沖積層-主に未固結の砂からなる透水層で自由地下水を含む。本地域内の浅井戸はほとんどこの水を利用している。平野部を流れる2本の川の周辺に多く自由地下水が含まれる可能性が大きい。
著者
大槻 一雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.191-199, 1971

5'-Nは筋アデニール酸から燐酸を分解する酵素で,一般のAIPと別の特異性が認められている。私は子宮の良性変化,および癌について本酵素の組織化学的検索を行なった。子宮の手術摘出,および試験切除組織615例についてドライアイス・アセトン混合液を含むビーカー外壁で凍結し,-20℃のクリオスタット内で,厚さ10〜15μの切片を作成し,Mc Manus-Lupton et Harden 法により染色した。1)5'-N活性は,上皮細胞にはほとんど陰性であるが,上皮下組織には陽性で,正常扁平上皮下組織に比べ,腺糜爛および各種変化上皮下組織では活性の高進がみられる。2)癌実質細胞の本酵素活性は,一部の角化部と壊死部を除き陰性を示し,壊死部に見られる比較的強い本酵素活性は,遊走細胞(主として白血球)の浸潤と関係があると考えられる。3)癌間質における本酵素活性は,癌実質細胞の未熟,成熟とはほとんど関係がなく,癌浸潤度と関係があることが認められた。α型およびβ型の一部では活性の強いものが多く,γ型では著明に活性が低下していた。4)性周期に伴う子宮内膜の本酵素活性は,排卵期前後に腺上皮において活性の高進がみられる。また,間質は増殖期に活性が強く,分泌期に活性が低下する。5)5'-N,A1P,ATPアーゼの三者を比較すると,その陽性部位にかなりの差異が認められる。
著者
酒井 郁子 吉本 照子 杉田 由加里 山下 朱美 平井 愛山
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学看護学部紀要 (ISSN:03877272)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.53-59, 2003-03

体動測定機器を用いて,病院に入院している高齢者の睡眠および看護師の観察の実態を把握し,体動測定機器(リストケア)を使用した睡眠に関する観察支援方法を検討する目的で研究を行った.2事例の分析から病院に入院している高齢者の睡眠障害には「入眠困難」,「睡眠中断」,「覚醒の持続」という睡眠の障害が見いだされた.また「覚醒の持続」では,患者の言動は混乱状態であった.覚醒の持続のきっかけとなった要因として,過剌激による入眠困難,睡眠中断があることで睡眠時間の確保が困難であったこと,および身体拘束による心理的なストレスが加わったことが考えられた.また看護師が行うことは難しい継続的な睡眠状態をモニタリングでき,患者・看護師双方に負担の少ない生体計測システムを実践に活用することで,高齢者の睡眠状態に応じたケアを提供したり,混乱状態を予防するケアを開発することが可能になると考えられた.
著者
崔 昌玉
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学ユーラシア言語文化論集
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-28, 2002-03-20

本稿の目的は,レニングラード学派の提示するdiathesisの理論を現代朝鮮語におけるヴォイスに適用し,そこから得られた結果を記述することである.
著者
佐藤 匡司
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.907-911, 1959-07

生体内の燐酸エステルの有する代謝上の意義は甚だ大きいが, phosphorylaseによる無機燐酸からのエステル形成は別として燐酸化合物からの燐酸転位はKinase作用によりnucleotide等の高エネルギー燐酸化合物から行われることは周知のことである。所がp-nitrophenyl燐酸が酸性phosphomonoesteraseにより水解される時グリセリン,アルコールのようなOHイヒ合物が共存すると,それ等の燐酸エステルが形成されることがAxelrodやAppleyardにより初めて報告された。また他方アルカリ性酵素でもMeyerhof及びGreenは高エネルギ一燐酸化合物を供与体として用いた際に行われる燐酸転位量は供与体のエネルギー荒に比例することを報告したが, Axelrod, Oesper, Mortonの酸性酵素及びアルカリ酵素を用いての成績によると,そのよぅな比例関係は必ずしも成立しないことを,これと前後して西堀は燐酸転位が諸型monoesteraseによりても行われることを認め,その転位機序を論している。p-nitrophenyl燐酸ethylesterがdiesteraseによりp-nitrophenolとethyl燐酸とに水解されるときもOHイヒ合物が共存するときにはそのOH化合物とethyl燐酸との結合せるdiesterが形成される。これ等の現象はp-nitrophenyl燐酸またはそれのethylesterが酵素に対し強い親和性を有し,また水解され易いに比し酵素表面における転位反応により形成される新モノエステルまたジエステルよりは酵素に対する親和性と被水解とにおいて劣ることによると説明された。したがつて燐酸転位が行われるには,まず燐酸の活性化を要すると考えられるので,私はphosphosalicyl酸を燐酸供与体として共存OH化合物の燐酸エステル化を試験した。この化合物を供使したのは,その等moleのsalicyl酸と燐酸とを生ずる自家水解がpH 5.6にて極大でありこのpH 5.6における自家水解はCu^<++>により促進され,他方自家水解を被り難いpH 2の水溶液中にてFe^<++>が顕著なる水解促進を示すとの前報告の所見にもとずき,これらの水解反応において遊離する燐酸が新たなエステルを形成するか,すなわち燐酸転位が行われるかを験し,これと酵素的に営まるべきphosphosalicyl酸からの燐酸転位とを比較した。
著者
北原 次郎太
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学ユーラシア言語文化論集
巻号頁・発行日
vol.5, pp.72-96, 2002-03-20