著者
山田 順子 鬼頭 美江 結城 雅樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.18-27, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
40
被引用文献数
1 11

本研究の目的は,友人関係および恋人関係における親密性の文化差の原因の検討である.近年の国際比較研究は,北米人の方が東アジア人よりも,対人関係のパートナーに対して感じる親密性が高いことを示してきた.本研究は,社会生態学的視点に基づき,この文化差をもたらす原因を,北米社会における対人関係選択の自由度,すなわち関係流動性の高さに求めた.この仮説を検討するため,日本人とカナダ人参加者を対象に,親友・恋人および最も親しい家族に対する親密性,また参加者を取り巻く身近な社会環境における関係流動性の認知を尋ねた.その結果,まず先行研究と一貫して,日本人よりもカナダ人の方が,親友や恋人に対してより強い親密性を感じていた.さらに,理論仮説と一貫して,親友に対する親密性の日加差は,対人関係選択の自由度によって有意に媒介され,自由度が高いほど親密性が高いことが示された.
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.58-71, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本研究では,存在論的恐怖と愛着不安・回避傾向が成功・失敗についての自己の帰属と親友からの帰属の推測に及ぼす影響について検討した。近年,対人関係が存在論的恐怖を緩衝する効果を持つことが明らかにされている。そして,Wakimoto(2006)は存在論的恐怖が顕現化すると日本人は関係維持のため謙遜的態度を強めることを報告している。これに,日本人が他者による謙遜の打消しや肯定的言及など支援的反応を期待するという知見を併せて考えると,存在論的恐怖は自己卑下と共に他者からの支援的反応の期待を高めると考えられる。また,このような影響は愛着不安・回避傾向により調節されると考えられる。これら予測を現実の成功・失敗についての原因帰属を用いて検討した。大学生52名が実験操作の後に過去の実際の成功・失敗について自分自身の帰属と親友がどのように帰属してくれるかの推測について回答した。その結果,MS操作により自己卑下的帰属が強まる条件では,親友からの支援的な帰属の期待も強まることが示された。一方,親友からの支援的な帰属の期待が必ずしも自己卑下的帰属の高まりを伴わないことも示された。これら結果を近しい他者を通した関係による存在論的恐怖管理の様態及び互恵的関係の形成における存在論的恐怖の影響という点から論じた。
著者
沼崎 誠 松崎 圭佑 埴田 健司
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.119-129, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
38
被引用文献数
1

身体感覚が社会的知覚や行動に影響を与えることが近年多くの研究で示されている。本研究では,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が対人認知と自己認知に及ぼす効果を検討した。身体的温かさが性格的温かさと連合して表象していることを示す研究とHarlow(1958)の研究から,柔らかさ-硬さ感覚が性格的温かさ-冷たさと連合して表象されていると予測した。女性的ポジティブ特性,女性的ネガティブ特性,男性的ポジティブ特性,男性的ネガティブ特性の自己評定をあらかじめしていた21名の女子大学生が実験に参加した。参加者は,対人認知課題及び自己認知課題を行う間,柔らかい軟式テニスボールか硬い針金のボールを握り続けるように教示された。結果として,他者認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べ,刺激人物が女性的ポジティブ特性を持っていると評定し,刺激人物に好意を示した。一方,自己認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べて,男性的ネガティブ特性を持っていると評定するようになることが示された。これらの結果は,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が,対人認知と自己認知に対して,それぞれ異なった影響を与えることを示唆する。
著者
村山 綾 三浦 麻子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.81-92, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究では,集団討議で生じる葛藤と対処行動,およびメンバーの主観的パフォーマンスの関連について検討した。4名からなる合計17集団(68名)にランダムに配置された大学生が,18分間の集団課題を遂行した。その際,討議開始前,中間,終了時に,メンバーの意見のずれから算出される実質的葛藤を測定した。また討議終了時には,中間から終了にかけて認知された2種類の葛藤の程度,および葛藤対処行動について回答を求めた。分析の結果,集団内の実質的葛藤は相互作用を通して変遷すること,また,中間時点の実質的葛藤は主観的パフォーマンスと関連が見られないものの,終了時点の葛藤の高さは主観的パフォーマンスを低下させることが示された。関係葛藤の高さと回避的対処行動は主観的パフォーマンスの低さと関連し,統合的対処行動は主観的パフォーマンスの高さと関連していた。関係葛藤と課題葛藤の交互作用効果も示され,課題葛藤の程度が低い場合は,関係葛藤が低い方が高い方よりも主観的パフォーマンスが高くなる一方で,課題葛藤の程度が高い場合にはそのような差はみられなかった。葛藤の測定時点の重要性,および多層的な検討の必要性について議論した。
著者
宮島 健 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.62-72, 2018 (Released:2018-07-31)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

集団や社会において,集団成員の多くが受け入れていない不支持規範が維持・再生産される心理的メカニズムとして,多元的無知のプロセスによるはたらきが示唆されている。その集団内過程において,偽りの実効化は不支持規範の安定的再生産へと導く社会的機能を有することが示唆されている。しかしながら,偽りの実効化を引き起こす心理的メカニズムは明らかにされていない。本研究では,日本における男性の育児休業を題材として,他者に対する印象管理動機が偽りの実効化を誘発するという仮説について検証した。本研究の結果,多元的無知状態の人々では印象管理動機が喚起され,その結果として,逸脱者に対する規範の強要(i.e., 実効化)が誘発されることが明らかとなった。これは,多元的無知状況下において,他者信念を誤って推測した人々による逸脱者への規範の強要は,不支持規範を維持・再生産させようと意図しているのではなく,自己呈示的な動機に基づいて行動しているに過ぎないという印象管理戦略仮説の妥当性を示している。
著者
須山 巨基 山田 順子 瀧本 彩加
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-3, (Released:2018-11-07)
参考文献数
66

集団力学研究とは,実験・調査・モデリングを通じて,個体が集合的に作り出す複雑な社会現象を定量的に検証する研究群の総称である。社会心理学における集団力学研究は,1940年代から隆盛するも徐々に研究の主流から外れていった。一方,生物学では,近年の新しいデータ収集法や分析方法の発達により集団力学研究が盛んに行われるようになり,再び集団力学研究が脚光を浴び始めている。本稿ではまず,社会心理学と生物学のそれぞれにおける集団力学研究の歴史を概観する。続いて,社会心理学において高い関心が寄せられてきた同調と文化拡散に注目し,これらのトピックに関して生物学が新たな集団力学的な手法を用いてどのような知見を見出したのか紹介する。最後に,生物学における集団力学研究の社会心理学への援用可能性とその便益性を示し,社会心理学と生物学の融合による集団力学研究の展望を論じる。
著者
石盛 真徳 小杉 考司 清水 裕士 藤澤 隆史 渡邊 太 武藤 杏里
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.153-164, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
36
被引用文献数
5

高校生以上の子どもを2人もつ223組の中年期の夫婦を対象に調査を行い,夫婦間のコミュニケーション,共行動,夫婦間の葛藤解決方略といった夫婦関係のあり方が夫婦関係満足度,家族の安定性,および主観的幸福感にどのような影響を及ぼしているのかをマルチレベル構造方程式モデリングによって検討した。夫婦関係満足度への影響要因の分析では,夫と妻が別個に夫婦共行動の頻度が高いと認識しているだけでは個人レベルでの夫婦関係満足度の認知にしかつながらず,夫婦のコミュニケーションが充実していると夫と妻の双方がともに認知してはじめて2者関係レベルでの夫婦関係満足度を高める効果をもつことが示された。家族の安定性への影響要因の分析では,個人レベルで葛藤解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは,個人レベルでの家族の安定性を高く認知することにつながるが,2者関係レベルで,夫婦が一致して夫婦関係外アプローチに積極的であることは,家族の安定性を低く認知することにつながるという結果が得られた。主観的幸福感への影響要因の分析では,夫婦関係満足度の高いことは,個人レベルにおいて正の関連性を有していた。また,夫婦間の解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは個人レベルでのみ主観的幸福感を高めることが示された。
著者
法理 樹里 牧野 光琢 堀井 豊充
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1610, (Released:2017-06-07)
参考文献数
37
被引用文献数
3

2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害は水産物にも及んでいる。福島県産農産物に対する消費者意識調査で用いられた手法を援用し,二重過程理論に基づき震災後の福島県産水産物の購買意図へ影響をおよぼす消費者意識を調査した。本研究で用いた,二重過程理論のシステム1には,「放射線・原発不安」意識および「被災地支援」意識,システム2には,「知識による判断」意識および「合理的判断」意識が含まれていた。共分散構造分析の結果,「放射線・原発不安」は購買意図を抑制することが示された。一方,「被災地支援」は,購買意図を促進することが示された。さらに,先行研究とは異なり,福島県産水産物の購買においては,「被災地支援」は「放射線・原発不安」を抑制する効果があることが明らかとなった。消費者は不安を抱えながらも復興支援の意識を持ち,福島県産水産物の「購買意図」を培っていることが示唆された。
著者
出口 拓彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1705, (Released:2017-09-08)
参考文献数
38
被引用文献数
2

授業中の私語を規定する要因について,個人レベル・集団レベルの変数に着目して検討した。中学生を対象とした質問紙調査を実施し,439名から有効回答を得た。質問紙では,自分および他者の「規範意識」と,自分および他者の「私語の頻度」などについて測定した。自分自身の私語の頻度を従属変数とした重回帰分析を行ったところ,自分の規範意識には負,他者の私語の頻度には正の関連が示された。さらに,行動基準(「遵守」「逸脱」等と態度をタイプ分けしたもの)の影響についても検討した。個々人が持つ行動基準(個人レベル)および各クラスにおける行動基準の割合(集団レベル)を投入した階層線形モデリングによる分析を実施した。その結果,個人レベルでは,「遵守」に負の関連,「逸脱」に正の関連が示された。一方,集団レベルにおいては,「遵守」の行動基準を持つ生徒の割合(31%)は比較的低かったにもかかわらず,クラス全体の私語の頻度を規定している可能性が示された。また,「同調」の割合(47%)は「遵守」に比べて高かったにもかかわらず,顕著な関連は見られなかった。これらのことから,教室内の一部の成員が,クラス全体における私語の頻度を規定しうることが示唆された。
著者
酒井 明子 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1824, (Released:2019-10-29)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本研究は,災害という大きな困難に直面した被災者が新たな安定状態を回復する過程に着目した質的研究である。災害時の心理的ストレスは,単線的な心理的回復過程が暗黙のうちに前提とされている。しかし,今日の大規模な災害による被害の甚大さや避難所・応急仮設住宅の設置期間の長期化等は,大切な家族や住み慣れた家を失い生きる意欲を失った人々や自力で生活展望を考えることが困難な高齢者の孤立死や自殺,閉じこもり問題を加速化させており,心理的回復過程も長期化し複雑さを増していると考える。そこで,本研究では,東日本大震災後7年間の心理的回復過程を被災者の語りから分析した。その結果,被災者の心理的変化の特徴は6つのパターンに分類された。また,心理的回復過程には,潜在的な要因及びストレスを慢性化させる要因が影響していた。そして,個々の被災者の心理的変化ラインの時間軸を重ね合わせた結果,1年目,4年目,7年目の回復過程には調査回によって異なる特徴が見出せた。これらの結果を踏まえ,慢性化する可能性のあるストレスを抱えた被災者の長期的な心理的変化と影響要因について論じた。
著者
大門 大朗 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.88-100, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
58
被引用文献数
1

本研究では,大災害発生後の利他行動において,特に阪神・淡路大震災及び東日本大震災でのボランティア活動に着目し,どのようなダイナミックスで利他行動が生起したのかを把握し,実践的なツールとして活用できるようにするために基礎的なシミュレーション研究を行った。シミュレーションは,セル・オートマトンを採用し,周辺の状況に合わせてボランティア活動を行うとする近傍要因と,被災地からの報道といった遠隔要因から,ボランティア活動がどのように生起するかを想定した。2つの震災を比較すると,阪神・淡路大震災では遠隔要因が強く作用し,ボランティアのピークが速く発生したが継続しなかったこと,逆に東日本大震災では,近傍要因が作用しピークが遅かったが継続したボランティアにはつながったこと,ただし,地方で起きたことから全体のボランティア数自体は減少したことが明らかになった。その上で,これまでの震災後の取り組みに提言を行うとともに,中心からしかボランティアが広がらない(中心局在化)モデルの限界に留意した上で,今後の災害時には近傍-遠隔要因のバランスに注目することの重要性を指摘した。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2006, (Released:2020-11-21)
参考文献数
52
被引用文献数
1

本論文は,社会心理学における実験的研究について検討した展望論文である。特に,実験の概念をより広義なものへと拡張し,実験という手法が本来有する豊かなポテンシャルをより大きく引き出す方向で,実験社会心理学の領域を再構築することをねらいとした。一般に,典型的な実験室実験と文化・歴史的な視点を重視する現場研究との距離は非常に大きいと見なされている。しかし,中間部に,「アイヒマン実験」や「実験の史学」などを配置すると,両者の連続性を確認できる。その上で,実験社会心理学研究の拡張を2つの方向から構想した。第1は,草創期のグループ・ダイナミックスにおける実験研究がそうであったように,実験室ならではの生態学的特性を活かしつつ,人間の実存性や社会のリアルな生態に接近するための回路を設け,実験室実験に現場研究の長所を取り込む方向性である。第2は,「実験の史学」のように,現実社会を対象とした研究に,実験操作に匹敵する比較条件を設定するための仕組みを導入し,現場研究に実験室実験の美点を取り込む方向性である。こうした志向性を有する具体的な事例を社会心理学,歴史学,防災・減災研究の領域から紹介し,新たな実験社会心理学研究の構想を提示した。
著者
谷口 淳一 清水 裕士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.175-186, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
30
被引用文献数
2

本研究では,大学新入生の友人に対する自己高揚的自己呈示が,その後の友人からの評価,関係満足感,及び自尊心に与える影響を検討した。調査参加者は4度の縦断的調査(4月,5月,6月,7月)に同性の友人とペアとなり,質問紙への回答を行った。232名(116組,男性134名,女性98名)を分析対象者とした。Actor-Partner Interdependence Model(APIM)を用いて,5月に友人に対して自己高揚的自己呈示を行うことが,6月の相手からの実際の評価やその評価の推測を介して,7月の関係満足感や自尊心に与える影響を検討した。分析の結果,友人に対して有能さと親しみやすさの自己呈示を行っているほど,友人からポジティブな評価を得ていると認知し,関係満足感および自尊心が高いというActor効果がみられた。また,親しみやすさの自己呈示を行っているほど,実際に友人からポジティブな評価を得ており,その後の友人の関係満足感も高いというPartner効果もみられた。つまり,親しみやすさの自己呈示は,自己呈示を行った本人と友人の双方の関係満足感の高さに影響していた。大学新入生が友人に対して自己高揚的自己呈示を行うことの有益さについて議論を行った。
著者
河野 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.122-135, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

本研究は一つの実験と二つの縦断的調査から構成されている。研究の第1の目的は入棺体験によるDeath Educationの効果を実証的に検証することである。第2の研究目的は,その効果の持続性を縦断的研究(調査1)から明らかにすることである。第3の研究目的は,被験者の宗教性によりDeath Educationの効果がどのように異なるのかを解明することである(調査2)。結果から,①経験的Death Educationは否定的死観を低減させ肯定的死観を強める効果があること,②Death Educationの効果の持続性は死を知ること以外は乏しいこと,③経験的Death Educationの効果は被験者の宗教性により異なることが明らかとなった。
著者
縄田 健悟 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.52-63, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

集団間代理報復とは,一方の集団の成員が他方の集団の成員へと危害を加えたときに,それを知った被害者と同集団の成員が,加害者と同集団の成員に対して報復を行うという現象である(Lickel, Millar, Stenstrom, Denson, and Schmader, 2006)。本研究の目的は,初対面の一時集団においても,集団間代理報復の生起が見られるか否かを検討することである。本研究では,勝者が敗者に罰金を与えるというルールの一対一対戦ゲーム場面による実験室実験を行った。前回の対戦の結果として,危害明示条件では,外集団成員が内集団成員に罰金を与えたという情報を提示した。危害不明条件では,危害明示条件と同様の罰金の情報を提示したが,誰が誰に危害を与えたかは不明であった。以上の情報を提示した後に,当初の危害の加害者本人ではない外集団成員に対して罰金を与えてもらい,その大きさを条件間で比較した。その結果,実験1,実験2ともに,危害明示条件では,危害不明条件よりも有意に大きな罰金額が見られた。さらに,実験2では,罰金額が報復動機づけに基づいていることが示された。ただし,報復動機づけの平均値は高いものではなかった。以上より,実験室における一時集団であっても,集団間代理報復の萌芽的形態が見られた。
著者
伊藤 君男
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.52-62, 2003 (Released:2004-02-17)
参考文献数
26

本研究の目的は,被説得者の印象志向動機が内集団成員による説得的メッセージの処理に及ぼす効果を検討するものである。実験1は,被験者は大学生79名で,説得話題に関する議論が後になされることを実験参加者に予期させるか否かによって印象志向動機を操作した。それに加えて,説得者(内集団・外集団)と論拠の質(強・弱)を操作して実験を行った。その結果,議論なし条件では内集団の説得者の説得効果のみが認められた。一方,議論あり条件では,内集団の説得者による説得効果と論拠の質による説得効果が共に認められた。実験2では,議論の予期の操作によって高められる動機(印象志向動機か正確性志向動機)が,個人によって異なるという実験1の示唆に基づき,セルフ・モニタリングの相違によって印象志向に動機づけられる被験者と正確性志向に動機づけられる被験者に分類した。被験者は大学生216名で,実験の手続きは実験1の議論あり条件と同様である。高セルフ・モニタリング群(印象志向動機)は内集団の説得者の説得効果のみが高かった。一方,低セルフ・モニタリング群(正確性志向動機)では論拠の質の主効果のみが認められた。こうした結果に基づき内集団の説得者の特殊性が議論された。
著者
橋本 剛明 唐沢 かおり 磯崎 三喜年
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.76-88, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
29
被引用文献数
4 2

大学生が所属するサークル集団は,フォーマルな組織とインフォーマルな集団の双方の特徴を併せ持った集団であり(新井,2004),本研究はこれを準組織的集団と位置づけた。その上で,サークル集団における成員と集団とをつなぐコミットメントのモデルを探り,検討を加えることを目的とした。具体的には,組織研究の領域における3次元組織コミットメントのモデル(Allen & Meyer, 1990)を基盤に,サークル・コミットメントを測る尺度を作成し,学生205名を対象に調査を行った。その結果,サークル集団におけるコミットメント次元として,情緒的コミットメント,規範的コミットメント,集団同一視コミットメントの3因子が抽出された。さらに,それぞれのコミットメント次元の規定要因に関して,集団がフォーマル集団に近い程度を表す集団フォーマル性との関連を含めて分析を行った。情緒的コミットメントは課題および成員への集団凝集性により規定されており,また,課題凝集性と集団フォーマル性の交互作用が示唆された。規範的コミットメントと集団同一視コミットメントはともに,集団フォーマル性と成員凝集性によって規定されていることが認められた。
著者
宮﨑 友里
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-9, (Released:2019-02-23)
参考文献数
48

本稿は,地方自治体の行動原理について,社会心理学の理論を適用することの有用性を探るものである。これまで,政治社会学や政治心理学において,国家から個人に至るまで政治主体の心理性は繰り返し確認されてきた。しかしながら,政治主体を地方自治体に限定した場合,心理性の検討は極めて限定的であったと言えるだろう。地方自治体は各種の政策形成に取り組んでいるが,その中でも経済的利潤の増大を目的としているとは捉えがたい観光政策が散見される現状は注目に値する。そこで本稿では,地方自治体を自律した行為主体と措定し,その政策形成過程に対して,集団一般の行動原理について心理的側面から説明してきた社会的アイデンティティ理論の観点を導入して解釈する。注目する点は,地方自治体としての集団概念と,観光資源活用の関連である。本稿では,水俣市を事例として,水俣病を用いた来訪者誘致に至る過程について,水俣市の集団概念に注目しながら追跡する。事例分析の結果は,水俣市において水俣病経験が先進的経験として肯定的に意味づけられた時,水俣病を用いた来訪者誘致への取り組みが進展した,というものである。
著者
長谷川 孝治
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1710, (Released:2018-04-12)
参考文献数
37

本研究の目的は,スポーツボイスと呼ばれるボイストレーニング・プログラム(SVP)に参加することによって,高齢男性の心理的健康と配偶者とのコミュニケーションが促進されるかを検討することである。SVPに参加した高齢男性と配偶者を実験群として,開始前(T1),終了直後(T2),その3ヶ月後(T3)の3波のダイアドパネル調査を実施するとともに,類似した活動をする統制群と比較することで,準実験での検討を行った。共分散分析の結果,T2では,実験群の高齢男性は統制群に比べて,自尊心と配偶者からの反映的自己評価が高く,心理的健康が良好になった。さらに,実験群の配偶者は統制群に比べて,夫のコミュニケーション態度の推測が良好になった。また,パス解析によって,このSVPの効果が,集団アイデンティティ(ID)を高め,それが自尊心を仲介して,心理的健康を規定するプロセスが示された。T3では,全体的には,SVPの効果は消失した。ただし,T3において,実験群では,集団アイデンティティが高いほど,参加者および配偶者の心理的健康が高く,コミュニケーション態度も良好であった。これらの結果から,SVPは集団アイデンティティを高める形で,高齢男性の心理的健康を短期的に高める効果を持つことが明らかにされた。
著者
阿部 慶賀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.161-170, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究では,印象評定時の重さの身体性入力が評定に及ぼす影響を検討する。近年の身体性研究では,事物や人物の印象評定時に触覚や力覚での身体性刺激を添えることによって判断に歪みが生じることが報告されている。例えば,重いクリップボード上に提示された履歴書の人物や記事に対して印象評定を行うと,軽いクリップボード上に提示された場合より重要性を高く評定する傾向が見られるとされている。しかし,こうした重さをはじめとする知覚される身体性入力は,主観量と物理量が必ずしも一致しない。そこで,本研究では重さによる印象への影響は主観量と物理量のどちらが主導であるのかを「大きさ重さ錯覚」を用いた心理学実験によって検討した。実験の結果からは,同質かつ同じ重量の飲料水でも容器の大きさから生じる錯覚で重さの主観量が異なっていた場合には,飲料水の貴重さや値段の見積もりが異なることが示された。このことから,重さによる印象評定には主観量が作用していることが示唆された。