著者
高塚 尚和 松木 孝澄 飯田 礼子 伊保 澄子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究補助金(平成17年度〜平成19年度)での研究成果は以下の通りである。1. 熱中症モデルマウスの作製とその病態解析まずマウスを用いて熱中症モデルを作製することができた。より高い環境下にマウスを暴露させると、マウスは熱中症を短時間で発症し、極めて短時間で死亡した。その際、TNF-α、IL-1β、MIP-2などのサイトカイン及びケモカインmRNAの発現は、より短時間で発現する傾向があったが、その発現の程度は、必ずしも温度とは相関しなかった。熱中症の死亡原因としては、高サイトカイン血症がその一つとして考えられているが、高温環境下においては、体温調節中枢の非可逆的変化及び高度の脱水等がより重要な役割を演じていると考えられた。なお、この研究結果については、現在投稿準中である。2. 短いDNA断片が、炎症性サイトカインを誘導するメカニズムの解析熱中症の重症化し、敗血症が引き起こされる過程において、細菌菌体そのものにより炎症が惹起されるのみではなく、細菌等が崩壊して形成された短鎖DNAによっても炎症が誘導され、その過程において重要な役割を演じているIFN-αの発現やスカベンジャーレセプターの機能をブロックすれば、熱中症の重症化を軽減できるのではと考えられた。3. 急性重症膵炎を合併した熱射病症例の臨床病理学的研究熱射病では、急性膵炎を合併することは一般的ではないが、炎天下での激しいスポーツを行うことは、熱射病を発症しやすくなるばかりではなく、腹部臓器への循環障害が引き起こされ、急性膵炎等の重篤な疾患が惹起される危険性が示唆された。この結果から、炎天下において激しいスポーツを行う際には、急速や水分補給を十分に行い、体調の変化に十分気をつける必要があると考えられた。
著者
廣瀬 昌博 花田 英輔 竹村 匡正 吉原 博幸 今中 雄一 岡本 和也 中林 愛恵 本田 順一 江上 廣一 津田 佳彦
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

各医療機関には膨大なインシデントレポートデータが蓄積されているが、インシデントによって発生するあらたな医療費、とくにその多くを占める転倒・転落事例とともに一般事例についても追加的医療費を算出するとともに疫学的側面を明らかにすることができた。また、機械学習法を繰り返すことで、インシデントレポートの自動分類や最適に分類される精緻化が可能であることが分かった。
著者
縄田 裕幸
出版者
島根大学
雑誌
島根大学教育学部紀要. 教育科学・人文・社会科学・自然科学 (ISSN:18808581)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.7-16, 2011-02-25

The aim of this paper is to consider how theoretical linguistics can contribute to providing learners with metalinguistic knowledge and developing their grammatical awareness in the school curriculum, with special reference to the relation between generative grammar and English as a foreign language (EFL) in Japan. Back in 1970s, generative grammar and EFL were much more intimate than they are now, but along with the theoretical development of generative grammar in 1980s, English teachers came to give it the cold shoulder. Their divorce was inevitable because teachers in those days attempted to introduce technical details of generative grammar directly into the classroom. In light of the lessons in the past, I argue that it is important to distinguish the knowledge employed by learners to organize their interlanguage grammar and the knowledge necessary for teachers to arrange their teaching materials, and that the metalinguistic knowledge obtained from generative grammar primarily fall into the latter category. Specific areas of contribution from generative grammar to EFL include, among others, the awareness of constituent structure, the distinction between arguments and adjuncts, and the interaction between lexical information and grammatical rules.
著者
山本 達之 高橋 哲也 山本 直之 神田 啓史 伊村 智 工藤 栄 田邊 優貴子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

南極上空に南半球の春先に発生するオゾンホールの影響で,地上への紫外線照射量が増加したための生態系への影響を,動物の眼の組織に注目して, FT-IRやラマン散乱スペクトルなどの分光学的手法によって調べた。その結果,牛眼の角膜のコラーゲン分子が,紫外線によって断片化していることが明らかになった。また,牛眼の水晶体のクリスタリンが,紫外線照射によって黄変し,トリプトファン残基だけが特異的に破壊されていることが明らかになった。
著者
石井 徹
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

我々はふだん、一方では他者と向かい合って協力したり、逆に競争したりしている。しかし他方では結構長い時間、他者に身を委ねたり、逆に自己を主張したりして暮らしている。前者を「向かい合う信頼」、後者を「並んで座る信頼」と呼ぶ。本研究は、Garfinkel(1963)を直接の起源とする。一度崩壊した「信頼」を放ったとき、あらたにどのような「信頼」が生まれるかを探った。本研究は仮想状況を用いた実験的調査である。すなわち(a.)パーソナル・コンピュータのディスプレイ上に展開する仮想迷路と仮想アドバイザーへの対応データに基づいた(b.)具体的な意志決定パターンの変化から、(c.)信頼の形成・崩壊過程を実証的に描き出すことを試みた。本研究は平成6年度から平成8年度にかけて、実験による資料収集とその基礎解析を行った。また平成8年度は、さらに全体的分析を行った。被験者は132名(6年度49名、7年度45名、8年度38名)。18歳から25歳までの男女大学生(男子45名、女子86名)および男子社会人(38歳)1名。練習試行の後、被験者は、5回迷路をさまよった。被験者は第4試行と第5試行では迷路内に発生する「火災」を避けながら脱出した。このとき行われる「相棒」の誘導を受け容れるか否かは自由だった。第4試行で火災に3度遭遇し脱出に失敗した98名(男子28名、女子70名)のデータを分析した。分散分析の結果から、第5試行において被験者が第4試行と同様の誘導パターンを示したことを見いだした。これは特に第5試行の第2四半期以降に現れた。既知のものに対する安心と、心理的慣性の法則という二つの観点を提案し、直前に脱出失敗をもたらした意志決定パターンを被験者が再度くり返した現象について考察した。
著者
石野 眞
出版者
島根大学
雑誌
島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 (ISSN:02872501)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.49-53, 2000-12-01

さきに,拙論「パウル・クレーのプリミィティブ」−平成9年12月・島根大学教育学部紀要・第31巻(人文・社会科学編)において・パウル・クレーの造形思考と造形表現における「プリミィティブ」について研究した。先稿では,浜田市世界こども美術館創作活動館の開館ならびに開館記念展『こどもたちのパウル・クレー展』の意義について述べるとともに同展に寄せてアレキサンダー・クレー氏が祖父パウル・クレーの造形表現について述べた講演に基づいて,パウル・クレーの造形思考と造形表現にあるプリミィティブ性「パウル・クレー・プリミィティブ」について研究した。13; 本稿では,武満徹氏のパウル・クレー論,その絵画と音楽について考察する。13; 武満徹氏はパウル・クレーの作品に接して,昭和25年,20歳のとき瀧口修造氏の口添えで美術雑誌『アトリエ』に執筆(月刊誌「アトリエ」1951年/昭和26年6月号)パウル・クレー論を書き,初めて稿料を得た。相前後して初期創作作品の代表となる「二つのレント」が発表されている。13; 本稿では,武満徹氏の創作活動初期に流れるパウル・クレーへの傾倒,作曲と絵画性,その曙光について留意し考察,研究する。13; なお,「パウル・クレー」の表記について,武満徹氏は「パウル・クレエ」と記述しているので武満徹氏の引用文では,そのまま「パウル・クレエ」と記述し,その他については,今までの拙論表記のとおり「パウル・クレー」と表記する。以下敬称を略す。
著者
関 耕平 除本 理史 井上 博夫 藤原 遥
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

被災地域では、地震・津波・原発事故など被災要因や時間経過によって復興に向けたニーズが多様化・複雑化し、従来型の画一的な行政対応では十分に応えられない状況にある。本研究の目的は、「参加型予算」に基づいた機動的で柔軟な復興行財政制度の具体像と、地域自治組織に予算編成・決定権限の一部を委ねる自治体内分権のありかたを明らかにすることで、多様化・複雑化する被災者の復興ニーズに応える復興政策を実現する。
著者
成相 裕子
出版者
島根大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

動脈硬化の発症あるいはその経過に深く関連する血管平滑筋細胞の増殖は、粥状動脈硬化巣(プラーク)の形成における重要な因子の一つである。PDGFはプラーク形成部位の活性化されたマクロファージ、平滑筋細胞、内皮細胞、あるいは血小板より産生放出され、血管平滑筋細胞の内膜への遊走、増殖を促進し、その結果内膜肥厚を引き起こし、動脈硬化症を引き起こすと考えられている。エピガロカテキンガレート(EGCG)は緑茶に含まれるポリフェノールで、近年、心臓疾患を引き起こす動脈硬化の発症の抑制や高血圧予防、体脂肪燃焼作用について効果があると研究されている。我々は培養ラット血管平滑筋細胞(A7r5 cell)をEGCG2時間前処理の条件下でPDGF刺激すると、PDGFによって誘導されるERK1/2、MEK1、AktがEGCG存在下では著しく減少し、PDGF-βレセプターのリン酸化は濃度依存的に減少すること、初期応答遺伝子c-fos,c-junの発現も抑制されることを明らかにした。従って、A7r5細胞株を用いEGCGによる細胞増殖抑制効果が、リガンド、受容体、または両者への作用によって引き起こされるかを分子レベルで明らかにすることを目的とし、1.EGCGのPDGF刺激によるERK1/2、MEK1のリン酸化に及ぼす効果、2.EGCGの増殖に関与する極初期遺伝子の発現に及ぼす効果、3.EGCGのPDGF刺激によ.るPDGFβ-受容体のリン酸化に及ぼす効果、4.EGCGのPDGF刺激によるAktのリン酸化に及ぼす効果、5.EGCGのPDGF刺激による細胞増殖に及ぼす効果について検討を行った。その結果、EGCGはPDGFシグナル伝達経路の鍵となる分子であるPDGFβ-受容体、ERK1/2、MEK1、Aktのリン酸化を有意に抑制し、さらに極初期遺伝子c-fos,c-junの発現を減少させ、細胞増殖を有意に抑制した。これらの結果は、EGCGが動脈硬化症の憎悪因子と考えられている血管平滑筋細胞の増殖を抑制する分子機構を明らかにし、動脈硬化やそれに基づく心血管疾患に対するEGCGの有用性を示すものである。
著者
田中 俊男
出版者
島根大学
雑誌
島大国文 (ISSN:02892286)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.38-46, 1999-03-15
著者
久保 満佐子 崎尾 均 須貝 杏子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

日本海にある隠岐諸島では,氷河期の遺存的な樹種が暖温帯に生育するのが特徴である。氷河期遺存樹種の分布を調べた結果,北方系針葉樹のヒメコマツは山地の露岩地,クロベは海岸から山地まで,第三紀遺存種のカツラは渓流沿いに分布していた。冷温帯樹種のミズナラは海岸から山地まで生育するものの島の北側に偏って分布し,北西の季節風の影響により冷涼で降水量の多い環境が生育地となっていると考えられた。さらに,遺伝的多様性を調べた結果,クロベは隠岐諸島を氷河期の避難地とした可能性があった。隠岐諸島は日本の気候変動における樹木の変遷を知る上で重要な島嶼であるといえる。
著者
長谷川 有紀
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ビタミン B1 欠乏による脚気が最近になって小児に増加していることが明らかになった。これはイオン飲料の過剰摂取や厳しい食事制限による、糖質の摂取とビタミン摂取とのアンバランスが原因となっていた。その他にも、ミルクアレルギー用の特殊ミルクによるビオチン・カルニチン欠乏や、抗菌薬の長期投与によるカルニチン欠乏など、様々なビタミン欠乏が現代の子どもたちに発見された。バランスの良い食事摂取を指導するとともに、食事制限などが必要な場合にはどんなビタミンを補充すべきか、どんな症状に注意すればいいのかが明らかになった。
著者
戒能 智宏
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

分裂酵母(S. pombe)のコエンザイムQ10の欠損株の生育には、システイン(Cys)やグルタチオンなどの抗酸化物質の添加が必要であるが、CoQ欠損が遺伝子発現に及ぼす影響は明らかにはされていない。そこで、CoQ合成不能株の遺伝子発現をマイクロアレイを用いて調べたところ、イオンや硫黄を含む分子種に関連するトランスポーターの遺伝子に発現の増加が見られた。また、システイン合成酵素遺伝子破壊株は、過酸化水素やパラコートに対して強い感受性を示し細胞内の活性酸素種(ROS)量が顕著に増加していた。
著者
山口 陽子
出版者
島根大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

我々ヒトを含む脊椎動物の大半は、鰓や腎臓の働きにより、体内の水分とイオンのバランスを常に一定に保つ「調節型」生物である。この体液調節能力の起源を明らかにするため、現生脊椎動物で唯一、体液組成が海水と等しい「順応型」のヌタウナギに着目する。ヌタウナギの鰓・腎臓および筋肉で、各種物質輸送に関わる分子群やホルモン受容体の局在パターンを調べ、個体レベル(鰓・腎臓)および細胞レベル(筋肉)での体液調節機構を検証する。これにより、「調節型」と「順応型」の違いを生み出す分子基盤を解明する。
著者
木原 淳一
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

イネごま葉枯病菌を用いて、近紫外線及び青色光照射によって発現が増加する50以上の新規光環境応答遺伝子を明らかにした。そして、光受容体の候補となりうるオプシン様遺伝子、及び、青色光受容体(BLR1)の制御を受ける遺伝子等を見いだした。イネごま葉枯病菌の分生胞子形成は太陽光の照射条件に依存しており、宿主植物への感染に対する寄生戦略が推察された。また、紫外線防御に関連するメラニンの植物病原糸状菌における役割を明らかにした。
著者
関 耕平
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、1)鳥取・岡山両県の県境に位置する人形峠におけるウラン鉱山から排出された放射性廃棄物(ウラン残土)残置問題の解決過程の分析、2)これまでの産業廃棄物の不法投棄事件との異同を明確化すること、3)放射性廃棄物の保管・処理や移動・撤去をめぐる地域紛争の現状と政策課題を明らかにすること、である。とくに福島原発の事故以降、各地で放射性廃棄物の中間貯蔵施設建設・立地をめぐって地域紛争が生じている状況に対し、残置状態から完全撤去へと至った人形峠ウラン残土問題の解決過程を踏まえて分析し、コミュニティ再生の重要性とその政策課題について明らかにした。
著者
長谷川 博史
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、中世の山陰地域の流通構造について、西日本海水運との連関性を追究することによって、明らかにした。たとえば、富田城下町は、戦国大名尼子氏の拡大によって、16世紀前半に急速に発展し、鉄の加工を通して内陸部と海を結びつけた。また、杵築門前町は、16世紀後半に、石見銀山の開発の影響を受けて急速に発展し、鉄の積み出し港としても重要な役割を果たしたので、内陸部と海を一層強く結びつけた。
著者
内山 登美子
出版者
島根大学
雑誌
島根大学論集. 教育科学
巻号頁・発行日
no.7, pp.21-33, 1957-03-30

島根県が,近親結婚の濃厚地の一つであることは,いろいろな資料により,叉機会ある毎に察知出来ることで,農村にも山村にもこの傾向があるが,島根半島の日本海側の漁村部落では,一部落が,1~7姓位で占められている所が少くない。八束郡八束村は外部との交通が少し不便ではあるが,近親結婚が26.8%と報告されている。今年8月八束郡鹿島町恵曇の片句部落の調査では30%を上廻る様な結果が出た。昭和18年9月発行の精神神経科雑誌47巻に,東京大学の精神科資料で兵庫県家島郡島の遺伝負荷の研究が記載されている。これによると同所の近親結婚濃厚地では20.3%と発表されている。これに比較すると島根県は、はるかに上廻つている。八束村とか日本海沿いの漁村は特別かも知れないがいすれにしても,他の先進地に比べて近親結婚が多いことは否定出来ないと思う。こうした血族結婚,ことに数代にわたる近親結婚によつて生れ出る子供に何か影響はないであろうか。最近大きく取りあげられて来た精神薄弱児問題と近親結婚の関係に強い興味を感じた。 叉動物の発生学的研究では身体並びに精神の異常の原因を内因と外因にわけているが,最近は外因に重きを置く傾向が次第に強くなつて来た。糖神薄弱児の原因にもこの傾向がありそうに考えられた。 今一つ,精神薄弱児の知能欠陷が,内因性のものでは軽度で,高度のものは外因性のものに多いといわれる様になつて来たが,この点にも検討の必要を感じた。 恰度,昭和28年頃より島根県立中央児童相談所で乳幼児の研究の機会を与えられ,同所に来る相談児の実態を見聞し,精神薄弱児をもつた家庭の悲惨,両親,兄弟,教師の苦難の状態を見るにつげ,何とか原因をつきとめ,これが未然防止の一助ともなればとひそかに考え本調査に着手した。
著者
山根 精一 別所 健治
出版者
島根大学
雑誌
島根大学論集 自然科学 (ISSN:04886542)
巻号頁・発行日
no.4, pp.105-111, 1954-03

島根県下の地質分布は,中国山脈に沿う火成岩(火山岩−石英粗面岩,玄武岩,安山岩,火山岩。深造岩−花崗岩,石英斑岩,閃緑岩,フン(王へんに分)岩。)が東より西南に帯状の基盤を置いて,北に斜走海岸に延び,叉水成岩(古生層−秩父古生層。中生層−御坂層。近生層−第三紀層,第四紀層,石灰岩。)が主として海岸に沿うている。本県の土地面積は全国各県のそれに比べて狭くはないが,土地利用上から見ると,耕地は10%弱で全国平均17%に比べて下位,叉耕地の利用度は119%で全国平均133%に比べて少く,更に自然的条件が略同様である隣接島取県の141%より遥かに低位にある。降水量については,平地1,500mm以上(島根半島の北岸.石見の沿岸)山地2,000mm以上(那賀,邑智両郡の山地,三瓶火山群地域)である。土壌母岩,地勢及び多雨気候と相侯つて地力の消耗は相当の面積に昇り,山麓地域は急傾斜,沿岸地域は砂丘を含む荒廃地が散見される。自然可耕地も荒廃のまま放置される現状である。終戦後は耕地の放棄150戸,50町歩に及びその地域は丘陵地及び山地に多い。これが対策としては,地力の維持増進と土地利用の新なる構想による農業経営改善が急務である。これについては,機械化と畜力利用による労力の節約,灌漑排水,干拓及び高冷地利用の適地適作主義の採用等が拳げられるがその実施に先駆して,地力維持及ひ土地利用の対策植物として何を導入するかが間題である。即ち先づ砂防,土壌侵蝕と水分肥料分流亡を防ぐ障壁となる植物を栽植してその繁茂に応じて各種作物が栽培できるやうに措置することが先決であると思考する。 筆者等はこの対策植物として,発根,根張,土壌関係及び水湿関係等を勘案し丘陵地,傾斜地に於いても自生し得るやしやぶしを採択した。実験は本学出雲農場で実施した。 本報告は栽植,成長土壌えの影響及び家畜飼料としての価値等に関する事項であつて今後尚この研究を進めたい。