著者
高木 邦子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.22-35, 2003 (Released:2004-02-17)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

本研究は,否定的対人感情の形成における「認知経路」と「情動経路」の影響力を比較し,「認知経路」において否定的対人感情の形成に影響を及ぼす責任帰属要因を示すことを目的とする。 研究1では,クラスメイトとの葛藤状況を描写した3つの仮想場面を238名の高校生に提示し,各場面における不快情動,責任帰属,相手への否定的対人感情への評定を求めた。階層的重回帰分析の結果,否定的対人感情形成における「情動経路」と「認知経路」の両経路の存在が示唆され,特に,回避場面と支配場面において「認知経路」の影響力が強いことも示された。責任帰属の影響については「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属が,「意図的―不当」と「無意図的―回避可能」への帰属よりも否定的対人感情の形成に促進的に影響を及ぼすことが示された。 研究2では,244名の高校生に,研究1で「認知経路」の影響力が強かった回避場面と支配場面を提示した。その後,「意図的―不当」「意図的―正当」「無意図的―回避可能」「無意図的―回避不能」から任意の帰属情報を提示し,否定的対人感情の評定を求めた。帰属群間での一元配置分散分析の結果,「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属情報を与えた際に,形成される否定的対人感情が低いことが確認された。 以上の結果から,「認知経路」が否定的対人感情の形成に及ぼす影響が強い場合は,否定的対人感情の形成に「意図的―不当」と「無意図的―回避可能」への帰属が促進的に,また「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属が抑制的に作用することが示唆された。
著者
野波 寬 田代 豊 坂本 剛 大友 章司
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.23-32, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

原発・廃棄物処分場・軍事基地などの迷惑施設をめぐっては,立地地域少数者と域外多数者との間で利害の不均衡が発生する。この不均衡に関心を示さない域外多数者に対しては,不均衡を知った上で非意図的に迷惑施設を受容する域外多数者に対してよりも,立地地域少数者の怒りや不満といったネガティヴな情動が喚起されるだろう。シナリオを用いた実験の結果,この予測は支持された。また立地地域少数者の情動反応には,利害の不公平に対する評価のほか,域外多数者への共感も,大きな影響を及ぼすことが示された。集団価値モデルにもとづき,立地地域少数者の立場に対する域外多数者からの関心の呈示は,前者が後者からの敬意を推測する手がかりになると考察した。以上の結果より,迷惑施設をめぐる公的決定の過程で,立地地域少数者と域外多数者との相互作用を検討する重要性について論じた。
著者
木村 昌紀 磯 友輝子 大坊 郁夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.69-78, 2011 (Released:2012-03-24)
参考文献数
33
被引用文献数
1 3

本研究の目的は,関係に対する展望が対人コミュニケーションに及ぼす影響を関係継続の予期と関係継続の意思の観点から検討することである。先行研究では,実験操作による外発的な関係継続の予期に注目していた。そこで本研究では,自発的に生起した関係継続の意思に注目して,これらの関係に対する展望が対人コミュニケーションに及ぼす影響の共通点と相違点を調べた。未知関係20組40名と,友人関係25組50名の大学生が実験に参加した。結果は以下のとおりであった。先行研究と一致して,これからも関係が続いていくと思うときは,コミュニケーションの動機づけが促進されて,対人的志向性の個人差が消失した一方で,その場限りの一時的な関係と思うときは,社会的スキルの高い人ほど,積極的にコミュニケーションに取り組んでいた。また,先行研究では,関係継続の予期があるときは相手を知るために視線量が増加したのに対して,本研究では,関係継続の意思があるときは発話量が増加して,対人コミュニケーションをポジティブに認知していた点が異なっていた。そして,関係継続の意思が対人コミュニケーションに及ぼす影響の程度は,友人関係よりも未知関係において大きかった。
著者
上原 俊介 船木 真悟 大渕 憲一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.32-42, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
37
被引用文献数
1

人間関係に関して怒りが果たす重要な役割とは,相互作用を制御している関係規範,つまり相互の欲求に応じる責任を浮き彫りにすることである。この見方にしたがえば,他者が個人的欲求に応じなかったとき,親密他者に対しての方が,非親密な他者に対してよりも,怒り感情は強いと予想される。だが,本研究では,関係規範の違反に対する怒り反応は,種々の状況要因によって調整されると仮定して,以下の仮説を検討した。すなわち,親密他者が欲求に応じなかったときに非親密他者よりも怒りが強いのは,相手が特異的欲求に応じなかった場合(仮説1)と,個人が欲求情報を伝達しなかった場合(仮説2)に限られるであろうと仮説を立てた。大学生75名を対象にシナリオ調査を実施した。要因計画は人間関係(親密vs.非親密)×欲求の種類(特異的vs.非特異的)×欲求情報の伝達(ありvs.なし)である。各参加者は,人間関係と欲求情報伝達の水準を変化させた4バージョンのシナリオのうちひとつに配置された。特異的欲求と非特異的欲求のシナリオはいずれのバージョンについても含まれている。各シナリオを読んだ後,参加者はそのとき感じた怒りの強度を評定するよう求められた。分析の結果,仮説1は支持されたが,仮説2は不支持であった。これらから,親密他者に向けた怒りは利己心を反映している可能性が示唆された。
著者
松木 祐馬
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1822, (Released:2019-09-25)
参考文献数
27

本研究は,集団極性化の説明理論に基づき,テキストベースで進行する集団討議への接触が個人の態度変容に与える影響について検討することを目的とした。具体的には,討議参加者が内集団成員であるか匿名者であるかと,実験参加者の意見が討議中において多数派意見であるか少数派意見であるかを操作し,内集団成員性と意見の優勢性が個人の態度変容に与える影響について,ベイジアンANOVAを用いて検証した。実験は2度に渡って行われ,分析には1回目の実験と2回目の実験両方に参加した68名のデータのみ使用した。分析の結果,接触した討議において自身の意見が少数派意見であった場合には態度の軟化が生じ,自身の意見が多数派であった場合には,討議が匿名者間で行われた場合のみ,態度の極化が生じることが示された。以上の結果から,テキストベースで進行する集団討議への接触においても,集団極性化現象と類似した態度変容が生じることが示唆された。
著者
小森 めぐみ 村田 光二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.2-14, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
29
被引用文献数
3

本研究では,社会的状況を手がかりとした自発的感情推論が生じるかどうかを,そして視点取得がその推論に果たす役割を,記憶課題を用いて検討した。実験1では,参加者はさまざまな状況に置かれた人物についての記述文を記憶した。記述文から推論される感情語が後に手がかりとして呈示された場合には,手がかりがない場合と比べて記述文の再生が促進されることが示された。実験2では,参加者は特定の感情が表出された人物の顔と名前の対を記憶した。その表情が事前に呈示された同一人物の記述から推論される感情と一致する場合には,そうでない場合と比べて対連合記憶課題の成績が良いことが示された。これらの傾向は視点取得した場合(実験1)にはより強く見られ,状況に注目した場合(実験2)には記憶課題全体の成績を向上させた。二つの実験で見られた記憶の促進効果は,人が表情などの表出行動からだけでなく,他者の置かれた状況からも,その人の感情を自発的に推論する場合があることを示しているだろう。また,視点取得が他者の置かれた状況への注目を強め,推論を促進させる可能性も示しているだろう。
著者
山中 咲耶 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.21-31, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
33

他者の面前や重要な場面において,思ったように能力を発揮できないことは,しばしば“あがり”と表現される。本研究では,“あがり”を緩和する状況要因として,面前の他者からのフィードバックと,個人差を示すパーソナリティ要因として特性的共感性に着目し,これらの要因が主観的感情体験と課題遂行に与える影響について検討した。その結果,課題遂行時に面前の他者からポジティブなフィードバックを知覚した遂行者は,ネガティブなフィードバックを知覚した遂行者よりも,主観的な“あがり”意識が低くなった。さらに,特性的共感性が高い人の方が低い人と比較して,ネガティブなフィードバックを知覚した際,主観的“あがり”意識がより高くなった。また,主観的な“あがり”意識の高低とパフォーマンス中の失敗数には,中程度の相関が示された。以上より,他者からのポジティブなフィードバックは,“あがり”の緩和効果を持つ可能性があることが示された。また,“あがり”が他者からの評価への意識と関連すること,さらに他者への意識だけでなく,他者からどれだけ影響をうけるかという個人特性,すなわち特性的共感性と深く関連した現象であることが示唆された。
著者
香川 秀太
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.171-187, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
31
被引用文献数
5

本稿では,これまでの経済中心の資本主義社会ないし新自由主義に代わり構想され,出現しつつある「未来の社会構造」に関する哲学的諸議論(とりわけ,柄谷行人の交換論とHardt & Negriのマルチチュード)に着目し,それらと心理学的フィールド研究,ないしヴィゴツキー派心理学の活動理論との発展的な接合を試み,ポスト社会構成主義(ないしポスト活動理論)への道筋を探る。具体的には,第一に,Scribnerによる「歴史の四層構造モデル」を用いて従来の活動理論研究の限界を指摘し,各々の共同体や個人史レベルの議論だけでなく,社会構造の世界史に着目した議論の必要性を論じる。第二に,活動理論家Engeströmによる「生産様式の世界史」の議論の限界を指摘し,それを乗り越えうるものとして,柄谷の交換様式の世界史の理論を取り上げる。第三に,「次の社会」の萌芽的な事例として,相模原市藤野周辺地域での,資本制の価値観を乗り越えうる諸活動に着目する。第四に,事例をふまえて,従来の交換論や贈与論が,「独立した自己と他者」の間の「有体物・無体物の行き来」という移送(トランスファー)の言説に依拠してきたことを指摘し,この「移送的交換」では「次の社会構造」の展開が困難なことを指摘する。そして最後に,移送的交換がもたらす,「財の獲得か贈与か」の二元論を越える概念として,「創造的交歓(creative intercourse)」を提案する。
著者
福野 光輝
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.55-64, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では,紛争当事者の利害関心に関する一般市民の認知が公共事業における紛争解決手続きの選好に与える効果を検討した。全国の一般成人を対象に質問紙調査を実施し791名から回答を得た。分析の結果,公共事業をめぐる利害対立において,公共事業への賛成を主張する当事者に対して利己的な関心が知覚されるにつれ,また反対当事者に対して利他的な関心が知覚されるにつれ,一般市民は住民投票や直接交渉,調停,意見聴聞といった解決手続きを選好した。一方,事業に反対する当事者に対して利己的な関心が知覚されたり,事業に賛成する当事者に利他的な関心が知覚された場合,一般市民は行政主導の解決手続きを選好した。
著者
田戸岡 好香 石井 国雄 村田 光二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.112-124, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
24

ステレオタイプ抑制後にはステレオタイプのアクセスビリティが増加するリバウンド効果が生起する。これまでの抑制研究では,スキンヘッド男性のような少数派や高齢者のような地位が低いとみなされる対象に関する抑制が扱われてきたが,本研究では嫉妬的ステレオタイプを抑制した後のリバウンド効果について検討した。ステレオタイプ内容モデルによれば,我々は成功した外集団に対して有能だが冷たいとみなすことがある。ただし,そうした対象をいつも冷たいとみなすわけではなく,特に競争意識を知覚した時にネガティブな特性が顕現的になることが示されている。そこで,本研究では,抑制対象に対する競争意識の知覚がリバウンド効果の生起を調整することを検討した。参加者はキャリア女性(実験1)もしくはエリート男性(実験2)が他者と働いている場面を記述した。その際,半数の参加者にはその人物の冷たいというイメージを抑制するよう教示し,半数にはそういった教示は与えなかった。その後,ステレオタイプのアクセスビリティを測定した。実験の結果,抑制対象に競争意識を感じやすい場合にはリバウンド効果が生起し,感じにくい場合にはリバウンド効果が生起しなかった。ステレオタイプ抑制を対人認知の観点から検討することの意義について考察した。
著者
小林 仁 渥美 公秀 花村 周寛 本間 直樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.180-193, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究では,人々によってすでに馴致された生活環境を対象として,その環境を一瞬未知の状態へと変換し,新たな馴致を促すという一連の流れを発生させる手法について,実践プロジェクトによるアプローチを試みた。Moscovici(1984=八ッ塚,未公刊)による社会的表象の議論をもとに,社会的表象としての現実の馴致プロセスについて概観し,その後,原(2005)の「未知化」という概念を参考に,未知化の技法と未知化後に事象を再び馴致してゆく方法について検討した。「未知化」の方法として,プロジェクト型ツールの設計および実践を行った。実践のフィールドとして,筆者らが所属する大阪大学キャンパスを設定した。参加者が阪大(ハンダイ:大阪大学の略称)に関する情報を詳細に獲得し,各々が今まで知らなかった阪大を再発見してゆくDATA HANDAIプロジェクトは,2005年10月より始まり,2007年9月現在も継続して進行中である。活動は領域横断的に実施され,教員5名と学生20名あまりを中心として活動を行った。プロジェクトの成果として数十枚に及ぶ情報カードを作成した。結果として,参加者の言説の変化や活動に関するエスノグラフィーが得られた。本研究では,このプロジェクトを対象として,未知化を解説し,既知から未知へ,そして新たな既知として現前する社会的表象の分析を行った。
著者
植村 善太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-12, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
21

新入成員が集団に参加する状況において,紹介者の存在が既存成員の新入成員を受け入れることに関する不安と新入成員に対する信頼に及ぼす効果を実験によって検討した(被験者:男性52名,女性56名,計108名)。1)集団内のサクラが新入成員を知っている事実だけを述べる条件(単純存在条件),2)サクラが新入成員を知っており,肯定的に紹介する条件(肯定的紹介条件),3)サクラが存在せず,誰も新入成員を知らない条件(紹介者なし条件)が設定された。集団による共同作業場面3セッション中の第2セッション終了後に,第3セッションからの中途参加者受け入れに対する態度が測定された。第3セッションは実際には行われなかった。全般的な結果は,1)単純存在条件および肯定的紹介条件では紹介者なし条件に比して,集団構造が動揺することに対する不安が低く,意図および能力に対する信頼が高かった。また,2)単純存在条件と肯定的紹介条件との間には大きな差異はなかった。これらの結果から,紹介者はただ存在するだけで,集団構造が動揺することに対する不安の低減,新入成員に対する信頼の向上に効果をもつことが示された。
著者
頼政 良太 宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2011, (Released:2021-11-26)
参考文献数
95
被引用文献数
1

災害ボランティアセンターは,「公的」な機関が設立するものと,「民間」が設立するものがある。災害時の組織は管理・統制モデルと即興・自律モデルに分けられるが,阪神・淡路大震災以降,管理・統制モデルを志向する「公的」な災害ボランティアセンターへの一元化が進み,「民間」との分化や対立関係も見られるようになった。さらに,管理・統制によって生まれる「秩序化のドライブ」により,ボランティアの多様性が失われてきた。本研究では,阪神・淡路大震災以降に設立された災害ボランティアセンターの詳細な事例研究を通し,ボランティアによる助け合いというポジティブな面と,ボランティアは見ず知らずの他者であり不気味な存在であるというネガティブな面の両義性に対応するために管理・統制が進んでいった点を明らかにした。さらに,「公」と「民」の分化や対立の背景にその両義性があることを指摘した。最後に,「公的」な災害ボランティアセンターだけでなく,多様な主体による「民間」災害ボランティアセンターが存在することで,この分化や対立を乗り越える可能性を示した。
著者
角野 充奈 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.105-117, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
19

人々には,他者の言動に対応した属性を推論する傾向があり(対応推論),その傾向は,他者の言動が社会的に拘束されていると知っていても生じることが明らかにされている(対応バイアス)。対応バイアスは,容易には消失しないことから,非常に強固な現象であると捉えられているが,それゆえに,対応バイアスやその基礎となる対応推論を促進・抑制させる要因について検討した研究も存在する。本研究では,日本語における一人称代名詞「私」が明示,もしくは,省略された文章が,対応推論に及ぼす効果について,2つの研究で検討を行なった。研究1では,Jones & Harris(1967)の態度帰属の実験方法を踏襲し,書き手が立場を選択できない状況で書いた,日本語の一人称代名詞が明示された文章を読んだ場合に,省略された文章を読んだ場合よりも,対応推論が促進されることが示唆された。研究2では,日本語の一人称代名詞の有無に加え,書き手の真の態度を正確に判断するよう実験参加者に教示するか否かを状況操作して検討を行なった。その結果,正確な判断をするよう教示されずに一人称代名詞のある文章を読んだ場合に,最も対応推論が促進されることが示唆された。文化的背景に基づく要因と対応バイアスや対応推論との関連性,および,今後の研究の課題について考察した。
著者
戸塚 唯氏 深田 博己
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.54-61, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
10
被引用文献数
4 2

集合的防護動機モデルとは,集合的対処行動を勧告する脅威アピール説得の効果とメカニズムを説明するモデルである。同モデルは8つの要因から成る4つの評価が集合的対処行動意図を規定すると仮定している。本研究の目的は集合的防護動機モデルの妥当性を検証することであった。独立変数は脅威評価(高,低),対処評価(高,低),個人評価(高,低),社会評価(高,低),性(男性,女性)であった。被験者は大学生707人(男性365人,女性342人)であり,34条件(32実験条件と2統制条件)のうちの1つに無作為に割り当てられた。そして,実験条件の被験者にはダイオキシン問題に関する説得メッセージを読ませ,質問紙に回答させた。その結果,全ての仮説が支持されたわけではないが,脅威評価,対処評価が大きいほど,集合的対処行動意図が大きいことが明らかとなった。また男性被験者の集合的対処行動意図に対しては,わずかではあるものの社会評価の影響も見られた。
著者
柳澤 邦昭 西村 太志
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.93-103, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

本研究では,他者との相互作用場面における他者選択について自尊心の差異が及ぼす影響を杉浦(2003)の説得納得ゲームを用いて検討を行った。特に説得者の自尊心の差異でゲーム中に相互作用する納得者の選択様相が異なるかどうかに着目して検討した。105名の大学生がゲームに参加した。分析の結果,以下のことが示された。(1)説得者の自尊心の差異に関わらず,ゲーム開始直後のセッション(セッション1)より,後のセッション(セッション2)で説得者は多くの相互作用対象他者を選んでいた。(2)また,セッション1では説得者側,納得者側ともに相互作用した人数と相互作用満足度に正の相関があった。(3)さらに,セッション1において他者との相互作用満足度が低い場合,高自尊心者はセッション2で低自尊心者を相互作用対象他者として選択することが示された。以上の結果から,自尊心の差異により他者との相互作用場面における他者選択様相の異なる側面が伺えた。特に,高自尊心者は一時的に状態自尊心が低下している場合に,自尊心の回復を促進することを目的として低自尊心者を選択していると示唆される。
著者
神原 歩 遠藤 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.116-124, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
40

自己判断の高合意性認知が自己肯定感を維持する可能性を,高合意性情報が強制承諾 による態度変化に与える影響を調べることによって検討した。認知的不協和に直面した人は自身の態度を変化させるが,自己肯定化や自己評価維持システムなど,他の自己肯定感維持方略によって自己肯定感を修復すると態度を変化させる度合いが縮小することが明らかになっている。そこで,強制承諾場面での態度変化の程度を自己肯定感修復の指標とした。初めに強制承諾の手続きとして反態度意見の作成を求めた後,高合意性情報の有無によって合意性認知の程度の操作を行った。参加者の態度は,実験の最初と最後に測定した。その結果,高合意性情報を与えられた人は,そうでない人に比べて態度変化が小さかった。また,この効果は高合意性情報が不協和と関連が無い場合には,関連が有る場合ほど顕著にはみられなかった。以上から,脅威との関連の有無によって効果に違いはみられるが,自己脅威状況において合意性を高く認知すると自己肯定感が維持されることが示唆された。
著者
笠置 遊 大坊 郁夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.95-104, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
32

本研究の目的は,複数観衆問題に直面したとき,どの観衆に対しても呈示することのできる共通特性について自己呈示を行うことが,呈示者の個人内適応と対人適応に与える影響を検討することであった。参加者76名を対象に,複数観衆問題の生起と共通特性の自己呈示の有無を操作したスピーチ実験を行い,参加者の状態自尊感情の変化(個人内適応)を検討した。さらに,5名の評定者に参加者のスピーチ映像を呈示し,参加者の印象(対人適応)を評定させた。その結果,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行わなかった参加者は,実験前と比較し実験後における状態自尊感情が他の条件の参加者よりも低下し,印象評価もネガティブであった。一方,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行った参加者と統制条件の参加者の状態自尊感情の変化量及び印象評価に有意差は見られなかった。最後に,複数観衆問題の解決法として共通特性の自己呈示がいかなる有効性をもつのかについて議論した。
著者
池田 浩 古川 久敬
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.145-156, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本研究では,リーダー行動に関わる自信を検討した。リーダーの自信を「リーダーとして必要とされる役割行動を確実に実行できると考える度合い」と定義し,それを測定するための測度を開発した。企業組織の管理者170名から得られた回答をもとに因子分析を施した結果,「他者との関係性領域」に関する自信因子(“メンバーの育成支援”,“メンバーとの関係構築”,“組織内外からの支援取り付け”)と「課題遂行領域」に関する自信因子(“メンバーへの権限委譲”,“問題対処行動”,“職場内での目標設定”,“革新行動”)の合計7因子が確認された。また,これらの各因子は十分な信頼性と適切な基準関連妥当性を持つことが明らかになった。最後に,高い自信を有するリーダーのマネジメント志向性について検討した。
著者
樋口 収 道家 瑠見子 尾崎 由佳 村田 光二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.148-157, 2011 (Released:2011-03-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

他者との良好な関係を維持したいという欲求は,根源的なものであるとされる。先行研究では,そのような動機から,被害者は時間の経過とともに加害者を許すことが示されている(Wohl & McGrath, 2007)。このことから,本研究は重要他者との葛藤を思い出したとき,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じる可能性について検討した。実験1では,参加者に重要他者との間に起きた過去の葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じていた。実験2では,参加者に重要他者あるいは非重要他者との間に起きた葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者の方が加害者よりも出来事を遠くに感じていたが,非重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者と加害者の間で有意な差はみられなかった。これらの結果は,仮説と一貫しており,他者との良好な関係を維持したいという欲求が自伝的記憶の再構成に及ぼす影響を議論した。