著者
青野 敏博 東 敬次郎 苛原 稔 池上 博雅 廣田 憲二 三宅 侃 田坂 慶一 堤 博久 寺川 直樹
出版者
徳島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

TRHやLH-RHは下垂体前葉からプロラクチン(PRL)やLHの分泌を促進する. 一方PRL産生下垂体腫瘍の治療にはドーパミン(DA)の作動薬であるブロモクリプチンが繁用されており, PRL分泌を抑制するほか, 腫瘍を縮少させる効果のあることが知られている. 本研究の目的はPRL, LH分泌時における下垂体細胞内情報伝達機構について明らかにし, DAのPRL分泌抑制作用を検討する実験系としてラット下垂体前葉細胞またはPRL産生下垂体腫瘍であるGH3細胞を用いた. 実験結果をまとめると, (1)マイトトキシンは下垂体細胞内へCa^<2+>の流入を起こし, PRL分泌を促進した. (2)^<32>Pのホスファチジールイノシトール(PI)への取り込みを検討した結果, TRHはPIの代謝回転を促進した. (3)Ca^<2+>によって活性化され, PIを分解するphosphol:pase Cの作用によってジアシルグリセロール(DG), IP3から産生されPRL分泌を促進した. (4)下垂体前葉にはCキナーゼが存在し, PMAによって活性化された. PMAを細胞に添加するとLH, PRLの分泌が促進された. またTRHを作用させると細胞内のCキナーゼは細胞質から膜分画へ移行した. (5)細胞内に取り込まれた標識アラキドン酸はTRHによって放出された. (6)添加されたアラキドン酸はPRL, LHを放出した. (7)アラキドン酸の代謝産物のうちPGは影響を及ぼさなかったが, lypoxygenaseの代謝産物である5-HETEとLeukotrienB4がPRL, LHの分泌を促進した. (8)下垂体前葉細胞における上記の情報伝達系の各ステップはDAによって抑制されたことからDAは全てセカンドメッセンジャーを抑制していることが考えられた. DAの受容体を持たないGH3細胞ではDAによるPRL分泌抑制作用は認められなかった. 以上の結果より, TRH, LH-RHはDG-Cキナーゼ系, Ca^<2+>-アラキドン酸系を細胞内情報伝達系としていることを明らかにし, DAは受容体に結合後, これらの全てのセカンドメッセンジャーを抑制していると考えられる.
著者
横井川 久己男
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

大腸菌O157に対する電子レンジのマイクロ波の影響を調べた。本病原体の電子レンジ処理により、生細胞数と酸耐性は共に低下した。また、電子レンジ処理後に新たに増殖した本菌のベロ毒素生産性も低下した。種々の食品に接種した本病原体に対しても電子レンジのマイクロ波は、同様の作用を示した。電子レンジの二次的な加熱作用を排除して、37℃で本菌にマイクロ波を照射した場合にも,病原性は低下した。マイクロ波の作用は、細胞密度の増加に伴って作動するクオラムセンシング機構(特にSdiAタンパク質)に影響を与え、病原性を低下させることが判明した。大腸菌O157による食中毒の防止にマイクロ波は有用であると思われた。
著者
柏原 稔也
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

唾液は円滑な咀囑,嚥下を行うために必須なものであり,生体防御においても,重要な役割を果たしている.しかし,加齢,投薬の副作用などによる唾液分泌量の減少や唾液性状の変化は,口腔内の自浄性を低下させ,細菌叢だけでなく,摂食・嚥下機能にも大きく影響すると考えられる.さらに,これらのことが誤嚥性肺炎などの呼吸器疾患や,消化器疾患の誘因や増悪要因になることが予想される。そのため,高齢者の唾液の性状を評価することは重要な課題であると考えた.今回,高齢者,要介護高齢者では,若年者と比較して,ムチン,アルブミン濃度が有意に高く,カンジダの検出数も有意に多かった.また,カンジダの検出数が多い群では,検出されない群と比較して,ムチン,アルブミン濃度が高い傾向にあった。これは,唾液中のムチン濃度の増加がカンジダの増殖を導き,誤嚥性肺炎のリスクの高い環境を作り出すというわれわれの仮説を証明する結果であった。一方,唾液中のアルブミン濃度は仮説とは逆に,高齢者,要介護高齢者で高くなった。唾液中のアルブミンは歯周組織や口腔粘膜の血管から漏出することより,栄養状態を反映するのではなく,口腔内の炎症により増加するのではないかと考えられる。そのため,唾液中のアルブミン濃度を測定することは,口腔内の感染や炎症を測るうえで重要であるといえる。以上のことより,カンジダ,ムチン,アルブミンに注目した唾液評価によって,誤嚥性肺炎のリスクファクターや,高齢者の口腔の健康状態を評価できる可能性があり,臨床的に重要な応用性をもつものであるといえる.
著者
向井 理恵
出版者
徳島大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

不活動状態や無重力状態で引き起こる廃用性筋萎縮からの回復を助ける食品成分に関する研究を行った。実験動物に筋肉の萎縮を誘導し、そのあとにプレニルフラボノイドを混合した飼料を与えることで骨格筋の回復状況を評価した。プレニルフラボノイドを与えることで、骨格筋の萎縮からの回復の程度は改善した。作用メカニズムとしてフィトエストロゲン活性が寄与する可能性が示唆された。今回の成果は筋萎縮によって引き起こされるQOLの低下を改善する可能性がある。
著者
佐瀬 卓也 阪間 稔 黒崎 裕 木下 悠亮 荒川 大輔 桑原 義典 入倉 奈美子
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

医療施設や研究施設で用いられる放射性ヨウ素等の放射性廃液を、放射性物質回収材(シクロデキストリン重合体(CDP)、食品用活性炭等)を用いて簡便に捕獲する方法を開発した。β-CDP、活性炭、2者混合、を試験しそれぞれ99. 2%、86. 6%、85. 5%の捕集効率を得た。回収した放射性物質は放射線計測により数値または画像にて定量可能であった。本法は放射性ヨウ素の簡便な捕集に有効であり、臨床の場における放射性廃液の一次処理及び原子力災害時に汚染された飲料水の簡易浄化にも応用が可能であると思われる。
著者
堀河 俊英
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、創・蓄・省エネルギー化が求められ、化学プロセスから排出される低位レベルの熱エネルギー回収システムのひとつとして水蒸気吸着式ヒートポンプ(WAHP)が注目されている。そこで本研究ではWAHP運転圧力範囲で急激かつ大きな水蒸気吸着を示す高性能炭素系水蒸気吸着剤の開発に取り組んだ。炭素系吸着剤に対する水蒸気吸着等温線の立ち上がり位置を低相対圧部へシフトさせるために細孔特性を制御した多孔質炭素材料を調製し、また、それらに窒素原子を導入することで、WAHP運転圧力範囲において水蒸気吸着量差は、窒素ドープを行っていない炭素材料に比べて5倍となる高性能炭素系水蒸気吸着剤の開発に成功した。
著者
岸江 信介
出版者
徳島大学
雑誌
言語文化研究 (ISSN:13405632)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.185-220, 2000-02-20

Through two different surveys, I would like to clarify the movement of dialects and variation in Osaka prefecture. I have engaged in surveying both for making dialectal maps and Glottograms for past ten years in Osaka. These results showed how dialects have changed especially in the southern area of Osaka. Dialect in the Osaka city has diffused and effected to the it's area.
著者
阪間 稔
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の研究目的は,中性子不足アクチノイド核種領域の特異な壊変形式である電子捕獲遅延核分裂(ECDF ; Electron Capture Delayed Fission)と,その微弱なα壊変を詳細に調べることである.この研究から得られる実験データは,地球上にこれまでウランより重い元素が存在しない理由を明らかにするだけでなく,超アクチノイド元素の原子核質量値を実験的に与え,不安定核種領域における原子核の安定性に関する新しい知見を与えてくれる.本年度は,当該研究題目の最終年度にあたる.本研究の初年度(平成17年度)から引き続き,これまでECDFと微弱なα線を高効率かつ,同時計数測定するための特殊な測定装置システムの開発に継続的に着手してきた.これまでの研究概要として,初年度では,本研究の特性上,大型加速器施設(日本原子力研究開発機構タンデム加速器や,理化学研究所AVFサイクロトロンなど)を使用するので,個々の実験期間で各々の施設における固有のデータ収集系システムを使用するしかなかった.しかしながら,当該研究費により,我々独自のスタンドアロン形式によるデータ収集系システム(マルチイベント解析モジュールの岩通計測A3100システム)を整備することができ,各実験でのオンラインデータ間の整合性を一元化し,迅速かつ正確に解析することができるようになった.本年度(平成18年度)では,ECDF測定装置システムに組み込む予定であったECDF現象に伴う特性X線及びγ線を検出するための高純度ゲルマニウム半導体検出器を整備した.そこで,上記のデータ収集系システムとの動作試験を繰り返し行い,十分にオンライン実験に対応できることを確認した.今回,研究計画の予定であったECDF現象に伴う核分裂片や,その現象後の微弱なα線検出のためのSi表面障壁型半導体検出器の整備で,若干の不備が生じ,この点について計画通りに進めることができなかった.今後も引き続き,この問題点について改良・改善していく予定である.本研究と密接に関連して継続的に行っている共同研究である日本原子力研究開発機構の浅井氏らとのオンライン実験(^<259>Noのα-γ核分光実験)に参加した.この実験により,微弱なα線測定方法について議論を交わし,^<259>Noの基底状態の中性子軌道配位を決定することができた.
著者
滝沢 宏光 近藤 和也 先山 正二 梶浦 耕一郎
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

術中の胸膜浸潤診断に自家蛍光を用いることで正診率が向上することを示した.蛍光内視鏡所見とHE染色標本の蛍光顕微鏡所見は,胸膜浸潤部位において同様の所見を呈しており,肺癌の胸膜浸潤部における自家蛍光減弱は癌の浸潤性を反映している可能性を組織学的に示すことができた.胸膜の自家蛍光の変化にcollagenⅠ, fibronectinが関与している可能性がある.肺癌切除症例を対象とした後ろ向き検討では,リンパ節転移は胸膜浸潤症例で有意に多く,胸膜浸潤症例にスキップ転移も多いことが示された. 術中に胸膜下に注入したICGの蛍光を観察することで,スキップ転移経路を可視化できる可能性も示すことができた.
著者
野間口 雅子 宮崎 恭行 足立 昭夫
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

HIV-1 Vif とAPOBEC3Gとの拮抗はウイルス複製にとってcriticalである。HIV-1の馴化・適応研究から、SLSA1を含むスプライシングアクセプター1近傍の領域(SA1prox)に自然に存在する1塩基置換によりウイルス複製能が変動することを見出した。本研究では、このようなウイルス複製能の変動が、Vif発現量の増減により起こることを明らかにした。さらに、Vif低発現変異体の馴化実験により、vif mRNA産生に関与するSA1prox以外のゲノム領域が存在すること、また、APOBEC3Gにより強力に複製が抑制される環境下でも、HIV-1が極めて高い適応能力を持つことが示された。
著者
原水 民樹
出版者
徳島大学
雑誌
言語文化研究 (ISSN:13405632)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-75, 2013-12
著者
原水 民樹
出版者
徳島大学
雑誌
言語文化研究 (ISSN:13405632)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-75, 2013-12
著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴うヒト遺伝病であり、その発症率は新生児の約四千人に一人である。精神遅滞以外には、自閉症的症状や睡眠障害、その他特異な身体的特徴を示す。病理学的には、神経シナプス形成の場であり、脳高次機能に直接関わることが確実視されている樹状突起状スパインの形態異常を示す。1991年、脆弱X症候群の原因遺伝子FMR1が同定された。FMR1の5'非翻訳部位に位置するCGGリピートの異常伸長と過剰なDNAメチル化によるFMR1遺伝子の転写阻害が発症原因であることがわかっている。私は、FMR1というたった一つの遺伝子の発現(機能)欠失が精神遅滞発症へと至る分子機序に興味を持っている。現在は、FMR1側系遺伝子をもたないショウジョウバエをモデル生物として選択し、ショウジョウバエFMR1(dFMR1)の機能解析をすすめている。主に生化学的手法を駆使することによって、交尾制御因子lingererがdFMR1と特異的に結合する事を突き止めた。lingerer欠損変異体ショウジョウバエ交接器には形態変化が観察されないため、神経筋系の異常が交尾接合異常の原因であると考えられる。dFMR1欠損変異体では神経筋結合のシナプス末端に異常が観察される事をふまえ、これら2つの遺伝子の相互関係を遺伝学、生化学両面から解析しつつある。lingererはUBAドメインを有することから、ユビキチン経路において何らか役割を担う因子であると推測された。最近、lingererはRNA結合性タンパク質であり、dFMR1/lingerer複合体はsmall RNA分子を含む事を見出した。現在、このRNA分子の配列決定を進めている。ヒトlingerer相同体もFMR1と結合する事を見出した。今後、ショウジョウバエに限らず、哺乳細胞も扱うことによって、FMR1とlingererの相互関係を解析する。
著者
塩見 春彦 岡野 栄之 塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

脆弱X蛋白質のショウジョウバエ相同体dFMR1タンパク質がRNAi分子経路と相互作用することを明らかにし、「RNAi分子装置の異常による疾患」という新しい領域を開いた。さらにdFMR1複合体(dFMR1-RNP)の精製を進め、この複合体にはRNAi関連因子AGO2とDmp68のみならず、性行動関連因子Lingererが含まれていることを明らかにした。また、この複合体には約20塩基長の小分子RNAが含まれていることも判明した。クローニングを進めた結果、約20塩基長の小分子RNAは内在性siRNAであると考えられた。そこで、AGO2と相互作用するは内在性siRNAのクローニング法を確立し、それらの配列情報を得た。また、Lingererにはヒト相同体(AD-010とNICE-4)が存在し、これらがヒトFMR1と相互作用することを確認した。一方、Musashi1 (Msi1)に結合する共役蛋白質の濃縮・精製を行い、MALDI-TOF MS法でPoly (A) Binding Protein 1 (PABP1)を同定した。Msi1はPABP1のeIF4G結合部位(PABP1のN末部位)に結合し、eIF4GとPABP1の結合を積極的に解除または弱めていることをin vitroの結合実験で明らかにした。またMsi2単独欠損マウスの個体の解析を行ったところ、背側神経節の発達不全のために脊髄との線維連絡が低下していることが明らかとなった。さらに、Msi2の標的遺伝子の解析を行ったところプライオトロピン(ptn)が同定され、ptnのmRNAの3'非翻訳領域に特異的に結合し、その発現を転写後調節していることが明らかになった。
著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

申請者は、精神遅滞を最も高頻度に伴う遺伝性ヒト疾患である脆弱X症候群原因遺伝子FMR1の機能解析を続けてきた。その過程において、FMR1遺伝子が翻訳調節に関与するRNA結合蛋白質をコードすること、さらには、ショウジョウバエFMR1相同蛋白質がRNAi活性中心であるRISC複合体の構成因子Argonauteと結合する事を明らかにした。FMR1遺伝子の機能を探索する上で、RNAi経路に関する新知見を得ることは必須であると考え、RNAi機構分子メカニズムの解析を進めた。基盤(A)によってサポートされた3年間における成果は以下の通りである。ショウジョウバエで恒常的に発現するArgonaute蛋白質(AGO1とAGO2)がそれぞれsiRNA、miRNAと結合する事によって遺伝子発現抑制機構において標的RNA切断nuclease(Slicer)として働くことを分子レベルで明らかにした。ショウジョウバエ抽出液を用いて行うRNAiにはATPは不必要である事を明らかにした。AGO2がsiRNA duplexのunwinding因子であることを明らかにした(以上、Miyoshi et al. Genes & Dev 2005)。生殖細胞特異的に発現するArgonauteの機能に関して研究をすすめ、Piwi、Aub、AGO3がrasiRNAと結合する事によってレトロトランスポゾンの遺伝子発現を抑えること、つまり「ゲノムの品質管理機構」に機能的に寄与することを明らかにした。これらArgonauteの機能が生殖細胞の維持・形成に必須であることが示唆された(Saito et al. Genes & Dev 2006;Gunawardane et al. Science 2007)。ショウジョウバエrasiRNA生合成経路に関するモデルを提唱した(Gunawardane et al. Science 2007)。(成果抜粋)
著者
塩見 春彦 井上 俊介 塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

我々はトリプレットリピート病の代表例である脆弱X症候群の分子機序の解析を行っている。脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴う遺伝性の病気である。大部分の脆弱X症候群患者では、X染色体上に存在する遺伝子FMR1の5'非翻訳部位にある(CGG)nリピートが伸長し、その結果FMR1遺伝子産物の発現が転写レベルで抑制される。つまり、この病気はFMR1の機能欠損によるものである。FMR1の発現は健常人では脳神経系で非常に高く、一方、FMR1の発現のない脆弱X症候群患者は脳神経系の形態異常、特にシナプス形成の場であるスパインの形態異常を示す。FMR1蛋白質はRNA結合蛋白質で、しかもリボソームと相互作用していることからある種のmRNAの翻訳を直接叉は間接的に調節していると考えられているが、標的mRNAは今だ同定されていない。したがって、FMR1蛋白質の標的mRNAの同定はFMR1研究の最重要課題となっている。FMR1の標的mRNAを同定するために、我々はFMR1遺伝子の発現の変化に伴いその動態を変化させる蛋白質の同定をプロテオミクス解析法を用いて進めている。この研究を推進していくために、脆弱X症候群患者から樹立した各種細胞株と患者の正常な兄弟から同様に樹立した培養細胞株を用いている。この研究過程において、我々は、FMR1蛋白質はリボソームと相互作用していることから、患者由来と正常細胞におけるリボソーム分画の蛋白質レベルでの比較を行い、顕著な違いがあることを見い出した。この結果はFMR1蛋白質の有無がリボソームに構造的または質的な変化を与えることを示唆している。これは、ひいてはこのリボソームの構造的または質的な違いが翻訳するmRNA種のセレクターとして働いている可能性を示唆する。正常細胞においても、刺激に応じたFMR1蛋白質の修飾がリボソームとの相互作用を変化させ、その結果、リボソームの構造的または質的な変化を誘導することが考えられる。現在、両者で発現量に違いの見られる蛋白質の二次元電気泳動法による分離と質量分析による同定を進めている。さらに網羅的にFMR1蛋白質の有無により動態変化の見られる蛋白質の探索を進め、FMR1蛋白質の『標的遺伝子』を同定し、それらの発現調節機構の解析を通して脆弱X症候群の分子機序を明らかにしていきたい。
著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

脆弱X症候群は最も頻度の高い遺伝性精神遅滞症でありFMR1遺伝子内CGGリピートの伸長によるFMR1遺伝子の転写阻害を起因とする。FMR1はRNA結合蛋白質であり、特定のmRNAを細胞質loci(Stress Granule様)に集積することによってその翻訳抑制を促していると考えられている。翻訳抑制の標的mRNAや分子メカニズムは未だ解明されていない。我々は、脆弱X病態モデル動物として、ショウジョウバエFMR1相同遺伝子(dFMR1)の欠損体を作製し、この変異体が概日リズムの異常、記憶障害、性行動異常を示すこと、生化学的な解析から、dFMR1がRNAi必須因子AGO2や、性行動調節遺伝子lingererと相互作用することを明らかにした。最近、ヒト細胞において、RNAiやmicroRNAによる遺伝子発現抑制はP-bodyと呼ばれる細胞質lociで起こることが示された。ショウジョウバエ細胞においてもAGO2やlingerer、dFMR1が細胞質中の特定の同一lociに局在する事を明らかにした。これがショウジョウバエStress Granule様lociあるいはP-bodyに相当するか、現在解析している。ヒトP-bodyマーカー分子として知られるGW182のショウジョウバエ相同体はmicroRNA機構必須因子AGO1に特異的に結合する。GW182はUSBドメインとRNA結合性ドメインを一つずつ有する。Lingererも、GW182とのアミノ酸配列上の相同性は低いもののUSBドメインとRNA結合性ドメインを一つずつ有する。今後、dFMR1による標的mRNAの翻訳抑制と、AGO2-RNAi機構による遺伝子発現抑制の関係やmicroRNA依存的遺伝子発現抑制との相違性などを明らかにする。