著者
山本 佳祐 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1914, (Released:2021-04-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1

山本・池上(2019)は,第三者が自己呈示に関する素朴理論に基づいて援助者の動機を推測しているという仮説を提起し,援助場面における観察者の存在が動機推測に影響することを見出した。本研究は,彼らの結果の再現性を確認することを第1の目的とし,さらに観察者の性別が動機推測に及ぼす効果を明らかにすることで,上記仮説を支持するより強力な証拠を提示することを第2の目的とした。大学生277名を対象に援助場面のシナリオを用いた質問紙実験を行った。山本・池上(2019)と同様に,観察者がいない状況よりも,いる状況の方が,援助者に自己呈示動機が推測されやすいことが示され,観察者の存在が動機推測に及ぼす効果の頑健性が示された。より重要なことに,援助者と同性の観察者がいる状況よりも,異性の観察者がいる状況の方が,援助者に自己呈示動機が推測されやすかった。ただ,単なる異性の観察者がいる状況と,援助者が意中に思う異性の観察者がいる状況の間では,動機推測に差がみられなかった。しかし,観察者の存在および観察者の性別が動機推測に及ぼす影響は,2種類の援助場面間で一貫してみられ,効果の頑健性が確認された。よって,上記仮説を支持するより強い証拠が示された。
著者
品田 瑞穂
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.99-110, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
36
被引用文献数
1 3

近年の実験研究では,社会的交換において第三者の立場にある参加者が,参加者自身にとって罰行動が何の利益ももたらさない場合であっても,他者を搾取した非協力者を罰するためにすすんでコストを支払うことが示されている。本研究では,このような第三者による罰行動は,協力的な社会的交換を維持するための二次の協力行動であると考える。重要な社会的交換が外集団成員よりも内集団成員との間で行われることを所与とすると,第三者による罰行動は内集団成員に対してより向けられやすいと考えられる。Shinada, Yamagishi, & Ohmura(2004)はこの予測を検討する実験を行い,協力者は内集団の非協力者をより強く罰するが,非協力者は逆に外集団成員を強く罰するという結果を示している。本研究は,Shinadaらの実験における外集団への罰行動を,相手との利益の差を最大化するための競争的行動と解釈し,罰しても相手との利得差が拡大しない実験で,参加者が内集団成員と外集団成員に対し罰の機会を与えられる実験を実施した。実験の結果,仮説を支持する結果が得られた。参加者は,外集団の非協力者よりも内集団の非協力者を罰するためにより多くの金額を支払った。
著者
大坪 庸介 島田 康弘 森永 今日子 三沢 良
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.85-91, 2003 (Released:2004-02-17)
参考文献数
16
被引用文献数
8 6

本研究では,日本の医療機関において職種内・間の地位格差により円滑なコミュニケーションが阻害されることがあるかどうかを,質問紙調査により検討した。質問紙では,職場の特定の対象が投薬量を間違っているのではないかと感じられる場面を想定してもらい,その相手に対してエラーの指摘をするのにどの程度の抵抗感を感じるかを尋ねた。調査対象は医師・看護師・薬剤師であり,それぞれの対象者ごとに同僚・先輩・後輩・その他の職種などを指摘対象として想定してもらった。結果は,同職種内では後輩より同期の相手に,同期より先輩に対して指摘に抵抗感があることを示していた。また,異職種間でも,看護師・薬剤師が医師に対して指摘する場合の抵抗感の方が,医師が看護師・薬剤師に対して指摘を行う場合の抵抗感よりも強かった。したがって,職種内・間の両方で程度の差こそあれ地位格差によるエラー指摘への抵抗感が存在することが示された。また,エラー指摘の抵抗感の程度には病院差があることも示された。今回の質問紙調査の限界と,今後,医療事故を減らしていくために必要とされる研究について考察した。
著者
堀江 尚子 渥美 公秀 水内 俊雄
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-17, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
51

本研究は,ホームレスに対する支援のための入所施設において,継続的な支援の関係の構築を目指したアクションリサーチであり,支援の関係性の継続と崩壊という現象を理論的に考究するものである。近年,急増したホームレスの人々が抱える問題は多様である。なかでも対人関係に問題を抱える人は少なくない。ホームレスの支援活動では,当事者と支援者の関係性の継続が重要である。関係性の継続には,関係の本来の様態である非対称が非対等に陥らないことが要請され,そのためには偶有性を喚起・維持する方略に希望がある。本研究はこの方略を組み込んだアクションリサーチである。具体的には,ホームレスを多く引き受ける生活保護施設Yが開催するコミュニティ・カフェに注目し,その施設の退所者と地域の人々の協働の農作業プロジェクトを実践した。偶有性の概念を媒介にして戦略的な実践によって継続的な関係が構築された。支援関係の継続と崩壊について理論的考究を行い,労働倫理を強く持つ人々は支援を受ける当事者になることが困難であることを指摘した。
著者
神原 歩 遠藤 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.91-103, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
59
被引用文献数
1 1

自己判断の合意性を自ら高く推測することが,脅威に晒された自己肯定感を修復する効果について検討した。自己脅威として架空の施策について反態度意見の表明を促した(強制承諾)後,自己判断についての合意性を推測させた。実験前後にその施策への態度を測定し,態度の変化量を従属変数とした。認知的不協和に陥った人は表明した意見に合わせて態度を変化させるが,自己肯定感が修復すると態度を変化させる程度が縮小することが知られている。そこで,自己判断の高合意性推測が自己肯定感を修復するなら,合意性を高く推測すると態度変化量が縮小すると予測された。また,高自尊心者は脅威に対して直接的,低自尊心者は間接的自己防衛方略を採ることから,自己肯定感修復に用いる合意性と脅威との関連度合いは自尊心の高さによって異なると考えられた。結果はこれを支持し,脅威と関連する判断の合意性の場合(実験1)には高自尊心者で,脅威と関連しない判断の合意性の場合(実験2)には低自尊心者で,合意性を高く推測すると態度変化量が縮小する傾向がみられた。自尊心の高さによって修復に用いる合意性と脅威との関連は異なるが,合意性を高く推測すると自己肯定感が修復されることが示唆された。
著者
大門 大朗 渥美 公秀 稲場 圭信 王 文潔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.18-36, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
53
被引用文献数
1

本研究は,2016年に発生した熊本地震後の2町村(益城町・西原村)の災害ボランティアセンター(災害VC)の運営の事例について,インタビューと参与観察により,組織論的観点から分析したものである。災害VCの組織モデルの比較研究からは,混乱を回避することを主眼に据える管理・統制モデルが益城町災害VCを,課題の解決を主眼に据える即興・自律モデルが西原村災害VCを捉える上で有効であることを明らかにした。そして,熊本地震においては,被害の最も大きかった益城町から,管理・統制モデルは現場に根ざした支援から垂直的に,即興・自律モデルは支援の届かないところ(西原村)へ向かうことで水平的に支援が離れていってしまうことで,構造的空隙が生じていた可能性があることを指摘した。その上で,多様なボランティアによる支援を展開する上で,即興・自律モデルを目指す必要があるものの,被害の大きいエリアでは管理・統制モデルが現れやすい。結果的として構造的空隙が生じないよう,即興・自律モデルを被害の大きいエリアで意図的に生成する必要があることを,災害ボランティアの社会運動的側面から提示した。
著者
高森 順子 諏訪 晃一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.25-39, 2014 (Released:2014-08-29)
参考文献数
14

阪神・淡路大震災の体験についての手記を集め,その一部を出版した「阪神大震災を記録しつづける会」の手記集には,読み手があらかじめ想定していた震災体験の典型には収まらない体験も含めた,多様な体験が収録されている。その理由を,手記集の成立過程を踏まえて考察した。「震災」という出来事と個人の体験は互いに影響し合う関係にある。加えて,一般に,手記集に収められた手記の内容は,ある特定の目的に適う内容に収斂される傾向がある。従って,通常,手記集を通じて多様な体験を残すことには困難が伴う。それにもかかわらず,「記録しつづける会」の手記集に多様な体験が収録されている理由は,編集者と手記執筆者の対話によって,それぞれの手記,そして手記集が共同構築されたからである。さらに,手記を共同構築することは,手記執筆者が,創られた震災像に抗いながら体験を再構築することであり,そのことを通じて,典型的な被災者像とは異なる「災害体験者」が成立する。これらの考察を踏まえ,最後に,手記集を媒介として災害体験の伝承を行うことが,伝承活動を行う人々の連帯を創り,災害体験のより豊かな伝承の一助となることを指摘した。
著者
尾崎 由佳
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.98-110, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
31
被引用文献数
9 3

特定の対象への接近あるいは回避の身体的動作を反復することにより,その対象に対する潜在的態度が変容することを検討した。まず,IAT(Implicit Association Test)によって楕円と四角に対する潜在的態度を測定した(Time 1)。続いて,楕円あるいは四角が描かれたカードを分類する課題を行った。参加者はカードを一枚ずつめくり,描かれた図形に応じてそれらを分別した。楕円接近条件では楕円のカードを手前側に置き(i.e.接近),四角のカードを向こう側に置く(i.e.回避)ことによって分類し,四角接近条件ではその逆であった。この作業の後,Time 1と同じIATを実施した(Time 2)。事前・事後の測定値を比較したところ,接近した対象にはより肯定的な方向に,かつ回避した対象にはより否定的な方向に潜在的態度が変化していた。したがって,接近行動の反復は対象とポジティブな感情価の連合を強化する一方,回避行動の反復は対象とネガティブな感情価の連合を強化する効果があると考えられる。この結果にもとづき,非意識的な態度変化のプロセスや,潜在的態度と顕在的態度の関係性などについて議論した。
著者
橋本 剛明 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.104-117, 2011 (Released:2012-03-24)
参考文献数
41
被引用文献数
6

本研究は,侵害者が行う謝罪に対して,実際の被害者と,被害の観察者とが異なる反応を示すという傾向を検討した。特に,謝罪によってもたらされる「許し」の動機づけと,さらにその規定因となる責任帰属や情緒的共感といった変数に注目し,被害者と観察者の謝罪に対する反応の差異を検討した。大学生136名に対して,被害者/観察者の視点を操作した被害場面シナリオ,及び侵害者による自発性を操作した謝罪シナリオを段階的に提示し,各段階で侵害者への反応を測定した。その結果,「許し」の動機づけに関しては,視点と謝罪タイプの交互作用が見られ,非自発的な謝罪は,観察者のみに対して「許し」の促進効果を持っていた。さらに,謝罪が「許し」を規定する媒介過程においても,視点間の非対称性が示された。観察者においては,謝罪は責任判断と情緒的共感の両者の変数と介して「許し」を規定していたのに対して,被害者においては,情緒共感のみがそのような役割を担っていた。以上の結果から,対人葛藤場面においては,その被害者と観察者の判断を動機づける要因が異なることが示唆される。
著者
花井 友美 小口 孝司
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.62-70, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
36

孤独感研究は,対人関係や人格形成に否定的効果あるいは肯定的効果を及ぼすことを示す2種類に大別することができる。2種類の研究は,理論的背景が異なり,孤独感を捉える際に,否定的効果では孤独感を個人の特性とするのに対し,肯定的効果は主に誰もが経験する事象としていると考えられる。後者の立場で孤独感を経験と捉えると,孤独感に対してどのように対処したかも「孤独感」に含まれるであろう。すると,孤独感に対処した経験が,その後の行動や心理的特性を,孤独感に対処しやすいように肯定的に変容させると考えられる。そこで,本研究では過去の経験としての孤独感に注目し,それが現在の親和動機と社会的スキルに及ぼす影響を検討した。なお,過去の孤独感を示す変数としては孤独感の強さとそれに対する対処行動を取り上げた。女子大学生59名を分析対象とした。階層的重回帰分析の結果,過去の孤独感経験における(a)積極的問題対処は現在の親和動機を高め,(b)消極的問題対処は社会的感受性を高めていた。
著者
工藤 恵理子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.63-77, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
26
被引用文献数
2 3

本研究は人々が自分の好みや判断が他者に見透かされる程度を過大視する傾向(透明性の錯覚)が未知の他者が相手の場合よりも,友人が相手の時により顕著になることを示した。研究1では,被験者間デザインを用いて友人間と未知者間の透明性の錯覚の程度を比較した。友人間での方が錯覚量が大きいことが示された。研究2では,社会的規範により友人間での透明性の錯覚が増大しているという代替説明を検討した。友人間の透明性の錯覚は,実験参加者が正確な推測に動機づけられている場合でも低減せず,社会的規範の代替説明は棄却された。他者の選好や判断を見透かすことのできる程度に関する錯覚についても検討がされ,友人間での方がこの錯覚も大きくなることが示されたが,未知の他者の選好や判断を見透かすことのできる程度についての錯覚は正確な予測が動機づけられた場合増大した。これらの錯覚をもたらすメカニズムについて考察がなされた。
著者
渡辺 匠 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.25-34, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本研究は存在脅威管理理論の観点から,死の顕現性が自己と内集団の概念連合に与える影響について検証をおこなった。存在脅威管理理論では,死の顕現性が高まると文化的世界観の防衛反応が生じると仮定している。これらの仮定にもとづき,人々は死の脅威にさらされると,自己と内集団の概念連合を強めるかどうかを調べた。死の顕現性は質問紙を通じて操作し,内集団との概念連合は反応時間パラダイムをもちいて測定した。その結果,死の脅威が喚起された参加者は,自己概念と内集団概念で一致した特性語に対する判断時間が一致していない特性語よりも速くなることが明らかになった。その一方,死の脅威が喚起されても,自己概念と外集団概念で一致した特性語に対する判断時間は一致していない特性語よりも速くはならないことが示された。これらの結果は,死の顕現性が高まると,自己と内集団の概念連合が強化されることを示唆している。考察では,自己と内集団の概念連合と存在脅威管理プロセスとの関係性について議論した。
著者
高野 尚子 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.185-197, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

本研究は,阪神・淡路大震災記念,人と防災未来センターをフィールドに,公的な施設での語り部による阪神・淡路大震災の伝承と聞き手の応答について考察したものである。筆者らはこれまで人と防災未来センターでフィールドワークを行い,語り部と聞き手の対話を理論的に検討してきた。そして,その中で,語り部活動の現場では,聞き手が震災の語り部という役割に期待する「震災なるもの」の語りとは異なる語りが聞かれることがあり,また語り部にとっても聞き手に期待する反応が得られないことがあるということがわかった。本研究では,こうした対話のズレが見えるとき,それを「対話の綻び」と称することとし,その例を紹介する。ここでの「対話の綻び」とは,語り部の語りの中で,公的な震災のストーリーと私的な体験との間のズレが露呈することにより,語り部と聞き手の双方にとって互いが期待する反応を得られないことをあらわす。無論,語りは本来,公―私の軸のみに限定されるものではないが,ここでは公的なストーリーを発信する人と防災未来センターにおける,ボランティアの私的な語りに注目しているので,公―私に関わるものに注目した。その結果,対話の綻びは,震災を伝える障害となっているのではなく,聞き手に「震災が自分に起こりうるかもしれない」という偶有性を喚起する可能性があることを述べた。さらに,実践的な提言として,綻びを顕示し,偶有性を高め,伝達を促進する役割を担う媒介者(mediator)の導入の意義についても考察した。
著者
遠藤 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.150-167, 2000-02-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
119
被引用文献数
1 1

自尊感情は心理学におけるもっとも重要な概念の一つでありながら, これまで自尊感情とは何かという議論はあまりおこなわれてこなかった。本稿では, これまで明示的に示されることがほとんどなかった自尊感情に関する従来の考え方を探り, 伝統的な「自己」が現実世界の社会的状況や人間関係性から切り離され過ぎていたという問題点を指摘した。次に, 最近提唱されつつある自尊感情への生態学的・対人的視点をとったアプローチを紹介し, これまで整合性のある説明を与えられなかった点について, 新たな観点から議論した。最後に, 今後の研究課題と意義を提唱した。
著者
伸隆 具志堅 かおり 唐沢
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.40-52, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
30
被引用文献数
2

本研究は,情動的メッセージと反すう思考による説得プロセスを検証した。大学生277名が情動的なエピソードによって死刑制度の必要性を訴える情動的メッセージ,あるいは客観的な報告によってこれを訴える客観的メッセージを提示された。その後,実験参加者は態度評定に先立って,死刑制度に対する考えを記述するか(反すう思考群),死刑制度と無関連な事柄について記述するか(反すう妨害群),あるいは直ちに態度評定を行った(直後評定群)。その結果,死刑制度に関する反すう思考は,情動的メッセージ群においてのみ,態度変化を促進した。さらに,パス解析によると,情動的メッセージ群では情動的な思考によって態度変化が媒介されていたのに対し,客観的メッセージ群では認知的な思考によって媒介されていた。情動的メッセージの内容に関する反すう思考が態度変化を促進するメカニズムが議論された。
著者
樂木 章子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.15-26, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
26
被引用文献数
4 1

本研究は,不妊のために子どもを産むことを断念した夫婦が,血のつながらない子どもと養子縁組を通して親子関係を結んでいくプロセスにおいて,養子縁組を支援するNPOが果たす役割を検討しようとするものである。具体的には,新しい養子縁組のあり方を模索しつつ,育て親を開拓する活動を展開しているNPO法人「環の会」でのフィールド研究に基づき,夫婦が養子を迎えるまでのプロセスや,養子に関する啓発活動等の一連の活動内容とその特徴を明らかにした。その結果,産みの親の存在を積極的に組み入れ,かつ,養子を迎えた後も育て親が会の活動を支えることにより,従来の養子縁組が持つ否定的なイメージが打破されつつあることが見出された。また,育て親希望者を対象とした「育て親研修」が,まだ見ぬ養子とともに新しい人生を歩んでいくために必要な先験性を構成する場であると同時に,その先験性は,子どもを迎えた後も,「環の会」と継続的にかかわるシステムに組み込まれることによって,維持・強化されていることを考察した。
著者
大渕 憲一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.65-76, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
26
被引用文献数
8 8

全国15地域の一般市民772名に対する社会調査によって,社会的公正感,政府に対する信頼,公共事業政策に対する評価などを測定し,それらの間の関係を分析した。公正感,政府に対する信頼,公共事業政策などに対する評価は全体として厳しいものであった。公共事業政策評価は事業そのものの評価と事業主体である行政の評価に分かれること,前者に関しては肯定的評価と否定的評価が独立性の高い別次元となることなどが見いだされた。また,政府に対して一般的信頼を持たない回答者が公共事業政策をあらゆる面で否定的に評価する傾向が見られ,このことは,人々がヒューリステックな政策評価を行っていることを示唆している。また,政府に対する一般的信頼は,ミクロ,マクロ,地域,職業の4水準における社会的公正感によって強められることも確認された。このことは,社会集団内において自分が公正に扱われていると感じるかどうかが集団の権威者(例えば,政府)に対する態度を規定するとする公正の絆仮説を再確認するものであった。
著者
源氏田 憲一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.118-129, 2011 (Released:2012-03-24)
参考文献数
35

本研究は,ソーシャル・サポート(SS)受領が他者からの受容の認知に媒介されて精神的健康への(主)効果を持つという変数間の関連を,ソシオメーター理論を応用することでモデル化し,横断データにより検討した。さらにこれをネガティブな行為である否定的相互作用(NI)にも拡張し,同時に検討した。研究1では周囲の人からのSS/NIが,周囲に対する受容の認知を媒介して受け手の精神的健康に影響することが示された。研究2では特定の個人との関係性の安定的な認知を統制しても,その人からのSS/NIが,その人からの受容の認知を媒介して受け手の精神的健康に影響することが示された。しかし特性自尊心を統制した上で研究1,2の分析を行ったところ,SS/NIから受容の認知への効果は有意だったが,受容の認知から精神的健康への効果は消失した。これらのことから,SS/NI行為の認知は受容の認知と関連するが,それが精神的健康につながるプロセスは自尊心が深く関わっている可能性が示唆された。
著者
織田 涼 服部 雅史 八木 保樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.28-39, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本研究は,検索容易性の逆説的効果が,困難さの経験がシグナルとなって起こる想起方略の切り替えによるという仮説を検証した.期待条件の実験参加者に,対象他者に関するある性格特性の期待を与えた上で,全参加者に他者の行動リストを呈示して記銘を求めた.行動リストには,ターゲット特性の一致事例と不一致事例が含まれていた.期待条件では,それらの事例が結びついた連合的表象が形成されることが予測された.実験1の参加者は一致事例を1個(容易)または4個(困難)想起することを求められた.実験2の参加者は一致事例を2個想起し,見えやすい(容易)または見えにくい(困難)色のフォントを使用して想起した事例を入力した.期待条件において一致事例の想起が困難な時に想起内容に反する判断がなされ,この効果は不一致事例の付随的想起が媒介することが示された.この媒介パタンは,非期待条件で観察されなかった.これらの結果は,困難さが連合記憶内の事例の網羅的走査を促し,この走査の過程で自発的に想起された情報に基づいて判断が形成されることを示唆する.
著者
須山 巨基 山田 順子 瀧本 彩加
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.161-170, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
66

集団力学研究とは,実験・調査・モデリングを通じて,個体が集合的に作り出す複雑な社会現象を定量的に検証する研究群の総称である。社会心理学における集団力学研究は,1940年代から隆盛するも徐々に研究の主流から外れていった。一方,生物学では,近年の新しいデータ収集法や分析方法の発達により集団力学研究が盛んに行われるようになり,再び集団力学研究が脚光を浴び始めている。本稿ではまず,社会心理学と生物学のそれぞれにおける集団力学研究の歴史を概観する。続いて,社会心理学において高い関心が寄せられてきた同調と文化拡散に注目し,これらのトピックに関して生物学が新たな集団力学的な手法を用いてどのような知見を見出したのか紹介する。最後に,生物学における集団力学研究の社会心理学への援用可能性とその便益性を示し,社会心理学と生物学の融合による集団力学研究の展望を論じる。