著者
清家 泰 奥村 稔 三田村 緒佐武 千賀 有希子 矢島 啓 井上 徹教 中村 由行 相崎 守弘 山口 啓子 日向野 純也 山室 真澄 山室 真澄 中野 伸一
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

実験区(高濃度酸素水導入窪地)の他に、対照区(高濃度酸素水導入の影響の及ばない窪地)を設け、比較検討した。湖底直上1m層への高濃度酸素水の導入による改善効果として、明らかになった研究成果の概要を以下に示す。(1)対照区では底層水中に高濃度の硫化水素(H_2S)が観測されたのに対し、実験区ではH_2Sが消失した(H_2S+1/2O_2→H_2O+S^0↓)。(2)対照区では底層水中の溶存酸素(DO)濃度が無酸素に近い状態で推移したのに対し、実験区では窪地全域のDOが増大した。また、対照区では底層水中の酸化還元電位(ORP)が負の領域で推移したのに対し、実験区では正の領域まで上昇した。(3)湖底堆積物中のH_2S濃度を鉛直的にみると、対照区では表層部のみでH_2S濃度の減少が観られたのに対し、実験区では表層から5cm程度の深度まで濃度が激減した。また、メタンCH_4(温暖化ガス)もH_2Sの鉛直分布と同様の傾向を示した。(4)対照区に比べ実験区では、底層水中PO_4^<3->に明瞭な減少傾向が観られた。実験区の湖底泥表面に酸化膜の形成が観られたことから、湖底泥界面における共沈現象及び湖底からのPO_4^<3->の溶出抑制が示唆された。(5)対照区に比べて実験区では、底層水中の無機態窒素(NH_<4+>+NO_<2->+NO_<3->)に減少傾向が観られた。酸素導入により、湖底泥界面における窒素除去機能(硝化・脱窒)が活性化したことを示唆する。湖底堆積物の深度別脱窒活性を観ると、対照区では表層部のみ活性を示したのに対し、実験区では表層から5cm程度の深度まで顕著な活性を示した。この結果は、高濃度酸素水の供給により、脱窒部位が大きく拡大したことを意味する。(6)対照区ではベントス(底生生物)が皆無であったのに対し、実験区では、アサリやサルボウガイのような二枚貝の加入は認められなかったものの、多毛類を中心とするベントスの棲息が確認された。以上のように、松江土建(株)社製の気液溶解装置を用いるWEPシステムは、無酸素水塊への酸素供給を起点に、生物に有毒なH_2Sの消失、温室効果ガスであるCH_4の消失、栄養塩(N,P)の減少及びベントスの復活等に絶大な効果を発揮した。通常、還元的な湖底堆積物に対する自然任せの酸素供給では、その効果は、精々、湖底泥表層部の数mmまでと云われていることを考えると、本システムによる底質改善効果(泥深約0~40mm)は絶大である。このようにWEPシステムは、本研究で対象としたような比較的広範囲の窪地に対して有効であり、特に湖底の底質改善に極めて有効であると云える。今後、ランニングコストの低減が図れれば、有用性はさらに高まるものと考えられる。
著者
程木 義邦
出版者
島根大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究では、貯水池等の河川構築物が水質の不連続性が河川および海域の生物生産に及ぼす影響について、現地調査および既存データの解析により評価を行った。島根県斐伊川水系の5基の貯水池下流、および天塩川水系の最上流部にある岩尾内ダム湖を対象として調査を行った結果、貯水池直下流では、1)融雪期の濁水貯留による河川下流域の濁度の増加と長期化、2)融雪水の希釈放流に起因する夏季の水温低下、3)貯水池表層における植物プランクトンの発生にともなう下流河川栄養塩類濃度の不連続的変化、4)秋期の貯水池水位の低下に伴う堆積物の巻き上げによる河川下流域の濁度の増加、などの水質変化が確認された。このような貯水池下流域における水質の変化は、下流にゆくに従い支流の合流により緩和され、不連続結合の影響が及ぶ範囲は数キロから10km程度と推定された。また、河川下流域の河川構築物による水質不連続性の評価として、分流のための潮止堰下流の河川感潮域を対象とし調査を行った結果、堰下流域では潮汐の阻害により河川水と海水の混合力は弱く、わずか2kmから3kmの間に急激に塩分が変化する水域が形成されていた。そのため、汽水域に由来する植物プランクトン群集は見られず、上流からの淡水性藻類の流下と塩水とともに侵入する海洋性植物プランクトンが見られ、両者の明確な境界が形成されていた。また、この様な境界域では、光合成活性も低下するため、植物プランクトンの種組成という点だけでなく、一次生産速度の不連続ももたらされていることとが明らかとなった。また、暗渠による分流や下流域への放流の影響は、これまで、瀬切れ等の局所的な問題として扱われてきたが、水質や物質輸送の不連続性という観点でも、流域全体に与える影響が大きいことが推測された。
著者
濱中 春
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今年度は、1800年頃の教育書や医学書における庭園や造園に関する記述を収集し、分析した。主要なテクストは、十八世紀の教育学の重要な潮流を形成するとともに、デッサウという、当時のドイツにおいて庭園文化が先進的に発展した場所を基点とする汎愛主義教育関連の著作である。それらの言説における庭園の位置づけの特徴は、教育の一環としての造園や園芸作業および植物学という側面がクローズアップされていることである。それは具体的には、当時の教育学や医学において論争されていた子どもの性教育、とくにオナニーの問題に関連し、汎愛主義教育においては、庭園の植物を性教育の材料とすることや、造園や園芸作業をオナニーの防止手段とすることが示されている。十八世紀にはしばしば、子どもは植物に、教育はその栽培にたとえられているが、汎愛主義教育には、その子どもの身体という自然を訓育するために庭園という自然が利用されるという、「自然」の二重の規律化が見出される。なお、現在はこれらの考察結果を論文としてまとめる作業を行っており、その成果を学術雑誌に発表する予定である。三年間の研究を総括すれば、1800年前後のドイツにおいては、「自然」という概念が、自然環境だけではなく、身体、健康、子どもなど多様な対象にわたって適用されている。それは、悪しき文明の対極としてポジティヴな価値を持ち、かつ人間による制御の対象でもあるという両義的な概念である。風景庭園という人工的につくりだされた自然の空間は、まさにそのような両義的な自然概念を具現化した空間であり、そこに、もう一つの「自然」である身体(健康や子どもの身体を含む)の問題系が交差することによって、この時期の庭園観に身体性のさまざま局面が浮上してくることになったということができる。
著者
梶山 秀雄
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

前年度の研究成果をふまえた上で、ポストコロニアリズム批評、カルチュラルスタディーズ関係の文献を狩猟し、引き続きディケンズ作品に散見される「催眠術」、「動物磁気」、「自然発火」といった疑似科学的な主題を、当時の雑誌、新聞の超自然現象をめぐる言説と対置させ、より文化的な背景の中にテクストを読み込む作業に従事した。また、物語手法や疑似科学への接近という観点から、ディケンズとをポストモダン以降の作家と比較研究を行い、その成果の一端を、論文「「別名で保存」される『大いなる遺産』-ピーター・ケアリー『ジャック・マッグズ』」として島根大学『外国語教育センタージャーナル』(2005年)に発表した。次いで、疑似科学についてのディケンズの基本的な見解、および当時の言論人の反応について検討し、メスメルの提唱した.「動物磁気」を、シャルコー、フロイトと受け継がれていく催眠療法の原初的な形態として位置づけ、疑似科学としての精神分析の再読を試みた。これらの研究成果の総括として、「美しく燃える人体-ディケンズと疑似科学」というタイトルの論文を執筆、島根大学『外国語教育センタージャーナル』に掲載予定である。
著者
北垣 一 和田 昭彦 内田 幸司 森 悦郎 畑 豊 森 悦朗 小田 一成 川口 篤哉
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13年から平成16年の4年間に健常者491名に対してMRIデータを得た.健常者の平均値,標準偏差値は頭蓋内容積1576.56+-166.77(ml),全脳体積1258.55+-143.74(ml),頭蓋内容積比0.80+-0.04,左半球大脳体積534.06+-62.79(ml),右半球大脳体積549.92+-70.93(ml),であった.女性被検者248名の平均値,標準偏差値は頭蓋内容積1500.71+-141.93(ml),全脳体積1209.73+-132.77(ml),頭蓋内容積比0.806+-0.045,左半球大脳体積514.19+-57.93(ml),右半球大脳体積527.80+-64.97(ml)の結果を得た.男性被検者243の平均値,標準偏差値は頭蓋内容積1653.97+-154-40(ml),全脳体積1308.37+-137.51(ml),頭蓋内容積比0.791+-0.041,左半球大脳体積554.34+-61.17(ml),右半球大脳体積572.50+-69.75(ml)の結果を得た.頭蓋内容積,全脳体積,左半球大脳体積,右半球大脳体積は男性が有意に大きかったが,頭蓋内容積比は女性が有意に大きかった.そこで男性(243名,平均年齢62.04+-10.54歳)と女性(243名,平均年齢64.57+-9.96歳)に対して脳体積を頭蓋内容積による補正をしたところ女性は男性よりも有意に高齢であったにも関わらず,女性は男性より統計学的に有意に全脳,左大脳半球,右大脳半球とも大きいという結果が得られた.50代以降において女性は男性よりも頭蓋内腔にしめる脳体積が大きいことが解った.研究期問中にデータを得たアルツハイマー病患者21名(男性6,女性15,76.6+-6.42歳)は全脳対頭蓋内容積比0.754+-0.046,右半球大脳体積比0.330+-0.023が同年代の健常者と比べて有意に小さな値をとり脳萎縮の進行を体積として評価できた.
著者
藤井 浩基
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

1945 年 8 月以降から現在までの韓国の音楽教育史を整理しつつ,音楽教育をめぐる日韓両国のおもな関わりを,両国の音楽教育の基礎研究や研究・教育交流事例を通して明らかにし,日韓音楽教育関係史の構築を試みた。特に,めまぐるしく変化する韓国の動向を中心に,現代の日韓両国における音楽教育事情や諸課題について分析・検討し,日韓の音楽教科書をめぐる事例や多文化教育としての音楽科教育の日韓比較等を成果として発表した。
著者
秦 明徳
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

岩石の風化作用は気圏,水圏,生物圏,岩石圏といった地球サブシステム間の相互作用として成り立っており,地球システムとして説明できる身近な好例である。本研究では風化作用を軸とした花崗岩地帯学習の在り方について取り上げ,地球システム教育の一般教育における重要性とその可能性について探った。具体的にはシステム論的視点にたった花崗岩類風化作用の教材開発・カリキュラム資料の作成するとともに、実験授業を行い,その評価を踏まえながら新しい地球学習のありかたについて提案した。
著者
尾崎 浩一 佐藤 明子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

昆虫の網膜における視物質発色団の代謝経路について,(1)光により11-シス形レチノイドを生成する蛋白質の同定と,(2)不完全変態昆虫における発色団代謝経路の解明とそれに関与する蛋白質の同定,の2点に焦点を絞り研究を行った。その結果,ショウジョウバエの網膜特異的酸化還元酵素(PDH)が光異性化蛋白質であることを見出した。また,コオロギの発色団代謝経路をHPLC解析により明らかにし,それに関与するレチノール結合蛋白質を発見した。
著者
服部 泰直 木村 真琴 山内 貴光 立木 秀樹 横井 勝弥 松橋 英市 CHATYRKO Vitalij
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では主に計算理論へのトポロジーの応用と距離空間における次元の解析とその応用に関する研究を行った。前者においては、距離空間の計算モデルである形式的球体のドメインのMartin位相に関する研究から示唆された実数直線上のSorgenfrey型位相τ(A)の解析を行い、τ(A)がSorgenfrey位相自身と同相となる必要条件等を得た。また、図形のデジタル化におけるモデル空間であるKhalimski空間の部分空間に対するn次元性の表現を求めた。後者においては、帰納的次元のHurewicz形式と超限分離次元の振る舞い、及び種々定義されてきた小帰納的次元の統一的定義の提唱とそれらの相関関係を調べた。
著者
山田 悟資 角替 敏昭
出版者
島根大学
雑誌
島根大学教育学部紀要. 自然科学 (ISSN:05869943)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.15-27, 1998-12-01

The Zimbabwe Craton, which is a typical Archean granite-greenstone terrane, contains two different types of granitoids ; older gneiss (3500~3000 Ma) and younger granite (2900~2600 Ma). This study focused on morphological characteristics of zircons in the older gneiss and the younger granite to understand mineralogical and petrological differences between the two granitoids.13; All samples examined in this study have two types of zircon. One is an elongated, fine-grained, and euhedral zircon (Type-A). The younger granite contains many Type-A zircons without any resorption texture, because the granitoid did not suffer later metamorphism and/or partial melting. The other type is a coarse-grained zircon with overgrowth texture around older core (Type-B). This type is abundant in the older gneiss. For example, sample ZC10A, which is a typical older gneiss, contains many Type-B zircons. We considered that the core of the zircons was formed during crystallization stage of the protolith of the older gneiss. The rock was then metamorphosed and/or partly molten and formed overgrowth texture. Presence of both euhedral and anhedral zircons in one specimen may imply that euhedral zircons were included in earlier-stage minerals(ex.biotite) before the last stage of metamorphism and/or melting.13; The younger granite contains Type-B zircons smilar to the older gneiss, although their amomt is little. We thus regard the origin of the younger granite as a partial melting of the older granite. Some zircons of the older gneiss have thus survived during later thermal event and now present in the younger granite.
著者
市川 真澄
出版者
島根大学
雑誌
島根医科大学紀要 (ISSN:03879097)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-4, 1989-12

"Leaving the Yellow House"は1957年Esquireに発表され,1968年にMosby's Memoirs and Other Storiesの中に収録された短編である。主人公は72歳の老女Hattieである。自分の不注意による事故で怪我をし,余命いくばくもないと感じたHattieは唯一の財産である"the yellow house"を誰に譲ったらよいかと思い巡らすが誰もが己の利益のみを追求し,自分のことは少しも考えてくれないことを初めて知り,愕然とする。そしてHattieは落胆のあまり自分に"the yellow house"を譲渡する遺書をしたためる。この短編はBellow独特の含蓄のある,衝撃的な文章で終わる。
著者
秋野 成人
出版者
島根大学
雑誌
島根大学生涯学習教育研究センター研究紀要 (ISSN:1347264X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-14, 2002-03

The purpose of this paper is to consider the significance of Socratic dialogue as the classroom teaching method in the San-in Law School Plan. Many law school plans regard it as vital to introduce Socratic dialogue as one of teaching methods. However we don't have enough analysis about how Socratic dialogue in the classroom will contribute to their aim of training instructive and competent lawyers.13;This paper would consider this question, with clarifying what Socratic dialogue is and what attention is paid to in doing this teaching method in the classroom so that its advantage is better utilized.13;This paper concludes that Socratic dialogue teaching method is of great use to achieve the aim of the Law School education system, but we should realize it is the most important to assist law school students to acquire wisdom, i.e. professional legal mind , not to teach a volume of knowledge about laws and court decisions, through Socratic dialogue.
著者
下舞 豊志
出版者
島根大学
雑誌
島根大学総合理工学部紀要. シリーズA (ISSN:13427113)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.125-131, 2000-12-24

The Spectral Airglow Temperature Imager(SATI)can measure the rotational temperature by observing nightglow emission of OH and 0_2.The MU radar can measure the diffusion coefficients in the mesopause region by observing meteor echoes. The temperature is estimated from this diffusion coefficient. In this study we compared the rotational temperature observed by SATI and the temperature measured with the MU radar meteor observations during PSMOS campaign in 1998. Both observed results show apparent semidiurnal oscillations. From the comparison,very good correspondences are obtained for the amplitude and the phase of the oscillation.
著者
阿部 顕治 礒邉 顕生 山根 洋右 小笹 正三郎 吉富 裕之 山田 幸子
出版者
島根大学
雑誌
島根医科大学紀要 (ISSN:03879097)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.45-53, 1991-12

Four cases of cutaneous gnathostomiasis successively occurred in 1989 were reported with references to the loaches as the source of infection. The patients complained of migratory cutaneous swellings of their faces or the creeping eruption of the body after they took raw loaches at the Japanese restaurant in Tamayu-cho. They were diagnosed as cutaneous gnathostomiasis by their clinical course and immunological tests. Furthermore, loaches obtained from the Japanese restaurant were investigated, which were imported from China. We suspected Gnathostoma hispidum as the infection source, but no Gnathostoma hispidum were found in loaches except many worms of Nematodes, Pallisentis spp.