著者
家高 洋
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ドイツの哲学者ガダマーは、理解を「問いと答えの弁証法」とみなした。ガダマーの考察に基づいて、本研究は、まず理解における言語の役割(媒体としての言語)を明らかにした。それから、理解を、言語に基づいた「問いと答えの弁証法」と考えることによって、(看護研究等の)質的な研究の前提と主題が、言語性と意味であることを示した。さらに、哲学カフェという「問いと答えの弁証法」の実践において、この弁証法の具体的なあり方を調査した。
著者
保田 和則
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

微小流路内における流れによって誘起される高分子流体の内部構造変化について調べた。この測定のために独自の光学系を構成し,微小流路内において100μmステップの高い空間分解能で複屈折を測定することができた。また,速度分布も測定した。複屈折は流動による内部構造の変化と密接に結びついているので,複屈折分布と速度分布を知ることで,流動による構造変化を定量的に知ることができた。流れ場として微小円柱まわりの流れと急縮小流れとを取り上げた。その結果,円柱上流部の減速流れ場では円柱に近づくにつれて高分子の分子配向が流れと直交する方向に向くことで,いったん配向の程度が低下するが,円柱のすぐ上流部で高い配向度を示した。それに対し,下流部の伸長流れ場では下流に流れるにつれ配向度が急激に上昇し,内部構造の変化が伸長流れ場に大きく影響されることが明らかとなった。微小領域において光学的測定により流動誘起構造の変化を明らかにしたことはたいへん重要である。次に,ナノスケールの微細繊維からなるバクテリアセルロース(以下ではBCと称す)を分散させた流体の流路内流れについて検討した。4:1の急縮小部を有する矩形断面の流路内における流れを可視化し速度分布を計測した。急縮小部から十分に上流にある位置では,グリセリンは放物線状の速度分布を示すが,BC流体では中央部が平らになったプラグフローに近い速度分布となった。またBCの濃度が上昇すると,さらに台形に近い速度分布となった。また,急縮小部でも同様の傾向が見られた。急縮小部の上流角部に生じる循環二次流れの流れ方向の大きさを調べた。その結果,BC流体ではグリセリンよりも大きな渦となり,またBCの濃度が上昇するとともに渦も大きくなった。これはBC流体の伸長粘度特性に起因する現象であると考えられる。この研究ではナノファイバー分散流体の流動を初めて明らかにした点で重要な結果を得た。
著者
近藤 雅臣 今川 正良 田窪 芳博 西原 力
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究ではBacillus megaterium芽胞殻外層の主成分, ガラクトサミンー6-リン酸(GalN-6-P)多糖と蛋白質について, 外層の形態形成過程での生合成・沈着の両面から検討した. 多糖生合成に関与する酵素, UDP-GlcNAc-4-epimerase(GEP)の合成時期を, 免疫学的方法により調べたところ, T6付近よりその合成が始まりT10でほぼ一定になることが分かった. 芽胞形成後期の中間代謝物の一つがFAB-MSスペクトル, 13C-NMPスペクトルよりUDP-GalNと同定された. 脱アセチル化酵素UDP-GalNAc-deacetylase(GDA)活性はGEPの活性発現時期より2時間遅れてT8より現れた. 外層に存在する48K, 36K, および22K daltonsの蛋白質(P48,P36,P22)のうち, P48とP36は主にイオン結合により, P22は強い疎水結合により芽胞上に沈着していると考えられる. また芽胞表層蛋白質の特異抗体を用いて芽胞表層蛋白について調べたとこたろP36が最表層にあることが, 一方P48はプロテアーゼに対する挙動から外層内部に存在すると考えられた. これらの蛋白質を欠損している外層欠損変異株MAEO5株の解析より, この株は母細胞原形質中ではP48のみが生合成されておらずP36, P22は生合成されていること, P36およびP22は前駆芽胞上には沈着しているが, 母細胞の溶解に伴って前駆芽胞上より消失することが明らかとなった. 蛋白質を消失させる因子は, 培養液の上清に認められ, プロテアーゼ様酵素と考えられる. 従ってP36, P22の前駆芽胞上への沈着にP48およびGalN-6-P糖鎖は必要ではなく, 前駆芽胞上の蛋白質の保持にGalN-6-P糖鎖が関与していることが推察された.トランスポゾンの挿入変異により得られた外層欠損変異株の解析結果より, P48遺伝子の発現とGEP, GDA両活性の発現は同一の制御を受けているものと考えられた.
著者
川合 知二 金井 真樹 田畑 仁 松本 卓也 SZABO Gabor LIBER Charle LIEBER Charl
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

レーザーアブレーション法は、誘電体、超伝導体など様々な種類の無機積層薄膜が形成でき、有力な機能性無機材料作成法である。レーザーアブレーション法をさらに発展させ、原子分子層制御無機機能性人工格子などの設計、合成に応用していくには、アブレーションのメカニズムを明らかにすることと同時に、レーザーアブレーション特有の特徴を薄膜形成に生かして新しい人工物質を実際に創成していくことが重要である。この様な背景のもとに、無機物質化学、表面界面化学で世界的に活躍しているハーバード大学Prof.Lieberグループと短パルスレーザーの科学で活躍しているハンガリー・ジェイト大学Prof.Szaboグループと川合グループが共同で「レーザーアブレーション薄膜形成のメカニズム解明と人工格子への応用の調査研究」を行った。平成6年度は、主に金属酸化物、特に強誘電体(BaTiO_3,SrTiO_3)と超電導体(Bi_2Sr_2CaCu_2O_8系)を中心にしてレーザーアブレーションのメカニズムと薄膜形成の決定要因の解明について調査研究を行った。既存のエキシマレーザーを用いて、上記物質群のアブレーションメカニズムを調べた。放出粒子の光強度依存性、及び、アブレートされた部分の微視的モルフォロジーなどからアブレーションが、主に光化学的プロセスであり、しかも内殻最高準位電子の多光子励起によって起こることが明らかになった。このメカニズムは、2つのレーザーパルスを遅延させてアブレーションさせる実験によって確認できた。アブレーションによって生成した粒子のエネルギーと薄膜表面と構造との相関を解析し、より良質の薄膜の形成要因を明らかにした。平成7年度は、レーザーアブレーションによる人工格子形成に調査研究の中心をおいた。BaTiO_3,SrTiO_3,Bi_2Sr_2CaCu_2O_8など異なったターゲットを用いて、格子定数の異なる層を積層し、強誘電体及び超伝導体の歪格子を形成した。強誘電性人工格子系では、最も誘電率の大きなBaTiO_3を基本層とし、これより格子定数の小さなSrTiO_3,CaTiO_3の層で挟んだ人工格子を作り、C軸を引き延ばすことにより、さらに大きな誘電率をもつ新物質(歪み誘電体人工格子)を形成した。又、PbTiO_3を基本層とする系でも、同様な歪みを加えることにより、分極の大きな新物質を系統的に形成して、物質の構造と特性との相関を明らかにできた。超伝導人工格子系では、Ba系超伝導体の異種元素の導入とCuO_2層数の調節を主に行った。CuO_2層数をレーザーアブレーションの原子分子層積み上げでコントロールし、その層数と超伝導転移温度との関係を調べた。その結果、金を導入した人工格子を作成できたこと、及び、その系でCuO_22層の系が安定であることを見出した。これらの無機機能性薄膜材料の設計、合成について、前年度に調査したアブレーション放出粒子のサイズ、エネルギーと各原子層分子層形成の温度、表面の平坦性の関連を調べ、高機能酸化物人工格子の形成条件を明らかにすることができた。当初計画した研究目的と研究計画については、大方計画通りに進むことができた。レーザーアブレーションのメカニズムが内殻電子の多光子過程を経ることなど重要な結果を得た。本研究の成果は、論文にまとめて公表する他、米国、及び、日本の物理学会、応用物理学会で発表した。特に、1995年度は、国内だけでなく、米国の物理学会に行き共同研究の成果を発表した。
著者
宇野 勝博 山根 宏之 今野 一宏 臼井 三平 飛田 明彦 脇 克志
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

以下の場合に、群環のいわゆるワイルドな表現型をもつブロック多元環上の既約加群は、アウスランダーライテングラフの端に位置することが証明できた。(1)有限シュバレー群に対し、素数が定義体の標数の場合(2)有限シュバレー群に対し、素数が定義体の標数でなく、かつ、いわゆるリニアである場合(3)対称群、交代群とその被覆群の場合(4)いくつかの散在型有限単純群の場合しかし、F4型の有限シュバレー群で定義体の標数が2で群環の標数がリニアでないとき、また、ラドバリスの散在型単純群の被覆群のときには、アウスランダーライテングラフの端に位置しない既約加群が存在することも分かった。なお、これらのときは、いずれもその既約加群は、アウスランダーライテングラフにおいて端から2番目の場所に位置する。一方、一般の有限群の場合に有限単純群、あるいは、その被覆群の場合に問題を帰着できることも証明されており、有限単純群の分類定理を用いると上記の結果により一般の場合にも、ほとんどの場合(上の二つの群が関与しない場合)既約加群は、アウスランダーライテングラフの端に位置することが期待できる。以下の場合に群環のアウスランダーライテングラフの各連結成分における既約加群の個数が高々1個であることが証明できた。(1)有限シュバレー群に対し、素数が定義体の標数の場合(2)群のシロー2部分群が可換で素数が2の場合(3)対称群の場合また、群環の不足群の位数が4であるブロック多元環について、アウスランダーライテングラフの端に位置し、かつ、剛性をもつ加群の特徴付けを行い、それを用いてこのようなブロック多元環の間の導来同値の再構成を行った。
著者
平 雅行
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.顕密体制論が定説化した現在にあっても、中世国家が宗派・寺院をどのように編成・配置したかは、なお不明な点が多い。そこで本研究では、北京三会・三講など中世前期の国家的法会の実施・運営過程の分析を行うことによって、この課題にアプローチしようとした。史料の収集については、法会の実施時期の史料はかなり収集できたが、法会の準備段階については、日記史料の検索がなお不十分である。たいへん手間のかかる作業であるが、諸々の俗権力との交渉を分析するには、この方面の作業をさらに進展させる必要がある。2.三講の出仕僧は証義・講師とも興福寺僧が最も多く、中世興福寺の地位からして、やや意外である。これは延暦寺・東大寺・園城寺とは異なり、興福寺だけが顕教僧のみで構成されていた特殊性に起因していよう。3.中世僧綱所・法務を中世仏教行政の総攬者と見るか否かで、私を含め論争が行われてきたが、その機能の形骸化を改めて確認した。特に綱所が東寺の他、仁和寺・延暦寺・南都に設置されている事実は、寺社勢力の分裂の結果、統合機能を果たすべき綱所が空中分解したことを物語っていよう。4.寺社勢力の統合は法務・綱所ではなく、俗権力たる院が達成していた。そのことは僧事(僧侶の人事)の決定場所が天皇御前から院御前に変化したことからもわかる。実際、三会の人選にも院が介入した事例がある。また承久の乱の後、鎌倉幕府が仏教行政や人事にしばしば介入している。ただ現在のところ、三会三講などへの幕府の直接介入は確認できなかった。5.以上の研究成果の内、一部は拙著『日本中世の社会と仏教』の新稿論文「中世宗教史研究の課題」に発表し、また一部は同書旧稿論文への加筆という形で発表した。
著者
清川 清 竹村 治雄
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

今年度は、前年度の研究成果を継承し、協調作業のための超広視野頭部搭載型映像装置について検討を進めた。まず、超広視野頭部搭載型ディスプレイ(Head Mounted Display, HMD)に関して、まず1. 前年度に試作したHMDであるHyperbolic Head Mounted Projective Display(HHMPD)のためのGPUを用いた高速なコンピュータグラフィックスの描画手法を開発した。これにより実時間性の高いアプリケーションの製作が可能となった。また、2. 同装置を用いてVRウォークスルーシステムを開発して学術展示などで専門家より高い評価を得た。一方、超広視野頭部搭載型カメラ(Head Mounted Camera, HMC)に関して、3. 双曲面ハーフミラーの形状に関する種々のパラメタの関係式を導き、それらのトレードオフについて検討した。また、4. 求めた関係式を用いてミラーパラメタの選択とその結果得られる視体積形状や視野角などの情報を実時間で確認・検討可能なシミュレーションプログラムを開発した。さらに、5. 実際に単眼の試作システムを開発し、利用者視点での広視野映像を撮影できることを確認した。さらに、6. 得られた利用者の眼球映像を用いた実時間の視線検出システムの開発を行った。その結果、装着者の視線方向を5度〜15度程度の精度で実時間で検出可能であることを確認した。今後は、これらの装置を用いて、実際に協調作業を実施し、その有用性を確認していく予定である。
著者
西尾 章治郎 原 隆浩 寺田 努 小川 剛史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

無線通信機能をもつ小型センサノードで形成するセンサネットワークに対し、(1)センサネットワークノードのための動的機能交換ミドルウェア、(2)センサネットワークのためのデータ配置管理技術、(3)センサネットワークのためのデータ送受信技術の3 テーマを中心に研究を推進し、センサネットワークのためのデータ処理基盤となる技術の研究開発を行った。本研究の成果は、多数の学術論文誌や国際会議録等に掲載され、国内外において高い評価を得ている。
著者
ディエゴ ミランダ サーベドラ
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

ChIP-chipとChIP-seqライブラリーから高効率にエンハンサー検索をする計算方法を開発(Fernandez and Miranda-Saavedra, 2012)転写制御モジュールの再構成のための新手法を開発(Hutchins et al, 2013)上記の手法により、抗炎症反応系を制御するSTAT3の基本機能を解明(Hutchins et al, Blood, 2012; Hutchins et al, JAK-STAT, 2013).
著者
藤目 ゆき 山本 ベバリー 南田 みどり 今岡 良子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

大規模な国際組織であるWIDF(国際民主女性連盟)による世界平和運動の取り組み、またアジア各地の女性運動の展開を調査し、朝鮮戦争真相調査団の活動をはじめとして冷戦時代の国際女性運動の諸相を明らかにした。
著者
山本 ベバリーアン (2010) 山本 Beverley Anne (2009) DALES Laura
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では,日本の男女共同センターや女性センターを中心とする女性運動について、主に結婚していない女性達の多様な経験を考察することによって、男女共同参画政策が想定しているのが「結婚して子どもがいる働く女性」であり、彼女達がこのディスコースの枠を意識的あるいは無意識的に越えている'unconventional'な存在である点をまず明らかにした。その上で、少子化・高齢化社会における彼女達の存在を考察するとともに、同政策を批判的に再考した。研究では20-40代の結婚していない女性33名(平成22年度は21名)に対して、ライフスタイルや結婚観、仕事観、社会観1、将来の展望等について綿密なインタビュー調査を実施した。その結果、彼女達の多くが結婚制度そのものを否定しているわけではなく、仕事と家庭の両立の問題や社会から「嫁」として期待されること、家制度などの社会的な理由から非婚を選択しているに過ぎないことが明らかになった。彼女達は現代日本の社会システムの中での婚姻制度とその期待に当てはまらない存在なのである。また、現在の男女共同参画社会の対策には彼女たちも含まれるごく一部の長時間勤務する専門職の独身女性を支援するものはあっても、依然として家族と仕事への責任をともに果たすことを可能にするようなものではない。このような状況下において仕事と結婚の二者択一を迫られ、女性達は働くことを選んできたのである。ただ彼女達自身の家族とのつながりは強く、多くが親の介護について責任をもっていると感じている。こうした女性達にとって男女共同センターはむしろ同じような立場の女性達とのネットワーキングの場であり、独身生活を支える原動力として機能している。以上の研究によって、女性達の多様な経験をもとにこの少子化・高齢化社会において国の男女共同参画政策はより現実に即した観点から再考することが求められていると指摘した。
著者
渡部 眞一郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

諸言語における多様な二重母音と二重母音化の普遍的特徴、類型論的な一般性について多くの言語事例に基づき特定した。まず、数多くの言語の二重母音と二重母音化のデータベースの作成および二重母音の生起と変化に関わる様々な通時的変化、過程の分類により、いくつかの普遍的特徴を抽出した。それらの特徴が、個別言語の二重母音を含む母音体系の変遷について分析をすることにより、妥当であることを検証した。さらに、現在進行中の二重母音の推移の調査分析を行った。ロンドン英語にみられる二重母音の発音が、世代差により一貫した違いがあることを実地調査により示して、その二重母音推移について通言語的一般性に照らして考察分析した。
著者
天野 文雄 中川 真 山口 修 山路 興造 吉川 周平 谷村 晃 林 公子 山崎 正和
出版者
大阪大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

民族芸能の「翁」の意義は、それ自体の価値とともに、能の「翁」研究の資料たる点にある。その両者を兼ね備えている民族芸能の「翁」には奈良豆比古神社翁舞、兵庫県加東上鴨川住吉神社翁舞、神戸市車の大歳神社翁舞などがあるが、後の二者についてはすでに詳細な調査報告がなされているので、このたびは奈良豆比古神社の翁舞を主たる調査対象としたものである。従って、この調査の目的は次のごとくであった。(1)奈良豆比古神社翁舞の歴史と現況の把握。(2)能の「翁」および民俗芸能の「翁」の中における位置づけ。(1)については、奈良豆比古神社および同社翁講所蔵の未紹介史料の発掘があり、それらの文献をもとに聞き取り調査をも併せ行った結果、寛政以後の翁舞や翁講の動向をある程度把握することができた。また、実績報告書にも報告したように、同翁舞の現況についても、所作と音楽を中心に詳細に分析し、記録化することができた。これは平成元年時の詳細な記録として、将来その評価はきわめて高いものとなることは必至と言える。(2)については、奈良豆比古神社の翁舞は上鴨川住吉神社や神戸市大歳神社の翁舞と同系であり、江戸期に南部の薪猿楽や春日若宮おん祭において「翁」を独占的に演じていた「年預」の系譜を引く「翁」であることが判明した。年預は室町期以前の猿楽座の上座衆(翁の上演構をもつ長老座衆)の末裔であり、「翁」という芸能の伝承力の強さ、民族芸能の「翁」の位置と意義について、新たな認識が得られた。
著者
木下 博 門田 浩二 伊東 太郎 平松 佑一 木村 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

健常成人を対象に手指での6gから200gまでの軽量小物体の精密把握運動中の把握力・持ち上げ力関係について調べた。重量が22g以下では把握面の摩擦状況に関わらず軽量程把握力/持ち上げ力比、把握力に占める安全領域の割合、力の変動係数が増大した。重量弁別実験および指先の物理的変化実験からは皮膚感覚情報が軽量物体把握時に減少することが示唆された。軽量域での把握力の変動増大と安全領域の上昇は、被験者自身が随意的に把握力を必要以上に上昇させていることも示しており、把握力の対費用効果が軽重量域では重い重量とは異なり対生理学的効率よりも対心理的安定性を重視する戦略が取られていることが示唆された。
著者
桐原 聡秀
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

アルミニウム合金やマグネシウム合金は、現代工業において幅広く用いられる軽量金属材料であるが、地球環境保全や持続的エネルギー確保に対する社会的な動向に呼応して、より高い特性を発揮することが求められている。また、炭酸ガスの排出削減やエネルギーの消費低減を実現するため、各種車両の軽量化を目指した実践応用が進められている。本研究では、アルミニウムやマグネシウムなどの軽量金属材料に対して、インクジェットプリント法を駆使した、マイクロパターニング技術を基盤として、合金相の表面構造を精密に形成し、人工的に金属組織の幾何学分布を制御することで、優れた機能特性を自在に発現させ得る新規プロセスの構築をめざした。
著者
港 隆史
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

人間に酷似したアンドロイドの人間らしい動作を実現するために,まず前年度はモーションキャプチャシステムを用いて人間の姿勢を計測し,その姿勢をアンドロイドに写像する手法を開発した.本年度は連続的に与えられた姿勢から求められる関節角目標軌道に追従するための制御器の学習手法を開発した.アンドロイドの空気アクチュエータは強い非線形性を有するため,高精度の軌道追従制御を実現するための制御器の設計は困難である.そこで制御対象の逆モデルをニューラルネットワーク(NN)で学習し,フィードフォワード制御により軌道追従を実現する.この際,制御対象のアンドロイドのアクチュエータは従来研究で使用されているアクチュエータと比較して,むだ時間を含む大きな応答の遅れを有する.このため,既存のフィードバック誤差学習などでは,学習が不安定になる結果が得られた.これは逆モデルの誤差評価に応答の遅れを考慮していないためである.そこで本研究では,応答の遅れに対応するために未来の誤差の時系列平均を導入した学習手法を開発した.開発した手法により,腕の2自由度の目標軌道追従を行うための制御器を学習することに成功した.上記の手法で学習される制御器は,与えた目標軌道専用の学習器である.アンドロイドの動作をあらかじめ全て用意すること現実的ではないため,種々の動作を実現する制御器を学習するためには,逐次的に学習可能な手法が必要である.従来のNNでは逐次的に教師データを与えると以前の学習結果が破壊されることが知られている.そこで本研究では人間の記憶に関わる脳内プロセスであるConsolidationをモデル化した,オンライン運動学習とオフライン長期記憶学習の2つのNNを用いた学習システムを開発した.アンドロイドの腕の1自由度を用いて,4つの目標軌道を逐次的に学習させたところ,最終的に4つの目標軌道追従を実現する1つの制御器を学習することに成功した.次に人間の動作モデルとして,人間のある動作がその動作の意図を示す大きな動きとその動作の意図を示さない小さな動きの組み合わせからなる階層的モデルを考えた.動作の人間らしさは大きな動きの多様性のみならず,小さな動きの多様性にもあるという仮説を立て,それを検証する実験を行った.例としてリーチング動作では,人に触れる場合と物に触れる場合では手先の軌道がわずかに変化すると考えられる.この対象との社会的関係により変化する腕の小さな動きモデルを,実際の人間の動きをモーションキャプチャで計測することにより作成した.具体的にはリーチング動作において,腕を戻す時に対象の近身体空間で手先の軌道が異なるモデルを作成した.アンドロイドのリーチング動作において,このモデルの有無による動作の人間らしさを被験者に評価させる実験を行い,人間らしさに関わる評価項目で統計的有意差を確認した.小さな動作の多様性がロボットの動作の人間らしさに関わるという結果は,ロボットの人間らしい動作生成に役立つと考えられる.
著者
飯田 克弘
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では,平成9年度において(1)駅での乗り換え行動の把握,(2)移動手段別の負担感の比較,(3)乗り換え行動の負担の算出について調査および分析を行った.平成10年度では,これらの成果を踏まえた上で,分析対象とする行動を自宅を起点とした外出行動に拡大し,検討項目を追加した.そして2箇年の成果を総合化することで公共交通機関を利用した移動環境の評価を試みた.具体的にはまず,大阪府豊中市全域を対象として,市民の外出行動の状況を訪問回収方式のアンケート調査により把握した.この調査の中では,個人の社会的属性以外に,公共交通利用環境(例えば,主に利用する経路,利用交通機関,交通費など)を調査すると同時に,現在の経路を選択する理由,代替経路の有無,現状の施設整備・運賃制度・情報提供に対する不満・問題点を調査した.そして,これらの調査結果を分析することで,乗り換え行動に影響を及ぼす施設面の問題に加えて,金銭的な負担や情報収集の問題と外出行動との関係を明らかにした.さらに,施設利用面,金銭負担面,情報収集面からの評価指標の相互関係を考慮した上で外出行動(主として外出頻度)との関係をモデル化することで,総合的な公共交通機関利用環境評価を行った.
著者
三浦 利章
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

〔目的および経緯〕当研究は、我国の生産現場性の急速な省力化、自動化のなかでの技能の変化を鑑み、自動化の困難な人間固有の高度な作業技能の特質を明らかにすることを目的とした。初年度には、文献的調査と生産現場視察を行ない、ビ-ル生産工場での最終検ビン作業に焦点を絞り込み、予備実験を行なった。次年度には、初年度の成果に基づいて、検ビン作業時の眼球運動を記録・解析した。具体的には、NACIV型で測定し、ビデオレコ-ダ-で記録、解析した。〔主な結果〕調査と視察の結果、最終工程に行われる検ビン作業は、幾種もの微妙な傷や不純物をほとんど見逃すともなく高速に行なうというきめて高度な技能が要求されるものであり、それゆえに、当面自動化が困難で、同時に作業者の精神的疲労はきわめて大きいVIGILANCE TASKであることが明らかになった。このような高度な技能を支えている作業者の資格情報獲得・処理機構は、以下の特質を持っていることが眼球運動実験から明らかになった。1.検ビン作業時の平均注視時間は約175msecというきめて短いものであり、読書時や通常の視覚探索課題での注視時間の約半分という、一般の作業時からは想像されないような高速の視覚走査が行われていることが明らかになった。人間の眼球運動能力の限界での作業が行われているのである。2.このような超高速視覚検査(探索)を可能としている重要な処理機構として、下記の二点を考えなければならない。その一つは、高度な検査技能を獲得した作業者は技能未獲得者よりもずっと広い有効視野を形成、保持していることである。すなわち、きわめて微妙な不良の微候を処理しうる広い有効視野の働きである。いま一点は、運動する微妙なキズを周辺視野で高感度に捉えていることである。故に、3.ポイントは有効視野での微妙な検出機構(PATTERN MATCHING)と、それをさらに支えるの運動成分対象(A FACILITATORY MOTION FACTOR)と言える。ここに得られた結果は、基礎研究上では、人間の高度な視覚技能の解明の糸口を与えたものであると同時に、応用的側面としては、検査作業時の疲労の解明に示唆を与え、また、このような検査作業の自動化にも示唆を与えた貴重なものである。