著者
土屋 武志
出版者
愛知教育大学
雑誌
教養と教育 : 共通科目研究交流誌
巻号頁・発行日
vol.3, pp.51-56, 2003

本稿は,大学の教養教育における東アジア史認識の意義とその改善の方向性を明確化することを試みたものである。学習者は,大学教育において,物事を自由に見る経験を得る機会を持つ。大学の教養教育において,その経験を与えることは,重要な教育的意味を持っている。大学の教師特に歴史担当者は,当然のこととはいえ,自身の歴史解釈が絶対的真実とは限らないことを常に自覚して学習者の自由な思考を保証する授業を計画する必要がある。と同時に,受講者である学生自身に「歴史」の持つこの特性を理解させる必要がある。そしてそれは,講義による一方的な伝達という方法でなく,学生自身が調査し,その収集した情報を批判的に検討しあったり,討論したりする方法を用いて,経験的に気づかせ理解させるような授業によるべきである。
著者
石田 博幸
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

国際教育援助を考えるとき、自然科学は世界共通であり、日本の理科教育がそのまま世界に通用すると思われがちである。しかし、児童の持つ初期科学概念が自然、社会、言語、文化宗教的な環境によって、大きく異なり、場合によっては互いに、一方には存在しない概念を、他方では当然の既有の概念として持っていることもある。このことを裏づけるために日本、タイ、ラオス、中国、ロシア、ホンジュラスの小学生に対して共通のアンケートを依頼し、その結果を検討した。各国における調査は、過去、及び現在の本学への留学生や、報告者の知人等に依頼した。結果、多くデータから貴重な情報が得られた。この研究結果は、国際教育協力に関る際には、自然科学といえども、その国、地方を理解した上で、協力にあたるべきであることを結論している。調査地域と調査数は6ケ国、11地域、1582名に及んだ。調査形式は,記述欄を含む選択式で、内容は、太陽、熱、光など、主に地域の気候環境をテーマとし、第2回調査においては、宗教、生命観を主題に設定し、概念地図方式も取り入れた。データ処理はMS-Windows上でMS-Visual BASICを使った。データ処理は多岐にわたる。その関係を見るための他種類のデータ解析・表示プログラムを作成した。単純統計をとった場合、特に大きな差がないケースも、個々の回答の組み合わせをみると、差が顕在化してくる。このような新しいデーター解析法によって、従来、単純に集計されていた研究データーからも新しい情報を汲み出せる可能性があることを示した。結果から作成した概念地図において気候環境、およびそこから派生している言語、宗教文化の差を色濃く表している結果がえられた。このように得られた知見は多く、おおむね報告者の仮説を裏付ける結果が出た。成果は5回の学会、8編の論文として公表した。
著者
野崎 浩成
出版者
愛知教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,電子化された新聞記事フルテキストデータベースを対象に,カタカナ語の使用実態調査を実施した。本研究での調査により,海外在住の日本語学習者や成人の外国人留学生を対象とした語彙習得支援環境を構築するために必要な基礎的データを得ることができた。具体的には,国民への定着度や使用頻度の低いカタカナ語を明らかにした上で,それらのカタカナ語の特徴を分析した。そして,それらのカタカナ語について,定着率や頻度が低い理由を考察し,語彙習得を促すための適切な学習方略を提案することを試みた。次に,国立国語研究所(2003)が定めた『第1回「外来語」言い換え案』に示された「カタカナ語62語」を対象に,その使用実態を調査した。その結果の概要は,次の通りである。「カタカナ語62語」のうち1993年と1996年の新聞で使用されていなかった語(オンデマンド,フィルタリング,プロトタイプなどの6語)は定着度が低いこと,「アクセス」や「コンセンサス」のように新聞での使用頻度が高いにもかかわらず,国民各層への定着度が低い語が存在すること,などが示された。さらに,「カタカナ語62語」について電子辞書『大辞林』(第二版)での辞書掲載状況を分析した。その結果,1.複数の見出し語として大辞林に掲載されているカタカナ語であっても,使用頻度や定着度が著しく低い語(モチベーション,アジェンダ,モラトリアムなど)が存在すること,2.大辞林には掲載されていないカタカナ語は16語(オンデマンド,フィルタリング,インターンシップなど)が存在すること,3.2で述べた16語の多くは使用頻度や国民への定着度が低く,複合語(セカンドオピニオンなど)もいくつか含まれていること,などが明らかになった。こうして得られた結果は,日本語教材に掲載するカタカナ語を選定する際の基礎的資料となり,語彙習得支援環境を構築するために役立つ有用な知見となり得る。
著者
池上 知子
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、不本意な学歴アイデンティティが他者に対して抱く偏見や差別感情の形成にどのように影響するかを、社会的アイデンティティ理論に依拠しながら検討した。具体的には「所属大学に自己同一視できず不本意な社会的アイデンティティに甘んじている学生ほど、自大学からの離脱を願うがゆえに自大学を卑下し、かつ他の上位の大学の学生に強い羨望を抱くが、同時に不本意な自己の現状を合理化するために、下位の大学の学生を蔑視する」という研究仮説を立て実験的手法を用いてこれを検証した。併せて、研究対象を日本の大学生にすることにより学歴に対する日本の青年の意識構造を明らかにし、日本の学歴社会の抱える問題点を探った。本研究の成果は以下の4点に集約される。1.中庸レベルにある国立大学の学生を対象に他大学の学生に対するステレオタイプ・イメージを表出させたところ、多くの学生が内集団卑下の傾向を示した。この傾向は自身の学歴アイデンティティが顕現化すると緩和されたが、その一方で他の下位の大学の学生を蔑視する度合は強まった。2.大学同一視の低い学生は自大学の劣位が明らかになるような状況下でとりわけ防衛的になり、上位の大学の学生の評価を引き上げ、下位の大学の学生の評価を引き下げる傾向を示した。3.所属大学への同一視の高い学生は、自大学、他大学いずれの学生にも概して好意的な評価をすること、とりわけ、上位の大学の学生のとったポジティブな行動に対して好意的反応を示した。4.1から3で述べた現象には学歴社会の合理性や持続性にかかわる各学生の信念が少なからず関係していることが明らかとなり、不合理だと感じる社会構造の中で不本意な社会的アイデンティティに甘んじなければならない状況が他者に対する偏見や差別感情につながることが示された。

1 0 0 0 OA 英米の俗信(2)

著者
小泉 直
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学研究報告. 人文・社会科学編 (ISSN:18845177)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.53-61, 2013-03-01
著者
鈴木 剛
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教科教育センター研究報告 (ISSN:02881853)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.93-99, 1997-03-29

There are now widespread concerns about human rights issues and human rights education. In this paper, the author has attempted to clarify the concept of human right and to point out a new issue of human rights education by analyzing a historical development of the concept of human rights. The following are several theoretical-practical topics, for example, the right of the child as a new human right, the real significance of the civil right as the natural right, the human dignity as a fundamental element of human rights, and so on.
著者
松井 孝彦
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教職キャリアセンター紀要 (ISSN:24240605)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.175-181, 2021-03-26

本稿は、教育実習の事前演習で行った指導や活動の中から、机間指導に関わる指導及び演習についてその内容と学生の振り返りを報告することを目的とする。筆者は中・高等学校の教員であった頃、授業の目標を達成させるためには机間指導が重要であると考え、その指導を重視していた。しかし、本学附属中・高等学校に勤務をしていた際、教育実習生が机間指導の基礎を理解しておらず、適切に机間指導を行うことができない様子を見てきた。そして、昨年度まで教職大学院の授業内で机間指導の講義及び演習を行ってきた。 2020年度は、かつてない感染症の流行により、教育実習期間が例年よりも1週間短くなった。これに伴い、本学開設の4単位の教育実習において、40時間の時間不足が発生した。そこで、大学で40時間の「教育実習事前演習」を行うことにより、不足した時間を補充することとなった。本稿では、はじめに本学英語選修・専攻の学生に対して行った事前演習全体について説明をする。そして、事前演習内で行った机間指導について、「理論面の指導と学生の振り返り」と「実践演習と学生の振り返り」について報告をする。本稿を通して机間指導力を高めることを目的とした具体的な指導事例と、教育実習の前に机間指導に関する指導を行うよさを示していきたい。
著者
手島 隆一郎
出版者
愛知教育大学
巻号頁・発行日
2021-03-23

「主体的・対話で深い学びの実現」に向けた授業改善が進んでいる。しかし,対話的活動を組織しても, 個別には全く発言しなかったり,発言したとしても1,2回で済ませ,話し合いを他の生徒に任せてしまう生徒が見られ, 表面的な「対話的な学び」が多いことも課題である。本研究は,理科授業における「対話的な学び」に着目して,生徒たちが問題解決で協働しつつ,自分たちの話し合いの状況について自己評価が行える手法であるスパイダー討論を導入した場合の話し合いの在り方やその指導方法について検討し,授業実践を通して,その効果検証を行うことを目的とした。生徒たちは,目標をルーブリックに置き,話し合いや振り返りを行い,教師が発話状況を可視化するクモの巣図を描いて振り返ることを重ねて実践した結果,生徒たちは話し合いに意欲的に参加し,協力するためのスキルや他者の考えを発展させたり,自分の考えを分かりやすく納得を得るように発言したりするスキルを磨くことが確認できた。また,話し合い活動における平等な参加が,生徒集団の親密化を促進し,言語活動の充実にも寄与したものと考えられる。
著者
武本 京子 伊藤 康宏 石原 慎 川井 薫 飯田 忠行
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

これまでの研究結果をもとに、新たにソルフェジオ音階を用いた楽曲を作曲し、これを実験に供した。ソルフェジオ音階とは174Hz、285Hz、396Hz、417Hz、528Hz、639Hz、741Hz、852Hz、963Hzの9種の音を指す。これらの音を用いた楽曲は、聴き心地が良く心身に何らかの良好な影響をもたらす可能性がある。近年、何の根拠もなくソルフェジオ音(単音)が身体に良いというマスメディアによる誇張が広がり、商品化さえされている。しかし、消費者に受け入れられること自体が何らかの効果を生じている証拠ではないかとも考えられる。したがって、本研究課題を進めるのにあたり、本年度はソルフェジオ音階による楽曲を用いた。実験方法は「イメージ奏法」を用いたイメージファンタジー(イメージ画像+演奏)を実験参加者に供与し、これまでと同じ実験方法により質問紙による状態不安得点と、唾液中生理活性物質の濃度変化を指標にソルフェジオ音階の効果の解析を行った。今回は新たに実験参加者の一部に目隠しをし、聴覚のみの入力と視聴覚入力との差異も含めて検討した。その結果、気分(mood)に関しては、目隠しした方が負の感情・気分が低下しなかった。一方、陽性の気分「活気」、「友好」については視聴覚対聴覚に差はなかった。すなわち、負の感情である「怒り」、「不安」などの亢進は音楽による誘導ではなく、色彩・言語による知覚感情効果であったと考えられた。逆に、陽性の気分は音楽だけで誘導されたことが示された。これは、音楽が喜びや幸福感をもたらすことを意味しており、個人の持つ記憶やそれらに裏打ちされた共感性に基づくものと考えられる。
著者
三浦 浩治 佐々木 成朗
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

これまで知られていなかった超潤滑(超低摩擦)状態が、特徴的な条件・環境のもとで、観測されつつある。これらの摩擦、潤滑の素過程には、原子間結合の破断・生成が寄与するナノニュートンのオーダーから水素結合等が寄与するピコニュートンオーダーの力が関わっている。特に我々によって発見されたフラーレン分子をグラファイトに内包する炭素系超潤滑物質においては、従来の摩擦力測定装置の測定限界をこえるピコニュートンの力が働いている。まさに、これはブラウン運動の領域の熱揺らぎ力に匹敵する。したがって、超潤滑機構の詳細は、ピコニュートンの測定精度をもつ摩擦実験によって明らかになることが期待される。本研究では炭素系超潤滑物質の超潤滑機構を高精度の摩擦力測定により次に示す2点から系統的に調べた。(1) 荷重に対する摩擦力の測定と解析。(2) 速度に対する摩擦力の測定と解析。まず、荷重が100nN以下のとき、摩擦力は実験誤差内でほぼゼロを示す。荷重が100nNまで増加すると、摩擦力像に明確なC_<60>の稠密構造を反映した周期像が現れると同時に有限な摩擦力が出現する。この結果は、荷重の増加によって、グラファイト表面による圧縮で内在するC_<60>分子の動作が凍結されるかC_<60>分子とグラフェン間の化学結合の形成が起こることを示唆している。すなわち、このことは、C_<60>分子の回転や揺らぎの流動性が固体潤滑における超低摩擦発現に極めて重要であることを意味している。さらに、摩擦力が走査方向依存性を示さなかったことより、C_<60>単分子層の多層効果が現れている。走査速度が数10μm/secまでは、摩擦力においては変化がなかったため、この速度内では、超低摩擦が維持されていることを示唆している。